ダンシング・ヴァニティ
ピーチャム・カンパニー
Space早稲田(東京都)
2011/06/08 (水) ~ 2011/06/15 (水)公演終了
満足度★★★
切なくユーモラスなコーダを伴う変奏曲
いくつかの短いエピソードが2度、3度と反復され、その度に少しずつ変容していく実験的な要素のある小説を、スラップスティックな演出で舞台化していました。原作を読んでいないため、舞台化に際してどう脚色されたのか分かりませんが、演劇ならではの表現を用いた作品になっていたと思います。
年老いた美術評論家が走馬灯のように過去を回想する物語で、話が繰り返される度に妙な話になっていく様子が楽しく、終盤はいよいよ話が断片的になって入り混じり狂騒的になりながらも最後には切なさを感じさせる不思議な雰囲気がありました。
今までのピーチャムの作品と比べて演出の土臭さが抜けていてフレッシュな感じを受けました。色とりどりのボールで埋め尽された大きなビニールのプールと、上手にぶら下がる場面や曲名を表示する電光表示板の舞台美術など、クールでポップな雰囲気でした。物音を口でそっけなく表現したり、似非外国人風の台詞回しの中、特定の単語のみに特異なアクセントと身ぶりを付けたりと、演技の演出に関しても実験的なモードを取り入れていて新鮮でした。金崎敬江さん演じる(台詞はなく、マイムやダンスのみ)ホワイトオウルが物語構造の外から全体を俯瞰するような立場を表現していて、作品に奥行きを与えていたと思います。
冒頭から少し経ったところでの役者の登場シーンにインパクトがありました。終盤の色々な場面がシャッフルされていくところでは電光表示板をうまく使って畳み掛け、混沌とした感じが良く出ていました。プールを棺桶に見立て、散華するようにボールを投げ入れる主人公の葬式のシーンが美しかったです。その後、主人公が起き上がりまたエンドレスな繰り返しが続くのかと思わせたところで終わるのがユーモラスで良かったです。
おそらく原作にはないと思われる、ゴムひもやハリセンや芸能人の顔写真を切り抜いたお面を用いた小ネタは面白くなく、また話の流れを崩していて効果的ではなかったと思います。電光表示板にテキストが表示されるタイミングが全然合っていないところが多々ありました。ぴったり決まれば格好良くなりそうなので勿体なく思いました。
役者に関しては男性陣、特に2人1役で主役を演じた2人が台詞を追い掛けるのでいっぱいいっぱいな感じで、噛んだり落ちたり滑舌が悪かったりが続き、声も枯れ気味だったので、安心して観られる状態ではなかったのが残念です。歌や身体表現も稚拙な感じがあり、もう少し高いクオリティを見せて欲しかったです。
やろうとしていることはチャレンジングで面白そうなのに、全体的に技術が追いついていなくて、もどかしい印象を受けました。よりブラッシュアップすると、とても面白い作品になりそうな気配が感じられました。
アシタ ノ キョウカ
コーロ・カロス
渋谷区文化総合センター大和田・さくらホール(東京都)
2011/06/08 (水) ~ 2011/06/09 (木)公演終了
満足度★★
現代における泉鏡花の意義
泉鏡花の作品の引用や作家自身のエピソードを積み重ねることによって、デシタル化する現代において失われつつある「魔的なるもの」の意義を考えさせる作品でした。オペラと称していますが、特定の役を演じて物語を進めるという形式ではなく、合唱を主体として断片的なシーンが展開するものでした。上演時間が90分にも満たない、オペラとしては短い作品でしたが、引き込まれる要素があまりなく、時間が長く感じました。
合唱は素晴らしいハーモニーで良かったのですが、舞台作品としては印象に残らない構成になってしまっているように感じました。
終章のひとつ前の『オペレッタ「貝の穴に河童 がいる」』と題された章が長く、バランスが悪かったと思います。しかもオペレッタという割りには芝居(途中に影絵劇もありました)だけで進行する部分が多く、音楽も同じパッセージがリフレイン的な何度も繰り返されるので集中力が途切れてしまいました。
終章では現代の街の環境音が前半のシーンとリンクするように上手く使われていていたので、このような演出上の仕掛けをもっと観たかったです。
普段は合唱団として活動している人たちなので演技があまり上手くないのは仕方ないところがありますが、歌はとても良いので、芝居より演奏で舞台を引っ張って行く構成の方が良い気がしました。
クラシカルな発声法だけでなく、各人の声の個性を活かした曲があったのが良かったです。音楽としてはホモフォニックな曲が多く、せっかく空間を自由に移動しながら歌うので、それを活かしたポリフォニックな曲が聴きたかったです。
いないいない
ガレキの太鼓
アトリエ春風舎(東京都)
2011/06/03 (金) ~ 2011/06/12 (日)公演終了
満足度★★★
奇妙なモヤモヤ感
何かが起きているらしいのに、その背景が説明されないまま話が進み、非現実的な展開を経て、さらっと終わる、掴み所のない作品でした。明快ではないけど難解というわけでもない微妙なラインを狙っていて、不思議な心地良い違和感を覚え、前半は世界観に入り込みにくかったのですが、後半は何とも言えない奇妙な雰囲気に引き込まれました。
外にいると殺されるということで外部との関係を絶って、ある部屋の中の箪笥や箱に隠れる7人の奇妙な生活がその中の1人の日記を交えて淡々と描かれ、次第に閉塞感が高まって人間関係のバランスが崩れていく様子が現在の日本の状況、あるいはもっと普遍的なシチュエーションに重なるようで不気味でした。後半、奇妙なことになっているのに登場人物たちには何ごともないかのように会話を続けているのが、存在することについて考えさせられて印象的でした。
いくつかある回想シーンが照明の変化と台詞の内容で、自然な流れで挿入されているのが良かったです。
美術の仕掛けが良く出来ていて、後半のシーンでとても効果的でした。照明も色々切り替えているのが気にならないスムーズな流れで奇妙な雰囲気を演出していました。
前半が少しもたついてように感じます。後半の畳み掛けるような展開と対比を狙ったのかもしれませんが、もう少し前半もスピーディーに進んだ方が良いと思いました。
untitled
shelf
atelier SENTIO(東京都)
2011/06/02 (木) ~ 2011/06/05 (日)公演終了
満足度★★★
静謐な60分
雑誌や瓶などいくつかの小道具が置かれた素舞台で8人が静かに動き、雑誌や戯曲から引用された断片的なテキストをモノローグとして語る、心地良い緊張感が漂う作品でした。
冒頭に読まれるテキストが福島第一原発周辺のルポルタージュで、劇場で行われていることも現実の一部であることを印象付け、その後に現れるイプセンやベケットのテキストも「洪水」や「水葬」といった単語が出てくる箇所を抽出していて、東日本大震災との関連を考えさせる構成になっていたように感じました。
台詞を語る時間と語らない時間が同じくらいの分量で、身体表現が重視された演出になっていましたが、日常的ではなく、いわゆるダンス的でもない、能の所作のような非常にゆっくりとした動きが多用されていて、時間感覚が麻痺するような感じを受けました。出演者の身体表現のレベルにかなり差があり、特殊な動きから立ち上がる緊張感があまり出ていない役者がいたのが残念でした。
台詞回しに関してはテキストに合わせて日常的な発話法から、いかにも演劇的な発話法を使い分けていましたが、役者の力量もあるのか、手紙や記事を読むシーンでの口語体での発話はあまり印象に残りませんでした。
戯曲のダイアローグの場面を1人で演じるというか語ったり、戯曲を読むパートが終わるときに「はい」という掛け声で一気に空気感を変えたりする仕掛けによって物語の世界に没入しないようにするテキストとの距離の取り方に清々しい印象を持ちました。
コジ・ファン・トゥッテ
新国立劇場
新国立劇場 オペラ劇場(東京都)
2011/05/29 (日) ~ 2011/06/11 (土)公演終了
満足度★★★★
キャンプ場での一夜の戯れ
18世紀のナポリの人々の恋愛ゲームの物語を現代のキャンプ場に置き換え、若々しい雰囲気の演出になっていました。設定を現代に変えていますが、読み替え演出にありがちな奇を衒ったものではなく、自然な流れで親しみやすいものとなっていました。
老哲学者にそそのかされて、2人の男が恋人の貞節を確認するために変装してお互いの恋人を口説き落とそうとし、紆余曲折を経ながら元の鞘に戻って大団円という元々のあらすじからは逸れずに、現代人には馴染みのない部分を今日的なアイテムに置き換えていました。老哲学者がキャンプ場のオーナーという設定だったり、占いをファッション雑誌でチェックしたり、男2人の変装後の姿が革ジャケにサングラスのバイカー風だったり、飲んだ毒を治療するための磁気療法が電気ショックの機械だったり、所々に小ネタがあって楽しかったです。
最後はハッピーエンドにならず、バラバラに帰って行くというビターテイストなエンディングになっていて、歌詞とは反対の行動が舞台上で起きていることによって皮肉な雰囲気になっているのは面白かったのですが、終結感が弱まっていて、ちょっと肩透かしを食らった気分になりました。
メインキャストの6人は歌が素晴らしいのはもちろん、水着で池に入りながら歌ったり、足を持たれて引きずられたり、背丈以上の高さの斜面を転げ落ちたりと、体を張った演技も良かったです。合唱の人たちの演技は硬い感じがしました。メインキャストが傍白的な歌詞を歌うときに合唱の人たちがずっと同じポーズで固まっているのは演劇ではよく見る手法ですが、オペラの公演ではあまりないので新鮮でした。
舞台が直径15m以上ある大きな回転舞台で、キャンプ小屋・キャンピングカーの置かれた平地・池のある小山の3つが切目なく繋がっていて、場面転換がスムーズに切り変わっていたのが素晴らしかったです。とてもリアルに作り込んでいるセットと自然光のような照明と相まって、本当の屋外のようでした。特に第2幕の夜のシーンで暗闇に沢山のランプや焚き火が煌めくシーンが美しかったです。
様々な組み合わせの重唱は素晴らしく音楽的には満足でしたが、演劇としてはもう少し深みや意外性を感じさせて欲しく思いました。
黒い十人の女
ナイロン100℃
青山円形劇場(東京都)
2011/05/20 (金) ~ 2011/06/12 (日)公演終了
満足度★★★★
シニカルな復讐劇
円形の劇場を上手く使った演出で愛憎渦巻く人間たちの関係がシニカルに描かれていました。
昭和中期のちょっとレトロな雰囲気の中、女たらしのテレビ局プロデューサーが、関係する10人の女たちの恨みを買い、やりこまれてしまう物語で、巧みなやりとりで女の気を引く優男っぷりや、女の嫉妬が分かりやすく表現されていました。オリジナルの映画を見たことがないので、どこまで脚色されているのか分かりませんが、しっかりケラさんテイスト溢れる作品になっていました。
いつものナイロン作品に比べると大爆笑となるシーンは少なめですが、シリアスなシーンでも突然笑わせる絶妙の間の取り方は流石だと思いました。
ベテランメンバーの峯村リエさん、松永玲子さん、村岡希美さんの演技は抜群の安定感で迫力があり、女の強さ弱さの両面を見せ、また女同士の争いの凄味を感じました。
真面目に素っ頓狂なことを言うキャラクターを演じた緒川たまきさんのコメディエンヌっぷりが可愛らしかったです。
ケラさんが演出する作品は毎回スタッフワークも見応えがあり、今回もレベルが高かったです。
小野寺さんの振り付けによるスローモーションやストップモーションを織り混ぜた動きや、小道具の使い方が鮮やかでした。10人の女が勢揃いする第一幕のクライマックスのシーンは、台詞なしで身体表現だけで展開し、怖さと美しさがスタイリッシュに表されていて素晴らしかったです。
映像は今回は立体的なセットがないため、いつものようなイリュージョン効果ははあまりなかったのですが、切り絵(?)や手描き
のスライドショーや、ニュースや昔懐かしの「生コマーシャル」風の映像や、抽象的パターンの床面投影など盛り沢山で楽しめました。
衣装も時代の雰囲気が出ていて良かったです。
泥リア
風煉ダンス
調布市せんがわ劇場(東京都)
2011/05/27 (金) ~ 2011/06/05 (日)公演終了
満足度★★★
日本の現況を反映した『リア王』
シェイクスピアの『リア王』を下敷きに、笑いを交えながら現代的なトピックを盛り込んでいて、猥雑な雰囲気のある作品でした。
現代の日本のある家庭で母が亡くなり、痴呆症が現れてきた父を3姉妹のうちの誰が面倒を見るか討論するところから物語が始まり、次女の夫が徘回する父を追っているうちに「ドロリア」という星に飛び、『リア王』の物語が繰り広げられる展開ですが、エンディングは悲劇的な終わり方ではなく、希望を感じさせるものでした。腐敗していく王族の状況を今日の政府に重ね合わせる意図は分かりますが、表現が直接的過ぎだったと思います。
リア王に相当する役を2人1役で演じていたのですが、善と悪のような対照的な性格を割り振っているわけでもなく、ギャグ的な効果しか感じられなかったのがもったいないと思いました。ちょっと古い小ネタや、同じシーケンスを何度も繰り返すようなベタな展開は、趣味が合わずほとんど笑えませんでした。
役者に関しては、3姉妹を演じた女性陣がキャラクターの造形がしっかりしていて魅力的でした。
ファッションショーのランウェイのような形のステージは、シンプルながらもちょっとした仕掛けもあり、上手く使われていました。渋さ知らズの不破大介さんによる音楽は、あまり劇音楽としては使わないようなフリージャズ的な要素があり新鮮でした。
裏窓
スポンジ
OFF OFFシアター(東京都)
2011/05/25 (水) ~ 2011/05/29 (日)公演終了
満足度★★★
信じること
兄が経営するバイク屋を舞台に、超能力を持つ弟とその周囲の人たちの関係がじっくりと描かれた作品で、小細工のない正当派な芝居でした。
自分には超能力があり特別な人間だと思い込む主人公と、彼を自由に生きさせて駄目な人間にしてしまったのは自分のせいだと言う兄の奇妙な関係を軸に、妻や超能力をメディアで取り扱おうとする人々、職場の人などとの関係を通じて、弟が半ば自分勝手に感じている孤独感が痛々しく描かれていました。
説明的な表現はしないで舞台上でのやりとりのみで内容を伝えようとする作風だったので、なぜ兄が弟に対して甘いのかや、妻が弟のどこに惹かれて結婚したのかなどの背景が描かれず、物足りない感じがありました。もう少し背景が見えた方が、登場人物それぞれに共感しやすく、物語として厚みが出ると思いました。
役者の演技にリアリティがあり、特に主役を演じた星耕介さんの陽気な雰囲気の中に秘めた気難しさや狂気を感じさせる眼差しが印象的でした。妻役の菊池春美も健気な感じも良かったです。
本物のバイクまで配置したセットが細かいところまで丁寧に作られていて、飲み物や食べ物も本物を使っていて、リアルな空気感がありました。あと、BGMの選曲が格好良くて音楽的センスを感じました。
『After the lunar eclipse/月食のあと』リ・クリエイション
平山素子
世田谷パブリックシアター(東京都)
2011/05/27 (金) ~ 2011/05/29 (日)公演終了
満足度★★★
宇宙の光
宇宙をテーマにした60分間のソロダンス作品で、身体の隅々までコントロールされた精度の高い動きが美しかったです。
ほとんどのシーンは暗い中、インダストリアル系やドローン系の音楽で静かに踊るので少々単調に感じましたが中盤にバッハの曲で踊るシーンは照明が明るくなり、テクニカルでエモーショナルな繊細なダンスが繰り広げられ、見応えがありました。終盤はプログラミングされたLEDを身に纏って踊り、呼吸するように明滅するLEDがゆっくりと消えて身体のシルエットが見えなくなる瞬間が綺麗でした。またストロボ的に細かく点滅し、平山さんの滑らかな動きが微分化されてカクカクした動きに見える効果も楽しかったです。
舞台背後には逢坂卓郎さんによる、宇宙放射線に反応して点滅するLEDのスクリーンが設置され、自然界のランダムなリズムの光が星空のようで美しかったです。ゆっくりと照らす範囲を変化させていく照明も良かったです。
作品に対して会場が大き過ぎて表現が届ききってない印象を受けました。パブリックシアターより隣のシアタートラムでもっと近い距離で身体のエネルギーを感じながら観たかったです。
BATIK トライアル vol.11
BATIK(黒田育世)
森下スタジオ(東京都)
2011/05/26 (木) ~ 2011/05/27 (金)公演終了
満足度★★
自作自演
BATIKのメンバーの内の5人が自分で振付した15分程度の小品を踊る企画で、BATIKの本公演の完成度には及ばないものの、メンバーそれぞれの方向性の違いを見ることができて興味深かったです。
『かげ』(伊佐千明)
自分と電球や鏡によって現れるもう一人の自分の対話を描いたデュオ作品で、すっきりとした分かりやすい構成でした。前半の動きと対比は美しかったのですが、中盤にあった鏡像のように同じ動きをするところはありきたりに感じました。
『タイトロープ』(大江麻美子)
鬱屈した感情を少しユーモラスな動きも取り入れて表現していました。こういうタイプの作品では、もっと張り詰めた空気感があった方が良いと思いました。
『コンダクター』(西田弥生)
クラシックの名曲に乗せて、ドラァグクイーン的なコミカルなパフォーマンスが展開される作品でした。動きのヴォキャブラリーが豊富で飽きさせなかったのですが、そのことによってまとまりのがなくなっていたのが残念でした。
『リピート病』(植木美奈子)
暴走するようにのたうち回る冒頭のシーンが印象的でしたが、あとに続くシーンが単調に感じました。異常なフォルムが気持悪く、かつ美しかったです。
『三叉路』(寺西理恵)
ガーリーで爽やかな雰囲気が素敵な作品でした。最後のシーンで客に目を閉じるように呼び掛け、少し経って目を開けたときに目に入る光景にインパクトがなくて少々拍子抜けしました。床に描いた絵が全然見えなかったので、ちゃんと客席から見えるかチェックしておいて欲しかったです。
どの作品も身体をコントロールが利かない状態まで持って行き、息を切らす姿をさらけ出す場面があり、BATIKらしいなと思いました。もっとBATIKの作風とはかけ離れた、ぶっ飛んだ作品も観てみたく思いました。
冒頭に主宰の黒田育世さんが言っていたように、正直未熟な点も多かったですが、習作を一般客に発表するのはダンサーにとって意義があり、客としても創作過程が 垣間見れて、良い試みだと思いました。
茶の道
ニグリノーダ
イワト劇場(東京都)
2011/05/25 (水) ~ 2011/05/29 (日)公演終了
満足度★★★
茶・遊び
江戸時代の茶の世界で起きた心中事件にまつわる話を、趣向を凝らした幻想的な演出で描いた作品でした。時代劇と現代劇が混ざったような不思議な物語世界の中で、茶人によるお点前や、三味線と唄の生演奏など日本の伝統的なパフォーマンスが行われ、普段の生活においてあまり縁のない文化を観ることが出来て興味深かったです。
「花」と名付けられた、非現実的な存在感がある女性3人の佇まいが専門の役者とは異なる、うっすらとしたエロティシズムを感じさせて魅力的でした。難しい立ち位置の役だとは思いますが、台詞回しがぎこちなくてもどかしかったです。
男性陣も中性的な雰囲気がある人や、内に狂気を秘めつつも表はチャーミングな老人など、個性的でした。
メタ構造を意識させる台詞や、おそらく事前にやりとりが確定されていないゲーム的場面など意欲的な手法を用いていて、何となくやりたいことは伝わって来ましたが、断片的・抽象的に表現したそれぞれの要素があまり上手く絡んでない印象を受け、奥行きを感じられないのがもったいなく感じました。特に笑いを狙ったところは間が悪く、上手く行っていないと思いました。
全体的に力み過ぎな感じがしたので、良い意味でもう少し力を抜いた方が流れが良くなると思いました。
音楽や効果音を使い過ぎに感じました。舞台上の役者の台詞・動きだけで見せた方が魅力的になると思いました。
10分以上無音で続く後半のお点前のシーンは心地良い緊張感がある素敵な時間でした。能のように形式的で緩慢な動作の中に見える美意識に引き込まれました。
シアターイワトは防音性があまり良くなく、外の車の通行音や歩行者の話し声で静寂が掻き乱されるのが残念でした。
『十二人の怒れる男』/『裁きの日』
劇団チョコレートケーキ
ギャラリーLE DECO(東京都)
2011/05/25 (水) ~ 2011/06/05 (日)公演終了
満足度★★★
白熱の『十二人』
名作をオーソドックスな演出と役者達の熱演で、様々な考え方を持った陪審員たちが紆余曲折がありながらも白熱した議論を経て次第に有罪派から無罪派に変わっていく陪審員たちの心情が伝わって来ると同時に、陪審員制度の怖さを見せつけられ、考えさせられる作品でした。
真ん中に置かれた大テーブルを挟んで客席が対面配置になっていて、一緒に議論に加わっているような効果があり引き込まれました。1人が核心を突く発言をして全員が沈黙するときの静けさと、熱い言い争いの激しさの対比が良かったです。
大塚秀記さん演じる陪審員十番が差別意識を露にして感情的に巻くし立て、他の陪審員が引いていくシーンがビジュアル的にも美しく、とても印象に残りました。
各登場人物の見た目・性格付けと台詞・行動がぴったり合っていて分かり易かったのですが、意地悪な言い方をすると型にはまり過ぎなように感じました。真面目そうに見えるけど実は適当など、少し意外性のあるタイプのキャラクターがいた方が奥行きが出て面白くなるかもしれないと思いました。
作品の内容と直接は関係しませんが、最前列の座布団席は視点が低くて常に見上げて形になり、テーブルの向こう側の役者がほとんど見えないので、低いベンチを設けるか、全部椅子にして前後の列を半分ずらした配置にした方が良いと思いました。
「バーニングスキン」
劇団子供鉅人
Vacant(東京都)
2012/06/29 (金) ~ 2012/07/02 (月)公演終了
満足度★★★
濃厚な世界観
関西で活動されている劇団の初の東京での本格的な公演とのことで、東京の劇団とは異なる一風変わったパワフルでシニカルでアンダーグラウンドな雰囲気が魅力的でした。
アトピー性皮膚炎を患う女の子が家族に対して暴力的に振る舞い破滅する物語をスピーディーな展開で描き、物語にあまり深く関わらない、水着の女の子や、突然のコンテンポラリーダンスのソロなど、突拍子もない登場人物や出来事での笑いもあり、独特のノリが新鮮でした。台詞まわしが外国映画の吹き替えみたいで面白かったです。
劇場ではない会場のため舞台袖がない空間を、奥行き方向に3層に重なるカーテン状の幕を使って仕切り、出捌けや転換を処理していたのが巧みでした。
当日パンフに役者名が書いてあるだけで配役が記載されていなかったので誰がどの役なのか分からなかったのが残念でしたが、主役の板についた様式的な台詞まわしや爆発的な演技、パパ役とジェニファー役(女性の役ですが男性が演じていました)の妙な存在感が印象に残りました。
ヴィンテージ感のある家具やカーペットを配した美術や、ちょっとレトロな感じのある音楽が洒落ていて格好よかったです。
癖になりそうな個性的な作風が面白かったので、ぜひ近い内にまた東京で公演を行って欲しく思いました。
【ご来場ありがとうございました】解体されゆくアントニン・レーモンド建築 旧体育館の話」
趣向
KAAT神奈川芸術劇場・大スタジオ(神奈川県)
2011/05/21 (土) ~ 2011/05/23 (月)公演終了
満足度★★★★
スタイリッシュな演出
アントニン・レーモンドの設計による東京女子大学の体育館取り壊しのエピソードと、その大学で学ぶ9人の女子たちの生活がミニマルでスタイリッシュな演出によって描かれ、新鮮な印象を受けました。
前半は大学に入学した学生達のそれぞれの生活が断片的に描かれ、真面目に勉学に励む人から遊び惚ける人までいて、共感できる内容でした。旧体育館保存を巡る話が出てくる辺りからは緊迫感があり引き込まれました。
真っ黒な空間の中に真っ白な衣装とモノトーンの色彩の中、大道具・小道具を1つも使わずに、走り回る身体と幾何学的な図形を床に描く照明だけでかなり広い舞台を効果的にエリア分けする演出が見事でした。ストレートプレイの作品ですが、ダンス作品のような雰囲気があって気持ち良かったです。
脚本自体にゆるゆかなユーモアが感じられたので、効果音を用いた小ネタは狙い過ぎで必要ないと思いました。台詞や動きにシビアなタイミングが要求される場面がいくつかあったのですが、そこがテンポ良く行かずにギクシャクしてしまったのが勿体ないです。
9人の役者たちはそれぞれの個性を活かした演技でチャーミングでした。女子大の話ですが、若い人だけでなく、さいたまゴールド・シアターの上村正子さんも出演していて、雰囲気的にも物語の展開的にも効果的なキャスティングで素敵でした。
フラグメント
健康少年
STスポット(神奈川県)
2011/05/20 (金) ~ 2011/05/21 (土)公演終了
満足度★★★
魅力的だけど像を結ばない断片
タイトルの通り、断片的なシーンが積み重なった抽象的な物語を身体表現や美術、映像を使って複合的に表現した作品でした。
静と動の対比が鮮やかで、特にスティーブ・ライヒの曲が流れ、奥の壁面にアンリ・マティスの絵が投影されるなかダイナミックで暴力的なシーンが繰り広げられる冒頭のシーンが良かったです。実際のところ大声で叫んでいるところでは良く聞き取れない箇所もあり、その声量に必然性が感じられたのであまりストレスを感じませんでしたが、やはり言葉として伝わるようにして欲しいです。
神話を引用したり、言葉遊びを使ったりと脚本も凝った作りになっていたような気がしますが、全体としてのまとまりがないように感じられて、残念でした。60分と短めの尺だったので、もう少し長くしてもでも物語が見えて来るような構成にした方が良いと思いました。
当日パンフに載っているプロフィールによると、役者たちはNODA・MAPの作品に出演した繋がりの人たちらしく、それぞれ個性豊かでした。特に唯一の女性、近藤彩香さんは普段はダンサーとして活動されている方らしく、終盤でのソロダンスはもちろん、他の場面でも立ち振る舞いが美しかったです。
ペットボトルを筒状の布に入れて何本もぶら下げた美術が現代アート作品のような趣きで素敵でした。
「1989~風(かざ)家の三姉妹~」
カムカムミニキーナ
ウエストエンドスタジオ(東京都)
2011/05/18 (水) ~ 2011/05/22 (日)公演終了
満足度★★
激動の1989 年
昭和天皇崩御やバブル崩壊、社会主義国家の崩壊などの世界的な史実と、主宰の松村さんが大学に入学して演劇を始めた様子を描く自伝的な半フィクションの物語と、昔から代々続く巫女の家系「風家」の3姉妹を描いたフィクションの物語が、境界の曖昧な劇中劇的構成で組み合わされた凝ったつくりの作品でした。
「サラウンド・ミニキーナ」と銘打った公演で、通常の客席と舞台が向かい合っている形ではなく、アクティングスペースを挟んで客席対面させ、キャットウォークも使った立体的な広がりを感じさせる空間演出になっていました。
基本的な構想・プロットは面白かったのですが、戯曲や演出の段階で詰めが甘く、少し空回り気味に感じました。1989年の出来事を描いているので台詞回しや立ち振る舞いもその時代を意識したものにしていたのだと思いますが、パロディ的にそういうスタイルにしているのか、本気で面白い/格好良いと思ってやっているのかのスタンスが曖昧に見えて、どう受け取れば良いのか戸惑いました。
初日だったせいか、演技も硬く、決めのシーンで台詞を噛んだりと残念な感じでした。ほとんどの役者が声を張り上げていてメリハリがなく、耳が疲れました。ウエストエンドスタジオの空間の大きさであれば、もっと自然な発声でも十分客席に届くと思います。松村さんの台詞回しは声量・間の取り方が素晴らしかったです。
大半のギャグは笑えなかったのですが、松村さんが絡んでいるシーンは面白かったです。特に演劇サークル先輩の役を演じたシーンは自虐的な毒のある台詞を連発していて印象に残りました。
客入れの時から流れている、泣きながら笑っているようなロマ系の音楽が社会主義国家の崩壊を描くのに合っていて効果的でした。
死に際を見極めろ!
ライオン・パーマ
王子小劇場(東京都)
2011/05/12 (木) ~ 2011/05/15 (日)公演終了
満足度★★★
馬鹿馬鹿しい
過去の2度の殉職シーンに納得していない俳優のスリムが納得出来る殉職シーンに挑む物語で、宇宙スケールまで広がる馬鹿馬鹿しい展開と、1人何役もこなす役者達の芸達者ぶりが笑えました。
冒頭の占いのシーンから洗練されてはいないけど絶妙な間で出されるギャグが連発され掴みが上手かったと思います。しかも、それがその場限りのギャグではなく、ちゃんと伏線になっていたのが巧みでした。人情話的なシーンやハードボイルドな雰囲気、SF的なシーンもあり、収集がつかなくなってどう最後を締めるのかと思いながら観ていたところ、冒頭のシーンにループするような洒落た構成のエンディングになっていて良かったです。
主人公が設定を把握しないまま撮影に入っていて、新たな情報を得る度にツッコミを入れているのが楽しかったです。
話自体は荒唐無稽ですが、演技は無闇にハイテンションはなったりせず、真面目に馬鹿なことをやっていて、劇場のサイズにちょうど合った声の大きさで聴きやすかったです。複数の役の演じ分けも見事でした。
ちょっと間延びしているように感じたところが何回かあったので、それが解消されるともっとテンポが良くなって笑いが続くようになると思いました。
踊りに行くぜ!!Ⅱ(セカンド) 東京振替公演
JCDN
アサヒ・アートスクエア(東京都)
2011/05/13 (金) ~ 2011/05/14 (土)公演終了
満足度★★★
個性豊かな3作
地方の劇場で滞在制作した3作の上演。それぞれ異なるテイストがはっきり出ていて、ビジュアル表現にこだわりのある作品でした。
村山華子『カレイなる家族の食卓』
繋がりが失われていく家族の様相をカレーライスとヤギをモチーフにしてユーモラスに描いていました。
映像や衣装、小道具がセンスが良くて可愛かったです。それぞれ2台のビデオカメラとプロジェクターを使ってリアルタイムで映される舞台上の様子が遠近法を用いることによって映像の中ではトリッキーな絵になるというアイディアが楽しかったです。
影絵劇のスクリーンに化ける大きな鍋や、リバーシブルになっている衣装など色々仕掛けが施され、動きもバレエ的な美しいものが多く、万人向けな作風でした。
前納依里子『CANARY -"S"の様相』
サイバーパンク的なアンダーグラウンド感が漂う雰囲気の中で、現代社会における人の欲望や孤立感が描かれていました。電子変調された声や物音で構成された音楽や、撒き散らかされる服や髪も衣装も真っ白のダンサーなど異様な迫力に圧倒されました。
冒頭シーンのスモーク量の少なさや、最後のシーンがあっさりと終わってしまったのが残念でしたが、ストイックな作風が良かったです。
上本竜平『終わりの予兆』
男性2人、女性2人が出演していましたが、男性はいわゆるダンス的な動きはせずに、ぶつぶつと呟いたり日用品を並べたりしていました。ドキュメンタリータッチな映像が流される中、舞台上ではそれと関係があるようでもあり、ないようでもあるパフォーマンスが繰り広げられ、不思議なリアリティがありました。
映像より先行して同じ台詞を話したり、舞台上の音響ブースの手前にスクリーンを置いて事前に撮られた映像を映したりと、時間のずれを感じさせる演出が面白かったです。
どの作品も構成・演出に趣向を凝らしたものでしたが、身体表現で強烈なものは感じられませんでした。美術や物語的要素なしで、ダンスのムーブメントだけでもっと魅せる作品になれば、見応えのあるものになると思いました。
わたしのゆめ
ガラス玉遊戯
「劇」小劇場(東京都)
2011/05/11 (水) ~ 2011/05/15 (日)公演終了
満足度★★★
興味深い議論
課外授業の講師として呼んで欲しい職業のアンケートを小学生に取った結果、1番人気となったキャバ嬢を呼ぶかどうかについて親達が議論する様子を描いた作品でした。
BGMなし、照明も最小限の表現の中、台詞の応酬だけで90分の間に飽きを感じさせず、見応えがありました。
本人が気付いていない押し付けがましさや、激しい口論など、女性の怖い面が色々と描かれていて面白かったです。
議論する人々の中に、親でもなく教師でもない人物を1人配置したことによって、両者を繋ぎながら話を多面化していて効果的でした。
子供の教育、職業の貴賎といった考えさせられるテーマをオーソドックスな演出で分かり安く描き、笑いや争い、しんみりさせるシーンのバランスが良く、それぞれのキャラクターの性格がはっきり打ち出された演技も魅力的でしたが、個人的には小説や映画でなく、演劇だからこそ出来る空間的・身体的表現をもっと見せて欲しく思いました。
小学校の教室を模したセットが中途半端なリアルさだったのが残念でした。もっとリアルに作り込むか、あるいは既製品の学校机&椅子以外は何もない抽象的なセットにした方が演技が引き立ったと思います。
日本語を読む その4~ドラマ・リーディング形式による上演『家、世の果ての……』
世田谷パブリックシアター
シアタートラム(東京都)
2011/05/04 (水) ~ 2011/05/08 (日)公演終了
満足度★★★
シュールな孤独感
素舞台の上に置かれた椅子以外には小道具も使われず衣装もモノトーンで、演技的な要素は立ち位置を変える程度に抑え、そこに音響と照明が入る形での上演でした。劇中に出てくる固有名詞は実在のものですが、ちょっと現実とずれてる感じがあって、パラレルワールドのようなねじれのある不思議な世界観がありました。
少女と犬がスーパーにおつかいに行って彷徨う話と、女性が夫を捨てて他の男と出て行く話が交互に進められ、現代社会における人間の孤独感がシュールなテイストで描かれていました。「世の果て」というキーワードや、単語のナンセンスな連結などの言葉のセレクトに、安部公房の小説、とりわけ『壁』のような雰囲気を感じました。ラストは劇中の世界が一気に現実世界に接続される展開で(ほとんどト書きで説明されるだけでしたが)、惹き付けられました。
終盤までは照明や音楽の効果も控えめに使われていて、主人公の少女が閉じ込められている場所が肉屋の冷蔵庫であると判明するクライマックスのシーンで今までと異なる青白い照明と叙情的な音楽が使われるのが天井の高いシアタートラムの空間に合っていて、とても効果的で印象に残りました。
なかなか面白かったのですが、この戯曲はリーディング公演では理解しにくいと思いました。身体表現や美術もある形での公演で、ト書きで読まれていた部分がどのように表現されるのかを観てみたいです。