Whenever Wherever Festival 2012
Body Arts Laboratory
森下スタジオ(東京都)
2012/05/15 (火) ~ 2012/06/06 (水)公演終了
満足度★★★
『リレーコレオグラフ』鑑賞
4人の振付家が平山素子さんに振り付け、続けて踊られることによって、振付とは何かを考えさせるパフォーマンスでした。
誰がどのパートを振り付けたのか公表されていないので、もしかしたら間違っているかもしれませんが、井手茂太さんの振付したパートが他の3人の振付の前に踊られる構成でした。
冒頭の井手さんのパートはジャズの曲が流れる間ずっと椅子に座っているだけで、続く安藤朋子さんのパートは腰と左手首、左足首にドアに結び付けられたゴム紐を装着し、右手には同じくゴム紐でキャスター付きの丸椅子が繋がれた状態で引っ張られる力に反抗して壁から離れようとする作品でした。
再び冒頭で使われたジャズが流れ、今度はいかにも井手さんらしい腰の動きが特徴的なダイナミックでユーモアのあるダンスが踊られました。
次は(おそらく)和栗由紀夫さんの振付で、『牧神の午後への前奏曲』丸々1曲を踊る作品でした。人の形に見えない奇怪なフォルムを多用する中にニジンスキー版の有名なポーズが引用され、美と醜が表裏一体に感じられました。
再度、井手さんのパートがラストの部分以外は前回と同じように踊られ、最後は(おそらく)室伏鴻さんの振付で、最初から最後まで絶えず痙攣し続けるというハードコアな作品でした。前半は無音で、途中からデヴィッド・ボウイさんの『China Girl』が流れるのですが、曲調と動きのミスマッチ感が新鮮でした。
平山さんが自作では用いないようなムーブメントの振付を巧みに踊りこなしていて素晴らしかったです。舞踏的な痙攣も平山さんがするとテクニカルでスポーティーに見え、振付家の個性と共にダンサーの個性も浮かび上がっていたのが興味深かったです。
サブタイトルに『ファッションと身体』とあったのですが、衣服と身体の関係性を考えさせる要素はあまり感じられず残念でした。
Whenever Wherever Festival 2012
Body Arts Laboratory
森下スタジオ(東京都)
2012/05/15 (火) ~ 2012/06/06 (水)公演終了
満足度★★
『映画と身体』鑑賞
高嶋晋一さんとイェレナ・グラズマンさんによるレクチャーの体裁を取ったパフォーマンスと、東野祥子さんのソロダンスの2部構成で、難解で表現したいことが分かりませんでしたが、かといって退屈することはなく、集中力を切らさずに観ることが出来る作品でした。
前半は1つの壁側に向けられた客席と壁の間のわずかなスペースで、スクリーンに画像を表示しながら高嶋さんが主体や情報といった言語哲学的なトピックを日本語で語り、グラズマンさんはエイゼンシュタインのモンタージュ技法やカメラのフレーミング等の映画にまつわる話題を英語で語り、途中では高嶋さんが入り口のドアを何十回も出入りするシークエンスが続き、終盤はそれまで落ち着いて語っていたグラズマンさんが目隠しをして客席に乱入し絡みながら観客に質問をして回る構成でした。
ただでさえ英語はあまり分からないのに2人が同時に別々のことを話すので、興味深そうな内容だったのが理解出来ず、残念でした。
後半は客席を反対向きにレイアウトし直して、客席の背後のスクリーンに映画『ツィゴイネルワイゼン』や『どですかでん』の数分間の抜粋が流されるのを東野さんは直接見て、観客は正面の鏡に写った映像を見て、再度同じ部分が音声だけ流れるのに合わせて東野さんが踊るというシークエンスが4回繰り返される構成でした。
見る/見られるの関係性や記憶といったテーマを扱っているのだと感じましたが、それをそのまま見せているだけでアーティスティックな表現には達していないように思いました。
東野さんのエッジの効いたダンスは見応えがありました。
朗読活劇 レチタ・カルダ「ジャンヌ・ダルク」
朝日新聞社
上野恩賜公園・不忍池水上音楽堂(東京都)
2012/06/03 (日) ~ 2012/06/03 (日)公演終了
満足度★★
屋外での生演奏付き朗読劇
新妻聖子さんの一人舞台で、朗読に演技や照明、生演奏を交えてジャンヌ・ダルクの生涯を語る作品でした。
いわゆるリーディング公演とは異なり、ちょっとした衣装替えがあったり、本を持たずに時には客席に降りてきて演じたりと芝居的な要素が強く、視覚的にも楽しめる作りになっていました。
新妻さんはジャンヌ以外の役の台詞も巧みに演じ分け、役に溺れない客観性が感じられる演技が良かったです。途中で歌う場面もあり、澄んだ歌声が美しかったです。2時間弱を1人で演じきる集中力が素晴らしかったです。
新妻さんの凛とした演技は良かったのですが、構成や演出(誰が担当したのかどこにも記載がなかったのが残念でした)が単調に感じられ、もう少しドラマ性があった方が良かったと思いました。
スパニッシュ・コレクションによる演奏は迫力も叙情性もあり素敵でしたが、BGM的に扱わればかりだったので、しっかり演奏を聴かせる時間がもっとあっても良いと思いました。
フランスの話、しかも他国との戦争が描かれている話なのに、冒頭にドイツの作曲家であるバッハの無伴奏チェロ組曲が演奏されたり、途中でアイルランド民謡のロンドンデリーの歌が歌われたのは違和感がありました。
Whenever Wherever Festival 2012
Body Arts Laboratory
森下スタジオ(東京都)
2012/05/15 (火) ~ 2012/06/06 (水)公演終了
満足度★★
『写真と身体』鑑賞
『Welcome to “The Moment”』と題された作品は「写真と身体」というテーマの下に作られていますが、写真は直接的には登場せず、瞬間を留めたものという概念として扱っていました。
高く積み重ねられた平台が点在し、床には進行方向を示す曲がりくねった1本道のラインが描かれた空間の中央で、英語とオランダ語(?)による2人の対話が続き、もう1人のダンサーは床のラインに沿って決められた動きを何度もスタート地点に戻りながら繰り返し、冒頭と最後だけ実験的な響きの音楽が流れるという構成でした。
終盤に流れた美術館の中を走り回る狐の映像は冒頭の音楽と床のラインに関連を持たせてあって、それぞれの繋がりが見えて来るのが心地良かったです。
2人が話す内容を通訳の人がリアルタイムで日本語に翻訳しタイピングしたものを壁面に投影するアイディアは「瞬間を捕える」というテーマと合致していて興味深かったのですが、スピードと精度が低くて、会話の内容がほとんど分からなかったのが残念でした。
西村未奈さんのしなやかなダンスが美しかったです。
Whenever Wherever Festival 2012
Body Arts Laboratory
森下スタジオ(東京都)
2012/05/15 (火) ~ 2012/06/06 (水)公演終了
満足度★★
『スタジオラボ』鑑賞
若手ダンサー2人によるそれぞれ30分程度の作品の公演で、異なる方法でどちらも言葉との関わりを意識した内容でした。
両作品ともコンセプトを追求するのに力を注ぎ過ぎていて、観客の興味を引き、楽しませる要素が弱く感じられました。
山田歩『モノフィン』
箱馬で囲われた3つのスペースそれぞれに上半身裸のダンサーがいて、お互い関係なく動き、中盤になって振付家がダンサーに鑑賞し、照明を消したり点けたりする構成でした。
アフタートークでの説明によると、ダンサー達は架空の動物を書いた図鑑の記述をリテラルに演じていて、囲われたエリアの周りを観客が自由に移動したり(実際には誰も移動していませんでした)、エリア毎にビデオカメラが設置してあったのは動物園をイメージしていたとのことでしたが、表現がそのまま過ぎて、そこからの発展を見せて欲しかったです。
唐鎌将仁『ディゾルブ』
寝室を模した設えの中で3人のダンサーが自分以外の人の日常の生活を語りながら服を着て行き、後方に段ボール箱を積み重ねて行く構成で、3人のアイデンティティーが融解していくような作品でした。
いわゆるダンスらしい動きはほとんどなく、喋っている台詞と、それとは関係ない動きをする身体との緊張感のある関係をテーマにしているのは分かるのですが、身体表現に強度が感じられず、言葉が勝ち過ぎている印象を受けました。高く積み重ねた段ボール箱が自壊する最後のシークエンスは面白い仕掛けでしたが、唐突に感じられました。
じゃじゃ馬馴らし
公益財団法人日本舞台芸術振興会
東京文化会館 大ホール(東京都)
2012/06/01 (金) ~ 2012/06/02 (土)公演終了
満足度★★★
ソリストが魅せるコミックバレエ
荒々しい女性を荒々しく扱って淑女にするという、シェイクスピアの喜劇をバレエ化した作品で、軽快な音楽に合わせたユーモラスな踊りが楽しかったです。
メインのキャタリーナとペトルーチオに関わるエピソード以外は省略や改変されている箇所が多く、ビアンカを巡っての変装や偽の父親をでっち上げる話も出てこないため、騙し合いによる面白さは薄れていましたが、原作よりも見通しが良くなっていました。
振付は基本的にクラシックバレエのスタイルですが、殴ったり蹴ったりする動作が含まれていたり、決めのポーズが羽交い締めだったりとコミカルで、終盤の2組のパ・ド・ドゥの優雅さが引き立っていました。
セットも衣装もブラウンを基調とした彩度の低い色合いで、派手な照明効果もなく、和やかな雰囲気でした。
キャタリーナを演じたスー・ジン・カンさんは荒々しい振る舞いと、その合間に見せるションボリした感じの対比がとても可愛らしく魅力的でした。
ペトルーチオを演じたフィリップ・バランキエヴィッチさんはワイルドな力強さがあり、圧倒的な迫力がありました。
群舞はズレが目立ち、あまり精密さは感じられませんでしたが、楽しげな雰囲気が伝わってきて良かったです。第1幕ラストで全員がドミノ倒しになり、そのままの状態でカーテンコールをしていたのがユーモラスでした。
新古典主義時代のストラヴィンスキーやプーランクのようなスタイルでスカルラッティの旋律をアレンジした音楽はキビキビとしたリズム感が心地良かったのですが、前半はオーケストラの演奏が少々ギクシャクしていたのが残念でした。
誰か、月光 恐怖・ハト男
劇団東京乾電池
本多劇場(東京都)
2012/05/26 (土) ~ 2012/06/03 (日)公演終了
満足度★★★
癖になる肩透かし感
6階建ての雑居ビルの5階に出入りする男性14人の様子が奇妙なテイストで描かれ、ほとんどストーリー性もなく判然としない箇所がたくさんありながらも不思議な魅力のある作品でした。
暗転して明るくなる時に客席まで明るくなる冒頭から妙な引っ掛かりを感じさせ、素人っぽくも見える少々投げやり感のある台詞回しで淡々と会話が連なり、後の展開を予感させる様々なエピソードがそのまま放置されたりしながら、登場人物達の特に強い意志があるわけでもない心情がシュールに描かれていました。
深読みすればメッセージがありそうだと思わせつつ、実はただのナンセンスとも感じさせる雰囲気が独特でした。
ドアの付いた小さな壁が両袖に立ち、下手側にエレベーター、上手側にはガラクタの山があるのみで、舞台の裏側がそのまま見えているという、作り込んだセットを用いる公演が多い本多劇場らしからぬ質素な設らえや、舞台上で素で吹き出してしまう役者等、舞台上を自立した虚構の世界として完結させない要素が絶妙なバランスで存在しているのが興味深かったです。
作品の内容に対して舞台、客席とも大き過ぎて求心力が弱まって感じられたのが残念でした。
edit
shelf
atelier SENTIO(東京都)
2012/05/24 (木) ~ 2012/05/27 (日)公演終了
満足度★★★
存在感のある言葉と体
様々な文章の引用で構成された台詞を語るパフォーマンスで、役を演じて台詞の積み重ねで展開する一般的な演劇とは異なる作品でした。
開場して中に入ると金色に鈍く輝く衣装を身に付けた7人の役者達が既に立っていて、開演までの20分間静止したままで、始まるとまずアーシュラ・K・ル=グウィンさんによる『左ききの卒業式祝辞』が語られ、「男女の言葉」というテーマがその後に続く『アンティゴネ』で「公私の言葉」という形で受け継がれ、権力や騙す/騙される責任について、社会システムの問題点についてのテクストが時折声を重ねつつも基本的にモノローグとして語られました。
終盤は再度『アンティゴネ』の同じ場面が演じられ、今までずっと薄暗かった照明が明るくなり、冒頭と同じ立ち位置に戻って再び『卒業式祝辞』が語られ、全員が床にしゃがみ込んで暗くなって終了する、シンメトリックな構成でした。
丁寧な語りと緊張感のある緩慢な動きが、無音あるいはアンビエント的な音楽の中で強い存在感を打ち出していて、ドラマ性がないながらも美しく密度の高い65分間でした。
『アンティゴネ』のパートでの王を演じていた人の演技がオーバーで戯画的に見えてしまっていたのが残念でした。
鴎座クレンズドプロジェクト「洗い清められ」
鴎座
SPACE EDGE(東京都)
2012/05/26 (土) ~ 2012/05/27 (日)公演終了
満足度★★★
鮮烈な痛々しさ
性と暴力を通して現代社会の状況を描いた戯曲の3年越しの上演プロジェクトで、前回のショーケース公演の時よりストイックで辛口な演出になっていてました。
アクリルの波板の壁を通して自然光が入ってくる倉庫あるいは工場的な無骨な空間の床に横長の長方形に土が敷き詰められた上に全出演者が出ずっぱりで、出番の無いシーンではそのまま静止し続ける演出で、緊張感がありました。ダンスや出演者によって歌われる音楽も鋭さがあり、印象的でした。
半裸になったり、セックスの様子をダンスで描いたり、土の上に投げられたチョコレートを延々と食べ続けたり、手足を拘束されたりと負荷の掛った役者の演技から、殺伐とした痛々しい雰囲気が伝わって来ました。
前回の公演では物語がほとんど分からなかったので今回は戯曲を読んで予習したのですが、演出によって分かりにくくなっているのではなく、テクスト自体が断片的で謎めいた展開だということが分かったので、演じている内容が受け入れ易かったです。
戯曲を読んでいない人が観ると、どういう場面なのか把握しにくい演出だったと思います。
何度か出てくる恋人に対しての「baby」という呼び掛けをそのまま「ベイビー」と訳していましたが、その単語だけが浮いて聞こえました。といっても他に良い案が思い付かないのですが…。
線路のすぐ傍なので通過する電車の音で台詞が聞き取りにくくなることがあって残念でした。それは仕方ないとしても、台詞と合唱やBGMとのバランスも良くなかったと思いました。
幸せはいつも小さくて東京はそれよりも大きい
アマヤドリ
STスポット(神奈川県)
2012/05/24 (木) ~ 2012/05/28 (月)公演終了
満足度★★★★
爽やかに描かれた狂気と孤独
監禁をモチーフに人の孤独さを描いていましたが、陰鬱な雰囲気にはならず、笑える場面も多い、スピード感と澄んだ空気感のある演出で、爽やかな印象の残る作品でした。
3人がルームシェアする一戸建ての家に、監禁から逃げ出してきたという女性をかくまうことになり、保護しているはずが次第に監禁状態へと変わって行き、シェアメイトの3人の関係もバラバラになってしまう様が、回想劇の形式を用いて客観的な視点を保つ構成によって描かれていました。
ダンスとは異なる独特の身体表現や、リズミカルな台詞の掛け合い等、舞台芸術ならではの表現も効果的に用いられていて、テンポの緩急が心地良かったです。
リアリズムではない手法が多く用いられていても、1人1役や直線的な時間の流れ等、ドラマにおける基礎的な部分はオーソドックスな表現だったので、物語の構造が安定していて分かり易かったです。
以前と現在の監禁する男が非リアルな状態で出会うシーンで、机の脚同士を合わせて重ねて置いて、2人の鏡合わせ的な関係を視覚化していたのが印象的でした。
以前に監禁していた男がゴルフクラブを持って威嚇するように振る舞っていたのに違和感を覚えました。気弱そうな主人公との表裏一体感を強調するために敢えてコントラストをつけたのかもしれませんが、ステレオタイプ的過ぎるように感じました。
どうしても地味
箱庭円舞曲
駅前劇場(東京都)
2012/05/16 (水) ~ 2012/05/27 (日)公演終了
満足度★★★★
地味に技巧的
ある地方の町の人達を様々な演出的技巧を用いながらオーソドックスなストレートプレイとしてまとめあげた、クオリティーの高い作品でした。
煙草が法律で禁止され、中国と国交が断絶した近未来(?)、純国産と謳った線香花火で一山当てた男とその周囲の人々や寺の住職の思いのすれ違いや伝わらなさが皮肉的に描かれた物語で、ネガティブでありながらポジティブさもある独特の雰囲気が魅力的でした。
作品全体としては面白可笑しい類の話ではないのですが、当事者は真面目でも外から見ると滑稽な場面が多く、笑えました。
畳敷きの一間が、照明と人物の立ち位置の変化によって様々な場所に瞬時に切り替わったり、日時が飛んだりする、シーンの繋ぎ方の演出が素晴らしく、そこに登場人物には分からないメタ的なネタが盛り込まれていたのも楽しかったです。
暗転しないでもスムーズに場面転換出来る技術がありながらも敢えてたっぷりと暗転の時間を取っていたのも流れにメリハリが出ていて効果的でした。
ワンシーンを除いては暗転の時にしかBGMが流れない、役者の演技力を信頼した演出が快かったです。実際、台詞のやりとりだけで十分に見応えがあり、特に気まずい雰囲気の描き方が絶妙でした。
前作に比べてマイルドで分かり易くなった分、素直に楽しめる作品になっていましたが、前作のような一瞬観客を置いてけぼりにするような魅力的な不可解さも薄まっていたのが残念でした。
なまず
metro
神楽坂die pratze(ディ・プラッツ)(東京都)
2012/05/23 (水) ~ 2012/05/27 (日)公演終了
満足度★★
アングラ的ブラックコメディー
立ち入り禁止区域になったままの数十年後の東北を舞台にした物語で、政治やマスコミや流されやすい人々を皮肉った、不謹慎でブラックユーモアのある作品でした。
温暖化で熱帯のジャングルのようになった立ち入り禁止区域内に作られた王国に飛行機が墜落して唯一生き残った男が、王国の奇妙な人達に出会う話で、道化的存在を通じて社会の変な所を皮肉るというオーソドックスな風刺劇の体裁で3.11以降の日本の姿が描かれていました。
宝塚や歌舞伎の様式のパロディーがあったりするものの、全体的にはアングラ演劇の雰囲気が感じられ、少々レトロな印象を受けました。内容に比べて2時間の上演時間が長過ぎるように思いました。
嫌味ったらしいオバサンのキャラクターや露出度の高いセクシーな衣装や下品な台詞等、月船さららさんの宝塚出身とは思えないの弾けっぷりは魅力的だったのですが、色々な面を見せようとして作品的に必要のないことまで盛り込み過ぎているように感じました。
エキセントリックな国王を演じた斎藤歩さんの怪演が楽しかったです。
百年の秘密
ナイロン100℃
本多劇場(東京都)
2012/04/22 (日) ~ 2012/05/20 (日)公演終了
満足度★★★★
役者と映像が素晴らしい
秘密を共有する2人の女性の幼少時から死後、さらにそれぞれの孫の代までが時代を行ったり来たりしながら描かれた時間的スケールの大きな物語でありながら、空間的には家の中と大きな木が立つ庭だけと限られていて、プライベートな出来事しか起こらない、密やかな雰囲気の作品でした。
一気に何十年も先に飛んだり戻ったりするのですが、狂言回しが語る話という体裁になっていて、時代や状況が説明されるので、分かりやすかったです。同一のセットで室内と室外のどちらのシーンも演じられ、時には2つの空間がオーバーラップするシーンもあるのですが、人物の立ち位置や動きだけで明確になっていました。
役者の素晴らしい演技や、時代を変えて、あるいは人物を変えて同じようなシーンや台詞が現れる巧みな構成は楽しめましたが、ケラさんにしては毒気があまり感じられず、ナイロンではなく、シアターコクーンでのプロデュース公演の時のような感触がありました。
観客の感情を強引に持って行こうとしない、控え目な音楽の使い方が心地良かったです。
冒頭のキャスト紹介の映像はプロジェクションマッピングの手法でセットが動いているように見せたり、役者達が動かす板に映像を当てて、その中で人が動いているように見せたり等、圧巻のクオリティーでした。作品内でも人影が動いたり、舞台上が闇に侵食されて行ったりと映像がとても効果的に使われていました。
うろ覚えで、もしかしたら誰かの妄想か幻想の中のシーンだったのかもしれませんが、木が喋ったり映像を重ねてモヤモヤと蠢いたりする場面があり、違和感を覚えました。木はただ超然と人々の営みを見ているというだけの方が良いと思いました。
海辺のカフカ
ホリプロ
彩の国さいたま芸術劇場 大ホール(埼玉県)
2012/05/03 (木) ~ 2012/05/20 (日)公演終了
満足度★★★
意外とアングラ的
村上春樹さんの小説を海外の人が戯曲化したものを翻訳して上演するという少々変わった経緯による公演で、休憩込みで3時間40分程と長い作品でしたが退屈さを感じさせない魅力がありました。
15才の少年と老人がそれぞれの意図を持って高松へ行く物語にオイディプスの物語が重ね合わせられ、さらに哲学書からの引用が絡み、不思議な浮遊感と美しさがありました。原作の小説を読んでないので、元々なのか脚色によってなのかは分かりませんが、端折っているところと引き延ばしているところのバランスが悪く感じられました。
様々なシーンのセットがそれぞれ巨大なアクリルのボックスに納められていて、黒衣がそれらがの配置を変えて行き、次々に変わるシーンをスムーズに展開していたのが見事でした。作品のキーワードとなる「迷宮」がボックスの配置によって視覚化されていたのも良かったです。
美術はスタイリッシュでしたが、エログロ表現や猥雑さ、水の演出が盛り込まれていて、いかにも蜷川さん的な世界が立ち上がっていました。
言葉を話す猫や犬をリアルな着ぐるみを着て表現していたのが浮いて見えました。抽象化や見立て等、舞台ならではの手法を使って表現して欲しかったです。
平成中村座 五月大歌舞伎
松竹
隅田公園内 特設会場(東京都)
2012/05/03 (木) ~ 2012/05/27 (日)公演終了
満足度★★★
夜の部鑑賞
隅田公園の仮設劇場での最終公演で、大掛りな仕掛けや大勢による立ち回り等の派手な演出を用いず、役者の芝居や踊りをじっくりと見せる3本立てでした。
『毛抜』
お家騒動の物語ですが、終盤以外はユーモラスな雰囲気があり、ゆったりとした印象のある作品でした。橋之助さん演じる粂寺弾正の悪戯っぽい感じのキャラクターが魅力的でした。亀蔵さんの低く響く声が悪役に合っていて魅力的でした。
『志賀山三番叟』
勘九郎さんと鶴松さんによる舞踊で、舞台手前に並べられた蝋燭と両袖に立てられた蝋燭の揺らめく灯りの中で舞う姿が美しかったです。力強さのある勘九郎さんと、若々しい艶やかさのある鶴松さんの対比が印象に残りました。
『梅雨小袖昔八丈(髪結新三)』
女を連れ去った男の所に連れ帰そうとやってくる人達とのやりとりを描いた物語で、勘三郎さんの憎めない悪党っぷりが楽しかったです。全体にコミカルな雰囲気がある作品で、特に勘三郎さんと橋之助さんのお金を巡る馬鹿馬鹿しくてしつこいやりとりがコントのようでおかしかったです。最後の短い立ち回りは様式美があって見応えがありました。
五月花形歌舞伎
松竹
新橋演舞場(東京都)
2012/05/01 (火) ~ 2012/05/25 (金)公演終了
満足度★★★
『椿説弓張月』鑑賞
三島由紀夫が書き、初演時は演出も手掛けた歌舞伎作品で、想像していたよりもエンターテインメント性に富んでいて、予習せずに観たため物語は良く分からない箇所もありましたが、楽しめる内容でした。
上の巻は前半は義太夫で進行する物語で様式美が際立っていました。後半は立ち回りで、敵にやられ自害した息子の介錯をするのに悩む父の葛藤を描いていたりと、歌舞伎の色々な魅力が表現されていました。
中の巻は客席の照明がほぼ完全に落とされた暗い中で為朝の見る夢が幻想的に描かれた後に、肥後の国で昔の妻と偶然出会い、船に乗って旅立つ物語で、嵐に巻き込まれる場面では、セリや回り舞台、巨大な大道具・小道具を用いたスペクタクルな演出でエキサイティングでした。
下の巻は琉球が舞台で、子役の可愛らしい演技が場を和ませ、家族の悲しい再会が描かれていました。最後の白馬で颯爽と立ち去る為朝の姿が凛々しかったです。
物語の骨格は複雑ではないのですが、必要以上に長く感じられる場面が多く、テンポが悪く分かりにくくなっていると思いました。附打の入るタイミングが微妙に嵌っていなくて、見得を切る時や立ち回りの時に、もどかしさを感じました。
裏切り者の男が腰元達にリンチのように痛めつけられる場面や、海で流された夫婦が自害する場面では歌舞伎らしからぬリアルな血糊を使っていておぞましかったのですが、三島由紀夫が様式化された歌舞伎の表現において血の表現にこだわったのが想像出来て、興味深かったです。
GO Yamamoto photograph exhibition "rough, bundle, light..." パフォーマンス公演
大橋可也&ダンサーズ
BAR 70 MANTAS(東京都)
2012/05/13 (日) ~ 2012/05/13 (日)公演終了
満足度★★★
極小空間にて
渋谷の外れの地下にある小さなバーで開催されている、故・大野一雄や大橋可也&ダンサーズ等の舞台写真を撮っている山本剛さんの展示に合わせてのパフォーマンスで、30分弱と短いながらも濃厚な作品でした。
バーカウンターと写真の展示されている背後の壁の間の幅4mx奥行き1m程度の狭いスペースに客十数名と花柄のワンピースを来た女性ダンサー3人がいる状態で、ダンサーはほとんど壁に張り付いて左右に移動しながら小さく細やかに踊り、鬱屈した感情とエロスを感じました。
後半、バーカウンター横の身長程度の高さの収納スペースに3人が入り窮屈そうにしているのが、心理的圧迫を空間との関係で表現していて印象的でした。その後、ダンサー達は店のドアから外に出て、地上に続く階段で踊り、その姿をビデオカメラで撮って収納スペースの奥の壁にプロジェクターで投影し、目の前で踊っていたダンサー達が虚構の存在であったかのような不思議な印象が残りました。自分達が撮られた写真の前で踊る姿がまた撮られているという入れ子状の関係が興味深かったです。
ソプラノサックスを直接吹かずにエフェクターやマイク、スピーカーと組み合わせてハウリング制御装置として用いた舩橋陽さんの演奏も緊張感があって良かったです。
トニーと呼んで
Baobab
ザムザ阿佐谷(東京都)
2012/05/10 (木) ~ 2012/05/13 (日)公演終了
満足度★★★
切実な思いをエネルギッシュに踊る
11人のダンサーが台詞を交えながら所狭しと踊り、自己の存在を認めて欲しいと訴え掛けるようなエネルギーに溢れた作品でした。
真っ暗な状態から照明が点くと客席の直ぐ前に横一列に並んだダンサー達が倒れ込み、奥の壁の前に並んだダンサー達は静止したままという冒頭がインパクトがあり格好良かったです。その後もダンスミュージックに乗せたダイナミックでキレの良いダンスが続き、バラバラに踊っていたのがユニゾンになる瞬間が気持良かったです。振付は良いのですが、ダンサーの動くタイミングや静止時のポーズが揃っていないのが残念でした。
台詞は物語を紡ぐというよりかは声を出すことによるダンサーのテンションの変化を求めて使われているみたいでしたが、ダンスに対して台詞が押し付けがましく感じられ、もっと台詞は少なくて良いと思いました。
客席の1列目をアクティングエリアとして用いていて、普段あまり見ることのない、高い手前と低い奥という空間的対比が面白い効果をあげていました。舞台の下手と奥の床が赤い帯状になっている部分や、ラストで出てきた白い服を縫い合わせたのぼり状のオブジェはもっと明確に作品の内容とリンクしていた方が良いと思いました。
荒削りに感じる箇所も多かったのですが、ムーブメントの組み立て方や全体の構成に新鮮な魅力があり、今後が楽しみに思いました。当日パンフレットに「次回公演はこんな作品にはなりません」と書いてあったのも気になります。
ダンスの器
NPO法人らふと
RAFT(東京都)
2012/05/07 (月) ~ 2012/05/27 (日)公演終了
満足度★★
すこやかクラブ鑑賞
食べ物をモチーフにした短編オムニバス的な構成による、キュートでコミカルな雰囲気の中に少しエロティシズムとホラーの要素が感じられる作品でした。
それぞれのパートにタイトルが付けられていて、料理番組に他の要素がコラージュされていく「フランスパン」、豚とコックの攻防を描いた「ブヒバラ」といった、ダンスというよりかはナンセンスな寸劇が続き、後半になるとベジャール版『ボレロ』のパロディーや、しっかりと踊るデュオがあり、ダンス作品らしいテイストも感じられました。
周りの観客は良く笑っていましたが、子供っぽさを強調し過ぎているように思え、個人的にはあまり笑えませんでした。
能、狂言、歌舞伎、雅楽といった伝統芸能の真似をして観客の笑いを得ていましたが、パロディーにしてもあまりに表層的な扱い方で、残念な出来でした。
客席を通常と逆向きに配置し、エントランスの窓越しの景色を取り込んでいたのがシュールな感じを演出していて楽しかったです。
若い女性達が可愛らしく、あるいはバカバカしく振る舞う姿は魅力的でしたが、純粋なダンス表現をもっと見せて欲しかったです。
ロミオとジュリエットのハムレット
る・ひまわり
博品館劇場(東京都)
2012/05/08 (火) ~ 2012/05/13 (日)公演終了
満足度★★★
シェイクスピア×シェイクスピア
シェイクスピア作品の中でも特に有名な『ロミオとジュリエット』と『ハムレット』を、笑いの要素をたくさん盛り込みながらドッキングし、1本で2度美味しい作品でした。
読書感想文の課題図書として『ハムレット』を読むロミオが、敵対する貴族の娘であるジュリエットにその物語をうろ覚えながらに語るという話で、想像していたより原作に則っていました。
初めは別々だった2つの話が同時進行するシーンが何度かあり、巧みな重ね合わせ方が興味深かったです。両作品ともメインの登場人物達が死んで終わる話ですが、希望を感じさせる短いエピローグがあって爽やかな後味を感じました。
基本的なプロットは良かったのですが、原作とあまり関係ないネタを引っ張って笑いを取ろうとすることが多いのが残念でした。笑いを少なめにして、ベテランの役者達で演じたら面白くなりそうだと思いました。
中央に1段高いステージがあり、その両袖に可動式の大きな壁という舞台美術が中途半端な印象で、もっと豪華に出来ないのなら、逆にミニマルにした方が見栄えが良いと思いました。
また、やたらと壁を動かすのは効果を感じませんでした。