爪の灯
演劇集団円
シアターX(東京都)
2017/05/19 (金) ~ 2017/05/28 (日)公演終了
満足度★★★★
地方在住の作家の誠実な小品で、好感を持って持ってみた。この女性作家は確か神戸の小劇場のリーダーで90年代後半には東京でも公演を打ったと記憶している。その演劇少女が結婚して岡山でこういう芝居をコツコツ書いているかと思うと、ある種の感動がある。時に地方(と言っても過疎に近い)に行くとこういう生活があるだろうな、と想像させられることは多い。だからどうだ、と言うのは都会人の驕りだろう。円も、新劇稀の美少女だった高林由紀子、嘱望された青年・大谷朗が中老の役で出ていて彼らにもある種の感慨がある。精一杯真面目に人生と取り組んでいる、と言う芝居と妙にダブるのである。芝居の中身は置いておいて、という最近稀な観劇体験だった。
クヒオ大佐の妻
ヴィレッヂ
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2017/05/19 (金) ~ 2017/06/11 (日)公演終了
満足度★★★
作者の吉田大八がシアターガイドで言っているように「こんな面白い話をどうして誰もやらないんだ!」と言う実話。外人パイロットをよそおった稀代の結婚詐欺師の話である。誰もが「嘘だろう!」というはなしにコロコロと女は騙される。だが、現実離れしたシュールな実話に落とし穴がある。やってみると、作者や宮沢りえ、川面千晶の大奮闘にもかかわらず、少しは笑えるが、本質的にホラの面白さがない。最後に国旗が出てきてはなににかいわんや、である。作者も書き始めて少し焦ったんじゃないかな。後半ことに乱れた。しかし、前の本谷有紀子の「ぬるい毒」は悪くなかった。今回は焦ってひねりすぎたか、肝心の曲球のセリフが耳に届かない
パレード
ホリプロ
東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)
2017/05/18 (木) ~ 2017/06/04 (日)公演終了
満足度★★★★★
100年前のアメリカの南部の冤罪事件を素材にしたミュージカル。と聞いただけで、今どきなんで? と思ったものだが、これがなかなか。最近のロックの犯罪ミュージカルではなく、歌詞に曲がついている(笑)正当なミュージカルスタッフの座組みがよく、ここの所、瞠目するミュージカルがなかった中では出色の出来だ。まず、キャスト。公共劇場との提携で充実している。岡本健一など役不足だろうが、やはりここに岡本がいるのがいい。流石、、齢を感じさせない石丸、堀内。さらにミュージカルを構成する各スタッフの力量をうまくまとめた。大木一本の裸舞台だがここに五色の雪を降らせる趣向は秀逸。ホリゾントの色もたまに変わるのが効果的、部分で使った斜めの照明もいい。これで舞台転換に時間がかからず、テンポもリズムも出て音楽が生きた。衣裳も少女の衣装で一本勝負。オケも台詞との絡みが多いのに、見事なものだ。コーラスの振り付けも無理していないところがいい。すべてをまとめきった新劇団出身の森新太郎に拍手。これで既成の、四季,東宝、ホリプロ、松竹いがいの新しいミュージカルの舞台を楽しめるだろう(これはホリプロも噛んでいるが、これで森の使い方もうまくなるだろう)
企画としては大衆迎合の最近の世相への時宜を得たもの、と言うことだろうが、それは少し買い被りで、今はアメリカでもやっていない旧作をよく掘り出して夫婦愛のミュージカルにして面白く仕上げたことを評価すべきだろう。
天の敵
イキウメ
東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)
2017/05/16 (火) ~ 2017/06/04 (日)公演終了
満足度★★★★★
2時間十五分。奇想天外の話なのに、リアリティもあって飽きない。内容は、すべて、ネタバレになりそうなので書けないので、総評になるが、いつも通り、作者の論理の展開が面白い。非常にうまく最近の健康ブームを取り上げていてそこもうまい。この劇団の俳優も随分うまくなった。村岡もうまくハマって浮いていない。イキウメ、チョコレートケーキ、モダンスイマーズなどの俳優が、ひとつ前のケラ、野田、松尾、三谷の舞台でおなじみだった俳優と対抗できるようになっているのは大いに頼もしい。彼らには「現代」が生きている。スター的な新感線の役者も必要だが、いい舞台を支えるのはこういう何でもできる俳優陣だ。少し辛口を言えば、前川はこういうものは自分の劇団でもう軽々と書けるしボロも出さないのだから、次の大劇場プロデュース作品「プレイヤー」はぜひ大成功してほしい。観客も先に上げた作者に次ぐ大劇場を背負える作者を待望しているのだから。
十二人の怒れる男たち
俳優座劇場
俳優座劇場(東京都)
2017/05/17 (水) ~ 2017/05/21 (日)公演終了
満足度★★★★
テレビに始まり映画にもなった裁判劇の演劇版。テレビはナマ時代とあって、見ることはできないが、映画から想像する限り、この作品は書かれてからほぼ60年メディアによってそれほど変わっていないようだ。それでも上演が続くのは、社会劇としては珍しい。古典的傑作と言われるゆえんであろう。しかし、この作品は陪審員室一室の中に現在の民主主義社会の様々な問題を、縮図化したようなところがあり、時代の焦点によって、作る側も見る側も変わってくる。例えば、冤罪事件が多かった前世紀中葉なら裁判制度への批判が注目されただろうが、今は、こういう制度しかない現代社会に生きる市民の不安が焦点になる。
この公苑は、昔の新劇各劇団出身者によるプロデュース公演で、良くも悪くもその特徴が出た。いい点を挙げれば、台詞がよく聞こえる事。(劇場のせいもあるが)しかし、演技となるとこれはいささかでも今の観客に訴えようとしているならかつての新劇の惰性に頼っていると言われても仕方がない。今生きている人間の息吹がまるで感じられず、外国人のフリによる吹き替え演劇のようだ。それでも原作はよく出来ているので、昔の演劇として楽しめるが、この作品のキモである現代にも通じる市民生活のルールに潜む問題は全然伝わってこない。今上演するなら、そこだろう。
大劇団であった俳優座が、こういう古典的テキストを取り上げて再演するのは意味のある面白い企画と思うが、テキストをかつての再現に終わらせては折角の努力もむなしいのではないか。
60'sエレジー
劇団チョコレートケーキ
サンモールスタジオ(東京都)
2017/05/03 (水) ~ 2017/05/21 (日)公演終了
満足度★★★★★
快作。今年前半の演劇では白眉だろう。ほめる人は多いだろうから少し視点を変えて。
1)方言指導(ダイアローグコーチ?)がよく俳優と共に頑張った。最近の小劇場の作者は台詞の言い方にはあまり頓着しないが、それは舞台のリアリティの基本である。佐藤が現れ最初のセリフを言った瞬間、舞台にリアリティが生まれた。家族兄弟の会話、従業員との会話は、いささか同時代を生き東京を知っている私はもう少し頑張れと言いたいが、ここまでやった青年座の女優さん?(文芸部?)に金賞だ。
2)演出が狭い舞台をよくさばいた。出入りなどこれしかない平面なのに立体的に見える。日澤演出は今度は銀河をやるようだが、大きな劇場でも、また少し大衆的なテイストの作品でも挑戦してほしい。ミュージカルをやるなら、ダンスに新しい工夫を切望する。美術も悪くはないが、小道具などはもう少し考えてほしい。
3)一見、三丁目の夕日のように見えるが、ぜーんぜーん違う。私は同時代に働き出したが、オリンピックそのものには世間はそれほど萌えなかった。なにかうすら寒い感じがあって、そこもこの芝居は人情もからめてうまくとらえていたと思う。
4)俳優もよく頑張っていて好演だが、華がない。一度、この芝居を三越劇場あたりで、西尾佐藤の他は松竹仕込でやってみるといい、というのは冗談のようだが、この芝居は、私の世代が久保田万太郎の「大寺学校」を見るような風俗劇の古典になる素地があるが、そういうところをくぐれれば、ということだ。。
空と雲とバラバラの奥さま
クロムモリブデン
吉祥寺シアター(東京都)
2017/04/20 (木) ~ 2017/04/30 (日)公演終了
満足度★★★★
独特のカラーのある劇団だ。かつて、赤坂で見たことがる。ファンのような熱心な観客ではないが、ユニークな芝居の論理が面白かった。今回もそこは変わっていなくて、家族をバラバラにしてみせる。論理の展開が笑えるが、さらにその先にある世界がよくわからない。観客の腑に落ちない。かつて見た作品ではそこはうまくいていたようにも思うのだが。音楽やセットはよく出来ているし、舞台の裁きもシャレていて泥臭くない。関西の劇団と思っていたがいつのまにか東京の劇団になっている。プロでユース公園にかき回されている現状では劇団のカラーを維持するだけでも難しいのによくやっている。
罠々
悪い芝居
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2017/04/18 (火) ~ 2017/04/23 (日)公演終了
満足度★★★★
関西の劇団らしい世俗性とツッパリがあって、東京の劇団にはない元気がある。しかし、内容は80年代演劇ではやった自分探しだ。17年前が強調されるのは世紀の変わり目と言うことだろうが、若い人たちにとってはその後の20年は確かに閉塞状況に感じられたのだろう。テレビ番組にいいようにされた芸人コンビとか、男女関係、都市論などがちりばめられて舞台は進むが内容に新味がないので、ダンス風の演出、映像の工夫、白の衣装などで引っ張っていこうとする。それに飽きたころには終わるので、見ている間は確かに面白く見られたが、もっとフレシュな現代の青春ものが観たい。
フェードル
パソナグループ
Bunkamuraシアターコクーン(東京都)
2017/04/08 (土) ~ 2017/04/30 (日)公演終了
満足度★★★★
フランスの古典演劇として名高いが、あまり上演されない。いい機会と思って見に行ったらこれがフランス演劇らしいセリフを立てた本格上演。演出の栗山さんはこのジャンルよくご承知のようで、見事に押し切っている。フランス語だったらもっとリズム感もあるのだろうが翻訳しているので言葉の音で動かされることがないのが残念。それは勧進帳をフランス語で向こうで見せるようなものだから仕方がない。変な日本現代化よりはいいが、シェイクスピアがいじりやすいのに比べるとやはり硬いというべきか。
紳士のための愛と殺人の手引き
東宝
日生劇場(東京都)
2017/04/08 (土) ~ 2017/04/30 (日)公演終了
満足度★★★★
久しぶりにアメリカのミュージカルらしい能天気な娯楽作を見た。この作品が一昨年のトニー賞ベストミュジカルということは、きっと、アメリカでも犯罪がらみや殺人絡みの深刻な暗いロック音楽の告発型ミュージカルには観客もうんざりしていたのだろう。
欧州の元貴族が出てくるのも、相続問題で大騒ぎになるのも、お決まりのアメリカ風でその愛すべき無邪気さを思い出させてくれた。ここはもう、市村の七変化や女優陣のイット(古いね)を楽しめばいい。ダブルキャストで私の見た柿澤も、声も歌もいい。俳優陣も楽しんでいる。もともとはもう少し小さい劇場でやっていたものらしく、日生劇場は広すぎた。演出は日本でやり直したのなら、その辺は少し配慮があってもよかったか、とは思う。(いまはユーチューブで現地のトレーラーが観られる)
不信 ~彼女が嘘をつく理由
パルコ・プロデュース
東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)
2017/03/04 (土) ~ 2017/04/30 (日)公演終了
満足度★★★★
一夜を劇場で芝居を楽しんで過ごすには最適の作品。芝居好きと一緒に見ていたら、帰りにはちょっと飲んでは、芝居の揚げ足を取って幸せな気分になれる。三谷らしい作品で、現代史や本歌取りなどの約束ごとがないだけのびのびと書いている。悪ふざけもなく、大人の芝居だ。役者もいい配役で、段田、戸田は当然として、栗原英雄が予想以上の好演。優香も今どきの無責任女をこちらも予想以上の好演。段田、戸田を囲んで抑えとはじけの脇役の良さもこの芝居の興趣を盛り上げた。変な小理屈や倫理の介入をさせない本もよく出来ている。値段も適当だが、もしこれが主催のパルコ劇場だったら高いんじゃないか? とかチケットを手にれる(正価で)にはいろいろ手を尽くさないといけない、とか余計な付随事項はあるが。
怪人二十面相
キッズシアター~ボクとキミの秘密基地~
文学座アトリエ(東京都)
2017/03/23 (木) ~ 2017/03/26 (日)公演終了
満足度★★★
少年探偵団メンバー10名に小林小年を加えた十人で「怪人二十面相」のエピソードをダンスと演技と語りで見せる。もう誰でも知っている話だから今回の趣向はダンスを入れたところが成功したかどうか、にかかっている。振り付け・木皮成。子供のための公演も意図しているので、極めて単純明快な振り付けでまとまりもよく、文学座だけあって劇団員の動きもそつがない。これでいまの子供が喜ぶだろうか、また、大人が新しい乱歩の魅力の発見と思うかどうか、が問題で、ちょっとかんきゃう参加の趣向を入れたくらいではとてもついてこないのではないかと危惧する。乱歩素材なら、もっと今の人に(子供も大人も含めて)見せる方法が内容の把握も、舞台演出も含めて、あると思う。
3月歌舞伎公演「通し狂言 伊賀越道中双六(いがごえどうちゅうすごろく)」
国立劇場
国立劇場 大劇場(東京都)
2017/03/04 (土) ~ 2017/03/27 (月)公演終了
満足度★★★★★
伊賀越道中双六と言えば、「沼津」しか知らなかった。それが通しでやると、こんなに複雑怪奇な噺だったとは!しかも、今回は「沼津」はないのだ! 鎌倉から始まって、沼津、藤川、伊賀上野と双六のように仇討を軸に、それぞれの家の物語が噛んでくるのだが、この人間関係が入り組んでいる。その複雑さで、歌舞伎様式で表現できる、愛情や悲しみ武闘などが深まるわけで、数年前にこの一場の「岡崎」が読売演劇大賞を得たのもうなずける。役者もバランスよくまとまっている。しかし、初心者にこれをありがたがるように、と言うのは少し酷だろう。そこが歌舞伎と言う古典の難しいところだ。
The Dark
オフィスコットーネ
吉祥寺シアター(東京都)
2017/03/03 (金) ~ 2017/03/12 (日)公演終了
満足度★★★★
女性プロデューサーの綿貫さんの主宰するオフィスコットーネが久しぶりに大きな劇場へ出ての公演。キャストも一つ格上になっているが、そのためにチラシにもある、このプロデューサーらしさが薄くなった。ここはそういう背景を抜きにして、現代のイギリスの「新劇」を紹介されたところを多としよう。ドンマーハウスと言う劇場は昔行ったことがあるが、その後、(30年ほど前)からはしっかりした芸術監督がついて内容もよくなったと聞いていた。たしか、幸四郎や蜷川もここでやったのではなかったか。今回は、いかにも、現代のイギリス諸問題を埋め込んだ家庭劇で、よくはできているが新しい話題や発見は少ない。イギリスの土地で、イギリスの役者がやればそれなりに生の現代劇の味が出るのだろうが、日本では隔靴掻痒の感が抜きがたい。しかし、こういう小粒な新劇を見せてくれるのは、韓国でテストランしたミュージカルを見せられるよりははるかに貴重で、これからもオフィスコットーネ頑張ってください。期待しています。
始まりのアンティゴネ
椿組
ザ・スズナリ(東京都)
2017/02/24 (金) ~ 2017/03/05 (日)公演終了
満足度★★★★
椿組と言うのは不思議な劇団で、演目に主張があるわけでもなし、実力派の新劇小劇場系を使うという方針くらいしか浮かばないが、時にこれが演劇界の風見鶏になる。座長もテレビや映画の脇で出るときの気の弱そうな、しかし骨があってと言うガラが舞台への情熱を続けさせているのかもしれない。今回は瀬戸山美咲・新劇界注目の女性作家の登場である。劇団公演だから登場人物も数こなさなければならず、東京近郊らしき地方都市の弁当屋の「通夜の客」ものだ。主人公のひとり会社社長の佐藤誓が初日終ったところで倒れ、本日復帰、という。重要な役で、終わってみればそういう状況の中で小劇場に甘えず大健闘の成果だ。通夜物の定石のようなところもあるが、今までの作品では、家督相続、意外な親族の登場、不倫の結末などが主な材料なのだが、今回は似ているようだが違う。死者の尊厳と言うことがテーマになっていてそこはさすが新進作家の生きの良さがある。俳優の位置取りもこれだけ人数が多いと行き届かないところもあるが、俳優も頑張って、先の佐藤誓、水野あや、占部房子、それにいつも座長で浮いている外波山文明がうまくハマって好演。岡村多加江、も面白い味を出していた。
お勢登場
世田谷パブリックシアター
シアタートラム(東京都)
2017/02/10 (金) ~ 2017/02/26 (日)公演終了
満足度★★★★★
乱歩の悪女ものと言えば、「黒蜥蜴」があまりにも有名で、八重子にあてた三島脚本も随分調子にいい本だったので有名だが、こちら、「お勢登場」のお勢はすっかり忘れ去られた作品になっていた。それもそのはず、乱歩は初めの第一犯罪が行われるところまでで投げ出してしまったのだ。今回はそのお勢を軸に現代版乱歩悪女ものを作ると言う企画だが、以上のようなわけで尺がたりない。そこで、乱歩の有名、中名の短編を集めて、なるほどの明キャスト思った黒木華をお勢に一夜芝居にした。
楽しめた、黒木もいい。こういう芝居はどんどん試みてほしい。しかし・・・
注文を挙げれば、数限りない。ネタバレにもなる。主なものだけネタバレで書かせていただくが、これはぜひ練り上げて再演、再再演をやってほしい。公共劇場だってそれくらいの度量はあっていいだろう。この劇場は「炎」と言う難しい芝居を当たり狂言にした実績もある。おごらず、区役所役員の天下りなどの影響を受けず、芝居好きを堪能させてほしいものだ。
陥没
Bunkamura/キューブ
Bunkamuraシアターコクーン(東京都)
2017/02/04 (土) ~ 2017/02/26 (日)公演終了
満足度★★★★
高度成長期のオリンピック景気を背景にしたケラの新作。昭和三部作と銘打っているが、前二作と違って今回はそろそろケラも生まれている時期だ。それを考えれば、田中さんと鈴木さんの家があっという間に大きくなった【セリフ】時期の生理がもっと描かれてもよかったのではないか。いつものケラ喜劇で、役者も揃い、笑って3時間半の長丁場が持つのだが、人間関係や風俗にもっと時代色が欲しい。
たわけ者の血潮
TRASHMASTERS
座・高円寺1(東京都)
2017/02/02 (木) ~ 2017/02/12 (日)公演終了
満足度★★★★
いつもと変わらぬトラッシュマスターである。今回のテーマはかなり複雑で基本的には表現の自由と、具体的には大麻の容認が大筋になっているが、議論の基礎として、日本語と言う言葉の特性とか、憲法と諸法制との整合性とか、演劇の舞台では即断できない問題を扱っているので、いつものように爽快に時代を斬るというわけにはいかない。2時間45分、いつもながら長いが、ひかかる議論とそれを明確にしようとする定義づけが輻輳して疲れる。劇中でも触れられるが、俳優も台詞が肉体化しているかと言うと、いささか疑問。戯曲としてももう少し整理したほうがいいのではないか。
ザ・空気
ニ兎社
東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)
2017/01/20 (金) ~ 2017/02/12 (日)公演終了
満足度★★★★
昔あった懐かしい社会正義・糾弾劇である。だが、今のご時世で敵役も、かつてのように、雲上の人や影の人でなく、法律や組織が明確に糾弾されている。しかし、それでは一筋縄ではいかないところがあり、喜劇仕立て、風俗劇仕立てになっている。ベテランの作者だからそこはうまい。だがドラマの構造として、そもそも、倫理的なジャーナリズム精神と、具体的な法律や組織を対峙させても、笑や糾弾はできるかもしれないが、ドラマ的な成熟はないような気がする。笑って見られるがしらけるところもあるし、この程度のことはお客様が先刻ご承知である。そこがメディアが拡散した現代の難しいところだろう。作者は、新国立の芸術監督問題でよほど傷ついたのであろう。それは理解できるが、そろそろこういう素材から離れて、現代の「時の物置」を探してほしい。
鯨よ!私の手に乗れ
オフィス3〇〇
シアタートラム(東京都)
2017/01/18 (水) ~ 2017/02/05 (日)公演終了
満足度★★★★
渡辺えり子と野田秀樹が、岸田演劇賞を同時受賞したのは1983年。もう35年もたつかと思うと感慨深い。えり子は「ゲゲゲのげ』、野田は「野獣降臨」が受賞作だった。年月がたって、今月、野田は池袋で「足跡姫」えり子(子はなくなったが)は三軒茶屋で「鯨よ!・」をやっている。ともに、自らの演劇を回顧しながら今も変わらぬ演劇への思いを舞台に乗せている。好きなんだなぁ、舞台が、と思う。この舞台がともに公共劇場であることも面白い。彼らは、勝手をやっているように見えながら、世間の演劇観を変えたのだ。今回も自分の劇団主宰公演で、松竹でも、エイベックスでもない。野田がこの種の新劇公演で初演大劇場で61公演と言うのは、戦後新記録だろう。えりの方は劇団にこだわっただけ広がりには欠けたが、本人はキャラを売って演劇人の存在を示して、三越や演舞場、明治座でおなじみになった。この二作は還暦を過ぎた二人の自分へのご褒美のようなものだ。よくやった、ご苦労さん、今の若い演劇人も小さな殻や理屈(が多すぎる)に閉じこもらずに、自分の好きを前面に出して破壊的な力(二人の受賞作を見よ!!)を発揮してほしい。「鯨よ!」はキャストも厚く、老人ホームのアイデアもいいが、話が中途半端になったのが残念。島の子供たちの話はなくてもよかったのではないだろうか。中段、久野の歌のあたりまでは好調だったのに、息切れした。