北齋漫畫
東京グローブ座
東京グローブ座(東京都)
2019/06/09 (日) ~ 2019/07/07 (日)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2019/06/12 (水) 14:00
座席1階
葛飾北斎の一代記。演出の青年座、宮田慶子が関ジャニの横山裕を選んで臨んだとパンフレットに書いてあった。なかなかこの演目に挑戦できなかったのは初演へのリスペクトだそうだが、初演時の緒形拳の舞台はどうだったのか。客席を埋めた女性たちはたぶん、横山の舞台を楽しみに来た人だったと見られるが、今回は主演よりも脇を固めたメンバーの熱演が光った。
その筆頭は謎めいた女を演じたサトエリだ。その存在感は主役をしのいでいた。もっと彼女の艶かしさを前面に出して演出してほしかったが、ほとんどが女性客という状況を考えるとこんな程度で仕方ないのか。男たちをかどわす仕草、エロスがもっとストレートに出たら、さらにサトエリのよさが際立ったはず。
北斎の娘役の堺小春はよかった。北斎の娘も相当な腕前の絵師だったそうだが、そんな場面もあるとよかった。渡辺いっけいは幽霊役も含め、舞台「おもろい女」で見せてくれた軽快なユーモアを今回も存分に発揮し、ベテランらしく舞台を引っ張った。
長丁場の舞台で、休憩前の前半はテンポよくおもしろかったが、後半はいきなり二人の幽霊が舞台回しを務め、北斎90年の人生をあっという間に巻いてしまったのにはのけぞった。富士山の美しさを極限まで描いた富嶽三十六景など、名作を描く北斎の姿を見たかった。第二幕は晩年の北斎の姿が中心になっているが、あまりにも時が飛びすぎていて消化不良が残る。
先人のコメントにもあるように、横山裕にはやや荷が重かったかな、という感じだ。
横濱短篇ホテル
劇団青年座
カメリアホール(東京都)
2019/06/07 (金) ~ 2019/06/08 (土)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2019/06/07 (金) 18:30
座席1階
幕が下り、客席が明るくなった時、後ろから「あーおもしろかった」との大きな声が聞こえた。
ソワレの後、亀戸の飲み屋で舞台を語ろう。そんな気持ちになった。舞台を見てよかったなあ、という思いがあふれる秀作だ。
私は初めて見たが、何回も、各地を回って上演されている作品だ。マキノノゾミと宮田慶子のMMコンビで、汽笛が響く老舗ホテルを舞台に7話で構成されている。最初は1970年の初冬、最後は明示されていないが平成の終わりのころという感じだろう。高校生だった主人公たちは各場で成長し、大人になり、それぞれの人生が交錯し、中にはこの世を去ったという人もいる。
だが、この舞台の面白さはそれぞれの話が完全に独立して、一話完結型という物語でありながら、人間関係が微妙な糸を結んで「あ、あのときのあの場面が」という具合に思い起こし、関係づけながら舞台を楽しんでいけるところにある。
それぞれの時代の風俗をうまく取り込んでいる。それは役者たちの服装だったり、当時の若者言葉であったり、昭和から平成にかけて生きてきた観客にはクロニクルのように「ああ、そうだよな」と納得できる。
中島みゆきの「糸」を思い出してしまう。小さな物語にちょっと涙腺が緩む。そんなたくさんの起伏を味わい、それを反芻しながら幕は下りる。そして「あーおもしろかった」となるのである。
夢の果(ハタテ)
チーム・クレセント
ザムザ阿佐谷(東京都)
2019/06/06 (木) ~ 2019/06/10 (月)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2019/06/06 (木) 19:00
座席1階
若い感性で当時の映画界を席巻した脚本家白坂依志夫の物語。フィクションと断っているが、この舞台の脚本を書いたニシモトマキが、交流のあった白坂氏のエピソードから着想したという。
仲代達也の野獣死すべしなど名作が多い白坂氏だが、女優や若手作家など華やかな人脈、交際でも知られる。今回の舞台でもその片鱗は出てくるが、物語はサブタイトルにもある、文壇のドンに歯向っていく展開だ。
孤児を描いた「お菓子放浪記」の西村滋作品をやり続けてきたチームクレセントらしいテイストもしっかり入っている。テンポよく進む舞台は、簡素な舞台美術とともに、演者たちの会話に集中してのめり込める。舞台回しを脚本家志望で白坂氏の家に潜り込んだという設定の女中にやらせたのは成功していると思う。
化粧二題
こまつ座
紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)
2019/06/03 (月) ~ 2019/06/16 (日)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2019/06/06 (木) 14:00
座席1階
この井上戯曲、初めて拝見した。
いずれも大衆演劇の座長役としての一人舞台。すべてがおそらく、役者の選択で決まる舞台だ。最初に登場する女座長を有森也実、次いで出てくる男座長を内野聖陽が演じた。
有森也実がサラシを巻いて肌をあらわにたんかを切る、という場面にドキドキしてしまった。こういう役に挑戦したその心意気を買いたい。ただ、今日のマチネは声の調子が今ひとつだったのか、若干かすれ声で、客席から「頑張れ!」と応援したくなるようなか弱さが邪魔をした。
後段の内野聖陽の物語と直接つながりはないが、何となく二つの舞台を結び付ける糸のようなものが引いてある。それはラストシーンで結ばれることになるのだが、その演出はちょっとアングラ演劇っぽくて好きです。
内野聖陽は迫力があったが、ややかっこよさというかスマートさが前に出てた感じ。もっと泥くさいところがあったら、さらによかったと思う。
いずれもの楽屋も、ライトの当て方を工夫してうまく演出してあった。客席を挟んで大きな鏡があるという設定で有森と内野が化粧をするのだが、本当に鏡があると錯覚させられる秀逸の演技だった。
舞台美術に力が入っていて、この舞台を最大限に盛り上げている。若い世代が集まる現代演劇の世界からは遠く離れた、昭和の演劇の姿を楽しみたい。
ざくろのような
JACROW
座・高円寺1(東京都)
2019/05/29 (水) ~ 2019/06/02 (日)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2019/05/29 (水) 19:30
座席1階
社会派演劇中村ノブアキが、会社のリストラ物語をベースに中国に食われる日本の技術など今日的な話題を盛り込んで仕上げた迫真の舞台。再演というが、自分は初めて見せてもらった。
女性の上司、親会社が買収された会社に送り込んできた人事担当が女性だったりという部分も世の中を映し出している。会社とは従業員にとってどういう存在なのか。社員それぞれの考え方や生き方、家庭の事情などで答えが変わるその問いを、サラリーマンが多いと思われる観客席に突きつける。
会社に必要とされる人材かどうか。一番決定的な部分だろう。そういうところを拠り所自分たちは頑張るのだと思うが、その会社という存在がきわめてあいまいなつかみどころのないものだということが、今更のように胸に響く。
何のためにこの会社にいるのか。あまり答えたくない質問をずっと舞台から突きつけられてきた2時間だった。
骨ノ憂鬱
劇団桟敷童子
すみだパークスタジオ倉(そう) | THEATER-SO(東京都)
2019/05/21 (火) ~ 2019/06/02 (日)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2019/05/23 (木) 14:00
座席1階
今回の桟敷童子も遺憾なくそのパワーと浪花節、さらには劇的な驚きを用意。観客席をその世界観に引きずり込んだ。
舞台は九州。3人兄弟の物語だが二男とその一人息子、3兄弟の父を中心に進んでいく。一人息子の子ども時代を振り返る形だ。
桟敷童子の舞台はいつも、脇役が光る。徘徊する老婆、傘ばあちゃんがきわめて重要な役割を果たしている。
驚きの舞台装置は今回も各所に用意されている。前例の客席には水よけのビニールが配られるように、舞台脇の池は、重要な装置となる。ラストシーンは花園神社のテント舞台顔負けの驚愕の仕掛けだ。物語を貫く真っ赤なトマトがまぶしかった。
時にはやかましいほどのはっきりした台詞回しが、ぐいぐいと舞台を引っ張っていく。
海と日傘
劇団俳協
TACCS1179(東京都)
2019/05/22 (水) ~ 2019/05/26 (日)公演終了
満足度★★★
鑑賞日2019/05/22 (水) 19:30
座席1階
前回見た「ナースコール」は看護師の労働環境をテーマにしたにぎやかな舞台だったが、今回は落ち着いた、しっとりした物語だった。
重い病気で死を覚悟した妻が、さりげなく夫のこれからを案じる。具体的な行動はないが、自宅に薬を届けに来た看護師に独り身かと聞いたり。おそらく、原稿を取りに来ていた女性社員との不倫にも気づいていたのかもしれない。
医師からの外出許可で夫婦は海に行くことにするが、来客で行けずじまいになる。もう最後のデートかもしれないのに、悲劇的だ。舞台は感情の起伏もなく淡々と進んでいく。
岸田国士戯曲賞を取った作品という。どう仕上げていくのか、腕の見せ所だったかもしれない。前回作と比べてしまったのは、抑揚の少ない作品の難しさだ。
ダブルキャストの片側を見ただけなのでわからないが、妻役の女優さんは健闘したと思います。ただ、作品に少し起伏を付ける演出があった方が良かった気がする。
Taking Sides~それぞれの旋律~
加藤健一事務所
本多劇場(東京都)
2019/05/15 (水) ~ 2019/05/29 (水)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2019/05/16 (木) 14:00
座席1階
見どころは、ナチスに水面下で協力したと疑われた名マエストロ役の文学座小林勝也と取調官の加藤健一との丁々発止のやり取りだ。多くのユダヤ人を救ったと尊敬を集めるマエストロ。職務に忠実で、マエストロは聖人だとのいわば常識を疑うアメリカ軍の取調官。取調室の部下たちも堂々とマエストロの味方をする中で、冷静とは言えないがマエストロを追い込んでいく演技は、カトケンならではの迫力だ。
確かに嫌な役だと思うが、常識や大多数側を疑うという姿勢は大切だ。タイトルのどっちの味方か、というのも示唆的だ。
演出も良かった。元生命保険の営業という取調官も戦争のトラウマを負っており、これが音と背景の演出でうまく表現されていた。オーケストラを構成する多くの楽器が舞台にさりげなく配置してあったのも目を引いた。
ナチ政権が名門オーケストラを利用したのはよく知られている。名曲に罪はないかもしれないが、文化までも戦争協力者にさせられる世の中の再来はゴメンだと、舞台は訴えている。
獣の柱
イキウメ
シアタートラム(東京都)
2019/05/14 (火) ~ 2019/06/09 (日)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2019/05/15 (水) 19:00
座席1階
本当に久しぶりにイキウメの舞台を見た。切れ味の良さは変わらない。なんだかホッとした感じもした。期待を裏切らない舞台だ。
超常現象を描き、客席を空想の世界に連れて行くのに力を発揮する劇団だ。今回は無上の幸せを感じられるが、他力によって目を離すことができなければそのまま死んでしまうという、天から降ってくる柱を巡る物語だ。ある意味、天からの安楽死という感じだ。この「世界の終わり」からどう生き延びるか。天は次の世界に連れて行く、すなわち選ばれし人間をどう選んでいるのか。さらに、この柱を振らせているのは何者なのか。
舞台はいつものようにテキパキと進む。光と効果音を的確に使い、分かりやすい。今回もあちこちにメタファーが散りばめられ、見ている自分たちの想像力がクルクルと回転する。イキウメの舞台を見てきたなぁという、頭の回転の余韻が、観劇後に心地よく感じられる。
一人ミュージカル「壁の中の妖精」
Pカンパニー
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2019/05/09 (木) ~ 2019/05/12 (日)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2019/05/10 (金) 14:00
座席1階
春風ひとみ、見事というしかない。間違いなく彼女ならではの一人舞台であり、高度な一人ミュージカルだ。何度も再演を重ねている、木山事務所の作品では上演回数1位というが、見ていない人はぜひ、見た人もあの感動をもう一度味わいたい。
舞台はスペイン内戦。フランコ圧政のなか、30年もの間自宅の壁の中に隠れて生き続けた革命の闘士、その男と妻、娘の物語を春風ひとみがナレーターも含めて一人で演じる。演じるのは幼女から老女まで、性別も年代も超える。舞台を目一杯使い、客席まで巻き込んで物語をかき立てる。
ピアノとギターの音楽、効果音。さらにデフォルメされた影絵。上演を重ね練り上げられた舞台を一体化し、見事な芸術作品に昇華させた。
これは、一つの至宝。見ないと損するぞ。
疾風のメ
くちびるの会
吉祥寺シアター(東京都)
2019/04/17 (水) ~ 2019/04/22 (月)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2019/04/22 (月) 15:00
座席1階
本日千秋楽。胸に秘めたものを吐き出すように、にらむことによって猛烈な風を吹かせる特殊な能力を持つ青年の物語。
一見、やさしさに見える優柔不断というか煮え切らないのが身上の主人公。結婚に踏み切れない決断力のなさに、一緒に住んでいた彼女に逃げられてしまう。職場帰りの繁華街で当たり屋にカツアゲされ、あっさりお金を支払ってしまう。
友人を助けようとして不幸をしょい込んでしまうこの青年は、持て余し気味の特殊能力とどう付き合って生きていくのか。
池袋ロサ会館の看板というギャグなど、かなりの昭和テイスト。だが、客席を埋めた若いお客さんたちは、結構笑っている。千秋楽のサービスではないだろうが、駐禁の看板を俳優がひっかけてしまうハプニングまであった。
しかし、結論には少し疑問が残る。疾風の扱いに脚本がぶれたのではないか。この結末では、特殊能力や世間の不条理など何もかも一人で背負って去っていってしまい、だからどうなのかということになりかねない。せっかく舞台の中で築き上げてきた関係性を、ラストシーンだけでばっさりやってしまったようだ。
かつての別役不条理劇も頭によぎったが、あの不条理性とも交差点はないような気がする。
虐待をしていると疑われる介護職員に、はっきりその事実を突き詰められない、つまり、周囲や仲間に気を使って傷つけない関係性については、なるほど、そうかもとリアリティーがあった。
役者たちははつらつとしていて、笑いも多く、好感の持てる舞台だった。
新・正午浅草
劇団民藝
紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)
2019/04/17 (水) ~ 2019/04/28 (日)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2019/04/17 (水) 18:30
座席1階
永井荷風の伝記的舞台。平成が終わろうとする今、先の戦争に突入していく日本の世間を日記などで冷笑し続けた荷風を描く舞台を上演するのは、今に荷風が警鐘を鳴らすというとても重要な価値がある。
15分の休憩を挟んで3時間近い。若い頃から老境を体現した荷風だが、本人が年老いてからを起点に戦前を振り返る構成で、荷風の亡父が夢に出てきて会話するなど、高齢の演者によるゆったりとしたペースの会話劇が進む。だが、舞台は平板ではなく、荷風の会話がすっと胸に入ってくる。
荷風を演じた水谷貞雄は85歳。享年79歳の荷風よりずっと年上だ。この長い舞台を分かりやすく、情感たっぷりに演じきった。賞賛に値する舞台だ。
つながりのレシピ
秋田雨雀・土方与志記念 青年劇場
紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)
2019/04/05 (金) ~ 2019/04/14 (日)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2019/04/11 (木) 19:00
座席1階
亡き妻の残したパンのレシピ。会社人間で定年直後に妻をなくして閉じこもる夫が、妻がやろうとしていたことを引き継ぐようにして地域に溶け込んでいく物語。ホームレス支援をする団体でボランティアをする元ホームレス、精神的に病んでいる人たちが、この夫を支えるように取り囲むのがいい。
ホームレスへの世間の無関心、町内の偏見など、よく取材を重ねて練り上げられた脚本だと思う。親の過干渉で引きこもる少女が元ホームレスのメンバーとパンを焼くことで自立の道を歩こうとする話も、リアリティがあった。しかし何よりも、ホームレスとか精神病とか引きこもりとか全く関心がなかった定年後の会社人間が大きく変わっていくのが、この舞台の見どころだ。
台詞の中に「自分たちは普通の人間」といってホームレスとは違うという場面が出てくる。何が普通かというものさしがいかに狭い世界で使われるのかということを、この舞台は実感させてくれる。
血と骨
トム・プロジェクト
ザ・ポケット(東京都)
2019/04/10 (水) ~ 2019/04/14 (日)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2019/04/10 (水) 19:00
座席1階
映画にもなった有名な作品を、各劇団から集まった選りすぐりの俳優たちが熱演した。
主役の俊平を演じた劇団昴の金子由之は、身勝手だが内から湧き上がるどうしようもない感情の発露を懸命に表現した。だが、今の時代には稀有な存在で、しかも在日という出自を背負って荒れ狂う男を内面から演じきるのは難しい。荒れ狂う一方で見せる優しさも、あまりに落差が大きい。きわめて困難な舞台であったと思われる。その困難性は妻役の文学座、名越志保も同じだったろう。どんな暴力にも、夫の女癖にもこれは運命と耐え続ける。一度の反抗も見せないその胸の内に自分を支えた確固たる面影がある。それをおくびにも出さないけど何かあると感じさせる演技が必要だ。
総じてどの俳優も健闘した。舞台のテンポもよく目が離せない展開で客席を引きつけた。だが、やはりこの作品の深さを見せつけるには編集などで強化できる映像作品の方が有利だったかもしれない。生身の人間が目の前で演じる舞台ならではの色合いはあったと思うが、やや荷が重かったなと感じた。
コーカサスの白墨の輪
東京演劇集団風
レパートリーシアターKAZE(東京都)
2019/04/03 (水) ~ 2019/04/07 (日)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2019/04/06 (土) 14:00
座席1階
人情あふれるブレヒト劇。さまざまな劇団が演じてきた名作で、やっぱり最後の判決に向かうあたりに注目と期待が集まる。
裁判の争点になる子どもを人形に演じさせるのは多数派だろうが、劇団風は人形を多用した。他のレパートリーでも人形をうまく使った作品は多く、人形の使い方はこなれている。でも、今回人形に演じさせた領主などの役を俳優がやった方がよかったような気もする。
裁判官が呑んだくれのアツダクだと宣告され休憩前の前半が終わる。ミュージカル仕立てでテンポはいいのだが、後半の裁判場面を考えるとちょっと長い気も。さらに、育ての親が貧困と苦難の中で育てる場面や、婚約者(だったと思うが)の兵士が生きて帰り、自分の妻が小さな子どもを抱いているのを見てショックを受ける場面はちょっとあっさりしていた。
歌や踊りを交え、全体を通して楽しく見られるのがいい。ふたつの階段を舞台両脇に配し、上下空間も含めて3次元的に役者を駆け回らさせた演出は、客席との距離もきわめて近く、迫力があった。
ReMemory 『生きのこった森の石松』 『あい子の東京日記』
燐光群
ザ・スズナリ(東京都)
2019/03/19 (火) ~ 2019/03/26 (火)公演終了
満足度★★★
鑑賞日2019/03/19 (火) 19:00
座席1階
女一人、男一人の独白劇。それぞれ、パーソナルな人生、人間関係などが語られる。独白ではあるが、台詞は坂手さんらしい味付けになっている。
続けて上演されるが、休憩なしの別舞台。中山マリの方が自分は興味深かった。昭和テイスト満載だったためだろうか。今の時代から見ればバカバカしいほどピュアだったりするわけで、かなり懐かしかったりする。
森の石松は、ちょっと時代がずれている分だけ感情移入しにくい。でも、これも静岡おでんのようにいい味を出しているのだ。
血のように真っ赤な夕陽
劇団俳優座
俳優座スタジオ(東京都)
2019/03/15 (金) ~ 2019/03/31 (日)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2019/03/15 (金) 19:00
チョコレートケーキの古川健書き下ろし作品を、俳優座のベテランたちがアトリエ公演で披露した。ソ連参戦と前後して国家に見捨てられ、塗炭の苦しみを受けた満蒙開拓団の物語。
古川さんのことだから、緻密な取材をベースに練り上げた作品なのだろう。貧しい田舎の信州から新天地を求めて開拓団に加わった3家族は、お互いに協力をし合って開拓を進める。与えられた入植地が先住中国人がまだ開拓する前の土地で、開拓地を安く買い叩いて中国人を追い出した土地でなかったこともあり、中国人との軋轢がなく、地元民との協力関係があったことが、その後の開拓団の運命を左右する。
悲劇一色の開拓団がほとんどだと思うが、このような恩返し的な歴史があったとは、史実なら救われたような思いがする。それは、学問があるとか地位があるとかいう前に、人間としてどう他民族と付き合うかという根源的な問いを突きつけている。
休憩含み3時間近くの舞台だが、最後まで食い入るように見た。
喝采
加藤健一事務所
本多劇場(東京都)
2019/03/13 (水) ~ 2019/03/17 (日)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2019/03/14 (木) 14:00
座席1階
パンフレットで加藤健一が、ブロードウエイのロングランにあたる再演だと書いている。ブロードウエイのロングランは、評判が良くてチケットが売れるからそうなるわけだが、カトケン事務所が再演をしてきたというのは、ブロードウエイのロングランに相当する自信作、ということなのでしょう。
前回の「Out Of Order」とは違って大爆笑の連続で楽しませてくれるカトケンワールドではないが、本来は見ることができない演劇の舞台裏の人間関係などをこの戯曲の経糸として楽しむことができる。さらに、カトケン演じる主役の往年の名優の夫婦関係が横糸になる。酒浸りになり落ちぶれた盟友を支える妻を演じるのが竹下景子。これもパンフレットに書いてあったのだが、小田島恒志、則子の二人の翻訳家が苦労したという1950年代アメリカのちょっと微妙に含蓄のあるセリフ。舞台で実際にそのセリフを聞いてうーんなるほどと感じ入ってしまうのは、翻訳の妙も当然あるけど、やはり経験値の高い女優、竹下景子ならではのせりふ回しなのではないか。
Pカンパニーの林次樹、ワンツーワークスの奥村洋治と、おおっと思う俳優たちによる座組も興味深い。新人女優役の寺田みなみは、カトケン事務所公演のボランティアスタッフをしていた経験もあるというから、その下積み経験を土台とした晴れ舞台に拍手。
休憩をはさみ約3時間とやや長いが、納得のいく舞台だった。
SWEAT
劇団青年座
駅前劇場(東京都)
2019/03/06 (水) ~ 2019/03/12 (火)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2019/03/06 (水) 19:00
座席1階
熱量のある舞台だ。米国の作家による作品を小田島氏が訳し、青年座らしい完成度の高い戯曲に仕上げた。
ラストベルトと呼ばれる、かつては活気があった工場城下町。移民国家アメリカでは誰もが夢を持ち、よりより生活を目指して働く。ところがITバブルが弾け、より労働単価が安いメキシコなどに工場を移転する動きが強まり、労働者たちは分断され、お互いの仲間を傷つけあっていく。うまく回っていたころはあまり表に出なかった肌の色による差別、中傷。仕事を後から来た移民に奪われる怒り、恐怖。社会は分断され、荒れ果てていく。
実際の取材に基づくリアルな話だけに、迫力がある。外国人労働者を安価な労働力として受け入れようとしているどこかの国への、警句であるようだ。
本来は青年座のアトリエ公演で行われる舞台だったと思うが、今回は下北沢駅前劇場の小空間で。しかし、初日の舞台はとにかく客席が暑かった。休憩込みで3時間に及ぶだけに、もう少し空調だけは何とかならなかったものか。とても引き込まれるいい作品なのだが、結構辛かった。
寒花
文学座
紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)
2019/03/04 (月) ~ 2019/03/12 (火)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2019/03/04 (月) 18:30
座席1階
タイトルの寒花とは、極寒の地に舞う雪という。文学座がアトリエで上演したものをサザンシアターという比較的大きい劇場で再演、その初日を拝見した。
初代韓国統監伊藤博文を暗殺した安重根が処刑前に収監された旅順の監獄が舞台。信念を持って殺害を実行した安が毅然と、泰然と死刑を受け入れようとしているのに対し、監獄の看守長や通訳など日本人たちはそれぞれの思いや背景を抱え、落ち着かない。日本はアジアの盟主として君臨しようと体裁を維持するのに腐心しているのが情けない。それはともあれ、死に向かう人間の心理、心の動きを少し斜めから見つめている舞台といえる。
今の時代の価値観から言えば、どんな理由があれ暗殺は許されない。その観点では安を英雄的に描いていて落ち着かない感じも。今の日韓関係には寒花が舞っていて、歴史の教訓を考えるのも、なんだかタイミングがよくない気も。舞台を見た後、かなりの重みを体に感じたのは、そんな今の政治状況があるからかもしれない。