夜も昼も -Night and Day- 公演情報 文月堂「夜も昼も -Night and Day-」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    W配役がテーマを象徴
    初見です。あらすじにある「地方出身者から見た東京を描く、青年&中年青春群像劇」から思い浮かべた印象とは異なっていましたが、作風にとても好感が持てました。
    もともと劇団ものが好きなのですが、なかなかいいと思う作品に当たりません。昨年、最悪の劇団ものコメディーに出合い、拷問のような2時間20分を経験してからはトラウマになっていましたが、これはそのトラウマを忘れさせてくれました。1時間50分、まったく長さを感じなかった。
    青春が描かれているけれど気恥ずかしくならないし、もちろん自己チュウの要素も無い。けっこう笑えたけど、わざとらしい笑いではなく、人物描写の中で笑えるのがよかった。焦点を絞りきれていないとのご意見もありますが、私はW配役でテーマを巧く生かし、無駄も少なかったと思います。焦点を絞ればもっと締まった作品になりそうで、実は逆にテーマがかすみ、妙味も失われる気がするのです。今後も観てみたい劇団です。

    ネタバレBOX

    俳優たちが扮した蛙の合唱で始まるのが意表をつかれた。主人公の青年長岡(青木柳葉魚)が世間の狭い田舎を飛び出し、上京。大学へは進まず、働きながら「まほろば」という劇団で活動を続けている。アルバイトの職場である通販の育毛剤メーカー、ネイチャーカンパニーのコールセンターと、劇団の人間模様が交互に描かれ、興味深い。主人公長岡の青木を除いて、俳優はそれぞれ2役を演じている。特に青木岳美と、藤原よしこはまったく違う印象の役で楽しませてもらった。青木はエキセントリックな劇団女優として、アングラ劇の台詞のようなタンカを切って、劇団を去るが、そのステレオタイプな雰囲気が後輩女優に地位を奪われる説得力にもなっている。反面、知的で落ち着いた副センター長・佐竹役にも、抑えた演技の内にも存在感が光る。藤原は長岡のしっかりものの恋人と、オペレーターのベテラン教育係を鮮やかに演じ分ける。
    劇団の場面では、古川(石田けんいち)が、他劇団で男4人芝居の中の重要な一役での客演が決まったので本公演を降りたいと訴える。チャンスの掴めない劇団員にとって、この客演がどんなに大きなチャンスかと思うと胸を打たれた。石田はコールセンターではゲイの青年古田丈治で、こちらもなかなかけなげな感じが良く出ていた。丈治の相手であるセンターのリーダー中島勉を演じるにわつとむは、リーダーとしての頼もしさと、丈治の話を聞くときの優しい表情、一人の人間の二面性をきめ細かく表現していた。石田と中島の場面はちょっとフライングステージの芝居を思わせる。
    長岡は夜も昼も職場と劇団を往復しながら懸命に生きているのに、自分を見失いかけ、恋人にも去られてしまう。過労から勤務中の居眠りも頻繁だが、「夜も昼も余裕のない」生活の中で、彼には、劇団でも職場でも、そこにいる人間がまったく違う人たちであるにもかかわらず、渾然一体と見えているのではないだろうか。彼自身、生活に焦点を絞りきれていないことが、この芝居のテーマであり、W配役はそれをうまく表現しているようで感心した。 
    社長が飼っている8匹の食用ヒキガエルの世話を命じられていた恵(辻久三)との引継ぎの会話の中で、「井の中の蛙」という言葉が出てくるが、長岡は恵の結婚指輪にも気づかなかったのだ。職場の人間模様を詳しく描くことで、長岡は部外者という位置を印象付け、劇団のことが表層的であるのもあえて狙ったように感じる。長岡は「毎日顔も知らないハゲと会話して、劇団の稽古して」という不満ばかりで、人間をよく見ていないのだ。恵がメグミと名づけた蛙が排気口をつたって逃げ出すが、最後は職場を辞める古田が佐竹と協力し、パレードに着たドレスと同じ虹色のパラシュートをつけて、蛙たちを屋上から逃がしてしまう。
    蛙に始まり、蛙に終わる。そして、リストラを受けて恵は司法試験をあきらめ、故郷に帰ると長岡に告げる。主人公の長岡の今後は?と思ってしまうが、「夜も昼も」の生活に答えを出すのはこれからなのだろう。
    一点だけ気になったのは、長岡の恋人・藤原よしこが長岡に三行半を突きつける場面、藤原の熱演はよしとして、音響の具合か、声が大きく割れ鐘のように響き、耳が痛かったこと。



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    2010/08/17 21:37

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