ラヴズ・レイバーズ・ロスト ―恋の骨折り損―
東宝
シアタークリエ(東京都)
2019/10/01 (火) ~ 2019/10/25 (金)公演終了
満足度★★★
とびきりの人気俳優はいないが、そこそこの若手アイドルが男女合わせて10人も出る賑やかなミュージカル。シェークスピア作品の中では最も上演される機会の少ない(人気のない)戯曲をどうアレンジするかと楽しみに見た。王たち男4人の女絶ちの誓いと、4人の美女の来訪の始まりからロックな歌で聴かせる。
変人アーマードーの酒場女ジャケネッタへの下卑た恋、道化に託したラブレターの誤配、誓いを破った男たちの滑稽な姿、仮面舞踏会では女たちにからかわれ、最後、1年後の愛を誓うラストまで。脇筋の学者連もからませつつ、ストーリーはそのまま。しかし、セリフは大きく端折って、エッセンスで組み立てている。男たちのラブレターや、ビローンの愛の賛歌などの重要な場面は歌に。これがよかった。王女の悪ふざけをいさめるロザラインの愛の歌は原作にはない創作。これが一番しんみり聞かせた。
冗長なしばいを、若者も楽しめる現代のエンターテインメントに上手く脚色したと思う。それにしても見所は俳優・女優の若さそのもの。客席も大いに笑っていたが、俳優たちのおどけた所作や派手なアクションへの反応で、シェークスピアらしい皮肉や機知への反応は少なかった。「俺のアナコンダをあのアナへ入れたい」など、卑猥な歌もご愛嬌というべきだろう。
ただし、4組(五組)の男女の出会い(恋の始まり)のところが聞きづらかったし、段取り化して早すぎて印象が弱い。男たちが女たちに(あるいはその逆)一目惚れする場面をもう少しじっくり聞かせてくれれば、舞台に深みが増したと思う。シェークスピアの原作は、恋を前提にしているが、現代ではどうやって恋におちるかこそが大事なので。休憩無し1時間50分
三億円事件
ウォーキング・スタッフ
シアター711(東京都)
2019/10/12 (土) ~ 2019/10/20 (日)公演終了
満足度★★★
二年前の読売大賞優秀作。期待してみたが、今ひとつ不完全燃焼だった。前回を見ていないのだが、再演は難しいというジンクスにはまっているかもしれない。たった8人の尻拭い捜査本部での、所轄派と本庁派の確執、互いの好き嫌い、捜査方針の食い違い、手柄を巡って虚々実々の駆け引きなど、非常に緻密な舞台。ただ、細かい話が多すぎて、描かれる事件の大きな構図が、霧の向こうから十分にはリアルに感じられなかった。
しかし、題材は泣く子も黙る三億円事件。このネタを形にしただけで、2時間の体験としてなかなか面白かった。
ひとり立ち
サンライズプロモーション東京
紀伊國屋ホール(東京都)
2019/09/23 (月) ~ 2019/09/26 (木)公演終了
満足度★★★★★
おもしろかった。構成は①安倍政権、小泉進次郎、現代の時事ネタから始まって、②憲法に男女同権を書き込んだベアテ・シロタ・ゴードンの奮闘、③パントマイムから始まった松元自身の芸歴(8月に亡くなった恩人へのオマージュにもなっている)④映画ネタ。今回は「えんとこの歌」寝たきり歌人の感動的な人生⑤最後のアンコール。
ギャグ満載、要所要所に山をつくって、ぎゅっと感動させる。
終焉後にロビーに出たら、埼玉の共産党の参議院議員伊藤岳さんが、10数人連れで来ていた。それで思いついたが、後援会やサポーター企画としてもピッタリではないか。笑って泣いて、反安倍の怒りと活力がわく。おすすめします。
FACTORY GIRLS ~私が描く物語~
アミューズ
赤坂ACTシアター(東京都)
2019/09/25 (水) ~ 2019/10/09 (水)公演終了
満足度★★★★
よかった。労働問題と女性の自立・自由を訴える社会派にして、歌と華のある女優たちが織り成すエンターテインメント。一緒に見た友人は、最近見た中で一番の舞台にあげていた。アメリカ版「ああ野麦峠」である。
アメリカの大学プロジェクトがきっかけの若いクリエイターの習作を、日本チームで修正完成させて世界初演したというから、非常に珍しい出自で、歴史的意義のある公演でもある。
女性活動家リーダーの柚希礼音と、悩める知性派のソニン、若さとかわいらしさで際立つ石田にニコルと、有名どころが並ぶ。いまが旬の女優を眺めているだけでもうっとり。初めて見たが、太めの谷口ゆうなの歌がすごくうまかった。
社会派と言っても、現代に訴えるのは、単なる労働者の権利向上運動でなく、「女性」の問題に絞っているからだろう。低賃金、下積み労働、社会的地位の低さ、男性の下働き扱い、発言権の弱さ、家事育児の負担、性と愛等々、男性社会の中で女性が持つ問題は変わらないものが多すぎる。
男性として胸が痛い。
もう一人のヒト
秋田雨雀・土方与志記念 青年劇場
紀伊國屋ホール(東京都)
2019/09/14 (土) ~ 2019/09/22 (日)公演終了
満足度★★★★
戦争末期、特製防空壕の中でシャンパンを飲みながら敗戦後の保身を考える皇族と、下町の靴職人一家。対照的ともいえる二つの場が、靴職人が南朝の血をひく「正統な皇位継承者」ではないかということから、結び付き、笑いと悲喜劇をまきおこす。中心は皇族将校(葛西和雄)と人騒がせな南朝信奉将校(吉村直)、靴職人(島本真治)と妻(藤木久美子)で、ユーモアと生活感のある演技でよかった。
劇の骨格は以上の通りだが、飯沢匡の面白いところは、この周囲の脇役が彩り豊かで、劇にリアリティーを与えているところ。宮様を頼ってくる、元芸者、世間知らずの皇族の子供たち。あるいは、下町の隣組会長、小学校の教頭。「戦争は負ける」と公言する靴職人を最初は非国民呼ばわりし、ふんぞり返っていたが、「南朝の子孫?」という噂が聞こえてきて、当惑しつつ卑屈にふるまう面白さはたまらない。
劇団だからこそできる総勢23人の出演者による総力戦だった。休憩15分を挟む3時間5分。始まったのが19時なので、終わると22時過ぎと、かなりハードだが、見ている間は笑えてドキドキして退屈しない。それだけの時間をかける値打ちのある舞台だった。
渦が森団地の眠れない子たち
ホリプロ
新国立劇場 中劇場(東京都)
2019/10/04 (金) ~ 2019/10/20 (日)公演終了
満足度★★★★★
親子や夫婦のヒリヒリした感情を描いてピカイチの蓬莱竜太が、今回は団地の餓鬼大将を描いた。これがなかなか良くできていて、「ヒリヒリの子供版」というほど切ない舞台になった。仲間に「キング」とよばせる乱暴者の鉄志(藤原竜也)が、実は家では母に従順で泣いて詫びる。鉄志といとこの圭一郎(鈴木亮平)は、善人に見られようとしているが、実は心に闇を抱えてそれを隠している。その二人を第三者的につねに見ている圭一郎の妹(青山美郷)が明るくおてんばで気持ちいい。
木場勝己は脇役ながら、引っ張りだこで、他に俳優がいないのかというくらい。今回も渋く決めていた。奥貫薫も暗い陰をもった双子の姉妹(圭一郎と鉄志の母)を一人二役で、自然に演じていて舞台を引き締めていた。
開幕後、2場の圭一郎兄妹と鉄志の出会う場面は、笑い転げてしまった。自転車で街に買い物に行く場面は「ビューティフル・ワールド」でも舞台上で自転車をこぐ演出があたが、今回もうまい。鉄志の自転車「いなずまサンダー」号は、彼のええカッコしいの強情っぱりを視覚化していて、ぴったりだった。
ラスト近くの妹のセリフ、そして、最後に鉄志の、ここぞという心の重みがかかったセリフが最高だった。背景に3.11を思わせる地震があって、物語を動かす大きな影を落としているのも、観客を考えさせる。時々余震も起きる。戯曲の本で読みたい作品である。
治天ノ君
劇団チョコレートケーキ
東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)
2019/10/03 (木) ~ 2019/10/14 (月)公演終了
満足度★★★★
「維新の名君」明治大帝と、15年戦争に突っ込んで敗戦を迎えた昭和天皇。その間に挟まれて目立たない大正天皇の評伝劇。脳病で何もできずに死んだと思われていた大正天皇が、実は平和な時代の舵取りを目指した開明派だったのではないかという、ユニークな視点で描いている。ぎゃくに、明治天皇と昭和天皇は権威主義的な強権統治を目指したと、昭和天皇への批判になっている。
舞台は、真っ赤な玉座ひとつに、客席から玉座まで通じるレッドカーペットだけ。あとは黒一色の空間で、天皇家の人々、有栖川宮(若い大正天皇の後見役)、牧野伸顕内大臣、原敬、大隈重信、侍従武官が、大正天皇の整然と、死後の回想を頻繁に往復しながら、「天皇の宿命(さだめ)」の前に敗れた大正天皇の悲劇を描く。
どこからフィクションかはわからないが、大正天皇が明治帝や昭和天皇とは違う、気さくで格式張らない「天皇らしくない天皇」というのは、案外史実ではないかと思う。
祖父の意げなる天皇像に憧れて、「栄光の明治」を取り戻そうとする昭和天皇裕仁を見ながら、祖父・岸信介を尊敬する安倍晋三とダブった。一緒に見た友人も同じことを感じたと言っていた。安倍晋太郎は改憲など考えそうもない保守穏健派で早死したので、安倍三代は奇しくも三代の天皇にぴったりあてはまる。
大正天皇の妻の節子(さだこ)に松本紀保。2月に流山児事務所の「雨の夏、三十人のジュリエットが帰ってきた」で元スター役で出ていたが、同じ人とは思えなかった。「ジュリエット」では過去に閉じこもって生きる孤独な元スターのうらぶれ感が漂っていたが、今回は、凛として気品と気迫のある演技。エメラルド色のサテン(?)のドレスも格調高く着こなして、素晴らしかった。
どん底
新国立劇場
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2019/10/03 (木) ~ 2019/10/20 (日)公演終了
満足度★★★★★
今年のベスト3に入る素晴らしい舞台だった。「どん底」は20年以上前に見て、チェーホフ同様(失礼!)退屈な芝居と思ったが、こんなに面白いとは。かつて例外的に面白かったのはモスクワのユーゴザーパド劇場の「どん底」。あれは大胆なテキストレジーと、白い群舞のような視覚的演出だったが、今回は、会話劇として内容はほぼ原作通りにやって、大変面白い。(演出による設定の現代化については後述)
俳優、娼婦、女主人、イケメン男、死にゆくアンナ、男爵、生真面目なのに労災に合う不運なダッタン人etc。世のふきだまりに流れ着いたひとりひとりのあきらめと後悔と夢がくっきりと見えた。
それを癒すルカの言葉で、相手の気持ちがはっきりと変わる様子がリアルだった。
ロビーで配っていた人物のイラスト一覧紹介も、事前に目を通すと、作品理解に非常に役立った。
一つ一つのシーンもメリハリがあって、昔退屈に思ったのがなぜだかわからなくなってしまった。
女主人公がイケメンに、別れる代わりに主人を殺してと甘く強く誘惑する場面、あやまって喧嘩でイケメンが主人を殺してしまったあと、イケメンの恋人(女主人の妹)が「ふたりはグルです」と叫ぶ場面など、鳥肌ものであった。
わざと笑いを撮ろうとしなくても、何てことないセリフでも笑いが起き、皮肉や滑稽さの伝わりも十分。
そして、第4幕のサーチン! ルカの印象が強くて、いままでサーチンのことは全く忘れていた。しかし、サーチんこそ、この「どん底」の希望の語り手であり、社会主義思想を非常に婉曲に「よりよきものをめざして」と、つまり普遍的に語っている。解説を見ると、ルカの宗教思想に対して、サーチンの革命思想の対立とあるが、舞台では、サーチんはルカが乗り移ったかのように語る。ルカからサーチンへの精神のリレーがあり、だから、この考えはルカ一人、サーチンと二人だけのものではなく、他の人々にも広まっていくだろうという広がりを感じさせる。
全体は、高速道路の高架の橋脚下の工事中の空き地で、寄せ集めの浮浪者(?)が「どん底」を演じているという枠になっている。いわば「どん底」ごっこ。要所要所で、現代から芝居にストップが入って、それがまた面白かった。客席も大いに笑っていた。逆説的だが、ただロシアの話として再現しなかったからこそ、「どん底」本来のセリフと人物の切実さに集中できたのだと思う。素晴らしいの一言に尽きる。
休憩15分入れて2時間55分という、ほぼ3時間の長い芝居なのに、全く長さを感じなかった。舞台に浸る至福の時を味わった。ルカ役・立川三貴が最高だった。これほどルカ中心の芝居だったとは。これも発見だった。
愛と哀しみのシャーロック・ホームズ
ホリプロ
世田谷パブリックシアター(東京都)
2019/09/01 (日) ~ 2019/09/29 (日)公演終了
満足度★★★
コミカルな点はおもしろかったが、深みがない。シャーロックとワトソンに人間的苦悩と葛藤の深みを与えようとした点は、十分な成果をあげずに終わった気がする。俳優では広瀬アリスに見とれてしまった。美人はトクである。
休憩15分含め2時間25分
あつい胸さわぎ
iaku
in→dependent theatre 1st(大阪府)
2019/09/26 (木) ~ 2019/09/29 (日)公演終了
満足度★★★★★
期待にたがわぬ、笑えて胸のきゅんとする舞台だった。横山拓也さんの台本も、幅一メートル程度の段々を立体的に組み合わせて、家や、職場や、喫茶店や、街頭を自在にイメージさせる装置も、俳優の自然な演技もとてもよかった。
死と乙女
シス・カンパニー
シアタートラム(東京都)
2019/09/13 (金) ~ 2019/10/14 (月)公演終了
満足度★★★★
ロベルトは本当に独裁政権の協力者として、ポーリーナを強姦し弄んだ男なのか。段田安則はあくまで無実の善人のように見える。しかし、ポーリーナの宮沢りえの確信に満ちた告発は全く揺らがない。しかし、彼女のおもいこみなのか。かんきゃくはこの両者の間で、まずどちらに味方するか試される。
銃を突きつけて、前非を白状するように迫る、緊迫の連続だった。
宮沢りえの過去に囚われた告発が痛々しく、またまっすぐで凛としてカッコいい。いまさらながら、元アイドルとは思えない迫力だった。
「なぜ私のような人間ばかりがいつも犠牲になるの!」「あなたを殺すことで私が何を失うというの!」のセリフは、地獄を見た女性の言葉として、ゾッとした。
絢爛とか爛漫とか
ワタナベエンターテインメント
DDD AOYAMA CROSS THEATER(東京都)
2019/08/20 (火) ~ 2019/09/13 (金)公演終了
満足度★★★★
青春のおごりと怯えをよく描いていた。あまり努力もせずにスラスラ傑作を書いてしまう人間より、なかなかうまくいかず、それでも諦めずに頑張って達成した人間が、強い幸福を味わえるのだという説はなるほどと思った。普段は才能ないことを嘆きがちだが、凡才には凡才の喜びがあると。
それを、仙人の雲で山頂に連れて行ってもらうより、自分の足で山頂を踏んだ方が意味があるという例えは面白かった。
加治将樹が良かった。
日の浦姫物語
こまつ座
紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)
2019/09/06 (金) ~ 2019/09/23 (月)公演終了
満足度★★★★
この戯曲の舞台を見るのは二度目。初めてみた大竹しのぶ主演の時は、とにかくクライマックス場面に圧倒された。今回は落ち着いて全体の構造や細部に発見が多々あった。「女の一生」のあのセリフが、一番のクライマックスの決め台詞に使われているのを聞いて、おもわず笑ってしまった。
演出と美術の工夫で、格子状の仕切り板が前後に二列か三列に配されて、その上下の配置で場面転換の変化をつけるのは、シンプルだが奥行きのある変化で良かった。
悪魔を汚せ
鵺的(ぬえてき)
サンモールスタジオ(東京都)
2019/09/05 (木) ~ 2019/09/18 (水)公演終了
満足度★★★★
淀んだ、ゆがんだ血で呪われたような家族の、いじめと卑屈と悪意と反抗がぶつかり合う。名作「夜の訪問者」を思い起こした。ある裕福な一家の居間で、一家の隠微な秘密が明かされていくところは似ている。一方、場面転換があって一週間ほどの時間があることや、一人の介入者でなく、複数の人物が物語を牽引していくところは違う。
一番年下のサラの悪魔的性格が、最後までしたたかに生き続けるところに怖さがあった。長女の春乃役の歪んだ自己愛がすごい。会社の御子柴役も好演。そのほか、俳優は皆、それぞれの役の葛藤、目標と障害をよく捉えて演じていた。
スリーウインターズ
文学座
文学座アトリエ(東京都)
2019/09/03 (火) ~ 2019/09/15 (日)公演終了
満足度★★★★★
クロアチアのオーストリア−ハンガリー帝国時代の人間も含め、100年の歴史の移り変わりを、1945年戦後と1990年のユーゴスラビア分裂の始まりと、2011年のEU加盟の三つの日付の出来事で描く。日時は行ったり来たりする中で、大きな家族の運命が大団円を描く。その影に、皺よせを受けて弾かれた者の悔しさがあることも忘れさせない。出色の舞台であった。
なんといっても、登場人物の存在感が確固としてある。文学座の俳優の層の厚さと安定感が改めてみにしみた。次女役の増岡裕子が、最初は壁家族から浮いた脇役かと思っていると、最後に、彼女がこの家の大黒柱になっていたことが明らかになる。この大化けが良かった。
寺田路恵の没落貴婦人、倉野章子の老け役二人のベテラン女優が良かった。
上川路啓志が語る、敗軍の兵士の悲哀、愛馬との別れの場面も非常に印象深い。深くしみるいい声、いいセリフ術であった。石田圭祐も、いつものことながら、時代に取り残された不器用な男を怪演していた。
√ ルート
Pカンパニー
シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)
2019/09/04 (水) ~ 2019/09/08 (日)公演終了
満足度★★★
いろいろ不満はあるが、道徳教育の押しつけと事勿れ主義・出世至上主義の管理職の現実を、いじめ自殺事件を通して描いた功績が何よりも大きい。
セリフの一つ一つは、突飛なものではなく、教育の現場ではよく聞かれるであろうもの。その分、既視感はあった。
学校の現実を、2時間程度の芝居で示すために少々図式的ではあった。
堕落ビト
劇団桟敷童子
サンモールスタジオ(東京都)
2019/08/23 (金) ~ 2019/09/01 (日)公演終了
満足度★★★
天使の堕胎事件は、1949年11月×日と、やけに日付まで愚痴的なので、モデルになる実話があったのかと思うと、やはりあったそうだ。九大生が、妊娠した相手の諸湯学校教員女性の中絶手術を行って死なせた「九大生死の堕胎事件」。それをモチーフに、田舎の風習と情念、エリート層の家庭の束縛と貧困家庭に育った女性の上昇志向、そのズレ違いが生んだ悲劇を描いた。
おどろおどろしい事件の展開を、群読の登場人物が、ギリシア悲劇のコロスのように、運命として人間を超えた力で事件に突き進んでいく。
コンパクトな1時間40分。
ENDLESS-挑戦!
劇団銅鑼
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2019/08/27 (火) ~ 2019/09/01 (日)公演終了
女性社長のもと、環境に配慮した産廃処理事業をしている、埼玉の実在の会社がモデル。その取り組みに感動した女性制作者が、作家に執筆を依頼した。
まず説明的。特にはじめの方。産廃処理反対から、洪水の後片付けで会社を見直すようになる住民たちも戯画的すぎる。自然なリアルが基調の舞台とそぐわない。
モデル会社そのものは、主人公の女性社長が目標にする存在として、距離があるのは良かった。この目標の会社の社長はスマートでキビキビして、かっこよかった。好演。
文句はあるとはいえ、一度は仲違いした社員が帰ってきてまた仲間になるところでは素直に感動した。
アジアの女
ホリプロ
Bunkamuraシアターコクーン(東京都)
2019/09/06 (金) ~ 2019/09/29 (日)公演終了
満足度★★★★
震災と原発事故の放射能で壊滅した東京が舞台上に。傾いたり潰れた家の後ろには何十個も積み上げられた黒いフレコンパックの山。そこで、アル中の兄と、純粋だが精神的に危うい妹が暮らしている。
しつこいが憎めない書けない作家の一ノ瀬を吉田鋼太郎が好演。石原さとみは無邪気さが浄らかさにつながっていた。表情も演技も引き出しが多くて感心した。自然で力の抜けた山内圭哉も良かった。
舞台では、三人のほのぼのとして滑稽な、邪魔っけだけどいないと寂しいという感じの、ちまちました暮らしがある。そこに警官の友人の話や、外出した時の見聞として、中国人などの外国人グループと日本人自警団の対立、小競り合いが、舞台の外では起きていることがわかる、舞台上にリアリティがあるので、言葉だけのその背後の出来事も信じられる。
そうした孤立した、ギスギスした世界で、慎ましい願いが、最後に大きな悲劇の中で、実を結ぶ。小気味好い笑いも多く、ラストも引き締まり、見ていて気持ちよかった。
リハーサルのあとで
地人会新社
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2019/09/01 (日) ~ 2019/09/10 (火)公演終了
満足度★★★★
とにかく徹底的に緻密に作られた舞台。戯曲も、演技も、照明も。特に人物のコントラストをつけ、その心情を反映した照明が巧みで印象的だった。老いた演出家と若い女優の楽屋裏での対話。さらに、若い女優と入れ替わるようにして、死んだ往年の名女優にしてアルコール依存症の、その娘の母親が現れて、演出家と演劇と過去の関係を語り合う。幻なのか、過去の回想なのか。
三人の関係も、もしかしたら若い女優は演出家の娘なのかと思わせるセリフも一箇所あるが、ほのめかしただけで、他は他人として貫かれる。事実や現実は宙ぶらりんにされて、心象の中の真実の中で皆生きる。それでも観念的ではなく、大変リアルな土台のある世界がそこにある。演劇論を語る舞台でもある、人生を、若さと老いを、夢と挫折を、愛と別離を語ってもいる。
とにかく一つも無駄な釘のない緊密さに驚いた。栗山民也演出の傑作ではないかと思う。