旗森の観てきた!クチコミ一覧

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第23回稚魚の会・歌舞伎会合同公演

第23回稚魚の会・歌舞伎会合同公演

国立劇場

国立劇場 小劇場(東京都)

2017/08/16 (水) ~ 2017/08/20 (日)公演終了

満足度★★★★

夏恒例の催しである。いずれは笑也のように大成するかもしれない若者と、終生歌舞伎の世界で脇役や裏方など何ほどかの仕事をしながら支えるものがまじりあって、一つの舞台を踏む。学校演劇のような青春が商業伝統演劇の中にもあることが楽しいのである。ここでご贔屓になって生涯つきあったりすれば面白い人生の彩になるかもしれない、などと思うのは観客のロマンでもある。
舞台の成果は勉強会なのだから云々するのは野暮でやめるが、演目には疑問がある。一つ目の「番町皿屋敷」はもう大正になってからの新歌舞伎で、こういう作品なら今後いつでも学べるし、新しい工夫を持ち込める。ここでやるのはどうだろうか。歌舞伎でも最近は近代劇的にやるのが多くなっている由(渡辺保さんによる)でそれももっともだが、そうなればここでやる意味はない。今回の公演は、結構古めかしい演出で、見得も台詞も形を作ろうとしていたが、それはどういうことなんだろう。二つめの「紅翫」は字を出すだけでもパソコンで苦労する(翫)ほどだから十分古典であろうが、舞踊の会の最後で見せられる総踊りみたいで、玉石混交の御稽古の成果を拝見した感じ。歌舞伎を志す若者もこの頃はすっかりジャニーズ風になっている。現代的な体型の若者が多く今はそれを隠そうとしない。芝居は今のものだから、それでもいいのだが、いずれ大歌舞伎で畳の上や御殿をやるときの立ち居振る舞い大丈夫だろうか、と気がかりになる。そう言う伝統演劇の基本演技はこういう所で叩き込まないと。板の上に出てからでは遅いのである。
最後は「引窓」。やっと伝統演劇になる。曲輪日記はずいぶん無理な筋立ての芝居と思うが、この親子兄弟の情愛を何とか客に納得させてしまうのが古典の力と言うものだろう。無理な筋立てだから、ハラで押し切らなければ進めないところも多く、こういう会の演目としては荷がおもすぎたかと思わないでもない。ずっと説明的で近代的な皿屋敷の播磨が、菊を成敗しようと気持ちを変えるところもできていない(橋吾は全体としては柄も芝居もいいのだが)のだから「引窓」は親子兄弟ながら戯曲の説明だけでは難しい・今回の芝居二演目ともわかりやすそうだが、そもそもが無理難題なのだから、伝統演劇の形にハマってようやく成立する。そこのところの覚悟があやふやな感じがした。
などと老人の繰り言だが、劇場は大入り、カップルで見に来ている若い観客も多く、時に転寝をしながら楽しい夏の午後を過ごした。

罠

サンライズプロモーション東京

サンシャイン劇場(東京都)

2017/08/08 (火) ~ 2017/08/15 (火)公演終了

満足度★★★

この芝居だけは、いくらネタバレ欄があっても、ネタをばらすわけにはいかない。それほど、ネタで引っ張っていく正当なミステリ劇である。しかも、傑作との定評のある戯曲。何度も上演されているからいいじゃないかとは言ってもネタバレはやはり自制すべきだろう。
こういう手のミステリ劇は、20世紀の日本の商業演劇では結構期待されていて、クリエの前身の芸術座などは、ロンドンにならってミステリ劇専門の劇場にしようと考えられたこともあると聞く。しかし、それが叶わなかったのは、やはり傑作の戯曲が少ない、逆に言うとつまらないホンでは舞台にならない、役者も出たがらない、客も飽きる、と言うような条件があったからだろう。今月は珍しく現代古典ともいうべきミステリ劇の傑作「死の罠」(アメリカ製)に続いてフランス製の「罠」が上演された。
「罠」には6人の主要人物が登場するが、どういう犯罪が行われたのか、だれが本当のことを言っているのか、ミスリード入れ方が格段にうまいので、二転三転する芝居は、つられて見られる。
だが、なんといっても20世紀の芝居である。いくら人里離れた別荘地でも今ならこのようなことは、条件的に成立しない。そこを現代風に変えてしまうとたぶん白けてしまうだろう。元の戯曲は設定だけでなくセリフも結構愉快なのだ。それを面白く見せる俳優の表現や舞台演出にはもっと工夫すべきところがあるだろう。
最近の翻訳劇で成果を上げた舞台は、ほとんど、見ている間人種的な制約を感じさせず、普遍的な人間の役として演じられることが多い。「罠」の場合はあまりにも日本人的でない話なので、翻訳調を残したのかもしれないが、フランス人にもなりきれず、なんとなく全体にアテレコ芝居のような演技のぎこちなさが付きまとう。この6人の駆け引きは、それほどフランス的でもないのだから、もっと、読み込んで普遍的な人間の演技でやれば、もっともっと、面白かっただろう。この戯曲初演の頃から喜劇新劇団が取り上げたせいか、喜劇的ににやることが多かったが、今回はそこは無理をして笑わせようとしていないところはよかった。それで却ってボロが出た、ともいえるが。
また、芝居のテンポが一本調子で、押し引きが足りない。一つ頭の出た役者が居ればそれで引っ張っていくということもあるだろうが、そこも、それぞれの役者が適当にやっていて、悪くはないがよくもない。かなり空席の目立つ劇場だったが、これでこの戯曲がつぶれるのは残念だ。落語の名作のようなミステリ劇なのだから。

旗を高く掲げよ

旗を高く掲げよ

劇団青年座

青年座劇場(東京都)

2017/07/28 (金) ~ 2017/08/06 (日)公演終了

満足度★★★★

コメントするのが難しい芝居である。
まず、企画がいい。時宜を得た、と言う言葉がぴったりの内容である。ナチが隆盛となり、滅びるまでの約十年のドイツベルリンの庶民史が素材で、政治も政治なら庶民も庶民、と言う話である。もちろんそういうことに警鐘を鳴らすのは新劇団の役目ではあろうが、なんとか教条的なところを抜け出そうという意欲のある公演である。言うまでもないが、この話、いまの日本人は向き合わなければならない切実な問題をはらんでいる。。
だが、芝居の中身にはいささか苦しいところがある。日本の戦時中の話は山ほど見ているわけで、それでは情緒に流れて問題の焦点が見えにくくなるということで、ベルリンの話にしたのであろうが、ドイツの庶民の話だから、当時のドイツ国民でなければ委細のわからぬ設定はとれない。夫婦に老父、娘と言う平凡な家族設定も、味方、敵の隣人のキャラクター設定など殆ど類型的である。エピソード自体も、これだけドイツネタの映画が入ってきている今となってはおなじみのものも多い。それでもなお、二時間を面白く見られるのだから、この作者・只者ではない。しかし、突っ込めば、観客にとってはやはり、実感的には隔靴掻痒で、俳優たちも、地でやっていいのか、ドイツ人でやるのか、戸惑っている。こういう公演だと一人くらいダントツに目立つ役者がいるものだが、それもいない。
ナチを素材にすると対立項がテーマ明確で芝居が組みやすくなる。かつて三谷幸喜もナチ物で「国民の映画」や「ホロヴィッツとの対話」を書いて、これも面白かったが、こちらは日本の新劇独自の人物への視点があった。
今回の「旗を高く掲げよ」は両国に共通する問題に抽象的に迫ろうとしたのはいいのだが、問題劇にとどまったのは、やむを得ないというべきか。青年座劇場はほぼ二百人余、超満員。こういう問題系新劇が入るのは何はともあれめでたい。

「月読み右近の副業」

「月読み右近の副業」

劇団ジャブジャブサーキット

駅前劇場(東京都)

2017/07/28 (金) ~ 2017/07/30 (日)公演終了

満足度★★★

名古屋の産業は日本国の中軸ともいうべき真っ当さで我々を支えてくれているが、演劇となると、斜めに見た作風が多いのはなぜだろう。この劇団のリーダーのはせも、天野天街もはぐらかしにかけては天下一品だが、はぐらかしたあとどこへ行くのか、その先は意外に既知の世界にとどまってしまう。「ね?」と言われてもなぁ、という感じである。しかしもう十年は軽く超えるだろう、この二巨頭は、北村想が去ってから、第三の都を背負って東京公演を続けてきた。しかし、ここで一発、かつて「寿歌」で東京演劇界に与えたような衝撃を、名古屋の演劇界に期待しているのだ。

Hallo

Hallo

東京芸術劇場

東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)

2017/07/29 (土) ~ 2017/07/30 (日)公演終了

満足度★★★★

東京芸術劇場が招聘する外国のパフォーマンスは一風変わっていて面白いものが多い。このところ、ダンス系、大道芸風のものが多いが、素人が外国へ突然行ってもみられるわけではないので、なるほどと思いながら見物するいい機会だ。税金ならではの企画で、ぜひ今後も大手興行資本に惑わされることなく、こういうことに使ってもらいたい。今回はスイスの一人芸(アシスタントはいるが)。外国のもので感心するのは動きが速いこと、振付がシャレていることで、この二点はなかなか追いつけない。体型の問題もある。(向こうには能狂言が出来ないのだからおあいこともいえるが)。音楽もよくあっている。大型の木枠を使ったナンバーはおおむね面白く、少し古くておセンチだが、旗を使ったナンバーも私は気に入った。体がバラバラになるのはその仕掛けが先に立ってウイットさが足りなかった。先に言ったことと矛盾するが、以前ここが招聘したルーマニアの演劇はよく出来ていて感動した。小さな国のいい芝居もこれこそこういうところでやってくれなければどうにもならない。一人芸より金はかかるだろうがお願いしたい。

Beautiful

Beautiful

東宝

帝国劇場(東京都)

2017/07/26 (水) ~ 2017/08/26 (土)公演終了

満足度★★★★

アメリカ最初のシンガーソングライターの青春ものだが、次から次にと出てくる曲になじみがない。それでもフィナーレで帝劇がお世辞でないスタンディングになる。平原綾香の初日。相手役のソニン、伊礼彼方、中川晃教も歌はうまいし、さらに脇に武田真治と剣幸。日本のミュージカルとしては技量的にはまず最高と言っていい顔ぶれだろう。その実力が遺憾なく発揮されて、新作ミュージカルとしては初演ながらまとまりもよく楽しい舞台となった。片親家庭の引っ込み思案の娘が二階級特進で進んだ高校で夫と巡り合い、歌も作るし、16歳で子供も産む。突進型に見えるが実質はそうでもなく地味なところを作者はよく書いている。平原も演技的にもこなして、ここがこのミュージカルのいいところだ。ソニンのカップルとの対比も生きた。伊礼と中川は、声域の関係もあるだろうが役者としては逆の配役の方が生きるのではないかと思ったが、どうだろうか。こういう場合原曲の歌詞を英語で歌いたくなるだろうが(その方が歌いやすいだろう)すべて日本語に翻訳してあり、歌の内容が観客につかめるところもドラマとしてみる助けになった。しかし、演出も振付もアメリカのスタッフによる。その方が、時折見せられる韓国版からの翻案よりも素直に見られるが、歌い手たちもこれだけうまくなったのだから、日本のスタッフもアメリカ版に頼らず日本独自の舞台つくりが(翻訳上演権の問題はあるだろうが)できるようになるのを期待している。

ネタバレBOX

なんて書いているが、タイトルのbeautifulをとった歌の時だけ、その部分が英語のまま、beautifulと使っていたのには笑ってしまった。いろいろお気遣い、御苦労がありますね!でもいい舞台でした。
怪談 牡丹燈籠

怪談 牡丹燈籠

オフィスコットーネ

すみだパークスタジオ倉(そう) | THEATER-SO(東京都)

2017/07/14 (金) ~ 2017/07/30 (日)公演終了

満足度★★★★★

牡丹燈籠はもともと話芸だけに物語の筋も趣向も飛躍(意地悪く言えばご都合主義)が多い。歌舞伎脚本が最もよく知られているのだろうが、それでも≪通し≫と言って全部やったのは見たことがない。武士社会の敵討ちとそのお家の従者たちの世話物が二重になっていて、ことにかたき討ちの因縁など複雑に絡んでわかりにくい。怪談はこの二者をつないでいるのだが、幽霊が出る事にテーマがあるわけでもない。ぐちゃぐちゃの人間関係、この世もあの世もありますよ、因果は巡る尾車の…と言うドラマなのだが、今どきそれでは見物は満足しないだろう。
と言うわけで今回の新作、もろもろの牡丹燈籠の種本を渉猟して新しく編んだフジノサツコの脚本。演出は売り出しの森新太郎である。工場(倉?)の改装した小劇場の舞台はノーセット。代わりに横に回転する舞台いっぱいに張られたスクリーンがあって、これが回る間に俳優がその隙間で演技する。と書くと、せせこましいようだが、照明と、大道具操作(回転係)の息が演技とうまくいって、見たことのない抽象舞台を作り出した。スクリーンの奥に俳優が去って照明がすっと動くと闇に溶けるように見える。場数が多い構成が説明なしで次へ行ける(これは功罪あるがそれは後で書く)。衣裳は全員現代衣裳でこれが違和感が全くなかったのはお手柄だが(木下歌舞伎もうまくいった)これにはやはり大道具をスクリーン一つにした大技の力が大きいと思う。
しかし、歌舞伎だとここは武家屋敷、伴蔵うち、船の上、とセットと衣装でハッキリ解るが、これでは、エートここはどこだっけ、だれだっけ、と理解するのに時間がかかる。テンポが速いので飲み込む前に次ぎに行くところもある。これは、原作の筋立てによるところも大きい。この話、歌舞伎でも最近は随分はしょった上にほとんど半分しかやらない。百両降ってくる世話物の部分が面白いので、仇討は添え物になっている。文学座が新劇でやった大西本などは仇討はカットである。今回のフジノ本はよくばりでずいぶん原作を取り込んでいる。構成上、面白そうなところは全部やっちゃえ、という精神だが、やはり人間関係がお客によく呑み込めていないと面白くない。お化けの出る怪談は、いはば、陰の引く話だから、もったいぶった間がないと怖くならない。余り怖くしたくないのかと思ったら、パンフレットでは演出が怖くしたいと書いている。うーんこれは歳のせいか。だが正直、後半話が詰まっていくところは駆け足で見る方も大変である。
そういう辛さも有りながら、この公演が面白かったのはナマの、役者の力だと思う。今回はキャスティングがすごい。80年代後半から現在までの小劇場、初期の東京ボ-ドヴィルの花王おさむから、チョコレートケーキの西尾友樹まで、つかこうへいアり、野田秀樹あり、道学先生にテアトルエコー、シャンプーハットといはば、独立路線を歩んだ小劇場劇団出身者にカブキ大御所の娘・松本紀保を加えた独特の大一座。現代役者名鑑である。彼らをまとめた森の演出力に改めて感服した。先ほどの話をひきとると、役者を見ていると物語の筋はあやふやでも面白いのである。細かく言えばいくらでも注文が出てくる舞台ながら、それをすべて越えて、この公演は成功だった。

不埒

不埒

TRASHMASTERS

駅前劇場(東京都)

2017/07/15 (土) ~ 2017/07/23 (日)公演終了

満足度★★★★

社会問題劇のトラッシュマスターズ。今回は東芝がメインテーマ。経済問題は、尖閣や外国人移民のように単純化できる点が見えにくいのでかなり苦労している。どこに問題点が隠されていて、どういう人間によって、そういう問題が動かされているか、と言うところに切り込もうとしているのだが、これを舞台で見せるのは難しい。やむなく、渦中の経営中間層の家庭を舞台に、労働問題から行こうとしているのだが、これもなかなか単純ではない。またまた、やむなく、市民運動や家庭内コミュニケーション、LGBTまではなしをひろげるが、こうなると新聞社会面の問題コラムのオンパレードの趣きになってしまう。何となく、ニュースペーパーのマジメ版みたいなところもあり、役者もうまくなったので、見ていれば飽きないが、尖閣を描いたときのようなドキッとする鋭さがない。東芝に絞って、問題点も仕事の意味とか、何か絞っていけば、話題を広げるよりは、標榜する社会性が生きたんではないか。しかし、この劇団が、旧左翼系のだらしない無気力劇団・作家に代わって、生きのいい社会問題に正面から向かおうとしているのは大いに期待している。作者にも何となく、現代版の宮本研を連想するのだ。

「ドドンコ、ドドンコ、鬼が来た!」

「ドドンコ、ドドンコ、鬼が来た!」

椿組

花園神社(東京都)

2017/07/12 (水) ~ 2017/07/23 (日)公演終了

満足度★★★★

もう三十年になるのか、恒例の椿組の神社のテント夏芝居。今年は女性の作者、演出者、美術と女性に占拠された公演だが、その誰もが夏のこの芝居をよく心得ていて、今どき本当に珍しいビールや焼酎を飲みながら見てもいい芝居見物になった。昔ばなし時代劇ながら、お話は盛りだくさんで、ほとんど行き当たりばったりなのだけど面白く見せる(もちろん巧みに計算づくなのだが無鉄砲な生きの良さがあるように見える)。長崎おくにちのような龍まで出てきて盛り上がるし、幕切れの加藤ちかのセットが秀逸。舞台転換速度も、こういう芝居によく似合って、文学座と言う老舗から出てきた作・演出にこういう芸があるとは!!。もう少しみぢかければもっといいのだが。2時間4分。

湾岸線浜浦駅高架下4:00A.M.(土、日除ク)

湾岸線浜浦駅高架下4:00A.M.(土、日除ク)

燐光群

ザ・スズナリ(東京都)

2017/07/06 (木) ~ 2017/07/19 (水)公演終了

満足度★★★★

今まで坂手洋二の戯曲を上演してきた劇団燐光群が故・深津篤史の初期の本を上演。演出は坂手だが、出演者も初めての人が多い。ここで燐光群がこれからの劇団活動の方向の模索としてこういう試みをするのは楽しみだが、それを評価することを前提として感じたことをいくつか。
1)坂手も認めているようにこの戯曲は深津の初期作品で若書きである。若いから時代に引きずられてるところも随分あって、直截に言うなら古い。人物造形も類型的で今となっては寓話にしかなっていない.せっかくの燐光群なら、劇団総出演で代表作をやってほしい。「うちやまつり」なんか、新しい面が見えるのではないか。
2)新しい俳優に言うのは酷だが、これでは台詞になっていない。ことに女優陣は声を出すということをもっと真剣に考えてほしい。こういうところはさすがに燐光群の役者は長い間やっているので、上手下手は置いても聞くに堪える。下手に混ぜるとバランスが悪いと思ったのだろうが、まとまったのは歌のシーンだけと言うのではカラオケではあるまいし困ったものだ。
3)こういう機会Dから、演出も少しタッチを変えたらどうだったのだろうか。坂手流でまとまってはいるのだが、型で見せられたような気がする。坂手に比べると深津のホンは随分情緒的でセリフも坂手にはない味がある(良い悪いではない)。そこが型にとらわれてしまったように感じた。
4)坂手ももう立派な中堅だが、この才能、うまくいかせる素材はないものだろうか。前期のブレスレス、天皇と接吻、神々の首都、屋根裏などは、素材も時代に迫る迫力があった。素材に政治性を求め、演劇の課題だと思うのは、井上ひさしが生涯共産党だと自身錯覚していたような不幸な思い込みのような気がする。もっと自由な広場でのびのびと書いてほしい。

DEATH TRAP / デストラップ

DEATH TRAP / デストラップ

サンライズプロモーション東京

東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)

2017/07/07 (金) ~ 2017/07/23 (日)公演終了

満足度★★

この原戯曲はミステリ劇としては著名な作品で、日本でもすでに上演された。再演で新味を出そうとしたのか、喜劇調、というよりドタバタ劇の面白さを取り入れようと試みたのだろうが、それがうまくいっていない。何も原作通りにやれと言っているのではないが、チグハグで、役者のファン以外はしらけてみているほかはない出来になった。その役者オチもほとんど楽屋オチで、ドラマには関係ない。せっかく緊密な構成の原作をやるのだから、それを生かしたうえで何かをやるのならわかるが、これでは原作へのリスペクトもなければ、普通の観客を楽しませようともしない。例によって、ジャニーズ系の俳優も出ているが生かされていない。高岡早紀も生気がない。愛之助もどこが芝居の落としどころか迷っている。佐藤仁美も、もう少し相手役との絡みの面白さを出さねば。ファンへの顔見世の一幕だ。

OTHER DESERT CITIES

OTHER DESERT CITIES

梅田芸術劇場

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2017/07/06 (木) ~ 2017/07/26 (水)公演終了

満足度★★★★

中嶋しゅうさんの御不幸は心からお悔やみ申し上げる。舞台で亡くなるのは役者の本望とは言うけれどそれは建前で、ご本人も残念なことだったろう。ことに中嶋さんは中年になってからがよくプロデュース公演の「新劇」には欠かせない俳優だった。個人的に印象に強く残っているのは舞台ではなく、映画の新しい版の「日本の一番長い日」で演じた東条英機で、今までどこか及び腰だったこの人物を正面から国民などなんとも思っていない栄達志向の軍人として演じて、一シーンだけで納得させたのは見事だった。そのリリーフは斉藤孝。演劇界では北海道地元演劇の出身者として知られているが、少し若すぎるし、中嶋さんとは感じが違いすぎる。初日は一幕しかやっていないのだから、本日初めての通し初日。これが、意外に、と言ったら失礼だが、中嶋さんとは多分大きく違う父親像としてまとまっていて大収穫。出演者五人、二時間半殆ど出ずっぱりなのだが、台詞も気が付くようなミスはなく、わずか四日にしては上出来だ。相手の母親役の佐藤オリエが、稽古のやりすぎか、いつもはよく聞こえる台詞が聞きにくかったくらいだ。
芝居そのものは、なんでいつもこうなるの、と言うアメリカ現代演劇の家庭内輪物で、かつては暖かいホームドラマだった世界を自虐的に崩壊させてみせる。女優陣が、オリエに加えて麻美れい、寺島しのぶと来れば、もう名優名演競演で、並の演出家では御しきれなかっただろうが、これも、意外に若い演出家の熊林弘高がおさえるべきところは抑え、少しはやりたいようにやらせて、抽象舞台できれいにまとめている。満席の大入り。

ネタバレBOX

この話、終盤、電話がかかってきて終わり、ではいくらなんでも甘すぎると作者が思ったのは当然だが、そのあと、ここまで後味を悪くすることはないじゃないかと、私は思った。現実のアメリカの富裕層の心もとなさを芝居ならではの人間性のある幕切れで見せてほしかった。それにしてもかつては日本の富裕層を描いた「新劇」にはいい作品もあったのに、最近全く見当たらない、いや劇作家が書けないのか。
RENT

RENT

東宝

シアタークリエ(東京都)

2017/07/02 (日) ~ 2017/08/06 (日)公演終了

満足度★★★★

この作品が初めて紹介されたときは作者が初日の前にエイズで亡くなったということが広報されて、その影響か全体に暗く、救いのない調子の舞台だった。時代を経て、今は、あの80年代を懐かしむ調子である。街中に放置された倉庫跡に集った青春、と言うネタば、日本の小劇場初期もよくやったものだ。そのままの染色工場の後もあったし。彼らが放逐されていき、それぞれが大人の生活を求めてと言うところもよくある青春ものの結末で、一人くらいはなくなって、一人は瀕死の中から生き返る。誰がそうなってもいいのだがそれらが青春回顧にうまくまとまって、今回はいわゆるミューカルスターは出ていないがよくまとまって甘酸っぱく見られる。お客の方はこれから伸びそうな役者を見つける愉しみもある。振り付けがシャレていると思ったらやはり輸入だった。動きがもう少し切れると良いのだが、歌の方はまずまずで、今までのレントの中では一番安心して見られたのではないだろうか。

ただいま おかえり

ただいま おかえり

東京タンバリン

小劇場B1(東京都)

2017/06/29 (木) ~ 2017/07/03 (月)公演終了

満足度★★★★

小劇場の劇団は一度は家族の「通夜物」をやる。身近でやりやすい(作りやすい)のだろうが、なんだか小劇場の人々の家庭事情を見せてもらっているような気分になる。タンバリンは中流家庭の、郊外に別宅(別荘と言うほどでもない)を持つほどの家庭のご主人がなくなっての「通夜」ではないが、「その後」もの。この劇団も長くなって、小劇場の技術には長けてきて、すらすらみられ、初夏の夜を過ごすにはいいのだが、だからどうだ、と言う小劇場の生きのよさはない。バランスはいいのだが、これからも見たいという役者もいない。こういう安定はどこは行くのだろう。作者が老後を気遣うのも解るような気がする。

『部屋に流れる時間の旅』東京公演

『部屋に流れる時間の旅』東京公演

チェルフィッチュ

シアタートラム(東京都)

2017/06/16 (金) ~ 2017/06/25 (日)公演終了

満足度★★★★★

三月の五日間に続く「三月の四日間」である。前作は性を持て余す若者のしょうもない日常が世界につながっていく傑作だったが、今回は若い夫婦の内面的の心情を描いて、しかも、現在の世相に強くアピールする力もある傑作である。東北震災の前後を、これほど静かに若者の心象風景で活写した作品はない。今は亡き妻が語る日常生活の一コマ一コマに溢れる詩情豊かなセリフの素晴らしさ、それが全く生活から浮いていないところがいい。トラムは満席。立ち見がぐるりと客席を囲んでいたが、後半は平凡な表現で申し訳ないが、水をうったような静謐な感動が客席と舞台にあふれて、たまにはこんなこともあると芝居見物の冥利を堪能した。

「電車は血で走る」「無休電車」(本日6/24 14時電車・19時無休電車 当日券ございます)

「電車は血で走る」「無休電車」(本日6/24 14時電車・19時無休電車 当日券ございます)

劇団鹿殺し

本多劇場(東京都)

2017/06/02 (金) ~ 2017/06/18 (日)公演終了

満足度★★★

「電車は血で走る」
このところすっかり東京ではかげをひそめた全力疾走、血と汗の小劇場である。
ご苦労さまで済ませては悪いような気がするが、やはり、こういうスタイルは新感線が完成させて360度劇場で君臨している現状を見れば、懐メロになってしまう。新感線のような役者の多彩さもないのが残念だ。いろいろ手は混んでいるのに単調に見えてしまうのも損をしている。

ネタバレBOX

葉月ちょび、執念だろうが、冷静に引いてみるのも必要だろう。赤い衣装でまとめた列車の役者たち、大阪の下町の設定、などよく出来ているのだが、効果を上げるにはもっと楽器がうまく、職人らしさが出なければ。俳優も個性をひきだしてやらないと離れていくだろう。劇団と言う組織が難しい時代になったのはわかるが、小劇場のレゾンデートルはそこで切磋琢磨できるところにある。自由劇場は劇団が同じような状況にあるときに時期に「上海バンスキング」を作り出した。
蜘蛛女のキス

蜘蛛女のキス

東京グローブ座

東京グローブ座(東京都)

2017/05/27 (土) ~ 2017/06/18 (日)公演終了

満足度★★★★

この作品は戯曲版と、ミュージカル版があるが、原作に近い戯曲版が要を得ている。かつて見たベニサンの舞台は元倉庫と言う場所もよく劇場の大きさともちょうどよく見あっていい舞台だった。その時もジャニーズの岡本健一だったと記憶しているが、今度もジャニーズの大倉忠義。こちらは芝居の経験が少ないというだけに岡本のような複雑な性的嗜好はだせず、また劇場もツルンと大きいグローブなのでスター顔見世のエンタメ性が強い。鈴木裕美の演出は例によって細かく終盤はしっかりと締めている。渡辺いっけいは次第に大蔵に心を寄せていくと女らしくなっていくところがうまい。
それはそうとして、今日の観客には驚いた。一階席で見渡したところ、関係者、記者らしい数人を除いて男性客は三人であとはすべてアラサーの女性客。彼女たちは当然ご贔屓の役者の初奮闘を見に来ているのだから、案の定、芝居の壺は外していて、板の上はさぞやりにくかっただろう。

ドグラ・マグラ

ドグラ・マグラ

演劇企画集団THE・ガジラ

【閉館】SPACE 雑遊(東京都)

2017/06/04 (日) ~ 2017/06/12 (月)公演終了

満足度★★★★

原作小説でシュールな作品を、より「具体的」な演劇にするのは難しい。字で読む想像力と、俳優によって見せられる世界の落差とでも言おうか。この小説はもともと人間の想像力について疑義を呈しているので、さらに難しい。鐘下脚本は原作の「名せりふ」?を生かしながら、その分明ならざる世界を、若い俳優たちを抽象的な舞台で演出する。その自信たっぷりな展開に引き込まれてしまうが、結局は、とても二時間では読めない原作を、久しぶりに引っ張り出してぱらぱらとめくった感じである。それを良しとするか、苦痛と感じるかは、観客それぞれの「脳髄」による。

少女ミウ

少女ミウ

森崎事務所M&Oplays

ザ・スズナリ(東京都)

2017/05/21 (日) ~ 2017/06/04 (日)公演終了

満足度★★★★

岩松了・作演出でいかにも「現代劇」らしい舞台である。スズナリながら、プロセニアム舞台の味でテレビの人気俳優を使い、東北震災後の社会の空気を少女ミウに象徴させて舞台は進んでいく。震災避難地域にある家の晩餐と、それを外側から見るテレビ局を交錯させる手法で、話は面白おかしく、しかもいつもの若松らしい皮肉も十分に効いて進む。今の震災後に対する空気がよく描かれているが、さて、楽しいかと言われると、答えに困る。やはり観客の中でも風化は進んでいるのだ。
テレビ局を鏡にする構造は、今年も永井愛の新作で使われていたが、現在のテレビ局はメディアとしては弱体化しているので喜劇的以外のパンチがきかない。今回もテレビの好きな話題作りで進むが、これはあまり成功していない。
むしろ久しぶりに見た新劇の伝統を継ぐ現代劇がよく稽古されて上演されたのを多としたい

木ノ下歌舞伎『東海道四谷怪談ー通し上演ー』

木ノ下歌舞伎『東海道四谷怪談ー通し上演ー』

木ノ下歌舞伎

あうるすぽっと(東京都)

2017/05/26 (金) ~ 2017/05/31 (水)公演終了

満足度★★★★★

昼から夜まで6時間と5分、たっぷり四谷怪談を楽しんだ。日本の古典戯曲がこのように現代の劇場で今ここで生きている人たちの手で今の演劇として上演されるのは大きな喜びだ。蜷川の近松心中に劣らない舞台成果で、ここまで新しいスタイルで古典戯曲をかみ砕いたというだけで、すごい。今年の演劇の評価の一つになるだろう。
古典の宿命で、ネタバレで気付いたこともあるが、多分そんなことは制作側は先刻ご承知と思う。まだやることはある。これが最終形などと言わず、今後も時にこの場に戻ってこの舞台を又見せてください。

ネタバレBOX

(構成について)一幕は完ぺきな出来。二幕の穏亡掘は少し焦点を見失っていると感じた。戸板返しからだんまりはあてぇのつなぎもあるので、もっと説明してもいいと思う。三幕は、大歌舞伎が三角屋敷をあまりやらない理由がよくわかった。原作もここはちょっと持て余したか、中だるみだ。丁寧にやるだけの意味がつかめなかった。コクーンなどがやるこの長さの半分くらいでいいのではないかと思う。復讐の動機付けが解ればいいのだから。大詰めへの物語の速度が落ちる。夢の場の「七夕」の童謡は突然西洋の物語が挿入されたようで、観客も戸惑う。三幕はまだ改良できるところがあると思った。
(俳優について)俳優の皆さんは好演だが。伊右衛門は現代の無知な若者風になりすぎていないか。状況からももっと、現実の社会への鬱屈があるのではないか。仲間の若者が暴走族みたいなのも面白いが、ただの無軌道になっていて、こうしなければ社会に組み入れられないドロップアウト寸前の危うさがない。人物はそれぞれよく書かれているが、そこへ俳優の個性が付け加えられないと生きてこない。蘭妖子がたつのは個性があるからで、それは排除しない方がいいと思う。あと二三人個性が出てしまう俳優がいると舞台が華やぐ。
(美術など)大道具は見事な出来だ。この劇場を立体的に使っている。薄墨のだんだらも生きた。小道具も見た目のバランスがよく神経が行き届いていて心地いい。衣裳もいろいろの工夫が楽しい。
音楽はこれも見事だが、一幕の完璧さに比べると次第に疲れてくる。ことに邦楽と洋楽のクラッシクの交錯する後半は、時に違和感を感じる。純邦楽は完全に外した方がよいのではないか、使うとしても大和楽とか。
音響で事分テンポリズムを作っていていいのだが、ヘリの音は効果的ではあるけど、どうしても「ミスサイゴン」を連想してしまう客はいるだろう。それはマイナスになる。
などと、団菊爺みたいになってしまったが、舞台成果としては本当に見事なもので、感服した。

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