パラドックス定数第45項 「Das Orchester」
パラドックス定数
シアター風姿花伝(東京都)
2019/03/19 (火) ~ 2019/03/31 (日)公演終了
満足度★★★★★
いま大注目の野木萌葱作品7本連続公演の最終回。学生時代に書いた本を改訂したそうだが、そんな未熟さは感じられない。いつの間にか2時間たっていた。緊迫感がずっと途切れない、無駄のない芝居だった。
名前は出てこないが、フルトヴェングラーが、ナチスによるユダヤ人排斥と音楽の国家管理に闘う物語。
フルトヴェングラーというと、ナチス協力を指弾されたことしか知らなかったので、こんなことがあったのかと思うと、事実であった。1933年1月のナチス政権獲得から2ヶ月間ほどの出来事。ナチの将校が「あなたほど、矛盾した人物はいない」というように、その後、ナチ体制の中で生き延びていくフルヴェンの協力と抵抗の綱渡りはきわめて複雑である。
見ながら、昨年の私の個人的ベスト1「シング・ア・ソング」(古川健・作、日澤雄介・演出、戸田恵子主演)との共通点がいくつもあることを発見した。こちらは淡谷のり子をモチーフにした、軍の命令に精一杯の抵抗をする歌手の話である。対立軸が似ているのと、音楽好きの憲兵という、敵の中の隠れた味方が、物語の鍵になっているところなど。作劇の発想に共通するものがあるのだろう。
マクベス
劇団東演
シアタートラム(東京都)
2019/03/24 (日) ~ 2019/04/07 (日)公演終了
満足度★★★★★
斬新で現代的な演出が、マクベスの野心と転落のドラマを、緊張感と迫力ある舞台に実現した。キムラ緑子のマクベス夫人が邪心ない悪女を演じて、運命の皮肉を強く感じさせた。「母と惑星について」に続くすばらしい好演だった。音楽も兵士・騎馬たちの行軍にかかるアップビートな曲、暗い運命を示す不気味な低音の曲など、非常に効果的だった。一貫して闇が残る照明もいい。
演出したロシアのユーゴザーパド劇場のワレリー・ベリャコーヴィッチは2年半前に亡くなっている。この作品をロシアで再演した初日に心筋梗塞で倒れたそうだ。享年66歳。彼については思い出がある。2000年に同劇団が来日した時に、「朝日」の紹介記事に惹かれて「どん底」を見にいった。あのつまらない(失礼!)「どん底」を、こんなにかっこよく、面白くやるのかと、驚嘆したことを今でも覚えている。大胆なテキストレジー、ダンス、群舞、モブシーンなど演劇の身体性を前面に出しつつ、セリフの力をここぞというところで押し出すメリハリ、シンプルな舞台・衣装で俳優に集中し転換も早く、光と闇を効果的に配した照明など。そうした特徴は今回の舞台でも変わらなかったし、より一層進化していた。
十数年、観劇から離れていたので東演がベリャコーヴィッチの指導を受けて多くの成果を上げていたことを知らなかった。今回、彼の遺作をこうして見ることができたのは幸運だった。
こそぎ落としの明け暮れ
ベッド&メイキングス
東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)
2019/03/15 (金) ~ 2019/03/27 (水)公演終了
満足度★★★
昨年の岸田戯曲賞受賞ということで、初めてこの作者と劇団を見に行った。パーツパーツは面白いところもあるのだが、全体としては話が分裂していて、よくわからない印象。メインプロットだけでなくサブプロットも絡ませるのはシェイクスピアがよくやった手法だが、今回は二つ(あるいは三つ)のプロットがお互いに無関係過ぎた。そのうえ、俳優もみな全力投球で、すべてのプロット・役が自己主張している。とっ散らかった感が強かった。
ただし、言葉遊びや詩的言葉、比喩、ギャグ、下ネタ、人生論などごった煮ではあるが、多彩なセリフに才能を感じた。岸田賞を受賞したのはこういうところだろうか。
岸田戯曲賞を受賞した舞台「あたらしいエクスプロージョン」のDVDと戯曲を買って、帰ってから見た。これは傑作だった。ホンもよかったが、八嶋智人のコミカルで柔軟な演技もさえわたっていて、おすすめです。
血のように真っ赤な夕陽
劇団俳優座
俳優座スタジオ(東京都)
2019/03/15 (金) ~ 2019/03/31 (日)公演終了
満足度★★★★
満蒙開拓団の悲劇だが、あえて辛口で言わせてもらえば甘い。主人公たちは善意の開拓団で、「満人」から慕われ、敗戦後の窮地を助けられる。こういう開拓団もあったのだろうが、幸福な例外だったろう。満人を差別的に扱い約束も守らない傲慢な開拓団や、集団自決で全滅した開拓団の話も出てくるが、隣の開拓団の話として、伝聞でしかない物足りなさは残る。(ただ、それを舞台で血みどろで演じるのがいいか、というのはまた別の話であることも分かる)
最初に不満を書いたが、いいところももちろんたくさんある。「誰か故郷を思わざる」の歌は聞いていて、しみじみした。ベテラン岩崎加根子もよかった。特に、体を張って満洲人を守るところ、集団自決に思いつめた仲間をひとまず和ませるところ。集団自決で同胞を殺してきた役の、谷部央年のすごみはまさに鬼気迫った。満洲人のリーダー役の渡辺聡も、被支配民族の苦しい立場と誇りをよく演じていた。
30万人の開拓団のうち9万人が犠牲になった(27万人中8万人犠牲という説もある)、そのうち1万が集団自決という。同じ満洲でも都市部の日本人とはレベルの違う、開拓団の悲劇の構造と政府・軍の責任があぶりだされていた。藤原てい「流れる星は生きている」なかにし礼「赤い月」など、引き揚げ体験を書き記す人は、都市にいたインテリ層(あるいはその子弟)が多い。そういう点でも、改めて満蒙開拓団の悲劇を現代の観客に追体験させた意味は大きい。
新・ワーグナー家の女
劇団 新人会
上野ストアハウス(東京都)
2019/03/20 (水) ~ 2019/03/24 (日)公演終了
満足度★★★★
戦後もナチス協力を反省しない母(大ワーグナーの息子の妻・ヴィニフレッド・ワーグナー)と、亡命してナチス批判を展開した娘フリーデリント・ワーグナー(愛称マウジ=ハツカネズミ)の対話劇。予備審問の場の米軍人たちが、場面場面で役を変えながら、コロスの役割をする。ほぼ二人の回想の語りで終始するが、なんといっても素材となった歴史と人間関係が劇的だし、ワーグナーという偉大な芸術家の一族への興味もあって面白く見られた。
後半、ガス室で死んだユダヤ人たちをコロスたちの群舞で見せる。少し長すぎる気もするが、悶え、あがき、脱出を求めながら死んでいく姿が、セリフの裏の悲劇を語っていた。
また、作者福田善之は、日本の朝鮮人迫害にもきちんと触れ、それは朝鮮装束の男の悲しい踊りで示した。ただの海の向こうの話にしていない。ほかにも過去の話にしてはいけないという意識が随所に見られた。休憩なし1時間50分
空ばかり見ていた
Bunkamura
Bunkamuraシアターコクーン(東京都)
2019/03/09 (土) ~ 2019/03/31 (日)公演終了
満足度★★★
初めての岩松了だったが、「静かな演劇」の草分けと思っていたのに、全然違うテイストだった。それでも、細かい男女の機微や、指導者と女房役、捕虜と兵士などの関係を丁寧に描くところがこの人の持ち味なのだろう。ただ、全体としてはわかりにくい。とくにラストは迷路の中に置いてきぼりにされたような不全感が残った。とでパンフをみると、いつも難解といわれているさっかのようなので、今回だけではないようだ。
糸井版 摂州合邦辻 せっしゅうがっぽうがつじ
木ノ下歌舞伎
KAAT神奈川芸術劇場・大スタジオ(神奈川県)
2019/03/14 (木) ~ 2019/03/17 (日)公演終了
満足度★★★★
すごいものを見た。とくに後半、玉手=お辻のが実家に帰ってから後は、全く緩む所のない、圧巻の舞台だった。他の人も書いているが、玉手役の内田慈の妖気まじりの一途な自己犠牲の迫力はすごかった。てがみ座の「海越えの花たち」にも出ていたそうだが、全然別人で、その演技の幅にも驚いた。
「合邦が辻」は他に見たことないのだが、現代語も交えてわかりやすい脚色。玉手の執念の一事に焦点を当ててまとめたところがいい。幼時の父と娘の幸福な日々の回想などは、上演台本で補筆したものと思うが、少し舞台の気迫を削ぎかねないところを、帰って情愛の深さ・広さを実感させるものになっていた。
木ノ下歌舞伎も演出の糸井氏も注目すべき才能である。
休憩なし2時間15分
SWEAT
劇団青年座
駅前劇場(東京都)
2019/03/06 (水) ~ 2019/03/12 (火)公演終了
満足度★★★★
製造業が海外へ流出していくグローバル化の時代に、アメリカ中西部の労働者たちの苦悩と不満のマグマをほとばしらせた舞台。親友だった3人の女性工場労働者(うち一人が黒人)が、そのなかの黒人女性の昇進から妬みが生れ、関係がきしみはじめる、そこに工場のメキシコ移転と人員整理・賃金カットが持ち上がり、その汚れ役を黒人女性が担わされて関係は完全に決裂。続いて息子たちに焦点が移り、かれらは工場移転やスト破りに対して暴力的な行動へ走っていく。そして……。
2000年のスト騒動の1年間を中心に、つかみの「入り口」として、2008年に息子たちが刑務所から出てきた後日談をカットバックする戯曲の構成が見事だ。物語の展開も、人間関係の変化も簡にして要を得ていて、よくわかる。上に書いたように、芝居の軸が少しずつ(三段階に)ずれていきながら、全体として円環をなす。多少図式的なところはあるが、現実がそうなのだから仕方がないだろう。セットのチェンジが多いのだが、テンポを妨げなかった。スタッフさんお疲れ様でした。
2時間50分(休憩15分込み)と、長いのだが、全く飽きなかった。
熱帯樹
世田谷パブリックシアター
シアタートラム(東京都)
2019/02/17 (日) ~ 2019/03/08 (金)公演終了
満足度★★★★★
詩的なセリフの底にポッカリと死の淵が口を開けて待っている、耽美的な三島由紀夫ワールド。中嶋朋子、岡本玲、栗田桃子の女優陣が光っていた。矛盾した心境を語りながら、どっちが仮面でどちが素顔なのかもわからなくなる、虚々実々の心理的駆け引きが見事。男優陣ももちろんいいのだが、女性の力に翻弄される哀れな姿をよく演じていた。
一家の主人の鶴見辰吾は、妻の中嶋朋子を人形のように支配していることになっているのだが、実は妻の方が一枚上手。奴隷こそ主人の生殺与奪のカギを握る「主人」であり、主人は奴隷によって生かされている「奴隷」だという弁証法的関係を見事に示していた。息子の林遣都は文句なしにかっこいいが、芝居では最も受け身な存在だった。
昼の回だったが、観客は女性が9割以上。30代から50代の女性が中心で、明らかに林遣都目当て。シアターコクーンの「唐版風の又三郎」も、窪田正孝のファンの熱心さには驚いたが、今回も若いイケメンへの女性の熱心さには驚くばかり。
母と惑星について、および自転する女たちの記録
パルコ・プロデュース
紀伊國屋ホール(東京都)
2019/03/05 (火) ~ 2019/03/26 (火)公演終了
満足度★★★★★
素晴らしい舞台だった。再演だが、今年第一四半期のベスト。笑いあり、哀しみあり、愛あり、希望あり。初演では鈴木杏が読売演劇大賞最優秀女優賞をとったが、今回の再演では他の女優もそん色ない。母親役がキムラ緑子にかわり、どうしようもなくジコチューだが、素直で憎めない母親を好演していた。また三女役の芳根京子も大変良かった。初めて見たが、いっぺんでファンになった。
長女の田畑智子が、イスタンブールで詐欺にあい200万のじゅうたんを買わされる出だしも傑作。サイコー
世界は一人
パルコ・プロデュース
東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)
2019/02/24 (日) ~ 2019/03/17 (日)公演終了
満足度★★★★★
何といっても役者がいい。ちょっとした間や所作で、舞台が一気に活気づく。演劇はまず俳優を見るものだと再認識させられた。話としては幼なじみの三人の男女のの20余年ということになる。この縦糸に、いじめやひきこもりや、初恋と失恋や、親たちの不幸な死や、えげつない東京生活やが横糸としてからむ。この横糸のエピソード一つ一つが結構切なくていい。これら印象的な横糸が、経糸でしっかりつながっていることがこの舞台の骨格を強くしている。
音楽劇であることもよかった。セリフは少なめなのだが、パフォーマンスとして楽しめたし、メッセージとしても伝わるものがあった。「知らない人でいこう 出合いなおそう」なんてフレーズはぐっとくる。
多分台本を読んでも何もわからない芝居。俳優が演じ、歌い、ひとつの舞台になって初めて見えてくるものばかりだった。DVDかテレビ放送があればぜひまた見たい。
LULU
アン・ラト(unrato)
赤坂RED/THEATER(東京都)
2019/02/28 (木) ~ 2019/03/10 (日)公演終了
満足度★★★
ベルク作曲のオペラでも知られるドイツの古典的戯曲。前半は分りにくく感じたが、後半はぐっと引き締まり、情感ある舞台だった。主人公のルルは魅力的だが、ファムファタール(悪い女)の典型と言われる。今回の舞台ではそうは思えず、霧矢大夢がさっそうと自然に生きているのに、だらしない男たちが勝手に悩んで死んでいく。死という重い事件が、次々あっけなく起きるので、その展開に戸惑った。
後半のルルは、金と過去の罪で追われるよくある世間知らず女になり、謎の女から一気に愚かで哀れな女になる。実は受動的だった前半と違い、後半は生きるために殺人もおかす、娼婦にもなるという能動的な女になったのもリアリティーがあった。
「かくも碧き海、風のように」
椿組
ザ・スズナリ(東京都)
2019/02/27 (水) ~ 2019/03/10 (日)公演終了
満足度★★★
堀田善衛「若き日の詩人たちの肖像」を下敷きにした、戦争の時代の青年群像劇。戦争で引っ張り出されるのは男たちなのだが、その男たちに元気がない。踊り子やバーの若いママや下宿のおばさんといった女たちは元気だが、男たちはうらぶれたロマンティストばかり。生きる目的をつかめずに彷徨ったり、革命の夢、芸術の蜃気楼にしがみついたり。
1936年の2・26事件の夜に始まり、1944年の学徒出陣で終わる。娯楽を求めた浅草レビューやコントの笑いも、時代に背を向けたバーの演劇青年たちの怪気炎も、どこか虚しい。日本を出ていこうが「正義の国」はどこにもない。下り坂を転げ落ちていく暗い時代の雰囲気がよく出ていた。しかし芝居を見に来る大抵の観客にはそれは既にしられたこと。そういう常識を超える新しい発見がもう少し欲しい。
「still live」「もう終わった」「だちゃかん」と言ったセリフや、堀田善衛や加藤道夫からとったであろう詩的言い回しが結構耳に心地よかった。
花火鳴らそか ひらひら振ろか
劇団銅鑼
あうるすぽっと(東京都)
2019/02/15 (金) ~ 2019/02/21 (木)公演終了
満足度★★★★
死んだ人たちの幽霊と、生きている私たちとの心の通い合いを描くおとぎ話の喜劇。ほろっときたし、いい話だった。一緒に見た妻は、内気だった若い女の子が、最後に自己主張できるように変わったというのは「なんだかな」と言っていた。その変化がいいところなのだが、逆に、世の中それほどうまくいかないということか。内気なままでいいじゃないか、という話でもよかった気がした。
おばあさんの幽霊役の長谷川由里がよかった。
ライオンキング【東京】【2023年1月22日昼公演中止】
劇団四季
四季劇場[夏](東京都)
2017/07/16 (日) ~ 2021/06/30 (水)公演終了
満足度★★★★★
日本公演20年、上演回数1万1千回を越す、いまや日本史上最大となった舞台を初めて見た(「キャッツ」は日本公演35年だが、来月1万回になる)。一言で言って、よくできた舞台で、とても感心した。子供だましと思ってずっと見ていなかったわけだが、とんでもない。子供も楽しめる本格的な芝居であり、2時間半、別世界に心を解放する夢の国だった。
オルタリティ
TRASHMASTERS
駅前劇場(東京都)
2019/02/22 (金) ~ 2019/03/03 (日)公演終了
満足度★★★★
とある町役場の要望受付部署を軸に、喫煙者の権利から、人間の善のあり方までを俎上に載せていく対話劇。最初は「喫煙者は出世できないのはおかしい」「教え子と結婚することは教師としてよくないのか」という、矮小な偏見が問題だった。しかし、再生可能エネルギー問題を経て、後半、異常気象による洪水で孤立した役場で、人間の生きるか死ぬか、尊厳をかけたギリギリの選択を迫られる。この強引な展開はすごい力技だ。
登場人物相互が子供時代や男女関係の過去でつながっているところが、議論に感情的な陰影と人間味を加味していて良かった。
孤立していく正義派を龍座さんが、その硬直した滑稽みも含めてよく出していた。「奇行遊戯」でも反捕鯨派テロリストを演じた樋田洋平さんが、今回も偏執的に前のめりな人間を熱演していた。二人のぶつかりあう迫力に圧倒された。寂しい教師の森田匠さんもよかった。
紫苑物語
新国立劇場
新国立劇場 オペラ劇場(東京都)
2019/02/17 (日) ~ 2019/02/24 (日)公演終了
満足度★★★★
1幕は寝てしまった。メロディーなし、不安と混沌の現代音楽はやはり難解。しかし、血が次々流される舞台は結構わかりやすかった。幕間にパンフで作曲家ノートをしっかり予習して臨んだ2幕はよくわかった。緊張感と緩急のある2幕だった。
ただ、平安貴族の生活をもとに無と悟達の境地に至る世界は、オリエンタリズムの東洋理解のステレオタイプではないか。抽象的な現代音楽で描くには、こういう象徴的世界が合うのはわかる。それでも、世界に発信する日本オペラというと、能や禅の「東洋的神秘」をネタにするのはもうやめたらどうか(今回は能がネタではないけれど)。沖縄や高齢化など現代日本の矛盾と苦悩をとらえたオペラを見たい。
平田オリザ・演劇展vol.6
青年団
こまばアゴラ劇場(東京都)
2019/02/15 (金) ~ 2019/03/11 (月)公演終了
満足度★★★★★
「ヤルタ会談」は、3巨頭の歴史的会談をネタに、ブラックな笑いをふりまく、類を見ない怪作。俳優三人の息がぴったり合っていて、ホロコーストや粛清や植民地問題や戦後処理という重厚な題材なのに、大いに笑わせられました。(上演時間30分)
新作「コントロール・オフィサー」は、東京五輪の代表選考会後の水泳選手とドーピング検査官の話。選手たちの悲喜こもごもの建前と本音を、俳優の出入りによる人間関係の変化で見せていた。役者の間合いや微妙な表情も見事で、大いに笑わせられた。
「静かな演劇」の旗手・平田オリザ氏はアイロニーと諧謔の達人です。氏のすぐれた喜劇作家ぶりを堪能しました。(おなじく30分)
ほかに「銀河鉄道の夜」を見ました。こちらはリリカルな詩劇というところ。
唐版 風の又三郎
Bunkamura
Bunkamuraシアターコクーン(東京都)
2019/02/08 (金) ~ 2019/03/03 (日)公演終了
満足度★★★★★
唐十郎の叙情あふれる戯曲を、テンポよく、視覚的にも音楽的にも大変楽しめる舞台に仕上げていた。期待以上の出来だった。読むと難解な戯曲なのだが、舞台で見てみると、ロマンチックな純愛物語の筋がしっかりと貫いていて、意外とわかりやすかった。(去年見た唐組の「吸血姫」など非常に複雑な芝居だったが)
主演の柚月礼音は「マタ・ハリ」でも見ましたが、あちらの女性の色気とはまた違う魅力でひきつけられました。そのほか、出演者は皆うまくて、舞台を活気づけていて、舞台に見とれるばかりの2時間55分でした(休憩含む)。風の又三郎が現れる時の「銀のマント」と黒い山高帽のダンサーたちの歌と踊りも、スタイリッシュだった。
Le Père 父
東京芸術劇場/兵庫県立芸術文化センター
東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)
2019/02/02 (土) ~ 2019/02/24 (日)公演終了
満足度★★★★
認知症になった父と娘の物語だが、父役の橋爪功、娘役の若村麻由美、主演のふたりが非常に良かった。認知症の父から見た世界で、「あなたの娘です」というのが全然別の俳優だったり、時間が前後したり、主人公の経験が、夢なのか現実なのかが曖昧なままだったり、技巧的に面白かった。自分の部屋と思っているのに、壁や家具の配置が物語が進むにつれてどんどん変わっていくのも効果的だった。
父は「自分は呆けてなどいない」と頑固で、周囲を振り回しつつも、どこかに自分自身の変化を感じ取っていて、不安と寂しさを覚えている。橋爪はその心情の振幅、心底の孤独感をよく垣間見せてくれた。高齢者はわがままを言いつつも、結局は弱い存在なのである。そのことを本人も十分わかっている。橋爪功がさらに10年後に、87歳で再演した舞台もぜひ見てみたい。