DOUBLE TOMORROW
演劇集団円
吉祥寺シアター(東京都)
2017/09/08 (金) ~ 2017/09/17 (日)公演終了
満足度★★★★
新劇団の円が、このような舞台をわざわざ外国の演出家を招いてやるのはどういう意図があるのだろう。確かにこのところヒット作はないが、何もこの程度のフィジカルシアターをやったからどうと言うこともないだろう。確かに俳優には刺激になるかもしれないし皆嬉々としてやっているが、内容が薄すぎる。これが人生だって?? さびしいではないか。チェルフィッチュや地点を引き合いに出すのは気の毒だが、こういう小ぎれいなだけ、内容も適当に時事に合わせ、と言うフィジカルの時代は終わった。こういうのはもうダンスの連中に任せて、外国と言うなら、米英の優れた新旧の本邦未上演の戯曲がいくつもあるではないか。そうなれば円の俳優も実力を発揮できるし、吹き替えで着いた悪い癖も取り払うことが出来るだろう。いわゆる新劇系の劇団(と言われるのが嫌のようだが)の中では最も視野も広く期待している劇団なのだから。しかし、2時間15分。吉祥寺で満席は何よりだが、隣の席の業界らしき観客は終始眠っていた。
CRIMES OF THE HEART ―心の罪―
シーエイティプロデュース
シアタートラム(東京都)
2017/09/02 (土) ~ 2017/09/19 (火)公演終了
満足度★★★★
アメリカの橋田寿賀子である。
地方都市の自堕落な中菱家庭の三姉妹の物語だ。祖父が死の床にあり、母は縊死しているというのに、長女はコンプレックスの塊で男が出来ず、次女は歌手と言うが仕事がなく、三女はなんと自分の浮気(相手は少年である!)の現場を押さえられて、亭主を拳銃で撃つ。その銃撃のシーンから始まり、三人の女の勝手放題の論理が、次々と狂騒的に事件を生んでいくホームドラマ!2時間45分だ。ピューリッツア賞を受けたというだけあって、三姉妹の無軌道ぶりは半端ではなく、30年前にはアメリカの家庭に潜在する危機を容赦なくあぶり出して評価されたのだろう。
この作品が賞を受けたのは1986年。今あらためて日本で見ると、もう日本でもこの時代は終わっているという感じがする。問題がなくなったというのではなく、もうこういうことでは驚かない、つまり、芝居で見ても改めて感動することもない。唯々笑ってみるテレビと同じだということになる。舞台は結構凝っていて、中央に張り出したテラス舞台で、観客と同じ平面で進んで、まるでご近所の家庭争議を見るような気分だ。
俳優では、小劇場出身の伊勢佳世(三女)、と行き遅れの雰囲気をうまく出した那須佐代子(長女)が好演。ことに伊勢はベテランに交じって臆することなくこのどうしようもない女をドライに演じきった。イキウメの俳優も幅が広い現代性がある。拍手。
現代のアメリカ演劇はこういう身もふたもない話が多いが、アメリカの観客はこれで楽しめるのだろうか?この自虐趣味には少々辟易する。演出の小川絵莉子は新国立の芸術監督になるそうだが、宮田慶子との違いを出そうと余り露悪的にならないように願ってしまう。
戦争、買います
タテヨコ企画
【閉館】SPACE 梟門(東京都)
2017/08/29 (火) ~ 2017/09/03 (日)公演終了
満足度★★★★
小劇場には珍しい直球型の政治ネタである。
演劇と社会はもちろんかかわりは深いのだが、日本の新劇の歴史からも、この両者はいかにも「政治的」な関係でぎくしゃくしてきた。この舞台は武器輸出と中小企業の話で、少し前にトラッシュマスタズが同じテーマで、家族劇でやっていた記憶がある。一口で言うのは難しい問題で、ことにこの素材から社会と家族の運命を描いて、観客を納得させるのは容易ではない。
かなり現実的な素材なので、社会人が見ると、設定の安易なところとか、現実の法制の無知とかが露呈するが、こういう素材に小劇場が取組み、しかもかなりの観客(私の見た会は満席)を集めていることは、ジャニーズの顔見世芝居(これも時に面白いものもあるが)や2・5デメンションだけが舞台と言うよりは、はるかに健康である。
俳優たちは妙に現実的でリアリティがあるが、役を通して長続きしない。地と役とがまだら模様で、そこはいますこし精進されると良いと思う。作演出は力みすぎ。役の解釈ももう少し深く見て演技をつけないと、言葉は悪いがマンガになってしまう。
しかし、1時間45分こういう堅いネタでよく頑張った。
八月納涼歌舞伎
松竹
歌舞伎座(東京都)
2017/08/09 (水) ~ 2017/08/27 (日)公演終了
満足度★★★★★
夜の第三部「桜の森の満開の下」
野田歌舞伎の第四弾。今回は野田自身の戯曲を初めて上演する。ここまで新歌舞伎やオペラだねで十分様子を見たうえでの上演だ。野田は気合を入れたのだろうが、若い歌舞伎役者もすっかり野田演劇に慣れて、生き生きと演じて楽しい舞台になった。ことに七之助。華があって大舞台を支えるだけの力があった。勘九郎や染五郎は言わずもがな。裏方も大劇場の実力発揮。
野田がずっと通底音のようにテーマにしてきた日本の国の天皇制の謎をここでもうまく使って、「ワンピース」とは一味違う現代劇ドラマになった(もちろんワンピースも快作で、少し後の世代の横内謙介の別の面からの歌舞伎現代化は大いに評価するが)。坂口の原作もきっと、あれだけの敗戦があっても、根底では揺れもしなかったこの国の構造を気味悪いと思ったことが作品の動機になったのだろう。野田はそれを現代にもつづく謎と考えていて、ひつこくテーマにする。野田の場合は、社会一般に落とし込まないで、個人の運命に突き詰めて行くところがうまい。シェイクスピアにも通じる時代物の演劇の活かし方である。今回は最後に七之助が舞台から見事に消えて、芝居のたのしさも味わせてくれた。
ま、それにしても、一幕の設定(三人の職人や赤鬼青鬼などなど、いくら歌舞伎役者の数が多いからと言ってあれだけごちゃごちゃ登場すると客も混乱する)は少なからず過剰だったと思う。これだけ賑やかだと、深山の桜もひらひらと音もなくは降らない(原作引用部分は見事)だろう。
舞台ではオペラの名曲がうまく使われているが、こうしてみるとこの話は先のごちゃごちゃを整理してオペラにすれば、作曲に恵まれれば世界的にも公演できるのではないかと思った。武満が生きていたら、彼の作曲でオペラ版で最後のシーンが観たかったなぁ。
第23回稚魚の会・歌舞伎会合同公演
国立劇場
国立劇場 小劇場(東京都)
2017/08/16 (水) ~ 2017/08/20 (日)公演終了
満足度★★★★
夏恒例の催しである。いずれは笑也のように大成するかもしれない若者と、終生歌舞伎の世界で脇役や裏方など何ほどかの仕事をしながら支えるものがまじりあって、一つの舞台を踏む。学校演劇のような青春が商業伝統演劇の中にもあることが楽しいのである。ここでご贔屓になって生涯つきあったりすれば面白い人生の彩になるかもしれない、などと思うのは観客のロマンでもある。
舞台の成果は勉強会なのだから云々するのは野暮でやめるが、演目には疑問がある。一つ目の「番町皿屋敷」はもう大正になってからの新歌舞伎で、こういう作品なら今後いつでも学べるし、新しい工夫を持ち込める。ここでやるのはどうだろうか。歌舞伎でも最近は近代劇的にやるのが多くなっている由(渡辺保さんによる)でそれももっともだが、そうなればここでやる意味はない。今回の公演は、結構古めかしい演出で、見得も台詞も形を作ろうとしていたが、それはどういうことなんだろう。二つめの「紅翫」は字を出すだけでもパソコンで苦労する(翫)ほどだから十分古典であろうが、舞踊の会の最後で見せられる総踊りみたいで、玉石混交の御稽古の成果を拝見した感じ。歌舞伎を志す若者もこの頃はすっかりジャニーズ風になっている。現代的な体型の若者が多く今はそれを隠そうとしない。芝居は今のものだから、それでもいいのだが、いずれ大歌舞伎で畳の上や御殿をやるときの立ち居振る舞い大丈夫だろうか、と気がかりになる。そう言う伝統演劇の基本演技はこういう所で叩き込まないと。板の上に出てからでは遅いのである。
最後は「引窓」。やっと伝統演劇になる。曲輪日記はずいぶん無理な筋立ての芝居と思うが、この親子兄弟の情愛を何とか客に納得させてしまうのが古典の力と言うものだろう。無理な筋立てだから、ハラで押し切らなければ進めないところも多く、こういう会の演目としては荷がおもすぎたかと思わないでもない。ずっと説明的で近代的な皿屋敷の播磨が、菊を成敗しようと気持ちを変えるところもできていない(橋吾は全体としては柄も芝居もいいのだが)のだから「引窓」は親子兄弟ながら戯曲の説明だけでは難しい・今回の芝居二演目ともわかりやすそうだが、そもそもが無理難題なのだから、伝統演劇の形にハマってようやく成立する。そこのところの覚悟があやふやな感じがした。
などと老人の繰り言だが、劇場は大入り、カップルで見に来ている若い観客も多く、時に転寝をしながら楽しい夏の午後を過ごした。
罠
サンライズプロモーション東京
サンシャイン劇場(東京都)
2017/08/08 (火) ~ 2017/08/15 (火)公演終了
満足度★★★
この芝居だけは、いくらネタバレ欄があっても、ネタをばらすわけにはいかない。それほど、ネタで引っ張っていく正当なミステリ劇である。しかも、傑作との定評のある戯曲。何度も上演されているからいいじゃないかとは言ってもネタバレはやはり自制すべきだろう。
こういう手のミステリ劇は、20世紀の日本の商業演劇では結構期待されていて、クリエの前身の芸術座などは、ロンドンにならってミステリ劇専門の劇場にしようと考えられたこともあると聞く。しかし、それが叶わなかったのは、やはり傑作の戯曲が少ない、逆に言うとつまらないホンでは舞台にならない、役者も出たがらない、客も飽きる、と言うような条件があったからだろう。今月は珍しく現代古典ともいうべきミステリ劇の傑作「死の罠」(アメリカ製)に続いてフランス製の「罠」が上演された。
「罠」には6人の主要人物が登場するが、どういう犯罪が行われたのか、だれが本当のことを言っているのか、ミスリード入れ方が格段にうまいので、二転三転する芝居は、つられて見られる。
だが、なんといっても20世紀の芝居である。いくら人里離れた別荘地でも今ならこのようなことは、条件的に成立しない。そこを現代風に変えてしまうとたぶん白けてしまうだろう。元の戯曲は設定だけでなくセリフも結構愉快なのだ。それを面白く見せる俳優の表現や舞台演出にはもっと工夫すべきところがあるだろう。
最近の翻訳劇で成果を上げた舞台は、ほとんど、見ている間人種的な制約を感じさせず、普遍的な人間の役として演じられることが多い。「罠」の場合はあまりにも日本人的でない話なので、翻訳調を残したのかもしれないが、フランス人にもなりきれず、なんとなく全体にアテレコ芝居のような演技のぎこちなさが付きまとう。この6人の駆け引きは、それほどフランス的でもないのだから、もっと、読み込んで普遍的な人間の演技でやれば、もっともっと、面白かっただろう。この戯曲初演の頃から喜劇新劇団が取り上げたせいか、喜劇的ににやることが多かったが、今回はそこは無理をして笑わせようとしていないところはよかった。それで却ってボロが出た、ともいえるが。
また、芝居のテンポが一本調子で、押し引きが足りない。一つ頭の出た役者が居ればそれで引っ張っていくということもあるだろうが、そこも、それぞれの役者が適当にやっていて、悪くはないがよくもない。かなり空席の目立つ劇場だったが、これでこの戯曲がつぶれるのは残念だ。落語の名作のようなミステリ劇なのだから。
旗を高く掲げよ
劇団青年座
青年座劇場(東京都)
2017/07/28 (金) ~ 2017/08/06 (日)公演終了
満足度★★★★
コメントするのが難しい芝居である。
まず、企画がいい。時宜を得た、と言う言葉がぴったりの内容である。ナチが隆盛となり、滅びるまでの約十年のドイツベルリンの庶民史が素材で、政治も政治なら庶民も庶民、と言う話である。もちろんそういうことに警鐘を鳴らすのは新劇団の役目ではあろうが、なんとか教条的なところを抜け出そうという意欲のある公演である。言うまでもないが、この話、いまの日本人は向き合わなければならない切実な問題をはらんでいる。。
だが、芝居の中身にはいささか苦しいところがある。日本の戦時中の話は山ほど見ているわけで、それでは情緒に流れて問題の焦点が見えにくくなるということで、ベルリンの話にしたのであろうが、ドイツの庶民の話だから、当時のドイツ国民でなければ委細のわからぬ設定はとれない。夫婦に老父、娘と言う平凡な家族設定も、味方、敵の隣人のキャラクター設定など殆ど類型的である。エピソード自体も、これだけドイツネタの映画が入ってきている今となってはおなじみのものも多い。それでもなお、二時間を面白く見られるのだから、この作者・只者ではない。しかし、突っ込めば、観客にとってはやはり、実感的には隔靴掻痒で、俳優たちも、地でやっていいのか、ドイツ人でやるのか、戸惑っている。こういう公演だと一人くらいダントツに目立つ役者がいるものだが、それもいない。
ナチを素材にすると対立項がテーマ明確で芝居が組みやすくなる。かつて三谷幸喜もナチ物で「国民の映画」や「ホロヴィッツとの対話」を書いて、これも面白かったが、こちらは日本の新劇独自の人物への視点があった。
今回の「旗を高く掲げよ」は両国に共通する問題に抽象的に迫ろうとしたのはいいのだが、問題劇にとどまったのは、やむを得ないというべきか。青年座劇場はほぼ二百人余、超満員。こういう問題系新劇が入るのは何はともあれめでたい。
「月読み右近の副業」
劇団ジャブジャブサーキット
駅前劇場(東京都)
2017/07/28 (金) ~ 2017/07/30 (日)公演終了
満足度★★★
名古屋の産業は日本国の中軸ともいうべき真っ当さで我々を支えてくれているが、演劇となると、斜めに見た作風が多いのはなぜだろう。この劇団のリーダーのはせも、天野天街もはぐらかしにかけては天下一品だが、はぐらかしたあとどこへ行くのか、その先は意外に既知の世界にとどまってしまう。「ね?」と言われてもなぁ、という感じである。しかしもう十年は軽く超えるだろう、この二巨頭は、北村想が去ってから、第三の都を背負って東京公演を続けてきた。しかし、ここで一発、かつて「寿歌」で東京演劇界に与えたような衝撃を、名古屋の演劇界に期待しているのだ。
Hallo
東京芸術劇場
東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)
2017/07/29 (土) ~ 2017/07/30 (日)公演終了
満足度★★★★
東京芸術劇場が招聘する外国のパフォーマンスは一風変わっていて面白いものが多い。このところ、ダンス系、大道芸風のものが多いが、素人が外国へ突然行ってもみられるわけではないので、なるほどと思いながら見物するいい機会だ。税金ならではの企画で、ぜひ今後も大手興行資本に惑わされることなく、こういうことに使ってもらいたい。今回はスイスの一人芸(アシスタントはいるが)。外国のもので感心するのは動きが速いこと、振付がシャレていることで、この二点はなかなか追いつけない。体型の問題もある。(向こうには能狂言が出来ないのだからおあいこともいえるが)。音楽もよくあっている。大型の木枠を使ったナンバーはおおむね面白く、少し古くておセンチだが、旗を使ったナンバーも私は気に入った。体がバラバラになるのはその仕掛けが先に立ってウイットさが足りなかった。先に言ったことと矛盾するが、以前ここが招聘したルーマニアの演劇はよく出来ていて感動した。小さな国のいい芝居もこれこそこういうところでやってくれなければどうにもならない。一人芸より金はかかるだろうがお願いしたい。
Beautiful
東宝
帝国劇場(東京都)
2017/07/26 (水) ~ 2017/08/26 (土)公演終了
満足度★★★★
アメリカ最初のシンガーソングライターの青春ものだが、次から次にと出てくる曲になじみがない。それでもフィナーレで帝劇がお世辞でないスタンディングになる。平原綾香の初日。相手役のソニン、伊礼彼方、中川晃教も歌はうまいし、さらに脇に武田真治と剣幸。日本のミュージカルとしては技量的にはまず最高と言っていい顔ぶれだろう。その実力が遺憾なく発揮されて、新作ミュージカルとしては初演ながらまとまりもよく楽しい舞台となった。片親家庭の引っ込み思案の娘が二階級特進で進んだ高校で夫と巡り合い、歌も作るし、16歳で子供も産む。突進型に見えるが実質はそうでもなく地味なところを作者はよく書いている。平原も演技的にもこなして、ここがこのミュージカルのいいところだ。ソニンのカップルとの対比も生きた。伊礼と中川は、声域の関係もあるだろうが役者としては逆の配役の方が生きるのではないかと思ったが、どうだろうか。こういう場合原曲の歌詞を英語で歌いたくなるだろうが(その方が歌いやすいだろう)すべて日本語に翻訳してあり、歌の内容が観客につかめるところもドラマとしてみる助けになった。しかし、演出も振付もアメリカのスタッフによる。その方が、時折見せられる韓国版からの翻案よりも素直に見られるが、歌い手たちもこれだけうまくなったのだから、日本のスタッフもアメリカ版に頼らず日本独自の舞台つくりが(翻訳上演権の問題はあるだろうが)できるようになるのを期待している。
怪談 牡丹燈籠
オフィスコットーネ
すみだパークスタジオ倉(そう) | THEATER-SO(東京都)
2017/07/14 (金) ~ 2017/07/30 (日)公演終了
満足度★★★★★
牡丹燈籠はもともと話芸だけに物語の筋も趣向も飛躍(意地悪く言えばご都合主義)が多い。歌舞伎脚本が最もよく知られているのだろうが、それでも≪通し≫と言って全部やったのは見たことがない。武士社会の敵討ちとそのお家の従者たちの世話物が二重になっていて、ことにかたき討ちの因縁など複雑に絡んでわかりにくい。怪談はこの二者をつないでいるのだが、幽霊が出る事にテーマがあるわけでもない。ぐちゃぐちゃの人間関係、この世もあの世もありますよ、因果は巡る尾車の…と言うドラマなのだが、今どきそれでは見物は満足しないだろう。
と言うわけで今回の新作、もろもろの牡丹燈籠の種本を渉猟して新しく編んだフジノサツコの脚本。演出は売り出しの森新太郎である。工場(倉?)の改装した小劇場の舞台はノーセット。代わりに横に回転する舞台いっぱいに張られたスクリーンがあって、これが回る間に俳優がその隙間で演技する。と書くと、せせこましいようだが、照明と、大道具操作(回転係)の息が演技とうまくいって、見たことのない抽象舞台を作り出した。スクリーンの奥に俳優が去って照明がすっと動くと闇に溶けるように見える。場数が多い構成が説明なしで次へ行ける(これは功罪あるがそれは後で書く)。衣裳は全員現代衣裳でこれが違和感が全くなかったのはお手柄だが(木下歌舞伎もうまくいった)これにはやはり大道具をスクリーン一つにした大技の力が大きいと思う。
しかし、歌舞伎だとここは武家屋敷、伴蔵うち、船の上、とセットと衣装でハッキリ解るが、これでは、エートここはどこだっけ、だれだっけ、と理解するのに時間がかかる。テンポが速いので飲み込む前に次ぎに行くところもある。これは、原作の筋立てによるところも大きい。この話、歌舞伎でも最近は随分はしょった上にほとんど半分しかやらない。百両降ってくる世話物の部分が面白いので、仇討は添え物になっている。文学座が新劇でやった大西本などは仇討はカットである。今回のフジノ本はよくばりでずいぶん原作を取り込んでいる。構成上、面白そうなところは全部やっちゃえ、という精神だが、やはり人間関係がお客によく呑み込めていないと面白くない。お化けの出る怪談は、いはば、陰の引く話だから、もったいぶった間がないと怖くならない。余り怖くしたくないのかと思ったら、パンフレットでは演出が怖くしたいと書いている。うーんこれは歳のせいか。だが正直、後半話が詰まっていくところは駆け足で見る方も大変である。
そういう辛さも有りながら、この公演が面白かったのはナマの、役者の力だと思う。今回はキャスティングがすごい。80年代後半から現在までの小劇場、初期の東京ボ-ドヴィルの花王おさむから、チョコレートケーキの西尾友樹まで、つかこうへいアり、野田秀樹あり、道学先生にテアトルエコー、シャンプーハットといはば、独立路線を歩んだ小劇場劇団出身者にカブキ大御所の娘・松本紀保を加えた独特の大一座。現代役者名鑑である。彼らをまとめた森の演出力に改めて感服した。先ほどの話をひきとると、役者を見ていると物語の筋はあやふやでも面白いのである。細かく言えばいくらでも注文が出てくる舞台ながら、それをすべて越えて、この公演は成功だった。
不埒
TRASHMASTERS
駅前劇場(東京都)
2017/07/15 (土) ~ 2017/07/23 (日)公演終了
満足度★★★★
社会問題劇のトラッシュマスターズ。今回は東芝がメインテーマ。経済問題は、尖閣や外国人移民のように単純化できる点が見えにくいのでかなり苦労している。どこに問題点が隠されていて、どういう人間によって、そういう問題が動かされているか、と言うところに切り込もうとしているのだが、これを舞台で見せるのは難しい。やむなく、渦中の経営中間層の家庭を舞台に、労働問題から行こうとしているのだが、これもなかなか単純ではない。またまた、やむなく、市民運動や家庭内コミュニケーション、LGBTまではなしをひろげるが、こうなると新聞社会面の問題コラムのオンパレードの趣きになってしまう。何となく、ニュースペーパーのマジメ版みたいなところもあり、役者もうまくなったので、見ていれば飽きないが、尖閣を描いたときのようなドキッとする鋭さがない。東芝に絞って、問題点も仕事の意味とか、何か絞っていけば、話題を広げるよりは、標榜する社会性が生きたんではないか。しかし、この劇団が、旧左翼系のだらしない無気力劇団・作家に代わって、生きのいい社会問題に正面から向かおうとしているのは大いに期待している。作者にも何となく、現代版の宮本研を連想するのだ。
「ドドンコ、ドドンコ、鬼が来た!」
椿組
花園神社(東京都)
2017/07/12 (水) ~ 2017/07/23 (日)公演終了
満足度★★★★
もう三十年になるのか、恒例の椿組の神社のテント夏芝居。今年は女性の作者、演出者、美術と女性に占拠された公演だが、その誰もが夏のこの芝居をよく心得ていて、今どき本当に珍しいビールや焼酎を飲みながら見てもいい芝居見物になった。昔ばなし時代劇ながら、お話は盛りだくさんで、ほとんど行き当たりばったりなのだけど面白く見せる(もちろん巧みに計算づくなのだが無鉄砲な生きの良さがあるように見える)。長崎おくにちのような龍まで出てきて盛り上がるし、幕切れの加藤ちかのセットが秀逸。舞台転換速度も、こういう芝居によく似合って、文学座と言う老舗から出てきた作・演出にこういう芸があるとは!!。もう少しみぢかければもっといいのだが。2時間4分。
湾岸線浜浦駅高架下4:00A.M.(土、日除ク)
燐光群
ザ・スズナリ(東京都)
2017/07/06 (木) ~ 2017/07/19 (水)公演終了
満足度★★★★
今まで坂手洋二の戯曲を上演してきた劇団燐光群が故・深津篤史の初期の本を上演。演出は坂手だが、出演者も初めての人が多い。ここで燐光群がこれからの劇団活動の方向の模索としてこういう試みをするのは楽しみだが、それを評価することを前提として感じたことをいくつか。
1)坂手も認めているようにこの戯曲は深津の初期作品で若書きである。若いから時代に引きずられてるところも随分あって、直截に言うなら古い。人物造形も類型的で今となっては寓話にしかなっていない.せっかくの燐光群なら、劇団総出演で代表作をやってほしい。「うちやまつり」なんか、新しい面が見えるのではないか。
2)新しい俳優に言うのは酷だが、これでは台詞になっていない。ことに女優陣は声を出すということをもっと真剣に考えてほしい。こういうところはさすがに燐光群の役者は長い間やっているので、上手下手は置いても聞くに堪える。下手に混ぜるとバランスが悪いと思ったのだろうが、まとまったのは歌のシーンだけと言うのではカラオケではあるまいし困ったものだ。
3)こういう機会Dから、演出も少しタッチを変えたらどうだったのだろうか。坂手流でまとまってはいるのだが、型で見せられたような気がする。坂手に比べると深津のホンは随分情緒的でセリフも坂手にはない味がある(良い悪いではない)。そこが型にとらわれてしまったように感じた。
4)坂手ももう立派な中堅だが、この才能、うまくいかせる素材はないものだろうか。前期のブレスレス、天皇と接吻、神々の首都、屋根裏などは、素材も時代に迫る迫力があった。素材に政治性を求め、演劇の課題だと思うのは、井上ひさしが生涯共産党だと自身錯覚していたような不幸な思い込みのような気がする。もっと自由な広場でのびのびと書いてほしい。
DEATH TRAP / デストラップ
サンライズプロモーション東京
東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)
2017/07/07 (金) ~ 2017/07/23 (日)公演終了
満足度★★
この原戯曲はミステリ劇としては著名な作品で、日本でもすでに上演された。再演で新味を出そうとしたのか、喜劇調、というよりドタバタ劇の面白さを取り入れようと試みたのだろうが、それがうまくいっていない。何も原作通りにやれと言っているのではないが、チグハグで、役者のファン以外はしらけてみているほかはない出来になった。その役者オチもほとんど楽屋オチで、ドラマには関係ない。せっかく緊密な構成の原作をやるのだから、それを生かしたうえで何かをやるのならわかるが、これでは原作へのリスペクトもなければ、普通の観客を楽しませようともしない。例によって、ジャニーズ系の俳優も出ているが生かされていない。高岡早紀も生気がない。愛之助もどこが芝居の落としどころか迷っている。佐藤仁美も、もう少し相手役との絡みの面白さを出さねば。ファンへの顔見世の一幕だ。
OTHER DESERT CITIES
梅田芸術劇場
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2017/07/06 (木) ~ 2017/07/26 (水)公演終了
満足度★★★★
中嶋しゅうさんの御不幸は心からお悔やみ申し上げる。舞台で亡くなるのは役者の本望とは言うけれどそれは建前で、ご本人も残念なことだったろう。ことに中嶋さんは中年になってからがよくプロデュース公演の「新劇」には欠かせない俳優だった。個人的に印象に強く残っているのは舞台ではなく、映画の新しい版の「日本の一番長い日」で演じた東条英機で、今までどこか及び腰だったこの人物を正面から国民などなんとも思っていない栄達志向の軍人として演じて、一シーンだけで納得させたのは見事だった。そのリリーフは斉藤孝。演劇界では北海道地元演劇の出身者として知られているが、少し若すぎるし、中嶋さんとは感じが違いすぎる。初日は一幕しかやっていないのだから、本日初めての通し初日。これが、意外に、と言ったら失礼だが、中嶋さんとは多分大きく違う父親像としてまとまっていて大収穫。出演者五人、二時間半殆ど出ずっぱりなのだが、台詞も気が付くようなミスはなく、わずか四日にしては上出来だ。相手の母親役の佐藤オリエが、稽古のやりすぎか、いつもはよく聞こえる台詞が聞きにくかったくらいだ。
芝居そのものは、なんでいつもこうなるの、と言うアメリカ現代演劇の家庭内輪物で、かつては暖かいホームドラマだった世界を自虐的に崩壊させてみせる。女優陣が、オリエに加えて麻美れい、寺島しのぶと来れば、もう名優名演競演で、並の演出家では御しきれなかっただろうが、これも、意外に若い演出家の熊林弘高がおさえるべきところは抑え、少しはやりたいようにやらせて、抽象舞台できれいにまとめている。満席の大入り。
RENT
東宝
シアタークリエ(東京都)
2017/07/02 (日) ~ 2017/08/06 (日)公演終了
満足度★★★★
この作品が初めて紹介されたときは作者が初日の前にエイズで亡くなったということが広報されて、その影響か全体に暗く、救いのない調子の舞台だった。時代を経て、今は、あの80年代を懐かしむ調子である。街中に放置された倉庫跡に集った青春、と言うネタば、日本の小劇場初期もよくやったものだ。そのままの染色工場の後もあったし。彼らが放逐されていき、それぞれが大人の生活を求めてと言うところもよくある青春ものの結末で、一人くらいはなくなって、一人は瀕死の中から生き返る。誰がそうなってもいいのだがそれらが青春回顧にうまくまとまって、今回はいわゆるミューカルスターは出ていないがよくまとまって甘酸っぱく見られる。お客の方はこれから伸びそうな役者を見つける愉しみもある。振り付けがシャレていると思ったらやはり輸入だった。動きがもう少し切れると良いのだが、歌の方はまずまずで、今までのレントの中では一番安心して見られたのではないだろうか。
ただいま おかえり
東京タンバリン
小劇場B1(東京都)
2017/06/29 (木) ~ 2017/07/03 (月)公演終了
満足度★★★★
小劇場の劇団は一度は家族の「通夜物」をやる。身近でやりやすい(作りやすい)のだろうが、なんだか小劇場の人々の家庭事情を見せてもらっているような気分になる。タンバリンは中流家庭の、郊外に別宅(別荘と言うほどでもない)を持つほどの家庭のご主人がなくなっての「通夜」ではないが、「その後」もの。この劇団も長くなって、小劇場の技術には長けてきて、すらすらみられ、初夏の夜を過ごすにはいいのだが、だからどうだ、と言う小劇場の生きのよさはない。バランスはいいのだが、これからも見たいという役者もいない。こういう安定はどこは行くのだろう。作者が老後を気遣うのも解るような気がする。
『部屋に流れる時間の旅』東京公演
チェルフィッチュ
シアタートラム(東京都)
2017/06/16 (金) ~ 2017/06/25 (日)公演終了
満足度★★★★★
三月の五日間に続く「三月の四日間」である。前作は性を持て余す若者のしょうもない日常が世界につながっていく傑作だったが、今回は若い夫婦の内面的の心情を描いて、しかも、現在の世相に強くアピールする力もある傑作である。東北震災の前後を、これほど静かに若者の心象風景で活写した作品はない。今は亡き妻が語る日常生活の一コマ一コマに溢れる詩情豊かなセリフの素晴らしさ、それが全く生活から浮いていないところがいい。トラムは満席。立ち見がぐるりと客席を囲んでいたが、後半は平凡な表現で申し訳ないが、水をうったような静謐な感動が客席と舞台にあふれて、たまにはこんなこともあると芝居見物の冥利を堪能した。
「電車は血で走る」「無休電車」(本日6/24 14時電車・19時無休電車 当日券ございます)
劇団鹿殺し
本多劇場(東京都)
2017/06/02 (金) ~ 2017/06/18 (日)公演終了
満足度★★★
「電車は血で走る」
このところすっかり東京ではかげをひそめた全力疾走、血と汗の小劇場である。
ご苦労さまで済ませては悪いような気がするが、やはり、こういうスタイルは新感線が完成させて360度劇場で君臨している現状を見れば、懐メロになってしまう。新感線のような役者の多彩さもないのが残念だ。いろいろ手は混んでいるのに単調に見えてしまうのも損をしている。