食わばもろとも 公演情報 新雪/深雪企画「食わばもろとも」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    全ては自分で解決して行かなければ、しかしその自縄自縛のような思い込みが事態を更に深刻にする。それを痛痒く紡ぐような感覚劇といったところ。まさにドロ沼状態だが、今居る場所が何となく救いになっている。喧騒に佇む下宿に集う人々の心温まる交流と愛しい日々が淡々と描かれている。

    説明だと「病床に伏せる父の代わりに、一軒の下宿で住み込み台所番になった女性」の観点から描いた物語のように思えたが…。実際は、大地という大学一年生の強迫観念が周りを巻き込んで といった描き方のよう。彼の悩みや母との(隠れた)確執を中心に、下宿にいる人たちの悩みを点描することで、家族や社会との関わりの複雑さが浮き彫りになってくる。
    なお、大地の苦悩は 或る映画の主人公に重なり 面白かったが、全体的(他の人物も含め)に不鮮明な説明・設定が憾み。

    有効な処方(箋)はなく、自分で考え周りの助けを得ながら対処療法的に地道に進むしか…。そんな もどかしさを感じさせるが、先ずは皆で食事をしよう。明るく「腹が減っては戦ができぬ」といった旨の言葉が問題解決への嚆矢のよう。
    (上演時間1時間30分) 

    ネタバレBOX

    舞台美術は下宿という設定から そのダイニングのテーブルと椅子。中央の出入り口の奥に各人の部屋があるよう。説明からは、父に代わって料理番になった女性の観点で描く下宿人 群像劇かと思っていた。しかし 何となく下宿した大学1年の大地という青年の或るトラウマを浮き彫りにするような物語だ。

    大地のトラウマ、自分の感情を抑えきれずに暴力をふるってしまうのではないか。それを母との関係において、歪んだ若しくは閉ざした心として表わしている。感情を押し殺した従順、その逆らわない気持がマザコンのようにも思える。この苦悩は映画「ある男」を連想してしまう。勿論 そのテーマと深刻度は異なるが、自分も父と同じように いつ暴力(映画は「殺人」)をふるうのか恐れ戦いている。その抗えない諦念のような気持と下宿にいる他の人々との会話が表面的過ぎるのが恨み。

    登場人物は、大地の他に 管理人の五十嵐、現在フリーターの志保、大学4年の佑、そして料理番の睦美。それぞれ色々な思いを抱いているようだが、それは日常に見られる他愛無いこと。この淡々とした日々の暮らし、その根底にあるのが<食>である。タイトルから孤食であれ共食であれ、命の源は食事である そんなことが描かれている。日常の それも等身大の暮らしは、演劇的には刺激と印象が弱い。

    物語は、大地の抱く潜在的な暴力への恐れ、一方 他の下宿人は何となく言い訳が上手くなってきた大人、その相容れない対比の面白さ。下宿という共同生活体の中で、どう馴染んで生活していくか、心を閉ざした大地と明け透けに言い合う下宿人、それでも食卓は囲む。ラストは、取り敢えず食事をして…そんな未来志向か?
    次回公演も楽しみにしております。

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    2024/12/29 19:37

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