満足度★★★
『椿説弓張月』鑑賞
三島由紀夫が書き、初演時は演出も手掛けた歌舞伎作品で、想像していたよりもエンターテインメント性に富んでいて、予習せずに観たため物語は良く分からない箇所もありましたが、楽しめる内容でした。
上の巻は前半は義太夫で進行する物語で様式美が際立っていました。後半は立ち回りで、敵にやられ自害した息子の介錯をするのに悩む父の葛藤を描いていたりと、歌舞伎の色々な魅力が表現されていました。
中の巻は客席の照明がほぼ完全に落とされた暗い中で為朝の見る夢が幻想的に描かれた後に、肥後の国で昔の妻と偶然出会い、船に乗って旅立つ物語で、嵐に巻き込まれる場面では、セリや回り舞台、巨大な大道具・小道具を用いたスペクタクルな演出でエキサイティングでした。
下の巻は琉球が舞台で、子役の可愛らしい演技が場を和ませ、家族の悲しい再会が描かれていました。最後の白馬で颯爽と立ち去る為朝の姿が凛々しかったです。
物語の骨格は複雑ではないのですが、必要以上に長く感じられる場面が多く、テンポが悪く分かりにくくなっていると思いました。附打の入るタイミングが微妙に嵌っていなくて、見得を切る時や立ち回りの時に、もどかしさを感じました。
裏切り者の男が腰元達にリンチのように痛めつけられる場面や、海で流された夫婦が自害する場面では歌舞伎らしからぬリアルな血糊を使っていておぞましかったのですが、三島由紀夫が様式化された歌舞伎の表現において血の表現にこだわったのが想像出来て、興味深かったです。