ちち 公演情報 座・だるま水鉄砲「ちち」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    面白い、お薦め。この旗揚げ公演は観応え十分。
    増澤ノゾム氏の脚本・演出による記憶・追想を辿るような物語…人が持っている表し難い感情を上手く表した人間劇であり家族劇。登場人物は男女4人、それぞれの性格を繊細に 立場を丁寧に描き、今ある状況を巧みに描き出す。人が抱えた問題は、その時の生活状況や社会情勢によって影響を受ける。そして思わぬ行動に出てしまうこともある。その心情が痛いほど伝わる。そして 紡ネン を介して蟠りが少しずつ溶けていくような。

    役者陣の演技が圧巻。何処にでもいそうな人物をさり気なく演じる、その自然体の演技が物語へ巧く誘う。冒頭から一瞬のうちに引き込まれる。登場人物が4人しかいないことから、それぞれの関係性が鮮明に そして濃密に描かれる。これによって 1人ひとりの人間性が浮き彫りになってくる。
    物語は、行方不明だった父親が見つかり 兄弟のところに引き取られたところから始まる。兄弟が覚えている父は暴力的な人だったが、目前にいる男は 記憶の中の父とは別人の 天使のよう。そして兄の恋人も巻き込んで という設定が妙。
    (上演時間1時間35分) 

    ネタバレBOX

    舞台美術は入口の対角線上にソファとローテーブル、右手にパソコン。登場人物に「紡ネン」とあるのは、完全AIで活動を続けるAI VTuberで、主にYouTuber配信を中心に活動。そのアイテムが物語の肝。家族という他者との会話を優しく綴った”新”家族物語。

    登場人物は 父 水戸雉太郎と息子2人(長男:一馬、次男:嗣春) 長男の恋人 雨宮かりん という4人、そして夫々の思いを交差させることで表現し難い親子の情を浮き彫りにしていく。今の状況や立場、性格を丁寧に説明することで、しっかり人物造形が立ち上がってくる。そして過去と現在、父不在の間の母の死など、登場しない人物の心情まで伝わるようだ。自宅だが落ち着かず所在がない雉太郎、その話し相手が紡ネン。仲が良いのか不器用なのか そんな兄弟間。そこに現代的なアイテムを登場させ、人間味という 家族関係とは違う味わいを出す奇知。

    雉太郎は、バブル期の元銀行員で多忙を極めていたが、或る日仕事に虚しさを覚え 出奔し家庭を捨てた。幼い息子に暴力をふるい、物心ついていた一馬は父を恨んでいた。嗣春も同様だが 幼かったこともあり、父の記憶があまりない。今、父はホームレスになり過去の記憶を失いー認知症等とは違い 記憶の欠如といったところー昔の面影もなく穏やかな性格。一方 一馬は、組織という会社勤めに馴染めず、自宅でYouTuber配信するなど ある意味 自由人。嗣春は、生真面目で高校の社会科(倫理担当)教員、結婚し子供もいる。そして一馬の恋人 かりん は家族とは違う立場で物事、成り行きを見ている。4人の関係が微妙に接近したり すれ違うことで心が蠢く。俳優陣…剣持直明サン、堀之内良太サン、仲村大輔サン、稲村梓サンは、激しく動き続ける心情を巧みに演じ、生臭い人間模様を丁寧に描き出していた。

    一馬は、雉太郎の存在が鬱陶しい。早く自宅を売却し 都心のマンションで かりんと一緒に暮らしたい。父の失踪の解除手続や自宅売買に係る契約等はすべて嗣春任せ。その嗣春は息子ー妻の連れ子ーが中学で苛めをしており家庭事情で悩みを抱えている。かりんはガールズバーで働き、それゆえ嗣春は快く思っていない。しかし何気に優しくされて…。昔の面影のない父、いつの間にか息子と立場が逆になったかのような。しかし息子は子供から大人へ成長したことで、新たな思いを刻むことになる。その心の機微を実に上手く紡いだ秀作。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2024/12/20 08:34

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