満足度★★★
シュールな孤独感
素舞台の上に置かれた椅子以外には小道具も使われず衣装もモノトーンで、演技的な要素は立ち位置を変える程度に抑え、そこに音響と照明が入る形での上演でした。劇中に出てくる固有名詞は実在のものですが、ちょっと現実とずれてる感じがあって、パラレルワールドのようなねじれのある不思議な世界観がありました。
少女と犬がスーパーにおつかいに行って彷徨う話と、女性が夫を捨てて他の男と出て行く話が交互に進められ、現代社会における人間の孤独感がシュールなテイストで描かれていました。「世の果て」というキーワードや、単語のナンセンスな連結などの言葉のセレクトに、安部公房の小説、とりわけ『壁』のような雰囲気を感じました。ラストは劇中の世界が一気に現実世界に接続される展開で(ほとんどト書きで説明されるだけでしたが)、惹き付けられました。
終盤までは照明や音楽の効果も控えめに使われていて、主人公の少女が閉じ込められている場所が肉屋の冷蔵庫であると判明するクライマックスのシーンで今までと異なる青白い照明と叙情的な音楽が使われるのが天井の高いシアタートラムの空間に合っていて、とても効果的で印象に残りました。
なかなか面白かったのですが、この戯曲はリーディング公演では理解しにくいと思いました。身体表現や美術もある形での公演で、ト書きで読まれていた部分がどのように表現されるのかを観てみたいです。