満足度★★★
人生の様々な場面
『不思議の国のアリス』にインスパイアされた25年前の作品の再演で、人生の色々な場面を優しく描いていました。現在新たに作られている作品とは異なる、1980年代の空気感が端々に感じられました。
学校や病院、図書館、映画館、遊園地など様々な場所を舞台にした12のシーンを通して、主人公の少年、山田のぼるが自分の人生を走馬灯のように駆け巡る物語で、劇的な展開で魅せるのではなく、それぞれのシーンの質感を魅せるタイプの作品でした。
冒頭からシーン2のオムライスの話までは、笑いを取ろうとして滑っている生温い空気感に違和感があったのですが、『アリス』の白ウサギを彷彿とさせる時計屋の主人が現れる時計屋のシーン以降はファンタジックでノスタルジックでちょっぴり不条理な雰囲気が出ていました。
映画館のシーンで離婚して離ればなれになった父娘の偶然の再会が描かれていて、ほとんど台詞がないやり取りの中にお互いを思う気持ちが出ていて、素敵でした。
高泉淳子さんの少年っぷりが見事だったのはもちろん、新谷真弓さんのちょっとおませな小学生や、山本光洋さんのマイムパフォーマンス、あさひ7オユキさんの胡散臭いおじさんの感じなど、個性を生かした演技が楽しかったです。個人プレーとしてはレベルが高かったのですが、それらがまとまったときに作品としての満足感には繋がっていなかったのが残念です。
客席の1/3をつぶして中央が少し迫り出したT字型の舞台が作られていたのですが、普通の劇場の配置と変わらず、せっかくの円形劇場を有効に使っていないのがもったいなく思いました。舞台背面にリアルな映像で背景を描くシーンが何度かありましたが、シンプルな舞台上の状況とマッチしていなくて浮いているように感じました。最初と最後だけ映像を用い、残りは家具や小道具と演技だけで状況を想像させた方が広がりが感じられたと思います。