満足度★★★
おおらかに描かれる日本創世記
来年が編纂1300周年となる『古事紀』をオペラ化した作品で、東京文化会館の50周年記念にふさわしいスケールの大きい物語を休憩込みで2時間強とオペラとしてはコンパクトな時間で描いていました。
イザナギとイザナミが日本の国土や様々な神様を生み出す第1幕、天の岩戸に隠れたアマテラスをアメノウズメの踊りに沸く神々の騒ぎでおびき出す第2幕、天界を追放されたスサノヲが出雲でヤマタノオロチを退治する第3幕、スサノヲとアマテラスが和解しニギノミコトが地上の国に降臨する第4幕、と古事紀の中でも有名な部分が描かれ、能楽師の語りによるプロローグとエピローグがつく構成でした。全編を通して登場する様な明確な主役は存在せず、合唱によるアンサンブルが重要な役を担っていました。
音楽はプロローグとエピローグでは前衛的な響きもありますが、メロディアスだったりダンサンブルだったり部分が多く、無調であっても親しみ易い響きでした。日本の話だからといって殊更に和風の旋律や和楽器が用いられていないのも太古の神話的雰囲気が出ていて良かったです。特にアメノウズメの踊りのシーンでは合唱の人達が変拍子のリズムを手拍子で刻み、躍動感が素晴らしかったです。独唱部分ではオーケストラの音量を抑えめにして歌が聞こえる様に配慮したりと丁寧な演奏でしたが、もう少し荒々しい演奏の方が世界観に合っている様に思いました。
異なる傾斜の2重の円形のステージの内側の円が回り舞台になっていて空間の表情を変化させていましたが、あまり変化がないため効果を感じませんでした。視覚的にもう少しダイナミックな表現があっても良いと思いました。ヤマタノオロチは姿を見せず、合唱による実況中継的な歌詞の歌で盛り上げていましたが、一番激しい場面なのに動きがないのが寂しかったです。ヤマタノオロチの作り物を出すと安っぽくなるので出さなかったのは理解出来ますが、例えば舞台奥で影絵的芝居的に見せる等の演出が欲しかったです。
物語を端折り過ぎていて、実質90分ちょっとの上演時間では物足りなく感じましたが、とても意義のある公演だったと思います。