マギー・マラン『Salves-サルヴズ』 公演情報 彩の国さいたま芸術劇場「マギー・マラン『Salves-サルヴズ』」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    絶え間ない寸断
    人々が心に暴力性を秘め持つ現代の社会状況を、切り詰められた断片的なシーンの畳み掛けで表現していて、不穏な緊張感に満ちていました。多くの政治的・宗教的イメージが描かれるものの具体的な物語やメッセージは明示されず、観客に多くを委ねるタイプの作品で、分からない部分も多いながらも、強烈な印象が心に残りました。

    客電が落とされないままステージに1人が静かに現れ、紐状の物で境界を作るような仕草が行われ、客席に紛れていた他のダンサーを1人ずつステージに呼び寄せ、全員が同じような動作をするシーンの後、暗転し、舞台上に置かれた4台のオープンリールデッキから流れる日常音やノイズが流れ、短いのは1秒程度、長くても2分に満たない様々な短いシーンが暗転を挟みながら続きました。
    薄暗い中、皿や花瓶や自由の女神像を落として割ってしまったり、壁に掛けたピカソの『ゲルニカ』が落下したり、後ろから目や口を塞ぐ手が静かに迫ったりといった、崩壊の瞬間や不吉の前兆をイメージさせ、何とも言えない恐ろしさがありました。テーブルの上に横一列に座っている所にもう1人がやって来て、無理矢理座ろうとして反対側の端の人がテーブルから落ちるという少々コミカルなシーンが3回繰り返されるのですが、アフリカの原住民、兵士のあとに来るのが普通の格好の人だったのが象徴的で恐ろしかったです。女性が壁にエルヴィス・プレスリーのポスターを貼るシーンが繰り返される度に同じ格好で同じ動きをする人がどんどん増えて行くシーンも不気味でした。
    終盤になってようやく持続性のあるシーンとなり、大テーブルに晩餐の用意をするものの、1人がグラスを乗せたトレイをひっくり返してしまうのをきっかけに、食べ物やペンキや粉が飛び交うカオティックな大乱闘に突入し、心の内に秘められた暴力性がスラップスティックに描かれ、途中でキリスト像を吊り下げたヘリコプター(ラジコンの)が飛んで来る、フェデリコ・フェリーニ監督の『甘い生活』の引用もあり、インパクトがありました。
    最後は暗闇の中で鳥のさえずりや子供の声の録音が流れ、わずかな将来への希望にも、あるいは取り返しがつかない過去への郷愁にも感じられました。

    ベルント・アロイス・ツィンマーマン作曲の問題作、『若き詩人のためのレクイエム』を思わせる、ナレーションやノイズ、既成の音楽をコラージュした、不安を掻き立てる音響が素晴らしかったです。暗転中にオープンリールデッキのライトだけがうっすらと光っているのも不気味な美しさがありました。

    いわゆるダンス的な動きはほとんどありませんでしたが、短い暗転で次々にシーンを変えたり、最後の乱闘シーンでの滑稽な程の混乱はダンサーの高い身体性があってこそだと思いました。

    暗転や無音がかなり多い作品なのに、それに構わずに遅刻した客を何度もその都度誘導するスタッフの動きが非常に残念でした。この様な作品の場合は、遅刻客には終盤の明るく騒々しいシーンまではロビーでモニターで観てもらうか、そこまでしないにせよ、事前に遅刻客を客席に入れても大丈夫な時間を確認しておき、決まった時間にまとめて誘導するべきだと思いました。

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    2013/06/17 09:53

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