Whenever Wherever Festival 2011
Body Arts Laboratory
アサヒ・アートスクエア(東京都)
2011/08/04 (木) ~ 2011/08/13 (土)公演終了
満足度★★★
『デザインと身体』鑑賞
デザインとダンスの関係を考察して作られた4作品の上演でした。興味深いテーマですが、パフォーマンス作品としては完成度にムラがあるように感じました。
『テラダモケイと身体』(出演:西村未奈、寺田尚樹、他)
建築家の寺田さんが開発した、建築模型に添える1/100スケールの人形や家具を2次元のシートとして展開しているプロダクト「テラダモケイ」の本人によるプレゼンテーションと、それにインスパイアされて作ったダンス作品の上演でした。
テラダモケイを使って架空の場面を作り、それを膨らませてダンス作品化したという説明でしたが、テラダモケイに限らず絵や物を使っても出来る手法なのでこのコラボレーションならではオリジナリティが感じられませんでした。物語性からのアプローチよりかは大量生産や1/100スケールという点に着目して組み立てた方が面白くなると思いました。
コンセプトとは別に純粋にダンス作品として見ても、動きに緊張感がなくて印象に残りませんでした。
『写真と身体』(写真:熊谷直子、ダンス:笠井瑞丈)
写真家も舞台上に登場してダンサーの踊る姿を撮り、その写真がリアルタイムで壁に投影されるというシンプルなアイディアながらも、刺激的なトピックを含んだパフォーマンスでした。その場で撮った写真とは別に、事前に撮った写真も同時に並べて投影することによって、多層的な拡がりが出ていて良かったです。
ある瞬間が写真として固定されるために普段以上に観られていることを意識しながら踊るダンサーと、撮った写真がボケても暗くてもセレクトされないまま客の前に晒される写真家の姿がスリリングに感じられました。笠井さんがポーズを決めて「撮って!」と言っても熊谷さんがすぐには応じなかったりといった駆け引きが楽しかったです。
舞踏と扇情的なショーダンスとヒップホップをミックスしたような笠井さんのダンスの躍動感が気持良かったです。
別のダンサーと写真家の組み合わせでも観てみたいです。
『ファッションと身体』(ファッション:赤坂沙世、振付・出演:山井絵里奈)
靴がばら蒔かれた中で、茶色の上着と白のワンピースを順に脱ぎ、肌色の下着だけであたかも全裸のような姿で端正に踊る姿が美しかったです。茶色の上着はワイヤーが結ばれていて、脱いだ後に宙高く吊り下げられていたのが服に個人の記憶を象徴させているようで印象的でしたが、そのフォルムがゴチャゴチャしていてあまり美しくなかったのが残念でした。靴には蓄光テープが貼られていて、暗転時に光るのが綺麗でしたが靴のシルエットが浮き出るように貼った方が効果的だと思いました。
『ファッションと身体と振付家』(ファッション:高橋篤子、ダンス:川野眞子、振付:黒沢美香、森下真樹、山田せつ子)
プリーツ加工された鮮やかな色の生地で作られた6つのアイテムと1人のダンサー、そして3時間の製作時間を与えられた3人の振付家がそれぞれ作った小品の連続上演で、同じ条件の下で全く異なるテイストになっていました。
黒沢さんの振付はほとんどダンス的な動きはなく、各アイテムのそばで立ちすくむシークエンスが何度も繰り返される静かなものでした。終盤にワンピース的なシルエットのアイテムを着て少し踊るのですが、基本的にはファッションを身に着けるものというよりかは、空間に磁場を作るオブジェとして扱っているように見えました。
森下さんは色に着目し、台詞を多用するコミカルで自虐的な作品に仕上げていました。「グラデーション」や「浅草スキップ」、「スカイツリー」といった単語に対応する動きが決めてあり、森下さんのナレーションが次第にランダムに単語を発するようになりグダグダな感じになって行くダンサー泣かせな演出が楽しかったです。
山田さんはファッションを身体のシルエットを変化させるものとして捉え、イレギュラーな着方で身体を拘束させながら、一歩一歩踏みしめるような振付をしていました。後半では体のパーツを読み上げていましたが、意図がよく分かりませんでした。
3作品のテイストが異なるのは確かですが、ファッションという条件がなくても同じような結果になっていそうな気がして、ファッションが振付に対してどこまで寄与しているのかが曖昧に感じられました。異なるテイストを踊り分けた川野眞子さんのダンスは見事でした。もう少しオーソドックスなタイプの振付で踊るのを観てみたいです。
雨に紅花 (無事終演いたしました!)
くロひげ
ギャラリーLE DECO(東京都)
2011/08/09 (火) ~ 2011/08/14 (日)公演終了
満足度★★★
優しく名前を呼び交す
様々な手法を用いて女性2人によって男1・女2人の3人のエピソードを優しい雰囲気の中に少しエロスを感じさせながら淡々と連ねた作品でした。
物語の展開はほとんどなく、説明的な要素を排しながら、3人のふざけあったり甘えたりする関係がその時その時を慈しむように描かれていました。お互いの名前を優しい声で何度も呼び合うシーンが素敵でした。
1人2役、2人1役、同じ台詞を合わせて/ずらして話すなど、役者と役の関係を客観的に見せる手法を用いながら、表現していることが主観的な内容で、そのギャップが興味深かったです。多彩な手法を使っている割には、その手法を用いることによってしか表現できない情感があまり伝わって来なくて勿体なかったです。
「演劇×邦楽ロック」を掲げながらも音楽が流れる場面はあまりなく、ここぞという所だけに使っているので音楽の効果が引き立っていました。
足の甲の高さまで水を張った3畳程度のスペースの中で演技が行われ、まるで水が存在しないように座ったり寝転がったりする、役者に負荷のかかる演出でしたが、濡れる身体や水の滴る音が印象的でした。水盆の周りに敷かれたタオルケットがビジュアル的にあまり綺麗ではなかったのが残念です。
照明は最初と最後に暗くなる以外はずっと同じ状態の明かりでしたが、波立たせた水面を水平方向から照らしたり、色を用いたりして水の存在を活かして欲しかったです。
わたしにさよなら ―青春編―
TACT/FEST
あうるすぽっと(東京都)
2011/08/06 (土) ~ 2011/08/07 (日)公演終了
満足度★★★
アイデンティティ
ストーリー展開を台詞に頼らず、映像や身体表現による視覚的演出を中心にして描いた家族の物語で、少女の孤独感がクールに表現されていました。
「感動の~」と謳う宣伝文句からベタなストレートプレイを想像していたのですが、90年代に流行ったマルチメディアパフォーマンス的なスタイリッシュな作風でした。
日本人の父と韓国人の母を両親に持つ14歳の少女が学校でいじめられ、自己のアイデンティティについて悩み、インターネット上で新たな自分を演じて自身の存在を認めてもらおうとする物語で、少女は親と口をきこうとせず、韓国のテレビを観、韓国語を話す母を嫌悪する姿が日常的な動作を反復・増幅したシーンを通じて描かれていました。
台詞はあまり使われず、少ない台詞も対話には発展せず、常に一方通行だったのが印象的でした。
セットも小道具も衣装もグレーに統一していて無機質な感じが良かったです。父親はスーツ、母親は韓国風シルエットのワンピース、娘は制服に、それぞれの属性や思いが大きな字でたくさんプリントされている、思いきったデザインの衣装が楽しかったです。
抽象的な表現が多くても登場人物の心境が分かりやすい親切な演出だったのですが、個人的にはこのようなスタイルの演出にするなら説明的な要素を更に減らして緊張感のあるストイックな表現にしても良いと思いました。
身体表現はもっとギリギリ感を見せて欲しかったです。また、ビジュアル表現に比べて音楽が感傷的過ぎるように思いました。生演奏のギターは入れず、全部テクノ系の曲でも良いと思いました。
ダンスがみたい!13
「ダンスがみたい!」実行委員会
d-倉庫(東京都)
2011/08/05 (金) ~ 2011/08/30 (火)公演終了
満足度★★
大橋可也/笠井瑞丈の回を鑑賞
大橋可也&ダンサーズ+空間現代『ウィスパーズ』
ノイジーで引きつったような変拍子が特徴的な3人組のロックバンド、空間現代とのコラボレーションでした。
客電を落とさないままダンサーが舞台に現れ、断片的な台詞を言いながら、のたうち回ったり倒れ込んだりする動きを主体にしたシークエンスが続き、途中からバンドの演奏が始まってもビート感のあるダンスは踊られず、重い雰囲気が支配的でした。3人のダンサーが動き回る中、もう1人はほとんど椅子に座ったまま聞こえない声で囁く対比が印象的でした。終盤は2人が格闘技のようにもみ合い、剥き出しの身体の存在感が強く感じられました。
全体の構成は良かったのですが、音の強度にダンスが負けていたように思います。白のブラウスにグレーとベージュのロングのプリーツスカートの衣装が奇麗でした。
笠井瑞丈『Happyend』
全身白塗りに赤褌、学ラン、軍服、セーラー服、ラジオから流れる音楽とアングラ的アイテム満載の作品でした。男性デュオで相手の股間に背後から腕を入れて男性器を象徴したり、懐中電灯を褌の中に突っ込むなど下ネタを織り混ぜたコミカルな雰囲気で始まり、女性ダンサーのデュオからはシリアスなテイストもありました。ところどころ印象的なムーブメントがあったのですが、全体としては演出の方向性が定まっていなくて、舞踏に特徴的な眈美な感じも下世話な感じも中途半端な表現に終わっていたようにように思いました。
後半の5人でのユニゾンはダイナミックで迫力がありました。冒頭で『仰げば尊し』を歌った、セーラー服を着ていたダンサーのコケティッシュな雰囲気が魅力的でした。
両作品の上演後に、「あなたにとってダンスは必要か?」というテーマで振付家が話す時間が設けられていましたが、グダグダな感じで有益な情報もなく残念でした。
ケージ
ミームの心臓
シアターグリーン BASE THEATER(東京都)
2011/08/04 (木) ~ 2011/08/07 (日)公演終了
満足度★★★
理想と現実
学生運動が盛んだった60年代後半の若者と現代の若者が時間を越えて出会うというSF的状況の中、お互いの考え方の相違を認め合う物語で、異なる時代の若者を対照的/対称的に描く、力のある作品でした。
とある山荘に隠れるためにやって来た男2人・女1人の学生活動家と、旅行でやって来た同じく男2人・女1人の計6人の組み合わせを変えながら政治思想を中心に恋愛や友情が描かれていました。それぞれの人物の性格付けがはっきりしていて、激しい議論から悪戯っぽい会話まで色々なタイプの対話があり、メリハリがありました。
プロットは良かったのですが肉付けして戯曲にする際に、感情面を含めて説明的な台詞を入れ過ぎていて観客の想像に託す余白がないように思いました。せっかく役者が舞台で演じるのだから、言葉だけでなく佇まいや動作から感情を伝えて欲しかったです。
ある有名な事件にリンクさせる着想は面白かったのですが、それに絡む話の展開がいまいち理解できませんでした。
当日パンフレットに「音楽・演奏」と記されていたので、おそらくオペブースでキーボードを弾いていたのだと思いますが、姿が見えず、しかも生楽器ではなかったので、生演奏である意義が感じられず、もったいなく思いました。
鳥籠を模した美術に雰囲気があって良かったです。特に開演までの間、仄かに照らされている様が美しく、これから何が起こるのか期待させられました。
プロジェクト大山『キャッチ マイ ビーム』
プロジェクト大山
シアタートラム(東京都)
2011/08/05 (金) ~ 2011/08/06 (土)公演終了
満足度★★★
魅力的な群舞と視線
端正なムーブメントやフォーメーションの合間にコミカルな動きを差し挟みつつも、全体としてはクールな質感が支配的な作品でした。
ヘンデルの『水上の音楽』をカットアップしてトライバルなリズムに乗せた音楽の中、赤い大きな暖簾状の布で上半身を隠して赤いソックスを履いた脚だけを見せて踊る幕開けがインパクトがありました。
その後はソロやデュオなど少人数のシーンが続き、具体的な物語があるわけではないのですが芝居的な要素が多く含まれていました。
比較的長いシークエンスを反復し、3回目で変化する展開が多用されていて、少しくどく感じました。単独公演ということで60分以上ある作品を作ろうとして無理に引き伸ばしている印象を受けました。
いくつかのモチーフを作品全体を通して用いることによって統一感が図られていました。バレエ的な動きが多い中、鋭角的な腕の動きを強調したヒップホップダンスの様なモチーフが異質で良いアクセントになって格好良かったのですが、この種のビート感の強い動きで揃っていないのはとても目立ってしまっていて残念でした。
群舞におけるグループの空間配置や、グループ間での動きの受け渡し方がとても良かったので、もっと群舞シーンを見せて欲しかったです。
特徴的だったのはダンサー達の視線でした。目を強調したメイクで客席を睨みつける場面が何度もあり、ミステリアスで魅力的でした。
70分の間に、全身赤の衣装、ソックスだけ赤のままで他は青の衣装、民族衣装的なベージュの衣装と着替え、視覚的に楽しかったです。
Whenever Wherever Festival 2011
Body Arts Laboratory
アサヒ・アートスクエア(東京都)
2011/08/04 (木) ~ 2011/08/13 (土)公演終了
満足度★★★
『言葉と身体』鑑賞
言葉と身体の関係性を探る3作品の上演で、いわゆるダンス公演とはかなり毛色の異なる、興味深いパフォーマンスでした。
『舞い上がる「私」の理論』(コンセプト:宇野良子、ディレクション:河村美雪)
言語学者やロボティクス研究者、美術作家によるコラボレーションで、階層化される「私」という概念を表現する試みでした。
プロジェクターでスライドを映し出してレクチャーをしながら、言葉(会話)→身体(ダンス)→言葉(小説)への情報の受け渡しを実演していたのですが、各変換のプロセスが説明されず、映像・装置・ダンス・小説が関係性のない独立した事象に見え、釈然としない印象が残りました。
何台ものコンピューターやセンサーを使ったシステムが構築されていましたが、どう役者やダンサーの動きと関連しているのか分かりませんでした。テーマは面白かったのですがライブパフォーマンスとして上演する意義が感じられず残念でした。
『発する身体』(演出:山崎広太)
声を発することから生じる体の動きに着目した、照明や音響の効果を全く使わない人体だけでのパフォーマンスでした。ダンサーではない人たちのコントロールされていない生の身体の存在感がユニークでした。最初は母音の発声から始まり、次第に言葉になっていくに従って動きも共同性を帯びていく構成が明快で楽しめました。
『INSECT COUNTRY F』(企画:中保佐和子)
詩人とダンサーの即興バトル的な作品で、詩人の読むテキストに反応して動くダンサー、ダンサーの動きを見てテキストを読む詩人という循環運動に心地良い緊張感がありました。前半はお互い相手の出す情報に乗っかり過ぎていて平板でしたが、舞台中央に木の枝、胸像、自転車、ビーチボールなど雑多な物が運び込まれ、「虫」と名付けられた6人が横一列に並んで物もダンサーも押し退けていく展開に応じて、テキストもダンスもより自由な感じになっていき、シュールな雰囲気が面白かったです。最後は事前に客席で集められた動詞と述語をオートマティックに組み合わせ、「蟻が○○すると△△になる」という無意味な文がいくつも生成されユーモラスでした。
コンタクト・インプロヴィゼーションのテクニックを用いた動きに強度があり、ダンス作品としても良かったです。
つきのしろ
劇団黒テント
イワト劇場(東京都)
2011/07/30 (土) ~ 2011/08/07 (日)公演終了
満足度★★★
アンダースタディ版鑑賞
実際に福岡であった連続保険金殺人事件をベースにした生演奏付きの作品で、九州弁でのサスペンス的な雰囲気に展開の中に女たちの閉鎖的で歪んだな服従関係が描かれていました。
仲良しだった看護婦4人組が保険金目当てで家族を殺していく実話に創作の設定を付加していて、女たちの関係性を浮かび上がらせ、後半にはサスペンスな雰囲気の中にスラップスティックなおかしみもあって、物語に奥行きが出ていました。全体としては感情移入しにくい性格の登場人物が多いのもあって、いまいち盛り上がりに欠ける印象を持ちました。
格子状のパネルの位置を変えるだけで、看護婦のマンションの1室、新たに買ったマンションの屋上テラス、病院の中を描き分けていたのがスマートで、さらにドアを抜けてパネルの向う側に行くと動きをスローモーションにして空間の奥行きを感じさせる演出が面白かったです。
所々で役者たちが中島みゆきさんの曲をソロで歌うのですが、物語の内容と直接リンクしているわけでもないのにフルコーラスを歌うのは長すぎると思いました。ギターとベースのデュオbig☆bowは歌の伴奏だけでなく、至る所で即興的なパッセージを奏で、緊張感を高めていました。せっかく生演奏だったので、録音のBGMは使わない方が良いと思いました。
奇妙な支配力をもって殺人を主導する人物を演じた福島妃香里さんは見た目が若すぎて設定の中年女性には見えなかったのが残念でしたが、安定した演技と出演者の中で飛び抜けてレベルの高い歌唱力が魅力的でした。アンダースタディ版の1回しか出演しないのがもったいなく思いました。
無重力チルドレン
劇団ジャブジャブサーキット
ザ・スズナリ(東京都)
2011/07/29 (金) ~ 2011/08/01 (月)公演終了
満足度★★★
震災との距離の取り方
月に作られた研究施設に滞在する研究者たちの淡々とした会話の中にそれぞれの震災に対しての思いが語られる作品で、時代設定は未来ながらも今日の日本の状況を描いていました。
2085年、日本に大地震が起き、遠く離れた月からは何も出来ないもどかしさを感じる研究者たちと、人間より進化した存在の「流体生物」が突如やって来て起こす謎の行動が絡み合う物語で、前半の緩い雰囲気から次第にシリアスになり、後半のそれぞれが自己の過去や思いを吐露する場面は目を引くような劇的な要素はないにも関わらず。綺麗事だけでは済まない色々な思いを正面から描いていて引き込まれました。
SF、サスペンス、ヒューマンドラマと様々なテイストが盛り込まれていて、どれも中途半端な展開で散漫になっていたのがもったいなく思いました。もう少し流体生物の来た意図や、タイトルになっている無重力空間での生殖の研究のエピソードをじっくり見せて欲しかったです(何となく『2001年宇宙の旅』のモノリスとスターチャイルドを思わせました)。
笑いの取り方がちょっと古臭い感じで乗れませんでした。
頼りなさげだけど、実はみんなのことを良く考えている所長を演じたコヤマアキヒロさんと毒舌を吐く裏にトラウマを抱えている研究員を演じた咲田とばこさんが印象に残りました。
パール食堂のマリア
青☆組
三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)
2011/07/29 (金) ~ 2011/08/07 (日)公演終了
満足度★★★★
すっと心に染み入る群像劇
70年代初頭の横浜を舞台に、その地理的・歴史的トピックを上手く盛り込み、人間関係を優しい雰囲気で描いた作品でした。
食堂を経営する父とその娘姉妹を中心に近所の人や職場繋がりの人たちの日常的な姿が落ち着いたトーンで描かれ、ローカルな話の中に普遍性が感じられました。色々と重い要素もある物語ですが、性格の悪い登場人物は1人も出てこないので、観劇後の印象はとても清々しかったです。
繰り返しや重ね合わせを用いた台詞や場面の構成が巧みで、人物がしっかり描けていないと技巧が鼻につきかねない脚本でしたが、人物描写も丁寧でリアリティがあったので素直に物語世界に引き込まれました。
冒頭で立て続けに登場人物やエピソードが現れテンポが早すぎるように感じました。都心から少し離れた劇場の立地や、座り心地が良いとは言えない座席などの条件を考えると長くても2時間が適正だとは思いますが、演技や雰囲気が良かったので3時間あっても構わないと思わさせる作品でした。
横浜のことや、プッチーニのオペラ『ジャンニ・スキッキ』を知っていると、より心を打つシーンがありました。
出捌け口をたくさん備えた立体的な舞台美術が効果的に使われていて、シーンの切り替えがとてもスムーズで、逆に暗転での場面転換は敢えてたっぷり時間を取る流れが心地良かったです。
ちなみに前説は主宰の吉田小夏さんがされていましたが、堅過ぎず砕け過ぎずの優しい口調に言葉を大切に扱っている姿勢が感じられて素敵でした。
美しき空蝉の羽
Tef Seeker
ART THEATER 上野小劇場(東京都)
2011/07/27 (水) ~ 2011/07/31 (日)公演終了
満足度★★
耽美的な台詞
複雑な事情を持った家族が崩壊していく物語を、ほとんど役者と照明だけのストイックな演出で描いた、落ち着いたテイストの作品でした。
アングラ系とは異なる質感の耽美的な雰囲気が魅力的でしたが、舞台作品としては物足りなさを感じました。
ピュア過ぎる息子、同性愛者の娘、子供と血の繋がりを持たない再婚してやってきた父、やつれた母の4人のバランスが、ある事実が明らかになることによって崩れるという物語は分かりやすかったのですが、ありきたりでもあり、この内容を新作として作る必要性があまり感じられませんでした。
「~ですわよ」、「~なくって?」といった古めかしい言葉遣いや、詩的な台詞の言い回しに不自然さがなく、眈美的な雰囲気を出していて良かったです。ただポケットカセットレコーダーが物語の中で登場することと文体の時代設定が合っていなくて違和感を覚えました。
劇場の大きさに対して演技がやや大袈裟に見える役者が多く、いまいち登場人物の心情が伝わってきませんでした。
変に笑いやお涙頂戴シーンを作らずに淡々と進める演出は個人的には好きなタイプの演出でしたが2時間弱という時間の中でもう少しメリハリを持たせた方が集中力が持続すると思います。
台詞へのこだわりは強く感じたのですがビジュアル表現がないがしろにされている感じがして残念でした。上野小劇場は初めてだったのでいつもそうなのかは分かりませんが、ベニヤ板剥き出しの床と舞台奥の傷の目立つ大きな白いパネルは作品全体の印象を安っぽくしていて勿体ないです。いっそのこと、完全な素舞台にして家具だけちゃんとしたクラシカルなものを並べた方が眈美的な作風に合うかと思いました。
また、ベニヤ剥き出しの床は歩行音や軋みが台詞の邪魔になって気になったので、カーペットかリノリウムを敷いた方が良いと思いました。
元素 -The Elements-
伊藤キム
サントリーホール ブルーローズ(小ホール)(東京都)
2011/07/25 (月) ~ 2011/07/25 (月)公演終了
満足度★★★★★
和/洋、現在/過去
西洋のバロック時代の楽器と、笙や篳篥から尺八、箏、三味線などの日本の伝統楽器の30人ほどの器楽アンサンブルによる現代音楽の演奏とダンスのコラボレーションで、普通は有り得ない東西の楽器の組み合わせに斎藤説成さんによる声明も加わる不思議な響きの中、4人のダンサーが自在に踊り、宗教儀式を思わせる独特な高揚感を生み出していました。
普段のコンサート時とは異なってサントリーホール小ホールの床全体をフラットにして、アンサンブルとアクティングエリアを客席がコの字型に囲む形のレイアウトでの上演でした。客電が点いたままの状態で男性ダンサーがゆっくり入ってきて、四大元素のうちのひとつ「空気」を象徴する呼吸音を聞かせる中、次第に他のダンサーや奏者たちも客席の間を通って入場し、ポーズを取ったり壁を叩いたりする冒頭のシーンが、ダンサーと奏者を同等に扱っていて印象に残りました。
「水」では斎藤説成さんが水を湛えたボウルを持ってお経を唱えながら、寝そべるダンサーたちを清めるかのように水しずくを掛けて回り、奏者たちも同様に水音を聞かせ神秘的でした。
「カオス」と題された壮絶な音響とダンスのシーンと、その後に続く牧歌的な雰囲気の女性ダンサーのデュオとの対比が鮮やかでした。打楽器奏者が数珠をこすってリズムを刻みながら舞台手前に歩み出て、次第にダンサーの動きと同化していくシーンが音と踊りと宗教の原初的な繋がりを感じさせて興味深かったです。
般若心境の読経から繋がる「不二」と題されたコーダでは先程の数珠のリズムが延々と繰り返される中、ダンサーたちが立ったまま硬直し、次第に照明と音量が弱まって行くのに合わせてダンサーもゆっくりと崩れ落ちていき、そのままフェードアウトで終わるのかと思わせて、暗闇の中に「カオス」の音響が閃光のように炸裂し、破壊と同時にビッグバンによる誕生を感じさせる印象的な結幕でした。
神話的世界観を感じさせる、しなやかなダンサーの動きが美しく、特に伊藤キムさんの振付ならではの腕から指先にかけての柔らかく繊細な表情が素晴らしかったです。
音楽のインパクトが強くてダンスが少し霞んでしまうのが残念でした。ダンスなしで演奏だけの時間も結構あり、ダンス作品として観ると物足りない感じもありますが、総合的には和/洋、現在/過去、音楽/ダンスなど様々な対立項について考えさせられる、圧倒的な強度のある興味深い作品でした。平日1回限りの公演というのが勿体なく思いました。
ちなみにチラシやウェブサイトでは、今回演奏された権代敦彦さん作曲の『キンタ・エッセンティア』の参照元である、ルベル作曲のバレエ音楽『四大元素』(1737)も演奏するかのように書いていたのですが、時間の都合上なのか演奏されませんでした。権代さんの曲がルベルの曲の引用・変形をたくさん用いたものだったので、『四大元素』も演奏した方が権代さんの曲ももっと楽しめたと思います。
DANCE COLLOQUIUM X (ダンス コロキウム テン)
こまばアゴラ劇場
こまばアゴラ劇場(東京都)
2011/07/19 (火) ~ 2011/07/24 (日)公演終了
満足度★★★
Bプログラム
鈴木ユキオ『密かな儀式の目撃者』を鑑賞しました。内容があまりタイトルと関連していないように見えましたが、コントロール出来なくなるギリギリの動きやポーズを多用していて、重くて鋭い雰囲気のある作品でした。
シルエットが見えるか見えないかの薄暗がりの中、不安定な姿勢を取っては崩れる静かなソロで始まり、次第に明るくなってアンビエント系の音楽の音量が次第に大きくなり、人数も4人に増えていく展開における緊張感の高まり方が素晴らしかったです。
基本的にお互い触れることもなくバラバラに動いているのが突如同じフレーズを踊るのが観ていて気持良かったです。
4人目が舞踏的な雰囲気で現れる辺りからストイックな雰囲気が薄まり、壁に貼り付けられたバレリーナやダンサーの切り抜きを2人が足に装着してバレエ的な振りで踊り、残りの2人が懐中電灯で足元を照らしたり、懐中電灯を口の中にくわえ込み内側から頬を光らせたりと、ユーモラスだったりエロティックだったりする場面もありました。小道具を上手く使った面白い演出でしたが、雰囲気が散漫になって前半程の強度が失われてしまっていたのが残念でした。
最後のシーンで、ダンサーの体の一部を撮った写真を壁面に張り付けていくのが印象的でした。
4人のダンサーは体に負荷のかかる振付を緊張感を途切れさせずに表現力豊かに踊っていて、とても美しかったです。
3つのプログラムの内、AプロとBプロを観ましたが、1時間の公演で2500円は少々割高に感じました。個人的には、3つ合わせて全体で2時間内に収まるようにそれぞれの作品をもう少し短くして、料金を4000円程度にした方が観たくなります。
再/生
東京デスロック
STスポット(神奈川県)
2011/07/16 (土) ~ 2011/07/24 (日)公演終了
満足度★★★★
演劇だからこそ表現できること
全国ツアーの内、横浜公演のみで上演された、多田淳之介+フランケンズver.を鑑賞しました。
集団自殺するために集まった若い人たちが興じる最後のパーティーの様子を3回繰り返して描くことによって、演劇というフォーマットでしか表現しえないような生き生きとした質感を強烈に感じさせる作品でした。
ある畳敷きの部屋に集まった男女8人が薬を飲み、酒を飲み、音楽に合わせて踊り狂い、倒れるという30分に満たない流れを繰り返す構造なのですが、単純に繰り返すのではなく、1回目では薬を飲んだ後の場面から始まり、集団自殺の集まりとは分からさせず、ただ馬鹿騒ぎをしているだけに見せかけて2回目で真相を分からせ、馬鹿騒ぎの中に秘められた必死さを感じさせる構成が見事でした。
3回目の最後にみんな倒れた後にまた冒頭の曲、『DON'T WORRY BABY』(BAY CITY ROLLERS)が流れ、4回目が繰り返されるのかと思いきや、薬を飲まずに舞台を退場していき、生きることに対しての仄かな希望を感じさせ、後味の良い終わり方でした。
役者たちは同じことが繰り返されるとは知らないかのように最初から全力で踊り、繰り返される度にどんどん疲労して行き、3回目では台詞を言うだけでも一苦労という状態なのですが、消耗して行くに連れて逆に役者たちの演技ではない素の個性が輝いて見えてくるのが印象深かったです。
台詞があまりなく、踊りもちゃんと訓練されたものではないものを3回繰り返すという演劇としては異例の作品ですが、物語の展開ではなく、人間が目の前にいるという存在感で観客の心を動かすという点では小説や映像では表現で出来ないことをしていて、まさしく「演劇的」な作品だと思いました。
疲れて行く役者とは反対に、繰り返される度に明るくなる照明と大きくなる音量(3回目は普通の演劇公演ではあり得ない程の大音量でした)の効果が素晴らしかったです。
『TSUNAMI』(サザンオールスターズ)、『Shangri-La』(電気グルーブ)などのヒット曲が雰囲気作りのBGMとしてではなく、劇中で実際流れる音楽として最初から最後までカットせずに流されるのが、音楽に対するリスペクトを感じられて気持良かったです。
デスロックver.を観れなかったのが残念です。来年キラリ☆ふじみで上演があるので、そちらを観に行くつもりです。
DANCE COLLOQUIUM X (ダンス コロキウム テン)
こまばアゴラ劇場
こまばアゴラ劇場(東京都)
2011/07/19 (火) ~ 2011/07/24 (日)公演終了
満足度★★
Aプログラム
高野美和子『ケース・スタディ その1 ~20代中期女性8名の体に関する試み~』を観ました。
具体的なストーリーがあるわけではないのですが、日常的な動作を取り入れた振付でうっすらと物語性を感じさせる断片が連なり、自分の体を再確認するプロセスを描いているように見えました。
無音の中、立ったまま体を半分に折り、客席を見つめる印象的なシーンから始まり、執拗に体を擦る行為を中心にしたシーン、クリニックでの検診(?)での会話の録音に合わせて踊るシーン、ロボットダンス的な群舞など、様々な要素が組み合わされていました。
頭を擦り寄せる動きや鳴き声の効果音など猫のイメージを喚起するモチーフが用いられていたのが、タイトルとどう関係しているのかが分からず、少しモヤモヤとした感じを持ちました。
体の動きだけでなく、視線や顔の表情の変化も構成されていたのが面白かったです。変な行動をする1人に対して他の人たちが向ける冷たい眼差しがユーモラスでした。
コミカルなシーンもたくさん盛り込まれていましたが、笑ってはいけないような空気感が客席に漂っていて、盛り上がりに欠けたと思います。演出的にもっと弾けるところは弾けちゃっても良かったと思います。
照明が途中で一瞬暗くなりかけたり、転換のタイミングがずれ気味だったりしたのが気になって集中力を削がれたのが残念でした。
血の婚礼
Bunkamura
にしすがも創造舎 【閉館】(東京都)
2011/06/24 (金) ~ 2011/07/30 (土)公演終了
満足度★★★
雨と闇の中のドラマ
ある路地を舞台に、人々の終末感や焦燥感をインパクトのある空間表現で描いた作品でした。
結婚式当日に花嫁を奪われた男、奪った男、その花嫁、の幼馴染み3人を中心にして、その家族たちを巻き込んだ物語をベースに、土砂降りの雨の中を行進する鼓笛隊(そう呼ばれていましたが、実際は管楽器はなくてドラムのみ)、壊れたトランシーバーに向かって報告を続ける少年、妻に先立たれた先生、蟹になった女など謎めいたキャラクターが絡み、アングラ的雰囲気が濃厚でした。
それぞれのシーンで起こっていることは理解でき、また魅力的だったですが、全体を通じて何が言いたかったのかが良く分かりませんでした。
ロルカの『血の婚礼』を読んだことも観たこともない状態で観たので、知っていればもっと深く理解できて楽しめたのかもしれません。
半分以上の時間降り続ける雨や、闇の中の蝋燭の光などの空間的なビジュアル表現は迫力があって素晴らしかったのですが、音楽や映像が説明的過ぎるように感じました。音楽に頼らずに台詞だけでも(むしろ台詞だけの方が)充分に引き込まれる内容だったのに、シーンにマッチし過ぎている音楽がイメージの広がりを妨げているように感じました。もっとざっくりした感じがあれば良いのにと思いました。
上手がレンタルビデオ屋、下手がコインランドリー、その間と舞台手前側が自動販売機が立ち並ぶ路地で、上部には色々な店のネオンサインに鯉のぼりという猥雑感あふれるセットが良かったです。
雨でびしょ濡れになり、声も雨音で聞こえにくい中で、役者たちは熱演でした。一番印象に残ったのは、トランシーバーを持つ男を演じた田島優成さんで、雨の中を転げ回りながら叫ぶ体を張った演技に、必死に世界と繋がろうとしているのに相手にされない疎外感が強く表現されていました。
窪塚洋介さんは発声や台詞回しは上手いとは言えないのですが、舞台にいるだけでも独特な存在感を放っていて魅力的でした。伊藤蘭さんや中嶋朋子さんも内面に陰を持った雰囲気が出ていましたが、時々いかにもお芝居なオーバーな演技があって、残念でした。
11のささやかな嘘
ジェットラグ
銀座みゆき館劇場(東京都)
2011/07/15 (金) ~ 2011/07/18 (月)公演終了
満足度★★★
物語内の嘘と物語外の嘘
若くして自殺した一発屋の小説家の四十九日の日に生前に関係があった人たちが集まり、それぞれの秘密や嘘が錯綜する物語をシリアスなトーンを基調にしながら時折コミカルな要素を織り混ぜて描いた作品でした。小劇場演劇界で活躍する脚本家、演出家、役者のコラボレーションで良く出来ていて面白かったのですが、このメンバーならもっとそれぞれの個性が活かせたのではという印象を持ちました。
謎が積み重なり、明かされていく展開に引き込まれて楽しめたのですが、表現の現実感/非現実感のバランスに引っ掛かりを覚えました。
リアルではない設定の登場人物がいて、前半はまだ演劇的虚構としてありだと思いましたが(虚構が明白にされたときの笑いへの持って行き方が良かったです)、終盤での展開はそれまで積み上げてきたリアリティーを壊してしまっていたと思います。
新作を書けない小説家を象徴する、舞台下手の壁を覆い尽す丸めた白紙の山も登場人物たちには見えてない扱いで、違和感を覚えました。
人の怖さを描くミステリー作品では、非現実的な要素を入れない方が説得力が出ると思いました。
役者に関してはそれぞれのキャラクターがしっかり打ち出されていました。少し陰がある未亡人をほとんど出ずっぱりで演じた李千鶴さんが良かったです。エキセントリックな役の千紘れいかさんも怖さが出ていました。
話の性質上、当日パンフには配役が書いていなかったのですが、終演後に役者の名前と写真入りの人物相関図を配布していて、ありがたかったです。
僕の時間の深呼吸-21世紀の彼方の時間にいる君へ
ジェイ.クリップ
青山円形劇場(東京都)
2011/07/13 (水) ~ 2011/07/18 (月)公演終了
満足度★★★
人生の様々な場面
『不思議の国のアリス』にインスパイアされた25年前の作品の再演で、人生の色々な場面を優しく描いていました。現在新たに作られている作品とは異なる、1980年代の空気感が端々に感じられました。
学校や病院、図書館、映画館、遊園地など様々な場所を舞台にした12のシーンを通して、主人公の少年、山田のぼるが自分の人生を走馬灯のように駆け巡る物語で、劇的な展開で魅せるのではなく、それぞれのシーンの質感を魅せるタイプの作品でした。
冒頭からシーン2のオムライスの話までは、笑いを取ろうとして滑っている生温い空気感に違和感があったのですが、『アリス』の白ウサギを彷彿とさせる時計屋の主人が現れる時計屋のシーン以降はファンタジックでノスタルジックでちょっぴり不条理な雰囲気が出ていました。
映画館のシーンで離婚して離ればなれになった父娘の偶然の再会が描かれていて、ほとんど台詞がないやり取りの中にお互いを思う気持ちが出ていて、素敵でした。
高泉淳子さんの少年っぷりが見事だったのはもちろん、新谷真弓さんのちょっとおませな小学生や、山本光洋さんのマイムパフォーマンス、あさひ7オユキさんの胡散臭いおじさんの感じなど、個性を生かした演技が楽しかったです。個人プレーとしてはレベルが高かったのですが、それらがまとまったときに作品としての満足感には繋がっていなかったのが残念です。
客席の1/3をつぶして中央が少し迫り出したT字型の舞台が作られていたのですが、普通の劇場の配置と変わらず、せっかくの円形劇場を有効に使っていないのがもったいなく思いました。舞台背面にリアルな映像で背景を描くシーンが何度かありましたが、シンプルな舞台上の状況とマッチしていなくて浮いているように感じました。最初と最後だけ映像を用い、残りは家具や小道具と演技だけで状況を想像させた方が広がりが感じられたと思います。
ごんべい 江戸版/平成版
ゲキバカ
吉祥寺シアター(東京都)
2011/07/14 (木) ~ 2011/07/24 (日)公演終了
満足度★★★
熱いエンターテインメント作品
江戸版を観ました。ファンタジーや恋愛、アクションなど様々な要素をスピーディーな展開の中に盛り込んだ、正に泣いて笑えるエンターテインメントといった作品でした。
江戸を舞台に、火消しの「き組」の人たちの周りで起こる怪事件を追ううちに狸族と狐族の対立に関わっていく物語で、恋愛感情や葛藤など色々な感情が描かれていて、メリハリがあって楽しめました。
ダンスやオタ芸、ミュージカル、パロディーで派手に盛り上げるところもあれば、落ち着いた真面目な演技で感動させるところもあり、バランスが良かったです。適度な客いじりや観客参加も上手く一体感を引き出していて、効果的でした。
30人以上の出演者の中で、ゲキバカのメンバーの中山貴裕さんや伊藤今人さん、常連の客演の岡田一博さんの演技が際立っていました。
舞台セットはほとんどなくて上下方向の動きがなかったため、吉祥寺シアターの高さのある空間を有効に使えていなかったのがもったいなく思いました。もっと美術的要素があっても良かったと思います。
分かりやすい構成で次々に場面が展開して行くので飽きる間もない作品でしたが、個人的にはもう少しアーティスティックな表現を出して欲しく思いました。もっと突き抜けた演出をしても観客を納得させるポテンシャルがあると思います。
ペール・ギュント
SUNBEAM MUSICAL KITCHEN
ザ☆キッチンNAKANO(東京都)
2011/07/12 (火) ~ 2011/07/17 (日)公演終了
満足度★★
リーディング・ミュージカル
ホラ吹きのペール・ギュントが世界を回りながら己れ自身を探し求める奇想天外な冒険譚を、休憩込みで3時間弱のリーディング上演という意欲的な公演でした。
リーディング公演とは言っても、役者の動きや照明、キーボードと歌の生演奏がふんだんに用いられていて、台本を手に持ちながらの芝居といった趣きで、視覚的にも情報があるので、見応えがありました。
第1部は真面目な演出だったに対して第2部前半は少々ふざけた感じの趣向も取り入れていましたが、あまり笑いを取れていなくて、物語の流れを途切れさせていたように思いました。
会場の立地条件を生かした演出は、空間の広がりを感じさせて素敵でした。第2部後半からラストまでの演出はペールの生きた時間の流れを象徴的に描いていて、効果的でかつ美しかったです。
役者達は熱演でしたが、元々そういうシーンの多い物語とはいえ、声を張って台詞を言うところが多すぎて、疲れました。会場のサイズに合わせた発声をした方が観客に感情が伝わるし、喉も痛めなくて済むと思います。
マイム的な身体表現を用いるならば、もっとこだわって欲しかったです。
今回の公演のためのオリジナルの音楽は、ミュージカル音楽でよく見られるコード進行が多用されていて分かりやすさやシーンを盛り上げる力はあったのですが、オリジナリティが感じられず、印象に残りませんでした。グリーグ作曲の名作と比べるのは酷かもしれませんが、グリーグの曲を使った方が情景や情感が伝わってきたと思います。
しかし、ミュージカル的な場面を入れて作品にメリハリをつけるアイディアは楽しかったです。