満足度★★★
説得力に欠ける演出
旧約聖書に基づく宗教的な物語を、東京ミッドタウンや表参道ヒルズを思わせる高級ショッピングセンターを舞台にした、現代に置き換えた演出で描き、視覚的・聴覚的には楽しめましたが、物語としては置き換えにあまり必然性が感じられないこともあって、いまいちに感じました。
オペラには珍しく、開演前から既にステージに人々がいて、買い物をしている姿が描かれ、序曲が始まると物欲を表すかのようなショッピングバッグを持ってのダンスがあり、コミカルな雰囲気がありました。
エルサレムに攻め入るバビロニア国の軍隊は原色の衣装を纏ったテロリストとして描かれ、天井がロープで降りてくる登場シーンにインパクトがありました。
最後のエホバの神を称えるシーンでは、天から雨が降り注ぎ、地面に木を植えて、神というより自然を讃えるような演出となっていました。
エスカレーター(に似せて作った階段)で繋がった2層のセットがリアルで、客席からは直には見えないものの、さらに上下にも層がある豪華な作りが見応えがありました。
ロビーで配布されていた紙に、一神教に馴染みがない日本の観客の為に設定を変えたと書いてありましたが、本来は場面毎に異なる場所のはずが、全て同一のセットで進み、歌詞と演じていることが噛み合ってないように見える場面も多く、話がより一層分かり難くなっていた様に思いました。
各幕の始めに日本語で聖書の抜粋(?)のナレーションが流れるのも現実に戻される感じがあって違和感を覚えました。もしナレーションを挿入するにしても、歌と同様にイタリア語で読み、字幕で訳を表示すれば良いと思いました。
個人的にはコスチュームプレイ的な古典的演出よりも、趣向を凝らした現代的演出の方が好みなのですが、設定を変えることに説得力が感じられず残念に思いました。
合唱が素晴らしく、3幕の有名な『行け、我が想いよ、黄金の翼に乗って』は柔かい響きと最後の消え入る弱音が素晴らしかったです。
アビガイッレ役のマリアンネ・コルネッティさんのフォルテでもキンキンしない美声と感情の伝わってくる歌い回しが魅力的でした。