「仮病ガール」
楽園王
上野ストアハウス(東京都)
2011/12/15 (木) ~ 2011/12/18 (日)公演終了
満足度★★
優しい空気感
仮病をすることで別世界に繋がるファンタスティックな物語で、詩的で優しい雰囲気が漂う作品でした。
仮病で学校を休んでしまった真面目な女子高生の独白から始まり、刑務所で刑に服している男のエピソード、家族から独立したがっている女の子のエピソードが平行して描かれ、仮病をした人達がバスに集まって神社や恐山を巡るという物語で、舞台の進行について言及するメタな台詞を挟みながら展開する構成でした。3つのエピソードがあまり関連しないままだったのが物足りなかったです。
仮病をしがらみから離れて自由に生きることのメタファーとして扱っていて、1人では生きていけないことを表現していると受け取りました。
物事が悪い方向に進む予感を持つとき、一歩間違うとそうなることを望んでしまうという心理が描かれていて、心に刺さりました。このテーマをもっと拡大して見せて欲しかったです。
大半のシーンでBGMが流れていたり、数名で空を見上げる演技や、転換の為の暗転が何度もある演出は、個人的には古臭く感じられて好みではありませんでした。
主役の高校生を演じた大畑麻衣子さんは「大人が演じる子供」というスタンスが明確に出ている安定した演技で良かったです。
父親を演じた植村せいさんは、笑いの起きない客席の空気感を一気に変えるユーモラスな味があって良かったです。
夏祭浪花鑑
木ノ下歌舞伎
STスポット(神奈川県)
2011/12/16 (金) ~ 2011/12/19 (月)公演終了
満足度★★★
お祭り騒ぎ
歌舞伎の作品を歌舞伎らしさを残しつつ、現代的な手法も盛り込んでコミカルな雰囲気を強調した演出でした。女役も男性が演じる伝統的な歌舞伎とは逆に、1人を除いて全員女性の役者というキャスティングによって、軽やかさが出ていたと思います。
開演前の客入れの時からキャストや主宰者や演出家が表に出ていて、お祭り騒ぎで盛り上げていて、賑やかなテンションのまま本編に入る構成が良かったです。通常は存在していないものとされている、黒子や舞台裏を悪目立ちさせて意識させる、脱力感のある演出が面白かったです。
クライマックスまで音楽や照明による演出をほとんど用いない為、クライマックスが引き立っていました。最後の曲は日本の夏の話に西洋の冬という正反対のものを使っていましたが、意図が分からずモヤモヤした感じが残りました。
わざと稚拙な感じに演じる演技スタイルを使っていましたが、伝統的な様式とのバランスの取り方が難しいと思いました。
衣装や小道具、セットも良い意味でチープな感じで格式張らないカジュアルさがあって良かったです。
オーソドックスな歌舞伎の公演で観たことのない演目でしたが、当日パンフレットに粗筋や人物相関図があって分かりやすかったです。
ITI世界の秀作短編研究シリーズ ドイツ編
公益社団法人 国際演劇協会 日本センター
イワト劇場(東京都)
2011/12/16 (金) ~ 2011/12/18 (日)公演終了
満足度★★
『画の描写』&『言葉のない世界』
現代ドイツの短編戯曲を紹介する5つのプログラムの中で唯一2作品を上演するプログラムで、師弟関係である2人の劇作家の類似点と相違点が見えて、興味深かったです。
どちらも硬派な一人芝居で、特別に難しい言い回しを使っているわけではないのですが、全体として言いたい事があまり理解できませんでした。アフタートークで演出家や役者も「分からなかった」と言っていて、コンテクストの共有が出来ていない、社会的・政治的なテーマを含んだ海外作品を日本で上演することの難しさを強く感じました。
リーディング公演ですが、ただ台本を読むだけではなく、椅子やテーブルや照明、多少の動きのある演技など、視覚的な演出を伴って上演されました。
『画の描写』(ハイナー・ミュラー)
ある少女が描いた絵から想像されることを語る作品で、最初は描かれているものの単純な説明だったのが、次第に想像が逞しくなり、絵の様々な要素に社会的な意味を見い出す過程がスリリングでした。淡々とした語り口の中に熱さを感じました。
数種類のガラスの器を叩いたり、指で縁を擦ったりして音を奏でていたのが、作品のテーマとどう関連付けられているのかは理解出来ませんでしたが印象的でした。
『言葉のない世界』(デーア・ローアー)
アフガニスタンのカブールで経験し思ったことを、セザンヌやロスコ、オキーフ、ハースト等の画家の作品の描写を交えながら語り、西洋と非西洋の文化や制度の違いを考えさせられる作品でした。『画の描写』とは逆に、次第に諦念が浮かび上がってくるように感じました。
途中、英語で喋ったり英語でのナレーションの録音が流されたりしましたが(どちらも日本語で言い直されます)、ドイツ人の観客が英語での台詞を聞いたときにどう感じるのかが想像できず、もどかしく思いました。
ご来場ありがとうございました!!『増殖島のスキャンダル』
舞台芸術集団 地下空港
ギャラリーSite(東京都)
2011/12/08 (木) ~ 2011/12/18 (日)公演終了
満足度★★★★
スタイリッシュな寓話
ホラー的な要素もあるちょっと毒のある寓話的な物語を、真っ白なギャラリー空間を上手く使ったスタイリッシュな演出で見せ、作品の一部分として巻き込まれる感じが楽しかったです。
ある島へのツアーに行った人たちが経験した不思議な出来事の報告を聞くという体裁で、物語を通して核技術と人類との関係を比喩的に描いていました。観客はツアーの客という設定で空間全体に席が配置してあり、その間や壁際で演技が行われ、迫力がありました。
全員が身に付ける真っ黒な衣装のそれぞれに凝ったディテールが施してあって、とてもセンスが良いと思いました。小物は全て針金細工で手作り感が溢れていて可愛かったです。音楽はチェロと歌のみでしたが、効果的に使われていました。
世界初とうたっていたキネクトを使用した映像表現は、Max/MSP/Jitter等のプログラミング環境を用いて既に行われている様な内容だったので、新鮮味は感じませんでしたが、効果的に使われていました。
役者は基本的に声を張って喋っていましたが、残響のせいで聞き取りにくかったです。それほど広くもない会場で普通の声量でも十分に聞こえるので、もう少し声の大きさを抑えた方が良いと思いました。
楽園王+劇団ING進行形「新・芸術とは・・・?」
楽園王
上野ストアハウス(東京都)
2011/12/08 (木) ~ 2011/12/11 (日)公演終了
満足度★★
芸術をテーマとした3作
岡本綺堂の戯曲3本を通して、芸術と生活、芸術家としてのプライド、芸術の継承等のテーマを演劇活動を行う自分達の問題として捉えて描いた作品でした。興味深い観点による戯曲のセレクトでしたが、舞台作品としては訴えかける力が弱く感じました。
楽園王による『近松半二の死』と劇団ING進行形による『修善寺物語』と、その2作をサンドイッチにするように3つに分けて配置された楽園王による『俳諧師』で構成され、連続して上演されました。
『俳諧師』
生活に窮する男が芭蕉の弟子であった旧友に芭蕉の短柵の偽物を作る様にけしかけられる話で、冒頭がカットされていましたが一部の台詞回し以外はオーソドックスな時代劇として演出されていました。
『近松半二の死』
歌舞伎が流行り、人形浄瑠璃が廃れて行く時代を憂いつつ死ぬ浄瑠璃作家を描いた原作の前後に現代の病院でのエピソードが加えられていて、病院のセットや衣装のまま、原作通りの台詞で演じられました。色々な趣向を盛り込んでいましたが意図が分かりにくかったです。また音楽の音量が大き過ぎて、役者の声が聞き取りにくい場面が何度かあったのが残念です。
長堀さんの演出では台詞の区切りを通常より1文節後にずらす手法が使われれ、変な引っ掛かりを感じさせて言葉に注目させる効果があり興味深かったのですが、使う箇所によっては文意が分かりにくくなってしまっていました。
『修善寺物語』
面の職人としての矜持が描かれた作品で、原作の前後に数人が日常的な格好で現れるプロローグとエピローグが加えられいて、演劇を続けていく決意が感じられました。ストップモーションやダンス的表現を用いた、身体性の強い演出でした。
やりたいことは分かるのですが、声や体がそのレベルに達していないもどかしさを感じました。
仮面が鼻メガネだったり、パロディーの様な殺陣のシーンがあったりとコミカルな要素も入れてありましたが、笑えませんでした。
ASYL
JCDN
池上實相寺(東京都)
2011/12/10 (土) ~ 2011/12/11 (日)公演終了
満足度★★★
艶やかな美
閑静なお寺を会場に、映像、ダンス、唄・三味線を用いて江戸時代と現代のラブストーリーが描かれる作品で、静謐な雰囲気と艶やかな表現が印象的なでした。
7間の幅がある広間の12枚の障子の手前帯状に赤いカーペットが敷かれ、中央には毛足の長いピンクの生地で覆われた台が設置された薄暗い空間の中で、西松布咏さんの三味線・唄の演奏と吉原の文化についてのお話で始まり、西松さんは吉原の遊女・高尾太夫の物語を語り、寺田みさこさんはヤクザから逃げる魔性の女を映像内と舞台上で演じ、平行して展開する話が最後に死をもって重なり合う構成でした。
寺田さんはなかなか舞台には登場せず、やっと出てきても障子の向こう側で踊るシルエットを見せるのみとじらされ、表に黒のドレスで現れた時がセクシーで格好良かったです。ジャズの名曲で踊る姿に強い存在感がありました。
西松さんの優しい語り口の解説で、あまり聴く機会のない唄が身近に感じられる様になりました。最後の『You would be so nice to come home』を英語の歌詞のまま小唄風の節回しで歌ったのがとて素晴らしかったです。
京都のお寺の襖絵や、夜の京都の町を走る寺田さん、煙草の煙、金魚等の映像を障子に4面で映していたのが美しかったです。
唄の歌詞や、作品の解説・経緯を詳しく記したパンフレットがあり、作品の内容が理解するのに役立ちました。
たびたびオトメそして旅
合唱団るふらん
第一生命ホール (東京都)
2011/12/09 (金) ~ 2011/12/09 (金)公演終了
満足度★★
旅する乙女
クラシック系ではない音楽家が作曲した合唱の為のオペラで、バンドの演奏を伴ったリズミカルな音楽に乗せて女性の心情が描かれていました。
舞台前方中央に傾いて立った門があり、奥には雛段が組まれたステージを白のワンピースの上にコートを羽織った26人の女性のみの合唱団が様々なフォーメーションを作ったり、移動しながら歌い演じて展開する作品で、「桔梗/帰郷」、「銭湯/戦闘」等、言葉遊びの多い歌詞や台詞を通して、移ろい易い乙女心がユーモラスに描かれていました。が印象的でした。
音楽はサンバや、サルサ、タンゴ等のラテンミュージックをベースに、ワーグナー、ラヴェル、ボブ・マーリーの引用を織り交ぜたもので、シンプルなユニゾンが多くて聴き易かったです。ピアノ、ベース、ドラムの3人がビートを引っ張って行く、きびきびとした曲調が爽快でした。
音楽作品としては楽しめたのですが、演劇作品としては面白く感じませんでした。歌が1曲終わる度に転換の為の時間があるため、ドラマとしての連続性がなく盛り上がりに欠けていたと思います。おどけた雰囲気の演技が多く、もっとシリアスな表現も見せて欲しかったです。結構台詞が多かったのですが、回しがぎこちない人が多くて残念でした。
残響のせいで台詞が聞き取りにくく、明るい木の色の空間では視覚的に密度が薄く見えたので、コンサートホールではなく演劇用の劇場で上演した方が良さそうに思いました。
ノマ
リクウズルーム
アトリエ春風舎(東京都)
2011/12/02 (金) ~ 2011/12/06 (火)公演終了
満足度★★★
意味不明だけど魅力的
1センテンスだけならなんとなく意味が分かるけど、文と文の繋がりには全く意味が見い出せない支離滅裂なテキストに、普通の芝居のシーンのような演技・演出を強引に当てはめたかの様な作品でした。訳が分からないのに、80分の間で退屈することがなく、不思議な魅力がありました。
パンフレットには「ネアンドルハインヅガー」という鳥を探し求める冒険物語を「発見しました」と載っていたので、テキストはストーリー性を考慮せずにランダムあるいはオートマティックに作られたものの様です。当然、全然そのような物語には見えず、哲学者や科学者、画家、作曲家の名前や、学術用語等の難しい単語が頻出する妙な会話にシュールな可笑しみがありました。途中までは深読みしようとしながら観ていたのですが、途中からは考えずに目の前で起きていることをそのまま受け入れることにしたら意外と楽しかったです。
実験的なことをしているのですが高踏的な雰囲気はなく、カラフルで可愛いらしい衣装やBGMに使われたポップスのおかげで親しみが持てました、徹底的に意味不明なやり取りを展開するだけでも十分面白いので、ベタに受けを狙った台詞が余計に感じました。
脈絡のない台詞なので覚えるのが大変だとは思いますが、楽日にも関わらず思い出しながら台詞を言っている様に見えることが所々にあったのが残念でした(それも演技なのかも知れませんが)。男性陣に台詞が聞き取りにくい人が何人かいたのが辛かったです。役者のそれぞれ個性的な存在感が素敵でした。
Oi-SCALE企画公演オムニバスof Oi Oi vol 3
Oi-SCALE
駅前劇場(東京都)
2011/11/30 (水) ~ 2011/12/07 (水)公演終了
満足度★★★
エレベーター幻想譚
エレベーターやエレベーターホールを舞台にした、3人の作家による短編のオムニバスで、それぞれ独自の個性を感じさせながらも、共通して幻想的な雰囲気が漂っていました。
『塔』(長堀博士)
鈴木という名の人を追い求めて色々なエレベーターに乗って回る男の物語で、不条理劇的な会話から始まり、頻繁に主体が入れ替わる不思議なテイストでした。話は興味深かったのですが、ドタバタで賑やかな演出が合ってないと思いました。
『Perspective』(夏井孝裕)
エレベーターから降りずにずっと中にいたまま上下し続ける女の話で、「異次元」をキーワードにチェーホフやシェイクスピアの引用や原発ネタを用いた脚本が興味深かったです。後半の静かな長台詞の表現が素敵でした。
『童話が生まれた日』(林灰二)
老人ホームを舞台に現実との繋がりを失いかけている人達が交す、浮遊感のある会話が印象的でした。意図的なのかも知れませんが、各登場人物の設定や関係が分かりにくかったです。
全体的に音楽の使い方が上手いと思いましたが、音楽に頼り過ぎている様にも感じました。もっと役者の演技力で引き込んで欲しかったです。
あゆみ TOUR
ままごと
森下スタジオ(東京都)
2011/12/01 (木) ~ 2011/12/04 (日)公演終了
満足度★★★★★
音楽的・ダンス的
ある女性が生まれて死ぬまでを、短いエピソードを次々に連ねるスピード感溢れる演出で描き、あっという間の75分でした。
8人の役者達は役が固定されていないくて、しかもシーン毎に役が替わるのではなく、数歩歩いただけで入れ替わることも度々あるという目まぐるしさでしたが、物語自体は人生において誰でも経験する様な日常的なエピソードばかりなので、話について行けなくなってしまうことはなく、分かり易く整理して演出されていました。
複雑な台詞や動きのコンビネーションがとても高い精度で行われていて、音楽的・ダンス的要素を強く感じさせながら芝居から浮かずに上手く融合していたのが素晴らしかったです。音響効果がほんのわずかにしか用いられず、絶えず移動しながら台詞を言う役者の声の立体感が引き立っていました。赤い靴が本や電話など様々な物に見立てられて用いられていたのも楽しかったです。床にチョークで引かれるラインに沿ってライティングエリアが展開する照明が美しかったです。
シンプルかつ斬新な手法を用いながらも小難しい雰囲気にならず、ユーモアを散りばめてエンターテインメント性とアート性が高いレベルで両立した傑作だと思います。
キネカ メモリア
SPIRAL MOON
「劇」小劇場(東京都)
2011/11/25 (金) ~ 2011/12/04 (日)公演終了
満足度★★
内容も形式もレトロ
古びた小さな映画館のロビーを舞台に、色々な人の思いが描かれる物語でした。チラシや説明文から、しっとりとした雰囲気を予想していたのですが、ドタバタや笑いを狙ったシーン等、賑やかな感じでした。
独身の中年男性が経営する映画館に、学生運動に加わっていた女、1人で観に来る男子高校生、隣のストリップ劇場で踊っている女、再開発事業の為に土地を買おうとするデベロッパーなどが行き来し、それぞれの夢が語られるのと共に、夢を描く映画の素晴らしさを讃える内容でした。
分かり易い脚本と演出で安心して観ることの出来る作品でしたが、全体的に古臭さを感じました。昭和時代のレトロな雰囲気の内容でも、演出や演技はもっと新鮮さを見せて欲しかったです。
それぞれの役が典型的なキャラクターで、人物の描き方が単純過ぎると思いました。しつこいボケやハリセンで叩く等の古典的なネタも間が良くなくて笑えませんでした。日替わりゲストによるアドリブのシーンはグダグダで、物語の展開にも関係がなかったので不要だと思いました。
下ネタが多く、不快に思ったわけではありませんが、必要性が感じられませんでした。
作り込んでいるわけではないけど寂れた感じが良く出た美術が良く、ステージ袖の階段や劇場の下の階までも上手く取り込んだ空間の使い方が面白かったです。
タイム・フライズ
ミュージカル座
THEATRE1010(東京都)
2011/12/01 (木) ~ 2011/12/06 (火)公演終了
満足度★★★
1968
就職活動が上手く行かず悩む大学生2人が学生運動の盛り上がりのピークだった1968年にタイムスリップして親の世代達の熱さや葛藤を知るという物語をストレートな演出で分かり易く描いた、万人向けなミュージカル作品でした。
「アングラ・ミュージカル」と謳っていて、ちょっと変わった趣向が観られるのかと期待していたのですが、扱っている時代がアングラが流行している時代なだけで、表現としてはオーソドックスでアングラ的要素はほとんど感じられなかったのが残念に思いました。しかし、迫力のあるセット・照明と、キャスト全員のしっかりとした歌唱力で、休憩込みで3時間あっても飽きることなく楽しめました。
脚本自体はタイムトラベル物でありがちなエピソードが多く、新鮮味が感じられませんでした。エピローグも説明的過ぎだと思いました。
音楽はロック調のものとフォーク調の物が主体で、録音による伴奏だけでなく、ギターを生演奏していたのが良かったです。建築足場材で組まれた3階建てのセットが回り舞台になっていて、回しながら場面を展開したり、短い暗転で人が入れ替わったりと、効果的に使われて素晴らしかったです。
Still moving2
Ensemble Sonne(アンサンブル・ゾネ)
シアターX(東京都)
2011/11/28 (月) ~ 2011/11/29 (火)公演終了
満足度★★★
端正な純ダンス作品
ヨーロッパで活躍するフリージャズのピアニスト、高瀬アキさんとのコラボレーションで、華やかさはないものの、しっかりとした構成感のある1時間強の正当派なダンス作品でした。
薄暗い中、静かに女性ダンサーのソロが始まり、フリージャズ(録音)に乗せてソロやデュオなど少人数のダンスを中心に展開し、椅子に座った4人によるちょっとコミカルなダンスもあり、後半は高瀬さんのアグレッシブな生演奏に合わせて盛り上がりった後、深く沈んでいくような重い響きのパッサカリア的な曲で音も照明もフェイドアウトして静かに終わる構成でした。
体全体を用いた、しなやかなムーブメントがボキャブラリー豊かに繰り広げられていて印象的でした。特に、空気に弾力性や粘性があるかの様に空間の量感を感じさせながら踊る、中村恩恵さんのソロが素晴らしかったです。
複数人で同じ動きをするときにタイミングやフォームのずれが気になりました。
上手に吊られた大きなオブジェが内側から照らされ、その影が不思議な空間の拡がりを見せていて面白かったです。
全体的にバランスの良い堅実な作品でしたが、逆に突出した個性があまり感じられず残念に感じました。また、ワールドワイドに活躍している高瀬さんと中村さんが出演しているにも関わらず空席が目立ち、寂しかったです。
がムだムどムどム
crewimburnny
シアタートラム(東京都)
2011/11/25 (金) ~ 2011/11/27 (日)公演終了
満足度★★★
エロ可愛い
シアタートラムの客席を取り払い、周遊できる立体的なセットの中で繰り広げられるパフォーマンスでした。可愛らしい衣装や美術、振付に反してダンサーは終始無表情で、暴力的な音楽の使い方もあり、可愛さだけでなく、その中に潜む毒を感じさせました。
草原や教室など、いくつかのエリアに分かれ、音楽もそれぞれバラバラに鳴っているスペースで同時多発的にパフォーマンスが行われ、ある1曲のサビに入ると突然大音量になってユニゾン的なダンスに切り替わり、サビの1フレーズが終わると何事も無かった様に元の状態の戻るシークエンスが何度か繰り返され、最初にセットしていた炊飯器が炊きあがると畳み掛ける様なスピーディーな展開となり、その後静かなシーンが続いて終わる構成でした。
膝や肘を真っ直ぐに伸ばしたままの動きが特徴的で、衣装とあいまって人形みたいでした。また、踊りきらずに途中で止まってしまう動きも多く、ふてぶてしい感じが魅力的でした。もう少しダイナミックに踊るシーンを観たかったです。
2人分程の幅の観客用の通路がアクティングエリアを貫通する様なレイアウトで様々な角度から観れる様になっていて、わざと壁を作って死角を作り観客に移動を促す様な演出になっていたのが良かったです(それでも全然移動しない客が結構いましたが…)。
ドーナツやマシュマロなどのスイーツをトッピングしたご飯から漂ってくる甘い香りが毒々しくて印象に残りました。
CE QUI ARRIVE –これから起きるかもしれないこと–
日本パフォーマンス/アート研究所
花やしき座 (花やしき内・多目的スペース)(東京都)
2011/11/26 (土) ~ 2011/11/26 (土)公演終了
満足度★★
男達の夜
閉園した後の花やしきを舞台に個性的なアーティスト達のパフォーマンスが繰り広げられるイベントでした。いくつかの乗り物は自由に乗れる様になっていて、暗い中を煌々と光って動く姿がシュールでした。
悪魔のしるし
作業着にヘルメット姿の人達がクネクネした形状の大きな物体を運ぶパフォーマンスで、朝礼から始まり、ラジオ体操、危険予知活動など本当の工事現場さながらの進行でした。
足立喜一朗
おもちゃの「モーラー」を巨大化した作品で、可愛らしい見掛けとは裏腹に金属の柵にぶつかりながら暴力的に動くギャップが面白かったです。
サンガツ・和田永
屋内でのライブで、サンガツは演奏と同期した映像、逆に映像と同期した演奏で、アブストラクトでクールな質感が気持ち良かったです。
和田さんは弦に長いバネをつけた拡張されたギターを演奏し、不思議な音色が綺麗でした。今までの、廃れたメディアを使ってのパフォーマンスに比べると批評的な観点があまり感じられませんでした。
contact Gonzo・伊東篤宏
コンタクト・インプロヴィゼーションと喧嘩の混ざった様な殺伐とした取っ組み合いのパフォーマンスで、没入感と客観性の微妙なバランスがスリリングでした。途中から伊東さんの蛍光灯を用いた創作楽器「オプトロン」のノイジーな演奏が加わり、より暴力性が強調されていました。
再度、悪魔のしるしによるパフォーマンスがあり、苦戦しながらも会場の外の駐車場まで運び出して観客を沸かせていました。
久保田弘成
駐車場に設置された、空中で串刺しになった車(黄緑のトラバント)をエンジンを用いた機械でグルグル回転させるパフォーマンスで、操作する久保田さんは上半身裸で、ソーラン節や津軽じょんがら節を元にした演歌が流れ、男気が溢れていました。
全体的に豪快で男臭い表現が多く、可愛さや繊細さが注目を集めがちな現代アート界に対しての意義申し立てを感じさせるラインアップでした。
タイムラインに沿って1つずつパフォーマンスが行われる展開でしたが、物足りなさを感じました。同時多発で何かが起こっているようなヴォリューム感が欲しかったです。
ドン・ジョヴァンニ
東京二期会
日生劇場(東京都)
2011/11/23 (水) ~ 2011/11/27 (日)公演終了
満足度★★★★
重層的な演出
極悪非道な色男の破滅の物語を洗練されたビジュアルと官悩的な演技で描き、モーツァルトのチャーミングな音楽との対比が鮮やかな演出が印象的なプロダクションでした。
序曲が演奏される前から舞台の幕が上がり、雷の音と閃光の中、アーガイル柄のセーターに眼鏡の男性とピンクのミニのワンピースの女性の現代的な若いカップルが洋館に入って来るという、オリジナルの脚本にはないシーンから始まり、他の登場人物は近世の貴族の格好で、途中で近代的なスーツの男性が現れたりして、異なる時代が併置された様な奇妙さがありました。
20人程の合唱の人達は全てデザイン違いのちょっとゴス系なテイストも感じられる白いドレスと白い髪という姿でスローモーションやストップモーションを多用して、亡霊の様に現れたり消えたりしていたのが美しかったです。
歌詞の内容と相反する内容がアンサンブルやメインキャストと同じ格好をした人によって演じられ、感情の表と裏を表現していたのが興味深かったです。
手前から奥に3層、大きな額縁を中央に据えた同じセットが床の角度を変えながら重ねられ、エッシャーの絵画の様な入れ子状の不思議な空間が作られていました。壁に並んだドアにはおそらく年号を意味する4桁の数字が記され、ドン・ジョヴァンニに象徴される「悪」がどの時代になっても消えることはないと示唆している様でした。
歌手は服を脱ぎ捨てほぼ下着姿に近い格好になったり、オペラにしては濃厚な絡みのシーンがあったりと体を張った演技で、演劇性を高めていました。ドン・ジョヴァンニを演じた宮本益光さんはスケスケのタンクトップ姿で妖しさ溢れる演技をしていて、とても魅力的でした。
第1幕では様々な趣向が盛り込まれ、それらをどうまとめるか楽しみだったのですが、第2幕はあまりハッとさせられる演出がなく、まとまらずに終わってしまった感じがして残念でした。
記念オペラ「古事記」
東京文化会館
東京文化会館 大ホール(東京都)
2011/11/20 (日) ~ 2011/11/23 (水)公演終了
満足度★★★
おおらかに描かれる日本創世記
来年が編纂1300周年となる『古事紀』をオペラ化した作品で、東京文化会館の50周年記念にふさわしいスケールの大きい物語を休憩込みで2時間強とオペラとしてはコンパクトな時間で描いていました。
イザナギとイザナミが日本の国土や様々な神様を生み出す第1幕、天の岩戸に隠れたアマテラスをアメノウズメの踊りに沸く神々の騒ぎでおびき出す第2幕、天界を追放されたスサノヲが出雲でヤマタノオロチを退治する第3幕、スサノヲとアマテラスが和解しニギノミコトが地上の国に降臨する第4幕、と古事紀の中でも有名な部分が描かれ、能楽師の語りによるプロローグとエピローグがつく構成でした。全編を通して登場する様な明確な主役は存在せず、合唱によるアンサンブルが重要な役を担っていました。
音楽はプロローグとエピローグでは前衛的な響きもありますが、メロディアスだったりダンサンブルだったり部分が多く、無調であっても親しみ易い響きでした。日本の話だからといって殊更に和風の旋律や和楽器が用いられていないのも太古の神話的雰囲気が出ていて良かったです。特にアメノウズメの踊りのシーンでは合唱の人達が変拍子のリズムを手拍子で刻み、躍動感が素晴らしかったです。独唱部分ではオーケストラの音量を抑えめにして歌が聞こえる様に配慮したりと丁寧な演奏でしたが、もう少し荒々しい演奏の方が世界観に合っている様に思いました。
異なる傾斜の2重の円形のステージの内側の円が回り舞台になっていて空間の表情を変化させていましたが、あまり変化がないため効果を感じませんでした。視覚的にもう少しダイナミックな表現があっても良いと思いました。ヤマタノオロチは姿を見せず、合唱による実況中継的な歌詞の歌で盛り上げていましたが、一番激しい場面なのに動きがないのが寂しかったです。ヤマタノオロチの作り物を出すと安っぽくなるので出さなかったのは理解出来ますが、例えば舞台奥で影絵的芝居的に見せる等の演出が欲しかったです。
物語を端折り過ぎていて、実質90分ちょっとの上演時間では物足りなく感じましたが、とても意義のある公演だったと思います。
さいあい~シェイクスピア・レシピ~ 感劇市場
tamagoPLIN
学習院女子大学 やわらぎホール(東京都)
2011/11/20 (日) ~ 2011/11/20 (日)公演終了
満足度★★★★★
野菜愛
講演会向きのホールといった設えで演劇には合わない雰囲気の会場でしたが、始まるとそれが気にならなくなる強い求心力を持った作品でした。6月のタイニイアリスでの公演を観たので(その時の感想 http://stage.corich.jp/watch_done_detail.php?watch_id=107565)、内容は解っていたのですが、それでも笑わされて泣かされました。
議論の的になる様な先進的な構成や表現があるわけではないのですが、いわゆる「ウェルメイド」とは異なる質の娯楽性があって、とてもユニークで素晴らしかったです。
タイニイアリスの観客を沸かせた、最後の撤収パフォーマンスが今回はなかったのが残念でした(会場の都合で出来なかったとのことです)。
早くも来年3月の座・高円寺での再々演が決まっているとのことで、カンパニーのレパートリー作品として今後も繰り返し上演して行って欲しいです。また、この作品を超える新作にも期待しています。
駄々の塊です
悪い芝居
王子小劇場(東京都)
2011/11/17 (木) ~ 2011/11/21 (月)公演終了
満足度★★★
セットが素晴らしい
中途半端に発展した街の動物園を舞台に、それぞれちょっと異常なところがある人達を描いた作品で、回り舞台を用いたスピーディーな展開の中に人間の身勝手さが表現されていました。
浮浪者を働かせるビジネスで儲け、街を牛耳る男が経営する動物園の動物が全て消えてしまったところに股間が光る謎の男が現れるところから始まり、その動物園で働いていて失踪した男の妻、その妻を刺して服役していた夫の妹、幼い頃に一家心中で両親を失った男、街を牛耳る男の娘のそれぞれのエピソードが動物園で重なり合い、真相が明らかになって行く物語で、終盤の緊張感溢れる展開が良かったです。
消えた動物について序盤以降はあまり触れられず、新たな展開を匂わせる台詞で物語が突然終わってしまうのが、謎めいていて印象的でした。
人間の愚かさをえぐり出す脚本や、回り舞台と照明を巧みに用いた視覚的な演出は面白かったのですが、声をがなり立て過ぎで台詞が聞き取りにくく(1人は声が潰れていて特に聞き辛かったです)、演技もオーバー気味に感じました。京都の会場ではそれでちょうど良かったのかもしれませんが、王子小劇場のサイズに合っていないと思いました。
前半はウケ狙いなシーンもたくさんあったのですが、いかにも関西的なベタなボケ・ツッコミはほとんど笑えませんでした。後半の盛り上げ方はとても良かったので、前半の空回り感が勿体なく思いました。
冬物語
明治大学シェイクスピアプロジェクト
アカデミーホール(明治大学駿河台キャンパス)(東京都)
2011/11/18 (金) ~ 2011/11/20 (日)公演終了
満足度★★
良くも悪くも若々しい
シェイクスピアの戯曲を原文から翻訳するところから始め、キャスト・スタッフ・制作に至るまでのほとんど全てを学生達だけで行った公演で、所々に現代的なネタを盛り込んではいましたが基本的は原作に忠実に作られていて、休憩無しの2時間半という長時間を保たせる集中力が感じられました。
後半の喜劇的な雰囲気になってからは若々しさを活かしてエネルギッシュな表現が楽しかったのですが、前半の悲劇的な部分は台詞が表面的に聞こえ、あまり引き込まれませんでした。上演時間を短縮する為か、台詞のスピードが早く、台詞と台詞の間の空け方も不十分で、あまり感情が伝わって来ませんでした。
アンサンブルの使い方が良くて、ある時は不気味に、ある時には神秘的にと舞台の雰囲気を方向付けていました。
音楽はヴァイオリンとフルートとパーカッションの生演奏で、中世的な雰囲気がありました。録音のピアノの音楽はミスマッチに感じました。
コスチュームプレイ物だと安っぽくなりがちな衣装もしっかり作ってあって良かったです。
常設のサークルなどではなく、学部・学年を超えた学生の自主企画として、ここまでの規模の公演を実行することはとても素晴らしいと思いますが、そういうことを抜きに純粋に舞台上で表現されていることだけで判断すると、まだまだ良くなる余地がたくさんあると思いました。
終演後、出演者全員でのお見送りが清々しくて気持ち良かったです。