て
ハイバイ
本多劇場(東京都)
2024/12/19 (木) ~ 2024/12/29 (日)上演中
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2024/12/23 (月) 14:00
座席1階
ハイバイ20周年で、人気戯曲の再演。長男役の大倉孝二をはじめ、役者たちはそうそうたるメンバーだ。主宰の岩井秀人が自らの家族を描いた作品という。
兄妹ら4兄弟が、祖母が認知症になったのをきっかけに実家に集まった。父親が結構暴力的だったといい、それぞれ家を出て実家には寄り付かなかったようだが、長女が家族の絆の再結成を目指して全員集合を企てた。はたして兄弟たちは集まったが、父親の過去の暴力について次男が強硬に迫り、父親は暴力などなかったかのように子どもたちの成長を喜ぶ発言を繰り返すなど、まったくかみ合わない会話劇が展開する。基本的にはバトルだ。実際にはこうだったのかもしれないが、もう少し兄弟たちそれぞれの個性が表れた会話劇があってもよかったと思う。このバトルを聞いていて、自分は恐ろしくてとても笑えなかった。
面白かったのは、火葬場を描いたラストシーンである。本当にこういうことがあったとは思えないけれど、苛烈な家族の会話劇を最後に中和する役割を果たしているのではないか。
演出はいたってシンプル。小劇場でならこれでいいのだろうが、本多劇場の舞台は比較的大きい。もう少し舞台美術を整えて、客席に実家の状況を感じさせるような演出でもよかったような気がする。
荒野に咲け
劇団桟敷童子
すみだパークシアター倉(東京都)
2024/12/15 (日) ~ 2024/12/24 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2024/12/19 (木) 14:00
座席1階
ラストシーンは感動のあまり泣きそうになった。桟敷童子の本領発揮である。このような形になると構えていても激しく心を揺さぶられた。見ないと損する、傑作だ。(満足度の☆を6つにしたい)
開幕前に舞台上段にかかっている1枚の絵。何の絵なのかは、一見しただけでは分からない。この絵が、物語の重要なカギを握ることになる。開幕前にはスポットが消えてこの絵は暗闇の中に沈む。再び登場するときが、物語が大きく動くときだ。
両脇に階段がしつらえてあるだけの開幕前のシンプルな舞台装置に、今作は桟敷童子の特長である派手な、あるいは美しい舞台美術はなく、役者たちの動きやせりふだけで物語が進行するのだろうと感じていた。これが、最後の最後で、いい意味で大きく裏切られた。
舞台は九州のとある田舎町。人口減少で鉄道も撤去され、かつて鉄路を走った機関車は駅を改装した郷土資料館にポツンと置かれている。この町で食堂(今は弁当屋)を営む一家と、その親類である貧しい一家が主役である。食堂を営む一家は人口減で経営は縮小したものの娘たちを大学に出し、従業員も雇ってそれなりの生活をしている。もう一つの一家は、貧しいながらも一家で登山やキャンプに出かけるなど表面上は仲が良かった。親類の一家に負けじと息子を無理に進学校に行かせようとするなど背伸び気味という面はあったけれども。それだけならよかったのだが、この一家に次々と不幸が襲いかかる。
今作の作者は言う。「10年以上も前から書こうとしていた題材だが、暗く重く、あまりにきつすぎて何度も挫折した」。僕らは彼らに何もしてあげられなかった。そんな思いで書いたという。「あまりにきつすぎて」というのは、恐らく現在もそうだ。これは、ラストの大感動シーンがあることのメタファーであることから推察できる。
また、主人公の娘(大手忍)がトラウマになっていたメロディーが、あまりにも現実感があって客席の心をわしづかみにした。
劇団創設25年とのことで客演を招かず劇団員だけの公演。やっぱりよく鍛えられている。実に濃厚な2時間であった。
穏やかな人と機
劇団青年座
新宿シアタートップス(東京都)
2024/12/12 (木) ~ 2024/12/22 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2024/12/16 (月) 14:00
座席1階
青年座創立70周年記念公演の一つ。ユニット「かわいいコンビニ店員飯田さん」主宰の池内風が青年座に書き下ろすのは初めて。劇団に書いてくれる新たな作家を発掘する取り組みだと思う。
舞台は介護用品製造販売会社という一風変わった設定だ。褥瘡の発生を抑える介護ベッドの開発を担当していた技術者が、ある出来事の責任を取らされた形で営業部に異動となる。技術者は、販売が好調のAI画像分析を搭載したベッドの動作不良を感じて再検査を求めているが、同期の営業部員は検査に後ろ向きで販売促進を続ける。「何かあったら命に関わる」と、技術者の良心にかけて検査を求めるが、部内では孤立していく。
会社の中の群像劇。掃除のおばあちゃんも含めてユニークなキャラクターがたくさん登場し、それぞれに脚光を当てるという面白い筋立てだ。物語のメーンは、機器の不良にほおかむりして新バージョンの製品の開発を急ぎ、仮に不良だったとしてもそれをなかったことにしてしまうというもくろみとの戦い。AI画像分析というのも今風でいい。
機器の不良を疑わせる事例は、施設でこのベッドを使っている利用者の離床をセンサーが感知できなかったというできごとだ。離床が感知できないと、徘徊傾向がある認知症の人が勝手に施設の外に出て行ってしまう危険性がある、とのことだった。
自分が感じたのは、施設側もこうしたハイテク機器に頼らず、離床が感知できなくても利用者に危険が及ばないような対策を取るべきだと思ったのだが、そのような点には言及はなし。また、今作で登場する離床センサーがどのような形のものなのかははっきり示されないが、アナログ的なものだと、センサーマットを利用者の足がつくところに敷いておけば、マットのセンサーが壊れない限りは離床を覚知できる。こんな細かいところが気になってしまった。
群像劇として、会話劇としては抜群に面白い。だが、ラストの幕切れがいけない。このような終わり方はとても欲求不満だ。まるで、続編がありますよといわんばかりの終わり方に、私は拍子抜けと感じたし、周囲の拍手の状況から、私と同じように感じた人も少なからずいたと思われる。
イエス、たぶん
池の下
劇場MOMO(東京都)
2024/12/13 (金) ~ 2024/12/15 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2024/12/14 (土) 14:00
座席1階
難解な戯曲だ。もちろん、主題は理解できるし、役者たちが織りなすせりふのキャッチボールも分かる。考えれば考えるほど理解が遠のく戯曲はあると思うが、この作品は自分にとってそういうタイプなのかも。だから、感じるままに受け止めればいいと思う。
冒頭は衝撃だ。暗転が解けると天井から大きな球体がぶら下がっている。さまざまな原色に照らされて光る球体。そして大音響。戦争を表している。
そこに、女性二人が男の兵士を背負うようにして登場する。兵士は生きているのか。少なくとも瀕死のようだ。この兵士を囲むようにして二人の女性の掛け合いのような会話で進行していく。
どうやら戦争はかたづいている世界のようで、戦いをやりたがりの男たちのために戦場として使う砂漠があるとのことだ。とすると、この兵士はそこから運び込まれてきたのか。
戯曲の中心をなすのはこの二人の女性の言葉だ。発言が切れるところで「イエス」という言葉が挟み込まれる。イエスという言葉でそれぞれの発言をそしゃくし、理解しようとしているようにも見える。客席はこれらの言葉のキャッチボールを体に取り込んでいかねばならない。
寺山修司の戯曲を演じ続けている池の下だが、こうした海外作品も取り上げているようだ。いつもわかりやすい会話劇ばかり求めていた自分には、結構新鮮な体験となった。
竜
TinT!
シアターグリーン BASE THEATER(東京都)
2024/12/11 (水) ~ 2024/12/15 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2024/12/13 (金) 14:00
ナチスの親衛隊SSだった2人の幼なじみ。今は認知症となり介護施設で暮らしている。そこに、一人の青年が訪ねてくる。やはり2人と幼なじみだった自分の父親の消息を尋ねるためだ。かつての記憶を呼び起こすように話し出す元SS。衝撃的な内容が語られる。
主宰の染谷歩の創作なのだが、すこぶる興味深い内容だ。何の疑いもなくヒトラーの民族浄化に加担した男たち。認知症となっても過去の記憶は残っているため、今もかつてのSS時代を夢遊病のように思い出して動く場面がまず、登場する。その姿はきわめて醜悪だ。この場面からして衝撃的である。
物語が進行し、見せ場はやはり、かつての幼なじみとのかかわりを語る場面。腕章、ピストルなど小道具を効果的に使い、強烈な独白場面を描き出した。これを迫力満点にきっちり演じきる俳優の実力もさることながら、このような物語を作り上げた劇作家の勝利と言って間違いない。客席の若い女性が何度も涙をぬぐっていた。
俳優はわずか5人。中央に小さな舞台を配置し、そこには小さな箱があるだけのシンプルな演出だ。シンプルなだけに余計なものがそぎ落とされ、役者の演技が迫力を伴って展開されるという小劇場ならではの魅力を創出するのに成功している。
客席はわずか20人程度。これで公演が成り立つのだろうかと余計な心配もしたくなるが、客側からすると実にゆったりしていて、ぜいたくな鑑賞体験となった。
囲われた空
劇団民藝
紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)
2024/12/07 (土) ~ 2024/12/15 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2024/12/12 (木) 14:00
座席1階
とてもよかった。映画になった原作を戯曲に翻案したのは父がホロコーストの生存者というデジレ・ゲーゼンツヴィ。日本初演というが、まずはこの戯曲に注目した民藝の勝利だ。さらに、気鋭の演出家・小笠原響が担当したというところで、出色の出来になったのだと思う。
終戦前夜のオーストリア・ウィーンで、ヒトラーに心酔する少年が連合国の爆撃で重傷を負った。この家には少年の母と祖母がいて、父はゲシュタポに連行され行方不明。母と祖母は息子がナチスに洗脳されていることに閉口しているが、家族として息子を懸命に守ろうとする。
少年があるとき、母の秘密に触れる。実は、ある若い女性を隠し部屋にかくまっていたのだ。この女性はユダヤ人。とんでもない事態にうろたえた少年だが、女性との間で感情が揺さぶられていく。
ナチスに反するようなことはすぐに密告され、公開処刑されるような社会情勢。表ざたになればゲシュタポによって一家惨殺ということにもなりかねない。だが、母は少年の前で毅然とふるまった。まず、こんなところに感動の波が来る。
もちろん、メーンは少年と女性の群像劇である。終戦を迎え、ヒトラーが自殺するに至り、少年が取った行動は痛ましい。ユダヤ人の女性ももちろん戦争の被害者だが、ヒトラーに洗脳させられた少年も被害者だ。当時の社会の状況に、やるせない思いが募る。
回転する舞台を設定し、一家の居間、隠し部屋のある居間の続きの部屋、そして少年の寝室と円を3分割して舞台の進行に応じて回し、テキパキとした舞台転換を実現。役者の出入りも無駄のない動きだったが、暗転の時間がもう少し短いともっとリズムが出たのではないか。
そして、新人を少年と女性役でそれぞれダブル主演として抜てきしたのが成功している。自分が見たのはAチームの一ノ瀬朝登、神保有輝美。特に一ノ瀬は経験も浅いというか、17歳という設定だったためか、その初々しさが実にフィットして青春期の心の動きがストレートに出ていた。かたや、神保は10年余のキャリアを積んでいるが、感情の出し入れがうまく、全体的に落ち着いた演技で、これも自由を渇望するユダヤ人の若い女性をうまく演じていた。
今回、劇団の看板である日色ともゑは認知症気味の祖母役として脇に徹した。世代交代を印象づけようとしたのではないと思うが、新しい劇団の姿を見せてもらったようですがすがしかった。
『にしむくさむらい』『場所と思い出』
Pカンパニー
西池袋・スタジオP(東京都)
2024/12/04 (水) ~ 2024/12/11 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2024/12/09 (月) 14:00
座席1階
私にとってPカンパニーの別役シリーズを見ないという選択肢はない。今日はもう一本の「にしむくさむらい」を見た。これもかなりシュールで、深刻な社会問題を皮肉たっぷりに切り取った秀作だと思う。
舞台設定はやはり、裸電球付きの電柱に木製ベンチ。入ってきたのは小型のリヤカーを引いた女性だ。電柱脇にリヤカーを止めると、中から布団などを取りだし、重そうな石のようなものを電柱をてこにした縄にくくりつけた。ホームレスがこの布団で寝たら、縄を開放して石を落下させる(そうして殺す)のだという。通りがかった男性にその作業を手伝わせる場面からスタートする。
この女性は、夫と共に家を追い出されて住むところがないらしい。ただ、通りがかったこの男性も、妻と乳飲み子がいるのに家賃滞納の問題を抱えていることが分かる。この2組の夫婦によって展開される会話が、本作の不条理劇の核心である。
本人たちも家を追い出されようとしているというのに、その夫婦がホームレスを殺す仕掛けを作っているという不条理。ホームレスは忌み嫌われるから世の中にいなくてもいいという発想であるとすれば、自分たちも抹殺されるべき存在ということになる。
現在の小劇場を席巻している比較的若手の小劇団の人たちが書く会話劇には一歩譲るとしても、会話そのもので笑わせる要素がそこかしこにある。次はどのような展開になるのか、ドキドキする。80分の上演時間は非常に濃厚だ。
ラストシーンは、この演劇を象徴するような究極的にシュールな場面。これが世の中なのだろうか。思索の糸が絡まってくると、もう別役ワールドにはまっている。これが別役作品を見ないわけにはいかない理由なのかも。
レストラン・エスペランサ
さんらん
アトリエ第Q藝術(東京都)
2024/12/04 (水) ~ 2024/12/08 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2024/12/07 (土) 14:00
座席1階
日本ではヘイトスピーチの対象となり、深い傷を負っているクルド人たち。国家を持たない最大の民族として、イラクやシリア、トルコなどの各国でも迫害されるなど悲劇が続いている。今作は、イラクから命懸けで日本に来たクルド人兄妹の物語。世田谷区の成城学園前にあるけいこ場のような小劇場での公演だ。
机といすにする木箱以外は、小道具がないシンプルな舞台だ。役者がはける出入り口も上手奥と上手の手前(客席につながる入場口)しかなく、下手には抜けられない。このような制約のある小さな舞台で、テキパキと場面転換して物語は進行する。あるときは成田空港、またあるときは荒川の土手、そしてレストラン店内と場面は移り変わるのだが、まったく違和感を感じさせないスムーズな演出だった。
役者のレベルも高い。特にレストランのウエイトレス役の小黒こまちは、泣きのシーンで涙がポトポト床に落ちるすばらしい没入感で客席をくぎづけにした。
物語は、イラクの地を脱出する場面から始まる。追っ手の政府軍から逃れるため、一緒にイラク国境を目指した兄妹は別々になって逃避行を続ける。兄は何とか成田空港に着くが、入国審査で偽造パスポートを見破られ、走って逃げる。現実なら絶対に捕まると思うが、空港を抜け出しクルド人の集住地域・埼玉県川口に向かう途中、荒川を泳いで渡ろうとして水死寸前となる。
一方、荒川土手近くで営業していたレストラン・エスペランサでは給料の遅配などもあってコックなどスタッフが辞めてしまい、休業の危機に。水死寸前の男性を救ったのはレストランで働くウエイトレス。コックをやっていたという経歴を聞き、実際に食べてみて味を確かめたオーナーの女性は、不法入国を承知で雇うことを決めた。
レストランは彼の力もあって集客を取り戻していく。だが、不法入国者を逃がすという失態を演じた入管の手が迫ってきた。
おもしろいのは、荒川でおぼれそうになるシーンだ。客席入口が大きく開いて大きな青色の長い布を揺らす演出。まるで舞台の背景の壁を倒して外の空気が流れ込むアングラ劇の一場面のようだった。また、冒頭に兄妹が政府軍に追われる場面など、せりふでなく切れのいいダンスで表現をして見せたのは秀逸だった。場面とはつながりがない意味のないダンスではなく、役者の動きそのものにせりふのような動きを乗せた、いい演出だったと思う。
きちんと取材された裏付けがあっての物語だと思おう。今やクルド人の問題を知らない人は少ないとは思うが、まったく知識のない観客にも分かりやすい展開で、丁寧に作ってある。公演はほぼ満席だというが、下北沢を通り越して成城学園前まで行く価値は大いにある。
『にしむくさむらい』『場所と思い出』
Pカンパニー
西池袋・スタジオP(東京都)
2024/12/04 (水) ~ 2024/12/11 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2024/12/06 (金) 15:00
座席1階
「場所と思い出」を拝見。非常に分かりやすい、しかもよく笑える不条理劇だった。これはおもしろい。
開幕前、舞台は幕が引いてあって見えない。幕が開くと古びたバス停に木のベンチ、そして裸電球付きの電柱。いかにも別役劇という感じがして、シンプルな舞台装置に気持ちが高まる(笑)
ここに、スーツ姿の男が大きな旅行かばんとコウモリ傘を手に登場する。続いて、近所の主婦という感じの女性が買い物カートを引いて登場する。「バスを待っているのですか」という普通の会話から、「ここで何をしていると聞かれたら、バスを待っていると答えるのですよ」といつもの別役劇の始まりだ。
面白くなるのは、2人目の主婦という感じの女性が登場してからだ。最初の女性の身の上話(なぜか)が、いつの間にか2人目の女性の話にすり替わってしまう。既にこのあたりから、男性は完全にペースを奪われる。さらに、2人(男女)が登場するが、男性がせっかく自分のいうことを聞いてくれるかと思ったその絶妙のタイミングで、新たな男女が突っ込みを入れて常識をかき乱していく。話はあちこちに飛ぶのだが、男性にとっていかにも情けない、どうしようもないと泣くしかないというラストシーンに向かって盛り上がっていく。
分かりやすいのは、不条理の被害者がこの正直者のセールスマン男性一人であり、残りは掻き乱し役という設定だ。ただバスに乗りたいだけなのに、男性には次々に悲劇が襲いかかる。正直者がばかを見る? 適当に相づちを打っていた報い? それにしてもいかにも不条理である。人生とはそういうものなのか。草葉の別役さんが笑っているような気がする。
Pカンパニーの別役シリーズは本当に面白い。今作は1時間半くらいのコンパクトな舞台だから、仕事の合間にちょっと見てみるという楽しみ方もできる。
リフレクション
レイジーボーンズ
小劇場 楽園(東京都)
2024/12/03 (火) ~ 2024/12/11 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2024/12/05 (木) 14:00
座席1階
先人たちが書いているとおり、豪華メンバーだ。当初は道学先生の青山勝、JACROWの狩野和馬の二人芝居だったそうだが、いつのまにかシンガーソングライターの宏菜がアコースティックギターにオリジナルソングを抱えて登場する三人芝居になったという。台本はJACROWの中村ノブアキ、演出はOneor8の田村孝裕。これが豪華メンバーの内訳だ。
冒頭がおもしろい。青山、狩野の二人が登場し「重大なお知らせがある。劇団道学兄弟は解散します」。ん?道学先生ならぬ道学兄弟とは。とにかくここから物語が転がっていく。小説家である原作者とテレビの脚本家。「これは自分が書いた作品ではない。書き直してほしい」。日テレの「セクシー田中さん」でも問題になったが、脚本家がどこまで原作に手を入れることができるのかはルールもあるわけでなし、未だに難しい問題だ。今作は両者が劇中劇として役者として演じながら、小説家と脚本家の丁々発止、そして宏菜を絡めた人間関係も加わるという3重構造の舞台となっている。これが、最大の見どころだ。
二人は二重の役柄を演じ分けるのだが、この早変わりを高品質の演技でこなしていくのがさすが、青山と狩野というベテランの妙味だ。さらに、宏菜のギターと歌が超絶うまい(プロなのだから当たり前かもしれないが)。いでたちは白いドレスに腰までかかる長い髪。その妖艶さを小劇場楽園という客席と舞台が融合したような小劇場で間近に鑑賞できる、ここももう一つの見どころである。
ただ、狩野和馬はおなじみの田中角栄を演じているときと同じようにものすごい声量だから、せりふが飛ぶたびにどきっとするのは心臓に悪いかも。
二役が回転ドアのようにクロスオーバーするという台本だけに、若干のわかりにくさはある。しかし、息をもつかせぬ90分の舞台体験は、先人たちも書いているとおり一見の価値がある。青山曰く、なぜかチケットは売れていないようなので、立ち寄ってみるのも悪くないと思います。
沖縄戦と琉球泡盛
燐光群
吉祥寺シアター(東京都)
2024/11/30 (土) ~ 2024/12/08 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2024/12/02 (月) 14:00
座席1階
上野俊彦氏の著書「沖縄戦と琉球泡盛――百年古酒の誓い」をベースに組み立てられた戯曲。100年、200年と寝かせることもある古酒を守るには、平和でなければならない、というお話だ。鉄の暴風とも呼ばれた沖縄戦で、100年を超えて守り抜かれてきた古酒は破壊されてしまったからだ。
物語では、戦後焼け跡に残ったわずかなこうじ菌を元に泡盛を再建していくというエピソードも語られるほか、与那国島など沖縄の離島で泡盛を扱う男性の話など、前向きで希望が持てる話がつなぎ合わされている。戦争に「絶望」という文字が似合うとすれば、平和には「希望」がぴったりである。
燐光群のいつものスタイルが貫かれている舞台だ。タイトルにある「沖縄戦」というかつてのできごとよりも、自衛隊の南西展開、日米の軍事協力・一体化という近年の出来事やトレンドに真正面から意義や不安を申し立てるせりふが続く。少し手を広げすぎではないかというくらい、客席に対してのレクチャーが行われる。
冒頭から舞台にしつらえらている、3本の色違いの筒が何を意味するかが劇の後段で明かされる。それ以外にも、泡盛の造り方や、泡盛の元になる長粒米はすべて輸入で、どの酒蔵も分配を受けて同じものを使っているなどというトリビアもあっておもしろい。
長期間寝かせて味わうお酒がテーマなので、酒造りの土台として平和は欠かせないという劇の骨格は最初から明白であり、サプライズという楽しみはない。それも愚直な燐光群らしいと言えるのかもしれない。
絆されて
東京タンバリン
STスポット(神奈川県)
2024/11/29 (金) ~ 2024/12/03 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2024/11/30 (土) 14:00
2022年の再演だが、自分としては初めて拝見。「笑えるサスペンス」と銘打っているのだが、むしろリアリティーがありすぎて笑えなかった。テーマは中年男女の友人グループの複雑な人間関係と心模様。とても怖い物語だった。
30人くらいしか入らない、横浜駅近くの小劇場が会場だ。冒頭、結婚前と思われる男女のマンションの部屋に、友人の男と女がやってくる。来たばかりなのに「外に食べに行こうか」「早く行こうよ」とせかすように繰り返す2人。なぜ、2人がそういう行動を取ったかは、ラストシーンになると分かる。
部屋の奥には段ボールが積み上げてある。引っ越し前後だからそうなのだろうと思ったが、これが予想外の理由だった。
ちなみに、タイトルにある「絆」という文字は元々「ほだし」と読み、家畜をつなぎ留めておく綱という意味だそうだ。きずな、心と心の結びつきというとらえ方が一般的だが、家畜の綱なので束縛、呪縛という意味で使われていたそうだ。これを知っていると、物語の意図するところが見えてくる。
舞台は60分の長さでテキパキと進行する。東京タンバリンではかつて別の舞台で見たことがあるが、役者にダンスのような同じ動作をさせて舞台転換を図ったり、今作ではせりふの流れの中で登場人物が歌をうたっている間に転換をするとか、こんなところがとてもおもしろい。
また、2面の白い壁にはランダムと思われる数字のボードが貼ってあったのだが、これは舞台転換の際に役者が数字ボードを張り替えることでその場面の日付を表すという小道具だった。場面は日付的にジグザクに前後するので、このような表示が必要になったと思うのだが、それに加え、登場人物の一人が数学を教える教職についているという設定。数字がせりふ的にも小道具のように使われているのが秀逸なアイデアだ。たとえば「あなたは素数のような人だ、と言われた」などというせりふが多く登場する。数学が苦手な私にはとっさに意味がつかめないのだが、しかし何となく素数というイメージでその人の雰囲気が伝わってくる。
また、背景の白壁にせりふの英訳が映し出されるというのはおもしろかった。外国人が見ても分かる、という工夫なのか。それとも単なる舞台美術の一環なのか。
小劇場の中でも極めて小さい部類に入るスペースで、さまざまな工夫が凝らされた舞台が展開されていた。物語の展開も予想外の連続でとても秀逸なサスペンスであり、舞台美術もおおいに楽しめる。
雲のふち
ゴジゲン
駅前劇場(東京都)
2024/11/20 (水) ~ 2024/12/01 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2024/11/27 (水) 14:00
座席1階
コメディ・ユニットとコリッチの紹介文にはあるが、今作「雲のふち」はコメディからはかなり距離を置いた、どこか哀愁漂う舞台だった。
下北沢・駅前劇場のスペースを三つに分けて客席を設け、中央には人工芝とベンチ。入口近くにはマンションの廊下とドアがしつらえてある。丁寧に作ってある舞台美術に好感が持てる。
この人工芝は実は、公園にあるフットサルコートで、舞台は愛娘のフットサルの試合を見つめる父親というところから始まる。説明はないが、どうやらシングルファーザーのようだ。仕事が忙しいながらも娘との時間を持とうと努力しているが、思春期の娘は父親がくっついてきて試合を見たりあれこれ世話を焼いたりするのがうざったいという感じだ。公園を訪れた男性二人が今し方見てきた映画の話をしているのだが、娘との会話の流れから、父親がなぜか強引に男性二人の話に割って入るという、やや無理筋の展開で進んでいく。
舞台を見終わって思うのは、この戯曲は何がテーマなんだろうという感情だ。父と娘、それとも映画や役者さんの話? それは見た人それぞれが受け止めればよいことなのだと思うが、自分には今ひとつ消化不良感が募った。見ていてストンと落ちるものがあると、ぐっと好感度が高まるのだが。
ただ、登場人物が繰り広げる会話劇がつまらないわけではない。話はそれなりにおもしろいし、笑える部分もある。ただ、物語が一直線でなく複合化しているいることもあって、分かりにくいと感じた人もいたと思う。
もう一つ、とてもかわいい女優さんなのだが、さすがに思春期の娘というにはどうなの、と思った。いえ、外見の話というよりは、しゃべり方や雰囲気がとても大人びていて、思春期の女の子には見えない、という意味だ。これもわかりにくさの一因であるかもしれない。
EVITA エビータ
桐朋学園芸術短期大学芸術科演劇専攻
桐朋学園芸術短期大学小劇場(東京都)
2024/11/22 (金) ~ 2024/11/24 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2024/11/24 (日) 14:00
座席1階
うずめ劇場のペーター・ゲスナーなどが指導をしている演劇専攻の短大生らによる公演。今作はメメントCの嶽本あゆ美が上演台本や演出・指導を担当。学生演劇らしい荒っぽさはあったが、完成度は高い。ほぼ全編、楽曲によるストーリー展開で「躍動感」という言葉がぴったりの役者の動き、ダンスなどは見応えがあった。
妾の子として生まれたことで負い目を感じながら生きてきたエヴァは、ブエノスアイレスに出て女優となり、次々に愛人を替えてのし上がっていく。最後は大統領夫人になり、そのカリスマ性から国政に関与していく。
革命家のチェ・ゲバラを狂言回しに舞台は進行する。この役を務めた学生はもう少し声量があるとすっきりと聞けたのだが、悪くはない。歌唱力の凹凸があるのは学生演劇だから仕方がないが、合唱に関してはとてもきれいで、澄んだ旋律を響かせた。
また、時折打楽器などによる生演奏で舞台をリードしたのはすばらしかった。特に、ドラムスやベース、ピアニカなどで曲が披露されたのはよかったと思う。舞台美術は手作り感があふれていたが、パペットなども活用。衣装はなかなかのもので、特にウエディングドレスのエヴァが舞台上で次の衣装に変身していくのには少し驚いた。嶽本さんのアイデアなのだろうか。
短大であるためかもしれないが、女性の方が圧倒的に多い。そのため、軍人など男性役も比較的背の高い女性が演じていたが、よく鍛えられている。違和感はまったくなかった。特に、主役のエビータを演じた学生は見事だった。選ばれるべくしてこの座をつかんだに違いない。将来、ミュージカル女優として羽ばたいてくれたらすばらしいと思う。
時計屋のある町で
マグマ∞
浅草九劇(東京都)
2024/11/21 (木) ~ 2024/12/02 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2024/11/22 (金) 14:00
座席1階
このユニットの結成の経緯から、今作は時計屋の主人を演じる津嘉山正種へのあて書きかとも想像していた。しかし、この戯曲は商店街にある古い時計屋を舞台にした家族の群像劇だった。これが抜群の展開で、会場はすすり泣きの声があちこちに。客席のハートを見事につかんでいた。
津嘉山がこだわる昭和の時代。携帯電話もポケットベルもない。時計の世界でいくと、腕時計などにクオーツが席巻し始め、懐中時計や柱時計などが脇へ追いやられそうになっている状況だ。時計と言えば当時は形見の品で、両親などから譲り受けたものを大切に使っている人が多かった。この時計店は、そんな思い入れのこもった時計を修理する店なのだが、後を継がないで信金に勤めている息子が「こんな時代だからもう閉店した方がいい」と父親に進言し、冷戦状態になっている。
そんなところに「弟子入りしたい」と中年女性が訪れた。聞けば、戦地に出向いた祖父が身に着けていた懐中時計を何とか直したいとのことだった。この時計が銃弾から身を守る盾になったのだという。
浅草にある劇場らしく、登場人物はちゃきちゃきの江戸っ子という感じで親子(母と娘)の口げんかも激烈だ。戦中派の時計屋夫婦と、離婚して実家に出戻りの娘、長男夫婦と大学生の子という家族構成。時計屋の主人だけの物語でなく、個性豊かな登場人物それぞれに重要な役回りがあり、この戯曲の面白さを形作っている。
後段は予想外の展開で虚をつかれるのだが、そこが感涙を絞る遠因にもなっている。今作はホンを書いたふたくちつよしの勝利といったところか。平成生まれだと少し背景の情報収集が必要かもしれないが、若い世代が見ても面白いはずだ。昭和を生きてきた世代にはばっちりツボにはまった名作だと思う。
ガラクタ
TRASHMASTERS
駅前劇場(東京都)
2021/11/19 (金) ~ 2021/11/28 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
2024年11月の再演、上野ストアハウスで。
見逃していたので再演はありがたい。原発の「ゴミ」、高線量の放射性廃棄物の地層処分がテーマ。文献調査に手を挙げた北海道の自治体を舞台に、原発マネーで賛成派と反対派に分かれて街が分断される様子を描いた。
NUMO(ニューモ)が実名で出てくるのがおもしろい。地震国の日本に地層処分の適地があるとは常識的に考えられないが、適地を日本地図に落として自治体の手上げを待つなどというやり方で核のゴミを処分するのを「将来世代への責任だ」と言い張るニューモの担当者のせりふが利いている。
スナックと料理店という、地元の人が集まる場所に勤める人たちを登場人物にしたのがとてもいい。日ごろは同じ地元住民として仲良くやっているのに、放射能は怖いかもしれないがとにかく賛成、こんなものを地元に作らせたら破滅だと考える反対派に分かれ、「反対派の店」「賛成派の店」に分かれてしまう。原発マネーの罪深さをうまく浮き彫りにしている。
期待通りの切れ味で、再演を観られてよかった。トラッシュのファンでない人も、日本の原子力政策のいいかげんさを分かりやすく知ることができる。ぜひ見てほしい。
コウセイネン
演劇集団円
吉祥寺シアター(東京都)
2024/11/14 (木) ~ 2024/11/24 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2024/11/15 (金) 14:00
座席1階
小松台東の松本哲也は、「デンギョー」など心に刺さる会話劇で客席のハートをつかむ劇作家という印象だ。今回は演劇集団円とのコラボということでどのような作品となるのか。期待をして劇場に向かった。
主人公は、刑事事件を起こして仮釈放で出てきた男性。一見、事件とはほど遠いおとなしいそうな印象なのだが、酒を飲んだ上での出来事だったらしい。保護司に頼まれ、この男性を雇った電気工事会社の社長も最初はおっかなびっくりという感じもあったが、男性は真面目に働き、会社の仲間に溶け込もうとする。
だが、仮釈放という身の上に、周囲はどう接してよいのか悩む。職場の仲間で飲みに行ったスナックで、男性は酒に口を付けようとしない。ちょっとやんちゃふうの兄ちゃんはおもしろくないようで、ズケズケと男性の起こした事件の中身などに突っ込んでくる。顔見知りばかりの小さな町、という設定であることもあって、あまり触れられたくないことに突っ込まれる無遠慮さとか、反対に腫れ物に触るような周囲の接し方とか、男性には居心地がよくなさそうだ。
犯罪を起こした人に対して持つ怖いという感情とか、「ろくな奴じゃない」という決めつけとか。こうした空気がいわゆる更生の障害になっているのが日本社会だ。出所して社会に溶け込めず、孤立し、再び犯罪に手を染めてしまう人は少なくない。明らかに障害は社会の側にあると言える。
一方、この戯曲では、男性の起こした事件とは関係ないが、別の事件の被害者を登場させている。社会が「更生への障害」をまとっている半面で、事件の被害者も同じ社会の構成員として生きている。社会の側に問題があるという視点で見ていると、被害者がこの男性にぶつける言葉や感情をどう受け止めていいのか、戸惑ってしまう。こうした点をしっかり押さえてあるのはさすがだと思った。
会話劇としては「デンギョー」の方が切れ味があってよかった。先日、殺害されるという事件が起きて注目された、保護司の苦悩がもう少し語られてもよかったと思う。しかも舞台に登場する保護司は若い女性というレアな設定だ。そこまで求めるのは手を広げすぎだろうか。
でも、仮釈放や保護司という通常、演劇ではあまり取り上げられないテーマに真正面から取り組んだ意欲作であることには違いない。
朗読劇 「すっぴん 2024」
kimagure studio
すみだパークシアター倉(東京都)
2024/11/13 (水) ~ 2024/11/17 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2024/11/13 (水) 19:00
座席1階
和菓子職人が、餡をつつむ機械を開発する技術者に転身し、大変な仕事をサポートして職人芸を次世代につないでいこうと奮闘する物語。主人公の男性もそもそも職人肌で、そこに嫁いだ女性が苦労を重ねながらも懸命に支えていく。これを全編、電子ピアノの伴走で俳優たちが若干の演技を伴いながら朗読を続ける展開だ。
自分としてはストレートプレイの方が好みなので、この戯曲もそのように演じられたらよかったなあ、とは感じた。しかし、今作はピアノの伴奏、音楽がものすごくよかった。俳優たちが演じる役柄の気持ちに実にフィットし、違和感を全く感じなかった。それどころか、俳優の演技にやや不足しているような役柄の雰囲気をうまく埋め合わせ、さらに伸ばしていくような力を発揮していた。
俳優たちの朗読もよかった。マイクを前にした定位置での演技に限られているが、せりふにプラスして客席に伝えるイメージを最大限に出していたと思う。
物語は、主人公の情熱と、それを支える内助の功がテーマ。「あなたについていきます」というところが昭和が色濃く出ていた。客席には多くの若い人がいたが、どう受け止めただろうか。
また、和菓子というアイテムをもう少し具体的に出してもらったらさらにうまくイメージできた。朗読劇では限界なのだろうか。
人という、間
グッドディスタンス
OFF OFFシアター(東京都)
2024/11/07 (木) ~ 2024/11/17 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2024/11/08 (金) 15:00
座席1階
グッド・ディスタンスの会話劇は面白い。これまでの作品の多くは、舞台から明確に伝わるものがあり、切れ味もあった。今作は、ラブホテルの一室で繰り広げられる男性と義理の妹の会話。舞台設定の妙もあり、期待通りの面白い会話劇だったが、画竜点睛に欠いたところはある。
男性は5年前に妻を亡くし、義理の妹は暴力夫と離婚してシングルマザーとなった。生活に困窮し、病気がちの子どものため保育園に預けることが難しく、職業はデリヘル嬢。設定が面白いのだが、妻の葬儀以来5年ぶりに会いたいと男性が選んだ場所はラブホテル。つまり、義妹の客として再会したところから始まる。
最初はこの二人の関係が明かされないから、スケベな中年男性が女子高生の制服姿のデリヘル嬢のサービスを受けるのかな、と舞台に見入っているが、関係性が明らかになると「何でラブホで、しかもオプション料を払って制服姿なの」と面白さが倍増する。妻が亡くなっているとは言え、その妹にサービスを受けたいというのは完全な妄想の世界だな、と思うが、男性はいきなり上から目線で「こんな仕事は辞めなさい」とか「自分が養うから結婚しよう」とか説教を始める。完全にずれているのだが、そうしたところをはじめとして随所に、ねじれを利かせた面白さがあった。
「自分は義理の妹とはできない」なんて言っておきながらけっきょくしてしまうところが単なる中年のおじさんなのだが、なぜ、5年の歳月を超えて義妹に会いに来たのかが微妙な形で伝わってくるのがこの戯曲の最大の面白さだと思う。それだけに、最後の最後の場面は今ひとつもったいなかったな、というのが正直な感想だ。
しかし、グッド・ディスタンスの舞台には今のところ、はずれはない。普通ならあり得ない?というシチュエーションでの会話を味わえるのも、演劇ならでは。ちなみに、女子高生の制服を着こなしているこの俳優さんは誰?と思ってHPを見てみたら、何と元AKBの人だった。かわいいはずだよね。
幕末純情伝 〜黄金マイクの謎
9PROJECT
王子小劇場(東京都)
2024/11/06 (水) ~ 2024/11/10 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2024/11/06 (水) 19:00
舞台初日、王子小劇場は満員の熱気で、期間中の前売りチケットは売り切れ。前説では配信動画をご覧ください、との説明もあった。つかこうへいの舞台を演じ続け、今や人気劇団の9プロ。今作は「新撰組の沖田総司は女だった」というとっぴな設定で始まる舞台で、どんな人間模様が描かれるのかを楽しみに出かけた。
チラシによると、今はほとんど上演されない初演版「黄金マイクの謎」。そのキーワードは舞台で明かされるのだが、ちょっと拍子抜けという感じもしなくもない。
また、これは自分の受け止め方なのだが、この荒唐無稽な人間関係を進めていくのは沖田総司の刀である。バッサバッサと斬っていくが、斬られた人間が再び起き上がってせりふを吐いていくのには少し戸惑った。「あれ、この人、斬られたのでは」という感覚が沸き起こり、見ている中で整理が付かないからだ。
また、9プロの脚本・演出では客席を笑わせる、楽しませる仕掛けが満載なのだが、今作は少しお下劣なせりふも多く、ちょっと期待外れだった。
9プロの派手な舞台を楽しみに来ているファンにはどうでもいいことなのかもしれないが、沖田総司が女という設定に見合う新たな人間関係のねじれや深みを期待してきた私のようなファンには物足りなかった。今作では、坂本龍馬と沖田総司の間で交わされる心の波というか、感情の揺れ動きをもっと期待したい。