満足度★★★
しっとりとした『群青』
『朗読の夜』と銘打った公演ですが、いわゆるリーディング公演ではなく、地の文は語り手が読み、台詞部分は役者が普通の芝居として演じるという形式での上演でした。
4人の小説家の短編作品と桑原さん作の『グラデーションの夜』が交互に繋がる構成で、戯曲の文体とは異なる小説の文体が新鮮だったのと同時に、全体的に落ち着いた雰囲気が心地良かったです。
暴力団に入ることを志望する謎めいた青年のが現れて去るまでの短い期間を描いた『ネオン』(桐野夏生)、毎晩ピエロの格好で公演に現れる男性との会話によってゆるやかに心境が変化していく女性を描いた『ピエロ男』(田口ランディ)、池袋を擬人化してコミカルに池袋の街の様子を描く『正直袋の神経衰弱』(いしいしんじ)、父を亡くした母と娘の車での1泊旅行を描いた『夜のドライブ』(川上弘美)の4作はそれぞれ優しい感覚が漂っていました(『ネオン』は設定上、多少バイオレンスもありますが)。
『グラデーションの夜』はそれぞれの作品に現れるモチーフを引用しながら、古本屋の店主の女性の心境の変化をゆっくりとしたペースで描いていました。
舞台の背後の壁には相川博昭さんによる写真が投影され、状況や雰囲気が良く伝わってきました。特に『ネオン』では効果的だったと思います。内容に則した説明的な写真が多かったのですが、もう少し想像力を掻き立てるような組み合わせがあっても良いと思いました。