満足度★★★★
鑑賞日2019/04/10 (水) 19:00
座席1階
映画にもなった有名な作品を、各劇団から集まった選りすぐりの俳優たちが熱演した。
主役の俊平を演じた劇団昴の金子由之は、身勝手だが内から湧き上がるどうしようもない感情の発露を懸命に表現した。だが、今の時代には稀有な存在で、しかも在日という出自を背負って荒れ狂う男を内面から演じきるのは難しい。荒れ狂う一方で見せる優しさも、あまりに落差が大きい。きわめて困難な舞台であったと思われる。その困難性は妻役の文学座、名越志保も同じだったろう。どんな暴力にも、夫の女癖にもこれは運命と耐え続ける。一度の反抗も見せないその胸の内に自分を支えた確固たる面影がある。それをおくびにも出さないけど何かあると感じさせる演技が必要だ。
総じてどの俳優も健闘した。舞台のテンポもよく目が離せない展開で客席を引きつけた。だが、やはりこの作品の深さを見せつけるには編集などで強化できる映像作品の方が有利だったかもしれない。生身の人間が目の前で演じる舞台ならではの色合いはあったと思うが、やや荷が重かったなと感じた。