かずの観てきた!クチコミ一覧

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顕れ ~女神イニイエの涙~

顕れ ~女神イニイエの涙~

SPAC-静岡県舞台芸術センター / コリーヌ国立劇場

静岡芸術劇場(静岡県)

2019/01/14 (月) ~ 2019/02/03 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2019/01/16 (水) 13:30

座席1階

静岡に出張し、日本初演、フランスからの凱旋公演を見た。中高生の演劇鑑賞会と同席したため、宮城聡芸術総監督自らの丁寧な前説があった。
アフリカ奴隷貿易に加担した原罪と向き合う舞台。先祖がその原罪に口を閉ざし、新たに生まれる人に入る魂たちが、輪廻を拒否する。その死生観というか、魂への考え方が日本人とそっくりなところに驚く。
宮城氏がク・ナウカで取り組み始めた二人一役の演出が堪能できる。言葉と身体の動きが引き裂かれているところに、なぜこんな面倒なことをと思うが、舞台が進行していくうちに違和感がなくなっていくのが不思議。そのゆったりとした動きが話者にくっついていく。神との対話を描く舞台で、その演出はとてもしっくりくる感じだ。
東京では味わえない舞台を堪能。来た甲斐があった。

ネタバレBOX

ラストシーン。神さまからの伝言が客席にばら撒かれる。言葉の吹雪を浴びながら、歴史を曲げずに伝えることの大切さを感じることができる。
夕闇、山を越える/宵闇、街に登る

夕闇、山を越える/宵闇、街に登る

JACROW

小劇場B1(東京都)

2018/12/20 (木) ~ 2018/12/27 (木)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2018/12/20 (木) 19:30

座席1階

田中角栄生誕100年。今太閤、コンピュータ付きブルドーザーともてはやされたが金権政治で失脚する。その人たらし、人間的魅力を佐藤内閣後の総裁選を巡る激しい権力闘争の中に描く。
もう今から半世紀近く前の政治だから、若い世代のお客さんはこの舞台の面白さを倍増するために少し事前の予習があった方がいい。当時の自民党は派閥の領袖が争い、政策を競い合い、いい意味では活気があった。今の安倍一強のもの言えぬ政治とは違い、権謀術数あれど、日本をどうするのかということに論争があった。舞台では、歴代総理に名を連ねる男たちが登場するが、それぞれが個性的で、泥臭く描かれる。まぁ、権力闘争なのでそんな感じになるのだろうが。これにノスタルジーを感じてしまう昭和世代にはたまらない舞台だ。
もちろん金が乱れ飛ぶ当時の政治がいいわけじゃない。だが、表向きは何ごともないように見せかけて何でもありの問答無用の力づくでくる安倍政治を見ていると、人間らしい政治だったのかもと感じてしまうわけだ。
さて、田中角栄のダミ声、何を言っているか分からない大平、機を見るに敏な竹下、融通がきかない三木。それぞれの俳優がいい味を出して演じている。本人と似ているそぶりに笑いが起き、客席の満足度の高さを示した。
舞台回しに山口淑子を起用。これがツボを突いて成功している。有名人ばかり登場する政治群像劇は難しいのではと思ったりするが、シリーズ第2弾ということもあってか完成度は高い。
面白かった。体力があるお客さんは、第1弾と続けての鑑賞に挑戦してほしい。

ネタバレBOX

中曽根が李香蘭のファンだったとは! 本当ですかと作演出の中村さんに聞いたら、創作ですとの答え。いゃぁ、笑えるアイデア😊
リトル・ドラマー・ボーイ

リトル・ドラマー・ボーイ

演劇集団キャラメルボックス

サンシャイン劇場(東京都)

2018/12/15 (土) ~ 2018/12/25 (火)公演終了

満足度★★★

鑑賞日2018/12/16 (日) 12:00

座席1階

劇作家の成井豊が書いているように、人気劇団キャラメルボックスが力を入れるクリスマス公演。タイトルからクリスマス仕様で、客席にその力でプレゼントを、という趣向。
久しぶりに見たキャラメルボックスの舞台だが、気のせいか今回は思い切り感動したとは言えません。主人公設定がどんな病気やけがも治してしまうヒーラーというところにあるのだろう。その超能力を使うと、確実に死が近づくという説明だったが、当然だけど要所要所では使ってしまう。このあたりが、物語の次が見えてしまい、ラストの感動を薄めてしまった気がする。
客席は2階席まで満員で、若いお客を中心に支えられているところが分かる。だからこそ丁寧な作りが望まれる。セリフが早速すぎて不明瞭なところがあったり、舞台転換もちょっと雑なところがあった。

ネタバレBOX

ラストシーン、主人公が左手で握手を始めて変だなと思った。左手はヒールする利き手だ。その直後、やっぱり!
予測がつくと、感激が薄まってしまう。残念だ。
ゼブラ

ゼブラ

ONEOR8

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2018/12/04 (火) ~ 2018/12/09 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2018/12/09 (日) 15:00

座席1階

2005年初演のこの劇団自信作。再演にあたり、満を持しての登場だ。「大家さんと僕」で手塚治虫賞を受賞した異例の芸人、矢部太郎がいい味を出している。これから北海道や岩手などで地方公演もあるという。その地域の皆さん、見ないと損するぞ。
人気作とあって、本日千秋楽には午前中に追加公演が組まれた。客席を埋めた千秋楽のお客さんはちょっとおとなしかったようだが、かなり大笑いできる部分も多く、成功していると思う。普通なら、もっと笑いの渦が起きてもおかしくない。
ゼブラとは白黒のシマウマ。これがお葬式の白黒の幕につながるのだが、4姉妹それぞれに女手一つで育ててくれた亡くなった母親への思いが舞台に交錯する。この交わり方のテンポがよくて、まったく飽きさせない展開で舞台は進んでいく。認知症と思われる症状で入院して最期を迎えた母親の気持ちも涙を誘った。
やはり脚本の妙なのだろう。作・演出の田村孝裕は配られたパンフレットで「20年たってもソコソコの劇団」と謙遜するが、同時に書いている「底力」を見せつけている。4女それぞれの性格がおもしろいし、それぞれが大人になって抱えている事情も面白い。末っ子を元モーニング娘。の新垣里沙が演じている。まあまあの存在感だ。
あえて言えば、矢部太郎のために作ったとしか思えない最後の最後の部分は余計だった。わたし的に言わせてもらえば、その手前で暗転、幕切れにした方が感動が倍増した。

葬儀の生前予約、というのは今風だ。また数年後、例えば劇団30周年でもやってみてほしい。また、違った空気感で笑ったり泣いたりできるのではないか。

ネタバレBOX

葬儀屋兄弟はなぜ、柿がそんなに嫌いなのだろう。このあたりのギャグも本当に笑える。
その恋、覚え無し

その恋、覚え無し

劇団桟敷童子

すみだパークスタジオ倉(そう) | THEATER-SO(東京都)

2018/11/27 (火) ~ 2018/12/09 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2018/12/08 (土) 18:00

座席1階

桟敷童子の舞台いつも迫力がある。この演目はいつもに増して力強かった。嵐を表現する天井からの激しい流水の音に勝たないと聞こえないのだから、当然かもしれないが、役者さんは大変である。今回は4人の盲目祈祷師を演じた女優4人のパワーが際立っていた。
山岳信仰色濃い山里の物語。村の少女が失踪し、神隠しに遭ったのではと村の総力を挙げての山狩りが始まる。女漁師が水車に絡んで目にけがを負う事件が起き、舞台は緊迫度を増す。
以前の「オバケの太陽」でも度肝を抜かれたが、衝撃のラストシーンだ。目が見えない人は素晴らしい景色なんて見えないと考えがちだが、目で見るのでなく心で感じるものだと気付かされる。

ネタバレBOX

とにかくラストがいい。目が覚めるよう
舞台風景に満足度倍増だ。
グレイクリスマス

グレイクリスマス

劇団民藝

三越劇場(東京都)

2018/12/07 (金) ~ 2018/12/19 (水)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2018/12/07 (金) 18:30

座席1階

この作品は、劇団民藝の魂を受け継ぐ名作だ。タイトルのグレイクリスマスは、白い雪が何もかも隠してしまう美しいホワイトクリスマスでなく、汚いものを隠すものがない雪の降らぬクリスマスという意味。何と示唆に富む一言。この舞台の底流にどっしりと構え、観るものの心に突き刺さる。
民藝の舞台は、前作の「時を接ぐ」に次いで歴史を見つめ直す作品。連続ヒットの仕上がりだ。
二度と戦争はしない。ピープル、国民に主権がある。占領軍民政部が心を砕いた日本国憲法だが、憲法は単なる言葉なのであって魂を吹き込み続けるのはピープル、国民次第なのだ、と。今この名作を再演する意味はここにあるのだろうが、私はこの舞台が描く人間のしたたかさ、あざとさ、悔しさという部分に惹かれた。
屋敷を接収され、生きる能力のない当主。その没落ぶりが面白く描かれる。米将校のホステス役を買って出るお嬢様たちの生命力はなかなかだ。限界を生きる姿は、今の平和に慣れた体にカツを入れる。
秀逸なのは、元男闘呼組の岡本健一だ。伯爵家に巣食ってうまく立ち回る在日朝鮮人の役だが、ナレーションも含めた舞台回しの役割を見事にこなした。
タイトル通り、毎年のクリスマスに舞台設定した脚本は歯切れがいい。「この演目だけは自分がやりたかった」と言ったという丹野郁弓の演出も良かった。

ネタバレBOX

ラストに憲法の条文の一部を朗読する場合がある。このメッセージをどう受け止めるか、この舞台の評価につながるかも。
おかしな二人

おかしな二人

劇団テアトル・エコー

恵比寿・エコー劇場(東京都)

2018/12/01 (土) ~ 2018/12/12 (水)公演終了

満足度★★★

鑑賞日2018/12/06 (木) 19:00

座席1階

ニール・サイモンの喜劇。荒れ放題の男の部屋で夜な夜な繰り広げられるポーカー。その部屋に妻子に三下り半を突きつけられた綺麗好きの男が転がり込む。何となく始まる二人の共同生活。とても合いそうにない二人なのだが、友情というか愛情が芽生え始め、仲間たちも応援する。
休憩を挟んで2時間半は少し長い。全編笑いに包まれ切れのいい台詞の応酬が続くだけに、もっとシャープにアレンジできなかったものか。だが、笑いの満足度は高い。R ICOら女性陣の演技も納得だ。セクシーさを前面に、視線を釘付け、あきさせない。

ここで苦情を一つ。劇団関係者と言葉を交わしていたからたぶん招待客だと思うが、大いびきを立てているのは顰蹙だ。せっかくの舞台が台無しだった。こういう喜劇でよく爆睡できるなと思うが、寝るなら静かに寝てほしい。星3つなのはそのせいです。

喜劇 有頂天団地

喜劇 有頂天団地

松竹

新橋演舞場(東京都)

2018/12/01 (土) ~ 2018/12/22 (土)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2018/12/03 (月) 16:30

座席3階

渡辺えりとキムラ緑子を中心に繰り広げられるドタバタ喜劇。昭和の香りあふれる舞台設定、ギャグの数々で「これを見にきた」という客席を十二分に満足させた。
古くからの住宅街に土地を区切って小さな一戸建てが新築される。新旧住民の小さなあつれきと、奥様がたの近所付き合いが、笑いの主役だ。しかし、なぜか小学校低学年の子どもと一緒に学ぶおじいちゃん(笹野高史)がとにかく面白い。現実社会でもこんな学びは結構いいんじゃないかと思うような子どもたちとのやりとりだ。
還暦を過ぎた渡辺えりの軽快な立ち回り、実年齢よりずっと若い奥さんをかわいく演じてみせる女優魂というか、実力には感服する。本人いわく、菊池桃子ふうの奥さん像を設定したとか。体力的には相当厳しいだろうと思われる、主役たちの演技に注目だ。
幕間に流れる昭和歌謡の数々にも癒される。

梟倶楽部

梟倶楽部

Pカンパニー

西池袋・スタジオP(東京都)

2018/11/28 (水) ~ 2018/12/02 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2018/12/01 (土) 14:00

座席1階

Pカンパニーのアトリエ公演を初めて見た。池袋にちなんだ江戸川乱歩を原作に、お客がまるでなぞのスポットに迷い込んだような感覚で楽しめる。
特に女優たちの存在感がいい。須藤沙耶のくるくる変わる表情、機敏な立ち回り。セリフが短くイキイキとしている。アトリエならではの熱量を感じることができる。
シンプルな演出も効果的だ。初冬のひと時、池袋の異空間を堪能させてもらった。

評決-The Verdict-

評決-The Verdict-

劇団昴

あうるすぽっと(東京都)

2018/11/29 (木) ~ 2018/12/11 (火)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2018/11/29 (木) 19:00

座席1階

迫真の裁判劇だった。それだけに、休憩を含めて2時間半は少し辛い感じも。
医療過誤で植物状態になった娘と母が、病院を訴える。病院はボストンでも有数の規模で、医師たちは最善を尽くしたと反証する。裁判官も露骨に病院寄りの訴訟指揮で、資金力もない原告弁護士は窮地に追い込まれる。だが、あきらめることのない弁護士は、形成逆転につながる重要な証人を得る。

劇団の総力をあげたという熱演が続き、さすがだと感服する。だが今日は初日のためか、舞台回しにぎこちなさも見られた。

評決というタイトルだが、評決を下す陪審員席が最後まで空席だったのは気になる。原告と被告の対決に絞るなら、舞台装置に陪審員席はない方が良いのでは。

久しぶりの昴の舞台、堪能しました。

残り火

残り火

劇団青年座

ザ・スズナリ(東京都)

2018/11/22 (木) ~ 2018/12/02 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2018/11/27 (火) 19:00

座席1階

犯罪加害者と被害者のそれぞれの家族にスポットを当てた物語。双方の家族の苦しみ、慟哭が交互に編まれる。
事件はあおり運転の末、被害者の車の前に割り込んで止め、車から降りた父、母、兄が加害者ともめているところにトラックが突っ込んで車に残った妹が死亡する。裁判で実刑になり、服役を終えたさらに数年たった時から物語が始まる。
脚本は社会の出来事に優しくも鋭い視線で舞台をつくる瀬戸山美咲。青年座が続けている若手劇作家とのタッグだ。この取り組みはこれまで、老舗青年座のテイストとうまく化学反応を起こして見応えのある舞台に仕上がっている。今回はミナモザの瀬戸山だけに期待値を上げながらシモキタに乗り込んだが、期待を裏切らない、秀逸なできだった。
司法の場ではかなり以前にけりがついていても、人の心は時間がたったからといってかたがつくものではない。悲しい現実、忘れたい事実に折り合いをつけながら被害者家族も加害者家族も生きている。残り火が再燃するように双方の家族が絡み合うとき、どんな思いが交錯するのか。
取材を尽くしたこの秀逸な脚本に命を吹き込んだのは、青年座黒岩亮の演出だ。客席に息もつかせず引き込んでいく役者たちのやりとり、舞台転換の時に音だけで事件を語る技巧。鍛え抜かれた役者たちの存在感も大きい。
見事な1時間40分だった。

サイパンの約束

サイパンの約束

燐光群

座・高円寺1(東京都)

2018/11/23 (金) ~ 2018/12/02 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2018/11/26 (月) 19:00

座席1階

沖縄の人たちが入植し、先の戦争で苛烈な戦場になったサイパンの家族の物語。少女の記憶を元に映画を作るという設定で、現代日本の感覚も取り入れながら舞台が進む。
状況説明も役者にセリフとして語らせる坂手劇。朗読劇のようなので初めての人は戸惑うかもしれないが、テンポよく進んでいく。サイパンが刻んだ過酷な歴史は戦後が遠くなった今、思い出されることも減っている。沖縄の歴史と交錯させてこれを語り継ぐ手法は、二つの島を生きた人たちが日本という国家に下等民族扱いされ、蹂躙されてきた歴史を真正面から客席に突き付ける。
坂手劇の特徴は、これらを現代日本の政府に対する厳しい批判としてはっきり示していることだ。現代日本と「サイパンの約束」があるとしたら、我々はまだ、その約束を果たしきっていないと痛感させられる。

ナース・コール

ナース・コール

劇団俳協

TACCS1179(東京都)

2018/11/21 (水) ~ 2018/11/25 (日)公演終了

満足度★★★

鑑賞日2018/11/21 (水) 19:30

座席1階

ナースコールというタイトルに、コメディかと勝手に想像した。基本的にはその路線だが、謎の感染症に病院あげて闘うなど今日的要素も盛り込み、見応えのある舞台に仕上がった。
さまざまな患者に真摯に対応する看護師たち。経営のことしか考えない事務当局との対立や、ブラックといえる勤務体制など、今の看護現場が抱える問題点も描かれる。ただ、ちょっと欲張り過ぎかもしれない。見ていて忙しい感じだ。
芝居だから仕方ないと言えばそれまでだが、危険な感染症患者を毛布にかぶせて担架ではこんだり、感染防止対策がしてなかったり、リアリティに欠けるところも気になった。アウトブレイク状態になったとき、医師一人に対応させるという筋書きは現実離れしている。
2時間ちょっとという舞台が長いというわけではないが、午後7時半開演は遠方の身にはつらい。

われらの星の時間

われらの星の時間

劇団俳優座

俳優座劇場(東京都)

2018/11/08 (木) ~ 2018/11/18 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2018/11/15 (木) 14:00

座席1階

ラッパ屋の鈴木聡が脚本を書き、オフィスクレッシェンドの佐藤徹也が演出を担当。軽い認知症の高齢者5人が集団脱走し、ハロウィンの街を仮装して歩き回る、という物語。認知症の人が「ぼけている」とき、どういう思考回路になっているのかを分かりやすく提示している。認知症の人にどう接するかを一般の人が学ぶのに、とてもいい教材になっている。
演出も見事だった。特によいのが、場面転換などの音楽にボレロを使っているところだ。最初はピアニシモから始まるボレロは最後、強烈な盛り上がりを見せて幕切れとなるのだが、この舞台も、物語と共にする音楽としてはまさにぴったりなのだ。
最後の方で、タイトルの謎解きもされる。丁寧なつくりだった。
介護や認知症問題を縦糸に、報道の在り方が横糸と成って紡がれる。テレビ局ではスポンサーや関係者に配慮して本当のことを伝える番組作りができなくなっているのかもしれないが、しがらみを振り切って新人ADとディレクターが奮闘する、という物語はそれなりにおもしろい。が、それが介護の物語と良好なパートナーになっているかという点では少し疑問が残る。これはこれで重要な問題だから、「報道の在り方」単独での舞台があっていいようなテーマだ。
さすが俳優座だけに、高齢者から若者まで役者揃い。せりふもよく通るし、間の取り方もしっかりしていて安心してみていられる。俳優座は「七人の墓友」でも高齢者問題をうまく切り取って舞台化した。この作品も鈴木聡の書き下ろしだ。次作にも期待したい。

終盤では感動で涙が出た。秀作だ。

太陽の棘

太陽の棘

劇団文化座

シアターX(東京都)

2018/11/08 (木) ~ 2018/11/18 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2018/11/08 (木) 19:00

座席1階

原田マハの小説を舞台化。戦後間もない沖縄で、当地の若き芸術家たちと占領軍の米兵との交流を描く。
老舗文化座のイメージとは違い、舞台はとにかく明るいムードで進んでいく。賄いのおばちゃん役を務めた佐々木愛の寒いおやじギャグは台本通りなのだろうが、凄惨な沖縄戦のにおいはしない。それは、戦争が終わって若者たちが自由に芸術ができるという喜びだ。
その一方で、やはり血の海に沈んだ沖縄と占領軍という、交流というにはきわめて釣り合わない現実も合間に顔を出す。占領兵にしてみれば、単なる母国へのおみやげなのかもしれないが、沖縄の若者たちは生きるために絵筆を取るのである。
舞台はテンポ良く進む。佐々木愛の演技はさすがだ。実年齢よりかなり若く見えたので、最初、この賄いのおばさんが佐々木愛だとは気付かなかったくらいだ。一方で芸術を演じた若者たちのはつらつとした動きが印象に残る。

パンフレットに劇団温泉ドラゴンのシライケイタが一文を寄せている。こっちも文化座との取り合わせでいくと、かなり異質な感じがして注目してしまう。それを分かっていてかシライは大まじめに「もはや、新劇とそれ以外という区別があるべきではない」と語っていて、幕間の時間を大いに盛り上げてくれている。

移動

移動

(公財)可児市文化芸術振興財団

吉祥寺シアター(東京都)

2018/11/07 (水) ~ 2018/11/14 (水)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2018/10/07 (日) 19:00

座席1階

別役作品を竹下景子が鮮やかに演じた。
家財道具を積んだリヤカーを引いて、ひたすら歩き続ける老夫婦を含めた家族。途中で年老いた父が亡くなり、動かなくなったリヤカーを直しては進み続ける。後戻りをせず歩き続けたその先には。
別役氏がこれを書いたのはきっと、もっと前だろうから、強烈なラストシーンは今風のアレンジなんだろう。しかし、このラストは予想外だった。一定のスピードで静かに進んでいた舞台がちゃぶ台返しされたようだ。逆に言えば、そこまで我慢してこの不条理に耐える価値は充分にある。
さらに想像を巡らせれば、現実のこの世こそが別役氏の想像を超える不条理であるということが、痛烈なテーゼとして示される。
何も考えずに一つの方向に進み続けることの怖さを噛み締めたい。
このような別役劇を初めてみた。拍手を送りたい。

テクニカルハイスクールウォーズ 鉄クズは夜作られる

テクニカルハイスクールウォーズ 鉄クズは夜作られる

劇団スーパー・エキセントリック・シアター(SET)

サンシャイン劇場(東京都)

2018/10/12 (金) ~ 2018/10/28 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2018/10/25 (木) 13:00

座席1階

三宅裕司率いるSET。三宅と小倉久寛のお約束コントを期待してくる中高年層と、若手役者のキレのあるダンスや演技を応援する若い客層。サンシャイン劇場は幅広いお客が一緒にカーテンコールの拍手をする、他ではなかなか見られないおもしろさだ。
また、昭和のギャグで笑い転げる人と、最近のギャグ。幅広い年齢層を喜ばせる丁寧な脚本だ。
とにかく面白い。物語も、取材に基づく現代の日本の課題がベースだし、社会派劇といってよい。現実味がある物語の中で、笑えるし共感できるというのは、この劇団ならではだ。

ネタバレBOX

もう一つ、お約束のカーテンコール時の三宅、小倉トークが楽しみだ。私が見た時は、初日のドタバタの舞台裏がバラされ、とんでもない失敗をネタにして「そういうのを見たい人はぜひ初日に」と大笑いだった。
女の一生

女の一生

文学座

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2018/10/23 (火) ~ 2018/10/28 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2018/10/24 (水) 13:30

座席1階

文学座のアイデンティティである演目。劇団初の座付き作家森本薫の最後の戯曲で、終戦の年に空襲の合間を縫うようにして上演されたという。主人公の布引けいは、その当たり役として杉村春子が長年演じてきた。そのレガシィをどう後世に引き継いでいくか、というのは文学座最大のテーマであると言っていい。この演目は、その答えを観客に示す舞台でもある。
山本郁子が布引けいを初めて演じたのは2年前という。演出補として名前を出しているベテラン鵜山仁は、「杉村春子や平淑恵の不在が、後に続く俳優たちの成長を促すことを知った」とパンフレットに書いている。それこそが、アイデンティティの継承ということなのだろう。
休憩を挟んで3時間に及ぶ長編だが、幕あいの切り替えもテンポがよく、しっかりついていける。大正・昭和の女性がどう社会と付き合い、どう生き抜いていくかを客席はしっかり目にすることができる。平成の終末にこれを演じることの意味は大きいと思う。
焼け野原でダンスを踊ろうとする有名な幕切れは、やはり印象的だ。舞台装置は初演時より進んでいるのだから、焼け跡がもっとリアルだったらより、印象に残ったのではないか。
登場する俳優はどの人も、鍛え抜かれた演技を見せてくれる。一つの老舗劇団の魂に触れることができる舞台だ。

藍ノ色、沁ミル指二

藍ノ色、沁ミル指二

演劇集団円

吉祥寺シアター(東京都)

2018/10/18 (木) ~ 2018/10/28 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2018/10/23 (火) 19:00

座席1階

心を揺さぶる家族劇だ。藍染という、ビジネスからはみ出してしまった伝統芸術を横糸に、家族の思いを縦糸に、ここでしか作れない色の布が織りあがった。
タイトルの沁みる指に、という言葉が象徴的だ。藍染の仕事は指が染め上がってしまう。自分の娘を仕事場から遠ざける、というのも、家族の関係に微妙な影を落としていた。お父さんとおじいちゃんは自分の好きな仕事をして、稼ぎや子育ては女たちに押し付け。当たり前だからと従ってきた妻や娘たち。男たちはそんな思いに気付くよしなもなかった。
三人きょうだいの妹を演じた木原ゆいがいい。舞台のリード役を自然にこなしていた。無口だが誠実な職人であり、きょうだいの父を演じた金田明夫はさすがだった。

うリアしまたろ王

うリアしまたろ王

劇団山の手事情社

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2018/10/18 (木) ~ 2018/10/21 (日)公演終了

満足度★★★

鑑賞日2018/10/18 (木) 19:30

座席1階

声を出す、動く、舞台で舞う。超スローモーションも滑らかにこなす山の手メソッドを十分に堪能できる。リア王は、ぴったりの題材かもしれない。
安田雅弘によると、リア王と浦島太郎の語感が似ていて、さらに老いがテーマであることからタイトルを混ぜてしまったそうだ。演出や構成はユニークで、竜宮城の姫が舞う。劇画調の舞台を楽しめるが、それをリアルに見せることができるのは、やはり鍛えられたメソッドのなせる技だ。
有名なシェークスピア劇だからいいのかもしれないけど、物語を知らない人には難解だ。

ネタバレBOX

ラストシーンはなぜか東京音頭。冒頭から傘がたくさん開いて置いてあったのだが、そういう結末?
まさかね(笑)

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