満足度★★★★★
いま大注目の野木萌葱作品7本連続公演の最終回。学生時代に書いた本を改訂したそうだが、そんな未熟さは感じられない。いつの間にか2時間たっていた。緊迫感がずっと途切れない、無駄のない芝居だった。
名前は出てこないが、フルトヴェングラーが、ナチスによるユダヤ人排斥と音楽の国家管理に闘う物語。
フルトヴェングラーというと、ナチス協力を指弾されたことしか知らなかったので、こんなことがあったのかと思うと、事実であった。1933年1月のナチス政権獲得から2ヶ月間ほどの出来事。ナチの将校が「あなたほど、矛盾した人物はいない」というように、その後、ナチ体制の中で生き延びていくフルヴェンの協力と抵抗の綱渡りはきわめて複雑である。
見ながら、昨年の私の個人的ベスト1「シング・ア・ソング」(古川健・作、日澤雄介・演出、戸田恵子主演)との共通点がいくつもあることを発見した。こちらは淡谷のり子をモチーフにした、軍の命令に精一杯の抵抗をする歌手の話である。対立軸が似ているのと、音楽好きの憲兵という、敵の中の隠れた味方が、物語の鍵になっているところなど。作劇の発想に共通するものがあるのだろう。