荒野に咲け 公演情報 劇団桟敷童子「荒野に咲け」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    面白い。
    或る事件や伝承的な出来事といった題材ではなく、身近な家族・親戚 いや人間の心に蠢く羨望や嫉妬といった思いを描く。それを家族崩壊と街の衰退を重ねるように紡いだ群像劇。本作は劇団創立25周年記念ということもあり、あえて劇団員のみの公演にしたと。

    この劇団の特長である仕掛けのある舞台装置、本作でも その迫力と印象付けといった効果は十分に発揮している。それが 新作公演とはなっているが、過去公演からの繋がりのようで 地続きの光景を思わせる。物語の中心人物 篠塚香苗役を大手忍さんが演じているから、なおさら その思いを強くした。話としては、ありふれた と言っては語弊があるかもしれないが、桟敷童子公演としては実にリアルだ。当日パンフに「オリジナルの物語であるが、モデルはある」と。ただ、話の肝になるであろう父親の行為、その動機なり理由の描き方が足りないような気がする。

    ちなみに 少しネタバレするが、タイトル「荒野に咲け」の「荒野」とは「この世」の意、まさに地に足をつけたような公演。社会(派)的なダイナミックさはないが、人それぞれの感情が弾け飛ぶ。観応え十分。
    (上演時間1時間55分 休憩なし) 12.20追記

    ネタバレBOX

    舞台美術は、両側に階段を設え 奥で渡り廊下の様に繋ぐ。その中間に 大きなヒマワリのモノクロ絵が天井から吊るされている。シンプルなシンメトリー。

    舞台は 九州 玄界灘近くの田舎町。かつては炭鉱で栄えた町であったが、今は人口が減少し鉄道は廃線、駅舎は郷土資料館になるなど すっかり衰退している。そこに機関車IKIRUが展示されている。往時を偲ばせる巨大な煙突が数本残っているだけ。この舞台、炭鉱三部作を連想し 地続きの今を描いているよう。巨大な煙突は炭鉱町のシンボル、そしてヒマワリ畑(色彩の違い、原色・モノクロ)や機関車(大きさの大・小)といった 往時と現在を比べた象徴的なもの。

    物語は、3姉妹が嫁いだ先の家族のそれぞれの様子、暮らしぶりを点描していく。長女 澄江は町で食堂(今は弁当屋)を営む古橋家へ嫁ぐ。町の衰退とともに経営は縮小したが子供たちを大学へ進学 卒業させた。また数人の従業員も雇ってそれなりの暮らしぶり。次女 孝子は、篠塚家へ嫁ぎ 貧しいながらも一家で登山やキャンプに行ったり平穏な暮らしぶり。息子が学校で苛められていたこともあり、無理やり進学校へ行かせようと。三女 勝代は離婚し、今(稲森姓)の夫と再婚したが、夫は働かず勝代がパートを掛け持ちして生計を支えている。夫の先妻の娘とは折り合いが悪い。3者三様の暮らしの断片を切り取り<家族とは?>を考えさせるよう。冒頭、孝子の娘 香苗が詐欺に騙され多額の借金を背負う。一家で夜逃げ同然のように町を出るが…。

    時は流れ、香苗の父は自殺(気が弱かった?)をし、母は壊れ荒れた生活をしていた。篠塚家はバラバラになり音信不通状態が何年も続いていた。3姉妹が嫁ぎ先で築いた生活、その家族の幸福度の比較や確執などが切ない。家族という他者との関りが 蟠りをもって描かれている。浮浪者同然で探し出された香苗は、古橋食堂で働き始め 自身のトラウマを克服しようとする。しかし複雑化されたトラウマ、町の閉塞感など、この環境に馴染めず また町を出て行こうとするが…。

    ラスト、産業廃棄と書かれた機関車IKIRUが、炭鉱最盛期に活躍した機関車DOROBANA51号に立ち向かうような。そこに「荒野」という「世の中」で生きていこうとする逞しさを感じる。自分が観てきた公演すべてについて、どんなことがあっても「生きる」といった根本が描かれており、それは劇団の一貫した思いのようだ。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2024/12/17 00:03

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