くちびるぱんつ
ぬいぐるみハンター
王子小劇場(東京都)
2011/01/27 (木) ~ 2011/01/31 (月)公演終了
満足度★★★★
若さと勢いを感じた
若さとスピード感を武器に突っ走り、チームワークよく、観客も大いに楽しんでいた様子。
観ているほうもエネルギーがいり、少々疲れましたが、現代的で若い観客には支持される劇団だと思います。
題名、「ぱんつ」のほうはわかるけど「くちびる」の意味はよくわからなかった(笑)。
ネタバレBOX
「宇宙空間」の部分、意外に普通でしたね(笑)。ピノコ役神戸アキコさんのキャラはもう少しぶっとんでいてもよかったのでは。緑のメークで熱演した桐村理恵さんの性別不明(?)のメーテルは面白かった。哲郎の沖山麻生さん、歌もうまいし、この世界の人になりきっていた。車掌の竹田有希子さん、この世界をしっかり統率していたのに感心。
「30XX年」は洗濯機の話題から始まるのだが、この導入部が巧み。この世界を引っ張る安藤理樹さんの説得力ある演技に惹きつけられた。彼の存在が近未来にリアル感を持たせ、作品全体のキーマンにもなっていたのはさすが。ミチルの浅利ねこさん、私は勝手に「不思議ちゃん」と呼んでいる。彼女が在籍する「劇団銀石」でもそうだが、劇に棲みつく妖精みたいな女優で、あの笑顔は不思議な魔力をもつ。ゴンタ(猪俣和磨)の役はもう少し犬らしく個性的に書いてほしかった。「ドンタコス」のギャグがイマイチ。
「2011年」は、神菜(熊川ふみ)、典子(湯口光穂)、ヒヨリ(長瀬みなみ)の3人娘の芝居がとてもよかった。ブチの丸石綾乃さんの小気味よい演技も印象に残った。
この劇団、本公演初体験で、その強烈な個性はよくわかった。若いうちはこれでよいと思うが、観客層を広げるにはさらなる精進を望みたい。
過去の小劇場ブームでも若さと斬新な演出で注目を浴び、寵児となった劇団はいくつかあるが、第一線で残っている作家はごくわずか。池亀さんにはがんばってほしい。
フィナーレで号令をかける神戸さんからにじみ出る気風のよさがこの劇団の勢いをよく表わしていたと思う。
糞尿譚
劇団俳小
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2011/01/22 (土) ~ 2011/01/29 (土)公演終了
満足度★★★
既得権益の存在
こういう社会派の文学作品に真っ向から挑めるのも新劇系劇団の長所だと思うし、舞台化が難しい作品だけにその意欲を高く買います。
いつの世も既得権益を守ろうとする一派の抵抗は根強いものだなぁと痛感させられた芝居。
同じ葦平の原作でも任侠映画になった「花と竜」のようなスカッとしたところのある作品ではないので、単調さは否めない。終始、主人公彦太郎のキャラクターには違和感がつきまとった。
詳しくはネタばれにて。
ネタバレBOX
彦太郎役の勝山了介は力量もあるベテランだとは思うけれど、登場したときは本当に少し知能が低い人物かと思うほど無学無知を強調した演技だったのだが、劇が進むと、やけに道理を理解したようなセリフがあったり、女にちょっかいを出したり、この人物がますますわからなくなってしまった。
「寿限無」の長い名前をずっと口ずさむような愚直な好人物なら、その愚直さを貫けばよいのだが。
周五郎の「どですかでん」の主人公のキャラクターが映画化に当たって少し脚色されたように観客が役に感情移入できるように脚色してもよかったのではないかと思う。
原作との兼ね合いもあるのだろうけど、こういう作品の場合、思い切った脚色も必要かと思うのだが。
冒頭の夢の場面が終わると、彦太郎が孤軍奮闘するエピソードを淡々と続けるだけなので、同じような場面が繰り返されて飽きてくる。
これで休憩込み2時間半は少々ツライ。
登場人物が多い割に、主人公とガップリ4つに組む役がひとつもなく、ただのエピソードを演じている印象なのがとても残念だ。
沢田(手塚耕一)や赤瀬(河原崎次郎)、赤瀬の娘婿(大川原直太)の役も本筋とはあまり関係ない描き方でぜんぜん物語に生きてこない。
小説ではないので、サラッと触れるだけでは面白みがないのだ。
主人公が皆田老人(神山寛)や友田(斎藤真)からさんざん非道な嫌がらせを受け続ける場面はマキノ雅弘監督の「昭和残侠伝」などに代表される東映仁侠映画と同じパターンだが、東映映画なら、高倉健や鶴田浩二が出てきて「もう我慢ならん」と悪を一掃してくれるからスッキリするが、この芝居はそういうわけにはいかない。
だから、彦太郎が「俺はなんでいままであんなに卑屈になってたのか。もう負けねえぞ」と見得を切ったところで、最後にそう言われてもねぇという気持ちになる。既得権益とどう闘うか、これからが彦太郎の正念場、というところで芝居が終わるから、消化不良で楽観的にはなれない。
赤瀬の河原崎次郎の滑舌の悪さにはビックリ。俳優座の若手時代、映像でも活躍し、河原崎三兄弟のうちでも渋くて人気があったのだが、久々に観て老いを感じた。
女優陣は総じて好演し、赤瀬の愛人役、吉田直子(劇団昴)、芸者役の大多和芳恵が特に印象に残った。
彦太郎の河童の幻影(槙乃萌美=劇団昴)も唯一ホッとする存在なので、狂言回しに使って事の顛末を語らせるとか、脚本の中でもう少し面白く使えたように思う。
SWEETS
ehon
座・高円寺1(東京都)
2011/01/19 (水) ~ 2011/01/23 (日)公演終了
満足度★★★★
緊迫した舞台
美しい舞台美術の中で繰り広げられる信じがたい惨劇。
メタリック農家の公演に行こうと思っていたら解散してしまったので、葛木さんの作品は今回が初体験。
俳優陣も適役がそろい、充実した公演だと思った。
返す返すも「メタリック農家」時代の芝居を観ていないことを悔やむ。
ネタバレBOX
保険外交員の春緒(円城寺あや)の行動が「周囲から同情されるのでますますエスカレートしていった」というくだりで、「平塚五遺体殺人事件」を連想した。、たぶんその事件がモデルになっているのではないかと思うが、その事件で命を落とした女性が学生演劇に出演していた舞台を偶然私は観ているだけに、ラストの場面では彼女と佐藤みゆき演じる千華が二重写しになり、胸がしめつけられる思いだった。
この芝居は佐藤みゆきを千華に起用した成果が大きいと思った。
千華が母の婚約者の三菱(古山憲太郎)に母の行状を語り、「その覚悟があるかって訊いてるのよ」と迫る場面の説得力は見事だった。
この作品、千華を主役にしたバージョンも観てみたいと思わせた。
訪問医の真中の幸田尚子、千華の恋人で聾者の温(佐々木潤)がよかった。マナー講師の平岡を演じた久保亜津子は演技がうまいのに、関西弁のイントネーションで関東式に音がすべて上がってしまうのが残念。あえて下手な関西弁をしゃべらせなくてもよかったのでは。
母の婚約者の古山はこういう誠実で朴訥な役ははまり役で悲劇性がよく出た。しかし、三菱という企業のような役名が現実離れして聞こえ、違和感があった。もっと普通の苗字にしてもよかったのでは。
ルポライター(瀧川英治)の取材に応じる訪問看護士の重松(本井博之)がもう少し事件にからめば面白くなった気がする。役どころが中途半端な印象だった。
引きこもりの悠太(福山誠二)が見る幸福な幻想場面が哀しい。福山は難しい役を好演した。
僕を愛ちて。~燃える湿原と音楽~【沢山のご来場ありがとうございました!次回公演は7月青山円形劇場にて!】
劇団鹿殺し
本多劇場(東京都)
2011/01/15 (土) ~ 2011/01/23 (日)公演終了
満足度★★★★
大舞台に負けない作品
「鹿殺し」という何やら恐ろしい雰囲気の劇団名のためか、いままで観る機会がなかったが、勧める人もあって今回思い切って観ることにした。
本多劇場進出ということで晴れの大舞台。以前から観続けてきたファンは感慨もひとしおだったことだろう。
若者向けの芝居かと思っていたが、自分でもついていける内容だったのでひと安心。昔の劇団☆新感線を彷彿とさせるはじけっぷりが楽しい。
韓国のハンソリを思わせる打楽器に特徴がある楽隊の生演奏も見事にマッチし、個性的な楽しめるお芝居だった。
この劇団はフライヤーがいつも出演者の集合写真なので、観なくても印象に残っていた。公演ごとにデザインを変えるのではなく、こういう劇団として統一的なフライヤーにするのもひとつのアイディアだなと思う。
ネタバレBOX
兄弟、親子の音楽の好みが出ているのが面白い。
同じ歌を、兄(丸尾丸一郎)が尾崎豊風に、弟(オレノグラフィティ)がつんく♂風に歌う場面もなるほどなーと思って聴いていた。
伊東役の廣川三憲、母親役の西田夏奈子は歌が巧い。西田は波紋のおばさんという不思議な役も演じるが、シンクロナイズドスイミングのように湖に沈んでいく演技の上手なこと。感心して見ていました。
伝説の妖怪?イワエツゥンナイを演じる花組芝居の谷山知宏のアクロバティックな歌舞伎的演技も素晴らしく、往年の市川猿之助を思い出した。
加藤裕は伝説のロック・スター、フレディ・マーキュリーを気取っている青年役だが、たしか、彼はフライングステージの「トップ・ボーイズ」でもフレディ・マーキュリーを演じたのでは?(この公演、私は観ていない)今回、アテ書きなのだろうか(笑)。確かにフレディに似ているが、彼の演技の質はやはりこういう芝居には合っていない気がする。
父親役の粟根まことは若手を相手に圧倒的存在感をみせる。
本家本元の劇団☆新感線の俳優だけに、胸を貸すほう、借りるほう、双方に感慨があろう。
千鶴子(菜月チョビ)がどうしてあんなに献身的なのかと不思議だったが、千鶴子は実は兄弟に助けられた鶴の化身だったというオチ。実に話がよくできている。
最後は、菜月は鶴となって舞い上がり、スーパー歌舞伎のヤマトタケルか義経千本桜の四の切か、という宙乗りまで披露する華やかな幕切れ。
広島バッゲージ
アシメとロージー
タイニイアリス(東京都)
2011/01/21 (金) ~ 2011/01/23 (日)公演終了
満足度★★★
挑戦の意欲を買う
原爆を扱ったコメディーということでどんなふうに描くのか、観る前はとても心配だったが、想像していたよりコメディー色が弱く、テーマをきちんと描いていて安心した。
原爆のことなどあまり関心がない若者が彼女との問題から興味を持つというストーリーだが、若い観客へのアプローチとしては面白いと思った。
また、ラジオ番組が流すクラシック音楽が芝居に巧く融合されていて感心した。
いくつか難点は感じたものの、挑戦の意欲と真摯な姿勢には好感が持てた。
「観たい」にも書いたが、相羽崇史、酒井雅史のお2人は大学は違うものの、共に学生演劇で活躍し、個人的に注目してきた俳優さんなので、そのお2人に親交があり、こうして共演が観られたことは感慨深い。お2人は先に「ナウでヤング」の旗揚げで共演しているが観られなかったので。
次回作がどんなふうになるか楽しみである。
ネタバレBOX
冒頭に核分裂を人物を使って説明する場面が面白く、実際、劇中の人間関係もそのように絡み合うのかと期待したら、劇中の展開とはまったく関係なかったのが残念。
原爆のエピソードを巡る登場人物の連関設定に多少無理を感じた。
ラジオのクラシック番組のDJのSHANA(高谷紗那)のアニソンや、TVディレクターの世良(ヤハタヤスヒロ)のYMCAなどの熱唱場面は、息抜きに入れているのかもしれないが必然性を感じなかった。
高谷は演技には問題がないが、ラジオのパーソナリティーには似合わない声質や滑舌なのが気になった。山下ゆきの田中ありすも声が小さく、舞台の発声がまだできていないためか、役の感情がうまく伝わってこない。「ハッピー圏外」からの客演の芝田遼は「多少婦人」の客演で注目した人で、なかなか面白い。
世良が原爆のドキュメンタリー番組を手がけたという設定なので、もう少し、彼の見解を描いてほしかった。
爆弾事件が山崎巡査部長(手塚剛)がゆきのために仕組んだというのも納得がいかず、ゆきの恋人である後藤(相羽崇史)が昭和20年8月にタイムスリップするという設定も不自然さを感じた。
昭和20年の場面での仁科教授(酒井雅史)、大山大佐(池田周大)、浅田富佐子(臼井美紗)は、言葉遣いが戦時中らしくきちんとしているし、場面としてもよくできていた。
酒井の仁科は飄々としていて出色の出来。池田も軍人らしい一途さが良く出ている。仁科が居留守を使う場面、テレビ草創期に益田喜頓がよくこういうコントをやっていたのを懐かしく思い出した。
富佐子の持つスーツケースが最新式の大型で立派なデザインなのが惜しい。昔の小道具は難しいが、現代も売っている籐のバスケットを使うか、入手できなければ100円ショップの収納籠に細工すればそれらしく作れると思う。
富佐子が被爆後も生きていたという設定。実際、背中にやけどを負っても生きていた人はいるのだが、この劇の状況説明では少し無理を感じる。せめて子供をかばいながら建物の陰に避難したという設定にしてもよかったのでは。
上演約2時間、体感時間はさほど長く感じられなかったが、あと20分は短縮できたと思う。
水飲み鳥+溺愛
ユニークポイント
「劇」小劇場(東京都)
2011/01/18 (火) ~ 2011/01/23 (日)公演終了
満足度★★★
色合いの異なる2作品
まったく異なるテイストの2作品。
「溺愛」はいままでのユニークポイントとは違い、難解で私にはよく理解できなかったが、舞台美術や衣装、女優さんたちの演技には魅せられた。
「水飲み鳥」は再演だそうで、初演を観ていないのでありがたい。舞台設営を見せてもらえたのもよかった。
個々の感想はネタバレで。
ネタバレBOX
「溺愛」
福岡の保険金殺人事件をモチーフにしているとのこと。本作は別の実在の殺人事件との共通点も感じ、興味深かった。
まず、登場人物の役割と関連性がよく理解できなかった。
カズコ(北見直子)が夫殺しを自供していて、姉妹はその証言からカズコの子供のようでもあるが、母親を演じるのはジュンコ(小助川玲凪)であるため、混乱してくる。
姉妹の話はカズコの少女時代の体験でもあり、母親から疎まれる姉娘(久保明美)はカズコ自身で、溺愛される妹娘(宮嶋美子)はヒトミ(宍戸香那恵)なのかもしれないし、カズコの心の中の声がヒトミなのかもしれないが、殺人を犯した女性はジュンコなのかもしれない。
たしか、この事件は、殺人教唆された女性がいたと記憶しているので、劇中の会話から、カズコをヒトミがマインドコントロールしているようにも見えた。
「物語の進行係」を自任する男(安木一之)の存在も中途半端に感じた。安木が台詞を噛んだのが惜しい。いつも主要な役を演じる彼には珍しいことだ。
個人的には、裁判の経過を説明する字幕、この文字の大きさで横文字というのが、視力の弱い私には見えづらかった。
宍戸は昨年のコマツ企画の「どうじょう」で新境地を開いたと感じたが、今回も魅力的。最近、ますます美しく演技が冴えてきたと感じる。小助川の個性の強さが目をひく。アングラ風だが、コメディーでも観てみたい人。姉役の久保は、台詞に説得力を感じた。ユニークポイント常連の宮嶋は12歳の少女に見える不思議な女優さん。女優陣の中で、カズコ役の北見が埋没してしまった印象なのは惜しい。これは役の位置づけのせいでもあると思う。
舞台美術と一体となったような女優のからだを覆うオーガンジーの衣装が美しく、下着の紫の視覚効果も抜群だった。
このお芝居、整理、再構成して再演してほしいと思う。
「水飲み鳥」
交通事故死した高校の同級生の葬儀に集まった男女の一夜を描く。
どことなく青年団の芝居を思わせる。
ユニークポイントへの出演も多い泉陽二と、洪明花の好演が光る。
障害のある息子を持った山下役の森宮なつめは生活感が出ていてとてもよかった。
ラストシーン、「みんな黙って帰っちゃったの?」と驚いたが状況からして考えにくく、一瞬、これはもしかして森(泉)の夢だったのかとも思った。
森が雑談中「明日は日曜日だから仕事は休み」と言っていたので、あわてて飛び起きてカバンを持つのもおかしいな、と思い、森は疲れており、夢から覚めて寝過ごしたと思ってあわてたのかな、とも解釈した。
そのへんがあいまいで、もう少しはっきり描いてもよかったのでは。
表題の「水飲み鳥」はどこからつけたのかなと考え、人家の庭などに水を飲みに来る野鳥は、未明にいつのまにかそっと来て去るという作家の随筆を読んだことがあるので、それを同級生たちの姿になぞらえたのかな、とも思った。
リチャードⅡ 【ご来場ありがとうございました】
演劇集団 砂地
【閉館】SPACE 雑遊(東京都)
2011/01/14 (金) ~ 2011/01/26 (水)公演終了
満足度★★★★★
素晴らしい力作
昨年から観劇を決めていたが、熱量が半端ではなく、想像を超える力作だった。作・演出の船岩祐太さんは1985年生まれというのだから驚きです。
原作はシェイクスピアだけれど、むしろシェイクスピアにまったく関心のない人に観てもらいたい。
演劇好きな人ならまちがいなく「見逃したら損」と言える作品。どれだけ凄いかぜひご自分の目で確かめていただきたい。
ネタバレBOX
舞台一面に敷き詰められたたくさんの衣服。開演前、それをたたんでいる女性2人がスタッフかと思ったら、登場人物の女優さんだったので驚いた。カワムラ(小瀧万梨子)とシミズ(守美樹)、2人の女店員は男たちが舞台で繰り広げる政争を見守る庶民であり、男たちに踏みにじられる衣服は荒らされた国土、国民をも象徴しているようだ。本編の合間に、劇団活動をやっているシミズが演劇環境の現状をカワムラに説明し、観客に演劇と社会との関連性を見せてくれる。王妃(岡田さやか)が買い物客の女性として登場し、女性の出産の自由について女店員と口論を始めたりする。この女性は浪費でも満たされない王妃の心情をも吐露する。リチャード王(稲葉能敬)が小泉純一郎よろしく、「私に反対する勢力はすべて抵抗勢力だ!」と言ったり、リチャードを追いやって王座についたヘンリー(中村伝)が現代のマニフェストを読み上げたり、この政争劇は我々に身近に迫ってくる。
つい最近、内閣改造があったので、臣下たちの節操のない寝返りにどこか共通点を感じて苦笑してしまう。政治状況をめぐり、最近、ネットの一部でメディア権力の横暴、記者クラブ批判などが盛んに議論されてるようだが、この劇中にもカメラマンが登場し、「国民は我々が報道する言葉を通してしか為政者を信用しない」 というニュアンスの台詞を発する。まさにいろんなことを考えさせられる作品だった。
男たちの乱闘の迫力もドキドキするほど凄い(暴力の効果音を出す手が痛いだろうなぁ)。カワムラが実は妊娠しており、とりあえず実家に戻り、シングルマザーの生き方を選ぶことを告白。女店員たちが生活への不安を語る場面が切ない。舞台上のポールを伝って地下から俳優が出入りしたり、モニター画面を上手く使うなど、演出もよく工夫されている。
自分が観た回は、難解な長台詞のためか、俳優が台詞をまちがえて言い直す箇所がいくつかあったのが残念。
ドリルチョコレート「テスタロッサ」
MCR
こまばアゴラ劇場(東京都)
2011/01/07 (金) ~ 2011/01/16 (日)公演終了
満足度★★★★
男と女の間には・・・
野坂昭如の「黒の舟歌」の歌詞をひさびさ思い出してしまった。
「理解しあうって難しいな」って。
赤、白、青のトリコロールカラーのセットで、3組の男女のラブストーリーが展開。俳優さんが全員素晴らしく、なかなか楽しめる内容で、アフター5にカップルで観てもいいんじゃないかな、と思えた作品。
ネタバレBOX
中川さんはともかく、櫻井、有川のお2人はおよそパンクのイメージではないので、パンクバンドで豚の臓物ブンブン振り回し・・・というくだりは笑ってしまった。
私自身、このあずきちゃんに近い年齢で結婚したので、このカップルには親近感を感じた。あずきちゃんがストレスから耳鳴りに悩まされ、難聴になってしまうが、これくらいの年齢の女性はストレスから更年期障害で耳鳴り症状が出る人も多いそうだ。
また、私には、近藤美月さんみたいな表情で、人を食ったような奇抜なリアクションを行う美人で超個性的な友人がいる。彼女は中川さんに近藤さんが向けるのとそっくりな言葉を日常、旦那さんに向けていて、そこのご夫婦はまさにこのカップル同様、すれ違っているようでも結局最後はいつも手をつないで仲良く歩いて行ってしまう人生を送っているので、他人事には思えないお芝居だった。
石澤・櫻井のカップルもいい感じだなぁと思って面白く見ていたが、彼女に去られて櫻井さんはかわいそう。でも、きっと近いうち、彼女は戻ってくるのでは?と思った。
たまにはこういうお芝居もいいですね。
カルナバリート伯爵の約束
メガバックスコレクション
荻窪メガバックスシアター(東京都)
2011/01/15 (土) ~ 2011/02/06 (日)公演終了
満足度★★★★★
構成・演出が見事
評判どおりの素晴らしい劇団だと思った。入場するとまずそのリアルな舞台美術に目を奪われ、期待感が高まる。
ゆったりとした椅子に腰掛け、とても贅沢な気分で観劇できました。構成・演出も見事で、小劇場でこのような公演に出会えるとは思ってもみなかった。
公演期間が長いのでまだ間に合います、ぜひ多くのかたに体験していただきたいと思うお薦め作。
ネタバレBOX
とある国の貨物列車の転落事故現場で、救出作業中断に際し、2人の若い兵士が現状保存の番のため残される。
その一夜の恐ろしくも感動的な体験を描いている。
2人の兵士と共にその場に立ち会ったような臨場感に包まれ、物語の世界にのめりこんだ1時間50分。
俳優たちも全員、その人物になりきっていた。
人間の心理を描き切ってこその感動があり、小劇場系劇団の若手作・演出家には特に観てほしいと思った。
緊迫感みなぎる舞台だけに、カーテンコールの後、改めて俳優たちが舞台挨拶に現れたときのアットホームな温かさに心和まされた。
メゾン・ド・ウィリアム
劇団バッコスの祭
シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)
2011/01/09 (日) ~ 2011/01/17 (月)公演終了
満足度★★★★
現代劇もバッコスらしく
DVD以外でバッコスの現代劇を観たことがなかったので、今回とても楽しみにしていた。ディケンズの「クリスマスキャロル」みたいな物語をシェイクスピアの味付けでやるのかな、と勝手に想像していたのだが、まるっきり違っていて、それでもいつものバッコスらしさは出ていた。
抜群のチームワーク、アクロバティックな演技、感動的な結末。シェイクスピア好きとしては、終演後渡された解説文を読み、なるほど森山さんらしいなーと感心することしきり。シェイクスピアを予告文に書いたせいか、実際の劇を観て、関連性の薄さから不満を感じた観客もいたのではないかと思うが、これも趣向のひとつとして受け止めたい。翻案だけではない取り入れ方もあるという例で。1時間20分にまとめたことも評価したい。
バッコスは着実に実力をつけてきており、安定感がある。ただ、回想場面ではこの劇団の初期のころのゴチャゴチャした未整理な印象を思い出した。
もうひとつ、テーマに関して感じたことはネタばれで。
ネタバレBOX
今回、現代劇もののせいか、いつもに増して、1人1人の俳優に注目して観てしまった。
客演陣が劇団カラーによく溶け込んでいるのがこの劇団の最大の長所。
宇佐見輝の浪人生のオトボケぶりに愛嬌があり、笑いがわざとらしくならないのがいい。
ボクサー志望の杉本仕主也はきっちりと役を作りこんでいる。
丹羽顔負けの鮮やかな側転を見せる小宮忍にはビックリ。
宝塚の男役のように口跡が鮮やかな探偵引野の古屋笑美が印象に残った。
客演常連で、お母さん役を演じることの多い柿谷広美の占い師が新鮮だった。
同じく常連の石井雄一郎は警官役だが、この人のコミカルな持ち味とキレのよい演技、存在感の強さにはいつも舌を巻く。
教師役の上田直樹はいつもよりあまり目立たない役で少し残念。
劇団員。
いつもは凛々しい雨宮真梨のオーナーが少女マンガから抜け出してきたみたいに可愛い。
稲垣佳奈美は回想場面の役の切り替わりが鮮やかで感心した。
昨年から劇団員になった倉橋佐季は滑舌がいまひとつで、私にはまだ彼女の個性がみつけられないのだが、この集団で揉まれながら今後どう成長していくか楽しみ。
今回の公演から正劇団員となった金子優子は「夏の夜の夢」のパックの役どころで、お披露目的なおいしい場面をもらっている。森山らしい配慮でもあり、出演者を脚本にどう生かしていくかをいつも念頭に置いているところは、橋田壽賀子・石井ふく子コンビを1人にしたみたいな人だ(笑)。
金子は色の濃い役が似合う人だが、ほんわかした面もあり、今回はそれが出た。彼女が劇団員になってくれたことは心強い。
ハムレットを思わせる公岡の丹羽隆博の個性の強さはいまさら言うまでもなく、素晴らしい運動神経と役の説得力で魅せる人で今回も見事な擬闘。立ち回りが往年の尾上松四郎のようで歌舞伎にもほしい人材だと思ってしまう。
酒井役の辻明佳のすがすがしい笑顔を見ると、いつも「バッコスを観に来た」という実感が沸く。丹羽との息が合った芝居には今回もじーんとさせられた。辻のような雰囲気の俳優は昔は人情ものを得意とする劇団に1人はいたものだが、昨今では珍しい。
いじめを受けて自殺した生徒が1人ではないため、回想場面の話と現在の場面が観ていてややわかりにくいことが難に思えた。
何よりも公岡が、いじめをする側に反省が見られないからと言って、まるで必殺仕掛け人のように暴力で制裁を加えようとする筋立てには違和感があった。復讐というテーマがすんなりと自分には受け入れられず、いくら生徒を死なせたという自責の念にかられたとはいえ、暴力で解決するのでは教師の敗北でしかないし、救いがなさすぎる。そのへんの矛盾は、上田の演じる平良の台詞でも言わせ、公岡が罪を償うことを決意し、再会場面での酒井の言葉に救われることで補ってはいるが。
最後に、公岡に協力した探偵の引野が共に出頭するとき、雪が舞う寒さなのに上着もコートも着ずに薄着で出て行くのもとても気になった。登場場面ではコートを着ていたはずなので、着せたほうがよい。
違和感は感じたものの、観劇後それを上回る心地よさが残ったのは、森山さんの作劇の巧さと俳優たちのチームワークのよさだと思う。
リーマン兄弟と嫁 【公演終了!ご来場ありがとうございました!!】
劇団鋼鉄村松
シアターグリーン BASE THEATER(東京都)
2011/01/14 (金) ~ 2011/01/18 (火)公演終了
満足度★★★★
好印象の作品でした
今回初体験の「鋼鉄村松」、なかなか面白く楽しめました。ギャグを挟みながら、おふざけだけでは終わらないところが評価できます。
小劇場演劇には珍しく、ほぼ定刻に始まり、ぴったり定刻に終わったのも好印象でした。小劇場の芝居はたいてい5分から10分遅れで始まるのが慣例化しているようで、特に混雑していなくても開演時刻を過ぎて当然のようにゆったり入場して席を探すお客をみかけることもしばしば。私はそれがいつもとても気になっていたので。
ただ、この内容なら上演時間は2時間でなく、せめてあと20分短縮できたのではというのが正直な感想。
1時間30分以内でもっと濃密だったら☆5つつけたと思います。
この劇団には、別の作家もおられるとのことで、そちらのときも拝見したいと思っています。
ネタバレBOX
弟・昭二を演じた村松かずおのように、真面目に演じておかしみが出せ、シリアスでもいける役者が私は好き。対照的にナカムーラ部長のムラマツベスやキヨカワ検事役の佐藤もとむ、こういうエキセントリックで変な人のキャラが私は大好きで、大いに笑わせてもらった。こういう役は下手な人が演じるとシラケてしまうけれど、お2人ともさすがです。
専務役の浅井智子、セクシーなOL役の藤本かな子もとてもよかった。
弟の嫁を演じた鳥原弓里江は、この人の醸し出す不思議な空気がこの役にはとても合っていたと思う。彼女が客演するという興味からこのお芝居を観にいったので、「鋼鉄村松」を観るきっかけを作ってくれたことに感謝したい。
兄・昭一役のバブルムラマツは、シリアスな役が似合う俳優だと思うが、重要な台詞のところでつっかえるのが残念だった。
ポチとマイキーの着ぐるみをいろんな俳優が着て登場する妄想的な演出も面白かった。
昭一が石油プラントの建設に関わっていたということで、この物語自体が、オイルマネーに支配される世界経済の中で日本人が夢見て多くのものを失ったことを象徴する壮大な幻想譚のようで興味深かった。
弟夫婦と兄が仲良く家に帰る場面に、人が癒されるのはささやかな家庭のぬくもりということを思わせ、心地よい終幕。
それまで繰り広げられた狂騒がまるで悪夢のようにも感じられ、良き対比になっていた。
気になったのは、現代の場面なので、看護婦、びっこ、という単語の使用は不適切に感じられた。
同様に金融取引の説明場面で「商法」という単語が出たが、現在は会社法あるいは金融商品取引法と表現すべきで、せっかく経済的なテーマを扱うなら言葉にも気をつけてほしいという指摘を同行のビジネスマンから受けたことを付け加えておく。
無伴奏
劇団東京イボンヌ
サンモールスタジオ(東京都)
2011/01/12 (水) ~ 2011/01/19 (水)公演終了
満足度★★★
終始、違和感が
岩野さんがヒロインを演じるというので期待して観にいきました。
この劇団、観るのは2度目だが、売り物の“クラシックと舞台の融合”というのが、クラシック音楽が流れ、ストーリーの意図は伝わるものの、どうもしっくりいってないように私には感じられ、今回も終始、不協和音のようなものを感じて観ていたので、その世界に浸りきれなかった。あくまでも個人的感想ですが人物像に違和感が残りました。以下、ネタバレにて。
ネタバレBOX
世界的チェロ奏者というより、出世してからの貴子は、黙っていると情婦みたいで、口を開くと蓮っ葉だし、品を感じなかった。12年前の学生のころからプライドが高く、一芸に秀でても視野が狭く、ナーバスな性格の役なのだろうし、発症してからもそれをひた隠して驕慢に振舞う役なのだろうが、ひたすらわがままな姐御のようにみえた。
岩野未知は演技力もあるので、もっと品よくそれらしくも演じられたと思うのだが、脚本・演出がそうなっているためだろうか。
貴子を慕うペンションのオーナーの圭の政修二郎は心やさしく不器用な青年を好演していたものの、転寝をするところと、感情を爆発させるところの演技がわざとらしく、観ていて感情が途切れてしまったのが残念。
辰夫(磯貝幸毅)と花(土屋咲登子)のカップルが微笑ましい。土屋の演技は観ていてとても自然にこの娘に感情移入できる。辰夫が切腹のまねをしようとするところや、誠(井並テン)がワイドショーのみのもんたの話題を入れるところが、いかにも作為的で笑えない。
貴子の夫がベルギー人という設定だが、TV出演の際の音声のカタコト演技が下手でわざとらしいうえ、実際、ベルギー人がアメリカ人みたいに妻に「ファック・ユー」を連発するものなのかとても疑問だった。
主浜はるみの突然の降板で香苗役がさいじょうゆきに代わったようだが、それでこの役の扱いが多少変わったのだろうか、気になるところだ。
回想場面で、香苗が長時間の作業から戻ってくる場面、さいじょうの衣裳がおよそ重労働にふさわしくないフォークロア調のロングスカートなのが気になった。誠と香苗が「暑い」を連発してるのに、圭と貴子は長袖の厚着で秋めいた服装(冷房はきいている設定なのかもしれないが茅野は暑い)。同じく服装では、圭が「寒かったー」とダウンジャケット姿で外から戻ってくるのに、これから「デート」だという辰美(黒木あす香)が入れ違いに半袖にショールだけ羽織った薄着で出て行くのもチグハグな印象。黒木は表情をつくりすぎに思う。家は畜産農家なのだろうが、ヤンキーのようでガラが悪すぎる。
カメラマンの及川(宮崎敏行)は冒頭、狂言回し的に登場し、活躍するが、コミカルな味もあり、個性的な演技でこの役が一番印象に残った。
圭の父親(銀座吟八)は、座組の関係からか中途半端な描き方に感じた。
曲を聴かせるためか圭と貴子が見詰め合う場面の「間」が非常に長すぎたり、暗転も長く、1時間50分の体感時間が2時間以上にも感じられゆったりというより観ていてダレてしまった。
ラストも、舞台手前で貴子と圭を並ばせるより、中央奥のスペースに立たせて照明を当てたほうが幻想的でよかったのでは?と、個人的には感じた。
桂三枝の爆笑特選落語会
よしもとクリエイティブ・エージェンシー
有楽町朝日ホール(東京都)
2011/01/08 (土) ~ 2011/01/10 (月)公演終了
満足度★★★★
芸ではなくて声が枯れ
入り口にポスターもなく、内輪のイベントみたいで「日時が合ってるのか」と会場まで行っても不安だった。
桂三枝といえば、週刊誌で「恋多き男」と書かれた若い頃の元気で颯爽としたイメージが印象的だが、さすがに寄る年波には勝てず、年末から働きづめとのことで、芸ではなくて声が枯れ、しんどそうだった。
声に張りがなく、フワフワと飛んでしまう。少し休養が必要ではと心配だ。
噺を流すというか、こなしてる印象で、老いと衰えは歴然。亡くなった小さんなどは晩年も張りがあったが。三枝も全盛期は過ぎたのだな、と痛感。それでも、話の「間」は天才的だなと思う。
東京の落語家は上下がキッチリと、役の切り替わりを鮮やかにきちんと見せるが、上方はあまりうるさくないのか、役の切り替わりがあいまいに見え、その分、どの役かわかりにくい箇所があった。同じ関西でも米朝などははっきり変わっていたと思うのだが。
そのせいもあってか、三枝は2度ほど受動語を言い間違っていたのが気になった。
カラーTVが普及前の昔の噺家は黒の衣裳が多かったが、近年は地味だった東京勢までチンドン屋並みに派手になってきて、どうかと思う人もいる。
三枝の着物の好みはさすがで、藤色と空色が派手すぎずに美しく、よく似合っていた。華やいだ衣裳の色が語りをも助け、顔色も元気に見せるものだなと感心した。
ネタバレBOX
演目は以下のとおり。
桂三幸「立候補」
以前、三枝で聴いたことがあるが、小学校の児童会選挙の話。今回は民主党ネタを盛り込んだが、三幸という人、ネタを覚えたということしか伝わらない。笑いも少なかった。高座を降りてお辞儀もせずサッサと引っ込んだのには唖然。師匠、注意せなあかんわ。
桂三若「生まれ変わり」
自称“寝起きのジュリー”だそうで、確かに沢田研二似。師匠譲りの間と語り口でなかなか聴かせる。あの世とこの世の間の「その世」で、男が何に生まれ変わりたいか、番人が問う二者択一の設問での応答。いますぐ生まれ変わるならフンコロガシが空席ありとか、「樹木」の中で「板」に生まれ変わるなら「床」か「天井」か、床は「便所かも」と言われるなど、とにかく面白い。
桂三枝「ピッカピカの一年生」
父親が息子の高校の夜間部に高齢入学し、大学まで進むが、息子の嫁は夜間高校時代のクラスメートだったというオチ。
本編よりマクラの高齢者のカラオケ場面の入れ歯の話のほうが面白かった。
~仲入り~
桂三枝「ハワイの夜」
主婦サークルでフラダンスを習う奥さんのハワイ大会出場に同行してきたご主人たちの顛末。ホノカさんというバツイチ美人にご主人たちはいろめきたつが、ホノカさんはご主人たちを美貌で惹きつけ、サークル活動に協力的にするための請負人だったというオチ。
機内食で洋食を選んだ妻に、強引に和食を選ばされた夫が、「味見」と言われてメインの西京焼きを妻にとられてしまうエピソードが笑えた。
三枝はウクレレ片手に余技のハワイアン歌謡まで披露するサービスぶり。高齢客にはウケていた。
冬に舞う蚊
JACROW
サンモールスタジオ(東京都)
2011/01/05 (水) ~ 2011/01/10 (月)公演終了
満足度★★★★
中村暢明さんの作品は好み
昨年、番外公演の『窮する鼠』の「リグラー」という不動産販売会社のサラリマーンを描いた作品と一対を成すような作品で、とても興味深かった。
こういう社会派ドラマのような作品を上演してくれる劇団があるのは嬉しいことです。
本公演は初めて観ましたが、中村暢明さんの作品は好みです。
ただ、今回は描き方に物足りない点もあり、少し残念に思いました。
JACROWはこれからも観ていきたい劇団です。
ネタバレBOX
「リグラー」のときのサラリーマン同様、この主人公・富島哲平(立浪伸一)も設計という技術畑から厳しい営業部へ転属になり、慣れない職場で上司らの苛めを受ける。そのうえ、会社の不正を知り見て見ぬふりができず、苦悩したあげく心身ともに憔悴しきって自殺してしまう。
演技力のある俳優をそろえ、見ごたえはあったが心の綾があまり丁寧に描かれていないのが気になった。
区役所の職員(祥野獣一)を弁護士(今里真)が問い詰めて職員が事実を認めず、また戻ってきて志賀についてヒントを与えて去るくだりや、志賀が証言を承諾するのが段取りっぽく見えてしまった。
この職員、不正に協力した理由をあくまで母親の介護費用のせいにしている一方、チャッカリふぐをご馳走になるタカリ体質も見てとれ、あまり同情できない人物で、ヒントを与えようと変心するきっかけが何かはっきりしない。
弁護士や自殺者の妻の熱意に打たれたというのが演技で見せないので、なぜ戻ってきたのかなと思ってしまう。
弁護士の参考聴取はまるで検事や刑事の取り調べみたいに強硬なわりに、「大金の100万円振り込み」の事実はあえて切り札に使おうとしないし。
志賀に法廷での証言を約束させて一件落着、という終わり方だが、こういう場合、法廷で証言を翻す可能性も大で、そんなに安心できる状況ではない。
特に部署の社員1人の証言だけでは、総務が勤務関係の書類を処分した場合、過労自殺は労災と認定されないケースが普通で、たとえばこの劇で言うと、せめて派遣社員の三輪(菊地未来)の証言協力をとるストーリーにしてもよかったのでは。この三輪の思わせぶりな描き方も疑問が残った。哲平のストーカー疑惑の濡れ衣も知っていてわざと冷淡に黙視しているそぶりで、どうしてそうなのかよくわからない。
ストーカーの真犯人は誰かということもはっきりしない描き方。この劇では、竹下(橋本恵一郎)、西田(大塚秀記)、共に怪しいが、挙動不審や電話の場面の演出では当然、竹下が犯人のように見える。違う部署でも部屋に出入りはしてるわけで、竹下が言うように超小型カメラならわからないように盗撮は可能だろう。終演後、「あれは竹下」と言う声が出演者の間から聞こえたのだが。アングル的なことや自宅の方向を知っているので西田の可能性もあり、女子トイレに入ろうとしてるところも撮られたと言っているので、私は三輪も関わっているのかと思った。あいまいにする必然性はないので、犯人がはっきりわかるような演出にしてほしかった。
志賀の協力を取り付ける過程もせっかく演技派の岡本篤を起用していながら演技を省略してしまってもったいなかったと思う。
三輪と志賀の会話の場面もあるが、もう少し2人を丁寧に描いてもよかったのでは。
実家の問題で気が動転している妻と哲平が最後に交わした噛み合わない会話、これも自殺者の遺族としてはもっとも苦悩することなので、妻の心情をもう少し蒻崎今日子の台詞で語らせてほしかった。
雪が降っている季節に、妻がコートを着るとはいえ、ニの腕が出るような服にショールを羽織って会社に来るのも、不自然でとても気になった。
西田の大塚秀記と課長の吉田テツ太、封筒や書類を扱う手つきが会社員らしい丁寧さで、細かいことだが感心した。
「リグラー」では自殺社員夫妻を演じた菊地未来、谷仲恵輔が本作では正反対の役どころを演じているのも興味深く楽しませてもらった。菊地は今度の役のほうが合っていると思った。
立浪、菊地、蒻崎はコメディーでも観ている俳優さんだけに、こういう重い作品では別人に見え、さすが役者さんだなと感心(蒻崎さんはJACROWが本拠地ですが)。
大人は、かく戦えり
シス・カンパニー
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2011/01/06 (木) ~ 2011/01/30 (日)公演終了
満足度★★★
肩が凝らない大人のドラマ
今年の初観劇作品となりました。1時間25分、あっという間で、体調のこともあり、短いのが有難かったです。
肩が凝らずに、芸達者な人たちの芝居を気楽に観られたという感じ。
期待したほど、丁々発止という感じではなく私には物足りなかったです。
「お時間と興味があるかたはどうぞ」というおすすめ度で、何が何でも見逃したら損とまでは感じませんでした。
俳優さんたちが楽しんでるのを見せられた印象で、稽古風景が目に浮かぶようで、いまいちドラマに惹き込まれなかった。
ネタバレBOX
息子同士の喧嘩で、怪我をさせられた子の両親である大竹しのぶ、段田安則と、怪我をさせた子の両親の秋山菜津子、高橋克実が、大竹たちの家で話し合いをするところから始まる。
そのなかで、お互い相手に感じる反感や虚栄心、夫婦の間のどこの家庭でもあるような心のすれちがいや問題点が浮かび上がり、酔っ払ってホンネが出て、喧嘩が始まるという・・・。
秋山が最初からマクベス夫人のように大仰に険しい表情を作っているのが気になった。大竹はちょっと嫌味なインテリ夫人を楽しそうに演じている。日本人でなくフランス人に見えるのはお手柄。最近、顔芸で芝居をするところが気になるが。名女優なのだろうが、私は元来、この人の巧さがよくわからないというか、私の考える「巧い女優」のタイプではないため、苦手である。
段田、高橋も完全に自分の役にしているのはさすが。
ただ、このドラマ、日本人ではこうはならないと思う流れなので、観ていていささか鼻白む。
客席の中高年女性は、日ごろのストレス解消になるのか、まるで綾小路きみまろの漫談を聞いているかのように爆笑していた。
そう、きみまろの感覚に近い芝居かもしれない。「あるある、でも他人事だから笑える」みたいな笑いだ。
終わり方があっけなく、「あれっ!」という感じだった。
ボーナストーク
ホチキス
王子小劇場(東京都)
2010/12/24 (金) ~ 2010/12/31 (金)公演終了
満足度★★★★★
素直に楽しめました
フライヤーのイラストが好みではなく、全然内容が予測つかず、不安だったので、観劇前にみなさんの感想を参考に読ませていただきました。
今回で私はこの劇団3回目ですが、回を追うごとに面白くなっていってる感じです(正直、最初に観た「PTA」は私にはまったく面白くなかったので)。
米山さんは観客を物語に惹きこみ、楽しませるすべをよく知っていると感じました。
ゲストの飛び入り参加に不評の意見が多かったので心配でしたが、この日の玉置玲央さんは、鍛えぬかれた肉体と身体能力の見事さに感心し、あまり傷には感じませんでした。
確かに流れは不必要に断ち切られるのですが、「劇中芸」として楽しめた。その場にいる出演者のかたたちも、素の反応を見せながらも節度は保たれてたと思うので。小玉さんの冷静さには感服(笑)。
ネタバレBOX
悪魔が「デス・ノート」みたいで面白かったと同時に、メークが近くで見るととても怖くて夢に出てきそうでした(笑)。
小玉さんの中世の魔女みたいなコスチュームが迫力もの。小道具や立ち位置を
説明するセリフにも笑った。
悪魔と天使がごく普通のいまどきの男女カップルみたいなのもご愛嬌。天使の細野今日子さんは本物の天使のように愛らしく、貫地谷しほりちゃんみたいだった。看護士が女医として振舞うのを天使がずっと手助けしているようだったのが気になったが。
「七つの大罪」の設定とシャンデリアの仕掛けもよくできていて、ストーリーも無理なく楽しめ、年末に観るお芝居にはふさわしい。
パンフのキャストのところに書いてある人物説明の中には、あまり必要でない情報もあるのが気になった。こういうのはシンプルなほうがよいと思う。
天晴チョップ!!
ブラボーカンパニー
「劇」小劇場(東京都)
2010/12/29 (水) ~ 2010/12/30 (木)公演終了
満足度★★★★
ファン感謝祭の様相
客いれもメンバーがやっていて、楽しくリラックスできる雰囲気。
飲食OK,メール、ツイッターOK、トイレも我慢しないで、とかなり観劇ルールも緩い感じ。
若い女性ファンが多く、もともとファン層のことはよく知らないので、「へぇー」という感じでした。
通常のコント公演というより、コント傑作選+ファン感謝デーみたいな印象。
これが初見だったら、戸惑ったかもしれません。
ファン向けという感じだけど、肩の凝らない楽しいイベントでした。
ネタバレBOX
佐藤正和+山本泰弘の「パトロール」は初期に福田さんが褒めたというもので、「今回ウケなかった」とトークで話しておられたが、個人的には好きです。
ハチャメチャ警官もので昔のてんぷくトリオのコントみたいな感じですね。
大田恭輔さんの「アメリカン・ジョーク」は顔の表情が売りなのだろうが、タイトル通り私は顔より言葉に注目し、野菜ネタがけっこう笑えた。
傑作は「本能寺の変」と「お父さんたちの玉入れ合戦」ですね。
本能寺は、野村啓介、鎌倉太郎ご両人の身体能力のスゴさとアクションが見ものでした。迫力があって。耐震偽装の時事ネタエピソードが面白く、金子伸哉さんが「大工としてなぜかその場にいるアネハ氏」を大真面目に演じていて爆笑。
玉入れも、佐藤、金子のその筋のお父さん2人がいかにもそれらしく、その対決がエスカレートしてハジキの本当の「玉」を使ってしまうという設定が爆笑した。白組のお父さんのお名前紹介で「三浦友和さん」に思わず、赤組のお父さんたちが白のほうを注目するところなども笑いが起きていた。
嫌な世界
ブルドッキングヘッドロック
サンモールスタジオ(東京都)
2010/12/17 (金) ~ 2010/12/31 (金)公演終了
満足度★★★★★
近未来の人情喜劇
平日マチネでも超満員で人気の凄さをうかがわせます。
客演なし、劇団員のみの上演ということですが、圧倒されました。
作・演出でありながら主要キャストも演じる喜安さん。
作品はお見事というしかありません。内容に不満はないですが、密度が濃いだけに、小劇場で2時間30分休憩なしの観劇は酸欠になりそうで環境面でキツさも感じました。
小劇場演劇で最近感じるのは、優秀な作品ほどセットや仕掛けにも凝り、長時間ものが増えてきたようですが、やはりハコに合った作り方もあると思うんですよね。
ネタバレBOX
宇宙旅行が当たり前の時代設定。火星移住の話が身近にされていて、集中豪雨による洪水が起きたり、地球温暖化や世紀末の様相も帯びているのに、登場人物は昭和の人情喜劇そのまま。でも、この劇団らしい毒は盛り込まれている。舞台は東京の江東区あたりの町工場を思わせる。
冒頭の坊豆の夢の場面が強烈で面白い。部屋の外がなんとなく火星のイメージで。舞台装置の鮮やかな場面転換にも驚かせられた。
坊豆を演じる林生弥さんの少年役がとても自然で、大人が演じる嫌味がないのがよい。
坊豆の父の寺井義貴さんの温かな好人物ぶりが一番印象に残った。
続子の津留崎夏子さんのゆっくりしたちょっとたどたどしい話し方。私はこういう物言いが個人的に苦手なのでとても気になった。津留崎さんをほかの役で観た時はこういう感じではなかったので、役としての話し方なのだろうけれど。
七海八重の永井幸子さんのボーイッシュで小気味いい役どころもよかった。
隣の工場の小島聡社長のロボットみたいな動きもおかしかったけれど、隣の工場の社長というと、タコ社長を思い浮かべるが、そう、この物語は寅さんの世界によく似ていて昭和っぽいのだ。
女優(おんなやさしい)
ろりえ
シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)
2010/12/22 (水) ~ 2010/12/26 (日)公演終了
満足度★★★★
深刻な「落語」のような噺
「ろりえ」は初見でした。深刻な内容なのに全体が落語のようでけっこう楽しめたし、2時間50分はさほど長くは感じなかった。
ただし、2時間50分というと大劇場並みだがそこまで時間をかける内容には感じなかった。この尺で休憩わずか5分、しかもかなり後半に入れているのがあまり適切とは感じられない。せめて1時間30分前後で休憩を入れたほうがよいのでは。
先日の花組芝居の本公演に続いて主役級の堀越涼の実力を実感した。これで本拠地では女形も演じているのだから末頼もしい限り。
会話のテンポがよく、悪趣味スレスレの面白さと言うか、個性的な劇団だとは思った。
ネタバレBOX
冒頭の鮮やかな場面転換にまず驚き、若さが弾けるような楽しいオープニングにはワクワクした。スライド式の舞台装置はアイディアだなと感心したが途中から装置を使いこなすことに重点が行ってるように感じられ、さすがにもたれてきた。
また、性表現が露骨で男性の全裸シーンが頻繁に出てくるのも自分の好みではなく当惑した。母から受け継いだリョウコ(梅舟惟永)の優しさが「男性への性的奉仕」のみで表現されるというのは私には受け入れがたかった。つわりで吐く場面も、インパクトを狙ってか、かなりリアルに見せるが、演劇は映像とは違うので生々しさはあまり気持ちの良いものではない。あえてそうする必然性を感じなかった。
転校生のエース(安藤理樹)がその座にすわるため光の殺人を決行したと告白し、それを聞いた側もギャグみたいに解釈するのも安易な描き方でいただけない。エースに殺されたはずの光が実は記憶をなくした謎の女(徳橋みのり)で本当に死んではいなかったのか、兄妹の母がその後どうなったのか、よくわからないままだった。
帝王切開の場面で「もしかして誤って小腸を切ったのか」と誤解するほど長いヘソの緒で男たちが綱引きする場面、ここはもう「落語」だ。この綱引き場面の安藤と堀越の演技がなぜか理屈抜きで訴えかけてくるものがあり、馬鹿馬鹿しさを通り越して感動すら覚えた。
堀越のジュンは引きこもりの役とはいえ、顔半分を覆う前髪が鬱陶しすぎ、ここまで覆わなくてもよいと思った。どんな顔の俳優かよくわからないのは考え物(笑)。安藤はみんなの会話に入ってくるときの間のよさ、素ではない自然な芝居、演技勘に並々ならぬ才能を感じる。
父親役の松下伸一の飄々とした物言い、尾倉ケントのトッポい警官が面白い。同級生の男たちの中でプラトニックな愛を貫くゲン(高木健)はどうにも野球選手のイチローに見えてしかたなかった(笑)。
母が昔から可愛がっていたオス犬(着ぐるみ)のイヌオがお稲荷さんの狐か狼にしか見えない(笑)が、なかなかの忠犬で命がけで噛み付いてピストルで頭を吹き飛ばされ絶命したにもかかわらず、お産の綱引きに加勢して、綱引きが終わったらまた死んだりして結構可愛い。しかも、リョウコの産んだ赤ん坊には尻尾があって「父親はイヌオ?」というオチまでつく(苦笑)。
SHINOBU’s Brain in the soup weekly 4 溺れる金魚
アヴァンセ プロデュース
シアター711(東京都)
2010/12/23 (木) ~ 2010/12/28 (火)公演終了
満足度★★★★
見ごたえがあった
坂上忍は名子役だっただけあって、映像場面も含め、子役の使い方が巧い。
またTVドラマの出演経験も豊富なだけあって2時間サスペンスドラマ風で、おおよその察しはつくものの、謎解きも楽しめ、俳優も揃って予想以上に見ごたえがあった。
4作品連続上演企画で、一連の作品全体のパンフは配布されるが、公演単体の配役表がないのが不親切。全体パンフとは別に、コピー用紙1枚でよいから簡単な単独公演パンフも添付してほしかった。
ネタバレBOX
5年前、幼い娘みゆきを誘拐され、未解決のまま、遊園地での男児誘拐事件を担当することになった捜査1課のマエノ部長刑事(小林健一)。強引な捜査により出世したがとかくの噂を呼んでいる。総合病院経営者の娘婿である外科医イマガキシンタロウ(児玉貴志)と妻で元麻酔医のサオリ(玉手みずき)は犯人から何の要求もなく、幼児の臓器人身売買の線も浮かび、息子ユウタロウの安否がわからず苛立ちを募らせる。1課に途中配属されたサイジョウ刑事(古山憲太郎)は1課の捜査手法に不満を感じ、1課に来て3年という同僚のササキ(安藤真理)からマエノの周辺事情を聞く。
若いウエキ刑事は、万引きで再三捕まる男(お宮の松)からプロファイル並みの犯人推理を聞かされる。
事件の真相や真犯人はここでは伏せておくが、1点だけ、息子の誘拐はイマガキ夫妻の狂言であったことが途中でわかるが、素人のシンタロウが息子のことであれほど迫真の芝居が打てるものか、ちょっと疑問だった。
シリアスな小林が新鮮。お宮の松がなかなか魅せてくれる。
古山は悪声で決して演技が巧い人ではないが、高倉健や菅原文太の若い頃のような硬派の魅力と存在感が捨てがたい。
新省庁名になってからの事件なのに台詞が「厚生省」となっているのは気になった。