かずの観てきた!クチコミ一覧

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失敗の研究―ノモンハン1939

失敗の研究―ノモンハン1939

秋田雨雀・土方与志記念 青年劇場

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2024/09/13 (金) ~ 2024/09/23 (月)上演中

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2024/09/18 (水) 14:00

座席1階

結構ハードな会話劇である。歴史や戦争に関する劇作では名高い古川健らしい緻密な物語だった。テーマは「なぜ、戦争を止めることはできないのか」。歴史上、最も困難であると思われるこの命題に若き女性編集者が挑んでいく。その材料となるのが、太平洋戦争開始直前の1939年にあったノモンハン事件だ。

劇中でも出てくるが、ロシア軍と衝突した現場の国境地帯は湿地と草原が広がるエリアで、軍事的な要衝ではない。「どうしてこんな場所を巡って」と後付けでは感じるが、それだけにこの戦闘で失われた両軍の何万もの命は「何のために」というむなしさが残る。日本軍にとってはもちろん「失敗」であったが、当然、ロシア軍にとっても「失敗」であっただろう。
戦争の教訓を学ぶ、特に先の戦争での「失敗」を学ぶことは平和な未来を築くには不可欠だ。特に日本では、失敗を学ぶという取り組みに欠けている。劇中でも当時の作戦参謀の生き残りが語るが、辻政信というエリート参謀が暴走した、誰も彼を止められなかったのが失敗だったと一定の結論が出されている。
だが、なぜ辻を誰も止められなかったのか。それは、勇ましい作戦を「無駄だ」と反対する、戦わない選択をしようという主張を周囲ができなかった「空気」なのではないか。戦わないとの決断はひきょう者の考えであり、日本男子としては、天皇の軍隊としてはあり得ないという空気だ。辻を止めようとして自らの出世を棒に振る恐怖もあったであろう。でも、戦争を止められない本当の理由は、周囲の空気を読んで行動する同調圧力ではないのか。

この舞台では、失敗の教訓は同調圧力だと匂わせる場面もあるが、はっきり言っていない。関東軍の暴走、陸軍の東京の司令部が何もしなかったこと、勇ましい進軍のニュースを垂れ流したメディア。それを推した国民。いろいろな要因がせりふの中で指摘される。だが、そうした要因ももちろん「失敗」なのだが、失敗を失敗だと言い出せない同調圧力が関東軍にあり、陸軍にあり、国民にあったからだ。だから、その直後、外交的な失敗とされる日独伊三国同盟につながり、国を破滅させる「失敗」となる太平洋戦争につながっていく。ノモンハンを止められる空気がすこしでもあれば歴史は変わったかもしれない。いや、もっともっと前、明治維新から列強に追いつこうと富国強兵を重ねてきた日本が、欧米列強に伍するとしてアジアの国々を次々に侵略していくのを当然だという「空気」を変えられていたなら、というところにまで行き着く。

古川らしい脚本であったが、で少し物足りなさも感じた。もう一つ、演出に招かれた鵜山仁は客席の目の前とか舞台のあちこちに戦車や軍艦の模型を配置して、「何が起きるのだろう」と期待を抱かせたが、結局これらの模型は装飾のような感じで終わってしまったのは残念だった。

球体の球体

球体の球体

梅田芸術劇場

シアタートラム(東京都)

2024/09/14 (土) ~ 2024/09/29 (日)上演中

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2024/09/17 (火) 14:30

座席1階

岸田國士賞を受けた池田亮が作・演出に加え美術まで担当した舞台。開幕前に、舞台中央に鎮座する「ガチャガチャ」ボール(球体)がたくさん詰まった塔を間近で見学できる。

舞台は日本近海の火山爆発でできた島でレアメタル発見され、世界中から多くの資産家が移住し、その利権を独占した日本人が独裁国家を作った、という設定。その国家の現代美術館のロビーにガチャガチャの塔「sphere of sphere(球体の球体)」が展示されている。なぜ、作家がこのようなオブジェを制作したのか、なぜ、ガチャガチャなのかというところも物語が進行すると明らかになってくる。
日本近海の日本人による独裁国家という設定がおもしろいが、この会話劇は結構難解である。作者の頭の中の妄想がかなり高度なのだろう。ついていくのにやっとという感じだ。人によっては「分かりにくい」と感じたかもしれない。
大統領やキュレーターをホログラムとして描き、指先の動作で早送りや巻き戻しをする場面が続くところがある。巻き戻しや早送りに対応して動く役者が、ストップモーションも含めて非常にそれらしい動作を披露して笑いを取っているのはさすがだと思った。冒頭とラストシーンのダンスもよかったと思う。
数十年後の未来を描いているが、このような世の中が来るのかどうかは分からない。物語の中身に文句を付けるわけではないが、生命の誕生を手玉に取るような世の中にはなってほしくない。

三人吉三廓初買

三人吉三廓初買

木ノ下歌舞伎

東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)

2024/09/15 (日) ~ 2024/09/29 (日)上演中

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2024/09/15 (日) 13:00

座席1階

歌舞伎の現代劇化に取り組む木ノ下歌舞伎の長編代表作。20分の休憩2回を挟んで5時間を優に超える超大作だが、東京芸術劇場・プレイハウスの大きさに余裕のあるシートも役立ち、疲れることなく舞台に没頭できる。何よりも、歌舞伎を身近なものにという台本、演出、舞台美術に共感し、好感を覚える。歌舞伎の演目がベースであるものの、躍動的、そして人情味あふれる現代劇として十分に堪能した。

初演から10年、今作も新たな修正、演出を盛り込んだという。おそらく、開演前の立て看板「TOKYO」もその一つだろう(終演時にはこれが白紙に。未来の東京へ続くという意味だと受け取った)。三人吉三廓初買が演じられたのは明治維新直前の幕末だが、当時の江戸が現代都市・東京と地続きの場所、そして当時の人たちが今につながる舞台上にいるという作家の意図を強く感じる。この点は、物語とは全く関係のないシーンがあちこちに息抜きのように挿入されていたり、現代東京の若者文化の象徴が盛り込まれているところからも推察できる。
当時は男女の双子が不浄の子とされるなど、確かに、ジェンダー平等が叫ばれる今とは感覚が全く違う。推察だが、庶民の思いを描いている歌舞伎が、特に近年の時代の流れで「不適切なもの」として否定され、演じられなくなるのではないかということを強く拒んでいる。だからこそ、東京と江戸がわずか百数十年の距離しかなく、ジェンダー的に問題があっても、避けられない運命を背負わされた者たちが今も昔もどう生きていくのかを、東京の香りをにじませながら客席に提示したのだと思う。
登場人物が和服なのに靴だったり、それどころか洋服を着ていたり。岡っ引きが今の警察官の姿だったり。でも、全然違和感を感じないところがすごい。ただ、せりふは歌舞伎に忠実であるようだ。
ラストシーン、花魁の一重が果てる場面では客席のあちこちで感涙を絞った。ああ、すごいな、この舞台は、と感じ入る瞬間だ。木ノ下歌舞伎初出演の役者も多いが、スタンディングオベーションを見れば、きっちりと仕事をこなしきっていたのがよく分かる。

ドリル魂2024

ドリル魂2024

公益社団法人日本劇団協議会

すみだパークシアター倉(東京都)

2024/09/07 (土) ~ 2024/09/15 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2024/09/14 (土) 13:00

座席1階

「日本の演劇人を育てるプロジェクト」として、扉座がかつて上演したミュージカルを復活上演した。育成の発表会などと思ってはいけない。歌も踊りも相当なレベルまで鍛え上げられた若者たちの熱情あふれる舞台。ビルの建築現場で働くガテン系のお兄ちゃん、お姉ちゃんが躍動する。

桟敷童子がいつも使っている「すみだパークシアター倉」が開演前、バックの扉が開放され吹き抜けに。前列から5,6列のいすにはヘルメットが置いてある。また、開演前は一つ300円で特殊メガネを出演者たちが販売している。舞台の進行に応じて着脱の合図が出る。客席も一体となって舞台に没入する小道具だ。
建築現場のリアリティーあふれる舞台セットで、役者たちはツルハシや金槌、シャベルなどを手に軽快に踊る。マイクは付けていて声量のカバーはあるのかもしれないが、ハモりもきれいに決まっていて違和感を感じさせない。また、サーカスのようなアクロバティックな場面も複数あり、度肝を抜かれる。若さのパワーというものを思う存分舞台でぶちまけていて気持ちがいい。
職人たちの群像劇の仕立てや、建設現場で実際にあった事件をモチーフにした時事ネタなど、さすが横内謙介、単なるエンタテイメントでなく演劇としても十分に楽しめる内容だ。

残念ながら明日の千秋楽のチケットは売り切れというが、それも納得。絶品の2時間、舞台にくぎ付けになった。

ヤマモトさんはまだいる

ヤマモトさんはまだいる

東京演劇アンサンブル

あうるすぽっと(東京都)

2024/09/12 (木) ~ 2024/09/16 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2024/09/13 (金) 14:00

劇団創立70年の記念公演2作目。劇団と交流があるドイツの前衛劇作家デーア・ローアーの書き下ろし。ブレヒトを演じ続けた東京演劇アンサンブルがどのようにして世代交代を果たしていくのかが注目されるが、劇団代表の志賀澤子がパンフレットに書いているように、この戯曲は劇団の70年そのものだという。次世代がメーンとなり背負う舞台はこれからのお楽しみというところなのかも。

ドイツの劇作家が「ヤマモトさん」というのは面白いが、舞台は欧州である。同じアパートの住人たちがヤマモトさんという高齢女性に関わっていく様子が、回転舞台による頻繁な場面転換で語られる。欧州でも独居高齢者は増えていると思われるが、ヤマモトさんは今の日本の世相を代表するようなキャラクターだ。
ヤマモトさんが半生を語る場面が印象的だ。何だが、ヤマモトを演じる志賀が劇団の後輩たちにとうとうと語っているような、そんな感じがした。ヤマモトさんは製材所に勤めた経験があるのだが、その中で「伐採」という言葉への反発を強く語る。あまりにも殺伐とした語感という中身だが、客席もこれは共感できたのではないか。

淡々と進む舞台だが、難解な部分も多い。これもパンフレットにあったのだが、演出の公家義徳が「劇団で上演される作品はブレヒトだとかチェーホフだとか、何が面白いのかさっぱり理解できないものばかり」と入団した当時の感想を書いていた。公家さんでも「さっぱり理解できない」んだと、何だかホッとしてしまった。今作で、なぜこの場面があるのか、舞台上の会話は何を意味しているのか、分からないまま過ぎてしまったところが複数あったのだが、まあ、それはそれでよいのかと演出家のモノローグに救われた思いで劇場を後にした。

ワタシタチはモノガタリ

ワタシタチはモノガタリ

パルコ・プロデュース

PARCO劇場(東京都)

2024/09/08 (日) ~ 2024/09/30 (月)上演中

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2024/09/09 (月) 13:30

iakuの横山拓也の作品。それぞれ兵庫県出身の江口のりこと松尾諭を起用したことで、横山作品の見どころである軽妙な関西弁のやりとりが遺憾なく発揮され、リズム感あふれ、何度も笑える舞台に仕上がっている。人の心の微妙な動きを描いたらピカ一の横山である。大劇場で役者の動きが大ざっぱになりがちな舞台にありながら、この二人を含めて登場人物それぞれに小さくない役割を持たせ、絡ませ、それぞれの胸の内が交錯する群像劇ともなっている。

大阪の中学時代、文芸部で一緒に活動した少年と少女。少年が中3で東京に引っ越すことになり、二人は文通を始める。文通は少女も上京して大学に入り、社会人になっても続き、冗談交じりに「30歳になってどちらも独身だったら結婚しよう」という約束をいつしか交わしていた。ところが少年は30歳を目前にして別の女性と結婚。結婚式に呼ばれた少女は、彼に15年間でやりとりした手紙を返すように求めた。
作家志望の少女は、フリーラーターをしながら作品を書き続けるが芽が出ない。ところが、二人の文通、すなわち交わされた膨大な手紙を資料にして書き上げた携帯小説は瞬く間に評判となり、書籍化や映画化の話が舞い込むほどになった。

物語は冒頭の早い段階でこうした経緯を小気味よく刻む。そして、この携帯小説をめぐっての二人のせめぎ合いや、携帯小説の登場人物である男女が舞台上にリアルに登場して交錯するなど、本格的な横山ワールドが展開される。作家の頭の中で創造した登場人物が現実の二人と交錯することで、作家である女性の思いが明確に描き出され、リアルである周囲の人物と絡み合っていく物語の流れは実にうまいし、面白い。舞台は1時間ほどたった当たりで20分間の休憩となるのだが、1幕が終わった時に客席から大きな拍手が起きたのには驚いた。それほど横山ストーリーは客席を魅了していたのだ。

携帯小説の主人公男性はリアルの人物よりもはるかにイケメンで優しく、作家は自分の恋愛相手として優しく、美しく描いていく。現実の文通相手との落差も面白いし、落差ということでは、作家の女性と携帯小説のヒロインにも大きなものがある。だが、物語の下敷きはリアルの二人が交わした往復書簡。しかも、この手紙の山には愛の言葉などなく、他愛のない話や近況がほとんどという設定が、さらなるリアリティーをこの舞台に与えていく。

iakuのいつもの小劇場での舞台とは趣を変え、小山ゆうなの演出もよかった。大劇場ならではの設備を存分に使い、映像を織り交ぜて虚実を描いていく手法は視覚的に成功している。2幕ものなのだが、自分としては休憩なしで突っ走るのもよかったのではないかとすら感じた。

ちょっとお高いチケットだけど、その価値はあると思う。

L.G.が目覚めた夜

L.G.が目覚めた夜

演劇集団円

シアターX(東京都)

2024/09/01 (日) ~ 2024/09/08 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2024/09/07 (土) 14:00

座席1階

ご遺体に化粧を施すなど生前の姿のようにしてさしあげるエンバーミングで名を挙げた女性と、家族の物語。けして「死体処理」などという空疎な向き合い方でなく、尊厳を大切にする、思いを込めた仕事だ。納棺師の映画や、最近では米倉涼子や松本穂香が好演したNHKのドラマ「エンジェル・フライト」で知られるようになった仕事だ。

舞台は山村と思われる片田舎の町。若くして故郷を去った主人公の女性は、がんで亡くなった実母の遺体にエンバーミングをしている。兄弟たちが集まってくるが、なかでも長兄は女性に対して非常に冷酷な態度を取る。このミステリーのカギを握る伏線である。
少女時代の自分の独白から、物語はまず展開する。この女性は深夜、寝静まった町の人々の寝室に忍び込み、寝姿を眺めるという奇癖があった。鍵などかけない田舎だからということだが、よくバレないでそんなことができるな、と思いながら舞台を見つめる。
ところが、やっぱりバレてしまうのだ。しかも、少女のあこがれでもあったスポーツマンの男の子の寝室で。ここで何があったのか、やはり、女性の独白によって物語は急展開していく。

ゆえに、この女性を演じきった平栗あつみには拍手を送りたい。彼女の長い独白によって客席はかたずをのんで静まり返り、視線は舞台にくぎ付けだ。彼女の物語以外にも、兄弟それぞれの人間関係の秘密が次々に明らかになっていく。すべてを握って死んでいった母親の遺体の元で明かされる葬られたはずの過去。ラストシーンの演出はよかった。舞台中央の四角い扉が、最後の最後に開く。母親の情念というか、えも言われぬ強いエネルギーが放出されていった瞬間だ。
タイトルの「L.G.」という名前の主が実は、女性の家族ではないもう一人の主人公。存在感を放って舞台に浮かび上がる姿は、亡くなった母親が墓場まで持っていこうとした強い情念に照らされてるかのようだった。

2時間弱の物語。この舞台は面白い。一見の価値がある。

あの瞳に透かされる

あの瞳に透かされる

Pカンパニー

シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)

2024/09/04 (水) ~ 2024/09/08 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2024/09/05 (木) 19:00

座席1階

「あの瞳に」というタイトルの意味を、劇場を後にして反すうすることになる。くるみざわしんらしい、見事な脚本だった。テーマは従軍慰安婦と写真展。右派の反対運動を恐れて行政や大企業が口をつぐんでしまうという事態が相次ぐ中で、意欲的な舞台だ。

世界に冠たる大手カメラメーカーが従軍慰安婦の写真展を開こうとしたが、SNSなどで脅迫めいた投稿が相次ぎ写真展の担当者男性は中止を決定する。表現の自由を制限したとしてこの男性は訴えられ敗訴するが、男性は株主総会の炎上や会社の上層部を守ったとして形ばかりの取締役に引き立てられ、南国の島に「左遷」させられる。
男性と妻が島で暮らしているのは、会社が所有しているリゾート物件。だが、実はこの建物にまつわる、避けては通れない歴史があった。それは舞台の進行で明らかになる。閑職に追いやられた男性はフリーマーケットで天使の人形を買い集める。この天使の人形の瞳が何を語るのか。舞台はこの島での従軍慰安婦の歴史や、歴史を記録する写真というメディアの価値など、さまざまなことを客席にぶつけていく。

Pカンパニーの「罪と罰」シリーズには定評がある。それに加え、今回はくるみざわしんの戯曲とのことで期待して出かけた。期待を裏切らない出来栄えだったが、途中に休憩をはさんだのはもったいなかった。せっかく盛り上がった緊張感が途切れてしまった。でも、それだけで☆を減らすのはどうかなと思って五つにした。登場する俳優たちも、それぞれ独特の個性や役割を与えられた配役を、きっちりこなしていた。

みわこまとめ

みわこまとめ

ピンク・リバティ

浅草九劇(東京都)

2024/08/29 (木) ~ 2024/09/08 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2024/09/02 (月) 19:00

実和子という、少女時代は恋愛に全く奥手であった女性が、中毒的な恋愛に染まっていく物語。実和子を含め3人の仲良しグループのそれぞれの恋愛や生き方も絡み合っていて、さらに人間世界とは別のワールド(眠っている時の夢のような設定だ)との出入りもあり、壮大な女性一代記に仕上がっている。

舞台中央にある円形の台座。舞台の上手下手にいすが並べられている。物語はこの円形の台座の上やその下、またはその周囲で展開する。そして、両側のいすは俳優たちの待機場所で、ここから出たり入ったり、実に鍛えられた、スムーズな動きで舞台転換の切れ目を感じさせない。
そしていつも中央に居続ける実和子役の大西礼芳。約2時間の上演時間の中で、七変化の恋愛遍歴を力強く演じる。

この物語は、女性と男性で見た印象が大きく異なるのかもしれない。共感できる部分、そうでない部分。多様な印象を予期したかのように、実和子の2人の友人たちにその「共感」「否定」の役割を持たせているように感じた。また、いろんなタイプの男たちが登場するが、ここは男性視点からみると「まあ、そんな男、いるよな」とあまり意外性はない。やはり作・演出が男性だからなのか。同じ物語を女性がつくったら、かなり趣が異なる舞台になったに違いない。

流れるような俳優たちの動きと出入り。こうした演出の妙で時がたつのを感じさせない。客席の目を終幕まで引きつける力は抜群だ。ただ、タイトルにもう一工夫あってもよかった。

徒

劇団スポーツ

小劇場 楽園(東京都)

2024/08/28 (水) ~ 2024/09/01 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2024/09/01 (日) 13:00

前作に続いて楽しませてもらった。客席を楽しませようという意欲、力を強く感じる劇団だ。その名の通り、少し体育会系なのだろう。今作は、夢かうつつか、うつつか夢か。妄想とは異なる、寝苦しい真夏の夢(悪夢)を目の前で再現されたような感じだった。

出演者の中で誰の頭の中の夢だったのか、舞台後半で明らかになる。最初の場面から結構、夢としては(悪夢としては)リアリティーを感じさせる。登場する俳優たちは手首や足首を縛られたり、手錠をかけられていたり。そして真っ赤な色で埋め尽くされた部屋に閉じ込められている。扉には鍵がかかっていて出られない。でも、なぜか縛られた縄はどこか緩く、面白いことに指先を縛られた役者もいる。このあたり、夢(悪夢)の世界だなあ、と何だか納得させられる。

その後の展開は、夢とうつつが交互したり、ごちゃ混ぜになったり、とても面白い。笑えるポイントもたくさん配置されている。役者たちの動きもとてもいい。前作でもそうだったが、やっぱり体育会系なのかも。
小劇場「楽園」は入り口に大きな柱が立っていて、おのずと客席は両翼に分断された形になる。見る側からするとこの柱が結構邪魔になるわけだが、柱があっても案外と気にならない。演出の妙なのだろう。

2時間弱。少し長いかなと思ったけど、十分楽しめる。

パパからもらった宝もの

パパからもらった宝もの

劇団BDP

彩の国さいたま芸術劇場 大ホール(埼玉県)

2024/09/01 (日) ~ 2024/09/01 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2024/08/31 (土)

座席1階

縁あってゲネプロを見せてもらった。角膜移植とアイバンクの物語。児童劇団の卒業生らでつくる劇団とあって、しっかり鍛えられた歌唱と踊りはさすがだと思った。

角膜移植がどのような形で行われるのか、病院を舞台に展開する物語で分かりやすく提示する。主役は新人の角膜移植コーディネーター女性。勤務初日に自分の職場でなく、首都高での多重事故で多数のけが人が運び込まれて大混乱する救急医療の現場(ER)に迷い込んでしまう。
亡くなった人の角膜を目の見えない人に移植する、その橋渡しをするコーディネーター。死亡したばかりの遺族に角膜提供の機会があることを説明する使命もある厳しい仕事だ。臓器移植法の施行で心臓や腎臓などの臓器提供意思表示カードを持つ人が増え、そこに角膜提供の意思も同様に表記されている。だが、実際に救急医療の現場でカードが提示されることは多くない。それだけに、コーディネーターの役割は大きいと言える。
愛する人を失って悲嘆に暮れる母子、それでも亡き夫の一部が生き続けるという理解で提供に踏みきり、そのお陰で光を取り戻した二人の子どもを中心に物語は展開する。その中で、移植医療の限界にも言及されたのはとてもよかった。移植は万能ではない。だがそれでも、なぜ角膜移植が必要なのか、舞台はきっちりと教えてくれる。

ドナーとレシピエントの関係で、現実には起こり得ない設定もあるが、それは両者の関係を分かりやすく示すためだから仕方がないのかも。ただ、角膜移植の歴史を歌唱で説明したのは、少し分かりにくかった気がする。
それでも、この舞台は日ごろはまったく関心のない人たちに角膜移植のことを知ってもらう絶好のツールとなっている。子どもたちの熱演を見ながら学んでほしいと思う。

Re: プレイバックpart3

Re: プレイバックpart3

劇団チャリT企画

駅前劇場(東京都)

2024/08/28 (水) ~ 2024/09/01 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2024/08/30 (金) 14:00

座席1階

カセットテープを愛用して音楽を聴いていた世代にはぐっと刺さる舞台。開演前に流れている昭和のJポップも盛り上げ効果が絶大だ。

とあるぼろアパートで白骨化死体が発見され、たまたま連絡が付いた故人の甥が残置物の片付けのために友人を伴って訪れる。故人はカセットテープにある告白を残していた。今どき、カセットテープを再生するラジカセを探すのも大変だが、昭和世代の大家さんから借りて再生する。気を持たせたまま終わるA面を聞き、さらにB面を聞く。ところがそれだけでは故人が言いたかったことはさっぱり分からない。そんな時に、ひょんなことで別のカセットテープを甥が手に入れる。
「ふざけた社会派」を標榜するチャリT企画だが、今作は結構シリアスである。もちろん、笑いのツボはあちこちに仕掛けられていて面白いのだが、この舞台が伝えるメッセージは明白だ。いろんな事件・出来事を取り上げているチャリT企画。さすがに今回扱った事件は単純に笑い飛ばすわけにはいかなかったのだろう。いつもとテイストは少し異なっても社会派劇としてのずっしり重いところをしっかり押さえていた。これはこれで、納得できる舞台である。

おもしろかった。見た方がいいと思います。

星を追う人コメットハンター

星を追う人コメットハンター

劇団銅鑼

シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)

2024/08/28 (水) ~ 2024/09/01 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2024/08/29 (木) 14:00

座席1階

彗星や新星を数多く見つけたアマチュア観測家・本田実の物語。大正生まれで戦争に行った経験があり、1990年に77歳で亡くなった人物を現世代の人たちとリンクさせるため、高齢者施設に入居している認知症の男性が「自分の幼なじみだ」として語らせる台本はとても興味深い。

認知症介護という視点でも、きちんと取材して書かれている。認知症の人が語る物語を否定せずじっくり聞いて対話をしていくという主人公の介護職の仕事ぶりが、この物語をつむいでいくのだが、認知症の人を受け止めてケアしていくという施設の在り方はとてもいい。いつも人に優しい舞台をつくる銅鑼らしい展開だった。
主人公の男性は妻と別居しているという設定で、舞台が進むにつれて二人の抱えている問題が明らかになってくる。ただ、自分にはこの設定や妻の存在が物語のメーンストーリーであるコメットハンターとは直接関係ないのが気になった。「自分の幼なじみ」と本田氏のことを語る男性の物語がもっとあるとよかったような気がする。

RENT

RENT

キョードー東京

東急シアターオーブ(東京都)

2024/08/21 (水) ~ 2024/09/08 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

座席1階

感動的なのは、山本耕史の抜群の英語力だ。クリスタル・ケイはお父さんが米国人だからネイティブと言ってよいが、このミュージカルのために1年前から英語の準備を妻(堀北真希)と重ねてきたというから役者魂、ここまですごいのかという感じだ。その努力の甲斐あって、見事な舞台に仕上がっている。

ニューヨークで暮らす若者たち。rent(家賃)が払えず追い出されそうになっているところからこの表題がある。ウエストサイドストーリーの現代版というと少し趣は違うのだが、エイズに罹患しているが精一杯生きるカップル、貧乏だが映画監督の夢を追求してフィルムを回し続ける青年など、けして暗くはない、希望がその先に見えている若者たちの群像劇だ。
日本国内でもこれまで日本語版が上演されてきた名作だ。今回は主人公のマーク役を山本が務め、日米合作とうたっているが、ブロードウエイの役者たちに山本が飛び込んだというイメージさえある。
天井の高い東急シアターオーブの舞台をうまく使って、イーストビレッジの古びたアパートをうまく作ってある。全編ほとんどが楽曲で占めているという舞台だから、字幕を読まなくても十分に楽しめる。
歌唱力に定評のあるクリスタル・ケイもきっちり主役級を果たしていた。また、歌唱や身のこなしも山本ならではの切れの良さがある。お値段は高いけど、一見の価値はあろう。

『牢獄の森』『うれしい悲鳴』

『牢獄の森』『うれしい悲鳴』

アマヤドリ

吉祥寺シアター(東京都)

2024/08/17 (土) ~ 2024/08/26 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2024/08/19 (月) 13:00

座席1階

「うれしい悲鳴」を観劇。コリッチの説明文には「集団の狂気」とあるが、それ以上に深い洞察が込められているように思う。物語を追っていくとやや難解なところも多々あったが、随所に展開された、あれだけの人数の出演者による切れのいいダンスは見応えがある。

たぶん、近未来の設定なのだろう。「絶対に例外はない」というルールが支配している社会で、命令の実行部隊である「泳ぐ魚」という会社のような公務員組織と、その例外なきルールによって家を追われ、母親が殺されることになる一家の物語。一家の長女である女性、この一家に乗り込んできた泳ぐ魚のメンバーである男性がいわばロミオとジュリエットのような関係で苦悩するという筋立てもある。
「欠席結婚式」という主役がいない舞台を設定したのも面白い発想。「泳ぐ魚」はカルト集団のような様相も呈するが、そもそも「例外はなし」というルールで社会を締め付けている政治体制が元凶である。物語ではこのルールを覆そうという試みもなされるが、見ている方からするとはかない抵抗のような感じだ。

これは、物事に白黒付けず曖昧なまま世の中が動いていく日本社会のメタファーであろう。「決められない政治」が世の中を悪くする原因だという批判は聞こえはいい。だが、現実の日本ではここ数年、与党による「勝手に決める」政治が幅を利かせ、世の中は急速に悪くなったのではないか。曖昧さを許さない社会、もしくは「決められる政治」の内実がいかに恐ろしいものであるかを、この舞台は暗示している。

役者の動きはよかったが、絶叫する調子でのせりふが多いのは少し気になった。それはそれで迫力はあるのだが、特に女性のせりふで絶叫調が多く、キンキンしてやや耳障りだと感じた。
ともあれ、カーテンコールの拍手の力強さからいっても、アマヤドリという劇団とそのパフォーマンスが若い客席に支持されていることは間違いない。

歩かなくても棒に当たる

歩かなくても棒に当たる

劇団アンパサンド

新宿シアタートップス(東京都)

2024/08/07 (水) ~ 2024/08/11 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2024/08/11 (日) 14:00

座席1階

マンションのごみ出しをめぐって、事態はあらぬ方向に転がっていく。悪い夢を見ているようであり、ひょっとしたらあるかもしれないと思ったりもする。要所できっちり笑わせるせりふや演出もすごい。

日常生活を描きながら、いつのまにか想像もつかない世界に迷い込んでいくという物語は小劇場には珍しくない。しかし、今作がすごかったのは、ごみ出しに来たマンションの住人が全員女性であったことだ。女性たちの井戸端会議では、「それは変だ」と思っても否定しなかったり迎合したりすることがよくあるのではないか。初対面も含めたメンバーの会話の中で、女性によくある(といってもよいと思うが)相手を傷つけないようにする配慮、思いやり、言いたいことを引っ込めてしまう空気がこの舞台のメーンテーマだと思う。もし、男性の住人役がいたら、ここまでの恐怖や面白さは実現しなかっただろう。
もう一つ、この舞台が強烈に面白かったのは、ごみ出しのルール違反を監視するおばさん役を務めた川上友里の怪演だ。彼女の熱演、いや、声を枯らしての怪演が笑いを生み、恐怖に巻き込み、客席は舞台から目が離せなくなる。
どうして「歩かなくても棒に当たる」というタイトルなのかは不明だが、マンションのゴミ置き場を阿鼻叫喚の場に変えてしまう台本は相当なものだ。クドカンが「アンパサンドはすごい」と言ったそうだが、この舞台を見た私も100%同意する。

『RAA-進駐軍特殊慰安所-』

『RAA-進駐軍特殊慰安所-』

劇団青年座

渋谷区文化総合センター大和田・伝承ホール(東京都)

2024/08/03 (土) ~ 2024/08/06 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2024/08/05 (月) 14:00

座席1階

終戦直後、日本政府が進駐軍のために設けた特殊慰安所(RAA)の背景や実態を語る朗読劇。上陸してきた兵士による暴行、強姦を防ぐために設けたとされる。「大和なでしこの貞淑を守るため」という、いかにも政府がか弱き婦女子を守ってやると言わんばかりのお題目がいかに空虚なものであったかが、さまざまな人たちの証言で浮き彫りとなる。

力の入った朗読劇だった。舞台中央に置かれた玉座は昭和天皇が座るものと思われるが、冒頭の玉音放送以外に昭和天皇の姿は出てこない。玉音放送の文言を字幕に映し出し、国民を苛烈な惨禍に巻き込んだ指導層の無責任ぶりをまず、指摘している。
その後は、RAAが設立された経緯、どのようにして女性を集めたか、女性たちがどんな目に遭ったかなどが詳細に語られる。政府の指示で公娼を運営した民間業者、設立を支持した政府要人や、請け負った警視庁の幹部、女性たち、パンパンに部屋を貸していた家の小学生の証言まで登場する。多くが語られることがない黒歴史。特に女性たちの証言には身震いするような迫力がある。これを聴くだけでもこの舞台を見る価値がある。

鬼畜米英が上陸して街にいる女性を暴行する可能性がある。だから、その欲望を「公の場所=公娼」で処理すべきというのが政府の説明であった。だが、その理屈の裏には、戦時中に中国大陸で皇軍が地元の婦女子に乱暴したということを政府自身が知っているという事情がある。どこの国だろうが兵隊は女に飢えている。だから国民を守るためには公娼が必要なのだと。中国で婦女子が辱められたのは公娼を設けなかった中国政府がいけないと言わんばかりの理屈に、ため息が出る。

舞台は1時間半あまり、コンパクトにまとめてある。ただ、自分としてはこの脚本をストレートプレイでやってほしい。演じる女性俳優は精神を擦り減らすような舞台になるかもしれないが、かつて日本が手を染めた戦争とはこういうものだったと、今だからこそ多くの人に思い出させてほしい。

夏の夜の夢

夏の夜の夢

劇団山の手事情社

山の手事情社アトリエ(東京都)

2024/07/27 (土) ~ 2024/08/04 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2024/08/01 (木) 13:00

座席1階

山の手事情社の若手俳優による公演。劇団のアトリエにしつらえられた舞台はなぜか和風だ。掛け軸なんかも配置されている。観客が40人も入れるかどうかというこのスペースでシェークスピアの「真夏の夜の夢」が展開された。

この戯曲の見どころは、森の妖精が森に入り込んでくる人間たちに媚薬を塗って、その恋愛関係を複雑にしてしまうというところではないか。登場人物が多いので追いかけて理解するのはとても難しいが、媚薬を塗られた登場人物が、これまでの恋愛関係が逆転、輻輳化していく面白さは誰がどうしたという関係性が分からなくなっても十分に堪能できる。さらに、山の手事情社独自のメソッドでのばっちり鍛えられている俳優たちが繰り広げる身体表現で物語を構成していくのが最大の注目点であろう。この身体表現は、役者全員がそろって繰り広げるパフォーマンスを見るにつけ、やはり切れ味抜群だ。今回は特に、若いメンバーたちによる身体表現であり、その若々しさや粗削りの魅力も相まって、客席を魅了し続けた。
このアトリエは役者と客席の距離が1~2メートルと下北沢の小劇場よりも近接していて、迫力がすごい。目の大きな女性の俳優さんの強烈な視線を客席が浴びることになり、ある意味、お客さんが俳優によって媚薬を塗られるという錯覚すら感じる。媚薬の標的になったら最後、その役者に恋い焦がれてしまう。これがこの舞台のすごいところだ。

忘れられない演劇体験になる。真夏の強烈な日差しの中を歩いてアトリエに向かう価値はある。想像を超える出来栄えだった。客席の拍手も力強い。

かわいいチャージ’24

かわいいチャージ’24

人間嫌い

シアター711(東京都)

2024/07/24 (水) ~ 2024/07/28 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2024/07/26 (金) 14:00

座席1階

「かわいい」の単語が何十回とさく裂する。「かわいい」を何のために求めるのか。どう「かわいく」仕上げるのか。そもそも「かわいい」って何なの? メイドカフェのバックヤードを舞台に繰り広げられる群像劇。「25歳を過ぎたらもう、おばさん」という世界でしのぎを削る女の子たちを見ると、おじさんは何だか少しかわいそうになってくる。

メイドカフェには男性だけでなく、「かわいい」を追い求める女性のお客さんも来るらしい。だから、プロフェッショナルの「かわいい」を磨くために手を抜くことはできない。ダイエットなど言うまでもなくメイクを極めるだけではない。プチ整形だって当たり前。そんな厳しい世界を生きる女性たちの生態を、この舞台は余すところなく客席に突きつける。
このメイドカフェのオーナーは「かわいい」が大好きだがビジネスとしても活用する、年商何十億の起業家キャリアウーマン。ある意味、店の女の子たちにとってはカリスマである。店長を任されている女性も「かわいい」の先端を行く。そんな店長にはスーツを着て髪をまとめ就活に没頭する妹がいる。ルックスに関してお姉ちゃんにかなり劣るというコンプレックスを持ち、表面上の「かわいい」だけを至上の価値としている姉に怒りと軽蔑を抱いている。
「かわいい」ファッションにあこがれ、大学2年で授業出席が軽くなったことを機に入店した女子大生。メイドカフェでバイトしていることを彼氏に隠している女の子。「かわいい」の価値を巡って複雑に揺れ動く女心が絶妙に描かれている。「かわいい」を抜け出して彼と結婚すること幸せなのか。この物語は、今時の女の子が感じている「結婚」の立ち位置なども推察でき、とても興味深い。ただ、この物語の結論には物足りなさを感じる人がいるかもしれない。

劇団人間嫌いが10周年で3本下北沢で上演する作品の2本目。「女の子」を描くことを持ち味にしている作・演出の岩井美奈子がぶっちぎりのメードカフェスタイルで出迎えてくれる。「女の子」であることを思い切り楽しんでいる前説も印象的だ。
客席にはおたくっぽい青年が陣取っていたが、総じて女性が多かった。岩井が描く「女の子」にそれぞれ持つ思いが、終幕後の客席に渦巻いていた。

流れんな

流れんな

iaku

ザ・スズナリ(東京都)

2024/07/11 (木) ~ 2024/07/21 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2024/07/15 (月) 14:00

座席1階

人気劇作家の横山拓也がiaku設立2年目の2013年、初の大型巡演に挑戦した作品という。彼は東京進出に当たって「スズナリはステータス、あこがれだった」と語っていて、そのスズナリで行われた今作は再演を重ねて広島弁でリニューアルされた、とパンフレットにあった。

結論から言うと、横山拓也の源流とも言える見事な会話劇。「見ないと損する」レベルだ。主役を演じた異儀田夏葉がちょっと今ひとつだった感じもするが、この戯曲の価値が下がるわけではない。1時間半、食い入るように舞台を見つめてしまった。恐らく他のお客さんもそうだっただろう。ラストシーンに近い当たりであちこちからはなをすする音が聞こえる。ああ、これが家族を描いた横山作品の真骨頂なのだな、と納得した舞台だ。

舞台は(広島弁なので)広島の小さな飲食店。名産の貝料理で夫婦が続けてきた店だが、冒頭、妻が洋式トイレに座ったまま大いびきをかいている場面から始まる。その横にいる中学の制服姿の長女。母親が脳出血と思われる状況であることに気付かず、部活に行ってしまう。かたわらには一回り年が離れた妹である赤ちゃん。「泣いてるよ」と母に告げて店を出るが、母は大いびきを続けるばかりで反応がない。
このシーンから約30年後の店の状況から物語はスタートする。地元の名産の貝料理を売り込むキャンペーンをする大手企業の社員が閉店状態の店にやってくる。店の主人である父親が倒れ、入院中なのだ。時に母親がわりをしながら父親と店を続けてきた長女。だが、その名産の貝は、貝毒が起きて漁にも出られる状況でない。

この戯曲は、こうした貝毒を巡る公害問題、出生前診断、今認知症診療でも使われるようになった長期記憶の映像化など、複数の社会的課題を巡って展開する。10年以上前に書かれた戯曲だが、今も続いている課題となっていることにまず、驚かされる。今作では、10年前には登場していなかったAIを盛り込んでリニューアルされているが、特に、長期記憶の映像化という話題には、「これが10年前に書かれていたの?」と本当にびっくりした。
また、この洋式トイレが一つのキーワードになっていて、タイトルにもつながっていく。複数の意味での「流れんな」。終わってみて、そうだったのかと舞台を反すうしてしまった。

横山マジックと言っていい流麗な会話劇。今回登場する5人の役柄にそれぞれ秘めた物語があり、きっちりプロットを散りばめた群像劇でもあって、物語が進行するにつれて新たな驚きが次々に出てくる。もう、これはもう舞台から目を離せない。そんな展開だ。
取り上げられているそれぞれのテーマは重く、笑えるせりふも多くはない。しかし、iakuの源流であり真骨頂であるところを十分に楽しむことができる。

広島弁もいいが、当初演じられた関西弁バージョンも見てみたい。また、どこかでやってくれないかな。
今回のスズナリ。見ないと損するかも。

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