満足度★★★★
赤テントの唐組から俳優が、下北沢の人気劇団・東京乾電池から演出と俳優が、新宿暴れ者の第三エロチカから作者と、80年代に、元気のよかった、というより一目置かれて畏怖の念を持たれていた、その三劇団が手を組んで、スズナリで公演を打つ、昔では考えられないが、いまは時代の変遷を実感する座組みの公演である。どんなことになっているのか見てみようとなるスズナリなのである。
この三劇団は、30年を超える風雪を生き抜いて、追従を許さない独特の個性のある舞台を作ってきた実績もあり、今も公演が打てる(第三エロチカはTファクトリーと名を変えたが)が、こういう企画をやろうとするところに、唐が書けなくなった唐組と、結局岩松以後座付を持てなかった乾電池の現在の状況がある。脚本を頼まれた川村毅もどうまとめるかかなり苦慮したに違いない。もともと、わが道を行くという以外にさほど共通点のない両劇団が、看板俳優を出すと言う公演である。しかも、客から勝手に言わせてもらえば、ともに出来不出来の激しい劇団である。ここは役者のガラの面白さと、話は手慣れたメタシアターで喜劇・・・となったのではないだろうか、と客は勝手に想像する。
舞台は、なんと、パリの北沢、である。登場人物もちろんフランス人で名前もそれぞれ横文字だ。売れない男性コーラスの4人が銀行強盗を成功させる。歌っている間にカナブンが飛んできたのに触発された強盗だが、成功してみると仲間割れである。誰がどういう理由で裏切ったか、誰がカナブンか? と言うナンセンス・コメディだが、川村脚本はハードボイルドミステリのお決まりの科白をちりばめて、話を運んでいく。川村はもともと技巧もうまい作家だがこういう大衆劇のような芸もあったかと感心する。だが、唐組も、乾電池も、笑いの中身は解っていても、この洒落っ気を舞台で生かすには、普段の習練が足りなかった。演出の柄本明も舞台美術などは旨いものだが役者をまとめきれていない。
脚本は、ショーのような軽演劇としてはよく出来ていて、俳優が、例えば、バンドのところやダンスのところで愛嬌の一つも出せればお客は喜ぶのにそこが出来ていない。
いくつも注文は出てくる公演ではあるが、この二劇団がやる企画としては十分面白いし、こういう東京喜劇の路線はあまり成功していないのだから挑戦し甲斐がある。大阪に席捲されてきた喜劇と笑いの世界をひろげることにもなる。