Soul of ODYSSEY
小池博史ブリッジプロジェクト
ザ・スズナリ(東京都)
2025/02/22 (土) ~ 2025/02/28 (金)上演中
実演鑑賞
満足度★★★★
凄く面白い。
古代ギリシアの英雄、オデュッセウス(リー・スイキョン氏)は小さな島国イタケーの王。トロイア戦争で活躍したものの帰還せず、亡くなったと思われていた。その妻である王妃ペネロペ(森ようこさん)は絶世の美女で、各国の王子が求婚者として王宮に住み着いて帰らない。3年もの間、肉を喰らい酒を飲み女官を抱いて王宮を荒らしオデュッセウスの財産を食い潰していた。それにうんざりした王子テレマコス(アドラン・サイリン氏)は父親を捜す旅に出る。
空間演出家・小池博史氏は多民族国家のマレーシアに注目して国際共同制作を。異なる文化の融合と調和こそが今後の世界の鍵となる、と。飛び交う英語日本語北京語広東語マレー語(イタリア語やスペイン語のような言葉も聴こえたような)。古代ギリシア劇、京劇、能楽、イタリアの道化師幕間コント、日本舞踊、ロックにラップに歌謡曲・・・。ミクスチャーの塊だがそこに一貫して観客を退屈させない姿勢が見える。多言語でも奥のスクリーン上部に字幕が映し出されるのが親切。可動式の小さい幕に役者がハンディカムで撮影したものをリアルタイムで映し出す演出も。役者と映像を共演させたりもする。(森ようこさんまで撮影に回る場面も!)
ステージ上手に片開き戸になった壁掛け、ざっと60以上の扇風機とサーキュレーターが据え付けられている。それが開くと海上の暴風となりド迫力。
客席最前列下手でサントシュ・ロガンドラン氏が鳴り物を叩き、上手の太田豊氏がサックスやエレキギターを生演奏。
役者陣は白塗りに思い思いの奇妙なメイク。コンテンポラリー・ダンスのような踊り。『マハーバーラタ』を思わせる多種多様な民族衣装。
主演のリー・スイキョン氏は劇画調の顔でカッコイイ。
美貌の王妃、森ようこさんは凄まじかった。岩下志麻系の正統派美女なのに魂がPUNKなのだろう。ファンなら必見。
王子、アドラン・サイリン氏は万有引力っぽい。
陽気なティン・ラマン氏とヒールのセン・スーミン氏は観客を下ネタで盛り上げる。
海神ポセイドーン、今井尋也氏の唸りは本物。
一つ目巨人ポリュペーモス(セン・スーミン氏)のエピソードは愉快。
魔女キルケ、西川壱弥さんはエロい。
女神カリュプソー、津山舞花さんのかかと落とし。
冥界のシーンは幻想的で美しい。鏡とビデオカメラを使い能面の死者達と不思議な踊りでの邂逅。死の無常感に感じ入るオデュッセウス。選曲もセンス良い。
クリストファー・ノーラン監督の次作もマット・デイモン主演の『オデュッセイア』。2800年前にホメーロスが生み出した苦難の旅が今世界に求められている。憎悪の連鎖、欲望の果て、死人の山。現在と何も変わらない人間の業。世界語で綴られる『オデュッセイア』。
是非観に行って頂きたい。
ユアちゃんママとバウムクーヘン
iaku
新宿眼科画廊(東京都)
2025/02/21 (金) ~ 2025/02/25 (火)上演中
実演鑑賞
満足度★★★
何か変なリーディング公演だなと思って観ていた。横山拓也氏の「小説新潮」に書いた小説を講談師の神田松麻呂氏が絶妙の喋りで語り下ろす。ストーリーテラーであり、主人公・トラベルライターの「ジュンくんパパ」でもある。小学生の息子の所属するサッカーチーム「レアル岡町」。そのクラブマネージャーでもある「ユアちゃんママ」に橋爪未萠里さん。小説を講談師と俳優に託したら面白いんじゃないか、との試み。確かに何だかよく分からない新しい感触。
ドイツで本場のバウムクーヘンの食べ比べの仕事、硬くて甘くなくスパイシーで洋菓子っぽくない。その原稿をどう仕上げるか思案の主人公。締切が迫る中、息子のサッカーチームの合宿の下見の為、長野県戸隠にコーチと行かなくてはならなくなる。だがコーチが突然の高熱、代わりに駅にいたのは可愛くて魅力的な「ユアちゃんママ」。
是非観に行って頂きたい。
お伽の棺
有限会社ベルモック
すみだパークシアター倉(東京都)
2025/02/19 (水) ~ 2025/02/24 (月)上演中
実演鑑賞
満足度★★★
二面の客席に挟まれた舞台。囲炉裏を中心にした板間。四隅の蝋燭に火を点ける。登場人物はちょっとアイヌっぽい出で立ちにも見える。引き戸の開け閉めの音を平台の側面に備え付けた小さな木のスライドの音で表現。機織りの音も算盤を使ったりの工夫。(鈴木めぐみさんの発案らしい)。全て役者達でこなす。
『鶴の恩返し』の横内謙介流解釈。『いとしの儚』に感覚が似ている。肉欲と残酷で醜悪な暴力に塗り潰される無力な弱者が、この世のものとは思えない程美しい光景を垣間見る刹那。負の絵の具を塗りたくった先に見えた異形の曼荼羅。
決して嘘をついてはならない掟がある貧しい寒村。稲葉能敬氏は雪道で行き倒れになった高橋紗良さんを見付け、家まで運ぶ。だが母である鈴木めぐみさんは「余所者は危険だから棄てて来い」と命ずる。稲葉氏は母の言いつけに逆らったことがなかった。ずっと女房が欲しかった稲葉氏、若い女を手放すことに苦悶するも母の剣幕に負け、女を連れて外へ。だがやはり連れ帰って来てしまう。
稲葉能敬氏は性欲と村の掟と母からの支配に苦しみ悶える男。小心者で嘘をついた己の良心の呵責に苛まれ、そして何一つ出来ない。
鈴木めぐみさんは息子を支配する母親像の権化。
高橋紗良さんは適役だと思う。何者だかはっきりとしない陽炎、蝋燭の炎の揺らめき。
北直樹氏は村の男で村一番の権力者の長者に織物を納めている。
高橋紗良さんが織る見たこともない美しい真白な織物。降り積もった雪より白く、丹頂鶴のような艶やかさ。その白さに聖なるもの、尊きものまで感じさせる。
ラストは鮮烈。
是非観に行って頂きたい。
地上最後の冗談
銀プロ
OFF OFFシアター(東京都)
2025/02/18 (火) ~ 2025/02/23 (日)上演中
実演鑑賞
満足度★★★
(B)
韓国演劇界、注目の喜劇作家オ・セヒョク。みょんふぁさん一推しで今作の翻訳も担当。ブラックな笑いを売りにしているらしい。舞台は捕虜収容所。台詞は関西弁、九州弁を多用してニュアンスが日本人にもよく伝わってくる。駄洒落などかなりテキレジしているのだろう。
順に処刑される事が決まっている捕虜達は死の恐怖に怯えている。端の部屋の五人は足音と銃声のサイクルから、自分達が殺される迄の時間を想定する。
効果音と演奏を担う藤崎卓也氏が下手に座る。ブリキ缶のようなカホンに跨りパーカッションとしてリズムを刻む。口笛。赤い太いホースを吹いて銃声に。鏧(きん)を叩く。棒ざさらの音。
捕虜収容所の端の部屋の五人。
佐藤B作氏は次長課長河本の「おめえに食わせるタンメンはねぇ!」の声質に似た作り声が漫画チックでよく通る。この中で一番目上だと威張っている老兵。
長橋遼也氏はフジモンみたいで心根があったかい奴。
清田智彦氏は笑いのセンスが残念ながら兎に角ない奴。
佐藤銀平氏は熱血漢。
宮地大介氏はコミカルなリアクション。
逃れられない死が間違いなく順番に訪れる。とても受け入れ難い恐怖。更にそこに予期せぬ新入りが放り込まれる。しかも少年兵。年端もいかぬ子供を徴兵し戦地に送り込む国家の非道さ。もう銃殺まで数十分しかないのだ。
少年兵は宏菜さん。やっぱ凄い天性の勘。甲高い笑い声が「ケケケケケ」と飛び出て皆ゾッとする。
有馬自由氏は敵兵、銃殺の執行役。香港功夫映画に出てきそうなユーモラスなヒールできっちり決めてみせる。
上質な役者陣の醸し出す緊張感。超満員の観客が押し寄せた。佐藤B作氏の集客力か?生と死の極限状況で人間が出来ることとは?サルトルの『壁』のフリー・ジャズ。
是非観に行って頂きたい。
この豪華全キャストのサイン入りポスターが何と1000円!!
トウカク
ラビット番長
シアターグリーン BASE THEATER(東京都)
2025/02/14 (金) ~ 2025/02/18 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
(A)
奨励会からプロ棋士になれずに脱落した男(渡辺あつし氏)、書いた将棋小説が話題を呼びTVで特集される。共に番組に出演するのは奨励会同期で名人戦に挑戦するまでになったプロ棋士(三浦勝之氏)、陽気なアナウンサー(江崎香澄さん)。
小説の主人公は天野宗歩(そうほ)。江戸末期、世襲制だった名人位にはなれずとも実力最強の棋士として名を残す。殆ど彼についての文献は残っていない。残るのは棋譜のみ。読み込んだ棋譜から彼の生き様を類推する作品。
TV番組の公開収録の設定でありつつ、江戸時代の空間にタイムトリップした3人が天野宗歩の生涯を観察していく形。まずは天野宗歩の死後に廃墟となった住家。彼は刃物で目茶苦茶に斬り刻まれて殺されていたという。余程の怨恨か?そして床にばら撒かれていた将棋の駒。一つだけ足りない。
不潔でだらしなく酒に溺れ将棋以外何の取り柄もない天野宗歩(大川内延公氏)。
義理の父である大橋本家十一代大橋宗桂(井保三兎氏)。
その息子、宗珉(宇田川佳寿記氏)〈史実では大橋分家の八代当主〉。
家元出身以外で初の名人位となった十二世名人・小野五平(東野裕〈ゆたか〉氏)の若き日。
江戸時代の将棋家元三家は大橋本家、大橋分家、伊藤家。
伊東家の当主伊藤看寿(野崎保氏)、詰将棋の天才作家として名を残す一族。
実在した盲人棋客・石本検校(松沢英明氏)。
賭け将棋の胴元・剛吉(西川智宏氏)。
女郎屋の女将お時(柴田時江さん)。
労咳持ちの遊女・お龍(満〈みちる〉さん)。
その妹、お菊(花田咲子さん)。
西川智宏氏がMVP。内田健介氏と存在感がだぶる。物語を回すのはこういう粋な人物。
柴田時江さんも作品の文鎮。きっちり場を押さえてみせる声。もう一つの役も観客を興奮させた。
満さんと花田咲子さん姉妹も配役の妙があった。
人ハ落目ノ ココロザシ
劇団1980
駅前劇場(東京都)
2025/02/12 (水) ~ 2025/02/17 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
面白かった。
別役実っぽいセンス。星新一の中編小説っぽい。真鍋博のイラストのような幾何学的な背景もセンス良い。
無料の身の上相談所、カウンセラー(神原弘之氏)、その助手(上野裕子さん)、受付(木之村達也氏)。ハシモトという相談者が訪れるらしいがなかなか来ない。来るのはすぐに「ゴメンナサイ」と謝罪する口数の多い老人(柴田義之氏)。話が噛み合わず酔っ払ってるのかと勘繰る程。そこに和服の女性(一谷真由美さん)が乱入して来る。
「順番を待って下さい」「私は急患よ!」
身の上相談の急患ってのは一体何なのか?老人はその話が聴きたくて順番を譲る。
次から次から一癖も二癖もあるモンスター相談者が襲い掛かってくる窮地。カウンセラーは無事彼等の悩み事を捌き、道を示してやれるのだろうか?
巨体のヤクザ役の寺中寿之氏が豪快。安田顕と富澤たけしを足したような。
その連れの女役、山田ひとみさんも強烈。『いつかギラギラする日』の荻野目慶子みたいなアバズレ。
MVPは柴田義之氏、文句なしに巧い。
次回はなんと東京芸術劇場シアターウエスト!劇団の勝負を懸ける気だ。どちらも是非観に行って頂きたい。
美しい日々
新国立劇場演劇研修所
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2025/02/11 (火) ~ 2025/02/16 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
松田正隆戯曲の謎。
多分、『月の岬』しか観ていない自分にとっては謎でしかない世界。『月の岬』は訳が分からないが気になって仕方がなかった。思わせ振りな作劇、暗に考察を要求している。答えのない謎掛け(マクガフィン)狙いの作風なのか?それとも答は厳然として在るのか?
1997年の戯曲なのだがそれにしても随分古い設定。当時観たとしても70年代のドラマ風、山田太一や「神田川」の世界。ある種のパロディーとして観てしまう。(元々は高校教師の設定だったが今回は変えているのか?会話の内容から大学院に在籍しながら予備校講師をしているのかと思った)。
第一幕の舞台は古い共同アパート。風呂は勿論なく、トイレも流しも共用。隣室の男が置き忘れた果物ナイフをこれ幸いと使ってしまうような。
主演の風邪をこじらせている先生、横田昂己(こうき)氏は中迫剛っぽい。結婚を前にして悩み苦しむ。
ストーカーのように付きまとう教え子、萬家(よろずや)江美さんは平成バンギャファッション、何故かガンズTシャツ。
結婚を目前とした婚約者、高岡志帆さん。
親友でもある同僚、篁(たかむら)勇哉氏の買ってきた林檎。
もう一人の同僚の中村音心(そうる)氏。大野智っぽい。
その隣の部屋では働かない兄が妹に金をねだっている。
石井瞭一氏は若き伊藤克信風の世間に敗残した弱者。
その妹、水商売の飯田梨夏子さんは色っぽくて気になる。
浮世離れした恋人、齋藤大雅氏には何故か見覚えがあった。
ボロアパートの二階、二つの部屋で起きる諍い。どうしたらいいか自分では本当に分からなくなって、人を殺めてしまう。答が暴力にしか見出だせなかった。
自分的には篁勇哉氏と飯田梨夏子さんがMVP。
篁勇哉氏は名助演。昔の友人に似ていて好感。お人好しの優しい奴。いろんな役が出来そうなので使い勝手が良く引く手あまたになりそう。
驚くべきは第二幕。一体、これは何の話なのか?
是非観に行って頂きたい。
女性映画監督第一号
劇団印象-indian elephant-
吉祥寺シアター(東京都)
2025/02/08 (土) ~ 2025/02/11 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
所々欠けた木製の梯子が十余り舞台上部に吊るされている。映画のフィルムをイメージしているのだろう。欠けたフィルム、一体何が欠けたのか?
1959年(昭和34年)、京都の坂根田鶴子(たづこ)55歳の家を訪ねて来た映画プロデューサー(藤井咲有里さん)と助監督(岡崎さつきさん)。岡崎さつきさんは浜野佐知(300本以上ピンク映画を撮っている女性監督)をイメージした鋲の付いたPUNKな革ジャン姿。
坂根田鶴子(万里紗さん)が1934年に書いた手書きの準備稿を押入れの奥から探して持って来る。『Daddy-Long-Legs』。
結局その企画は実らず、1936年『初姿』を日本の“女性映画監督第一号”として撮ることとなる。当時32歳。
訪ねて来た二人に本当に撮りたかった映画について語るうちに坂根田鶴子は若返り、いつしか1929年(昭和4年)の京都・日活太秦撮影所前に立つ。24歳。
運命的な天才映画監督溝口健二(内田健介氏)との出逢い。夫の女癖の悪さに神経をすり減らす溝口千枝子夫人(佐乃美千子さん)との交友。
1933年(昭和8年)、大ヒットし、溝口無声映画時代の代表作となった『瀧の白糸』の撮影風景。浦辺粂子(岡崎さつきさん)と岡田時彦(峰一作氏)。
女性であることを全て捨てて男社会に飛び込んだ坂根田鶴子。一本のドイツ映画『制服の処女』に衝撃を受ける。レオンティーネ・ザーガン監督からスタッフ、キャスト、ほぼ全て女性。こんな映画を私も作りたい!
主演の万里紗さんが抜群に美しい。手塚治虫の漫画キャラのような表情。輝いている。
内田健介氏は今回も最高。溝口健二の天才と駄目人間の振れ幅を人間臭く形取る。
佐乃美千子さんも魅力的。ハイヒールのまま後方に飛び降りるシーンには驚いた。かなり段差のあるセット、振り向かずにポンっと。相当日々身体を動かしているのだろう。キレキレのダンス。
何役も兼ねる役者陣の着替えとキャラ変にも感心。
岡崎さつきさんは強烈な印象を。
内田靖子さんは癒えることのない心の痛みを。
ウォルター・ドナルドソン作曲の『私の青空』の替え歌が今作を一本貫く串となる。
戦前の映画黎明時代、魅入られた者達の狂騒。どうしようもなく映画が好きだった。この世よりも、銀幕に映し出された虚構の世界こそが真実だと思った。
かなり演出に力を入れ工夫を凝らしている。
見事な作品、130分、面白かった!
教育
劇団俳優座
俳優座スタジオ(東京都)
2025/02/07 (金) ~ 2025/02/15 (土)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
1955年(昭和30年)、田中千禾夫(ちかお)は今作で読売文学賞を受賞した。三島由紀夫の激賞で知られる作品。
フランスの田舎の村、エレーヌ(瑞木和加子さん)45歳と娘のネリー(椎名慧都さん)25歳、通いの女中(稀乃さん)が暮らす家。鉱山を経営する夫のルオウ(加藤佳男氏)60歳は月に一度生活費を渡しにやって来るだけで別の女と暮らしている。本妻ながら妾宅のような暮らしを強いられてきた二人はルオウを憎んでいる。外科医見習いでボードレールを愛読するネリーは男を知らず、愛というものが何なのかずっと考え続けている。
今日に限ってなかなか帰らないルオウに業を煮やしたエレーヌは外出、二人きりになった時、ルオウはネリーに「今日でここに来るのは最後だ」と告げる。そして自分こそが一番愛に誠実に生きてきた者であることを。
加藤佳男氏は小沢栄太郎みたいで凄い貫禄、格好いい。
瑞木和加子さんはルイズ・ブルックスを意識しているようななりで戦前のサイレント映画女優のような雰囲気。虚ろで気怠げな表情が映画的。
椎名慧都さんは若い頃の山本美憂っぽい。
おどる葉牡丹
JACROW
座・高円寺1(東京都)
2025/02/05 (水) ~ 2025/02/12 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
古代の円形劇場のようなステージをL字型で囲む客席に座・高円寺1をレイアウト。滝行に臨む議員の“家内”達が真白な行衣姿に竹の遍路杖を頼りにゆっくりと岩肌を進む。何という寒さ。肌を刺す冷気。真冬だと言うのにこれから滝を浴びる⁉口ずさむのは般若心経。いつしか歌になる。
仕事を辞めてきた旦那が突然来年の市議会議員選挙に出馬すると言い出す。は?全く理解不能。子供のない家庭、愛猫との日々。部長昇進が内定している妻。男社会でよくぞここまで耐え抜いた。それがいきなりの旦那の人生設計変更には付き合い切れない。正気?受かると思う?何がしたいの?
狂った人生の展開に絶叫する主人公は福田真夕さん。
地元の区の顔役である与党の県議会議員幹事長の妻(宮越麻里杏さん)を紹介して貰い話を伺うことに。区の現職の市議会議員の妻(堤千穂さん、廣川真菜美さん)。
隣の区の顔役である県議会議員の妻(井口恭子さん)、隣の区の市議会議員の妻(駒塚由衣さん、井口睦惠さん、橘麦さん)。
そしてその親睦会を束ねる地元の衆議院議員、法務副大臣の妻(みやなおこさん)。毎月集まって交友を深めている。
出馬するならば地元商店街会長の花屋(井口恭子さん二役)が後援してくれると言う。
皆の話を聴いていくうちに旦那の出馬に前向きになっていく主人公。裏方である女の戦いの面白さ。大学時代チアリーディング部で培った応援魂に火が点く。
伊丹十三や滝田洋二郎系の社会派コメディー。男を一切登場させない作劇。
裏金問題で逆風が吹き荒れる与党、女達の選挙運動はとどまる所を知らない。
浴室
ジェイ.クリップ
サンモールスタジオ(東京都)
2025/01/29 (水) ~ 2025/02/02 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
〈Aチーム〉
山﨑薫劇場。
やっぱこの人は凄いわ。圧倒された。ひれ伏す。名取事務所が手掛けるような重厚なテイスト。メチャクチャ鬱でシリアスな人間劇。内面を徹底的に凝視した人物造形。山﨑薫さんのファンならずともこれを見逃してはならない。
作品に流れる血は『愛を乞うひと』だろう。病的なまでに実の母親から虐待を受けて育った女性が主人公。家を逃げ出して今は一人の娘の母親になっている。ずっと今まで目を背けてきた母親との関係と到頭対峙しようと決める映画。
虐待されて育つと自分の子供に虐待をするようになるという虐待の連鎖。幼児期の家族とのアタッチメント(愛着)の形成こそが人間の心の立ち位置の基準となる。安心で安全な信頼関係を感じることが自分という存在の土台、基礎に。それが欠落して育つと愛着障害と呼ばれる心の病を抱えることが多い。人間不信、低い自己肯定感、各種の依存症、不安神経症···など負の連鎖。
誰もが無意識に自分で自分を治す方法を探っている。今作の主人公(山﨑薫さん)も母親に虐待されたトラウマから棄てた筈の香川の実家に帰郷する。結婚し妊娠したことを夫(寺内淳志氏)と報告する為に。実家の母親(西山水木さん)はいつの間にか再婚していて初対面の義理の父(蒲田哲氏)。
主人公はルポライター見習いで初めて自分が主筆で担当する仕事を与えられる。それは目黒女児虐待事件。5歳の幼女を実の母親と再婚した継父が教育に見せ掛けて虐め殺した事件。そのおぞましさに世間を震撼させた。
拘置所で母親(大井川皐月さん)と面会、取材が始まる。
浴室に閉じ込められ泣き叫ぶ幼女の書いたノートの文章に自分のトラウマが甦る。
『もうおねがい、ゆるして。ゆるしてください、おねがいします。ほんとうにもう、おなじことはしません。ゆるして。』
他の誰の話でもない。
「これは私の話だ。」
憎んでも憎んでもまだ余りある家族の正体とは、最早自分自身なのかも知れない。
是非観に行って頂きたい。
ワンス・アポン・ア・タイム・イン・バルコニー!!
爍綽と
浅草九劇(東京都)
2025/01/29 (水) ~ 2025/02/02 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
面白かった。
初演の諸々の部分を金掛けてパワーアップ。衣装美術なんかにメジャー感。テンポが良くなった気がする。
物語は『ロミオとジュリエット』のその後。仮死状態になる薬を飲んで死を偽装するジュリエット。その情報が伝わらず本当に死んでしまったと勘違いしたロミオは毒薬で後追い自殺。目を覚ましたジュリエットはロミオの死体を見て、絶望して短剣で自殺。これがシェイクスピアのオリジナル。
今作はジュリエットが頭の悪いロミオに先に仮死状態になる薬を飲ませ、何とか二人が生き延びられた未来を生きようとする話。
圧倒的。吉増裕士氏(内藤大助っぽい)とブルー&スカイ氏(梶原善っぽい)の狂気の大暴れをひたすら見せ付けられる。東野良平氏(飯尾和樹系)も負けずにハッスル。話がどうこうではなく、狂った笑いを執拗に求める病的なストイックさを感じた。観客に伝わらないであろう無駄に細かい笑いを無理矢理捩じ込む。台詞の神経症的な練り。台詞の被せの多用など視点が俯瞰的。ヲタクが突っ込みながら作品を観ている様をメタ的に被せているような演出。
清水みさとさんは元グラドルだけあってスタイル抜群。初日のアフタートークのゲストがサバンナ・高橋茂雄氏なのが謎だったが二人は夫婦だった。
内田紅多(べえた)さんの妙な存在感、不思議。
笑いに真剣な玄人衆がこぞってチェックに来ている場のうねり、ビンビン来る。この作家は一体何処に行き着くのか?
間違いなく笑える。是非観に行って頂きたい。
ミュージカル チキチキバンバン
avex live creative
東京建物 Brillia HALL(東京都)
2025/01/17 (金) ~ 2025/01/26 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
この会場は二度宝塚OBモノを観に来たことがあって、その時の席は一階後方。今回は二階、全体としては観易いが人物の細かな表情までは見えない。
発明家カラクタカス・ポッツ役・長野博氏は南原清隆に見えた。
その父、グランパ・ポッツ役・別所哲也氏は野性爆弾のくっきー!に。
バルガリア国のバロネス・ボンバースト役・愛華みれさんは渡辺えりに。
ジェミマ・ポッツ役・三木美怜ちゃんがMVP。彼女の溌剌とした生命の躍動こそが観客を元気にさせる。ここを基調として作劇すべき。
異様なまでのスタンディング・オベーションと複数回観劇を重ね出来上がってみえる客層はジュニアの小山十輝(とき)君のファンがメインだったのかも知れない。皆さんやたら好意的。
ドードーが落下する
劇団た組
KAAT神奈川芸術劇場・大スタジオ(神奈川県)
2025/01/10 (金) ~ 2025/01/19 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
まるで平原テツ氏の独り芝居のよう。L字型の2面の壁に囲まれた部屋。6本の蛍光灯が天井から吊るされている。それが時折点滅すると場転の合図。壁の上に寝そべった出演者達が舞台を上から覗き込んでいる。ロマン・ポランスキーの『テナント』みたいな被害妄想と強迫観念の構図。幻聴幻覚が自分の体内から滲み出てくる。かなり演出に凝って変えているので同じ戯曲の別ヴァージョンみたいな感じ。
今回観て気付いたのが安川まりさんが場のキーパーソンであること。要所要所で重しになっている。
初演時のイベント制作、藤原季節氏の役が秋元龍太朗氏になっている。ピン芸人秋元龍太朗氏の役は鈴木勝大氏に。バイトリーダー山脇辰哉氏の役が諫早幸作氏に。
前回は平原テツ氏の相方が登場しなかったと思う。今回はかなり重要な存在(金子岳憲氏)に。
音楽劇 わが町
俳優座劇場
俳優座劇場(東京都)
2025/01/11 (土) ~ 2025/01/18 (土)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
第一幕60分休憩10分第二幕55分休憩5分第三幕40分。
凄く好きな作品。以前翻案した作品を観たことがあったが本物は格別だ。俳優座劇場オールスターズの貫禄。本当にこの劇場が失くなってしまうのか?と詰め掛けた観客皆が思ったことだろう。
主演の土居裕子さんの輝き。進行の清水明彦氏の妙味。坪井木の実さん、片桐雅子さん、満田恵子さんの聖歌隊の灯し火。加賀谷崇文氏の発する痛み。高橋ひろし氏、斉藤淳氏の語る重み。奥田一平氏の純情。
作曲家上田亨氏の名曲が炸裂。「ストロベリー・アイスクリーム・ソーダ」は残る。
作品を味わうのではなく考える。考えて考えて考えて、そしてまだ判らない。それは自分のことだから。ソーントン・ワイルダーが何処まで考えていたのか。演劇の枠組を超越した思想の片鱗を感じさせたかったのか。
さようなら俳優座劇場・最終公演はシェイクスピアの『嵐 THE TEMPEST』で4月。観ざるを得ない。
二十歳の集い
Aga-risk Entertainment
上野ストアハウス(東京都)
2025/01/02 (木) ~ 2025/01/06 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
①『Go as Operation!!』
レンタルビデオ屋のベテランバイト、チーフのおっさん(矢吹ジャンプ氏)が主人公。バイトの大学生の女の子(榎並夕起さん)が辞めて郷里に帰る報告に動揺を隠せない。ずっと彼女に恋していたのだ。それを知らぬ彼女は信頼するチーフに常連客(小林和葉氏)への恋心を告げる。今日最後の日に彼に告白したいのだと。とてつもない急展開、迫られる選択肢にテンパるおっさん。とりあえず恋の成就なぞさせてなるものか。売れないバンドマンの常連客(古谷蓮氏)を借金をカタに協力させて恋が成就しないように舵を切る。
②『宇宙からの婚約者』
到頭恋人にプロポーズをする日が訪れた。主人公(岡田怜志氏)は給料2.5ヶ月分の指輪をセッティング。付き合って一年の彼女(榎並夕起さん)に求婚するも返事はNO。は?理由が酷い。「実は私、ウルトラマンなので」。
古谷蓮氏は窪塚洋介っぽい。
岡田怜志氏は余り見ないキャラ。観客と気軽にやり取りしながら場を回す。
榎並夕起さんは出ずっぱり。
①店長がお薦めする『ホーム・アローン2』、その心は?が面白かった。
②ウルトラセブンの最終話、モロボシ・ダンが友里アンヌに自分の正体を明かす名シーン。一瞬暗転、突如背景に銀ラメの幕がすっと下がり、手前の見つめ合う二人はシルエットのみになる。流れるシューマン『ピアノ協奏曲イ短調』。完璧な演出。今作ではこれにオマージュを捧げている。
赤毛のアン
劇団四季
自由劇場(東京都)
2024/12/03 (火) ~ 2025/02/16 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
『赤毛のアン』といえば「世界名作劇場」、高畑勲監督な訳で宮崎駿、近藤喜文の磐石の布陣。今も鮮烈に焼き付いている。ガキの頃からこいつらアニメの天才の才能を存分に見せ付けられてきたものだ。それ以来、原作も映画も観たことがない。一体、あれは何の話だったのか気になって観てみた。
19世紀末(1897年)カナダのプリンス・エドワード島にある田舎町、アヴォンリー。マシュー(飯野おさむ氏)とマリラ(大橋伸予さん)の老兄妹は農作業の手伝いの為にノヴァスコシア州の孤児院から男の子を引き取ることにする。本土から船と機関車を乗り継いでやって来る彼を駅に迎えに行くと、居るのは11歳のそばかすだらけの痩せた赤毛の少女。お喋りで空想癖で劣等感の塊で悲観的で癇癪持ちで感受性ビンビンのアン・シャーリー(三代川柚姫さん)。人間違いだと孤児院に帰す筈がいつのまにか彼女に夢中にさせられていく老兄妹。唯一の武器は心の純粋さだけ、そんな一人の少女が小さな町で生命を輝かせていく。
三代川柚姫さんの魅力に尽きる。これぞアン。そうなんだよ、この面倒臭いキャラ設定。リアルに周囲にいたら皆うんざりするかも知れない。この原作が名作なのはアンの造型に全くの嘘がないところ。原作者ルーシー・モード・モンゴメリ自らの少女時代の投影でもある。凄い主人公だった。
ダイアナ役の林明梨さん、スグリ酒でベロンベロンの名シーン。
恐怖のブルーエット夫人(杉山由衣さん)。
名曲、「アイスクリーム」の歌。
パフスリーブへの想い。
是非観に行って頂きたい。
文豪が多すぎる
劇団6番シード
新宿シアタートップス(東京都)
2024/12/25 (水) ~ 2024/12/29 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
大正12年12月25日、兵庫県有馬温泉にある旅館「梅梅坊(うめうめぼう)」。色々なものから逃れて女流作家・宇田川美樹さん(林芙美子っぽい?)が宿を取るも不手際で相部屋をお願いされる。原稿300枚を一週間で仕上げないと借金を返せないと煽る書生(永石匠氏)。
「梅梅坊」の若女将・高宗歩未さんは色っぽい美人で川島なお美っぽくもある。大女将・椎名亜音さんは『ガラスの仮面』で野際陽子が演じた月影千草っぽくもある。この配役は見事。
藤堂瞬氏(夏目漱石?)、佐藤弘樹氏(有島武郎?)、夢麻呂氏(小林多喜二?)、オオダイラ隆生氏(太宰治?)、那海さん達そこに偶然居合わせた文豪達を焚き付けてどうにか原稿を書かせるコメディ。
エリザベス・マリーさんの天井の梁を伝って移動するギャグは大受け。
矢島美音(みのん)さんはアイドル顔。
書道家・遠藤しずかさんの来年の一字は何だったのか?
はらみかさんの高級娼婦も見事。
この作家は脚本よりも演出の方が優れているのかも知れない。原稿用紙でキャスト紹介するオープニングや、音楽と役者の動きだけで時間経過を組み立てるモンタージュが素晴らしい。こういう工夫が観客を喜ばせる。空間の技術。
桜の園
シス・カンパニー
世田谷パブリックシアター(東京都)
2024/12/08 (日) ~ 2024/12/27 (金)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
チェーホフはよく判らん。S席12000円⁉『江戸時代の思い出』が面白かったのと天海祐希さんを(多分)観たことがなかったのでこわごわと抽選予約に参加。当選してしまった。『桜の園』自体は観ているがそこまでハマってはいない。
小間使いドゥニャーシャを野口かおるさんだと思って観ていた。途中、「そういや池谷のぶえさんも出てたな」と思い、「もしや!」とやっと気が付いた。そのぐらいキャラ変している。同じくロパーヒン(荒川良々氏)もやっと気が付いて驚いた。従僕ヤーシャ(鈴木浩介氏)もかなり後になって気付く。こんなキャラも演れるのか!?禿ヅラ被った大学生トロフィーモフ(井上芳雄氏)にも驚く。こんな贅沢な配役はない。わざとイメージと違うキャラを演らせるギャグなんだろう。
それにしても女主人ラネーフスカヤ夫人(天海祐希さん)の登場シーン。スターのオーラ。思わず客席は拍手しそうになっていた。背が高くピンと立ち、誰よりも際立つ存在感。これはファンが付くわけだな。宝塚でトップを張るとはこういうことだ。
家庭教師シャルロッタ(緒川たまきさん)のマジックもなかなかのクオリティ。老僕フィールス(浅野和之氏)も流石。屋敷の事務員エピホードフ(山中崇氏)の「ね」。隣の地主ピーシチク(藤田秀世氏)の借金をねだるクズっぷり。
荒野に咲け
劇団桟敷童子
すみだパークシアター倉(東京都)
2024/12/15 (日) ~ 2024/12/24 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
25周年記念作は劇団員のみで公演。これは本当に凄い作品なんだがどうにも伝えようがない。どんなに言葉を選んで積み重ねてみても大して伝わらないだろう。何だろうな、この感覚。気になった人全員に観に行って欲しいがチケットはもうあるのかないのか。このクラスの作品を年末にガツンとぶつけられて頭はクラクラ。次の桟敷童子の新作まではどうにか生きていたいと思った。
客入れのもりちえさんは見る度にどんどん痩せていく。
井上莉沙さんは可愛いが役柄が・・・。
ワンツーワークスのようにスローモーションで皆が駆けるオープニング。構成が映画的で時間軸が次々と飛んでいく。それを無理矢理成立させる役者陣。メイクと衣装と表情とでこの無茶を成り立たせる腕力。何度も強調して使用される対位法。象徴的なものはどうしようもなく不幸な場面に流れる「ラジオ体操第一」の明るいメロディー。黒澤明の好んだ演出で世界と自分とのズレを浮き上がらせる。今回は演出がかなり凝っており、バラバラにばら撒かれたシーンや夢、妄想や記憶が一枚のモザイクアートのように収斂されていく。
主演の大手忍さんは主演女優賞もの。中村玉緒みたいな嗄れ声で猫背の病んだ女性役。軽い障害のある人の受け答えそのもの。ここまで作り込んだか。
彼女の母親役、板垣桃子さんは助演女優賞だろう。確かにそういう女性が舞台上にいた。直視したくないものを直視させる演技の凄味。この表情。
彼女の弟役、加村啓(ひろ)氏が劇団員になっていた。押尾学みたいなふてぶてしい面構え。
彼女の父親役、三村晃弘氏の元気ハツラツとした健康的な笑顔。山登りとラジオ体操が大好き。とにかく身体を動かしてこそ人間だ。
従姉妹にあたる増田薫さんの表すリアルな痛み。誠実に生きているが故に誠実に我慢ならない怒り。
妹方の叔母にあたるもりちえさんの佇まい。再婚した家庭で会得したのは何も感じない“無”。そしてそれは当たり前の生活の一頁。誰にとっても特別なことではない。
彼女の義理の母親、鈴木めぐみさんが重要なパーツ。独り暮らしの老いぼれた交通誘導警備員だがSNSで動画を投稿していいねを稼ぐ。全く腐っちゃいない。今の時代を楽しみまくっている老婆の強さ。
大手忍さんのキャラはギリギリなところを突いている。観客の感情移入と生理的嫌悪のギリギリ。しかもユーモラス。こんな鬱話の中、観客が笑いでホッとする。そこのサーヴィス精神こそが数十年続く劇団の持つ地力。こんな話に和む笑いを入れる余裕。幾つもの修羅場を潜り抜けて来たタフなベテランの持つ味。
作家が10年以上前から着手していた実際の知人をモデルにした物語だそう。現実では彼女に何もしてやれなかった。せめて虚構(嘘話)ならどうにか出来るのだろうか?納得出来る救済のカタルシスを用意出来るのだろうか?だがそんな嘘話を騙ったところで一体何になる?
こんな負け戦の作品に心底取り組んだ作家の魂にRespect。
「一体どうしたらあんたを救えるんだろうか?」
「それは私が知りたいよ!どうしたら私は救われるのか!」
答えのない世界にただ問いだけが舞っている。
主人公(大手忍さん)の一生絶対に関わるつもりがなかった母親(板垣桃子さん)との電話のシーンでは泣いた。はらわたから振り絞る声、互いに何一つ嘘が存在しない。作家の安易なヒューマニズムに逃げない姿勢を支持。嘘臭い話で器用にまとめるのは簡単だがそんなものは現実と乖離し過ぎていて無意味。今作は虚構から現実を撃たねばならないのだ。嘘話で現実の人間を救う?笑止千万。だがやるのだ。
哀しみが嫌いだったら気のぐれた振りをすればいいし
別に悪い事じゃないさ ねえあんた少し変だよ
BLANKEY JET CITY 「ロメオ」