冬に舞う蚊 公演情報 JACROW「冬に舞う蚊」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    中村暢明さんの作品は好み
    昨年、番外公演の『窮する鼠』の「リグラー」という不動産販売会社のサラリマーンを描いた作品と一対を成すような作品で、とても興味深かった。
    こういう社会派ドラマのような作品を上演してくれる劇団があるのは嬉しいことです。
    本公演は初めて観ましたが、中村暢明さんの作品は好みです。
    ただ、今回は描き方に物足りない点もあり、少し残念に思いました。
    JACROWはこれからも観ていきたい劇団です。

    ネタバレBOX

    「リグラー」のときのサラリーマン同様、この主人公・富島哲平(立浪伸一)も設計という技術畑から厳しい営業部へ転属になり、慣れない職場で上司らの苛めを受ける。そのうえ、会社の不正を知り見て見ぬふりができず、苦悩したあげく心身ともに憔悴しきって自殺してしまう。
    演技力のある俳優をそろえ、見ごたえはあったが心の綾があまり丁寧に描かれていないのが気になった。
    区役所の職員(祥野獣一)を弁護士(今里真)が問い詰めて職員が事実を認めず、また戻ってきて志賀についてヒントを与えて去るくだりや、志賀が証言を承諾するのが段取りっぽく見えてしまった。
    この職員、不正に協力した理由をあくまで母親の介護費用のせいにしている一方、チャッカリふぐをご馳走になるタカリ体質も見てとれ、あまり同情できない人物で、ヒントを与えようと変心するきっかけが何かはっきりしない。
    弁護士や自殺者の妻の熱意に打たれたというのが演技で見せないので、なぜ戻ってきたのかなと思ってしまう。
    弁護士の参考聴取はまるで検事や刑事の取り調べみたいに強硬なわりに、「大金の100万円振り込み」の事実はあえて切り札に使おうとしないし。
    志賀に法廷での証言を約束させて一件落着、という終わり方だが、こういう場合、法廷で証言を翻す可能性も大で、そんなに安心できる状況ではない。
    特に部署の社員1人の証言だけでは、総務が勤務関係の書類を処分した場合、過労自殺は労災と認定されないケースが普通で、たとえばこの劇で言うと、せめて派遣社員の三輪(菊地未来)の証言協力をとるストーリーにしてもよかったのでは。この三輪の思わせぶりな描き方も疑問が残った。哲平のストーカー疑惑の濡れ衣も知っていてわざと冷淡に黙視しているそぶりで、どうしてそうなのかよくわからない。
    ストーカーの真犯人は誰かということもはっきりしない描き方。この劇では、竹下(橋本恵一郎)、西田(大塚秀記)、共に怪しいが、挙動不審や電話の場面の演出では当然、竹下が犯人のように見える。違う部署でも部屋に出入りはしてるわけで、竹下が言うように超小型カメラならわからないように盗撮は可能だろう。終演後、「あれは竹下」と言う声が出演者の間から聞こえたのだが。アングル的なことや自宅の方向を知っているので西田の可能性もあり、女子トイレに入ろうとしてるところも撮られたと言っているので、私は三輪も関わっているのかと思った。あいまいにする必然性はないので、犯人がはっきりわかるような演出にしてほしかった。
    志賀の協力を取り付ける過程もせっかく演技派の岡本篤を起用していながら演技を省略してしまってもったいなかったと思う。
    三輪と志賀の会話の場面もあるが、もう少し2人を丁寧に描いてもよかったのでは。
    実家の問題で気が動転している妻と哲平が最後に交わした噛み合わない会話、これも自殺者の遺族としてはもっとも苦悩することなので、妻の心情をもう少し蒻崎今日子の台詞で語らせてほしかった。
    雪が降っている季節に、妻がコートを着るとはいえ、ニの腕が出るような服にショールを羽織って会社に来るのも、不自然でとても気になった。
    西田の大塚秀記と課長の吉田テツ太、封筒や書類を扱う手つきが会社員らしい丁寧さで、細かいことだが感心した。
    「リグラー」では自殺社員夫妻を演じた菊地未来、谷仲恵輔が本作では正反対の役どころを演じているのも興味深く楽しませてもらった。菊地は今度の役のほうが合っていると思った。
    立浪、菊地、蒻崎はコメディーでも観ている俳優さんだけに、こういう重い作品では別人に見え、さすが役者さんだなと感心(蒻崎さんはJACROWが本拠地ですが)。

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    2011/01/09 05:04

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  • JACROW制作部様

    コメントいただき、恐縮です。
    こういう現代社会の問題を取り上げていただける劇団があるのは、観客の一人としてうれしいです。
    次回作も楽しみにしております。

    2011/01/18 12:57

    コメントありがとうございました。
    様々な角度から評価していただいたこと、心より感謝いたします。
    ご指摘いただいた点を今後の反省材料にして良い作品をお届けできるよう精進していきます。
    「これかも観ていきたい劇団」に選んでいただき、感謝感激です。
    今後ともよろしくお願いいたします。

    2011/01/17 16:22

    KAE様

    コメントいただき、どうもありがとうございました。
    JACROWは以前、「観る人を選ぶ」と書いていらしたかたがいて、ちょっと自信がなく、本公演は観たことがなかったのですが、昨年、番外公演を観て、気に入りました。
    感想で同感していただけた部分も多かったようで、選別眼の厳しいKAEさんが「観て良かった」と感じられたと知り、嬉しいです。

    2011/01/10 01:43

    きゃる様

    ずっと気になっていた、JACROW,私は全くの初見でしたが、きゃるさんも本公演は初めてでいらしたのですね?
    意外でした。

    きゃるさんがネタバレで詳しく書いていらっしゃるご感想が、ほぼそっくりそのまま、私も感じていたことで、驚いてしまいました。

    私自身は長く会社で働いた経験はないものの、半世紀以上も生きていると、周囲の人間の経験とかをずいぶん知っていて、世の中、もっとドロドロしているという認識があるので、どうも、このストーリーに現実社会のリアルさをあまり感じることができませんでした。

    でも、芝居の構成はとても手際が良いと思ったし、何しろ役者さんが皆さん、レベルが高く、ですから、全く意識を殺がれずに、舞台に集中できたことは確かで、この劇団は、私も次回も期待したいなと思いました。

    今年は、コリッチでの評判に左右されることなく、50年以上の観劇歴の自分の直感だけを頼りに、観劇先を選ぼうと思います。

    JACROWは、そんな自分の直感が、観た方がいいよと教えてくれた劇団でした。
    そして、観て良かったと思えた劇団だったので、内心ほっとしました。(笑)

    2011/01/09 23:42

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