6号室
劇団黒テント
イワト劇場(東京都)
2011/02/02 (水) ~ 2011/02/06 (日)公演終了
満足度★★
残念
チェーホフの小説を舞台化したもので、元の小説を読んだことがないため、脚色や改編がどの程度に施されているのかは分かりませんが、4大戯曲とはかなり毛色の異なる作品でした。
医者や事務員が不正を行う腐敗した精神病院を舞台に、何を以て狂っている人とそうでない人の判断するのかを考えさせられる内容で、笑えるところもほとんどなく、閉塞感の漂う重い雰囲気でした。
客入れ時の導線や単調に聞こえる台詞まわしや唐突に断ち切られる場面転換時の音楽など、観客が物語の世界に没入するのを妨げるような演出の意図があったのだと思いますが、あまり効果的ではないように感じました。作品で描かれるディスコミュニケーションに対応させた表現ならば、もっと極端にした方が断絶ぶりを感じられて良かったと思います。
また初日だったせいか、まだ台詞がちゃんと入ってない感じで(かなりの長台詞で大変そうでした)、何が言いたいのかが伝わって来ず残念でした。
客入れのときから静かに存在を主張する、繊細な照明の美しさが印象に残りました。
同じ出演者で全員の役を入れ替えたバージョンと交互に上演するので、異なる配役のときにどのように違って見えてくるのかが気になります。
雨と猫といくつかの嘘.
青☆組
アトリエ春風舎(東京都)
2011/01/30 (日) ~ 2011/02/08 (火)公演終了
満足度★★★★
循環すること
ある平凡な男性の半生を淡々と静かに描いた作品でした。特に大きな事件が起こるわけでもないのですが、時を行き来する巧みな構成や、1人2役などの演劇的手法によって、個人の人生を通して普遍的なものに感じさせる豊かな70分間になっていました。
雨や猫、おかきなどが共通のモチーフとして各年代に現れ、人生の繋がりを感じさせて良かったです。
『100万回生きたねこ』の話と自然界を循環し続ける雨がリンクしていて、また雨と涙が比喩的に結び付けられ、色々な物や言葉が有機的に繋がって独特の世界観を形作っていたと思います。
主役の風太郎を演じた藤川修二さんの朴訥とした佇まいが暖かみを感じさせて良かったです。
食べ物、飲み物が全部実物だったのがシンプルなセットの中に生活感を出していて、特に上り立つ湯気がそこ儚い幸福感を醸し出していて印象に残りました。
ドンジョヴァンニ
みなとオペラ愛好会
台場区民センター・区民ホール(東京都)
2011/01/30 (日) ~ 2011/02/13 (日)公演終了
満足度★★★
演出不足がもったいない
毎週日曜日だけ練習しているアマチュア団体とのことですが、期待以上にハイレベルな公演で、3時間があっという間でした。モーツァルトの華麗な旋律を存分に楽しめました。
男性ソリスト陣は時折惜しい箇所が見られましたが、女性ソリスト陣はどのアリアも見事でした。
演出的には初めて観た人でも分かり易いオーソドックスなもので、字幕もあったので、あらすじを予習しなくても大丈夫なのは親切でありがたいです。
ドン・ジョバンニの女性遍歴を記したカタログがiPhoneだったり、パーティーで付ける仮面をサングラスに置き換えていたり、ちょこっと現代的要素を入れているのが面白かったです。
衣装は現代的な普通の格好で、舞台セットも後ろに白い箱を積み重ねただけのシンプルなもので、「オペラ」という仰々しさを感じさせなくて良かったと思います。
セットは人が持ち運べるサイズで出来ているので、騎士長の石像の登場シーンやドン・ジョバンニの地獄落ちのシーンで崩壊させたりするかと期待していたのですが、何も起こらずちょっと残念でした。
コーラスの人たちはあまり出番がないので、場毎に箱の配置を変えたりすれば空間に変化が出せると思います。
また照明もメリハリがなく、のっぺりとした感じになっていました。
スタッフクレジットに演出家の名前がなかったのですが、ちゃんと演出家をつけて音楽作品ではなく舞台作品として仕上げると、もっと良くなると思いました。
せっかく演奏は良かったのに、会場が多目的用の大部屋で残響がなく、客席とオケピットが同じフラットな床上にあってステージが見え難くなっているのがもったいなく思いました。
さらに欲を言うと、レチタティーヴォはピアノでなくチェンバロの伴奏で聴きたかったです。
空気と風 " De l’air et du vent"
シャルロアダンスジャパンオフィス
横浜赤レンガ倉庫1号館(神奈川県)
2011/01/28 (金) ~ 2011/01/29 (土)公演終了
満足度★★★
クールなダンス
タイトルの通り、空気と風をモチーフにした動きと小道具使いで構成されていました。ストーリー性を排しながらも、乾いたユーモアセンスもうっすら感じさせる作品でした。
始まって10分程は静かな動きでBGMもなく静謐な雰囲気でしたが、その後は嵐をイメージさせる、一糸乱れぬ激しいダンスや、ノイジーな音響が格好良かったです。
5人のダンサーのレベルが高く、柔かいゆっくりとした動きから鋭角的な動き、そしてマイム的な動きまで美しく表現していました。
大きなビニールや、梱包用の紙パック、鉄の棒など様々な小道具を使って、空気や風を感じさせてくれました。物音を構成したノイズ的な音響と、時折流される現代音楽とバロック音楽がひんやりとした空気感をかもし出していて印象的でした。
ソムリエ
靖二(せいじ)
シアターグリーン BASE THEATER(東京都)
2011/01/28 (金) ~ 2011/02/01 (火)公演終了
満足度★★
丁寧な作品
田舎の小さな本屋の店長とその兄、妹の3人を中心として丁寧に紡がれた、ちょこっとファンタジックな要素もある柔らかな雰囲気の作品でした。
舞台である本屋に似つかわしく、感情を爆発させるようなシーンはあまりなくて淡々とした展開ですが、兄妹間の微妙な距離感が上手く表されていて、退屈させられることもありませんでした。
万人向けな分かりやすい脚本・演出で、無理矢理笑わせたり泣かせたりしようとしていないのは好印象でしたが、演劇作品としてこの内容を上演する必然性があまり感じられないのが残念でした。
せっかく生の時間と空間を使って物語を描いているからには、小説や映画では表せない舞台ならではの質感を感じさせて欲しかったです。
役者の演技はあざとさを感じさせない自然な雰囲気で、すんなりと物語の世界に引き込まれました。松本大輔さんの、ちょっと変わった人の役をリアリティを失わない程度にデフォルメしているバランスが絶妙で、良いアクセントになっていたと思います。
くちびるぱんつ
ぬいぐるみハンター
王子小劇場(東京都)
2011/01/27 (木) ~ 2011/01/31 (月)公演終了
満足度★★★
毒少なめ
地球と宇宙の2つの世界の話が交互に入れ替わりながら進む物語で、役者たちの若さが輝く作品でした。
物語の内容や構成で見せるというよりかは、食い違う会話や、全員でのダンスや疾走といった勢いのある身体表現など、役者の個性を押し出した作風で、単純に楽しめました。
笑えるシーンが沢山あったのですが、終盤にしっとりしたシーンがあったりで、今までの作品に比べるとちょっと毒気が減って丸くなったように感じました。個人的にはもっとぶっ飛んだシュールな表現を見せて欲しかったです。アフタートークでタイトルの意味を説明されていましたが、タイトルに捕われて付け足したエピソードがあるように感じられました。
舞台美術はシンプルながら、キャットウォークやロビーの部分まで空間を有効に使っていてダイナミックでした。衣装もとても可愛かったです。この劇団はいつもBGMの音量が大きいのですが(個人的には好きです)、今回も選曲のセンスやしっかりした音響システムが気持良かったです。
ちなみに舞台の配置の関係上、遅刻すると入場が難しそうなので早めに行った方が良いと思います。
大戦死遊園
サイバー∴サイコロジック
OFF OFFシアター(東京都)
2011/01/26 (水) ~ 2011/01/30 (日)公演終了
満足度★★★★
無駄に壮大
遊園地の隣に建つ予備校の生徒が次々に消えていく謎を描いたナンセンスなミステリー・コメディで、歴史上の事実を強引に結び付けていたのが馬鹿馬鹿しくて面白かったです。
最初は大学受験に失敗して予備校に入るという身近な話だったのが、どんどん話が大きくなって世界的規模の話になるのが爽快でした。政治的・科学的な史実に関連させながら、破綻せずにちゃんと辻妻が合っている脚本は、勢いだけに頼らず良く練られていたと思います。オチがそう来るとは思ってもいませんでした。
屋内外が反転したようなシュールな(話の内容的にはリアリズムな)セットが立派でした。セットを使ったSF的ネタや、会話に入っていない人がこっそりする小ネタも個人的に好きなテイストでした。
壮大でナンセンスな内容はとても楽しめたのですが、このようなテイストで2時間弱の上演時間は少々長く感じました。90分程度だと疲れずに観ることが出来ると思います。
上手側だとちょっと見切れてしまうので下手側の席がお勧めです。
パパ・タラフマラの白雪姫
パパ・タラフマラ
あうるすぽっと(東京都)
2011/01/20 (木) ~ 2011/01/24 (月)公演終了
満足度★★★★
複数的であること
パパタラらしいダンス的要素が多く散りばめられた、不思議な世界観で描かれる白雪姫でした。物語の大枠は原作通りですが、登場人物たちの性格付けが単純な善悪になっていなくて、最後のシーンがとても狂騒的な雰囲気になっていました。
タンゴやケチャ、バレエ、ミュージカル、テクノなど複数の文化の様式がごちゃ混ぜの音楽/身体表現に加え、BGMが鳴っている中でパフォーマーたちが異なる曲を歌ったり、モダンにもプリミティブにも見えるパフォーマンスなど、複数であることにこだわった演出だったと思います。登場人物を複数の視点から見て解釈して表現していることとリンクしていて、立体感のある作品になっていました。
冒頭の7人の登場シーンは照明と動きが相まって幻想的でした。もう少し動作が揃っていたら、もっと印象的になったと思います。ビジュアルが洗練されていて、丁寧に作られた衣装や、継母が操る魔法の鏡付きの乗り物のノスタルジックなデザインが可愛かったです。舞台後方の家のセットが変容して行く様が不思議な質感で面白かったです(何で出来ていたのでしょうか?)。
最後のシーンは白雪姫を含め、欲望に狂う人々を描いていたように見えたのですが、ちょっと唐突だったように思います。
『OLと魔王』 ご来場ありがとうございました◎さよなら魔王!また会おう!!
舞台芸術集団 地下空港
シアターグリーン BIG TREE THEATER(東京都)
2011/01/19 (水) ~ 2011/01/23 (日)公演終了
満足度★★★
ビジュアルが素敵
悪魔が普通の人の家に召喚されたことによって起きる騒動を描いた物語でしたが、コメディと嘔っているわりには笑えるところがあまりなくて残念でした。
7つの大罪を司る悪魔たちは全身をカラフルなパイル地の衣装に身を包み、とてもチャーミングでした。銃や戦車など戦争、あるいは仏像や天使の翼など宗教をモチーフにしたかなり大きなオブジェがステージ上を縦横無尽に移動するのは迫力がありました。
視覚的にはインパクトがあって良かったのですが、他の要素はもう少し個性が感じられたらと思いました。前半のホームコメディタッチな部分は整理されていましたが、後半はエピソードを盛り込み過ぎて収集がつかなくなっているように感じました。
悪魔が人間の体を乗っとった表現として、悪魔と人間の2人が同時に同じ台詞を喋る演出は面白かったですが、長々と続くと聞き取りにくくてストレスを感じました。
音楽は台詞の邪魔にならないように丁寧にバランスが取られていましたが、もう少しメリハリをつけて、出すとこは出しても良いと思います。
リヴァイアサン役を演じた美舟ノアさんが多彩な台詞回しを駆使して素晴らしかったです。
今回初めてこの劇団を観たのですが、シリアスな作品も観てみたいです。
(再演)酒と泪と男とオカマ(ご来場ありがとうございました!)
ザ・プレイボーイズ
OFF OFFシアター(東京都)
2011/01/19 (水) ~ 2011/01/23 (日)公演終了
満足度★★★
意外に泣ける
チラシにある「ハイテンション回想劇」の謳い文句通りでしたが、ただのドタバタに終わらず、親子の愛憎を描いた心に染みる作品でした。父親の母親としての愛情が良く伝わってきました。
舞台上手に設置された屋台で主人公が自身とオカマになった父との関係を屋台の主人に話し、その内容が回想シーンとして舞台の中央で演じられるというスタイルで、次第に現在と過去が入り交じって行く演出が楽しかったです。クライマックスのシーンは3つの時間が同時に進行していてスリリングな展開になっていました。しかし、そのシーンで用いられる小道具が唐突に感じられて残念でした。身の回りにあるものでも十分に緊張感は出せたと思います。
役者たちの台詞回しや間の取り方が序盤は上手く行ってなくて、笑いを狙った箇所が滑り気味だったように思います。主人公の高校時代の友達役を演じた方の感情の振れ幅の広い演技が印象に残りました。屋台の主人役は演じていた方の容姿や声が若すぎて、ちょっと無理を感じました。演技自体は良かったので勿体なく感じました。
オープニングの映像はなかなか格好良かったのですが、キャストや主要スタッフの名前以外にも、協力者の名前などがズラズラと出てきたので、なんだかエンディングロールみたいに感じてしまいました。
水飲み鳥+溺愛
ユニークポイント
「劇」小劇場(東京都)
2011/01/18 (火) ~ 2011/01/23 (日)公演終了
満足度★★★
嘘
全く異なるテイストの2作品を通じて、「嘘」について考えさせられる公演でした。
『溺愛』
福岡で実際にあった、看護婦による連続保険金殺人事件をモチーフにして、事件に関わった人たちの嘘と、劇場で役を演じているという嘘が重なり合って、不思議な雰囲気が感じられました。頻繁に役者がメタレベルでの台詞を話し、客が劇場で見ているものは嘘のような本当なのか、本当のような嘘なのか惑わされました。
大仰な台詞回しや、脱がされたり縛られたりする役者たちなどちょっとアングラ的な雰囲気も感じられる作品でした。最後のシーンがよく見えなくて残念でした。
『水飲み鳥』
高校時代の友人の死をきっかけに、集まった30代になった同級生たちの一晩の物語で、こちらは普通のストレートプレイでした。久しぶりに会う友人たちとの会話に見え隠れする距離感がリアルでした。嘘というテーマが物語の中心となる直前のシーンで突然現実的ではない演劇的演出が挿入されるのが効果的でした。BGMで流れるオペラのアリアが、物語の内容に沿った歌詞の曲が選ばれていて面白かったです。
2つの対照的な作品から「嘘」という共通の主題が浮かび上がって見えて来る感じが興味深かったです。
構成も役者も良かったのですが、両作ともはっきりした終わり方ではないせいか、何か物足りなさを感じました。
終わりなき将来を思い、18歳の剛は空に向かってむせび泣いた。オンオンと。
青年団若手自主企画 だて企画(限定30席!)
アトリエ春風舎(東京都)
2011/01/14 (金) ~ 2011/01/25 (火)公演終了
満足度★★★★★
内容と形式
会場を高校の教室に見立てて、役者も客も入り混ざって着席する形で、「舞台と客席」という一般的な上演形態とは全く異なる作品でした。
色々な場所に座っている役者がすぐ近くで(場合によっては自分の席からは見えない場所で)喋ったり、客にもこっそり指示が来て演技をさせられたりと、一体感のある場が作られていて楽しかったです。
話自体は普通の形式で上演すると陳腐な感じになるであろう学園生活モノでしたが、今回は敢えてそういうベタな内容にすることで、特殊な上演形式の効果を際立たせていたと思います。映像の使い方もシンプルながら、とても効果的で良かったです。特に最後のシーンは洒落た趣向で素敵でした。
今までも観客参加型の作品はいくつか観たことがありますが、ほとんどの人が共通に持っている体験を利用して一気にその雰囲気に持って行く本作が一番上手く行っていたと思います。
自分も含め、高校生とはかけ離れた年齢の方もたくさん参加していたので、年齢や「観客参加型」に躊躇せずに体験することをお勧めします。
ヒールのブーツ
オーストラ・マコンドー
JORDI TOKYO(東京都)
2011/01/14 (金) ~ 2011/01/19 (水)公演終了
満足度★★
日常の中のドラマ
あるアパレルショップに出入りする人たちに起こるちょっとした出来事が淡々と描かれた作品でした。
渋谷から少し離れたギャラリー的な空間の会場の立地条件を上手く使っていて、会場の外まで取り入れて日常とそのまま繋がった空気感がかもし出されていました。
役者たちは役柄を自然に演じていて、特に女性陣は実際にいそうな雰囲気で素敵でした。
意図的にそうしているのだとは思いますが、それぞれのシーンの繋がりが感じられず、全体的にもあまり起伏のない物語の展開で、1時間ちょっとの上演時間が長く感じました。
各シーンでの感情の表現には惹かれるところがあったのに、総合的にはあまり満足感を感じられなくて残念です。
第5回公演 U-ru ウル
トランジスタone
調布市せんがわ劇場(東京都)
2011/01/12 (水) ~ 2011/01/16 (日)公演終了
満足度★★
壮大なスケールの物語
小笠原諸島に属する島を舞台に、その存在の証拠をほとんど残さずに滅んでしまった古代文明の人たちの葛藤の物語と、ちょっと抜けた感じの発掘調査団の物語が交錯する作品でした。
時代を超越したスケールの大きさに興味を惹かれたのですが、教科書的な構成と台詞が続く凡庸な物語にまとまってしまっているように感じました。変にこねくり回さずに分かり易く作っているのは良いのですが、もっとこの劇団ならではという個性や意外性を感じさせて欲しかったです。
役者の演技もいかにも「お芝居」な感じで、作品の世界観に入り込むことが出来ませんでした。ほとんどの役者が現代人と古代人の両方を演じていたのですが、せっかく2役なのに、あまり演じ分けを見せるようになっていなかったのが勿体なく感じました。ダンス的なシーンも何回かありましたが、表現として伝わってくるものが少なかったです。
前回公演の『エキスポ』はハートフルなコメディで、物語も演技も面白かった記憶があるので、今回の出来は残念です。しかし、全く違う作風を出してくる心意気は素晴らしいと思いました。せんがわ演劇コンクールで優勝した作品の再演が来月にあるとのことなので、期待しています。
時計じかけのオレンジ
ホリプロ
赤坂ACTシアター(東京都)
2011/01/02 (日) ~ 2011/01/30 (日)公演終了
満足度★★★
音楽にびっくり
イデビアン・クルーの井手茂太さんが振付で、前衛とポップの間を行き来する活動をしている内橋和久さんが音楽なので興味を持っていたのですが値段で躊躇していたところ、安価な立ち見券が当日券で出ていることを知って観て来ました。
キューブリック監督の映画版に似せたビジュアルで、物語は原作(読んだことはありませんが…)に基づいていて、エンディングが映画版とは異なっていていました。メタリックな美術と大画面での映像の多用でとてもスタイリッシュな雰囲気になっていました。「ウルトラバイオレンス」と宣伝文句にありましたが、商業系の劇場なのでバイオレンスの表現は映画版に較べるとかなり控え目で、後半とのギャップがあまり出ていなかったため全体的にマイルドな雰囲気に感じました。
お金を掛けたゴージャスな公演でしたが、あまり満足感が感じられませんでした。まず映像がうるさすぎて演技が負けているように感じて残念でした。役者の声もマイクで拡声しすぎて、立体感のない声になっていました。音楽も台詞がないシーンのときはライブハウスやクラブ並みの大音量にして欲しかったです。演出も映画版に忠実過ぎだったので、もっと独自性を見せて欲しかったです。
何幕かに分かれている作品だと休憩時間への移行のさせ方が演出家のセンスの見せ所だと思うのですが、本作では休憩時間中に役者に対してちょっとサディスティックでありつつ、客に対してはユーモラスなシーンが舞台上で続き、BGMで『第九』が流されるという、物語の内容ともリンクした形になっていて、巧みな幕間になっていたと思います。
映画版あるいは原作と違う箇所に対して「このシーンは映画版にはない」とか、「原作通りに演じた」などメタレベルの台詞があるのが面白かったです。
役者はキムラ緑子さんの存在感が光っていました。山内圭哉さんのいかがわしい雰囲気もユーモラスで楽しかったです。
期待していた振付は、井手さんらしい動きが所々に観られて楽しかったのですが、大勢での群舞になるとあまり迫力がなく、井手さんらしさを感じられませんでした(逆にイデビアンのレベルの高さが分かりました)。
今回の一番の収穫は音楽でした。てっきり事前に録音したものを使うものだと思い込んでいたのですが、開幕すると2層構造になったステージの上部に内橋さん以外にも芳垣安洋さん、高良久美子さん、ナスノミツルさんなど、オルタナティブ音楽界を代表するミュージシャンたちがいて、生演奏していてました。チラシや公式サイトにクレジットがなかったので驚きました。腕利きのミュージシャンによる音楽はとても格好良かったです。ちょっとマニアック系の音楽のファンの人は必見だと思います。
愉快犯
柿喰う客
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2011/01/07 (金) ~ 2011/01/16 (日)公演終了
満足度★★★★
徹底的な虚構性
新年にふさわしい賑やかで楽しい作品でした。家族の1人が死んだことによって起こる騒動を描いているのですが、物語を無効化するような演出がたくさん盛り込まれた構成になっていました。
ワークインプログレスの通し稽古も観させていただいたのですが、そのときよりもやりたいことが明確に表現されていて気持良く鑑賞出来ました。
円錐状になっていて水平な部分のないステージを5人の役者たちが走り回り、転げ回りながら、英語や繰り返し、オノマトペを多用した独特のハイテンションな節回しで喋りまくることによって、舞台上で起こっていることが虚構であることを強烈に表現していました。
5人の役者はそれぞれの個性が発揮されていて、魅力的でした。特に甲高い声でノンストップに喋り続ける深谷由梨香さんのエキセントリックさと、自分のボケに対して絶妙なタイミングでツッコミを入れる村上誠基さんの滑りキャラっぷりが面白かったです。
作品の内容ではなく、作品の構造自体がまさにタイトルの「愉快犯」の通りで、特にラストシーン(ワークインプログレスのときと全く違っていました)はそれを象徴していて、愉快で素晴らしかったです。
歌舞伎やバレエの要素からヒットソング、漫画、2ちゃんねるネタまで駆使した、馬鹿らしく見える表面の向こう側に、演劇に対しての批評的な眼差しが感じられる作品でした。
凛然グッド・バイ
劇団 Ugly duckling
駅前劇場(東京都)
2011/01/07 (金) ~ 2011/01/09 (日)公演終了
満足度★★★
戦争と詩人
各地で戦争が勃発している近未来を舞台に、戦争を止めさせる詩人の素質を持つ人、その先生、先生の娘の3人を中心に描かれる、不思議な雰囲気の作品でした。
物語やテーマをはっきりとは理解できませんでしたが、色々と惹かれる要素がありました。
女2人芝居のはずなのに、舞台上に4人いるという冒頭に意表を突かれたました。しかし、その後に続くメインキャストではない2人(脚本家と演出家が演じていました)のコント風のやりとりは笑えませんでした。以降に見られる飄々としたユーモアが良かっただけに、もったいなく感じました。
プロローグの後は場面転換の度に2人がいくつかの役を演じたり時間軸を前後したりするので最初は混乱しましたが、説明的な台詞がなくても、話が進むに連れて次第に関係が明らかになっていくように巧みに書かれていました。古い言葉と新しい言葉のディスコミュニケーションの様が切なかったです。
役者2人の演技が素晴らしく、様々な役の声色の使い分けや静から動のダイナミックレンジの広さで、2人芝居に見えない豊かさを感じさせました。
コンテンポラリーダンス的な身体表現は、エンターテインメント系にありがちなパラパラ風ではなく、舞台の進行に馴染んだもので効果的でしたが、体が振付に追い付いていない感じで残念でした。
照明が控え目ながらも物語に沿った的確な効果を生み出していて印象に残りました。
今回初めてこの劇団を観たのですが、本作をもって解散するとのこと。今回はあまり好みではありませんでしたが、個性的な作風としっかりした演技力に可能性を感じたので、もっと前から知っていればと残念に思いました。
メンバーそれぞれの今後の活動に期待しています。
冬に舞う蚊
JACROW
サンモールスタジオ(東京都)
2011/01/05 (水) ~ 2011/01/10 (月)公演終了
満足度★★★★
濃厚でした。
建設会社の不正を看過できない正義感ある社員と、その他の社員たちとの確執が描かれた、重苦しい雰囲気の作品でした。時間軸を前後に行き来する構成も分かりやすく、内容は重いながらも安心して観られる作りになっていたと思います。
悪いことだと分かっていてもそれを続けざるを得ない上司や、依頼人のことより自分のことを優先しているようにも見える弁護士など、善悪がはっきりしているキャラを描いていないところがリアルで共感できました。
テーマは好みで脚本もしっかりしていましたが、物語としてはありがちなものに感じました。もう少し意外性を出して欲しかったです。終盤の展開が畳み掛け過ぎで戯画的に見えて、それまでのじっくりと醸し出されていた緊迫感が薄れてしまったのが残念でした。
演出としてはオーソドックスで伝えたいことががはっきり伝わっていたと思います。ただ、映画や小説では表現出来ない、生の舞台表現だからこそ表現できるものをもっと打ち出して欲しかったです。
役者は多少演技がオーバーに感じる箇所もありましたが、初日であることを感じさせない安定感で素晴らしかったです。課長代理役の大塚さん
と、弁護士役の今里さんの演技が特に印象に残りました。
あまり新年早々にふさわしい雰囲気ではありませんでしたが、濃厚な空気感を堪能して楽しめました。
ちなみに、この作品内で行われている不正を「談合」と呼んでいましたが、正確には「癒着」じゃないのかなと気になりました。
贋作・Wの悲劇
劇団フライングステージ
新宿シアター・ミラクル(東京都)
2010/12/29 (水) ~ 2010/12/30 (木)公演終了
満足度★★★
まさに学芸会
年末にふさわしい、ゆるい雰囲気の中、軽い気持で観られる公演でした。
第1部は『Wの悲劇』のパロディで、『ウエストサイドストーリー』や『コーラスライン』のナンバーの替え歌が入る作品でした。物語や演出は普通なのですが、個性的なキャラクターばかりで、100分があっという間でした。変な格好をしながらも歌はちゃんとしているというギャップが面白かったです。
第2部は出し物6点でした。馬鹿馬鹿しいものばかりかと思いきや、色々なタイプの演目がありました(出来も色々でしたが…)。
劇団主宰の関根信一さんによる三島由起夫の『真珠』の朗読は、関根さんの「女優」っぷりと、物語のエスプリが上手くマッチしていて良かったです。
OLのキャラクターを演ずる松之木天辺さんによる歌謡曲に当て振りのダンスが、彼が所属するイデビアン・クルーの作品同様にユーモアとダイナミックさのバランスが良くまとまっていて見応えがありました。
大トリのドラァグクイーン的なショーは締めなのでもう少しショーアップした感じだったら良かったのにと思いました。
こ こ ち り【ご来場ありがとうございました!!】
miel(ミエル)
atelier SENTIO(東京都)
2010/12/23 (木) ~ 2010/12/27 (月)公演終了
満足度★★★
お洒落
豪華な作家たちと出演者たちによる、ダンスのある芝居というよりかは台詞のあるダンス作品でした。虹の7色をテーマにした各作家の短編とその間に入るダンスナンバーが交互に繋がる短編集といった趣きでした。
それぞれの脚本は色そのものをテーマにしたものから、その色から連想されるイメージを並べたものまで、テイストとしてもコメディからホラーまでバラエティに富んでいて、それぞれの作品がどの人の手によるものかを想像しながら楽しみました。ただユニゾンの多用や早口などの演出が台詞を聞き取りにくくしていたのが残念でした。もう少し台詞をしっかり響かせて欲しかったです。また、脚本の多様性に比べて演出が似通った方向になりがちなのも勿体なかったです。
衣装も小道具も照明も音楽も洒落たセンスでしたが、音楽の選曲はダンスに使うには普通過ぎて、ただのショーダンスにみえてしまう場面がところどころにありました。衣装も単体で見る分には凝っていて美しいのですが、舞台衣装としては主張し過ぎな感じがしました。色をテーマにしているので黒を使わず白だけに統一した方がコンセプトが明確になると思いました。
女性陣のダンスは表現力があり、素晴らしかったです。特に演出・振付の金崎敬江さんの動きが洗練された美しさで、印象に残りました。