たいこどんどん
Bunkamura
Bunkamuraシアターコクーン(東京都)
2011/05/02 (月) ~ 2011/05/26 (木)公演終了
満足度★★★
猥雑な珍道中
若旦那・清之助と太鼓持ち・桃八の滑稽な道中記でした。
井上ひさしさんの駄洒落と下ネタに溢れた戯曲が、蜷川さんの演出によって猥雑に描かれていました。
江戸でのちょっとした事件から東北地方を転々とすることになった2人が、行く先々で災難に見舞われる様子がゆったりとしたペースで描かれ、未来への希望と不安を同時に感じさせる終わり方が印象的でした。
桃八を演じた古田新太さんが膨大な量の台詞を見事にこなし、さらに色々な場所で笑いを取っていて素晴らしかったです。中村橋之介さんと鈴木京香さんは見せ場があまりなくて残念でした。
三方を囲む鏡の壁と、座敷、書き割りの家や木の全てが可動式で大勢の黒子を使って人力でスピーディーに場面転換をしていたのが面白かったです。
途中で何度か現れる歌は日本の音楽をベースにした感じだったのに、テーマ曲的に扱われてた既成の2曲が異なるテイストだった意図が把握できなくて、もどかしいです。直接的な下ネタが多いのはコクーンの客層には合っていない感じがしました。
C-34c「月に憑かれたピエロ」他
KARAS
東京国際フォーラム ホールC(東京都)
2011/05/05 (木) ~ 2011/05/05 (木)公演終了
満足度★★★★
勅使川原×シェーンベルク
シェーンベルク作曲のソプラノと器楽アンサンブルのための『月に憑かれたピエロ』の生演奏と共に踊る企画で、この曲が持つ表現主義的な雰囲気がダンスによって増幅され、素晴らしい内容でした。
音楽祭のチラシや公式サイトには勅使川原さんの名前だけがクレジットされていたので、佐東利穂子さんも出演していて嬉しい驚きでした。個人的には同時期に公演している『サブロ・フラグメンツ』より良いと思いました。
調性がないため一般的な意味でのドラマ性が弱く、歌も普通のクラシック的な発声ではなく喋るような感じな歌唱法なので、取っ付きにくい印象のある曲ですが、ダンスが加わることによって曖昧模糊とした響きの曲に必然性が感じられて興味深かったです。また、この曲の中に退廃や狂気、耽美といった要素だけでなく、皮肉な笑いの要素があることもダンスによって炙り出されていました。
勅使川原さんには珍しく、顔の表情を表現に取り入れていたのが印象に残りました。
1回限りの公演でしたが、照明も細かく演出されていて、「音楽に合わせて踊ってみました」レベルのものとは全然異なるものになっていたと思います。
この日のラ・フォル・ジュルネの公演はこの公演ともう1つの公演しか売れ残っているものがなかったので、当日に買えるチケットということで事前情報なしで観に来た客が多かったのでしょうか、『ピエロ』が始まって10分くらいまでは結構な数の客が帰っていました。チャイコフスキーのバレエみたいなものを期待して来ていたのだったら気の毒ですが、最後まで観れば良くも悪くも何かしらのインパクトを与えられる公演だったので途中退場するのが勿体なく思いました。
サブロ・フラグメンツ
KARAS
川崎市アートセンター アルテリオ小劇場(神奈川県)
2011/05/01 (日) ~ 2011/05/08 (日)公演終了
満足度★★★★
躍動する身体の存在感
クラシック音楽をバックに、スピード感のある動きの中に鋭さと柔らかさを併せ持つ非常にクオリティの高いダンスが繰り広げられ、時間と空間における身体の在り方について新鮮な印象を残す作品でした。
真っ黒の空間に真っ黒の衣装で、前半はバッハの無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ1番&2番やシューベルトのピアノソナタ第21番を中心とした音楽が使われ、照明もシンプルな中でそれぞれのソロが続き、各自の個性を楽しみました。テンポのゆったりした曲でも細かく早い動きが多用されていて、しかもそれが曲の雰囲気に合っていたのが印象的でした。
有名な『シャコンヌ』を用いた佐東利穂子さんのソロを経て、後半は色々な曲や群舞や照明効果が使われていて躍動感がありましたが、要素が多過ぎるためゴチャゴチャしていて、芯が見えないように感じました。
勅使川原さんの振付は特に足捌きが個性的で、爪先と踵を細かく床に接地させ、ムーンウォークを断片化・高速化したような不思議な浮遊感がありました。
勅使川原さんと佐東さんはダイナミックで流動的な動きが途切れずに持続するのが素晴らしかったです。若手4人は技術的には勅使川原さん・佐東さんに比べてまだまだこれからと感じましたが、難しい振付を踊りきろうとするエネルギーが魅力的でした。
公演の内容とは直接関係しませんが、チラシのデザインがかなり格好悪く、勅使川原さんのことを知らない人にはアピールしなさそうで、勿体なく思いました。
平田オリザ・演劇展vol.1
青年団
こまばアゴラ劇場(東京都)
2011/04/28 (木) ~ 2011/05/17 (火)公演終了
満足度★★★
『さようなら』鑑賞
平田オリザさんと石黒浩さんのコラボレーションによるロボット演劇は既に何作か発表されていますが、今回やっと観ることが出来ました。20分弱の静かな会話のやりとりの中に、人/ロボット、生/死の境界を意識させられる要素が散りばめられていて、考えさせられる内容でした。
ある外国人の女性のために親が購入したアンドロイドは人の心を読む機能を持っていて、自分の死期が近いと感じている女性が自分の心情に合った詩を読んでもらう話で、2人ともほとんど動かずに淡々と会話が続き、ジェミノイドFとブライアリー・ロングさんの表情に惹きつけられました。
最前列で観たのですが、アンドロイドを演じた(というべきなのでしょうか?)ジェミノイドFの口の動きと録音された台詞がずれているように見え、違和感を持ちました。また、スピーカーがジェミノイドの後方に置かれていて、ジェミノイド自身が発声しているようには聞こえなかったのですが、これはもっと離れた席なら気にならないのかもしれません。
現段階では顔と上半身の角度のみコントロールしていて、手は自律的には動かないのですが、役者がジェミノイドの手を取って持ち上げたときが一番ジェミノイドに命を感じました。
有限な人間の命と破壊されない限り続くジェミノイドの命の対比を感じさせる静かな終わり方が美しかったです。
寿歌
劇団東京乾電池
アトリエ乾電池(東京都)
2011/04/28 (木) ~ 2011/05/04 (水)公演終了
満足度★★★★
コミカルで寂しい不条理劇
柄本明さんの自邸の地下に設けられた「アトリエ乾電池」の杮落とし公演。
時代はおそらく未来で、核戦争が終わって、ほとんど人がいなくなった世界を放浪する旅芸人2人と、途中で出会う不思議な能力を持つ男の道中を描いた作品で、ベケットの『ゴドーを待ちながら』やイヨネスコの『椅子』を思わせるシーンもあり、コミカルな中に寂廖感が残る不条理劇でした。
しっかりとした演技力のある上に見せるドタバタぶりや外しっぷりが鮮やかな3人のやりとりがとても面白かったです。小さな劇場ですが照明や美術がしっかり作り込まれていて、特に後半に出てくる演出は小さな劇場だからこそできる内容で良かったです。ラストシーンがとても美しく印象的でした。
戯曲も30年以上前に書かれたもので、この公演もたしか3月11日より前に決まっていったと思うのですが、コンピューターのエラーでミサイルが飛んだり、放射性物質が宙を舞っている描写があったりと、今の日本の状況とリンクしていてちょっとビックリしました。
わが星
ままごと
三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)
2011/04/15 (金) ~ 2011/05/01 (日)公演終了
満足度★★★★★
言うことなしの傑作
噂に聞く通りの傑作でした。構成・台詞・役者・音楽・ダンス・照明など全ての要素が高い精度で組み合わされていて、今までに観たことの無いスタイルの舞台芸術となっていました。
開演前のアナウンスも作品に組み込まれていて、断片的なシーンの切り替えがや反復が次第に繋がって見えて来て、地球の誕生から消滅まで、人の一生、実際の時間の3つの時間のレイヤーが巧みに重ね合わされていました。
普通の家族の生活が演じられているだけなのに心を動かすものがあり、
久々に演劇を観て涙が止まりませんでした。
ぜひレパートリー作品として今後も上演を続けて欲しく思います。
平田オリザ・演劇展vol.1
青年団
こまばアゴラ劇場(東京都)
2011/04/28 (木) ~ 2011/05/17 (火)公演終了
満足度★★★★
『ヤルタ会談』と『走りながら眠れ』鑑賞
実在した人物を扱った2つの短編を鑑賞しました。
どちらも少人数の対話劇でユーモアがありながらも、その後の歴史がどうなったかを知っている観客の立場からすると、ただ笑ってもいられない作品でした。
『ヤルタ会談』
スターリン、ルーズベルト、チャーチルの3国間の会談をまるで日常会話のように下世話に描き、ブラックなジョークが満載で、青年団の作品には珍しく客席から起こる笑い声が絶えない作品でした。
役者3人とも太めな体型で、戯画化したような格好が滑稽でした。会話も風刺的な内容を絶妙な間で進められ、楽しめました。
『走りながら眠れ』
パリで監獄に入れられた後に釈放され帰国した大杉栄と、その妻の伊藤野枝の日常を描いていて、政治思想的には急進的な人でも普通の生活を送っている様子が朗らかに描かれていました。
政治的な話題はほとんど出ず、妻が進めているファーブルの昆虫記の翻訳の話や、大杉栄が海外で見聞きしたことの話など、他愛の無い話が続き、幸せな夫婦の雰囲気が良く出ていました。
妻を演じた能島瑞穂さんの表情の変化が多彩でチャーミングでした。
2作とも歌を歌いながらお茶を入れるシーンから始まり、元からそういうト書きのある脚本なのか、今回の特集のために統一感を持たせたのか気になりました。
ハッピー!!―夢ヲ見ルマデハ眠レヌ森ノ惨メナ神様―
おぼんろ
GALLERY LE DECO 1F(東京都)
2011/04/28 (木) ~ 2011/05/05 (木)公演終了
満足度★★★
手作りの暖かみ
蚕の世界を舞台にした、幻想的で、タイトルとは裏腹に悲しく切ない物語でした。前半は独特の世界観に少々入り込み難かったのですが、後半のドラマチックな展開は勢いがあって引き込まれました。
手作り感溢れる衣装や小道具、メイク、照明が童話的な雰囲気を醸し出していました。普段は演劇公演に使われないルデコの1階の空間を所狭しと動き回り、狭さを感じさせませんでした。クライマックスでの演出はこの会場だからこそできる手法で、とても効果的でした(実は見切れてしまって、ほとんど見えなかったのですが…)。
主宰の末原拓馬さんはトリックスター的な雰囲気があり、ナイーブなキャラクターの演技も良かったです。
客入れ時には出演者総出で客を席に案内し、ドリンクやおつまみのサービスや、アイスを賭けたジャンケン大会など、フランクに客をもてなそうとする心意気に好感を持ちました。
正直、脚本や演出はもうひとつというところもありましたが、演劇に対する情熱が強く感じられ、応援して行きたいと思わせる魅力がありました。
グラデーションの夜 《群青の夜》 《黒の夜》 《桃色の夜》
KAKUTA
アトリエヘリコプター(東京都)
2011/04/13 (水) ~ 2011/05/01 (日)公演終了
満足度★★★
ほっこり桃色
『桃色の夜』は恋にまつわる小説3編をオリジナルストーリーを間に絡めながら進行する作品でした。
どの話もドラマチックな大恋愛を描いたようなものではなく、実際にありえるような日常的な内容で共感しやすいものでした。演出も過不足のないとても分かりやすいもので安心して観ることが出来ました。演技も朗読も落ち着いたトーンで、耳に優しい雰囲気が気持ちよかったです。
恋愛に奥手な30歳の女性が一人旅を描いた『いま何時?』、結婚・離婚を経験して恋することに腰が引け気味な40代の女性2人を描いた『わか葉の恋』、トリッキーな設定ながら一途な思いが心を打つ『春太の毎日』と、それぞれテイストが異なりバラエティ豊かで楽しめました。特に『わか葉の恋』の2人の演技がユーモラスで良かったです。
オリジナルストーリーの『グラデーションの夜』は、ある1編のネタバレみたいになっているのがもったいなく感じました。
『群青』のときとは異なり(『黒』も『群青』と同じ客席配置だったそうです)、客席が対面配置となっていましたが、それほど演出上の効果が感じられませんでした。映像を使うなら前回と同じレイアウトのままの方が見やすかったと思います。
今回は音楽とのコラボレーションで、物語の内容に相応しい素敵な歌と演奏でした。
ニューヨーク、ニューヨーク
東葛スポーツ
Glad(東京都)
2011/04/22 (金) ~ 2011/04/24 (日)公演終了
満足度★★★
HIPHOP
舞台上手にいるDJの繰り出すリズムトラックに乗せて他愛のない話をラップで綴る作品で、有名人をディスったり映画やテレビの映像をサンプリングしたりと、ラップだけでなく全体的にヒップホップカルチャーの雰囲気が出ていて楽しかったです。
開演前のアナウンスから次第にヒップホップなテイストになって、そのまま本編に入って行くやり方が面白かったです。基本的に役者はこたつに入っていて視覚的に単調だったので、動きが欲しかったです。あと、もっと緊迫した台詞の掛け合いを観てみたかったです。
堀口聡さんのラップは様になっていましたが、他の人たちはもう少しという感じでした。しかし、逆にリズムに乗り切れてれていない感じが面白かったです。松村翔子さんと佐々木幸子さんは2月にチェルフィッチュの『ゾウガメのソニックライフ』に出演していましたが、そのときと全然違う感じの演技で幅の広さを感じました。
ひとがた流し
ブルーノプロデュース
タイニイアリス(東京都)
2011/04/22 (金) ~ 2011/04/25 (月)公演終了
満足度★★★★
演劇/PLAY /遊び
内容・構成とも良い意味でオーソドックスな小説をリアリズムな演出ではなく、実験的な要素の強い演出を施して舞台化していました。19時を少し過ぎての開演で15分の休憩を挟んで終わったのは23時前、と小劇場ではなかなか見られない長時間の作品でしたが、途中で時間を気にさせることもない密度の高い公演でした。
40代になった幼馴染みの3人の女性を中心とした物語で、前半は多くの登場人物が現れ軽やかな雰囲気でした。休憩後の後半は長いモノローグやダイアローグが支配的な展開でシリアスなテイストが強くなりますが、過度に重くしたりドラマチックにしたりしないバランス感覚が良かったです。
同時多発会話や複数の役者が同時に同じ台詞を言うなど現代的な手法が使われている中、取り分け目を引いたのは、他の役者の動き(おそらく半ば即興)を真似しながら台詞を言ったり、コントロールが効かない程度までの動きをするなどの即興的・遊技的な演出でした。そのことによって、演じられる役と演じている役者の間に奇妙な距離感が生じていて、面白い効果をあげていました。
後半、役者が舞台に入るときに繰り返される動きが、あるシーンに向かって意味が明らかになっていくのが素晴らしかったです。
真っ白な美術や照明、エレクトロニカ系の音楽を中心とした立体的な音響も良かったです。
出演者+オペレーターの人数より客の方が少なかったみたいです。他の劇団の公演でチラシを見掛けることもほとんどありませんでした。せっかくの力作なのに勿体ないと思いました。
オーカッサンとニコレット
カタカナ団プロデュース
笹塚ファクトリー(東京都)
2011/04/20 (水) ~ 2011/04/24 (日)公演終了
満足度★★★
賑やかな中世物語
中世の王子と姫の冒険譚を小ネタをふんだんに取り入れた分かりやすい演出で音楽劇にしていて、子供でも楽しめるような朗らかな雰囲気を湛えた作品に仕上がっていました。
物語自体は愛し合う若き男女の別れと再会、という単純なものですが、語り手を色々な役者が受け持ったり、コント的なシーンを入れたり、歌や楽器の演奏があったりと賑やかでした。
丁寧に作られている分、全体的にスピード感があまり感じられないマイルドなテイストになっていたのが残念でした。もっと見世物小屋的な猥雑な雰囲気があった方が楽しくなると思いました。
ベテラン役者たちの演技が緩そうに見えながらも締めるところは締めていて流石でした。語り部的に現れる、赤いドレスに身を包んだ「歌姫」(紫竹あかねさん)の澄んだ歌声が美しく、印象に残りました。タイトルロールの2人は真面目に演じていましたが、周りに負けていたように思います。
川と出会い
青年団若手自主企画 ブライアリー企画
アトリエ春風舎(東京都)
2011/04/20 (水) ~ 2011/04/23 (土)公演終了
満足度★★
川の流れのように
隅田川、渋谷川、荒川、テムズ川などの映像をバックに6人のダンサーが踊り、川にまつわるエピソードを語る作品でした。
電子音とプリペアド・ピアノと尺八の音を中心にしたアンビエント的な音楽に乗せて、バレエのムーブメントを多く用いたしなやかな振付が美しかったです。
客席の配置を普段と90度方向を変え(遅刻すると入場出来なさそうです)、幅の広い空間を端から端まで使っていました。
青年団の役者の人たちも高い身体能力があり、役者としてではなく、ダンサーとして舞台に立っていて、青年団の役者陣の幅広さを感じました。
ダンスと語りを交互に配置した分かりやすい構成とバリエーションの豊富な動きは丁寧に作られていると思いましたが、川の流れのように滔々と時間が流れてメリハリがないため、単調で実際の時間(75分程度)より長く感じました。動きに関しても、もっと身体の表現力を感じさせて欲しく思いました。
映像のオペレーションにミスが多かったのが残念でした。パタッと切り替えるのはタイミング的にシビアで、観ている方も視覚的に疲れるので、フェイドアウト&インで変えた方が良いかと思いました。
アートのちから
スパイラル
スパイラルガーデン(東京都)
2011/04/09 (土) ~ 2011/04/19 (火)公演終了
満足度★★★
良い企画
地震の復興支援のチャリティー企画で、アート作品の展示・販売やダンスパフォーマンスの上演を通して義援金を募っていました。芸術家が自分の出来ることで復興に協力する、意義深いイベントだと思います。17日に上演された2本を観ました。
森山開次×ひびのこづえ×川瀬浩介『LIVE BONE』
昨年秋にギャラリー・エー・クワッドで上演された作品の再演でしたが、観客とコミュニケーションを取ったり、音楽との駆け引きがあったりと即興的な要素が多いので、前回と異なるところも多く楽しめました。
山田せつ子『ミライクルクル』
女性ダンサー3人がインドの音楽に乗せてしなやかに踊り、洗練された動きや、付かず離れずな3人のフォーメーションが美しかったです。具体的な物語はありませんが、タイトルのように明るい未来を予感させる雰囲気があり、希望を感じる作品でした。
カフカノート Kafka's Notebooks
水牛
イワト劇場(東京都)
2011/04/16 (土) ~ 2011/04/17 (日)公演終了
満足度★★
断片から立ち上がるカフカの世界
カフカの残した断片的なテキストを朗読と音楽と無言劇で舞台作品化していて、独特の仄暗い雰囲気がありました。
対面配置の客席の間に設置された白いテーブルの上にテキストが置かれ、4人の演者が入れ替わり席について読みあげ(時には歌い)、残りの3人がテキストに沿って演じ、1つの断片が終わると机をコツンと叩いて次の断片に移るという形式で淡々と進行し、音楽も朗読もあまり感情的にはならずに中庸な感じが1時間ちょっと持続していました。
短いものは1行、長いものは7~8分かかるのものまであり、『審判』や『失踪者(アメリカ)』のエピソードを思い起こさせるような断片もあって興味深かったです。
テキストや、ピアノで演奏される無調のぶっきらぼうな感じの曲は良かったのですが、舞台作品としては演出された感じがあまりなく、散漫な印象を受けました。衣装のテイストの不一致や身体表現のぎこちなさがカフカの世界に入る妨げになっていたように思います。
高橋悠治さんがいわゆる「巧さ」を指向する音楽観ではないことを知っていても、歌に関してプロとアマチュアを同等に扱っている意図が良く分かりませんでした。
剥き出しの腕がむかえにくるのを待っていた
くロひげ
STスポット(神奈川県)
2011/04/15 (金) ~ 2011/04/16 (土)公演終了
満足度★★★
卒業式と地震
3月11日の地震後の生活と、過去の中学の卒業式の日のある出来事がコラージュ的に交互に何度も繰り返されながら展開される構成の作品でした。
言い間違え、言い直しを含みながら途中で話が逸れかけるモノローグや、役と役者が固定されていないことや、状況と合致していない仕草とダンスの間のような身体表現など、現代的手法を多く用いていました。
3人の女性が卒業式の日に学校に向かう途中に猫の死体を発見したものの遅刻できないので放って行ってしまったエピソードと、数年後あの地震があった後に開かれた同窓会において3人の考え方が齟齬が生じるエピソードを中心にして、そのシーンの台詞や動作が断片的に散りばめられていました。
冒頭は卒業式の答辞を読むシーンで、客席が保護者席あるいは来賓席として作品に取り込まれていていたのが面白かったです(チケットも胸章を模したものでした)。クライマックスで読み上げられる谷川俊太郎さんの詩『生きる』や3人が全力で走り続けるシーンが印象的でした。
単純な物語を凝った構成・演出で観せて興味深かったのですが、絶叫や泣きなどの感情的な演技が強く出過ぎていて、構成によって心を動かされることがなかったのが残念でした。もっと静かな演技でも伝わるかと思います。
公式サイトの「まどろ観」の説明に「リラックスできる客席」とありましたが、今回は普通のセッティングの席で、作品も緊張感のあるものだったので、リラックスという感じではありませんでした。まどろんで観る作品も観てみたいです。
女生徒
鳥公園
神楽坂 フラスコ(東京都)
2011/04/15 (金) ~ 2011/04/18 (月)公演終了
満足度★★★
浮遊感のある太宰
少女の独白体で書かれた短編小説を男女2人の役者で舞台化した作品で、発話法や体の動きがテキストに対して不思議な距離感を持っていて、浮遊感がありました。
原作を3割程度カットして、ちょっとした遊び心の台詞が追加された以外は原作に忠実でした。同じ格好をした2人が同時に主人公を演じたり、急に別の登場人物になったりと、原作を知らないと少し混乱しそうな演出でしたが、原作に見られる文体の使い分けを増幅するような多様な発話スタイルの採用や、文脈に則っているけど次第に分離して見えてくる動作など、演技に趣向を凝らしていて楽しかったです。
変にドラマチックな方向や笑いの方向に持って行くことのない、役者の気負わない雰囲気が良かったです。小道具や音響も使わず、わずかな照明の変化と演技だけでも求心力がありました。
当日パンフや客席のベンチもナチュラルなテイストの中にセンスの良さが感じられました。
60分と短めの上演時間でしたが、個人的にカットしないで欲しかった部分がいくつかあったので、もう少し長くても良いと思いました。
グラデーションの夜 《群青の夜》 《黒の夜》 《桃色の夜》
KAKUTA
アトリエヘリコプター(東京都)
2011/04/13 (水) ~ 2011/05/01 (日)公演終了
満足度★★★
しっとりとした『群青』
『朗読の夜』と銘打った公演ですが、いわゆるリーディング公演ではなく、地の文は語り手が読み、台詞部分は役者が普通の芝居として演じるという形式での上演でした。
4人の小説家の短編作品と桑原さん作の『グラデーションの夜』が交互に繋がる構成で、戯曲の文体とは異なる小説の文体が新鮮だったのと同時に、全体的に落ち着いた雰囲気が心地良かったです。
暴力団に入ることを志望する謎めいた青年のが現れて去るまでの短い期間を描いた『ネオン』(桐野夏生)、毎晩ピエロの格好で公演に現れる男性との会話によってゆるやかに心境が変化していく女性を描いた『ピエロ男』(田口ランディ)、池袋を擬人化してコミカルに池袋の街の様子を描く『正直袋の神経衰弱』(いしいしんじ)、父を亡くした母と娘の車での1泊旅行を描いた『夜のドライブ』(川上弘美)の4作はそれぞれ優しい感覚が漂っていました(『ネオン』は設定上、多少バイオレンスもありますが)。
『グラデーションの夜』はそれぞれの作品に現れるモチーフを引用しながら、古本屋の店主の女性の心境の変化をゆっくりとしたペースで描いていました。
舞台の背後の壁には相川博昭さんによる写真が投影され、状況や雰囲気が良く伝わってきました。特に『ネオン』では効果的だったと思います。内容に則した説明的な写真が多かったのですが、もう少し想像力を掻き立てるような組み合わせがあっても良いと思いました。
ピラカタ・ノート
ニットキャップシアター
ザ・スズナリ(東京都)
2011/04/09 (土) ~ 2011/04/11 (月)公演終了
満足度★★★★
重層的に描かれるニュータウン
枚方市に住む人たちと、水槽の中の魚の街ピラカタの阪神大震災の前後を重層的な物語構造とイマジネーション溢れる見立てで描き、神話的な世界観と日常生活が繋がったような不思議な雰囲気がありました。
プラレールの青い線路が舞台を囲い、天井に届く高い脚立と水槽、そして中空に雲が設置された舞台で繰り広げられる様々な声と身体の表現が魅力的で、内容はちゃんとは理解できませんでしたが楽しめました。
脚立の上からマイクで枚方/ピラカタが生まれるまでを祝詞のような調子で語るところから始まり(口琴の演奏が効果的でした)、ニュータウンの団地に住む大和家と加藤家の現実的なエピソードと、体が動かせない障害を持つ大和家の長男の冥土への旅と、加藤家の水槽の中の街ピラカタに住む古代魚の幻想的なエピソード、そして開発の前から住む家の少年の現実と妄想が入り混じったエピソードが緩やかに絡み合い、発展とそれに伴う犠牲の死が象徴的に描かれていました。
1月17日の出来事を地震として表現せず、団地に住む女子高生の交通事故として表現されていたのが印象的でした。
ボイスパフォーマンスや楽器演奏や身体表現を交えた役者たちの演技が安定して見応えがあり、不思議な世界観に説得力がありました。箱馬やフラフープを使って様々な物をイメージさせる演出が楽しかったです。ときおり挟まれるコミカルなシーンもバカバカしさが素敵でした。特にヤマタノオロチを様々なメーカーの掃除機のヘッドを使って表現していたのが笑えました。後半が少し間伸びしているように感じましたが、最後の街の夜景はとても美しく、もっと長く見ていたかったくらいです。
本当の自分を探すエピソードや、紙袋を頭に被っている内に主体が入れ替わるのは安部公房の小説みたいで、面白かったです。
パラリンピックレコード
北京蝶々
シアタートラム(東京都)
2011/04/07 (木) ~ 2011/04/10 (日)公演終了
満足度★★★
悪意溢れる演出
近未来の東京で行われるパラリンピックに対して都知事や障害者の思惑が絡み合う様を描き、障害者や性的異常者を通して正常と異常の境目や差別についての意識を問うブラックな内容の作品でした。演出次第ではもっとシリアスなテイストにして考えさせらる作品にも出来そうですが、中屋敷さんは徹底して悪ふざけのような表現で押し通し、独特の世界観を作り出していました。
アニメのような濃いキャラクターばかりが登場し、賑やかな雰囲気でした。個性的な台詞まわしや身体表現を要求する演出は、普段そういう芝居をしていない役者たちにとってはやはり難しいようで、こなしきれていない感じの役者もいて、テンションがなかなか高まらない印象でした。
ちょっと前に流行ったギャグや、同じネタの執拗な繰り返しなど、滑るのを分かっていてやっているネタが多くあり、素直に笑わせない挑戦的な演出が面白かったです。オリンピックカラーの5色の壁が立っているだけのシンプルな空間で、役者たちの演技だけで集中力を途切れさせないのは流石だと思いました。
あまりにも中屋敷さんの色が強すぎたので、もう少しテーマがはっきりと浮き出てくるような異なる演出版も観てみたく思いました。