Shut up, Play!!~喋るな、遊べ!!~2013ver.
オリジナルテンポ
CBGKシブゲキ!!(東京都)
2013/06/21 (金) ~ 2013/06/22 (土)公演終了
満足度★★
楽しい音楽的パフォーマンス
黄色いレインコートを着た5人が映像や身体動作や日用品を用いて音楽を奏でるパフォーマンスで、様々なアイディアが楽しかったです。
パフォーマー達が渋谷の雑踏の中から劇場にやって来る様子をライブカメラで追う導入で始まり、自転車の様々な部分を叩いてリズムを奏でたり、段ボール箱に映像を投影してバチで叩くのと同期して映像を変化させたりと、楽器ではないもので音楽を演奏するユーモラスなパフォーマンスが続きました。
スナック菓子をかじったり、カップ麺をすすったり、洗面器に顔を浸けてブクブクと息を吐いたりと、日常的な動作で音楽を奏でるパフォーマンスは最初はインパクトがあるものの、何分間も持続させる程の魅力は感じられませんでした。
冒頭と最後で人間関係が逆転する、スーツケースを用いた表現が洒落ていて良かったです。
アイディアやテクニカルな面は良かったのですが、それぞれのパフォーマンスが独立していて1本の舞台作品としての連続性や強度が感じられませんでした。オーヴァーなアクションを用いた分かりやすい演出で、想像していたよりも子供向けなテイストだったのが残念でした。
マギー・マラン『Salves-サルヴズ』
彩の国さいたま芸術劇場
彩の国さいたま芸術劇場 大ホール(埼玉県)
2013/06/15 (土) ~ 2013/06/16 (日)公演終了
満足度★★★★★
絶え間ない寸断
人々が心に暴力性を秘め持つ現代の社会状況を、切り詰められた断片的なシーンの畳み掛けで表現していて、不穏な緊張感に満ちていました。多くの政治的・宗教的イメージが描かれるものの具体的な物語やメッセージは明示されず、観客に多くを委ねるタイプの作品で、分からない部分も多いながらも、強烈な印象が心に残りました。
客電が落とされないままステージに1人が静かに現れ、紐状の物で境界を作るような仕草が行われ、客席に紛れていた他のダンサーを1人ずつステージに呼び寄せ、全員が同じような動作をするシーンの後、暗転し、舞台上に置かれた4台のオープンリールデッキから流れる日常音やノイズが流れ、短いのは1秒程度、長くても2分に満たない様々な短いシーンが暗転を挟みながら続きました。
薄暗い中、皿や花瓶や自由の女神像を落として割ってしまったり、壁に掛けたピカソの『ゲルニカ』が落下したり、後ろから目や口を塞ぐ手が静かに迫ったりといった、崩壊の瞬間や不吉の前兆をイメージさせ、何とも言えない恐ろしさがありました。テーブルの上に横一列に座っている所にもう1人がやって来て、無理矢理座ろうとして反対側の端の人がテーブルから落ちるという少々コミカルなシーンが3回繰り返されるのですが、アフリカの原住民、兵士のあとに来るのが普通の格好の人だったのが象徴的で恐ろしかったです。女性が壁にエルヴィス・プレスリーのポスターを貼るシーンが繰り返される度に同じ格好で同じ動きをする人がどんどん増えて行くシーンも不気味でした。
終盤になってようやく持続性のあるシーンとなり、大テーブルに晩餐の用意をするものの、1人がグラスを乗せたトレイをひっくり返してしまうのをきっかけに、食べ物やペンキや粉が飛び交うカオティックな大乱闘に突入し、心の内に秘められた暴力性がスラップスティックに描かれ、途中でキリスト像を吊り下げたヘリコプター(ラジコンの)が飛んで来る、フェデリコ・フェリーニ監督の『甘い生活』の引用もあり、インパクトがありました。
最後は暗闇の中で鳥のさえずりや子供の声の録音が流れ、わずかな将来への希望にも、あるいは取り返しがつかない過去への郷愁にも感じられました。
ベルント・アロイス・ツィンマーマン作曲の問題作、『若き詩人のためのレクイエム』を思わせる、ナレーションやノイズ、既成の音楽をコラージュした、不安を掻き立てる音響が素晴らしかったです。暗転中にオープンリールデッキのライトだけがうっすらと光っているのも不気味な美しさがありました。
いわゆるダンス的な動きはほとんどありませんでしたが、短い暗転で次々にシーンを変えたり、最後の乱闘シーンでの滑稽な程の混乱はダンサーの高い身体性があってこそだと思いました。
暗転や無音がかなり多い作品なのに、それに構わずに遅刻した客を何度もその都度誘導するスタッフの動きが非常に残念でした。この様な作品の場合は、遅刻客には終盤の明るく騒々しいシーンまではロビーでモニターで観てもらうか、そこまでしないにせよ、事前に遅刻客を客席に入れても大丈夫な時間を確認しておき、決まった時間にまとめて誘導するべきだと思いました。
リスボン@ペソア
重力/Note
BankART Studio NYK(神奈川県)
2013/06/13 (木) ~ 2013/06/16 (日)公演終了
満足度★★★
存在論のポリフォニー
異なる人格を使い分けて作品を書いたフェルナンド・ペソアの「異名者」の1人であるベルナルド・ソアレスの『不穏の書』を中心に、断片的な文章の集積が通常の「演技」とは異なるスタイルで語られる作品でした。
川俣正さん作の常設のインスタレーションに囲われた空間の床一面に乱雑に白紙が敷きつめられ、奥に机と椅子、手前左側にマイクと椅子が置かれた中で生成りのアシンメトリーなスーツにグレーのハットを被った5人がモノローグ的にペソアやソアレスのテクストを普通ではないイントネーションやリズムで語る形式で、意外とコミカルな雰囲気がありました。
原作が手記の体裁を取った作品なので、会話シーンはほとんどなく、珍しく会話が現れるオフィスでのシーンが執拗に繰り返されるのが印象に残りました。
始まってすぐに床の上に広げられ、海や川を象徴していた円形のブルーシートが終盤に、「実存しない中心、思念の幾何学によってのみ存在する中心である周囲にこれらのものが回転するこの虚無が私なのだ」(『不穏の書』アティカ版28章)という文章と対応して用いられていたのが強く印象的に残りました。
事前に原作を繰り返し読んでおいたので、台詞は大体把握出来ましたが、台詞回しが特徴的で、テクストと身体表現の繋がりが単純な対応関係となっていない演出だったので、原作が特別難解な文体ではないとはいえ、言葉が伝わらない部分が多くあると思いました。
役者のそれぞれの声のキャラクターが際立っていて、演劇には不向きな残響の多い空間を役者と客席の距離のコントロールによって多彩な声の表現を生み出していたのが素晴らしかったです。
身体表現に関しては、意図したと思われるゆるさとは別種のゆるさが感じられ、もっと緊張感が欲しかったです。
作品としては興味深かったものの、三浦基さん(丁度アフタートークのゲストで来てました)が率いる地点と似た手法があまりにも多くて、釈然としない思いが残りました。
ラ・シルフィード
東京バレエ団
東京文化会館 大ホール(東京都)
2013/06/15 (土) ~ 2013/06/16 (日)公演終了
満足度★★★
若手によるバレエ・ブラン
若手がメインキャストを勤める公演で、幻想的で美しい、正当派のバレエを堪能しました。
婚約している男の前に現れた妖精シルフィードに引かれ、結婚式をすっぽかしてシルフィードを追い掛けたものの、魔法使いの策略に掛かり、2人とも死んでしまうという悲しい物語ですが、終盤で急に悲劇的色彩を帯びるまでは全体的に可愛らしくて楽しい雰囲気が強かったです。
第1幕ではアイボリーを基調としたセットの中で赤と青の衣装を着たダンサー達が踊り、ラ・シルフィードの純白の衣装が際立っていて非現実的な感じが良く出ていました。幻影を表すのに実物大の映像を壁面に投影していて、効果的でした。
第2幕は森の中のシーンで、真っ白な妖精達の群舞が美しかったです。多彩なフォーメーションの変化がありながらも動きが統一されていて綺麗でした。
宙吊りや水平に移動する装置を使って重力に反した動きを見せ、さらにスモークや照明で幻想的な雰囲気を生み出していました。
派手なテクニックをひけらかす感じではなく、控え目な印象の振付でしたが、動きやポーズの細部まで丁寧に作られていました。
音楽はオーケストラの生演奏だったものの、コンサートピースとして演奏されるバレエ音楽に比べると単調に感じられて、あまり印象に残りませんでした。
平成25年6月歌舞伎鑑賞教室「紅葉狩」
国立劇場
国立劇場 大劇場(東京都)
2013/06/02 (日) ~ 2013/06/24 (月)公演終了
満足度★★★
歌舞伎初鑑賞に適した公演
初心者でも楽しめるように、上演前の解説やしっかりした作りのパンフレットが用意されていて、70分程度の上演時間も丁度良い感じでした。
『紅葉狩』の上演の前にまだ十代の中村隼人さんと中村虎之介さんによる30分間の解説があり、親しみやすい語り口ながらしっかりとした内容で、分かり易かったです。何もセットがない状態で回り舞台やセリを動かすのを見ることが出来て良かったです。
平維茂を一緒に紅葉を観ましょうと引き止め、酒を振る舞い、踊りを舞うた更科姫が実は人を食う鬼だったという物語で、踊りも立ち回りもユーモラスなシーンもある、、盛り沢山な内容でした(悲しいシーンはありませんでした)。紅葉が散り、薄暗い中を雷が光る中の立ち回りが美しかったです。
竹本・長唄・常磐津の掛け合いに迫力があり、引き込まれました。
更科姫を演じた中村扇雀さんの曲芸的な扇の扱いや、姫と鬼の声色の使い分けが良かったです。
山神を演じた虎之介さんは台詞に関してはこれからだと思いましたが、若者らしくバネが利いていてリズム感の良い、しなやかな踊りが印象に残りました。
学校の行事として高校生が団体で来ていて、始まるまではとても騒々しく鑑賞条件の悪さを覚悟していましたが、開演すると最後まで集中して静かだったのが意外でした。
劇作家女子会!
劇作家女子会×時間堂presents
王子小劇場(東京都)
2013/06/13 (木) ~ 2013/06/16 (日)公演終了
満足度★★
女達の世界
女性劇作家4人の短編オムニバス公演で、「偽る女」というモチーフが共通して描かれていました。
『彼女たち』(黒川陽子)
髪を切りに来た女と美容師が同じ男と付き合っていることが判明し、お互い意地を張って嘘を重ねていく様子がリアルな会話劇として描かれていました。敵対関係なのに途中からお互いに会話を楽しみ始める姿が女性ならではだと思いました。
『Compassion』(オノマリコ)
公園で彼女が来るのを待っている男に(自称)娼婦の女が絡む物語で、女のとりとめがなく不条理に見える台詞の中に共感出来る部分があり、印象に残りました。台詞や展開にフランスの文学や映画の様な雰囲気を感じました。
『バースデイ』(モスクワカヌ)
夫が不倫していることに気付きながらも、良き妻を演じようとする女の心情がケーキ作りの様子と重ねて描かれていました。台詞の合間に不倫相手が読みあげるケーキのレシピが挿入される構成が小説的に感じられました。
『親指姫』(坂本鈴)
小学生同士の恋文メールを冴えない同級生が匿名で代筆するという非現実的な設定ながらも、小学生に現代人の悩みが投影されていて説得力がありました。少年漫画的な賑やかなノリは好みではありませんでしたが、他の3作と全く異なるテイストが良いアクセントになっていました。
建て込んだセットは無く、壁面にグラフィックが描かれていて、絵に紛れ込むように書かれたタイトルが照明で照らし出されるのが洒落ていました。
どの作品もまとまりがあって、役者の演技も良かったのですが、突き抜けた物が感じられませんでした。敢えて男性演出家に演出させたのかもしれませんが、演出も女性が担当して、とことん女ならではの世界を描いて欲しいと思いました。
アフタートークは、こりっちでもお馴染みの高野しのぶさんがゲストで、不明点・不満点を率直に述べていたのが爽快でした。時間が短かったのが残念です。
つく、きえる
新国立劇場
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2013/06/04 (火) ~ 2013/06/23 (日)公演終了
満足度★★★
モノローグで綴る3.11
いわきに住む3組の夫婦と1組のカップルの3.11の1日を過度にドラマティックにせず、象徴的な比喩表現を多用して描き、クールな詩情が漂う作品でした。
休憩なしの2幕構成で、「つく」と題された第1幕は、3組の夫婦がその6人の中で不倫関係を結んでいて、同じホテルで密会しているというコメディー的な設定の中、それぞれに地震や原発事故を暗示するような非現実的な異変が起きる様子が描かれ、第2幕「きえる」は地震の後の荒廃した情景がシリアスながらも澄んだ軽やかさを伴って描かれていました。
舞台奥が1階分高くなっていてその背後のグリッド状の壁に映像が写し出され、手前は1段上がった小さな正方形のステージが横に3つ並び、3組の夫婦達は基本的にその中だけで演じていました。
脚本の構成が独特で、頻繁にシーンが切り代わり(各場のタイトルが遊び心のあるタイポグラフィーで投影されていました)、そのシーンの並びに幾何学的な美しさを感じました。
台詞もほとんどがモノローグで、一般的な芝居に見られる、対話による物語の展開がありませんでした。2人の対話シーンですら片方の人が両方の台詞を客観的に語っていて、震災の当事者でありながらどこか他人事として感じているところもある日本人の感覚(勿論、そうでない人もたくさんいますが)が反映されているように感じました。
照明や映像、音響は全体的に控え目でありながら、要所で効果的に使われていて印象的でした。終盤の美術の仕掛けはインパクトはあったものの、全体のテイストに対して表現が露骨過ぎて違和感を覚えました。
『With-つながる演劇-』シリーズの前2作はそれぞれ、ウェールズ、韓国の作家と演出家を起用していたので、今回もドイツの演出家で上演して欲しかったです。
帝国の建設者
アンサンブル室町
北沢タウンホール(北沢区民会館)(東京都)
2013/06/12 (水) ~ 2013/06/12 (水)公演終了
満足度★★
噛み合ないコラボレーション
いかにも不条理劇といった設定の物語を、和楽器とバロック楽器のアンサンブルの生演奏と共に描いていましたが、演技・演出・演奏とも覚束無い印象が強く、コラボレーションがあまり上手く行ってないと思いました。
あるアパートメントに住む家族が奇妙な音が聞こえる度に上階に引っ越して下階へ通じる階段を封鎖して行く過程で次第に家族が消え、最後に残された男も最上階から落ちて死んでしまう不思議な物語で、一緒にいるものの存在が無視されていて家族から一方的に暴力を受ける全身包帯姿の「人間の様な存在」や、「奇妙な音」に込められた隠喩が興味深かったです。
舞台奥の1段上がっている部分が演奏スペース、段差の手前に4つのドアがあり、それより前が演技スペースで、最上階のシーンはかなり高いイントレの上で、それ以外の階は床で演じていました。包帯人間は一番上の階のシーン以外では舞台手前の方で寝転がったまま動かないので、客席からほとんど見えませんでした。
「音」は和太鼓によるゆっくりしたビートで表現していて、歌舞伎の幽霊登場シーンを思わせました。
音楽は普通のBGMとしてしか機能していなくて、しかも台詞が聞こえにくくなるので、生演奏である必要性が感じられませんでした。曲自体も魅力が感じられなかった上、同じ曲が繰り返されるので退屈でした。冒頭で電子音を使っていたのも意図が分かりませんでした。
音楽団体主催の公演の割には芝居のみ部分が多く、演奏する時間は全体の1/3程度しかなくて、物足りなく思いました。
役者が感情表現よりも大きな声を出すことを優先しているかの様に台詞を言っていて、ただ耳障りなだけで残念でした。ジェスチャーも大袈裟に感じました。力み過ぎで、この戯曲に本来備わっていると思われるアイロニーやユーモアが失われていて、ギスギスした印象が強く残りました。
音響か空調か照明か分かりませんが、常にノイズが鳴っていたのが残念でした。またカメラのシャッター音が無音のシーンに響いたりしていて、配慮の無さを感じました。
ひつじ
劇団CORPUS(コープス)
東京芸術劇場 ロワー広場(東京都)
2013/06/06 (木) ~ 2013/06/09 (日)公演終了
満足度★★★★
和やかな30分間
2010年の日本初演以来、各地で何度も上演されている作品で、3年ぶりに観ましたが、相変わらず会場に和やかな雰囲気が漂っていて、楽しい時間を過ごせました。
姿はどう見ても人間なのに、無表情や爪先立ち、腹部の上下運動等、ディテールを徹底して羊に成りきることによって本物の羊に見えて来るのが素晴らしかったです。自分ではない者を演じるという演劇の根元的な魅力の1つをストレートに分かり易く表現していて気持良かったです。
Chouf Ouchouf ~見て、もっとよく見て!~
タンジール・アクロバティックグループ
東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)
2013/06/06 (木) ~ 2013/06/09 (日)公演終了
満足度★★★
異国情緒漂うアクロバット
モロッコのアクロバティックグループをスイスのアーティストデュオが演出した作品で、ただ曲芸的な技を羅列するだけでなく、モロッコの社会的状況をイメージさせる内容でした。
開場するとステージ上に青いジャージを着たパフォーマー達がウォームアップをしていて、開演時刻になるとリズミカルな音楽が鳴り響きカラフルな衣装になり、3段のタワーを組んだり、連続回転技を連発して冒頭から勢いがありました。
その後は落ち着いた雰囲気になり、商店街の様子や、女性がヒジャブを被るシーン、亡命あるいは夜逃げを思わせるシーンが描かれ、普段の生活と繋がる社会性が感じられました。
5つの柱状の可動式の美術が、大きな壁になったり、その陰に入って一緒に動いたり立ち止まったりすることによって、急に消えたり現れたりしている様に見せたりと、多様に使われていて楽しかったです。
複数のパフォーマーが組み合わさって形を作ったりする団体技も、逆立ちして一度も足を着かずに様々な体勢に変化する様な個人技も軽々とこなしていて圧巻でした。パフォーマーが歌うシーンがいくつもあり、独特の節回しと声による哀愁に満ちた歌が印象的でした。
60分程度の上演時間でしたが、同じ技の繰り返しが多くて間延びしている様に感じられる部分があり、もう少し短くても良いと思いました。
ヘッダ・ガブラー
アトリエ・センターフォワード
ギャラリーLE DECO(東京都)
2013/06/05 (水) ~ 2013/06/16 (日)公演終了
満足度★★
強過ぎて孤立する女
イプセンの名作を大きなアレンジは加えずに、比較的ストレートに描いていましたが、会場のサイズに合っていない演技・演出に感じられました。
簡単に言ってしまえば男女関係を巡るメロドラマのような物語ですが、単なる恋愛話にとどまらず、それぞれのエゴがぶつかったり、すれ違ったりしながら破滅的な結末を迎える様子が丹念に描かれていて興味深かったです。
基本的にはオーソドックスな会話劇のスタイルでありながら、各幕の始まりを役者が演技中に告げたり、そのシーンに登場しない人物をステージ上に佇んでいたり、メタファーとして小道具が使われたりと、単なるリアリズムの芝居にしない工夫が施されていましたが、効果よりも寧ろあざとさが感じられて残念でした。
客席の間を通って出入りする時に、意図的な演出としてではなく客席まで照らされるのが、現実に引き戻される様で気になりました。
感情を表現する仕草がわざとらしく感じられ、シリアスに演じているのに滑稽に見える箇所が多く、物語の世界に入り込み難かったです。
床・壁・天井がコンクリートの狭い空間にしては全体的に声のヴォリュームが大き過ぎていて、うるさく感じて疲れました。特にイェルゲン役を演じた吉田テツタさんの必然性の感じられない大声が気になりました。
自由を求めて人と衝突してしまうヘッダを落ち着いた演技で魅力的に表現し、いかにも海外戯曲的な台詞回しも自然に聞かせた、渋谷はるかさんが素晴らしかったです。
姐さん女房の裏切り
千葉雅子×土田英生 舞台製作事業
サイスタジオコモネAスタジオ(東京都)
2013/06/05 (水) ~ 2013/06/12 (水)公演終了
満足度★★★★
コンパクトで充実感のある2人芝居
それぞれ20年以上に渡って劇団主宰を勤める千葉雅子さんと土田英生さんの2人芝居で、1時間ちょっとのコンパクトな時間の中で愛憎の感情をコミカルに描いていて、引き込まれました。
暴力団抗争に関わった過去があって地方都市でひっそりと暮らす中年男女の会話がシンプルに紡がれ、タイトルにあるように裏切りが起こる物語でした。
笑いが沢山盛り込まれて、とりとめが無いようでいながら2人の力関係が入れ替わったり、過度に説明的ならずとも物語や感情が伝わってくる、しっかりとした構成の脚本が良かったです。物語としては意外性も無く、深い芸術性や鋭い社会性といった要素も無いながらも、台詞と演技が楽しく、充実感がありました。
パースペクティヴを強調したスタイリッシュな舞台美術が素晴らしく、その中に日常的な家具が持ち込まれて俗っぽいドラマが繰り広げられるというギャップが素敵でした。
土田さんが演じる馬鹿で単純で子供っぽいけど憎めない可愛らしさのある男と、千葉さんが演じる、悲しみ・優しさ・恐ろしさといった複雑な心境の変化を台詞や動きの端々に感じさせる女の対比が魅力的でした。
ナブッコ
新国立劇場
新国立劇場 オペラ劇場(東京都)
2013/05/19 (日) ~ 2013/06/04 (火)公演終了
満足度★★★
説得力に欠ける演出
旧約聖書に基づく宗教的な物語を、東京ミッドタウンや表参道ヒルズを思わせる高級ショッピングセンターを舞台にした、現代に置き換えた演出で描き、視覚的・聴覚的には楽しめましたが、物語としては置き換えにあまり必然性が感じられないこともあって、いまいちに感じました。
オペラには珍しく、開演前から既にステージに人々がいて、買い物をしている姿が描かれ、序曲が始まると物欲を表すかのようなショッピングバッグを持ってのダンスがあり、コミカルな雰囲気がありました。
エルサレムに攻め入るバビロニア国の軍隊は原色の衣装を纏ったテロリストとして描かれ、天井がロープで降りてくる登場シーンにインパクトがありました。
最後のエホバの神を称えるシーンでは、天から雨が降り注ぎ、地面に木を植えて、神というより自然を讃えるような演出となっていました。
エスカレーター(に似せて作った階段)で繋がった2層のセットがリアルで、客席からは直には見えないものの、さらに上下にも層がある豪華な作りが見応えがありました。
ロビーで配布されていた紙に、一神教に馴染みがない日本の観客の為に設定を変えたと書いてありましたが、本来は場面毎に異なる場所のはずが、全て同一のセットで進み、歌詞と演じていることが噛み合ってないように見える場面も多く、話がより一層分かり難くなっていた様に思いました。
各幕の始めに日本語で聖書の抜粋(?)のナレーションが流れるのも現実に戻される感じがあって違和感を覚えました。もしナレーションを挿入するにしても、歌と同様にイタリア語で読み、字幕で訳を表示すれば良いと思いました。
個人的にはコスチュームプレイ的な古典的演出よりも、趣向を凝らした現代的演出の方が好みなのですが、設定を変えることに説得力が感じられず残念に思いました。
合唱が素晴らしく、3幕の有名な『行け、我が想いよ、黄金の翼に乗って』は柔かい響きと最後の消え入る弱音が素晴らしかったです。
アビガイッレ役のマリアンネ・コルネッティさんのフォルテでもキンキンしない美声と感情の伝わってくる歌い回しが魅力的でした。
ミーツ
ロロ
こまばアゴラ劇場(東京都)
2013/05/23 (木) ~ 2013/06/02 (日)公演終了
満足度★★★★
演劇における想像力
想像力による思い込みと思い違いによって起きる出会いと別れの物語が、演劇ならではの見立ての手法を用いて、独特のピュアな世界観で描かれていました。
追手に追われている(と思い込んでいる)男のエピソードと、生き別れになったその妻と息子のエピソードが、前半では学芸会的なテイストゴチャゴチャと描かれ掴み所がない感じでしたが、想像の中で会話が出来た化け物が、想像されることを拒否して動物的な鳴き声しか発さなくなるシーン辺りからコミカルな雰囲気の中に切なさが浮かび上がって来て、いつの間にか強く引き込まれていました。
1つの物に違う役割を与え、シーンが変わると瞬時に別の物として扱われる手法が楽しかったです。見立てに用いていた物が倒されたり崩壊することによって、その物自体に戻る場面が何度かあり、インパクトがありました。
途中でままごとをするシーンがあり、想像力を使って行う遊びと演劇との相似性が端的に描かれていて印象的でした。
普通の演劇ではBGMは劇中の登場人物達には聞こえていない設定で、シーンの雰囲気を高める効果として用いられるところを、この作品では歌モノに関しては小道具的に扱われていて、登場人物達が音楽が流れていることを認識して反応するのが独特でした。そのことによって、歌モノを使うときにありがちな「ダサさ」が無くなっていました。
ダンサーの水越朋さんは身体表現がメインの役を演じるかと想像していたのですが、普通に台詞を喋り(声も良かったです)、ロロの世界観に合っていてチャーミングでした。もちろんダンスの見せ場もあり、幸福感溢れるダンスが素敵でした。
被り物で表情が見えず、台詞の半分以上は鳴き声だったにも関わらず感情が伝わってきた小橋れなさんの演技も魅力的でした。
ケラさんをゲストに迎えたアフタートークも内容が充実していて楽しめました。
Node/砂漠の老人 -The Old Man of the Desert-
HiWood
KAAT神奈川芸術劇場・中スタジオ(神奈川県)
2013/05/26 (日) ~ 2013/05/28 (火)公演終了
満足度★★★
情報の砂漠
デジタルとアナログの表現手段が巧みに組み合わされたパフォーマンスで、すぐ目の前に存在しているに現実感が稀薄で、奇妙な感触がありました。
シュレッダーに掛けられた大量の紙片に覆い尽された舞台の上でダンスを中心としたパフォーマンスが展開され、基本的にはシリアスな雰囲気が支配的でしたが、紙片の中から現れたり、道化風の格好をした男が英語で幸福についての胡散臭い話をしたりとシュールでコミカルな要素もありました。
女性の身体にプロジェクターで多数の光の粒子が投影され、それが舞台中に飛び散り、雪や気泡の様に移動したり、整然と並んだものが次第に乱れていく中を、老人と全裸の男性ダンサーがゆっくりと踊る終盤のシーンが幻想的で美しかったです。
シュレッダーに掛けられた紙の堆積が、大量の情報が並列的に存在する現代の状況を象徴しているのは感じ取れましたが、多少の台詞はあるものの全体的に抽象的な表現が多い為に、作品に込められたメッセージがあまり理解出来ませんでした。
身体と映像やLED照明、また、生演奏のヴァイオリンの音色とそのリアルタイムな電子変調の、人間とテクノロジーが互いに影響し合う、インタラクティヴな関係性が印象的でした。
大西洋レストラン
PROMAX
博品館劇場(東京都)
2013/05/22 (水) ~ 2013/05/26 (日)公演終了
満足度★★★
洒落た音楽劇
ピアノと歌の演奏のパートと、芝居のパートが交互に連なる形式の音楽劇で、全体の物語の流れよりも、それぞれのシーンのシチュエーションを楽しむタイプの作品でした。
大西洋を横断する客船の中のレストランでの出来事が5つのエピソードとして演じられ、初めの3つはちょっとチグハグな会話のやりとりで、4つ目からサスペンス的な雰囲気となり、5つ目は船が沈没して島に辿り着いてからの様子が描かれていました。
物語としてはあまり盛り上がりもないまま終わるので、中途半端に感じました。
演劇としては物足りなさを感じましたが、H ZETT Mさんのピアノと湯澤幸一郎さんのカウンターテナーの歌声は聴き応えがあり、とても楽しめました。
調律のためにピアノを5度音程で弾いている音がそのまま歌の伴奏となっている場面は音楽的ユーモアがあって楽しかったです。
奥が一段上がっていて、下手にピアノ、上手に大きな舵のオブジェがあるだけのシンプルな舞台ですが、最後のシーンでそれらに布を掛けて岩に見せ、手前に青い布を広げて海岸に見せて島の景色に転換していたのが印象に残りました。
冒頭で緒川たまきさんが老婆を演じていて、いつもとは全然違う声色で話しているのが新鮮でした。
うかうか三十、ちょろちょろ四十
こまつ座
紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)
2013/05/08 (水) ~ 2013/06/02 (日)公演終了
満足度★★★
少々毒のある昔話
昔話風なほのぼのとした雰囲気の物語の中に皮肉的な視線が感じられる作品で、井上ひさしのデビュー作でありながら、その後の作品で見られる要素が所々に垣間見られました。
東北地方のある村の殿様が百姓の娘のことを好きになるものの許嫁がいて結ばれず、気が触れて自分を医者だと思い込んでいる殿様と侍医が9年後にまた訪れると旦那が病気で寝込んでいて、インチキな診断をして去り、さらに9年後に正気に戻った殿様がまた訪れると、両親とも既に死んでいて残された娘が一人で暮らしていて、最後に更に9年後(?)の誰もいない廃墟となった風景が描かれる物語で、悪意はないのに、思いのすれ違いから物事が悪い方向へ進んでしまう様子が寓話的に描かれていました。
侍医を演じた小林勝也さんの台詞回しや間の取り方が絶妙で、藤井隆さんが演じる殿様とのユーモラスな掛け合いが魅力的でした。
絵本をそのまま立体化したかのような書き割り的表現のセットが可愛らしかったです。中央の家が回り舞台になっていたのはあまり効果を感じられず、また演技スペースの奥行きがなくて平板な空間になっていて残念でした(絵本風に見せる意図があったのかもしれませんが)。
わらべ歌風の音楽も作品に合っていて印象的でしたが、電子楽器を用いたアレンジには違和感を覚えました。
歴史いぜんの記憶―うむすな
山海塾
世田谷パブリックシアター(東京都)
2013/05/22 (水) ~ 2013/05/26 (日)公演終了
満足度★★★
砂による時間の表象
ゆっくりとした動きと刻一刻と変化する砂の姿を媒介にして悠久の時間を感じさせる作品でした。
開演前から舞台奥両サイドの砂時計の様なオブジェから砂が流れ落ちていて、更に開演してから最後まで舞台奥中央に砂が落ち続ける中で、7つの場面が展開しました。天児牛大さんのソロから始まり、4人グループと3人グループのシーンが交互に続き、再び天児さんのソロの後、最後のシーンになって初めて天児さん以外の全員のユニゾンとなる構成で、中盤では少し停滞感を感じましたが、日常の時間感覚と異なる世界が
繰り広げられていて、まるで夢の中の様でした。
2つの大きな長方形がステージの床から少し浮いた状態で設置されていて、その上に均一に敷かれた砂が舞踏手が踊ることによってその痕跡が刻まれ、時間の流れが可視化されていたのが印象的でした。
白い砂の色の中に火や水といった自然を連想させる赤、青、緑の照明が使われていて鮮やかでした。
基本的に非常にゆっくりした動きがメインで、身体を精密にコントロールしながらも柔らかさが感じられました。砂の流れる音を聞こうとするような、片手の甲を同じ側の耳の下に当てる動きが何度も現れ印象に残りました。
ゆっくりとお辞儀をするカーテンコールの振る舞いまで美意識が徹底していて、最後まで世界観を壊さないのが素晴らしかったです。
VOCALOID OPERA「THE END」
Bunkamura
Bunkamuraオーチャードホール(東京都)
2013/05/23 (木) ~ 2013/05/24 (金)公演終了
満足度★★★
メメント・モリ
ボーカロイドの初音ミクを主役にした、エレクトロニックなオペラで、観念的な内容が刺激的な音響と映像で表現されていました。
作曲した渋谷慶一郎さんを思わせるネズミ(?)のキャラクターや自身と似た姿の登場人物との禅問答的を通じて、ヴァーチュアルな存在である初音ミクが「自己」や「死」について考え、最後に血を流して生と死が同時に訪れる物語で、不気味なキャラクター造形やデジタルノイズを模した映像表現が不穏な空気感を生み出していました。
舞台手前と奥の3方にスクリーンが吊され、映像が重なって立体的な表現となって斬新でしたが、音楽と言葉の強さに比べると、イメージ映像的で添えもの感がありました。
ワーグナーの『ラインの黄金』を思わせる、和声展開のない前奏曲に続いて、語るように歌うレチタティーヴォとはっきりしたメロディーのあるアリアがそれぞれ独立した曲として交互に続く、古典的な番号オペラの構成となっているものの、音楽自体はサインウェーブやホワイトノイズ、グリッチノイズを多用したアブストラクトなエレクトロニカでした。岡田利規さんらしい文節感のないテクストとメロディーのフレージングが対応していなくて、歌詞を聞き取りにくかったです(字幕があったので把握出来ましたが)。舞台や映画では聞かれない程の大音量でしたが、もっと爆音でも良いと思いました。
手前と奥のスクリーンの間にスクリーンで囲われた渋谷さんの演奏ブースにありプロジェクションマッピングが施されたり、映像に合わせて舞台場の本物の床が持ち上げられたりと、虚像と実像が交錯する演出が印象的でした。
ルイ・ヴィトンの2013SSシーズンの服を身に纏っていて、このブランドのダミエ柄の市松模様が生/死やデジタルデータの0/1を連想させて興味深かったのですが、せっかくコラボレーションを行うならプレタポルテだけでなく、オートクチュール的なオリジナル衣装も着せて欲しかったです。
明治座 五月花形歌舞伎
松竹
明治座(東京都)
2013/05/03 (金) ~ 2013/05/27 (月)公演終了
満足度★★★
夜の部鑑賞
歌舞伎の今後を担う、人気の若手役者が揃った公演で、異なるタイプの3作品を通じて、それぞれの役者の魅力が発揮されていました。
『将軍江戸を去る』
最後の将軍となる徳川慶喜と開城を迫る若者との対話劇で、ほとんど動きがなくて視覚的には地味ですが、激動の時代に生きた人達の思いが重厚なドラマとして描かれていて引き込まれました。比較的新しい作品のため、様式性があまり感じられず、照明もドラマテイックな演出となっていて、歌舞伎らしさがあまり感じられませんでした。
中村勘九郎さんの熱血漢っぷりと市川染五郎さんの威厳のある態度の対比が印象的でした。
『藤娘』
中村七之助さん一人舞台の舞踊で、藤の花が咲き誇る中を可憐に踊る姿が美しかったです。爽やかな雰囲気で良かったのですが、生真面目な感じが強く、もう少し艶っぽさが欲しく思いました。
『鯉つかみ』
姫が恋焦がれる男に化けてやって来た鯉の精を本物の男が退治するという、荒唐無稽な物語でしたが、大量の水や、宙乗り、舞踊、早替わり等、ケレンが盛り沢山で楽しめました。雨が降る池の中で鯉と格闘する場面は豪快に客席まで水を撒き散らすのが楽しかったものの、引っ張り過ぎるように思いました。
中村壱太郎さんが演じた姫がコミカルで可愛らしかったです。転換中に定式幕の前に立ったまま三味線と長唄が演奏するのが格好良かったです。