実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2025/03/25 (火) 14:00
西日本新聞が終戦からしばらくして設けた女性の投稿欄「紅皿」を題材にした舞台。市民の投稿欄が朗読され、その物語が舞台で演じられることによって、当時の女性たちの思いが生き生きと浮かび上がった。演じるということで伝わる力、その力強さを存分に感じることができる。
舞台で取り上げられている投稿が書かれたのは、朝鮮戦争特需で日本が経済復興し、自衛隊の発足(再軍備)が進められているころだ。戦争で家族を失った女性たちの多くが「もう戦争はこりごりだ」と感じており、舞台では「再軍備は絶対に反対」と言い続ける母親が登場する。その息子が「大国に守られているだけでは自分の国は守れない」などと言って自衛隊への入隊を打ち明け、母親と激しく衝突する。
複雑化する国際情勢、パワーバランスの中で、自国をどのようにして他国の侵略から守るかというのは、戦後80年たった今も変わらない論点だ。しかし、舞台が扱っている当時と決定的に違うのは、「再軍備反対」と声高に叫ぶ女性たちの姿が今は見られないこと。また、それに加えてさしたる議論もないまま、自衛のための再軍備どころか、敵基地を先制攻撃する軍備までそろえようとしているところが大きく異なる。
「戦争などもうこりごり」という市民の姿がはっきり見えないところが当時よりいかにも危うく映る。舞台ではこうした現状まで直接的に触れられていないが、原作者がここを意識しているのは明らかだ。客席もこうしたメッセージを受け止めて、舞台に見入っていたと思う。
単に投稿を読むだけならそれで流れてしまうかもしれないが、舞台化されることで、客席では投稿によって何度も涙をぬぐう姿もあった。「読む」から「見て感じる」へ。演劇という伝え方のパワーを知った貴重な時間だった。
2025/03/28 10:28
ご来場ありがとうございました。
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