浴室 公演情報 ジェイ.クリップ「浴室」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    〈Aチーム〉
    山﨑薫劇場。
    やっぱこの人は凄いわ。圧倒された。ひれ伏す。名取事務所が手掛けるような重厚なテイスト。メチャクチャ鬱でシリアスな人間劇。内面を徹底的に凝視した人物造形。山﨑薫さんのファンならずともこれを見逃してはならない。

    作品に流れる血は『愛を乞うひと』だろう。病的なまでに実の母親から虐待を受けて育った女性が主人公。家を逃げ出して今は一人の娘の母親になっている。ずっと今まで目を背けてきた母親との関係と到頭対峙しようと決める映画。

    虐待されて育つと自分の子供に虐待をするようになるという虐待の連鎖。幼児期の家族とのアタッチメント(愛着)の形成こそが人間の心の立ち位置の基準となる。安心で安全な信頼関係を感じることが自分という存在の土台、基礎に。それが欠落して育つと愛着障害と呼ばれる心の病を抱えることが多い。人間不信、低い自己肯定感、各種の依存症、不安神経症···など負の連鎖。

    誰もが無意識に自分で自分を治す方法を探っている。今作の主人公(山﨑薫さん)も母親に虐待されたトラウマから棄てた筈の香川の実家に帰郷する。結婚し妊娠したことを夫(寺内淳志氏)と報告する為に。実家の母親(西山水木さん)はいつの間にか再婚していて初対面の義理の父(蒲田哲氏)。
    主人公はルポライター見習いで初めて自分が主筆で担当する仕事を与えられる。それは目黒女児虐待事件。5歳の幼女を実の母親と再婚した継父が教育に見せ掛けて虐め殺した事件。そのおぞましさに世間を震撼させた。
    拘置所で母親(大井川皐月さん)と面会、取材が始まる。
    浴室に閉じ込められ泣き叫ぶ幼女の書いたノートの文章に自分のトラウマが甦る。
    『もうおねがい、ゆるして。ゆるしてください、おねがいします。ほんとうにもう、おなじことはしません。ゆるして。』
    他の誰の話でもない。
    「これは私の話だ。」

    憎んでも憎んでもまだ余りある家族の正体とは、最早自分自身なのかも知れない。
    是非観に行って頂きたい。

    ネタバレBOX

    始まって山﨑薫さんだと思い、いや違うなと思い、やっぱりそうだなと思う。本物の女優。

    凄く好きなシーン。受刑者・大井川皐月さんに自分も虐待を受けてきたと告白する山﨑薫さん。大井川皐月さんは言う。「でもあなた死んでないじゃないですか?生きてますよね。それは何故なんです?」
    ぐっと言葉に詰まる。何故生きているのか?

    義父と末期癌の母親の遣り取りを妄想しそこに浮遊し否定し続けるシーンも好き。山﨑薫さんの一本調子の語りがリアル。

    ラストシーンは流石。人生は失った自分自身の欠片を探し続ける物語。いつかきっとパーツは揃い完全になれる。百鬼丸のように。

    山﨑薫さんと大井川皐月さんの対決に固唾を呑んでいただけに、いきなり時間が飛んで義父(蒲田哲氏)が上京して来る展開にはガッカリした。二人の立場が段々と入れ替わる『ゴールデンボーイ』、『羊たちの沈黙』を想像していただけに。

    もうカルマなのか、主人公(山﨑薫さん)は娘を産むがその子は軽い発達障害。社会福祉士(?)だった夫(寺内淳志氏)は意識高い系DEI(多様性・公平性・包括性)のモンスター化。能弁な無能に。邪魔でウザいだけの娘は最早ストレスでしかない。主人公は軽蔑すべき加害者側に足が引き寄せられていく自分自身にゾッとする。
    寺内淳志氏のモラルハラスメントは最高の見せ場。この為に彼の詳細な設定が必要だったのか。成程。

    癌で亡くなる母、西山水木さんが酔って本性が垣間見える描写は見たかった。回想としての声だけでも。

    冒頭、nWoTシャツからプロレス談義になり、小川✕橋本、新日✕Uインターの流れ。ちょっと作り物めいている。何かガチファンっぽい恥ずかしさがない。

    だぶだぶスウェット上下の拘置所スタイルは人となりに固定観念を植え付ける。皆ズボラで家庭環境に恵まれなかったADHDに見える効用。

    観客の中には懐かしい顔も見えた。

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    2025/01/31 21:53

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