旗森の観てきた!クチコミ一覧

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蜘蛛女のキス

蜘蛛女のキス

東京グローブ座

東京グローブ座(東京都)

2017/05/27 (土) ~ 2017/06/18 (日)公演終了

満足度★★★★

この作品は戯曲版と、ミュージカル版があるが、原作に近い戯曲版が要を得ている。かつて見たベニサンの舞台は元倉庫と言う場所もよく劇場の大きさともちょうどよく見あっていい舞台だった。その時もジャニーズの岡本健一だったと記憶しているが、今度もジャニーズの大倉忠義。こちらは芝居の経験が少ないというだけに岡本のような複雑な性的嗜好はだせず、また劇場もツルンと大きいグローブなのでスター顔見世のエンタメ性が強い。鈴木裕美の演出は例によって細かく終盤はしっかりと締めている。渡辺いっけいは次第に大蔵に心を寄せていくと女らしくなっていくところがうまい。
それはそうとして、今日の観客には驚いた。一階席で見渡したところ、関係者、記者らしい数人を除いて男性客は三人であとはすべてアラサーの女性客。彼女たちは当然ご贔屓の役者の初奮闘を見に来ているのだから、案の定、芝居の壺は外していて、板の上はさぞやりにくかっただろう。

ドグラ・マグラ

ドグラ・マグラ

演劇企画集団THE・ガジラ

【閉館】SPACE 雑遊(東京都)

2017/06/04 (日) ~ 2017/06/12 (月)公演終了

満足度★★★★

原作小説でシュールな作品を、より「具体的」な演劇にするのは難しい。字で読む想像力と、俳優によって見せられる世界の落差とでも言おうか。この小説はもともと人間の想像力について疑義を呈しているので、さらに難しい。鐘下脚本は原作の「名せりふ」?を生かしながら、その分明ならざる世界を、若い俳優たちを抽象的な舞台で演出する。その自信たっぷりな展開に引き込まれてしまうが、結局は、とても二時間では読めない原作を、久しぶりに引っ張り出してぱらぱらとめくった感じである。それを良しとするか、苦痛と感じるかは、観客それぞれの「脳髄」による。

少女ミウ

少女ミウ

森崎事務所M&Oplays

ザ・スズナリ(東京都)

2017/05/21 (日) ~ 2017/06/04 (日)公演終了

満足度★★★★

岩松了・作演出でいかにも「現代劇」らしい舞台である。スズナリながら、プロセニアム舞台の味でテレビの人気俳優を使い、東北震災後の社会の空気を少女ミウに象徴させて舞台は進んでいく。震災避難地域にある家の晩餐と、それを外側から見るテレビ局を交錯させる手法で、話は面白おかしく、しかもいつもの若松らしい皮肉も十分に効いて進む。今の震災後に対する空気がよく描かれているが、さて、楽しいかと言われると、答えに困る。やはり観客の中でも風化は進んでいるのだ。
テレビ局を鏡にする構造は、今年も永井愛の新作で使われていたが、現在のテレビ局はメディアとしては弱体化しているので喜劇的以外のパンチがきかない。今回もテレビの好きな話題作りで進むが、これはあまり成功していない。
むしろ久しぶりに見た新劇の伝統を継ぐ現代劇がよく稽古されて上演されたのを多としたい

木ノ下歌舞伎『東海道四谷怪談ー通し上演ー』

木ノ下歌舞伎『東海道四谷怪談ー通し上演ー』

木ノ下歌舞伎

あうるすぽっと(東京都)

2017/05/26 (金) ~ 2017/05/31 (水)公演終了

満足度★★★★★

昼から夜まで6時間と5分、たっぷり四谷怪談を楽しんだ。日本の古典戯曲がこのように現代の劇場で今ここで生きている人たちの手で今の演劇として上演されるのは大きな喜びだ。蜷川の近松心中に劣らない舞台成果で、ここまで新しいスタイルで古典戯曲をかみ砕いたというだけで、すごい。今年の演劇の評価の一つになるだろう。
古典の宿命で、ネタバレで気付いたこともあるが、多分そんなことは制作側は先刻ご承知と思う。まだやることはある。これが最終形などと言わず、今後も時にこの場に戻ってこの舞台を又見せてください。

ネタバレBOX

(構成について)一幕は完ぺきな出来。二幕の穏亡掘は少し焦点を見失っていると感じた。戸板返しからだんまりはあてぇのつなぎもあるので、もっと説明してもいいと思う。三幕は、大歌舞伎が三角屋敷をあまりやらない理由がよくわかった。原作もここはちょっと持て余したか、中だるみだ。丁寧にやるだけの意味がつかめなかった。コクーンなどがやるこの長さの半分くらいでいいのではないかと思う。復讐の動機付けが解ればいいのだから。大詰めへの物語の速度が落ちる。夢の場の「七夕」の童謡は突然西洋の物語が挿入されたようで、観客も戸惑う。三幕はまだ改良できるところがあると思った。
(俳優について)俳優の皆さんは好演だが。伊右衛門は現代の無知な若者風になりすぎていないか。状況からももっと、現実の社会への鬱屈があるのではないか。仲間の若者が暴走族みたいなのも面白いが、ただの無軌道になっていて、こうしなければ社会に組み入れられないドロップアウト寸前の危うさがない。人物はそれぞれよく書かれているが、そこへ俳優の個性が付け加えられないと生きてこない。蘭妖子がたつのは個性があるからで、それは排除しない方がいいと思う。あと二三人個性が出てしまう俳優がいると舞台が華やぐ。
(美術など)大道具は見事な出来だ。この劇場を立体的に使っている。薄墨のだんだらも生きた。小道具も見た目のバランスがよく神経が行き届いていて心地いい。衣裳もいろいろの工夫が楽しい。
音楽はこれも見事だが、一幕の完璧さに比べると次第に疲れてくる。ことに邦楽と洋楽のクラッシクの交錯する後半は、時に違和感を感じる。純邦楽は完全に外した方がよいのではないか、使うとしても大和楽とか。
音響で事分テンポリズムを作っていていいのだが、ヘリの音は効果的ではあるけど、どうしても「ミスサイゴン」を連想してしまう客はいるだろう。それはマイナスになる。
などと、団菊爺みたいになってしまったが、舞台成果としては本当に見事なもので、感服した。
爪の灯

爪の灯

演劇集団円

シアターX(東京都)

2017/05/19 (金) ~ 2017/05/28 (日)公演終了

満足度★★★★

地方在住の作家の誠実な小品で、好感を持って持ってみた。この女性作家は確か神戸の小劇場のリーダーで90年代後半には東京でも公演を打ったと記憶している。その演劇少女が結婚して岡山でこういう芝居をコツコツ書いているかと思うと、ある種の感動がある。時に地方(と言っても過疎に近い)に行くとこういう生活があるだろうな、と想像させられることは多い。だからどうだ、と言うのは都会人の驕りだろう。円も、新劇稀の美少女だった高林由紀子、嘱望された青年・大谷朗が中老の役で出ていて彼らにもある種の感慨がある。精一杯真面目に人生と取り組んでいる、と言う芝居と妙にダブるのである。芝居の中身は置いておいて、という最近稀な観劇体験だった。

クヒオ大佐の妻

クヒオ大佐の妻

ヴィレッヂ

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2017/05/19 (金) ~ 2017/06/11 (日)公演終了

満足度★★★

作者の吉田大八がシアターガイドで言っているように「こんな面白い話をどうして誰もやらないんだ!」と言う実話。外人パイロットをよそおった稀代の結婚詐欺師の話である。誰もが「嘘だろう!」というはなしにコロコロと女は騙される。だが、現実離れしたシュールな実話に落とし穴がある。やってみると、作者や宮沢りえ、川面千晶の大奮闘にもかかわらず、少しは笑えるが、本質的にホラの面白さがない。最後に国旗が出てきてはなににかいわんや、である。作者も書き始めて少し焦ったんじゃないかな。後半ことに乱れた。しかし、前の本谷有紀子の「ぬるい毒」は悪くなかった。今回は焦ってひねりすぎたか、肝心の曲球のセリフが耳に届かない

パレード

パレード

ホリプロ

東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)

2017/05/18 (木) ~ 2017/06/04 (日)公演終了

満足度★★★★★

100年前のアメリカの南部の冤罪事件を素材にしたミュージカル。と聞いただけで、今どきなんで? と思ったものだが、これがなかなか。最近のロックの犯罪ミュージカルではなく、歌詞に曲がついている(笑)正当なミュージカルスタッフの座組みがよく、ここの所、瞠目するミュージカルがなかった中では出色の出来だ。まず、キャスト。公共劇場との提携で充実している。岡本健一など役不足だろうが、やはりここに岡本がいるのがいい。流石、、齢を感じさせない石丸、堀内。さらにミュージカルを構成する各スタッフの力量をうまくまとめた。大木一本の裸舞台だがここに五色の雪を降らせる趣向は秀逸。ホリゾントの色もたまに変わるのが効果的、部分で使った斜めの照明もいい。これで舞台転換に時間がかからず、テンポもリズムも出て音楽が生きた。衣裳も少女の衣装で一本勝負。オケも台詞との絡みが多いのに、見事なものだ。コーラスの振り付けも無理していないところがいい。すべてをまとめきった新劇団出身の森新太郎に拍手。これで既成の、四季,東宝、ホリプロ、松竹いがいの新しいミュージカルの舞台を楽しめるだろう(これはホリプロも噛んでいるが、これで森の使い方もうまくなるだろう)
企画としては大衆迎合の最近の世相への時宜を得たもの、と言うことだろうが、それは少し買い被りで、今はアメリカでもやっていない旧作をよく掘り出して夫婦愛のミュージカルにして面白く仕上げたことを評価すべきだろう。

天の敵

天の敵

イキウメ

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2017/05/16 (火) ~ 2017/06/04 (日)公演終了

満足度★★★★★

2時間十五分。奇想天外の話なのに、リアリティもあって飽きない。内容は、すべて、ネタバレになりそうなので書けないので、総評になるが、いつも通り、作者の論理の展開が面白い。非常にうまく最近の健康ブームを取り上げていてそこもうまい。この劇団の俳優も随分うまくなった。村岡もうまくハマって浮いていない。イキウメ、チョコレートケーキ、モダンスイマーズなどの俳優が、ひとつ前のケラ、野田、松尾、三谷の舞台でおなじみだった俳優と対抗できるようになっているのは大いに頼もしい。彼らには「現代」が生きている。スター的な新感線の役者も必要だが、いい舞台を支えるのはこういう何でもできる俳優陣だ。少し辛口を言えば、前川はこういうものは自分の劇団でもう軽々と書けるしボロも出さないのだから、次の大劇場プロデュース作品「プレイヤー」はぜひ大成功してほしい。観客も先に上げた作者に次ぐ大劇場を背負える作者を待望しているのだから。

ネタバレBOX

夜と昼のアイディアはわかりやすいが、もういいんじゃないか。観客はまたか、と思ってしまう。お約束事と思えばいいのだが、それはもう一つ上に行ってから。野田のダジャレと同じだ。
十二人の怒れる男たち

十二人の怒れる男たち

俳優座劇場

俳優座劇場(東京都)

2017/05/17 (水) ~ 2017/05/21 (日)公演終了

満足度★★★★

テレビに始まり映画にもなった裁判劇の演劇版。テレビはナマ時代とあって、見ることはできないが、映画から想像する限り、この作品は書かれてからほぼ60年メディアによってそれほど変わっていないようだ。それでも上演が続くのは、社会劇としては珍しい。古典的傑作と言われるゆえんであろう。しかし、この作品は陪審員室一室の中に現在の民主主義社会の様々な問題を、縮図化したようなところがあり、時代の焦点によって、作る側も見る側も変わってくる。例えば、冤罪事件が多かった前世紀中葉なら裁判制度への批判が注目されただろうが、今は、こういう制度しかない現代社会に生きる市民の不安が焦点になる。
この公苑は、昔の新劇各劇団出身者によるプロデュース公演で、良くも悪くもその特徴が出た。いい点を挙げれば、台詞がよく聞こえる事。(劇場のせいもあるが)しかし、演技となるとこれはいささかでも今の観客に訴えようとしているならかつての新劇の惰性に頼っていると言われても仕方がない。今生きている人間の息吹がまるで感じられず、外国人のフリによる吹き替え演劇のようだ。それでも原作はよく出来ているので、昔の演劇として楽しめるが、この作品のキモである現代にも通じる市民生活のルールに潜む問題は全然伝わってこない。今上演するなら、そこだろう。
大劇団であった俳優座が、こういう古典的テキストを取り上げて再演するのは意味のある面白い企画と思うが、テキストをかつての再現に終わらせては折角の努力もむなしいのではないか。

60'sエレジー

60'sエレジー

劇団チョコレートケーキ

サンモールスタジオ(東京都)

2017/05/03 (水) ~ 2017/05/21 (日)公演終了

満足度★★★★★

快作。今年前半の演劇では白眉だろう。ほめる人は多いだろうから少し視点を変えて。
1)方言指導(ダイアローグコーチ?)がよく俳優と共に頑張った。最近の小劇場の作者は台詞の言い方にはあまり頓着しないが、それは舞台のリアリティの基本である。佐藤が現れ最初のセリフを言った瞬間、舞台にリアリティが生まれた。家族兄弟の会話、従業員との会話は、いささか同時代を生き東京を知っている私はもう少し頑張れと言いたいが、ここまでやった青年座の女優さん?(文芸部?)に金賞だ。
2)演出が狭い舞台をよくさばいた。出入りなどこれしかない平面なのに立体的に見える。日澤演出は今度は銀河をやるようだが、大きな劇場でも、また少し大衆的なテイストの作品でも挑戦してほしい。ミュージカルをやるなら、ダンスに新しい工夫を切望する。美術も悪くはないが、小道具などはもう少し考えてほしい。
3)一見、三丁目の夕日のように見えるが、ぜーんぜーん違う。私は同時代に働き出したが、オリンピックそのものには世間はそれほど萌えなかった。なにかうすら寒い感じがあって、そこもこの芝居は人情もからめてうまくとらえていたと思う。
4)俳優もよく頑張っていて好演だが、華がない。一度、この芝居を三越劇場あたりで、西尾佐藤の他は松竹仕込でやってみるといい、というのは冗談のようだが、この芝居は、私の世代が久保田万太郎の「大寺学校」を見るような風俗劇の古典になる素地があるが、そういうところをくぐれれば、ということだ。。

空と雲とバラバラの奥さま

空と雲とバラバラの奥さま

クロムモリブデン

吉祥寺シアター(東京都)

2017/04/20 (木) ~ 2017/04/30 (日)公演終了

満足度★★★★

独特のカラーのある劇団だ。かつて、赤坂で見たことがる。ファンのような熱心な観客ではないが、ユニークな芝居の論理が面白かった。今回もそこは変わっていなくて、家族をバラバラにしてみせる。論理の展開が笑えるが、さらにその先にある世界がよくわからない。観客の腑に落ちない。かつて見た作品ではそこはうまくいていたようにも思うのだが。音楽やセットはよく出来ているし、舞台の裁きもシャレていて泥臭くない。関西の劇団と思っていたがいつのまにか東京の劇団になっている。プロでユース公園にかき回されている現状では劇団のカラーを維持するだけでも難しいのによくやっている。

ネタバレBOX

最後に天から降ってくるのは、赤子だろうがそれに託したテーマに独自性が欲しい。いやもっとよくわかるようにやってほしい。これでは単に未来がやってくるだけのようにも見える。
罠々

罠々

悪い芝居

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2017/04/18 (火) ~ 2017/04/23 (日)公演終了

満足度★★★★

関西の劇団らしい世俗性とツッパリがあって、東京の劇団にはない元気がある。しかし、内容は80年代演劇ではやった自分探しだ。17年前が強調されるのは世紀の変わり目と言うことだろうが、若い人たちにとってはその後の20年は確かに閉塞状況に感じられたのだろう。テレビ番組にいいようにされた芸人コンビとか、男女関係、都市論などがちりばめられて舞台は進むが内容に新味がないので、ダンス風の演出、映像の工夫、白の衣装などで引っ張っていこうとする。それに飽きたころには終わるので、見ている間は確かに面白く見られたが、もっとフレシュな現代の青春ものが観たい。

フェードル

フェードル

パソナグループ

Bunkamuraシアターコクーン(東京都)

2017/04/08 (土) ~ 2017/04/30 (日)公演終了

満足度★★★★

フランスの古典演劇として名高いが、あまり上演されない。いい機会と思って見に行ったらこれがフランス演劇らしいセリフを立てた本格上演。演出の栗山さんはこのジャンルよくご承知のようで、見事に押し切っている。フランス語だったらもっとリズム感もあるのだろうが翻訳しているので言葉の音で動かされることがないのが残念。それは勧進帳をフランス語で向こうで見せるようなものだから仕方がない。変な日本現代化よりはいいが、シェイクスピアがいじりやすいのに比べるとやはり硬いというべきか。

紳士のための愛と殺人の手引き

紳士のための愛と殺人の手引き

東宝

日生劇場(東京都)

2017/04/08 (土) ~ 2017/04/30 (日)公演終了

満足度★★★★

久しぶりにアメリカのミュージカルらしい能天気な娯楽作を見た。この作品が一昨年のトニー賞ベストミュジカルということは、きっと、アメリカでも犯罪がらみや殺人絡みの深刻な暗いロック音楽の告発型ミュージカルには観客もうんざりしていたのだろう。
欧州の元貴族が出てくるのも、相続問題で大騒ぎになるのも、お決まりのアメリカ風でその愛すべき無邪気さを思い出させてくれた。ここはもう、市村の七変化や女優陣のイット(古いね)を楽しめばいい。ダブルキャストで私の見た柿澤も、声も歌もいい。俳優陣も楽しんでいる。もともとはもう少し小さい劇場でやっていたものらしく、日生劇場は広すぎた。演出は日本でやり直したのなら、その辺は少し配慮があってもよかったか、とは思う。(いまはユーチューブで現地のトレーラーが観られる)

ネタバレBOX

市村の七変化、最後のが一番笑えたし、ちゃんと落ちになっていてよかった。こういうところも劇場が半分くらいだともっと受けるのに。
不信 ~彼女が嘘をつく理由

不信 ~彼女が嘘をつく理由

パルコ・プロデュース

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2017/03/04 (土) ~ 2017/04/30 (日)公演終了

満足度★★★★

一夜を劇場で芝居を楽しんで過ごすには最適の作品。芝居好きと一緒に見ていたら、帰りにはちょっと飲んでは、芝居の揚げ足を取って幸せな気分になれる。三谷らしい作品で、現代史や本歌取りなどの約束ごとがないだけのびのびと書いている。悪ふざけもなく、大人の芝居だ。役者もいい配役で、段田、戸田は当然として、栗原英雄が予想以上の好演。優香も今どきの無責任女をこちらも予想以上の好演。段田、戸田を囲んで抑えとはじけの脇役の良さもこの芝居の興趣を盛り上げた。変な小理屈や倫理の介入をさせない本もよく出来ている。値段も適当だが、もしこれが主催のパルコ劇場だったら高いんじゃないか? とかチケットを手にれる(正価で)にはいろいろ手を尽くさないといけない、とか余計な付随事項はあるが。

ネタバレBOX

朝日の劇評(30日夕刊)で、舞台をマンションと書いているが、これは同じ作りの一戸建てではないか。庭に大きな穴を掘るし、役者も窓越しに隣りをみる。ずいぶん遠い目だった。また、優香が段田を先妻から奪った、と書いているが、そういう設定はあったかなぁ。先妻ではなく現在不倫中の大学生が、夫婦間の秘密だろう。この夫婦関係が恐怖感を呼ぶとも書いているが、笑を呼ぶが恐怖ではないだろう。こういう夫婦はどこにもいて、そこをうまくやっていくのは嘘が必需品と笑っているのだ。
怪人二十面相

怪人二十面相

キッズシアター~ボクとキミの秘密基地~

文学座アトリエ(東京都)

2017/03/23 (木) ~ 2017/03/26 (日)公演終了

満足度★★★

少年探偵団メンバー10名に小林小年を加えた十人で「怪人二十面相」のエピソードをダンスと演技と語りで見せる。もう誰でも知っている話だから今回の趣向はダンスを入れたところが成功したかどうか、にかかっている。振り付け・木皮成。子供のための公演も意図しているので、極めて単純明快な振り付けでまとまりもよく、文学座だけあって劇団員の動きもそつがない。これでいまの子供が喜ぶだろうか、また、大人が新しい乱歩の魅力の発見と思うかどうか、が問題で、ちょっとかんきゃう参加の趣向を入れたくらいではとてもついてこないのではないかと危惧する。乱歩素材なら、もっと今の人に(子供も大人も含めて)見せる方法が内容の把握も、舞台演出も含めて、あると思う。

3月歌舞伎公演「通し狂言 伊賀越道中双六(いがごえどうちゅうすごろく)」

3月歌舞伎公演「通し狂言 伊賀越道中双六(いがごえどうちゅうすごろく)」

国立劇場

国立劇場 大劇場(東京都)

2017/03/04 (土) ~ 2017/03/27 (月)公演終了

満足度★★★★★

伊賀越道中双六と言えば、「沼津」しか知らなかった。それが通しでやると、こんなに複雑怪奇な噺だったとは!しかも、今回は「沼津」はないのだ! 鎌倉から始まって、沼津、藤川、伊賀上野と双六のように仇討を軸に、それぞれの家の物語が噛んでくるのだが、この人間関係が入り組んでいる。その複雑さで、歌舞伎様式で表現できる、愛情や悲しみ武闘などが深まるわけで、数年前にこの一場の「岡崎」が読売演劇大賞を得たのもうなずける。役者もバランスよくまとまっている。しかし、初心者にこれをありがたがるように、と言うのは少し酷だろう。そこが歌舞伎と言う古典の難しいところだ。

The Dark

The Dark

オフィスコットーネ

吉祥寺シアター(東京都)

2017/03/03 (金) ~ 2017/03/12 (日)公演終了

満足度★★★★

女性プロデューサーの綿貫さんの主宰するオフィスコットーネが久しぶりに大きな劇場へ出ての公演。キャストも一つ格上になっているが、そのためにチラシにもある、このプロデューサーらしさが薄くなった。ここはそういう背景を抜きにして、現代のイギリスの「新劇」を紹介されたところを多としよう。ドンマーハウスと言う劇場は昔行ったことがあるが、その後、(30年ほど前)からはしっかりした芸術監督がついて内容もよくなったと聞いていた。たしか、幸四郎や蜷川もここでやったのではなかったか。今回は、いかにも、現代のイギリス諸問題を埋め込んだ家庭劇で、よくはできているが新しい話題や発見は少ない。イギリスの土地で、イギリスの役者がやればそれなりに生の現代劇の味が出るのだろうが、日本では隔靴掻痒の感が抜きがたい。しかし、こういう小粒な新劇を見せてくれるのは、韓国でテストランしたミュージカルを見せられるよりははるかに貴重で、これからもオフィスコットーネ頑張ってください。期待しています。

始まりのアンティゴネ

始まりのアンティゴネ

椿組

ザ・スズナリ(東京都)

2017/02/24 (金) ~ 2017/03/05 (日)公演終了

満足度★★★★

椿組と言うのは不思議な劇団で、演目に主張があるわけでもなし、実力派の新劇小劇場系を使うという方針くらいしか浮かばないが、時にこれが演劇界の風見鶏になる。座長もテレビや映画の脇で出るときの気の弱そうな、しかし骨があってと言うガラが舞台への情熱を続けさせているのかもしれない。今回は瀬戸山美咲・新劇界注目の女性作家の登場である。劇団公演だから登場人物も数こなさなければならず、東京近郊らしき地方都市の弁当屋の「通夜の客」ものだ。主人公のひとり会社社長の佐藤誓が初日終ったところで倒れ、本日復帰、という。重要な役で、終わってみればそういう状況の中で小劇場に甘えず大健闘の成果だ。通夜物の定石のようなところもあるが、今までの作品では、家督相続、意外な親族の登場、不倫の結末などが主な材料なのだが、今回は似ているようだが違う。死者の尊厳と言うことがテーマになっていてそこはさすが新進作家の生きの良さがある。俳優の位置取りもこれだけ人数が多いと行き届かないところもあるが、俳優も頑張って、先の佐藤誓、水野あや、占部房子、それにいつも座長で浮いている外波山文明がうまくハマって好演。岡村多加江、も面白い味を出していた。

ネタバレBOX

ただ、自殺の真相を言うということと、家族と家業の名誉を対立させるのは少し無理があり家屋の討論を重ねても結論の出しようがない。そこが狙いかもしれないが、そこの不徹底が結末の幕引きの「亡きものを語ろう」と言うのでは幕が下りないのではないか。しかし、すずなりで見る芝居としては十分大人の観客に耐える出来で、またしても外波山文明と言うのは不思議な演劇人だなと思った。
お勢登場

お勢登場

世田谷パブリックシアター

シアタートラム(東京都)

2017/02/10 (金) ~ 2017/02/26 (日)公演終了

満足度★★★★★

乱歩の悪女ものと言えば、「黒蜥蜴」があまりにも有名で、八重子にあてた三島脚本も随分調子にいい本だったので有名だが、こちら、「お勢登場」のお勢はすっかり忘れ去られた作品になっていた。それもそのはず、乱歩は初めの第一犯罪が行われるところまでで投げ出してしまったのだ。今回はそのお勢を軸に現代版乱歩悪女ものを作ると言う企画だが、以上のようなわけで尺がたりない。そこで、乱歩の有名、中名の短編を集めて、なるほどの明キャスト思った黒木華をお勢に一夜芝居にした。
楽しめた、黒木もいい。こういう芝居はどんどん試みてほしい。しかし・・・
注文を挙げれば、数限りない。ネタバレにもなる。主なものだけネタバレで書かせていただくが、これはぜひ練り上げて再演、再再演をやってほしい。公共劇場だってそれくらいの度量はあっていいだろう。この劇場は「炎」と言う難しい芝居を当たり狂言にした実績もある。おごらず、区役所役員の天下りなどの影響を受けず、芝居好きを堪能させてほしいものだ。

ネタバレBOX

主な注文は二つ。後半、(戯曲で言えば3幕)そこまでは快調だったのに息がが続かなくなった。「二廃人」は無理ではないか。思い切ってカットすれば一人女優のやり場がなくなるが、そこは仕方がない。尺もベンチシートの客席にマッチする。
結局「押絵」(代表作だし名作だから仕方がないが)で落とすなら、前半からもっとうまく埋め込めないか、終わりの方で取ってつけたように兄弟が出てきて由来説明をするのはうまくない。そしてこれはないものねだりに近いが押絵はもっとうまく処理してほしい。押絵が生きていて、女は歳をとらぬというのは作品のキモだはないか。
乱歩は明智対お勢で長編にするつもりだったようで、こういう芝居では、お勢の鏡になる魅力のある男優がいる。今回は黒木以外は女優陣は多くの役をこなして健闘だが、男優陣一役役者が多くて残念だった。
黒木は現代的な悪女になっていて、これはホントに感心した。悪女と言うかむしろ女に共通する「魔性」がある新しい現代悪女が出来そうだ。見たい。
珍しく、ブラッシュアップされたいい再演を見たいと思った。その芽は十分ある。

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