満足度★★★★★
親子や夫婦のヒリヒリした感情を描いてピカイチの蓬莱竜太が、今回は団地の餓鬼大将を描いた。これがなかなか良くできていて、「ヒリヒリの子供版」というほど切ない舞台になった。仲間に「キング」とよばせる乱暴者の鉄志(藤原竜也)が、実は家では母に従順で泣いて詫びる。鉄志といとこの圭一郎(鈴木亮平)は、善人に見られようとしているが、実は心に闇を抱えてそれを隠している。その二人を第三者的につねに見ている圭一郎の妹(青山美郷)が明るくおてんばで気持ちいい。
木場勝己は脇役ながら、引っ張りだこで、他に俳優がいないのかというくらい。今回も渋く決めていた。奥貫薫も暗い陰をもった双子の姉妹(圭一郎と鉄志の母)を一人二役で、自然に演じていて舞台を引き締めていた。
開幕後、2場の圭一郎兄妹と鉄志の出会う場面は、笑い転げてしまった。自転車で街に買い物に行く場面は「ビューティフル・ワールド」でも舞台上で自転車をこぐ演出があたが、今回もうまい。鉄志の自転車「いなずまサンダー」号は、彼のええカッコしいの強情っぱりを視覚化していて、ぴったりだった。
ラスト近くの妹のセリフ、そして、最後に鉄志の、ここぞという心の重みがかかったセリフが最高だった。背景に3.11を思わせる地震があって、物語を動かす大きな影を落としているのも、観客を考えさせる。時々余震も起きる。戯曲の本で読みたい作品である。