満足度★★★★
アメリカの橋田寿賀子である。
地方都市の自堕落な中菱家庭の三姉妹の物語だ。祖父が死の床にあり、母は縊死しているというのに、長女はコンプレックスの塊で男が出来ず、次女は歌手と言うが仕事がなく、三女はなんと自分の浮気(相手は少年である!)の現場を押さえられて、亭主を拳銃で撃つ。その銃撃のシーンから始まり、三人の女の勝手放題の論理が、次々と狂騒的に事件を生んでいくホームドラマ!2時間45分だ。ピューリッツア賞を受けたというだけあって、三姉妹の無軌道ぶりは半端ではなく、30年前にはアメリカの家庭に潜在する危機を容赦なくあぶり出して評価されたのだろう。
この作品が賞を受けたのは1986年。今あらためて日本で見ると、もう日本でもこの時代は終わっているという感じがする。問題がなくなったというのではなく、もうこういうことでは驚かない、つまり、芝居で見ても改めて感動することもない。唯々笑ってみるテレビと同じだということになる。舞台は結構凝っていて、中央に張り出したテラス舞台で、観客と同じ平面で進んで、まるでご近所の家庭争議を見るような気分だ。
俳優では、小劇場出身の伊勢佳世(三女)、と行き遅れの雰囲気をうまく出した那須佐代子(長女)が好演。ことに伊勢はベテランに交じって臆することなくこのどうしようもない女をドライに演じきった。イキウメの俳優も幅が広い現代性がある。拍手。
現代のアメリカ演劇はこういう身もふたもない話が多いが、アメリカの観客はこれで楽しめるのだろうか?この自虐趣味には少々辟易する。演出の小川絵莉子は新国立の芸術監督になるそうだが、宮田慶子との違いを出そうと余り露悪的にならないように願ってしまう。