きゃるの観てきた!クチコミ一覧

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ЖeHopмan【シャハマーチ】 池袋盤

ЖeHopмan【シャハマーチ】 池袋盤

電動夏子安置システム

シアターグリーン BASE THEATER(東京都)

2010/09/07 (火) ~ 2010/09/12 (日)公演終了

満足度★★★★

両バージョン観ました
8日M、9日Kバージョン観劇。今回も電夏らしく作りこんだロジカル・コメディで魅せる。両バージョン、ストーリーは同じだが、K、Mそれぞれのチームの視点で描かれる。
こういう芝居は好みも分かれると思う。自分はこの劇団、初見で虜になったので、惚れた弱みってやつかもしれない。
罠を仕掛け、蔭で操り、互いに騙し合い、ある意味とても不愉快な芝居なのだが、この劇団の個性的なメンバー1人1人が好きなのだ。
両バージョン通して渡辺美弥子のトボけた、はじけっぷりが楽しい。
メンバーの澤村、なしおが戻ってくる下北盤も期待したい。

ネタバレBOX

台本通り演じているのに、生中継ゲームのような臨場感が魅力。
ドジな上、マイペースでゲームに負け続けてきた門倉(渡辺美弥子)には、ノーテンキに見えてもペナルティを背負う哀れさが感じられた。加納(じょん)との掛け合いが面白い。Mチーム・ノルマの愛宕(志賀聖子)の真摯な表情がいい。今回はKチーム・ノルマの奥羽(小原雄平)が両バージョン活躍し、出番が多い。電夏きっての二枚目俳優だが、硬軟併せ持つのが強み。
室尾(岩田裕耳)は「浮世企画」の客演に続いて痴漢キャラ役(笑)。粘着質のアクのある役が巧い人だが、そろそろ怜悧非情な役も見てみたい。
Mバージョンで私が観た回、那賀谷役の小笠原佳秀が台詞をひどく噛んだのには驚いた。相手役がとちっても、いつもクールで崩れない人だけに珍しい。「人生初の体験」とブログにも書いていた。電夏の芝居はテンポが命だけに、台詞をつっかえると、面白みが大きく殺がれてしまうので残念だ。一方で、小笠原と岩田がにらみ合う場面、何度も共演している名コンビだけに息が合い、ゾクッとさせた。
癒し系の用松亮、マザコンキャラの大鹿順司、凄みのある猿田モンキーも印象に残った。小原のタクシードライバー以外、議員秘書とか、女性棋士など、各自の職業の特徴がほとんどゲームの役に生かされてないのが不満。多彩なキャストを集めただけに、せっかく職業を設定したなら少しは表現してほしかった。
しかし、この現実社会でも、故意に罠にはめたり、突き落としたり、本心や身分を隠して他人をだましたりする人間が存在するのだから、暢気に笑ってもいられないと思った。ゲームに託してこんな恐ろしい芝居を書く、竹田さんはスゴイ!
逆襲のFOOD CHAIN!

逆襲のFOOD CHAIN!

劇団Please Mr.Maverick

北池袋 新生館シアター(東京都)

2010/09/09 (木) ~ 2010/09/12 (日)公演終了

満足度★★★

後味の悪さ
宮沢賢治の「ビヂテリアン大祭」じゃないけれど、「食物連鎖」の「肉食」がテーマ。動物界の弱肉強食という、ふだん、あえて目をつぶって生活している我々にストレートに問いかけてくる諷刺的な作品だった。
選曲が場面によってバラバラな印象。演出が少々泥臭く感じられた。
安易なハッピーエンドにしなかったのは評価したいが、後味は悪かった。
長時間の前回の反省を踏まえ、1時間35分にまとめたという点も評価したい。それでも、権力闘争が長く、途中もたれてしまった。
おかしくもない場面で、最前列で1人で笑っていた客が悪目立ち。出演者の友人のようだが、雰囲気を壊すことに気づかないのだろうか。
照明が落ち、出演者の一礼もなく終わったので、観客もタイミングをはずしたのか拍手がなかった。すぐに出演者が「ありがとうございます」と言って面会に舞台へ出てきたところで、拍手が起きた。どうせなら、舞台上で全員そろって挨拶したほうがよいのでは?

ネタバレBOX

研究者氷浦(歳岡孝士)の開発した「賢者の石」の力により、人間の言語を話せるようになった動物たちが、選挙に出馬し、人間の投票率が低いため、多数を占めて権力を握り、人間を暴力的に支配するようになる。言語を持った動物は凶暴な野生も持ち合わせているだけに、人間以上に非道で、権力の虜になっていく姿が恐ろしい。「すべての動物が平等に暮らせる世の中を」という厩舎で働く隆(Woody)の夢を打ち砕く。
歳岡が押し出しも立派で、声量もあり滑舌がよいので、幕末の志士なんかやらせてみたいと思った。しかし、脚本・演出、主役もとらなければ気がすまない人なのか。時には出演せず、自作を引いて観ることも必要だと思うが。
ライオンのダグラス(暁雅火)が圧倒的な迫力。本当に怖くて、ライオンキングよりライオンらしく見えた(笑)。最初は、山猫だと思って飼われていたというのが怖い。
ウサギのイナバ(下山実紀)が、草食動物らしくて可愛かった。
国会議員朝倉(草野智博)が、白塗りの悪公卿みたいで面白い。
ラストは、氷浦が馬のティオ(Mafty)を生まれ故郷の原野に放し、ティオは熊に襲われ喰われてしまう。
弱肉強食の摂理を印象付けたかったのかもしれないが、生まれたときから人に飼われて野生の勘も身につけていない動物をいきなり野に返すというやりかたは、演出上、殺戮を狙ったようで、共感できなかった。
リアリティー+権謀+殺戮なので、ちょっとは救いがほしい。
動物の弱肉強食のマンだけでなく、ユーモラスな場面も少しは入れてもよかったのでは。
この3日間連続で「目的のためには手段を選ばず」という台詞があり、「互いにだまし、だまされ」みたいな芝居を観たせいか、気持ちが落ち込んでしまった。
渡り鳥の信号待ち

渡り鳥の信号待ち

世田谷シルク

サンモールスタジオ(東京都)

2010/09/02 (木) ~ 2010/09/07 (火)公演終了

満足度★★★★

楽しめました
尾倉ケント(アイサツ)、佐々木なふみ(東京ネジ)、帯金ゆかり(北京蝶々)、日澤雄介(劇団チョコレートケーキ)ら、個性的な客演陣がそろった。
「銀河鉄道の夜」のエピソードが散りばめられ、「銀河鉄道」ファンにも楽しめる内容だと思う。もともと原作のほうも意味がよくわからない部分があるだけに、まったく本編を知らないとわかりにくいかもしれない。
この劇団の「大人の絵本」のようなところが自分は好みで、前作の「春の海」よりは楽しめた。

ネタバレBOX

俳優たちが木の椅子を動かし、組み合わせながら作る舞台装置も良い。今回はダンスの動きもよく合っていた。感じかたは個人差があるのかもしれないが、音響が大きすぎて残響音が不快に響くところがあった。
ステンドグラスの小さなカンテラが効果的で美しかった。
俳優では、先生・切符切り・お弁当売り・信号手を演じた山田英美が一番印象に残った。
同じ衣裳でまったく違う役を鮮やかに演じ分け、しかも宮沢賢治の世界観をしっかり伝えている。
「世田谷シルク」の世界観やスタイルといえるものも伝わってくる。
ただ、より広く観客の心をとらえるには、柔軟な進化も今後求められると思う。
櫻の園~喜劇四幕~

櫻の園~喜劇四幕~

流山児★事務所

あうるすぽっと(東京都)

2010/09/01 (水) ~ 2010/09/07 (火)公演終了

満足度★★

私には最悪の「桜の園」
「世界の何処にもない熱い『桜の園』!!」のうたい文句。流山児★事務所初の演出作品、千葉哲也演出、安奈淳のラネーフスカヤというので大いに期待したが、これまで私が観たなかでは最悪の「桜の園」だった。
「チェーホフやってみました」というだけ。私は主役スターに頼った企画というのが好きではないが、これはその典型だった。
千葉と安奈は以前、舞台で共演し、一緒に舞台をやる約束をしていたそうだが、期待はずれもいいところ。
一時は再起不能といわれた大病から見事舞台復帰したミキさん(安奈淳)を観られたことだけが収穫。

ネタバレBOX

アングラ風チェーホフかと思ったら、そうでもなく、多彩なキャストを集めたが、演出に緊張感がなく、各自の演技がバラバラという感じ。
アメリカ映画の地下倉庫のようなセットで、ロシアという国であることも、時代背景も感じない。
口では「冷える」と言いながら、女性は薄着だし、衣裳も統一感がない。赤いシャツに黒のスーツの流山児祥なんてギャングみたいだ(笑)。
町田マリーが男性の役なのにしゃべりかたは女性そのもので「私は」というから、レズなのかと思った。パンフに朝比奈慶を新人と書いてあったので、宝塚の男役スターだったのに?と思ったら、最近、流山児★事務所に入ったらしい。朝比奈も男性の役だが、ジャケットの下は胸のあいたビスチェで、男性の衣裳には見えない。女性が男性を演じる必然性を感じないし、町田と、恋人役の坂井香奈美がともに丸顔で顔立ちが似ているのも具合がよくないと思った。
10分間の休憩を挟んでパーティーというより、ショータイムから第2部が始まるが、栗原茂のピーシチクがキャバレーの呼び込みにしか見えない。
朝比奈のダンスに華があり、宝塚のショーの男役そのもので、これはファンには懐かしくご愛嬌なのだが(笑)。
筋は「桜の園」だが、いったい何を見せたいのか、まるで伝わってこない。原作を知らなければ、もっと意味がわからなかっただろう。大胆な脚色ならよいのだが、意図がみえてこない。
池下重大のロパーヒンがかろうじてそれらしいが、この一座では浮いている。ワーリャの伊藤弘子のシャープさが印象に残った。
安奈の女地主はさすが貫禄も魅力もあるが、演技は彼女にお任せといった感じ。卓上ピアノを弾きながら宝塚調の歌唱法で歌ったり、安奈が好きなオフベージュのパンツスーツの衣裳といい、ディナーショーの一部みたい。
下手のブランコに乗る場面でも、宝塚の新人時代、ブランコの上で号泣したというヅカ時代のエピソードを思い出してしまったほどだ。
ラストシーン。老僕(塩野谷正幸)が「毛皮もお召しにならず、外套だけで出て行かれた」と嘆くが、ラネーフスカヤのコートの襟と袖口にはシルバーフォックスの豪華なトリミングがされているのでピンとこない。アーニャ(関谷春子)など、花柄プリントの透けたミニワンピースにムートンの半コートを羽織り、原宿に出かけるギャルみたいな軽装。冬なのに。
これって喜劇なんですか?チェーホフフェスティバル参加公演が聞いて呆れる。
瀕死の王さま Le Roi se meurt

瀕死の王さま Le Roi se meurt

東京演劇集団風

レパートリーシアターKAZE(東京都)

2010/09/01 (水) ~ 2010/09/05 (日)公演終了

満足度★★★★

興味深い演出
東京演劇集団風の良いところは、劇団自ら主催するビエンナーレ国際演劇祭を通じて、海外の劇作家、演出家を発掘し、実際の上演により日本の観客に紹介してくれる点。これは、通常、公共劇場などが行っていることで、観る機会も限られてしまうのだが、KAZEは、レパートリー化しているため、何度でも継続的に観ることが可能である。
今回の「瀕死の王さま」はイヨネスコ劇場の芸術監督・ペトル・ヴトカレウ演出で、かなり興味深い公演となった。

ネタバレBOX

栄耀栄華、暴政の限りを尽くした王さま「ベランジェ1世」(栗山友彦)は死が眼前に迫り、醜くも「生」と「王座」にしがみつこうとする。この演出では、権力と欲望に囚われた人間本来の姿を描くと同時に、「ロシア」という国家の擬人化を思わせる演出だった。
心を許そうとしない第一の王妃マルグリット(柴崎美納)は米国、第二王妃マリー(渋谷愛)はフランス、侍医・外科医・首切り人・細菌学者(佐野準)はドイツ、家政婦・看護婦ジュリエットは東欧、歌舞伎のような動きの衛兵(白石圭史)は中国・日本のイメージを想定した。疑心暗鬼なところは「リア王」も思わせる。最初に登場した栗山の王さまは、チンピラみたいだった(笑)。柴崎の説得力ある演技、渋谷の愛くるしさに魅力を感じた。
王さまの圧政を表現するため、政治的な歴史映像も効果的に使われていた。大臣たち(連邦国)に背かれ、領土が縮小してしまったというのもソ連を思わせる。
フラットなオープンスペースで、客席を王さまの最期を見守る群集のように見立て、俳優たちが縦横無尽に駆け抜ける。
なかなか死なない王さまの苦悶を延々描く2時間20分は確かに長く、あと20分は刈り込んでもよいかと思った。
ただ、一般の小劇場系劇団や商業演劇とは一線を画する、これが「風」らしい演劇なのだとも思い、私は楽しんで観ていた。
この作品、柄本明主演で9月下旬からあうるすぽっとでも上演されるので、より親しみやすい演出を好まれるかたにはそちらをお薦めしますし、興味のあるかたは観比べてみてはいかがでしょう。
北守の騎士とカルボナードの踊る魔女

北守の騎士とカルボナードの踊る魔女

青果鹿

テアトルBONBON(東京都)

2010/09/02 (木) ~ 2010/09/06 (月)公演終了

満足度★★★

欲張りすぎて拡散
「グスコーブドリの伝記」に「貝の火」「北守将軍と三人兄弟の医者」といくつかの宮沢作品を盛り込み、2時間の舞台に仕上げた。中だるみもあり、いささか欲張りすぎて拡散した感は否めない。
青果鹿らしいシンプルでも濃密で楽しい作品を期待していたのだが。澤藤さんの作風は好きなので、今後も観続けたいと思う。

ネタバレBOX

冒頭、サーカス団の女たちが歌い踊るマイム・マイムで賑やかに始まる。
女たちは女装した男優で、会場スタッフも彼らが勤めているため、登場に意外性がなくなる。
どうせなら、お練りのように客席からビラを配りながら音楽に乗って登場させ、舞台に上がってから踊らせたほうがよかったのでは、と思った。
サーカス団、騎士、火山研究所と3つのグループがあり、俳優は1人何役も兼ねているが、ブドリ(樋口浩二)とネリ(大竹夕紀)の生き別れの兄妹の物語や、重要なテーマであるブドリの自己犠牲のテーマがすっかりかすんでしまったのが残念。
春に同じ劇場でチョコレートケーキが上演した「サウイフモノニ・・・」という同じグスコーブドリの伝記を題材にした芝居と比較して観た人も多いかもしれない。上演時間もほぼ同じだが、軍配はチョコレートケーキに上げざるを得ない。
ネリとサーカス団長とのハッピーエンドにより、ブドリの悲劇がいっそう分断されてしまっていた。ブドリが北守の騎士となって以降は登場場面がなくなり、火山局長(白石里子)とブドリの友情関係も観ている者に伝わらないので、感動が盛り上がらないままに終わってしまう。盲目のブドリを樋口が好演していただけにもったいない。
ブドリと共に旅を続ける狐のとら子(いまいゆかり)やサーカスの女調教師(遠藤紀子)の存在も中途半端な描がかれ方。村田弘美(万有引力)、今村美乃、渡邊亜希子の悪ガキトリオが面白く、本作でもっともワクワクしたのは、3人が「ギザギザハートの子守唄」を歌う場面だった。村田と渡邊は、ほかの芝居に出ているときと違う一面が見られて嬉しかった。今村は美しいので、ヒロインで観てみたい女優だ。ドランクドラゴンの塚地そっくりな鈴木勇輝のオパール男爵まで女装趣味にする必要はなかったのでは。アングラっぽい森一のサーカス団長も印象に残った。
もっと面白くなりそうな作品なので、大幅に改定していつか再演してほしいと思う。
The Bando-Wanderer ~無稽・将門

The Bando-Wanderer ~無稽・将門

劇団BOOGIE★WOOGIE

SPACE107(東京都)

2010/09/02 (木) ~ 2010/09/05 (日)公演終了

満足度

血で血を洗う「無稽」
神武天皇が即位した皇紀元年と、日本が戦争に向かい始めている1940年(皇紀2600年)を対比させ、時空を超えた時代劇活劇。
まさに血で血を洗う殺戮の歴史で、主人公の側に立った殺戮の正当化、自己満足ばかりで、観ていて救いがなかった。
こういう活劇作品は、劇団新感線と傾向が似ており、どうしても比較してしまうので、申し訳ないが内容はお安い感じが否めず、チケット代4000円は高い気がする。登場人物が多くて人物相関が複雑なので、相関図が載った100円のパンフレットを買うようにできている(笑)。しかし、作家、演出家らの対談がふざけすぎていて、腹が立つ。作品についてまったく語らず、「言っとくけど、うちら飲んでなんぼの劇団だから。有料パンフを買ってくれたお客さんに、かんぱーい」だと。もっと真面目にやったらどうなのだ。裁断ミスのように切れていて解説文が読めないフライヤーといい、どこまでも客を舐めている劇団らしい。

ネタバレBOX

昨今増えてきた、殺陣の多い時代劇スペクタクルはとにかく出演俳優が多く、チケットノルマ対応策を感じる。
この芝居では、「殺陣」を見せるため、殺戮を繰り返しているような脚本・演出が、観ていて不愉快になってきた。
1940年の場面の「国軍」は日本というよりも米国のようだし、1940年といってもピストルが出る以外、江戸時代みたいに斬り合いで、違和感が強い。
主要人物の藤原純友、平将門、平塚国香、ツクヨミがそろって野心家で、「平和のために人を殺すのはしかたない」みたいな台詞を言うから、共感できない。純友が神武天皇になる、というのもさすがに納得できない。
滑舌が悪い俳優が台詞を噛んだことさえ、アドリブでお笑いにもっていこうとしたり、俳優いじりで、まったくウケない一発芸をさせて、シラケさせたり、客を舐めるな、と怒りたくなってきた。
シャーマンを演じる日美呼(上田郁代)、トヨ(本倉さつき)が2人とも滑舌が悪く線が細いので、役のカリスマ性が出ない。特に本倉は声量がまったくなく、前列の私でさえかろうじて聞こえる程度だから、後ろの客まで声が届いていなかったのではないだろうかと思った。時代劇のヒロインを見た目志向でアイドルっぽい女優を選ぶ傾向が目立つが、こういう役こそ、黒色綺譚カナリア派の赤澤ムックや牛水里美あたりが演じれば、少しは厚みが出るのでは、と思うのだが。
お笑い担当の上地春奈が「イジリー岡田そっくり」などとイジられながら笑いをとっていたが、ウケようという必死さが芝居に出てしまうのが気になった。
陰鬱で残酷な悪役、田原トウタを演じた村田祐輔がフィナーレでは別人のように明るく、この俳優は笑顔のほうが数段良い。キャスティングに疑問も感じた。
そのうえ、主役の将門(小川信太郎)と純友(佐藤秀樹)が思い切りむさくるしいオジサンで絵面的にも魅力に乏しく、小劇場系劇団だからこそ実現できる企画という感じだ。
極め付けに呆れたのはラストシーン。新型爆弾を積んだ2つの爆撃機というのは、広島、長崎への原爆を暗示していると思うが、阻止しようとする純友、将門は描かれず、物語が尻切れトンボで終わり、フィナーレが始まる。終わったと思ったら、カーテンコールの意味もあるのか、もう一度同じ音楽と振付のフィナーレがやたらハイテンションに繰り返されるのだ。クドすぎる!出演者だけが楽しそうだったが、バテて膝がガクガクしている俳優もいた(笑)。おまけに千秋楽でもないのに、2度とも小川が「お手を拝借」と言って、3本締めを客に強要する。「何なんだ」と思った。
この劇団の「将門」の企画、今春には朗読劇バージョンも上演されたが、以前の公演では劇団への評価が高く、絶賛されて「今後も観たい」という意見が多かった割には、春、今回ともCoRichでの注目度が極端に低かったのはとても不思議だ。



マカロニ・ウェスタン・ほうれん荘

マカロニ・ウェスタン・ほうれん荘

劇団阿佐ヶ谷南南京小僧

明石スタジオ(東京都)

2010/09/02 (木) ~ 2010/09/05 (日)公演終了

満足度★★

ごちゃまぜとチープ感
初見の劇団で、明石スタジオも初体験。
「吉本新喜劇+アングラ+不条理劇+60年代大正テレビ寄席」みたいなナンセンス・ミュージカルといった趣。雰囲気も内容もともにごちゃまぜ感が強い。観ていて気恥ずかしくなる演技の連続に当惑(笑)。
チープ感たっぷりでいまどき珍しい個性の劇団だとは思うが、好き嫌いは分かれると思う。

ネタバレBOX

日劇と、その跡地に建つもうすぐ閉店の有楽町西武へのレクイエムともいえる作品。
無楽町の西部デパートが、どう見てもちっちゃな個人経営スーパー(笑)。
閉店セールにも客がやってこないという絶望的な状況のなか、在庫ダンボールの向こうからそこに棲み着くカウボーイ姿の日劇の怪人(?)たちが現れ、日劇ウェスタンカーニバルを繰り広げるという趣向。
言葉遊びを取り入れたギャグで単なるオチャラケではないのだが、客席は無反応で終始引き気味でシーンとしていた。はじめのほうの「夢見るシャンソン人形」は期待させたが、西部劇の話が入ってくるので、音楽部分のノリが中断される。この西部劇部分の芝居が単調で退屈してしまい、眠気に襲われ、もうだめ!と目を閉じた瞬間、あっけない終わりかたで照明がつき、明るくなった(笑)。
想像していたよりウェスタンカーニバルの部分が少ないのが残念。マカロニウェスタンのパロディーもいまの人たちにはどれだけ通用するかは疑問で、ミュージカルに絞ったほうが楽しめた気がする。
言葉遊びを取り入れ、単なるオチャラケではないのだが、客席は無反応で終始シーンとしていた。
開演前、100円マッチを販売していて、レトロな異次元といった雰囲気の劇団。ご当地商店街でウケている余興を無理やり見せられたような居心地の悪さが拭えなかった。
あちゃこ先輩(たなか智保)、店長(椿やきそば太)、トシ(雅憐)が、大林素子、瀬戸わんや、仲村トオルの共演を連想させ、そういう意味では面白かった(笑)。「たまりませんわー」のギャグを連発する伊藤昌子は唐十郎のアングラ劇に出てきそうな雰囲気で、同じ日劇でもミュージックホールのストリッパーみたいな厚化粧が強烈だった(笑)。
わたしが高円寺に住んでいた子どものころは、ここにこういう劇場もなく、自分自身が異次元に迷い込んだような不思議さは味わえたけど。
 解散(仮) 【公演終わりました。ご来場ありがとうございました!】

解散(仮) 【公演終わりました。ご来場ありがとうございました!】

PP1

スンダランドカフェ(東京都)

2010/09/01 (水) ~ 2010/09/11 (土)公演終了

満足度★★

脚本が面白くない
大根健一さんは女性心理を描くのがうまい作家だけれど、今回の会話劇の脚本、ぬるくて私はあまり面白くなかった。
こういう狭いカフェでの俳優個人の公演が最近よく開かれてるけど、収容人数も少ないし、お客は出演者の知人、友人ばかりなので、公演目的がいまいちわからない。有料の余興付き懇親会みたいなもの?席では次の自分の公演の宣伝してる劇団関係者がいたり(笑)。
倉田知美が「働く大人の応援団めざします」みたいな挨拶文書いてたけど、「働く大人」って奥にいたサラリーマン客のことだろうか?(笑)
おじさまファンには、美人女優2人を至近距離で拝めるのがメリットかもしれない。
厳しいことを言うようだが、「公演」と銘打つなら、昔、渋谷のジァンジァンでやってたピン芸人や歌手たちみたいに、もっと芸で客惹きつけようという真剣さがほしい。場所の狭さは関係ない。

ネタバレBOX

PP1というユニット名、これはこの会話劇に出てくる「パイナップルパッション」にちなんでいるのか。
「パイナップルパッション」は1995年にデビューした架空の4人組アイドルユニットで、1人は既に脱退。そのうちのミーナ(倉田知美)とチャッピー(塚原みほ)が解散の相談をするという設定の2人芝居。ブリっ子で、いまだに自意識過剰のキャピキャピしたミーナとサバサバしたチャッピーという対照的な性格の女の子、といっても、もう三十路という設定。実名の「のりピー」が出てきたり、わざとらしいヒット曲の題名「眠れる森の熊さん」など、ギャグが笑えない。
だいたい、芸名が90年代というより60年代GS時代みたいで古すぎる。
ミーナは解散後、ヌードになる映画出演の話があり、チャッピーは介護士への転職を迷っている。もう1人のメンバー、リンができちゃった婚をするという連絡がミーナのケータイに入り、2人は解散を取りやめ、いまできること、「メインボーカルを探そう!」というところで終わる。
このアイドルユニットの2人の話が今後も続いていくということなのだろうか?
何より時代設定がずれてるのが気になった。ミーナがデビュー当時、業界人とリッチなデートをした自慢話をするが、95年といえばもうバブルがはじけている。ジュリアナ全盛で業界人が広尾や六本木で派手に遊んだのは92年くらいまでで終わってるんですけど。

ヴィジョン

ヴィジョン

ミームの心臓

神楽坂die pratze(ディ・プラッツ)(東京都)

2010/09/01 (水) ~ 2010/09/06 (月)公演終了

満足度★★★

早熟の才
高校演劇で既に注目された新人劇作家ということで、早熟な才能の持ち主なのでしょう。
私のような素人が観ても、まだ18歳でこれだけの劇を作れるのは感心します。
パンフの裏に「文筆のお仕事なら何でもござれ」とPR文が載ってたので、劇作に限らずそちらの方面でも活躍を希望しているようですね。
メッセージは明確なのですが、頭の良い若者にありがちな、観念論的な作りが少し感じられました。でも、まだまだこれから伸びていくことでしょう。

ネタバレBOX

天才少女画家(令奈)がプレッシャーから手首を切って自殺を図るが死に切れない。切ったのが絵筆を持たない左手首ということで、画家の生への未練を暗示してる。平行して、神の啓示を受けた聖少女ジャンヌ・ダルクの物語が描かれる。両者の世界が交錯して描かれ、2人の少女の生き方が重なっていく。登場人物も2つの世界で俳優が兼ねている。ジャンヌは少女のもうひとつの深層心理、夢想体験なのか。
ジャンヌも少女も天賦の才能を持つ共通点があり、「神の言葉を聞く」才能を利用されて処刑されてしまうジャンヌの生を通して、自らのアイデンティティーを意識し、自分の描きたい絵を描いて生きていこうという明確な意志を持ち、希望の光を見出す。
少女のアイデンティティーに目覚める過程が、私には少々わかりにくかった。
2つの世界の場面転換がスピーディーで、ひとつの物語のように進展していく。それだけに観ていて疲れてしまい、体感時間が長く感じられた。
一度にわめく場面、台詞が聞き取りにくい俳優もいた。看護師とアニエスの毛利悟己、天皇を名乗る男とシャルルの小池惟紀が印象に残った。
「天皇を名乗る」精神病患者というと、鴻上尚史の「トランス」を想起したが、あれほど作りこんだキャラクターではなく、ちょっとした息抜き場面になっていた。
自殺を思いとどまって希望を見出すというラストに、ほさかようの「遠ざかるネバーランド」との共通点も感じた。
女中たち

女中たち

劇団 風蝕異人街

ギャラリーLE DECO(東京都)

2010/08/28 (土) ~ 2010/08/29 (日)公演終了

満足度★★★★

B班観劇-虚虚実実、考えさせられた
この作品、過去に2度見逃してる。昔、花組芝居でもやってるはず。で、もうひとつ、明治大学の実験劇場アトリエ公演、唐十郎の後輩たちの劇団だけに観たかった、いや観ておくべきだったといまも思うが、体調が悪く断念。
旬の観たいもの展の一環公演だったんですね。知らなかった。
この劇団に注目したのは以前の公演をtetorapackさんが絶賛してたから。
自分の観た日、A班はまったく違うアングラっぽい演出と聞いて、A班も観たかったなーと思った。
今後、ときどき上京するらしいので、また機会があれば観たいと思っている。
虚虚実実の、このお芝居みたいなことがけっこう私たちの身の回りにも起こっているような気がして怖くなった。

ネタバレBOX

ソランジュとクレールの女中姉妹が奥様と女中ごっこをしているけれど、始まったときはわからなかった。
奥様登場。この奥様が、まるで女装の男優のようにインパクトのある人で。
奥様も虚栄心の塊のようで、どこか壊れかけている人。
奥様に毒を飲ませようとして、失敗。
だが、この女中姉妹もよくわからない人たち。
天井から吊るされた美しい奥様のドレスの数々がとてもステキだった。しかし、このドレスが奥様の、いえ、人間のいくつもの虚虚実実なさまを象徴しているようで、感慨深かった。
ドレスを着替えるように、仮面をかぶり、他人になりすましているだれかがいっぱいの世の中なんて、想像するだけでゾッとする。だが、現代のネット社会は案外そんなものかもしれないと思い、興味深い作品だった。
ヴァイオリンの生演奏が効果的。先日もピアノの生演奏の芝居を観たが。
上演中、カーテン越しに、主宰がうろつくのが丸見えで、最初、出番のある俳優かと思った。目障りなので、じっとしていてほしかった(笑)。
赤色エレジー

赤色エレジー

LAVINIA

シアターブラッツ(東京都)

2010/08/26 (木) ~ 2010/08/29 (日)公演終了

満足度★★★★★

あの時代のニオイ
別役作品にこだわって上演しているPカンパニー代表の林次樹が演出を担当。
LAVINIAはふだん、台詞を廃し、歌やダンス、パフォーマンスにこだわった活動をしているユニットだそうで、彼女たちを核に、各方面で活躍するメンバーが集った。
最近回顧され始めた1970年代、漫画雑誌「ガロ」、林静一、あがた森魚という70年代の顔が挨拶文にも紹介されているが、「あの時代のニオイ」にこだわったという林次樹のメッセージが、しっかり伝わってくる芝居だった。地味で無名のプロデュースユニットは、自分の場合、けっこう当たりが多い。
今回、思いがけず笑うシーンもあったけど、最後はジーンとした!

ネタバレBOX

電信柱の下で行き会った、社会活動家のアラカワ(南保大樹)とウチダイチロウ(田中龍)、ヤマグチサチコ(橋本千佳子)の3人。
家賃を滞納して大家(辻奈緒子)に追い出されたウチダは、電信柱の下に置かれた家財道具を見て、ここに住むからいいと2人に言う。ウチダを心配するアラカワとサチコ。サチコはウチダと同棲し始める。だらしなく、煮えきれない「だめんず」の見本みたいなウチダ。一挙手一投足をサチコに注意され、間の抜けたやりとりがコメディー並みに可笑しく、私の座るベンチシートは年代も違う個人客4人なのに、ツボにはまったのか、全員、肩を震わせて笑ってしまった。ほかの席ではあまり笑ってなかったのにすみません(笑)。いや、
橋本のツッコミと間、田中のボケが素晴らしいのだ。コンビニがない時代の食料品についての会話がリアルだった。
「チチシス」の電報をサチコに隠し、大家からボストンバッグと金を借りて帰郷しようとするウチダに、サチコは愛想を尽かし、アラカワのもとに走る。アラカワは内ゲバで襲われ、頭に重傷を負い、病院で寝たきりになるが、サチコはアラカワと正式に結婚することをウチダに告げる。
ふだんは台詞を廃した劇をやっているユニットだというが、橋本の台詞は心にしみるようで、その演技に惹きこまれた。前半の喜劇と、後半の悲劇をくっきりと演じ分けている。
昔の仲間が集まり、花見を始める。さながら昭和歌謡全集といった雰囲気で、次々に当時のヒット歌謡曲(なつメロ)が歌われる。俳優はみな歌がうまい。宮内彩地が歌う「カスバの女」と「アカシアの雨」が特に良かった。
ウチダは病院にいるアラカワを思い、やりきれない思いを噛みしめる。サチコが現れ、アラカワの自殺を告げる。ワルシャワの労働歌をウチダが歌い始め、みなも歌う。
暗転のときに流れる挿入歌の「赤色エレジー」も宮内の歌声のようだが、あがた森魚とはまた雰囲気が違ってセクシーだ。場面によってジャズ風のアレンジになっていたりする。暗転のまま、サチコとウチダの寝物語が流れるが、この官能的な哀歓は、平成の世にはないものだ。
「赤色エレジー」が流行ったころは、周囲は明るい歌が流行していて、大正時代の演歌師が歌うような物悲しいあがた森魚のか細い歌声は、貧乏くさくてなぜか違和感があったが、いま聴いてみると、いかにも70年代らしい哀愁を感じる。
政治の季節に若者が挫折し、国や社会より個人の幸せに関心が向く一方、経済も高度成長から低成長へとシフトし始めた時代、ウチダやアラカワやサチコのような幸せに乗り遅れてたたずむ若者がたくさんいたはずである。彼らにとって幸せとは何だったのだろう。
「赤色エレジー」に歌われたサチコとイチロウの愛の物語。幸せはつかのまの性の営みの中にしかなかったのかもしれない。
帰路、「内ゲバって何だ?」「内ゲバ?わかんないよ」「言葉の意味わかんねぇからさ、この芝居も最後までワケわかんなかった」と若い男女が話していた。そうか、内ゲバねぇ。平成のいまは、パンフに単語解説がいるのかも。若い人向けにパンフに時代背景の説明があるとよかったかもしれない。「内ゲバ」の意味を教えてあげようにも、男女は仲良く路地のラブホ街のほうに入っていってしまった。
カノン

カノン

アシカツ(明日カツ丼!企画)

萬劇場(東京都)

2010/08/25 (水) ~ 2010/08/29 (日)公演終了

満足度★★★★

敢闘賞かな
こじんまりした萬劇場で野田スペクタクルを、という心意気が伝わってきた。
アシカツは主宰の添野豪が野田作品にこだわり、1作1作丁寧に作ってきたようだ。前回の公演から3年もたっているというが、作品への情熱の炎は燃え続けていたのだろう。
有名劇場での野田の公演はチケットが取れず、見逃したものも多いので、こういう機会に観られるのは嬉しい。これからもアシカツの公演を観ていきたいと思う。
作品の強さに、跳ね返されても跳ね返されても向かっていくようなひたむきさ・・・100点満点とはいえないけれど、敢闘賞を差し上げたい。

ネタバレBOX

衣裳も美術も和洋折衷で無国籍風時代劇の趣。どことなく新感線風でもあり、つか芝居風でもある。世代的にも、つかこうへいと新感線の間に立つ野田秀樹を感じて興味深かった。
柵を可動パテーションや小道具風に使う空間演出は、他劇団でも最近よく見られる手法だが、スピードと躍動感があり、この公演でも成功していたと思う。
俳優では、天麩羅判官・添野の硬軟二面性と、腹心・海老の助の澤村一博のうさんくさい老獪さが印象に残った。私が観た回は、珍しく添野がとちり、台詞を前に戻って言い直す場面があったが、それに澤村がぴったりと合わせて
リズムを乱すことなくウケの芝居でつなげた。他劇団でもいつも完璧を期す人だけに、こんな添野を観るのは初めてで正直驚いた。この芝居に澤村を起用したのは成功で、電動夏子の本公演を1回休んでの客演。共演の多い2人だけに、澤村は役の上でもしっかりと支え、添野も心強かったと思う。
野田秀樹の芝居は台詞が多いし、速いし、ついていくのが観客のほうもけっこう大変なので、澤村のように緩急自在に役の輪郭をきっちりと見せてくれる俳優が出てると、途中脱落せずにすむのがありがたい。
次郎役の高田淳がいつもより目立たず、どこに出ているのか最初のうちわからなかった。女盗賊の沙金・中村梨那と、猫・淺川薫理は、同じように小柄で色の対比が出にくいように感じた。沙金という役に抱く私のイメージと、中村に隔たりがあるため、観ていて感情移入できず、彼女の物語に入り込めなかったのが残念(あくまでも個人的な主観なのであしからず)。
攻防の場面を見ていると、どうしても「浅間山荘事件」を連想してしまった。山にこもった反体制革命グループの敗北感が二重写しに見え、感慨深かった。若い俳優たちがこの作をどう解釈して向かっていったのか、アフタートークがあれば、ぜひ聞いてみたかった。
ぷろぽおず

ぷろぽおず

森崎事務所M&Oplays

あうるすぽっと(東京都)

2010/08/27 (金) ~ 2010/08/29 (日)公演終了

満足度★★★★

自然体!狂言によるチェーホフ劇
大蔵流茂山家の若手狂言師たちは、ライブ感覚で狂言を若者に広めた第一人者的存在といってよいだろう。今回も会場の前3列目くらいまでは熱狂的な若い女性ファンが占めている。野村萬斎や鵜山仁と組んで不条理劇にも出演してきたが、芸術寄りのスタンスではなく、手の届くところで何かやっているという親近感がある。
チェーホフ原作の「ぷろぽおず」と古典の「鎌腹」の2作を上演。両者に共通する雰囲気を感じ取ってもらい、古典の狂言にも親しみを感じてもらおうという、茂山家らしい思惑がある企画。
茂山家の公演というのは、国立能楽堂の定期公演などを除き、新作・古典問わずたいてい出演者のトークが付き、小劇場劇団のように物販や客の送り出しも全員でやるので、今回もそれを期待していたファンが多かったようだ。
が、今回はそれはなかった。あうるすぽっとのチェーホフフェスティバル参加作品ということで、ふだん狂言を観ない初見の客も足を運んだかもしれず、いつものように、解説を兼ねたトークがあってもよかったように思う。
チケット代は少し高すぎるのでは。短編劇だし、客層を考えてもう少し安くしてほしい。

ネタバレBOX

先週末、方言による「プロポーズ」を観たばかりだったが、狂言版も原作に忠実で、まったく違和感がない。そちらのレビューでストーリーは解説したので、今回は省きます。
新作を手がけるときの茂山家の特徴で、「婚カツ」や「賞味期限」など現代用語もサラリと入れて、テンポがよい。
緊張でコチコチというちょっとオーバーな若い男の演技も、茂山宗彦は狂言師なので嫌味なく見せた。
女の茂山逸平も可愛らしく、口論になったときの態度の豹変に説得力があり、単に気が強いとか、「わわしい女」ではなく、裕福な家の女性の品のよさやプライドを感じさせたのはお手柄。茂山正邦の父親はやや打算的で、それが私有地の境界を曲げてしまっても悪びれないこの家の一族らしさが感じられた。
これまで何作かこの作品の翻案を観てきたが、いまさらながらチェーホフの普遍性に感心する。
「鎌腹」は、怠け者で女房に鎌で追い回された夫が、「女房に侮辱されるくらいなら、鎌で腹を突いて死んでやる」と言いつつ、怖くて死ねず、何だかんだ言い訳する。
正邦のダメ男ぶりが現代的で面白い。鎌で追い回すなんてDVで、ワイドショーの社会事件に出てきそうな鬼嫁だが、けっして深刻にならない。
これが古典としての狂言の良さだと思う。現代劇のように「ツッコミが甘い」なんて非難される心配も無く、笑って観ていられる。
UFOcm

UFOcm

あひるなんちゃら

駅前劇場(東京都)

2010/08/25 (水) ~ 2010/08/29 (日)公演終了

満足度★★★★

脱力系の笑いは好み
「あひるなんちゃら」は以前から評判を聞いていて、メンバーの客演などで興味を持っていた劇団。念願かなっての初見でした。
次々出てくる人物の会話によって展開していく。「駄弁芝居」とはよく言ったもので、特別なことは起こらないけれど、つい笑ってしまう。
いくら人気劇団でも、自分はテンション高く大勢でわめき騒ぐコメディーが苦手で、脱力系の淡々とした笑いのほうが好き。自分の好きな劇団「ボールベアリンゴドラゴンズ」の芝居をもう少しコントっぽくした感じで、ザンヨウコ・黒岩三佳らの女子の会話には共通点もあり、好みである。
コントと喜劇の中間のようで、好みは分かれるとは思う。
夏バテ気味のときに観るには肩も凝らず、打ってつけだった。

ネタバレBOX

お祭りの日、UFOを呼ぼうとする人(石澤美和)の周りに集まってくる、ちょっとおかしな人たちのだらだらと人を喰ったような会話が続く。
石澤さんは主宰のオファーで今回初参加だそうだが、物凄い存在感(草野球のことしか頭にない根津茂尚が石澤を見て「体型がキャッチャー向き」という場面も可笑しい)。
ザンヨウコの演じるマイペースな人も、友人役の黒岩三佳との絶妙な間で最高に面白かった。
非番だと言ってまるで責任感のない警察官(江崎穣)や、外来診察を抜け出してくる医師(石田潤一郎)も、実際にいたら迷惑でけしからん存在だが、この街自体が架空の世界というコント感覚で観ていれば、腹も立たない。演劇の理屈で観ようとすると評価の分かれる芝居だと思う。
その中で、渡辺裕也の演じる詐欺的な花屋がいつもの渡辺らしくしっかりと演じていて印象に残った。アルバイト(江見昭嘉)とのずれた会話も面白かった。
フライヤーの出演者紹介を読むと常連の客演俳優も多いようで、外部の人が何度も出てくれるというのは、それだけ現場が楽しい証拠だと思う。
チョイ役出演の作・演出家の関村俊介もふだんの人柄がしのばれるようで、好感が持てた。
対岸の花火

対岸の花火

年年有魚

OFF OFFシアター(東京都)

2010/08/20 (金) ~ 2010/08/24 (火)公演終了

満足度★★★★★

情趣にあふれた夏芝居
初見です。「ああ、いい気分だなぁ~」、劇場を出るとき、思わずそう声に出したくなる、久々素敵な芝居だった。東京から兄弟の一人が実家に帰省してきて、家族、友人に起こるひと夏の出来事を描いた秀作。「特別なことは何も起こらない、普通のことを普通に書いている」が、にじみ出てくるような情趣があった。つい最近、同じようなうたい文句とよく似た設定の芝居を観に行ったら、ありえないことだらけで正反対の失望する内容だっただけに、本作の感動もひとしおでした。
若い人には古臭く感じるかもしれないし、いい人ばかり出てくるという批判もあるかもしれないが、私は安心して観ていられるこういう芝居が好きだ。たまにはこういう芝居があってもいい。昔の「東芝日曜劇場」みたいだけど。
開演前の空調の説明や、終演後、アンケートを書いている間の作・演出家のトークにも、温かでユーモラスな人柄が表れていて、場内、笑いに包まれていた。森下さんは人情を知ってる人だと思うなぁ。「次回もぜひ、拝見したいです!」と声をかけて、劇場を出ました。

ネタバレBOX

両親が亡くなり、次男・裕二(南場四呂右)が跡を継いだ地方都市の和菓子屋。ネット通販のお取り寄せ商品として、予約3カ月待ちの1個200円の塩大福が人気だという。
東京からカリスマ美容師の長男・一博(安東桂吾)が久しぶりに帰省。「有名人の御取り寄せの店」として一博の実家を取材しに、女性編集者(松下知世)が先乗りでやってくるが、裕二はにべもなく取材を断り、気まずい空気が流れる。
やはり東京から離婚した麻琴(平田暁子)が一博と一緒の列車で酒に酔って帰ってきて、出迎えた和菓子屋の店員で母親の登紀子(安原葉子)と大喧嘩になる。
宅配便の仕事をしている三男の拓海(山下豪)は、幼馴染の秀美(小谷美裕)と恋仲だが、独身の兄2人に遠慮して結婚を言い出せず、秀美はヘソを曲げている。
麻琴は、高校時代、裕二と付き合っていた。デキ婚して別れた夫も顔や雰囲気が裕二に似ていたという。互いに憎からず思っている麻琴と裕二の男女の感情が出る場面が控えめで品がよく、昔の邦画を観ているようでとてもよい。
母の登紀子がいきさつを察してそれとはなしに、麻琴を裕二に近づけるのが心憎い。平田は、大正時代の歌舞伎の人気女形、二世市川松蔦を思わせる古風な容貌。
和菓子職人・江原(上出勇一)と隣で床屋をしている女房の真知代(トツカユミコ)の夫婦が照れながら手をつなぐときに、中年の夫婦の情愛が自然に出る(まちがっても、どこかの芝居にあったようにキャバクラみたいに妻の体を触りまくるなんて恥ずかしいことはしない)。
向こう岸にあるスーパーの4個200円の大福を食べながら店員がする会話や、裕二のネット通販を始めた理由などに、現代の流通業界の実情がさりげなく語られる。
店を継がず美容師になった一博と、店を継いだ裕二が本音をぶつけ合い、それぞれの事情が明らかになる終盤は、俳優の熱演で盛り上がる。三兄弟の俳優がそれぞれ魅力的。麻琴と裕二が結ばれそうな予感を残して終わる。
嘘臭い人物が一人も出てこないし、みな演技がとても自然で台詞の間がよく、役になりきっているところに好感が持てた。拓海にほのかな思いを寄せる女店員梨々花役の前有佳や、ポーカーフェースで女優・麻実れいに似たはっきりした目鼻立ちの編集者の松下も存在感を残す。
和菓子屋の店先の舞台美術が細部も凝っていて、実にセンスがいい。花火や金魚を描いた季節感あふれる額の絵は、切り絵かと思いきや、あとで聞くと、ちょっと値の張る絵手拭いだそうだ。花火を表す照明が臨場感たっぷりに客席を染めたのが感動もの。
今宵、宇宙エレベーターの厨房で【ご来場誠にありがとうございました。】

今宵、宇宙エレベーターの厨房で【ご来場誠にありがとうございました。】

隕石少年トースター

シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)

2010/08/20 (金) ~ 2010/08/22 (日)公演終了

満足度★★★

サンシャインボーイズとは違う
初見です。私の感想としては、フライヤーで推薦文を書かれたキャラメルボックスの加藤さんには失礼ながら、この作品に限っては、昔、シアタートップスでブレイク前の東京サンシャインボーイズを観ていた者として、両者の面白さは比較にならないと思った。正直申し上げて、三谷幸喜と比較するなんて失礼かと(笑)。加藤さんが例にひかれた「ショウ・マスト・ゴー・オン」は、専門誌に掲載された脚本を私が電車で読んでいて笑いをこらえきれず、途中下車してしまったほど面白かったのだから。今回の芝居はそこまで面白くはない。ぜんぜん、普通レベルであると思った。
この公演、4月の大阪公演の感想をリアルタイムで書き込んだのはお1人だけでした。東京公演で「観たい!」を最初に書き込んだのは私ですが、8月に入ってから4月公演の感想がなぜか東京の「観たい!」欄に続々と書き込まれ、私以外、大阪のファンばかり続き、チケプレ実施でようやく東京勢の「観たい!」が一挙に増えました。
しかし、東京公演初日前日時点で「観てきた!」が既に7件も入っていて、平均☆5つという不自然さは目に余る。これが劇団への真の応援になると思っているのだろうか。
日ごろから過去の公演についてCoRichのデータを参考にしている者としては、今回、東京公演の評価欄に正確な平均数値が残らないのがとても残念である。

ネタバレBOX

宇宙エレベーター賛成派と反対派が対立する冒頭には期待感があった。それから5年後、普及した宇宙エレベーターの中の厨房でのてんやわんや騒動を描いている。
閣僚による賛成派と反対派が宇宙エレベーター存続を決める会議がエレベーター内のホールで行われているという設定だが、厨房の様子があまり面白くないので、オーナーでなくても会議のほうを覗いてみたくなった(笑)。笑いが単調すぎてテンポがよいとはいえず、2時間は長く感じ、途中で退屈してきて眠気をもよおした。ノッテいた頃のサンシャインボーイズのコメディーはジェットコースターのような勢いがあり、地鳴りがするような笑いが起こったし、退屈する暇など無かった、これは違うぞ、と心の中で言い続けていた。
役者について。何といってもSP役、F.ジャパンの圧倒的存在感が印象的。彼がいてこそ、この芝居が成立した気がする。劇団衛星や客演でもぜひ観てみたい俳優だ。オーナーの稲田真理の演技が上手とはいえず、わざとらしく見え、笑えなかった。パティシェ役の福嶌睦は美人だが、腹式呼吸ができていないためか、声が出ておらず、台詞がフワーッと抜けてしまう。滑舌も悪い。それに比して、エレベーターガール(パイロット兼客室乗務員のような存在らしい)の千歳晶子は安定した演技で、役に説得力がある。千歳とF.ジャパンが芝居を巧く運行しているように感じた。永井悠造は冒頭、反対派の老学者と、宇宙で生まれた青年の2役を演じたが、まったく違う俳優に見えた。老け役がとても巧い。管制官、五判坂道彦役、竹田幸弘の「声のみの演技」がなかなか面白かった。
三谷の芝居には必ずはっきりしたオチがあるが、この芝居では、賛成、反対の討論の結果は示されないまま、「シェフが最後まで料理に全力を尽くす姿」を示して終わる。これはこれで私はよいと思ったが、一緒に観た連れなどは「プロローグで両派の討論を見せたのなら、エピローグもつけるべき」と主張して譲らず、相当不満のようだった。
この一作だけで評価を決めたくないので、加藤氏の言うところの「全盛期の東京サンシャインボーイズの芝居のよう」という公演を、今後ぜひ観てみたいものだ。
終演後、劇団員の千歳晶子が、役同様、親切な客室乗務員のごとく、物販商品や劇団について丁寧に客に説明していた姿が心に残った。
プロポーズ~下北半島編~

プロポーズ~下北半島編~

嗚呼!

BAR COREDO(東京都)

2010/08/20 (金) ~ 2010/08/21 (土)公演終了

満足度★★★

方言劇は面白い
原作はチェーホフ。私がこの戯曲を初めて知ったのは、いまから40年以上前で、そのときも日本のある村を舞台とした、やはり方言による翻案劇だった。
筋立てがシンプルなので日本の劇に翻案しても違和感はなく、今回、下北弁のこの芝居を観ようという気になったのも、そのときの記憶があったからだ。
のし紙仕立てのユニークなパンフレットだが、作りがいかにも内輪向けなのが残念。「嗚呼!」は「SPACE U」という劇団内のユニットのようだが、演出家の弁もプライベートなエピソードのみで、公演内容に触れていない。
下北半島の観光案内より、下北弁で上演しようと思った動機や、代表的な下北弁の単語紹介などを載せてほしかった。
11月に下北沢でも再演されるそうなので、興味のあるかたは、どうぞ。

ネタバレBOX

コレドには初めて行った。開演前、大漁旗が飾られた舞台に、鳥羽一郎や吉幾三のド演歌が流れていて、チェーホフとはミスマッチな雰囲気で戸惑ったが、劇中音楽はピアノの生演奏(三辻香織)。劇が始まると、下北弁はまるで外国語のようで、引き込まれた。
漁師、鳥羽三郎(小田桐一)の家に、青年、新沼謙次郎(中田寛美)が決意して、娘の聖子(田村まどか)への結婚の申し込みにやってくるが、不器用でシャイな性格のためか、緊張で本心がなかなか伝えられない。やっとの思いで父親に伝えると父親は大賛成だと言う。父親が娘の意向を確かめると、娘も満更ではない様子。
しかし、二人きりになると、ウニの漁場の縄張りを巡り、両家の主張が対立。イノシシ猟に使う飼い犬の自慢でも口論になる。事情を知った父親も参入して、娘の肩を持ち、謙次郎にウニの殻をぶつけて乱闘になる。謙次郎が心臓が苦しいと苦しみだし、気を失ったことから父娘が慌て、謙次郎が意識を取り戻してめでたく、婚約成立。
田村の聖子は演技力もあり、魅力的な女優で、雰囲気や口跡が若いときの故・藤間紫を思わせる。小田桐はトボケた味わいがある。中田は役柄がそうだとはいえ、演技が硬すぎる感じで、台詞も聴き取りにくかった。
小道具に現代的な給水ジャーを使うのが、民家の雰囲気に合っていなかった。しかも、水が入っていなくて、飲む場面はマネゴトのようだが、興奮した台詞の応酬で、かなり出演者の喉が渇きそうな芝居なので、本物の水を飲めるようにしておいたほうがよかったのでは。
役名がすべて歌手の名をもじっているのがご愛嬌だが、どうせなら聖子よりもさゆりか冬美のほうが演歌の世界に合ってたのでは?(笑)
ピアノ奏者もちょっとだけ劇に加わる演出がよかった。
カーテンコール、方言指導の島野温枝さんがちょうど婚約されたということでお祝いのサプライズ演出があったが、どうせなら下北弁での稽古の感想などがほしかった。
終演後、席を立つ観客もほとんどいなくて、知り合いが多かったのかもしれないが、外部観客を動員する目的でCoRichにも公演情報を載せたのだと思うから、もう少し制作運営にも外向きの対応がほしかった。新しい観客を開拓したいのならば、の話だが。
余談だが、40年以上前の戯曲初見のときは、新劇俳優の井上昭文と阿部寿美子が主演で、「結婚の申し込み」という題名での上演。場所は歌舞伎座、梨園出身の映画スター、初代中村錦之助公演昼の部の最初の演目だった。歌舞伎低迷期で歌舞伎座も歌舞伎以外の公演で客を埋めるしかなかった時代とはいえ、ベテランでも地味な脇役俳優2人に、なぜ錦之助も出演しない一狂言を持たせたのか、いまだに不思議でならない。
[ty.]

[ty.]

コメディユニット磯川家

こった創作空間(東京都)

2010/08/20 (金) ~ 2010/08/22 (日)公演終了

満足度★★★★

メンバーのキャラクターがわかった
初見です。
島岡亮丞、岡洋志、信原久美子、斉藤コータ、菊池祐太、物延結、木畑バタ子、二宮瑠美、川面千晶が繰り広げるコント集。メンバーそれぞれの持ち味がわかって、今度、磯川家の芝居を観る上で、よき入門編になったと思う。
コントとコメディの差について、「答えはない。楽しかったら、なんでもいいじゃない」と言い切る作・演出家、保木本の潔さに好感が持てる。
カーテンコールのときの出演者の、演技ではない明るい笑顔が印象的。

ネタバレBOX

自分が面白かった順に内容を紹介すると、

「おにごっこ」
順番ではラストのコント。
子どもたち(岡、斉藤、菊池、木畑、物延、信原)が集まって鬼ごっこしようとすると、本物の赤鬼(川面)が現れる。
あまりの怪力で子どもたちが死んでしまう。悲しんだ赤鬼は、夢を叶える象の女神(二宮)の力で、子どもたちを生き返らせることができたのだが・・・。
童話の「泣いた赤鬼」がモチーフで、川面の赤鬼が力演。犬のハゲマル(島岡)も面白い。

「王様ゲーム」
4人の男女(島岡、菊池、川面、二宮)が王様ゲームを始めようとすると、そこには王冠をかぶった本物の王様(斉藤)がいて・・・。
この王様がとにかく可笑しい。ゆっくりした話し方と目の動きに注目。

「名探偵ドコナン」
名探偵コナンのパロディだが、無表情のドコナン(信原)が発する関西弁の疑問形「・・・・なん?」、語呂合わせの言葉遊びで笑わせる。このコントには、「名探偵ドコナン予告」の短編2つが付く。

「舎弟と兄貴」
やくざの姐さんが漫才コンクール予選に落ちて失踪。その敵をとろうと、兄貴(島岡)と舎弟(岡)が「ペロン・プリン」というコンビを組み、予選に出場するが、漫才がどういうものかまったく理解していない兄貴のおかげでボケとツッコミがうまくいかず、話が前に進まない。本物のハジキや麻薬をポケットから取り出したり、一人になると俄然心細くなり、ハケることもできずに、舎弟を呼ぶ兄貴。舎弟の岡の、やけに甲高い作り声が印象的。


「イスのない教室」
イスのない教室で、中腰の姿勢のまま、2人の女生徒(物延、木畑)と男子生徒(菊池)が女教師(川面)の生物の「受精」の授業を受けている。
4パターンあり、状況が変化していくが、ムリな姿勢の生徒役の俳優たちの体力勝負コント。「立たされる」という体罰が「解放」であるという逆説(笑)。

「打順発表」
野球部の監督(岡)が、選手(島岡)と女子マネ(信原)を前に、ボードとマグネットを使い、打順(=守備ポジション)を説明していくが、選手名が大リーガーや、野球に無関係な名詞で、ポジションもサッカーのだったりしてメチャクチャ。2パターンある。

「擬音エロ小噺」
男女(斉藤、二宮)が、状況とはまったく関係ないHな擬音で会話する思わせぶりコント。
終演後、「擬音が生々しすぎて笑うに笑えない。あそこで笑ったら女子に品性疑われる気がして笑えなかった」という男性客の声。
関西では気にせず笑う客が多いのでしょうか?
夜も昼も -Night and Day-

夜も昼も -Night and Day-

文月堂

こまばアゴラ劇場(東京都)

2010/08/14 (土) ~ 2010/08/17 (火)公演終了

満足度★★★★

W配役がテーマを象徴
初見です。あらすじにある「地方出身者から見た東京を描く、青年&中年青春群像劇」から思い浮かべた印象とは異なっていましたが、作風にとても好感が持てました。
もともと劇団ものが好きなのですが、なかなかいいと思う作品に当たりません。昨年、最悪の劇団ものコメディーに出合い、拷問のような2時間20分を経験してからはトラウマになっていましたが、これはそのトラウマを忘れさせてくれました。1時間50分、まったく長さを感じなかった。
青春が描かれているけれど気恥ずかしくならないし、もちろん自己チュウの要素も無い。けっこう笑えたけど、わざとらしい笑いではなく、人物描写の中で笑えるのがよかった。焦点を絞りきれていないとのご意見もありますが、私はW配役でテーマを巧く生かし、無駄も少なかったと思います。焦点を絞ればもっと締まった作品になりそうで、実は逆にテーマがかすみ、妙味も失われる気がするのです。今後も観てみたい劇団です。

ネタバレBOX

俳優たちが扮した蛙の合唱で始まるのが意表をつかれた。主人公の青年長岡(青木柳葉魚)が世間の狭い田舎を飛び出し、上京。大学へは進まず、働きながら「まほろば」という劇団で活動を続けている。アルバイトの職場である通販の育毛剤メーカー、ネイチャーカンパニーのコールセンターと、劇団の人間模様が交互に描かれ、興味深い。主人公長岡の青木を除いて、俳優はそれぞれ2役を演じている。特に青木岳美と、藤原よしこはまったく違う印象の役で楽しませてもらった。青木はエキセントリックな劇団女優として、アングラ劇の台詞のようなタンカを切って、劇団を去るが、そのステレオタイプな雰囲気が後輩女優に地位を奪われる説得力にもなっている。反面、知的で落ち着いた副センター長・佐竹役にも、抑えた演技の内にも存在感が光る。藤原は長岡のしっかりものの恋人と、オペレーターのベテラン教育係を鮮やかに演じ分ける。
劇団の場面では、古川(石田けんいち)が、他劇団で男4人芝居の中の重要な一役での客演が決まったので本公演を降りたいと訴える。チャンスの掴めない劇団員にとって、この客演がどんなに大きなチャンスかと思うと胸を打たれた。石田はコールセンターではゲイの青年古田丈治で、こちらもなかなかけなげな感じが良く出ていた。丈治の相手であるセンターのリーダー中島勉を演じるにわつとむは、リーダーとしての頼もしさと、丈治の話を聞くときの優しい表情、一人の人間の二面性をきめ細かく表現していた。石田と中島の場面はちょっとフライングステージの芝居を思わせる。
長岡は夜も昼も職場と劇団を往復しながら懸命に生きているのに、自分を見失いかけ、恋人にも去られてしまう。過労から勤務中の居眠りも頻繁だが、「夜も昼も余裕のない」生活の中で、彼には、劇団でも職場でも、そこにいる人間がまったく違う人たちであるにもかかわらず、渾然一体と見えているのではないだろうか。彼自身、生活に焦点を絞りきれていないことが、この芝居のテーマであり、W配役はそれをうまく表現しているようで感心した。 
社長が飼っている8匹の食用ヒキガエルの世話を命じられていた恵(辻久三)との引継ぎの会話の中で、「井の中の蛙」という言葉が出てくるが、長岡は恵の結婚指輪にも気づかなかったのだ。職場の人間模様を詳しく描くことで、長岡は部外者という位置を印象付け、劇団のことが表層的であるのもあえて狙ったように感じる。長岡は「毎日顔も知らないハゲと会話して、劇団の稽古して」という不満ばかりで、人間をよく見ていないのだ。恵がメグミと名づけた蛙が排気口をつたって逃げ出すが、最後は職場を辞める古田が佐竹と協力し、パレードに着たドレスと同じ虹色のパラシュートをつけて、蛙たちを屋上から逃がしてしまう。
蛙に始まり、蛙に終わる。そして、リストラを受けて恵は司法試験をあきらめ、故郷に帰ると長岡に告げる。主人公の長岡の今後は?と思ってしまうが、「夜も昼も」の生活に答えを出すのはこれからなのだろう。
一点だけ気になったのは、長岡の恋人・藤原よしこが長岡に三行半を突きつける場面、藤原の熱演はよしとして、音響の具合か、声が大きく割れ鐘のように響き、耳が痛かったこと。



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