満足度★★★
メメント・モリ
ボーカロイドの初音ミクを主役にした、エレクトロニックなオペラで、観念的な内容が刺激的な音響と映像で表現されていました。
作曲した渋谷慶一郎さんを思わせるネズミ(?)のキャラクターや自身と似た姿の登場人物との禅問答的を通じて、ヴァーチュアルな存在である初音ミクが「自己」や「死」について考え、最後に血を流して生と死が同時に訪れる物語で、不気味なキャラクター造形やデジタルノイズを模した映像表現が不穏な空気感を生み出していました。
舞台手前と奥の3方にスクリーンが吊され、映像が重なって立体的な表現となって斬新でしたが、音楽と言葉の強さに比べると、イメージ映像的で添えもの感がありました。
ワーグナーの『ラインの黄金』を思わせる、和声展開のない前奏曲に続いて、語るように歌うレチタティーヴォとはっきりしたメロディーのあるアリアがそれぞれ独立した曲として交互に続く、古典的な番号オペラの構成となっているものの、音楽自体はサインウェーブやホワイトノイズ、グリッチノイズを多用したアブストラクトなエレクトロニカでした。岡田利規さんらしい文節感のないテクストとメロディーのフレージングが対応していなくて、歌詞を聞き取りにくかったです(字幕があったので把握出来ましたが)。舞台や映画では聞かれない程の大音量でしたが、もっと爆音でも良いと思いました。
手前と奥のスクリーンの間にスクリーンで囲われた渋谷さんの演奏ブースにありプロジェクションマッピングが施されたり、映像に合わせて舞台場の本物の床が持ち上げられたりと、虚像と実像が交錯する演出が印象的でした。
ルイ・ヴィトンの2013SSシーズンの服を身に纏っていて、このブランドのダミエ柄の市松模様が生/死やデジタルデータの0/1を連想させて興味深かったのですが、せっかくコラボレーションを行うならプレタポルテだけでなく、オートクチュール的なオリジナル衣装も着せて欲しかったです。