実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2025/01/29 (水) 13:00
座席1階
まず、開幕前からじっくり見ることのできる舞台セットが美しい。こんな本物のバーがあったら一度は行ってみたいと思わせる。前回は日暮里のd倉庫という小さなところでやったというが、その時のセットはどうだったのだろうか。スズナリだから、これだけの舞台セットを用意できたのかもしれないが、細部まで作り込んであると思わず期待が膨らむ。
主人公は、山口森広演じる39歳の女性バーテンダー。トランスジェンダーでもなく本物の女性なのだが、高校時代から声も外見も完全におじさんということで、恋愛ははなからあきらめてここまで年を重ねた。控えめで、思いやりがある人柄。バーの常連たちは、こんなマスターに話を聞いてほしくて通ってくる。ただ、女性客の中にはマスターが男だと信じ込んでいる人もいた。
そんな中で、高校の同級生たちがマスターの40歳と店の10周年を祝うパーティーをしようと計画する。
舞台は、高校時代の彼らと、現在、バーを客として訪れている状況が交互に演じられる。驚くべきは山口の早変わりだ。バーテンダースタイルからあっという間に女子高生に。これには注目したい。
このバーに不遜な男が訪れることで物語は始まる。言いたいことを言い放ち、空気をまったく読まない言葉を弾丸のようにぶつけてくるのだが、こうした物の言いようが、実は重要なカギを握って後段に移っていく。
途中までは、単なる高校の同級生たちのトークなのかと飽きが来るような感じもあったが、不遜男がマスターの記念動画を撮る役割で来たことが分かり、その動画がパーティーで披露されるころからは舞台から目が離せなくなっている。ラストシーンの歌唱ではうるっとくるし、本気のドタバタは非常に迫力がある。田村という人は、演出には全く手を抜かずに切り込んでくる。
舞台のテーマは性の多様性ではなく、「分かり合う」ということの本質だと受け取った。お互いが「自己開示」をして飛び込んでいく重要性。いくら相手がそのままを受け止めて共感してくれる人であっても、分かり合うためにはお互いのストーリーを見せ合うことだと舞台は訴えているようだ。このあたりを「不遜男」に語らせているのはある意味すごい。舞台を黙らせる迫力があった。
人気劇団だけに、多くの若いお客が大半でほぼ満席。でも、矢部曰く、まだ席に余裕があるとのこと。人間と人間の付き合い方の微妙さ、小さな気持ちの交差など、多くを考えさせられる。いい芝居だった。チケットがなくなる前に、見に行った方がいいかも。