満足度★★★★★
あれだけ有名な漫画を舞台にしてどうなるのかと、全く期待しないでいったが、予想を裏切る素晴らしい舞台だった。父との麦踏みの場面、病弱な母に食べさせる鯉をつかまえる場面など、コロス(黒子)たちが麦(!)や鯉を演じる破格の見立てを使うが、これがこの舞台の、肝である被爆の場面で生きてくる。最低限の装置でシンボリックに描くことで、観客の「想像力」でリアルな被爆シーンを立ち上げるのである。
その後も、随所でそうしたシンボリックでありながら、リアルさを感じさせる演出がさえている。
しかも本当に無駄がなくてテンポがいい。休憩なし1時間55分で戦前の幸せな暮らしから、被爆シーン、戦後の焼け跡から、母の出産と悲しい分かれ、新しい出発までを、見せる。ほかにも、被爆して自暴自棄になったが学生を立ち直らせる場面や、朝鮮人差別(加害者としての日本人の側面)の問題まで描いている。飛ばしたなー、という感じは全然なく、それぞれのシーンがたっぷりとした見ごたえ、歌の聞きごたえがあるから、大したものである。
ゲン役のいまむら小穂(民芸)が、気合の刈り上げヘアで、実年齢を20歳以上若返らせる子ども役を見事に演じていた。舞台の成功の柱は彼女の元気なゲンに追うところ大きい。またゲンの弟と、新しい弟の二人の女優もやはりよかった。同じ女優の一人二役かと最初思うくらい、実際似ていて、びっくりした。
父母を演じた俳優座の加藤頼と有馬理恵のコンビもはまり役で、新しい持ち役になるものと思う。
著名な辛口劇評家も、終演後「本当によかったよ」としみじみ言っていた。友人も「心洗われる舞台」と言っていた。