タッキーの観てきた!クチコミ一覧

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食わばもろとも

食わばもろとも

新雪/深雪企画

高円寺K'sスタジオ【本館】(東京都)

2024/12/27 (金) ~ 2024/12/29 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

全ては自分で解決して行かなければ、しかしその自縄自縛のような思い込みが事態を更に深刻にする。それを痛痒く紡ぐような感覚劇といったところ。まさにドロ沼状態だが、今居る場所が何となく救いになっている。喧騒に佇む下宿に集う人々の心温まる交流と愛しい日々が淡々と描かれている。

説明だと「病床に伏せる父の代わりに、一軒の下宿で住み込み台所番になった女性」の観点から描いた物語のように思えたが…。実際は、大地という大学一年生の強迫観念が周りを巻き込んで といった描き方のよう。彼の悩みや母との(隠れた)確執を中心に、下宿にいる人たちの悩みを点描することで、家族や社会との関わりの複雑さが浮き彫りになってくる。
なお、大地の苦悩は 或る映画の主人公に重なり 面白かったが、全体的(他の人物も含め)に不鮮明な説明・設定が憾み。

有効な処方(箋)はなく、自分で考え周りの助けを得ながら対処療法的に地道に進むしか…。そんな もどかしさを感じさせるが、先ずは皆で食事をしよう。明るく「腹が減っては戦ができぬ」といった旨の言葉が問題解決への嚆矢のよう。
(上演時間1時間30分) 

ネタバレBOX

舞台美術は下宿という設定から そのダイニングのテーブルと椅子。中央の出入り口の奥に各人の部屋があるよう。説明からは、父に代わって料理番になった女性の観点で描く下宿人 群像劇かと思っていた。しかし 何となく下宿した大学1年の大地という青年の或るトラウマを浮き彫りにするような物語だ。

大地のトラウマ、自分の感情を抑えきれずに暴力をふるってしまうのではないか。それを母との関係において、歪んだ若しくは閉ざした心として表わしている。感情を押し殺した従順、その逆らわない気持がマザコンのようにも思える。この苦悩は映画「ある男」を連想してしまう。勿論 そのテーマと深刻度は異なるが、自分も父と同じように いつ暴力(映画は「殺人」)をふるうのか恐れ戦いている。その抗えない諦念のような気持と下宿にいる他の人々との会話が表面的過ぎるのが恨み。

登場人物は、大地の他に 管理人の五十嵐、現在フリーターの志保、大学4年の佑、そして料理番の睦美。それぞれ色々な思いを抱いているようだが、それは日常に見られる他愛無いこと。この淡々とした日々の暮らし、その根底にあるのが<食>である。タイトルから孤食であれ共食であれ、命の源は食事である そんなことが描かれている。日常の それも等身大の暮らしは、演劇的には刺激と印象が弱い。

物語は、大地の抱く潜在的な暴力への恐れ、一方 他の下宿人は何となく言い訳が上手くなってきた大人、その相容れない対比の面白さ。下宿という共同生活体の中で、どう馴染んで生活していくか、心を閉ざした大地と明け透けに言い合う下宿人、それでも食卓は囲む。ラストは、取り敢えず食事をして…そんな未来志向か?
次回公演も楽しみにしております。
ThreeQuarterカウントダウン公演「1…」

ThreeQuarterカウントダウン公演「1…」

四分乃参企画

JOY JOY THEATRE(東京都)

2024/12/27 (金) ~ 2024/12/29 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

【カウント3(Three)チーム】観劇
つかこうへい の代表作であり つか魂がストレートに伝わる演目を解散公演に選んで、全力で演じていた。三日間で8公演と驚異的なスケジュール。本作は何度か観たことがあり 上演時間が短いように感じていたが、当日パンフを読むと体力的に厳しくカットしたシーンもあると…納得。

本作は、舞台装置がシンプルで 役者の演技力が公演の要(かなめ)。劇団のモットーは「愛と情熱」をテーマに活動、稽古は土日のみ。最終公演に向けては どうだったのかは分からないが、粗さも目立つが、愛おしさが感じられるような演技であった。
(上演時間1時間40分)

ネタバレBOX

舞台セットは、お馴染みの古びた机、その上に黒電話、捜査資料、傍らの置台に洋酒瓶が置かれている。舞台技術の音楽選曲と照明効果は上手い。

物語は、警視庁の木村伝兵衛部長刑事の取調べを中心に熱海の殺人事件の概要をなぞりながら、その過程で事件の底流にある問題を抉るもの。人間を鋭く観察し、心理描写と情況表現が中心であることは間違いないが、本公演は故郷という心の拠り所も強調している。人間、社会そして自然といった世界観の広がりを思わせる。

在日への人種差別への思い(代弁)を独白・激白、その故郷を追われた慟哭が胸をしめつける。また同性愛者を登場させ、その性への偏見差別、職業・職場、さらには社会進出における男女差別、権力至上への揶揄など、色々な問題・課題を浮き彫りにしてくる。一方、人が感じ持つ優しさ、哀しさ、孤独、気概などの人間讃歌とも受け取れるシーンの数々。単なる痴情の もつれによる殺人事件ではなく、大山金太郎(容疑者)を一流の犯人へ仕立て上げることによって、事件の底流にある本質を炙り出す。この硬質で骨太い描きの中に、女性ならではの純粋と情念の心情を垣間見せる。またちょっぴりあるお色気シーン、この緊張・弛緩のほど良い刺激が1時間40分という時間を飽きさせない。

つかこうへい の思いは、役者の演技力という体現なしでは伝わらない。特に主人公 木村伝兵衛を演じる女優の力強く凛とした姿と愛嬌ある仕草、また山口アイ子の切なくも強かな女、その異なる女性像を自在に演じ分ける難しさ。またアクションにキレがあり身体の強靭性も必要。本公演では櫻井まりあ さんが演じていたが、遠慮しているのか少し弱々しく迫力を欠いたのが惜しい。男優陣は、熊田留吉刑事、桂万平刑事、大山金太郎との絶妙な遣り取りに人間味が感じられる。今まで観てきた公演の男性陣も熱演であったが、それは主人公・木村伝兵衛を引き立てるといった印象。本公演も基本的には同じであるが、単に櫻井さんの盛り立て役に止まらず、一人ひとりの人間性を立ち上げている。体躯のよい正木拓也さんは、厳つい風貌と剛腕を見せつつ純情な面を併せ持つ熊田留吉刑事、平澤雅己さんは顔付こそ野性味あるが、やはりホモらしい繊細さを見せる桂万平刑事、永松翔平さんは2人に比べると体は細いが、強情で熱い男-大山金太郎。相乗効果を発揮した役者たちの演技は良かった。

原作の意を表した脚色、それに魅力付けした演出(清水みき枝サン)、そして充実した演技、さらには舞台美術(音響・照明)など全体が調和した公演は好かった。
中国神話の世界

中国神話の世界

カプセル兵団

三鷹Ri劇場(旧 三鷹RIスタジオ)(東京都)

2024/12/27 (金) ~ 2024/12/29 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

面白い、お薦め。
ギリシャ、北欧、インドの神話は何となくイメージ出来るが、中国神話は馴染みがなく興味があった。その痒いところに手が届くような説明から始まる。少しネタバレするが、中国では 或る人物のせいで 非科学的なことを記録、いわゆる文献にする風潮がなかったらしい。もう一つが、人が超常の力を得て仙人に成るとか、または実在した偉人を神格化させる傾向にあり、非科学・伝承的な類の神話は広まらなかった と。

本公演では、「天地創造」を含む13物語をナレーションで繋ぎながら、実に壮大な世界観を描き出す。勿論 朗読劇ならではの魅力、登場する者・物・モノなどの姿・形そして情況を観客に想像させる。そして本編を離れ一発芸や面白ネタといった別編?を挿入し面白可笑しく楽しませる。その本編と別編の絶妙な切り替わりが巧い。しかも本編の醍醐味である中国神話が印象深く紡がれ、神話から人間の世界へ…そう中国における創世記のようなものが立ち上がってくる面白さ。
観(聴き)応え十分。
(上演時間2時間10分 休憩なし) 

隧道

隧道

劇団ZERO-ICH

駅前劇場(東京都)

2024/12/25 (水) ~ 2024/12/29 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

普通に楽しめた沖縄県民の青春群像劇。
謳い文句「芝居の力で沖縄を変える」という強烈な思いよりは、まだ何者にもなっていない若者の焦燥や苦悩といった心情が前面に出ており、ありふれた若者像を描いたといった印象だ。むしろスタートラインに立ったと言ったところか。父親の30歳過ぎにもなって まだふらふらと演劇なんか、というリアルな台詞。

保育園の時に東京から来て幼馴染みになった少女との魂(沖縄ではマブイ)探しといった面白味、その心の端となった会話があまり生かされない。沖縄県の問題/課題を点描しているが、もっと県人らしい鋭い深掘りを期待したのだが憾み。
なお、演出で気になることが…。
(上演時間2時間10分 休憩なし) 

ネタバレBOX

三面舞台…全体的に薄暗く 板(床)は黒色。入口の反対側が正面、通常の 客席側が上手、舞台側が下手になる。正面に白っぽい(押入)戸、上演前は 黒箱馬1つにパソコンが置かれている。シンプルな舞台装置だが、場景ごとに黒箱馬を持ち込み情景を描く。ただ三面舞台にする意味(効果)は何だったのか。押入れにあるTVモニターの映像、押入れ戸へ映写したタイトル、そして友人の位牌等は、両端の観客には見切れになったのではないか。自分は正面に座ったから観えたが、その視線には両端の観客が前屈み もしくは横へ身を乗り出すような姿勢が隣席人の迷惑に…。この劇場で 前に観た三面舞台は「ナイゲン(2022年版)」。

物語は、沖縄県今帰仁村から上京した劇作家 サトシが 今一度演劇を続けていく意味を想い返す といった回想であり成長譚。毎日ダラダラと過ごしているサトシ、郷里の友人から住むだけで60万円というバイトを紹介される。今では闇バイトを思い浮かべ 失笑が漏れるが、実は高齢者が孤独死した事故物件。そこに幼馴染で亡くなったアキラが現れて…。幼い時の思い出が次々とよみがえり、北山高校卒業時に将来の夢を語る というか宣言する場面が肝。アキラは有名女優に、そしてサトシは劇作家になる と。

アキラが 風呂や台所がない、狭い部屋の押入れから現れ サトシと語り出す。アキラは駐留米兵に強姦され暴行死しており、今いるのは幽霊(魂=マブイ)である。ちなみにアキラの衣裳は浮遊感ある白地、舞台美術と相まって鯨幕のような存在。そして説明にある これは夢か妄想か現実かといった混沌とした世界観へ誘われる。押入れがその世界への入口(隧道<トンネル>)である。アキラは米軍基地反対、基地での雇用問題や跡地の代替利用等を話し出すが、表層的で2人の会話も深耕しないのが惜しい。相反性が感じられる訳でもない。作・演出の平良太宣氏が沖縄県出身であれば、地元観点でもっと抉り出してほしいところ。勿論、大上段に構え「日米地位協定」を云々 などとは言わない。

アキラは夢を叶えることなく非業の死、しかし それに対する怒りや悲しみが伝わらない。実際あった事件だけに胸が締め付けられる。が、なんとなく淡々と描き、受け入れてしまっている。その意味では沖縄が真に置かれている状況、その問題や課題が表面的に扱われているようで物足りない。社会的なこと、それを身近な個々人の問題を絡ませることによって 深刻さや現実味がリアルに表現出来るのではないか。敢えて、あまり暗く重くしないといった演出であろうか。

公演では、沖縄民謡を楽器で奏で、歌い踊るといった郷土愛を感じさせる場面が多々ある。その日常の隣り合わせに危険が満ち満ちているといった恐怖と狂気を描くこと、それが「芝居の力で沖縄を変える」に繋がるのではないか。
次回公演も楽しみにしております。
イヨネスコ『授業』

イヨネスコ『授業』

楽園王

サブテレニアン(東京都)

2024/12/17 (火) ~ 2024/12/21 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

イヨネスコ「授業」は、楽園王を始め いくつかの劇団 公演で観ている。不条理をいかに不条理劇として観せるか、それをどう味わい深く伝えるかは、相当難しいのではないか。本公演も説明にあるように、構成を大きく分断し 戯曲の後半部分を先に、前半部分を後に上演して不条理劇の不条理を倍増させる工夫をしている。

自分では、難解?もしくは自由過ぎると敬遠しがちだった不条理劇の魅力を感じることが出来た。今作は、不突合・不調和といった状況下における可笑しみ、同時に恐怖を感じた。また後半部分を先に表現することによって、不条理の(本)質というよりは、ループすることで不条理の連鎖なり重層、その量を意識させられた。まさに この世は不条理で満ち満ちているといった印象である。

演出が好い。出演者の衣裳や行為(動き)、そして音楽の雰囲気が前半(最初の生徒)と後半(二番目の生徒)とでは違って、同じ不条理の光景(場景)でも その印象が異なる。この外観的な中に、不安・不穏もしくは苛立ち・怒り といった表現し難い感情が透けて見えてくる。勿論 生徒が鎖の付いた手錠をしていることは奇異であるが、教授と生徒という立場の違いを表しているのだろう。
(上演時間65分) 12.23追記

ネタバレBOX

演劇を観る楽しみ 面白さは、表現し難いモヤモヤした気持を的確に表現してくれるところ。この得も言われぬ研ぎ澄まされた感覚が心に刻み込まれる。この公演もそんな1つ。

舞台美術は 真ん中に白線、その両側にテーブルと椅子2つ。ほぼ対称であるが、一方のテーブルの上にテキストとナイフが置かれているのが違うところ。物語は、教授が言語学の講義をしているが、女生徒は歯痛を訴えている。それでも教授は授業を続けるが…。後半は別女生徒が教授に教えを乞うており、算術から始まる。足し算は出来るが、引き算が出来ない。数字という概念の理解が疑わしい。存在しているものを合わすことは出来るが、存在そのものを無(引)くすという思考はない。そこで数の概念 つまり言語学から教えること、それが先の場面(前半と後半が逆)へ ループしていく。女生徒が2人登場するが、同一人物として解釈するのか など思考を巡らす楽しさ。

教授と女生徒の感情は離れ、教授の苛立ちは怒りへ 女生徒のそれは苦痛に変わる。人間の心ほど読み取れないものはなく、感情のもつれが悲劇を生む。解らないことを無理やり講義(聞か)される苦痛、それが歯痛になるのか。自分では形容し難い思い、それを巧く観せてくれる。

登場人物の衣裳…教授はワイシャツに黒ズボン、女生徒2人は上下 白、女中は黒服に白いエプロンで、薄暗い中でモノトーンが怪しく動く。動くと言えば、女中は直線的に歩くだけで応用が利かない、そんな不自由さを感じる。そこに常識に囚われた世界を連想する。音楽は最初の女生徒の時は、勇ましく煽るような、2人目は不安・不穏、そんな印象を受けた。この音(楽)にも拘りがあったのだろうか。
次回公演も楽しみにしております。
トリオ

トリオ

NonoNote.

シアター711(東京都)

2024/12/18 (水) ~ 2024/12/22 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

小劇場で笑劇を至近距離で観て楽しむ、そしてラストは衝撃的な そんな洒落の効いた公演。劇中とは言え、1970年代の寂れた劇場の楽屋や音曲漫才の雰囲気が味わえる。3者三様の歌声が軽快なリズムに乗せてこだまする。何と無くではあるが、かしまし娘を連想してしまう。楽器を奏でながら面白可笑しい話、そして時事ネタを盛り込む といった話術が懐かしい。

物語は 説明にある通り、舞台では息の合った漫才を披露する3人だが、楽屋へ戻ると日々 大喧嘩。原因は「トリオ」というあだ名の副支配人・鳥居一男の奪い合い。そして遂には刃傷沙汰へ…。表情豊か 誇張した演技が見どころ。小笑・爆笑など笑いの渦だが、時にオルゴールから流れる ゴンドラの唄がしみじみと。ちなみに この歌、大正時代の歌謡曲で、芸術座公演『その前夜』の劇中歌として松井須磨子が歌ったのは有名。自分は、映画「生きる」で主人公を演じた志村喬が この歌を口ずさみながらブランコをこぐシーンを思い出す。

音曲漫才師の3人は、それぞれ苦労を重ねて生きてきた。そして やっと一緒になりたい男を見つけたが、それが何と皆同じという悲劇。ゴンドラの唄の歌詞は♫恋愛讃歌のような、たとえ気心知れた仲良しであっても恋の路は譲れない。そこに普遍的とも思える「愛情」と「生活」が滲み出ている。

今回の演出は 武藤晃子女史。10年ほど前 この演目(LEMON LIVE vol.10公演)に役者として出演しているが、今回は演出を担当している。そして当日パンフには、NonoNote.主宰の璃音さんを称え、そして激励するような言葉を綴る。ノンストップ女3人芝居、そこに日替わりゲストが加わり、実に味わい深く紡いでいく。観応え十分、ぜひ劇場で。
(上演時間1時間30分) 

ネタバレBOX

舞台はムーンライトセレナード新宿座の楽屋。前説はトリオ(ゲスト 植田健一サン)が店の法被を着て担当。舞台の近くに特別に作らせた楽屋。正面の壁には着物が掛けられ、中央の少し高くなった平台に炬燵。上手に楽器(ギターやアコーディオン)置き場、下手に黒電話。年代的に携帯電話がないため、この電話が重要な役割を果たす。

3人は、Toshimi Saionji(小玉久仁子サン)、Ritsuko Sasanishiki(鈴木球予サン)、Orie Bando(璃音サン)、罵声 喧嘩のような会話から それぞれの境遇が分かってくる。問題は、トリオを巡る恋沙汰と この特別な楽屋を明け渡さなければならない状況、これらは姿を現さない支配人の胸三寸。さて、この劇場に長く出ているSaionjiは、ピン芸人であった頃、舞台の都度 衣裳替えをしていたため、この楽屋を作らせた。Sasanishikiはストリッパー、Bandoは売れない歌手といったところ。

場末とは言わないが、この環境から抜け出して好きな人と小さな幸せを、そんな細(ささ)やかな願い。しかし、この面白可笑しい騒動には ある思惑が…。この公演、漫才的にはトリオを巡る騒動がフリ、どんでん返しがオチ、そして何事もなかった いや少し心境の変化がフォローのような、そんな滋味ある作品だ。

本公演の内容とは直接関係ないが、 武藤さんが演じた時と今回とでは、個人的に意味合いが違うような気がしている。この10年間でコロナ禍の以前と以後、いつまた どのような災いがあるか分からない。少し大袈裟かもしれないが、コロナ禍(まだ完全終息ではない)で演劇を観るのは命懸け。この至近距離で大口開けて笑える喜び、それを ひしと感じる。それが 今を必死に<生きる>に繋がるような。
次回公演も楽しみにしております。
ちち

ちち

座・だるま水鉄砲

小劇場 楽園(東京都)

2024/12/18 (水) ~ 2024/12/22 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

面白い、お薦め。この旗揚げ公演は観応え十分。
増澤ノゾム氏の脚本・演出による記憶・追想を辿るような物語…人が持っている表し難い感情を上手く表した人間劇であり家族劇。登場人物は男女4人、それぞれの性格を繊細に 立場を丁寧に描き、今ある状況を巧みに描き出す。人が抱えた問題は、その時の生活状況や社会情勢によって影響を受ける。そして思わぬ行動に出てしまうこともある。その心情が痛いほど伝わる。そして 紡ネン を介して蟠りが少しずつ溶けていくような。

役者陣の演技が圧巻。何処にでもいそうな人物をさり気なく演じる、その自然体の演技が物語へ巧く誘う。冒頭から一瞬のうちに引き込まれる。登場人物が4人しかいないことから、それぞれの関係性が鮮明に そして濃密に描かれる。これによって 1人ひとりの人間性が浮き彫りになってくる。
物語は、行方不明だった父親が見つかり 兄弟のところに引き取られたところから始まる。兄弟が覚えている父は暴力的な人だったが、目前にいる男は 記憶の中の父とは別人の 天使のよう。そして兄の恋人も巻き込んで という設定が妙。
(上演時間1時間35分) 

ネタバレBOX

舞台美術は入口の対角線上にソファとローテーブル、右手にパソコン。登場人物に「紡ネン」とあるのは、完全AIで活動を続けるAI VTuberで、主にYouTuber配信を中心に活動。そのアイテムが物語の肝。家族という他者との会話を優しく綴った”新”家族物語。

登場人物は 父 水戸雉太郎と息子2人(長男:一馬、次男:嗣春) 長男の恋人 雨宮かりん という4人、そして夫々の思いを交差させることで表現し難い親子の情を浮き彫りにしていく。今の状況や立場、性格を丁寧に説明することで、しっかり人物造形が立ち上がってくる。そして過去と現在、父不在の間の母の死など、登場しない人物の心情まで伝わるようだ。自宅だが落ち着かず所在がない雉太郎、その話し相手が紡ネン。仲が良いのか不器用なのか そんな兄弟間。そこに現代的なアイテムを登場させ、人間味という 家族関係とは違う味わいを出す奇知。

雉太郎は、バブル期の元銀行員で多忙を極めていたが、或る日仕事に虚しさを覚え 出奔し家庭を捨てた。幼い息子に暴力をふるい、物心ついていた一馬は父を恨んでいた。嗣春も同様だが 幼かったこともあり、父の記憶があまりない。今、父はホームレスになり過去の記憶を失いー認知症等とは違い 記憶の欠如といったところー昔の面影もなく穏やかな性格。一方 一馬は、組織という会社勤めに馴染めず、自宅でYouTuber配信するなど ある意味 自由人。嗣春は、生真面目で高校の社会科(倫理担当)教員、結婚し子供もいる。そして一馬の恋人 かりん は家族とは違う立場で物事、成り行きを見ている。4人の関係が微妙に接近したり すれ違うことで心が蠢く。俳優陣…剣持直明サン、堀之内良太サン、仲村大輔サン、稲村梓サンは、激しく動き続ける心情を巧みに演じ、生臭い人間模様を丁寧に描き出していた。

一馬は、雉太郎の存在が鬱陶しい。早く自宅を売却し 都心のマンションで かりんと一緒に暮らしたい。父の失踪の解除手続や自宅売買に係る契約等はすべて嗣春任せ。その嗣春は息子ー妻の連れ子ーが中学で苛めをしており家庭事情で悩みを抱えている。かりんはガールズバーで働き、それゆえ嗣春は快く思っていない。しかし何気に優しくされて…。昔の面影のない父、いつの間にか息子と立場が逆になったかのような。しかし息子は子供から大人へ成長したことで、新たな思いを刻むことになる。その心の機微を実に上手く紡いだ秀作。
次回公演も楽しみにしております。
BACK FIRE WARS

BACK FIRE WARS

KOTH

中板橋 新生館スタジオ(東京都)

2024/12/17 (火) ~ 2024/12/22 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

当日パンフにKOTH主宰の柾木信広 氏が「STAR WARSオタクの友情」がテーマと記しているが、まさにその通り。世の悪戯・悪事 対 STAR WARSオタクを対峙させるが、大立ち回りのようなアクションがあるわけでもない。あくまで友情 その絆の物語である。

説明にあるジェダイナイトに憧れ、真摯にジェダイの掟を守る真田・清水・小島の仲良し三人組。レイヤ姫のような女性に出会ったことで、三人の絆に陰りが見え、仲違いをする話。掟をないがしろにし始めた2人と決別して新たな仲間 その怪しいサークルの話。それぞれの話が緊密に結びついて展開するわけではなく、ニュース等でよく話題になる典型的な悪を点描する。最終的に その矛先は政府に向かう。

劇的というよりは淡々と進み、大きな盛り上がりといった場面がなく印象が弱い。もう少し対決色を強める等、観せ場を作ってほしかった。全体的に平板で、タイトルにSTAR WARSが付いている割にはダイナミックさに欠ける。
「STAR WARSオタク」ではあるが、オタク=変人もしくは世間知らず といった偏見ではなく、仕事に就き 社会人としての常識は持ち合わせている。それゆえ突拍子もない物語ではなく、むしろ日常に見られる光景が描かれている。
なお「STAR WARS愛」が伝わるような情報、その蘊蓄が随所で語られるが 分からなくとも それなりに楽しめる。そして某社への批判的なことにも踏み込んでいるが…。
(上演時間1時間30分)【Bチーム】 12.20追記

ネタバレBOX

前面が幕になったフィッティングルームのようなものの連なりをコの字に並べ、場面に応じて幕を上げ 中から小物を取り出し場景を作る。基本的には素舞台に近い。上演前からスター・ウォーズのテーマ曲が流れている。

物語は、STAR WARSオタクの3人が、あるイベント後に歓談しているところから始まる。「スター・ウォーズ」…自分は映画だけしか知らなかったが、映画を始め、アニメーション、小説、コミック、ゲームなど複数の媒体で展開しているらしい。それらを嬉々と話している3人のところへ、見知らぬ少女が近づき 怪しい男に付けられているので助けてほしいと。

始めは皆で会っていたが、いつしか1対1という個別で会う。そしてバレンタインチョコの返礼に高級なバッグをねだりだす。STAR WARSイベントは3人で行く掟だったが彼女も連れて行くことで仲間割れ。インターネット上の交流サイトではないが、ロマンス詐欺を連想させる展開へ。

一方 仲間割れした男は、別のSTAR WARSファンと関わる。その団体は、困っている人のために募金活動をしたり、サプリメントも販売している。STAR WARSファンを公言している割には 詳しくない。怪しい行動は、マルチ商法そのもの。

悪戯・悪事に深く加担することなく、何となくオタク3人組に戻る。 映画「スター・ウォーズ」シリーズは非時系列的に製作されており、この公演の<悪>も特に関連付けていない。世にある悪とオタクを対峙させた構図であるが、そこから先の劇的な面白みが描けていないようで残念。
次回公演も楽しみにしております。
昭和歌謡コメディVol.20

昭和歌謡コメディVol.20

昭和歌謡コメディ事務局

シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)

2024/12/17 (火) ~ 2024/12/22 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

「江藤博利プロデュース『昭和歌謡コメディVol.20』笑い続けて丸10年!遂に最終回」…観てきた。いつも通り 1部は芝居、2部は歌謡ショーという二部構成で、最終回だからと言って気負うところはない。観(魅)せて笑わせる いつものスタイルにホッとする。

これも いつもの光景であるが、コアなファンが熱心に応援している。お揃いの法被もしくはTシャツを着込んで 声援を送り、紙テープを投げ サイリウムライトスティックを振る。自分も2014年3月の旗揚げ公演から断続的(今回含め12公演)に観ており、ずいぶんと楽しませてもらい 癒されたものである。理屈ではなく 如何に楽しむか、そして演者と観客が一体となって会場を盛り上げる。そんな公演が見納めになるとは残念だ。
感謝を込めて★5つ。

(上演時間2時間20分 途中休憩15分含む) 

ネタバレBOX

1部(芝居)の舞台美術は、上手/下手に白壁を思わせる衝立、舞台が 築地の老舗すし店「ひろ寿司」という設定であるから、カウンターとテーブル席、そして新聞があるだけのシンプルなもの。

今回はレギュラーキャストの山下若菜さんが脚本を担当。物語は、ひろ寿司二代目のヒロトシ(江藤博利サン)と妹まるみ(白石まるみサン)の兄妹喧嘩から始まる。ヒロトシと妻ゆみこ(田中由美子サン)は結婚35年、それを祝って何かサプライズがあるのか。ヒロトシは、ゆみこを始め 娘みゆ(小松みゆサン) や まるみといった家族、そして近所の人たちからも煩がられている。そんな彼をさり気なくサポートしてきたのが妻である。その彼女を蔑ろにするヒロトシを まるみは許せない。そこで一計を案じ、ゆみこが急逝したと。そして巻き起こる騒動を笑いと滋味をもって描く。勿論 奇想天外ながら大団円である。ラストの歌「蒲田行進曲」が実に印象的だ。

2部の昭和歌謡ショーは、入り口で配布された多色彩のサイリウムライトスティックが美しく輝き出演者を応援する。また紙テープが乱舞するように空を飛ぶ。昭和歌謡を始め、アイドル歌謡、アニソン、演歌など多彩な曲目。コントやパロディ、客弄りをしながらのモノマネ、バルーンアート等で笑わせる。隣席の人は口遊むように一緒に歌っていた。本当に残念だ!
荒野に咲け

荒野に咲け

劇団桟敷童子

すみだパークシアター倉(東京都)

2024/12/15 (日) ~ 2024/12/24 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

面白い。
或る事件や伝承的な出来事といった題材ではなく、身近な家族・親戚 いや人間の心に蠢く羨望や嫉妬といった思いを描く。それを家族崩壊と街の衰退を重ねるように紡いだ群像劇。本作は劇団創立25周年記念ということもあり、あえて劇団員のみの公演にしたと。

この劇団の特長である仕掛けのある舞台装置、本作でも その迫力と印象付けといった効果は十分に発揮している。それが 新作公演とはなっているが、過去公演からの繋がりのようで 地続きの光景を思わせる。物語の中心人物 篠塚香苗役を大手忍さんが演じているから、なおさら その思いを強くした。話としては、ありふれた と言っては語弊があるかもしれないが、桟敷童子公演としては実にリアルだ。当日パンフに「オリジナルの物語であるが、モデルはある」と。ただ、話の肝になるであろう父親の行為、その動機なり理由の描き方が足りないような気がする。

ちなみに 少しネタバレするが、タイトル「荒野に咲け」の「荒野」とは「この世」の意、まさに地に足をつけたような公演。社会(派)的なダイナミックさはないが、人それぞれの感情が弾け飛ぶ。観応え十分。
(上演時間1時間55分 休憩なし) 12.20追記

ネタバレBOX

舞台美術は、両側に階段を設え 奥で渡り廊下の様に繋ぐ。その中間に 大きなヒマワリのモノクロ絵が天井から吊るされている。シンプルなシンメトリー。

舞台は 九州 玄界灘近くの田舎町。かつては炭鉱で栄えた町であったが、今は人口が減少し鉄道は廃線、駅舎は郷土資料館になるなど すっかり衰退している。そこに機関車IKIRUが展示されている。往時を偲ばせる巨大な煙突が数本残っているだけ。この舞台、炭鉱三部作を連想し 地続きの今を描いているよう。巨大な煙突は炭鉱町のシンボル、そしてヒマワリ畑(色彩の違い、原色・モノクロ)や機関車(大きさの大・小)といった 往時と現在を比べた象徴的なもの。

物語は、3姉妹が嫁いだ先の家族のそれぞれの様子、暮らしぶりを点描していく。長女 澄江は町で食堂(今は弁当屋)を営む古橋家へ嫁ぐ。町の衰退とともに経営は縮小したが子供たちを大学へ進学 卒業させた。また数人の従業員も雇ってそれなりの暮らしぶり。次女 孝子は、篠塚家へ嫁ぎ 貧しいながらも一家で登山やキャンプに行ったり平穏な暮らしぶり。息子が学校で苛められていたこともあり、無理やり進学校へ行かせようと。三女 勝代は離婚し、今(稲森姓)の夫と再婚したが、夫は働かず勝代がパートを掛け持ちして生計を支えている。夫の先妻の娘とは折り合いが悪い。3者三様の暮らしの断片を切り取り<家族とは?>を考えさせるよう。冒頭、孝子の娘 香苗が詐欺に騙され多額の借金を背負う。一家で夜逃げ同然のように町を出るが…。

時は流れ、香苗の父は自殺(気が弱かった?)をし、母は壊れ荒れた生活をしていた。篠塚家はバラバラになり音信不通状態が何年も続いていた。3姉妹が嫁ぎ先で築いた生活、その家族の幸福度の比較や確執などが切ない。家族という他者との関りが 蟠りをもって描かれている。浮浪者同然で探し出された香苗は、古橋食堂で働き始め 自身のトラウマを克服しようとする。しかし複雑化されたトラウマ、町の閉塞感など、この環境に馴染めず また町を出て行こうとするが…。

ラスト、産業廃棄と書かれた機関車IKIRUが、炭鉱最盛期に活躍した機関車DOROBANA51号に立ち向かうような。そこに「荒野」という「世の中」で生きていこうとする逞しさを感じる。自分が観てきた公演すべてについて、どんなことがあっても「生きる」といった根本が描かれており、それは劇団の一貫した思いのようだ。
次回公演も楽しみにしております。
S(さりげなく)F(fiction)~知る由もない彼らの人生~

S(さりげなく)F(fiction)~知る由もない彼らの人生~

藤一色

中野スタジオあくとれ(東京都)

2024/12/14 (土) ~ 2024/12/15 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

「藤衛門」観劇。
時間軸の長い、というか悠久の時の中に無常と悲哀を紡いだ一人芝居。チラシにもある通り、藤衛門は江戸時代の からくり、機械人形である。性別があるわけではないが、「彼」と書かれている。そして彼を蔵で見つけたのが小学4年生だった少女 タビノちゃん。

物語はタビノちゃんやその友達と過ごした変哲もない日々、それを藤衛門が回想する形で展開していく。機械人形でありながら感情を持ち合わせたような、現代でも開発できていない高度なロボットである。藤一色が掲げる「遠くないファンタジー」、そこで描かれているのは「ささやかで切実な異聞奇譚」…珠玉作。

一人芝居であることから必然的に一人称で語る。ロボットであるから壊れなければ、ずっと一緒、しかし命ある人間は いずれ死ぬ。チラシには「いつか時が流れて必ず辿り着く、少しだけ不思議な、普通だった頃のお話」とある。ラストに流れる音楽「美貌の青空」(作曲:坂本龍一)が少し切ないような余韻を残す。
(上演時間50分) 

ネタバレBOX

舞台美術は大小形の違う椅子が積み重なっている。下手奥にあるドアから懐中電灯を照らしながら防護服・ガスマスクをした男が入ってくる。防護服を脱ぐと上は着物、下はズボンというアンバランス。全体的に薄暗い中、ランタンの明かりが柔らかく灯る。先の椅子が登場人物の代わり、それらに語り掛け 頷くことで会話を成す。

この場所が どこか明らかにされない。そしてタビノちゃんに見つけられたこと、その友達を紹介され 小学4年生の時の出来事、それから5年生・6年生・中学生・高校生そして大人といった、それぞれの時代にあったエピソードを語る。今となっては、その時々の思い出は楽しく懐かしいもの。タビノちゃんは小学校時代の友達と結婚し歳を重ね…。いつしか誰もいなくなり、藤衛門だけが取り残される。勿論 記憶も失わない。この独特とも言える世界観が好い。

小説か映画だったか忘れたが、親を喪うことは過去を、配偶者を喪うことは現在を、そして子を喪うことは未来が無くなると。親族をはじめ親しき者を喪うことの喪失感、しかしロボットはいつも見送る側で、無常を感じ続けるという定め。これを無理やり自分の物語として受け入れて納得させる悲哀。

舞台技術は、何かを打ち固める または破砕音のような不安・不穏を煽るような音が 終盤ずっと鳴り響く。一方 ピアノの音色が包み込むように奏でられる。ラストは、冒頭のようにマスクをして入ってきたドアから出ていく。衣裳の上下、着物とズボンには物語(=歴史)があるようだ。そこに時の流れ、悠久を感じるのだ。
次回公演も楽しみにしております。
明日、宇宙人になります

明日、宇宙人になります

劇団銅鑼

銅鑼アトリエ(東京都)

2024/12/14 (土) ~ 2024/12/15 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

昨年の試演会「ガラスの動物園」が良かったので、今年も観にいったが とても面白かった。説明の「人間が地球外生物になる?世界中が大騒ぎ・・明日、宇宙人になるかもしれないこの時に…」からSFを連想したが、もっと最近の出来事を描いているように思えた。未知ゆえに その対処法が分からず右往左往、そして混乱・迷走した施策を思い出す。

とても劇団員補とは思えない演技、当日パンフを見ると他の劇団研究所出身者が多く、その実力は肯ける。登場人物は5人、それぞれのキャラや立場などをハッキリ立ち上げ、多様な人間性を描き出す。明日、宇宙人になるかもしれない不安・恐怖といった状況の中で、思い残したこと 気掛かりなことを味わい深く紡ぐ。究極的なことを言えば余命宣告されたような、しかし物語はそこまで追い込まず余韻を残している。試演会ということもあろう、最小限の舞台セットと照明・音楽で効果を出していた。

宇宙人になります…大きな観点で見れば地球人も宇宙人。しかし、敢えて その違いの中に排他的もしくは差別的な意味合いが込められているよう。勿論「世界中から原因不明の痒みが報告されている。検査をしたところ、体内から検出されたのは地球に存在しないDNA」という件に関連してくる。私ごとで恐縮であるが、この検査とその後に係る業務に就いていたことがあり、とても考えさせられた。
(上演時間1時間 休憩なし) 

ネタバレBOX

舞台セットは、ビニールのようなカーテン幕で囲い、上手に折り畳みのテーブル1つ、ベンチ2つと いくつかの椅子。検査結果を待つ待機所といった所。地球に存在しないDNA、人間感染しないと言いつつ、ウイルス感染防止を思わせるような作り。

地球に存在しないDNAの症状、体のどこかが痒くなり我慢できなくなる。一時的に痒みを抑える薬を服用することで症状を抑えている。その小康状態を保っている時の一夜の物語。そんな中、名を伏せて手紙を出そうとしている男がいる。しかし封筒に手紙は入れず、差出人名も書かない、しかも書留郵便。そこに どんな理由や意味があるのかが謎として、物語の成り行きに並走する。

手紙を出し続けている男(親子)、会社のプロジェクトの成否が気になる男(社会人)、世界中を放浪している男(自由人)、宇宙人になった息子に会いたい女(母親)、そして待機所に詰めている男(組織人)…この典型的な5人が思い残したことなどを語り、どうなったか想像(orシミュレーション)する。特に手紙を出しているのは、仲の悪い父へ。書留郵便ならば必ず配達局員が受領印(サイン)を確認する。孤独死しても放置されることはない。一人ひとりが想像の話を繋げ紡いでいく。その時にスポットライト、そして優しいピアノの音が流れる。

自分は、新型コロナウイルス感染症に係る出来事を連想した。陽・陰性の判定、その結果による隔離・入院までの過程のよう。連日、感染者数や死亡者数が報道され、有名人が亡くなると衝撃的な そんな状態が続いた。そして感染=秘密にしなければといった風潮があった。宇宙人になることが幸なのか不幸なのか。宇宙人が多数を占めれば良いのに という台詞が印象的だ。
次回試演公演も楽しみにしております。
蒲田行進曲

蒲田行進曲

“STRAYDOG”

シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)

2024/12/11 (水) ~ 2024/12/15 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

観応え十分。
この作品、演劇だけではなく小説で直木賞を、映画で日本アカデミー賞を受賞するほど有名なもの。つかこうへい作品らしく、登場人物の台詞は早口のようなリズミカルさ、それが心地良く響いてくるような公演。固有名詞を使ってリアリティ、そして今では敬遠されそうな差別用語が…。笑うに笑えないような台詞の奥に差別の裏返しのような素朴で温かい情愛が浮かび上がってくる。同時に屈折した心理を潜ませ、人のどうしょうもない理不尽さも描き出す。そこに つか作品の真骨頂をみたような。

舞台美術は素舞台、当然 役者の演技力が問われる。上演時間2時間(休憩なし)を飽きさせるどころが、舞台にくぎ付けだ。物語の舞台は 京都の映画撮影所。敬愛する銀幕スター銀ちゃんに、絶対服従の大部屋俳優のヤス、そして銀ちゃんが妊娠させた女優 小夏、この3人が主要な登場人物。銀ちゃんの命令でヤスは小夏を妻にし、銀ちゃんの初の主演映画のために、命をかけて「階段落ち」のシーンを演じるが…。この3人の迫力が迸り 情念が滲む、そんな圧倒的な演技力に観入ってしまう。同時に切ないといった感情が こみ上げてくるが、それを自分の拙い言葉で説明することは出来ない。ぜひ劇場で。
(上演時間2時間 途中休憩なし)【朋 組】 

その男ホーネット加藤

その男ホーネット加藤

映像劇団テンアンツ

「劇」小劇場(東京都)

2024/12/11 (水) ~ 2024/12/22 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

㊗上西雄大さん 60周年記念公演…面白い。
タイトル「ホーネット加藤」、その面白可笑しい前説で盛り上げ そのまま本編に入るが、そこでの生業も前説という設定である。公演の魅力は、父親の娘を思う気持ちと胡散臭い男を見るような娘、その心情的な距離がどう縮まっていくのか。そんな物語をテンポよく展開し、時にボケとツッコミの漫才のような場面を挿入し楽しませる。テンアンツらしい笑いと泣き、その感情の揺さぶりが凄い。

手際のよい舞台転換によって、瞬時にその状況や情景へ誘われる。少しネタバルするが自転車を使った場面などは映画のワンシーンを見ているような感覚。またスナックでのカラオケ場面を始め、所々で歌を歌い和ませる。「劇」小劇場という空間、そこに1970年代のカンフー映画へのオマージュというかパロディのような世界観を持ち込んだエンターテインメント。ホーネット加藤の顔つきやアクション、そして衣裳がその映画を連想させる。上演時間は2時間を超えるが、アッという間の感覚だ。勿論「vol.1 燃えよ前説ドラゴン」も観たくなる。
(上演時間2時間15分 途中休憩なし)【ドラゴン孤独の鉄拳】

星降る教室

星降る教室

青☆組

アトリエ春風舎(東京都)

2024/12/07 (土) ~ 2024/12/15 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

面白い。深みある味わい。
大自然、そしてノスタルジックで夢幻のような雰囲気が漂う中、或る女性教師の回想を通して紡がれる心温まる物語。青☆組公演の魅力は、物語に新たな息吹を吹き込んだような世界観(今回は宮沢賢治の世界観に呼応)を舞台美術や技術で表出し、観客の心を揺さぶるところ。そして発語を意識 そして大事にしたといった印象だ。

今回は劇団初のクリスマス公演らしく、シンプルだが美しく、優しく、そして温かい雰囲気をしっかり演出していた。キャストはスカートやベストなど、どこかに格子柄がある衣裳で整える といった拘りもみえる。
(上演時間1時間)

ネタバレBOX

舞台美術は正面奥の幕に電飾、その下にミニツリーや蝋燭が置かれている。色彩は、全て暖色の単彩だから温かく優しく感じる。中央には いくつかの丸椅子が置かれ場面に応じて動かす。上手にはト書きと演奏を担当する吉田小夏 女史が座る。
ちなみに、役者は動き回り 時に椅子に上がるなど情況を表現(演技や歌唱)する。

本作は、吉田小夏 女史が2016年にラジオドラマ作品のために書き下ろした物語、それを青色文庫の様式にして舞台化(朗読劇)したものらしい。

教師の森山雪子(32歳)は、20年前に卒業した雫の森小学校の恩師から1枚のはがきを受け取った。それは卒業生代表として卒業式での祝辞を依頼するもの。しかし転校を繰り返していた雪子にとって、6年生の1年間しかいなかった雫の森小学校での思い出は断片的でしかない。雪子は、人間の言葉を話すウサギに導かれて だんだんと奇妙な世界へ誘われていく。雪子の記憶の底に沈んでいた、卒業式当日の出来事が…。

園田喬し氏とのアフタートークで、オノマトペの駆使、マイクを使用しないこと、またテキストは完全に覚えるのではなく、例えば音楽で譜面を見ながら演奏するような感覚で朗読、といった興味深い話をしていた。そんな情感を大切にした朗読劇。

宮沢賢治の童話らしいアニミスティックな世界観、そこに30歳代になった女教師のリアルな心情を持ち込んだようだ。転校を繰り返し 故郷らしき所がない。雫の森小学校は既に無いが桜の木が…確かに自分がいた場所がある。自然云々といった世界観と雪子の今の状況(暮らし)を照らし合わせ、忘れてしまった記憶の中に大切なものがあったことを気づかせる。そこに、このドラマの新たな息吹を感じる。
次回公演も楽しみにしております。
東京夜行

東京夜行

パフォーマンスユニットcoin

パフォーミングギャラリー&カフェ『絵空箱』(東京都)

2024/12/07 (土) ~ 2024/12/08 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

観(魅)せるを強く意識したダンス公演。印象としては、振付が先なのか音楽に合わせたのか分からないが、ダンスと選曲がピッタリ。そして照明や衣裳・小物の配色にも気を配る。勿論 ダンスの力量は確か(観応え十分)。
舞台はメインとサブステージが二か所。サブステージは少し段差を設え、別の場所であり時間もしくは俯瞰といった違いを表現する。また絵空箱にあるBARカウンター内も利用し、この会場全体を使って舞台化している。

ダンスパフォーマンスゆえ、何か物語性があるという訳でもないと思うが、ある出来事をイメージしてしまう。心象であり日常の光景、そして再生といった時間の流れを感じる。当日パンフには「夜の東京を旅する 賑やかで、静かで、華やかで、孤独で そして儚い私の街」とある。しかし、自分は別の出来事(イマーシブ・ダンス)を連想してしまう。
(上演時間1時間5分 休憩なし)

ネタバレBOX

上演前は立入禁止のYellow Tapeでメイン舞台を囲い、所々に脚立や箱馬が置かれている。上演直前にそれらを取り除き、素舞台にする。天井には色違いの短冊状の紗幕、月・星状の飾りが吊るされている。

曲は「ルージュの伝言」「銀座カンカン娘」など全19曲、ダンスはそれに合わせた振付。冒頭 全員がデザイン違いだが白い衣裳に赤い靴下で統一。ダンスは、その紅白が躍動そして浮遊するような。そして黒いスーツ姿で満員電車や会社での仕事(電話やパソコンを操作)をしているような日常の光景。またカジュアルな衣裳は無邪気な様子が窺がえる。「地獄タクシー」の曲とダンスなどは 漫画「笑ゥせぇるすまん」の「喪黒 福造」の苦悩している現代人のちょっとした願望を叶えてやる、といった可笑しみと怖さを感じる。途中で入るナレーションは心の彷徨であり嘆き、そして救いを連想させる。ラストは再び全員が冒頭の衣裳へ着替え、1人を囲んで…。その手には赤いバラ(花言葉:あなたは私の唯一の人)、終始 配色に拘る。

白い浮遊感ある衣裳、それは心の心象風景…東日本大震災で犠牲になった友人への鎮魂のように思えた。始めは、楽しかった震災以前、それから東京で生活(日常の忙しさの中に埋没した暮らし)、ふと寂しさが込み上げる東京の夜空。ラストは、友人の死を受け入れ、亡くなった友人たちが応援するような、そんな天を仰ぎ見るようなダンス。もしくは東京の一人暮らしの寂しさか。ダンスを通していろんなことを連想させる公演、その意味では面白い。
次回公演も楽しみにしております。
十二月、田中、がんばれ!

十二月、田中、がんばれ!

劇団うぬぼれ

ART THEATER 上野小劇場(東京都)

2024/12/07 (土) ~ 2024/12/08 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

🔞 R-18朗読劇ということに興味を持って観たが、思っていた以上に面白かった。典型的な娯楽作。発想はエロいが、内容は極めてまっとうで惹き込まれてしまう。この劇団の特長であろうか、マンガを読むような感覚で 分かり易い演出が好い。その資料-両面35頁(非売品)を配布、笑ってしまうが なかなかの力作。衣裳は男女ともに白シャツに黒ズボンで、外見で惑わせることなく朗読力で聴かせるといった矜持を感じる。それだけに 冒頭は正確に読むことを優先し(心掛け)たかのような棒読みが惜しい。
この朗読劇、上野小劇場という比較的小さい空間だから面白味が感じられると思う。今後、別の劇場 どのような公演を行うのか。

27歳の中学校体育教師 田中純平が、なんとか今年のクリスマスに童貞を卒業したいと…。登場するのは純平をはじめ賢者・性欲・睡眠欲・食欲そして先走り宣教師、人間の三大欲を顕に悶々とした姿が滑稽に描かれる。
童貞を捧げたいのが同僚の社会科教師 岸野つかさ 29歳。口説くどころか まだ交際もしていない。クリスマスまであと一か月、岸野先生と懇ろになるための脳内シュミレーションが先走る。ちなみに説明にあるクリスマスアダムとは、早い段階で明らかになるが、先走り宣教師はラストにその真の姿が明らかになる。

少しネタバレするが、岸野先生を巡って同僚の音楽教師 中山金太郎(32歳童貞)という恋敵が登場する。そして中山先生や女子生徒との保健体育(避妊具の使用)に係る会話も興味深い。
シンプルな舞台美術と照明だが、朗読劇としては十分に その効果を発揮していた。
(上演時間1時間45分 休憩なし) 

ネタバレBOX

舞台美術は中央に階段、上った先にスクリーンが吊るされている。両脇は暗幕 そこが出ハケ口になっている。上演前は階段下に半裸のキューピー人形のようなものが置かれているだけ。照明はシンプルな暖色やショッキングな場面は朱色、いずれにしても単色の色彩。時々 スクリーンを上げ、その奥から階段を下りてくるといった観せ方もする。

物語はクリスマスに童貞を卒業したい純平 27歳の悶々たる物語。童貞を捧げたい女性にアプローチする過程を、人間の三大欲を擬人化し滑稽に描く。基本は朗読劇だが、スクリーンにラフスケッチのような絵を映し出す。漫画の吹き出しの代わりに言葉(台詞)を朗読で紡いでいく。冒頭、賢者と性欲の会話は少し緊張気味で棒読みのような印象だが、だんだんと感情が入ってくる。1人複数役を担っているため、話し方や声色等を変えるなど 工夫をしている。

メインは童貞卒業ではなく、それに向けての面白可笑しい行為(過程)だけに、純平の妄想が爆発するような感覚。純平という一人の男の中にある考え 感情などを賢者・性欲・食欲・睡眠欲といった4人が分担し、協力や対立をしながら童貞男を立派に立ち上げる。スクリーンに映し出される絵が情況などを表し、そこに台詞が加わるから実に分かり易い。

さて男女の交わり、その起源を遡るとアダムとイヴ。そして童貞卒業をクリスマスに定めているが、遅くともその翌日 クリスマス アダムという予備日までターゲットに加えた。自分の中で、理性的に分析し判断する人格らしきものがいる。それが先走り宣教師、欲望を制御したり発散させたり、それこそが田中純平という人間性(本性)を表している。
ちなみに分厚い資料は、スクリーンに映し出したラフスケッチ全画面である。
次回公演も楽しみにしております。
はんなま砦は夜更けまで

はんなま砦は夜更けまで

大統領師匠

駅前劇場(東京都)

2024/12/04 (水) ~ 2024/12/08 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

面白い、お薦め。
観(魅)せ 楽しませることを強く意識した快作。チラシにある謎めいた説明、その世界観そのものが物語の肝。そこが どこでといったことが「閉じ込められた真実」(ネタバレ)に直結する。

未見の団体。この団体、コア ファンに支えられているようで、観劇した日は最前列に多くの女性ファンが陣取っている。上演前には〇回観る予定など お喋りに花を咲かせている。グッズも見せ合っている。勿論 開演したら熱心に観て、時に大笑いする。一方 団体は前説で優しく和ませるような話(本来の注意/依頼事項含め)から本編へ、そのサービス(精神)が劇中から伝わってくる。

登場人物の性格や立場、その特技などの面白い設定が妙。そして舞台装置を可動させダイナミックに観せ、勇ましく煽るような音響/音楽、強い目潰し照明などを駆使する工夫。映像で観るようなイメージのものだが、舞台という至近距離ゆえ臨場感がある。興味を惹く内容、それをアップテンポで展開し 心地良く飽きさせない。
(上演時間1時間55分 休憩なし) 

ネタバレBOX

舞台美術は、中央に基板の配線のようなもの、左右は丸みのあるレンガ壁。この丸みのある壁を適宜動かし砦の中と外の状況を表す。全体的に怪しく そして妖しい雰囲気を醸し出す。頻繁に出てくる「ガマズミ」という言葉が印象に残る。花…その花言葉が 少し怖い「私を無視したら死にます」「結合」「私を見て」らしい。

説明にある 小さな砦とそこに住まう住民達は、ある人物の体内であり意識である。物語は、或る富豪が交通事故を起こし、莫大な遺産相続を巡って骨肉(姉妹)の争いが…。妹は昏睡状態、姉は既に脳死状態であり、二人のうち 妹 中山百合に全財産を相続させるという遺言書がある。精神医療研究所では、交通事故を起こした相手方-首相の息子の事故隠蔽をすることで高額報酬を得ようとする。そこで所員を彼女の意識に潜入させ記憶の消去・書き換えを目論む。無稽荒唐であるが、その奇知こそが公演の魅力。

一方、彼女の意識の中には色々な住民達がおり彼女を守っている。しかし、姉の意識が いつの間にか妹 百合の意識に入り込んで体を乗っ取ろうとしている。そして被り物の奇怪な棲き物が動き回る。端的に言えば、妹の意識下で彼女を守ろうとする住民達 対 姉の意識+奇怪な物の戦い。そして(体)外界の研究所員達の思惑が絡んだ三つ巴の戦いを面白可笑しく描いている。

砦(百合の意識)の中の住人達の特技or得物は、最強の剣士、痛みを取る黒子、姿を隠すマント、刃毀れを治す鍛冶、癒しの効用、何でも抜きたがる歯医者を擬人化させており、そこに どんな関連性があるのか興味を持って観ていた。一つ一つの存在では強力な武器には成り得ない、一致団結することで意味が…この奇天烈な行為が爆笑を誘う。どうのようにして百合の意識下へ侵襲していったか、そんな伏線も丁寧に描く。
ちなみに 被り物は あみ子、姉は妊娠5か月で、その子が意識の外へ飛び出しているという設定である。
次回公演も楽しみにしております。
みえないもの

みえないもの

アンティークス

「劇」小劇場(東京都)

2024/12/04 (水) ~ 2024/12/08 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

㊗20周年公演。面白い、お薦め。
いくつかの小さな物語を意味深に描き、それらを大きく包み込むように紡いだ公演。アンティ-クスらしく丁寧に 優しく考えさせるような内容だ。現実と幻想、そして過去や現在の話を縦横無尽に綴り込み、重層的に描き出す。
この不思議な世界観、それが何なのか最後に明らかになる。演劇としては典型的な展開だが、何となく清々しく充実感を覚える。全体的に見守り 寄り添う、そんな包容力を感じさせる珠玉作。

当日パンフにテーマらしきこと、「あなたの大切な『存在』に捧げます」とある。つまり「生きる」「生かされている」ということではないか。たとえ亡くなっても、その人のことを忘れなければ、残された人々の心の中で生き続ける。タイトル「みえないもの」は人の<思い>であり<想い>、その感性のようなもの。言葉では言い表せないこと、それを演劇という虚構の中でリアルに表現して伝える。

少しネタバレするが、いくつかの話は日常、そして戦争や災害といった広がりがあるもの。しかし、それぞれの話を深追いせず点描することで「存在」というテーマを暈けさず 捉えて離さない。勿論、役者の演技力は確かで、物語を支える舞台美術や音響・音楽そして照明などは巧い。観応え十分。
(上演時間2時間5分 休憩なし) 

ネタバレBOX

舞台美術は、暗幕で囲い 中央に段差がある平台、上手/下手にも同じ高さの平台(大きさ や 形は違う)があり、中央の平台と行き来できる近さ。上手と下手に飾り棚があるが、形状は違う。ミニテーブルや丸椅子がいくつか。そして天井には網が吊るされている。全体は抽象的だが、いくつかの話を紡ぐため、夫々のイメージを固定させない作りが巧い。逆に 役者が演技で状況や情景を作り出す。なお 平台の天板部分が白、暗幕との関係で照明の照射角度によって鯨幕のよう。

冒頭は少女二人(みく と さな)が、ぬいぐるみを使って無邪気に遊んでいる。物語は入院している病室、たみこ ばあちゃんの(唐沢)家、宇宙からの訪問者、そして高校時代といった、脈絡があるのか否か判然としない話が交錯して展開していく。さらに高校時代の話は大人になってからも回想的に描かれ、空間と時代が重層的な広がりと厚みを増していく。「ちぎり絵」といった台詞から色々なシーンの重なりが物語を構成していることを示唆。

高校時代の虐め、最近は頻繁に報道され 問題の深刻さを伝えているが…。中学時代に虐められていた生徒が、高校へ入ってから虐められない防衛策として虐め側へ。そこには仲間外れになることが怖いという意識がある。そして大人になって後悔する、その負の連鎖が断ち切れない。

たみこの家では懐かしい光景、ばあちゃん・じいちゃん・養女とその幼馴染が仄々と暮らしている。両親ではなく祖父母、そして実子ではなく養女というところが妙。日本の原風景、そんな懐かしさの中に奇妙な家族関係を描いている。また訪問者たちは、宇宙からやってきた家族、こちらは両親と長男・長女・次女という構成である。
何となく平穏に暮らしていた家族、そこに突然の不幸が襲う。それが東日本大震災(災害)や太平洋戦争(戦災)を連想させる。そして引き取られた先、学生時代、そして病院のベットの上という繋がりが解る。

ラスト、昏睡状態から数十年ぶりに意識が戻る。その眠っていた間にみた話、そんな夢オチの物語。此岸と彼岸の狭間、よく聞く走馬灯のような想いを情感豊かに描いた作品。幸せの日々は失って、そして大切な人は喪って初めて気づく悲しさ 寂しさ。当たり前のようにあった日々や人たちの存在、そして自分も含めて皆かぎりなく愛しいのである。冒頭の さな、そして訪問者の次女(星那<さな>)は、みく の生まれてこれなかった妹である(母が妊娠中に被災したため)。

舞台技術…照明は真上から青白いビーム光線によって海中を、白銀(モノクローム)は過去・動かない世界を表現しているよう。音響は波音や鳥の鳴き声、音楽は優しいピアノの音色が印象的だ。状況(場面)に応じて衣裳を変えるなど、分かり易さに工夫を凝らしている。物語を印象的に そして余韻あるものに仕上げていることに好感。
次回公演も楽しみにしております。
ポプコーンの降る街2024

ポプコーンの降る街2024

劇団大樹

Route Theater/ルートシアター(東京都)

2024/12/04 (水) ~ 2024/12/08 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

初日観劇、ほぼ満席。
現実と夢想を交差させ、優しくも切ないファンタジー作品。それは心の彷徨のようでもある。梗概は説明の通りだが、その謎めいたことを記すとネタバレになってしまう。当日パンフによれば、本作は1992年 文化庁舞台芸術創作奨励賞佳作を受賞し、劇団大樹では2005年に初演したとある。そして20年振りの再演にあたり、新たなシーンを追加し更に深みが加わっていると。初演を観ていないから何とも言えないが、タイトルや説明にある「ポプコーン」が膨らんで弾けたような…映画を観ながら食べた記憶があるが、その懐かしき味わいと香りがするよう。

登場する中で、名前があるのは探偵・野放風太郎と助手・タキ、それ以外は女・男・老人であり正体が知れない。この抽象的な設定が肝かもしれない。人物の過去や現在など背負っているものを明らかにしていない。唐突にして曖昧な出会い方、緩い関係性の中で謎を膨らませていく。そして絵画の人物とは という謎へ繋げていく。途中から だんだんと事情が分かってきて、言葉の端々から滋味溢れる物語が構築されていく。全体的に抒情的な印象だが、物語とその雰囲気を支えているのがアコーディオンの生演奏、とても好かった。

コロナ禍を経て不寛容・無関心といった世の中になったような気がするが、本作は未練と想いが しっかり詰まっている。それは人間だけではなく身近な動植物に愛と情を注いでいるよう。少しネタバレするが擬人化した猫、そしてアンサンブルとして踊る姿が愛らしく、しかも力強いといった感じもする。そこに過去だけではなく未来が…。
(上演時間1時間50分 休憩なし) 12.08追記

ネタバレBOX

舞台美術は、上演前にキャスタ付の衝立4枚、1枚はドアで他はレンガ壁。そこにHOTEL REGRETの看板が掲げられている。上手にはビールケースが積まれている。開演すると衝立を回転させ探偵事務所内の淡い壁とドアに変わる。要は衝立の表裏は、外観と内装を表している。事務所内の中央にソファ、壁に女性の肖像画が飾られ、上手奥には桜の木、その幹は太く枝は天井を這うように伸びている。下手に演奏スペース。

或る日、突然 サラダオイルを持った女が探偵事務所に入ってきて、風太郎に向かって「私の後をつけていたでしょう」と詰問する。自分をつけていた男の風貌と行動を並び立て事務所を出て行く。その女、壁の肖像画の女に似ている。それから頻繁に事務所に来るようになる。いつしか街に鳥籠を持った老人が現れる。しかし籠に鳥は入っていない。この鳥を探して旅を続けているという。

女が、風太郎に20数年前の消印がある手紙を示し、差出人を探してほしいと依頼する。ここから風太郎と女、そして肖像画の女の関りが愁いを帯びて紡がれる。2人は高校の同窓生、といっても風太郎(20歳)は夜間、女(17歳)は昼間で会ったことがない。2人は同じ座席、風太郎が机に推理小説を忘れ、それを女が読み興味を持った。いつしか文通を、そして会う約束をするが…。その待ち合わせ場所に向かう途中で、風太郎はバイク事故で亡くなる。物語は風太郎の夢オチのよう。風太郎は女一筋だが、女は恋愛を重ね 結婚する。そこに生者と死者の愛情感覚の現実的な違い。

風太郎の夢想の中に女が入り込んだのか、女も死んだのかは判然としない。ラスト 男がサラダオイルを買いに出たまま帰らない妻を探すよう 探偵事務所を訪ねてくるが 廃墟。物語の中で既に時間軸が狂っている。何となく〈浅茅が宿〉を連想してしまう。助手・タキは風太郎の飼い猫。既に20年以上生きている。一方 街に来た老人には生または小さな幸せ(青い鳥)を感じる。女が売春婦に身を落としても生きることが大切。同じ街で、死と生という人が抗えない宿命を描いている。
次回公演も楽しみにしております。

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