S(さりげなく)F(fiction)~知る由もない彼らの人生~ 公演情報 藤一色「S(さりげなく)F(fiction)~知る由もない彼らの人生~」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    「藤衛門」観劇。
    時間軸の長い、というか悠久の時の中に無常と悲哀を紡いだ一人芝居。チラシにもある通り、藤衛門は江戸時代の からくり、機械人形である。性別があるわけではないが、「彼」と書かれている。そして彼を蔵で見つけたのが小学4年生だった少女 タビノちゃん。

    物語はタビノちゃんやその友達と過ごした変哲もない日々、それを藤衛門が回想する形で展開していく。機械人形でありながら感情を持ち合わせたような、現代でも開発できていない高度なロボットである。藤一色が掲げる「遠くないファンタジー」、そこで描かれているのは「ささやかで切実な異聞奇譚」…珠玉作。

    一人芝居であることから必然的に一人称で語る。ロボットであるから壊れなければ、ずっと一緒、しかし命ある人間は いずれ死ぬ。チラシには「いつか時が流れて必ず辿り着く、少しだけ不思議な、普通だった頃のお話」とある。ラストに流れる音楽「美貌の青空」(作曲:坂本龍一)が少し切ないような余韻を残す。
    (上演時間50分) 

    ネタバレBOX

    舞台美術は大小形の違う椅子が積み重なっている。下手奥にあるドアから懐中電灯を照らしながら防護服・ガスマスクをした男が入ってくる。防護服を脱ぐと上は着物、下はズボンというアンバランス。全体的に薄暗い中、ランタンの明かりが柔らかく灯る。先の椅子が登場人物の代わり、それらに語り掛け 頷くことで会話を成す。

    この場所が どこか明らかにされない。そしてタビノちゃんに見つけられたこと、その友達を紹介され 小学4年生の時の出来事、それから5年生・6年生・中学生・高校生そして大人といった、それぞれの時代にあったエピソードを語る。今となっては、その時々の思い出は楽しく懐かしいもの。タビノちゃんは小学校時代の友達と結婚し歳を重ね…。いつしか誰もいなくなり、藤衛門だけが取り残される。勿論 記憶も失わない。この独特とも言える世界観が好い。

    小説か映画だったか忘れたが、親を喪うことは過去を、配偶者を喪うことは現在を、そして子を喪うことは未来が無くなると。親族をはじめ親しき者を喪うことの喪失感、しかしロボットはいつも見送る側で、無常を感じ続けるという定め。これを無理やり自分の物語として受け入れて納得させる悲哀。

    舞台技術は、何かを打ち固める または破砕音のような不安・不穏を煽るような音が 終盤ずっと鳴り響く。一方 ピアノの音色が包み込むように奏でられる。ラストは、冒頭のようにマスクをして入ってきたドアから出ていく。衣裳の上下、着物とズボンには物語(=歴史)があるようだ。そこに時の流れ、悠久を感じるのだ。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2024/12/16 00:25

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