満足度★★★★
すっと心に染み入る群像劇
70年代初頭の横浜を舞台に、その地理的・歴史的トピックを上手く盛り込み、人間関係を優しい雰囲気で描いた作品でした。
食堂を経営する父とその娘姉妹を中心に近所の人や職場繋がりの人たちの日常的な姿が落ち着いたトーンで描かれ、ローカルな話の中に普遍性が感じられました。色々と重い要素もある物語ですが、性格の悪い登場人物は1人も出てこないので、観劇後の印象はとても清々しかったです。
繰り返しや重ね合わせを用いた台詞や場面の構成が巧みで、人物がしっかり描けていないと技巧が鼻につきかねない脚本でしたが、人物描写も丁寧でリアリティがあったので素直に物語世界に引き込まれました。
冒頭で立て続けに登場人物やエピソードが現れテンポが早すぎるように感じました。都心から少し離れた劇場の立地や、座り心地が良いとは言えない座席などの条件を考えると長くても2時間が適正だとは思いますが、演技や雰囲気が良かったので3時間あっても構わないと思わさせる作品でした。
横浜のことや、プッチーニのオペラ『ジャンニ・スキッキ』を知っていると、より心を打つシーンがありました。
出捌け口をたくさん備えた立体的な舞台美術が効果的に使われていて、シーンの切り替えがとてもスムーズで、逆に暗転での場面転換は敢えてたっぷり時間を取る流れが心地良かったです。
ちなみに前説は主宰の吉田小夏さんがされていましたが、堅過ぎず砕け過ぎずの優しい口調に言葉を大切に扱っている姿勢が感じられて素敵でした。