隧道 公演情報 劇団ZERO-ICH「隧道」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    普通に楽しめた沖縄県民の青春群像劇。
    謳い文句「芝居の力で沖縄を変える」という強烈な思いよりは、まだ何者にもなっていない若者の焦燥や苦悩といった心情が前面に出ており、ありふれた若者像を描いたといった印象だ。むしろスタートラインに立ったと言ったところか。父親の30歳過ぎにもなって まだふらふらと演劇なんか、というリアルな台詞。

    保育園の時に東京から来て幼馴染みになった少女との魂(沖縄ではマブイ)探しといった面白味、その心の端となった会話があまり生かされない。沖縄県の問題/課題を点描しているが、もっと県人らしい鋭い深掘りを期待したのだが憾み。
    なお、演出で気になることが…。
    (上演時間2時間10分 休憩なし) 

    ネタバレBOX

    三面舞台…全体的に薄暗く 板(床)は黒色。入口の反対側が正面、通常の 客席側が上手、舞台側が下手になる。正面に白っぽい(押入)戸、上演前は 黒箱馬1つにパソコンが置かれている。シンプルな舞台装置だが、場景ごとに黒箱馬を持ち込み情景を描く。ただ三面舞台にする意味(効果)は何だったのか。押入れにあるTVモニターの映像、押入れ戸へ映写したタイトル、そして友人の位牌等は、両端の観客には見切れになったのではないか。自分は正面に座ったから観えたが、その視線には両端の観客が前屈み もしくは横へ身を乗り出すような姿勢が隣席人の迷惑に…。この劇場で 前に観た三面舞台は「ナイゲン(2022年版)」。

    物語は、沖縄県今帰仁村から上京した劇作家 サトシが 今一度演劇を続けていく意味を想い返す といった回想であり成長譚。毎日ダラダラと過ごしているサトシ、郷里の友人から住むだけで60万円というバイトを紹介される。今では闇バイトを思い浮かべ 失笑が漏れるが、実は高齢者が孤独死した事故物件。そこに幼馴染で亡くなったアキラが現れて…。幼い時の思い出が次々とよみがえり、北山高校卒業時に将来の夢を語る というか宣言する場面が肝。アキラは有名女優に、そしてサトシは劇作家になる と。

    アキラが 風呂や台所がない、狭い部屋の押入れから現れ サトシと語り出す。アキラは駐留米兵に強姦され暴行死しており、今いるのは幽霊(魂=マブイ)である。ちなみにアキラの衣裳は浮遊感ある白地、舞台美術と相まって鯨幕のような存在。そして説明にある これは夢か妄想か現実かといった混沌とした世界観へ誘われる。押入れがその世界への入口(隧道<トンネル>)である。アキラは米軍基地反対、基地での雇用問題や跡地の代替利用等を話し出すが、表層的で2人の会話も深耕しないのが惜しい。相反性が感じられる訳でもない。作・演出の平良太宣氏が沖縄県出身であれば、地元観点でもっと抉り出してほしいところ。勿論、大上段に構え「日米地位協定」を云々 などとは言わない。

    アキラは夢を叶えることなく非業の死、しかし それに対する怒りや悲しみが伝わらない。実際あった事件だけに胸が締め付けられる。が、なんとなく淡々と描き、受け入れてしまっている。その意味では沖縄が真に置かれている状況、その問題や課題が表面的に扱われているようで物足りない。社会的なこと、それを身近な個々人の問題を絡ませることによって 深刻さや現実味がリアルに表現出来るのではないか。敢えて、あまり暗く重くしないといった演出であろうか。

    公演では、沖縄民謡を楽器で奏で、歌い踊るといった郷土愛を感じさせる場面が多々ある。その日常の隣り合わせに危険が満ち満ちているといった恐怖と狂気を描くこと、それが「芝居の力で沖縄を変える」に繋がるのではないか。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2024/12/28 01:00

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