雪と雲のつなわたり
本能中枢劇団
こまばアゴラ劇場(東京都)
2012/08/22 (水) ~ 2012/08/26 (日)公演終了
満足度★★
ゆるくて軽やか
お互いに関係性のない物語が連なって短編オムニバスのような雰囲気がある、脱力感に溢れた作品でした。
着ぐるみを被った2人が現れ児童演劇のように始まり、新劇的な台詞の言い回しや、テンションの高い演技と全員揃ってのダンスといった80年代の小劇場演劇のノリ、さらには歌舞伎がパロディー的に演じられ、演劇の「ダサい」部分を強調しているかのようでした。
あまりオチもなく、ゆるい雰囲気が支配的でしたが、もっとエッジーだったり、シュールな感じがあっても良いと思いました。80分程度の作品なのに、い休憩時間が2度もあり、変な空気感が漂っていたのが楽しかったです。
馬鹿馬鹿しさの裏で、演劇だからこそ表現出来るような何か実験的なことをしようとしている意図が垣間見えるのに、それが伝わってこず、ただ馬鹿馬鹿しいだけに見えて残念でした(自分の読解力の至らなさのせいもあるとは思いますが)。
役者達が個性豊かに演じていて楽しかったのですが、演技が表層的に感じられて物足りなさを覚えました。
音楽劇 オリビアを聴きながら
劇団扉座
青山円形劇場(東京都)
2012/08/22 (水) ~ 2012/08/31 (金)公演終了
満足度★★★
理想と現実の葛藤
尾崎亜美さんの既製のヒット曲を用いた音楽劇で、歌詞と物語が巧みに結び付けられた作品でした。物語はあまり好きなタイプではありませんでしたが、音楽の力に引き込まれました。
勤めていた不動産会社が倒産して無職になりながらも仲間に支えられて奮闘する男の物語と、その男の学生時代の恋人の付き合い始めから別れまでの回想が交互に描かれていました。
前半はウケ狙いのシーンが多く客の反応も良かったのですが、個人的にはあまり笑えず、もう少し落ち着いた雰囲気にして欲しかったです。後半は時代遅れの学生運動に入れ込んで行く彼女との確執を振り返って今の生き方を考え直す様子がドラマチックに描かれていました。
既成の曲を用いていながら、この作品の為の曲に思えるような構成が良かったです。
ラッキィ池田さんと彩木エリさんによる当て振り要素の強いコミカルな振付は作品の内容にあまり合っていないように感じました。
ターンテーブルを模した円形のステージは円形劇場に似つかわしい洒落たデザインでしたが、その美術が演出と絡むような趣向がなくてもったいないと思いました。
役者の出入り口の近くの席だったですが、初日だったせいか、裏から段取り確認の(?)声や小道具を動かす音が頻繁に聞こえて来たのが気になりました。
チェルフィッチュ新作『女優の魂』
チェルフィッチュ
晴れたら空に豆まいて(東京都)
2012/08/20 (月) ~ 2012/08/20 (月)公演終了
満足度★★★
落語的スタイルの演技論
ライブハウスを会場にした、佐々木幸子さんによる40分間の一人芝居で、報告口調の台詞回しで数役を演じる様子が落語のようでした。
ある公演で配役を交代することになった嫉妬で殺されてしまった女優が、演劇を始めて死ぬまでの経歴を語り、そして死後の世界で生前に少し関わりのあった男と出会って対話する物語で、小劇場演劇や美大生に対する自虐的な台詞を織り混ぜながら、岡田利規さんの演技論がその場で実践される体裁になっていて、興味深かったです。
役者の内的な感情表現はそれほど重要ではなく、パフォーマンスによって観客に何かしらの効果を与える「強さ」が大事という主旨の台詞に共感を覚えました。実際、佐々木さんの演技は一般的な意味での感情表現はあまりなく、必然性のない動きがダラダラと続くのですが、引き込まれるものがありました。
死後の世界に場面が変わる時と終盤には、この日の対バン相手のmmm(ミーマイモー)さんがエレキギターを持って上手に静かに現れ微かな弱音でBGMを演奏し、メガネ女子2人がお互い関わらずに立っている姿がユーモラスでした。
チェルフィッチュの作品の舞台美術はシンプルでクリーンな感じのものが多いのですが、和+アジアンな内装の会場との取り合わせも意外と違和感はなく、劇場での緊張感とは異なる、ゆるい感じが出ていて良かったです。
パリ・オペラ座バレエダンサーによるスペクタクル
フランス・バレエ国際コンクール事務局
ゆうぽうとホール(東京都)
2012/08/19 (日) ~ 2012/08/19 (日)公演終了
満足度★★★
将来が楽しみ
今年のローザンヌ国際バレエコンクールで優勝し、この公演の翌日にはドイツ留学に発つ菅井円加さんの短いソロ2本と、パリオペラ座バレエ団のメンバーによるデュオの短編からなる、合わせて30分にも満たない小さな公演でした。
『眠れる森の美女』よりオーロラ姫のバリエーション
『ファラオの娘』よりアスピチアのバリエーションのバリエーション
菅井さんのソロで、真っ直ぐに伸びた体の軸の安定感が抜群でした。『眠り』では腕の表現に少し硬さを感じさせたものの、『ファラオ』では空気に溶け込むようなフワリとした軽やかさがあり、素晴らしかったです。音楽に合わせて静止してポーズを取るのがピタッと決まっていて、観ていて気持良かったです。
実質踊った時間は10分もなく、もっと観たかったです。留学終了後の活躍が楽しみです。
『タイス』(振付:ローラン・プティ)
マスネの『タイスの瞑想曲』に振り付けたパ・ド・ドゥで、マリーヌ・ガニオさんとフロリアン・マニュネさんがヌードカラーの衣装で流麗に踊る、大人の色気を感じさせる美しい作品でした。
派手な技はあまり用いられていませんでしたが地味に大変そうなことをしていて、技術の高さを感じさせました。リフトをしたまま回転し続ける中、照明が静かに消えていくラストが印象的でした。
師匠の部屋(上演終了しました。ご来場、誠にありがとうございました。)
アリー・エンターテイメント
シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)
2012/08/15 (水) ~ 2012/08/20 (月)公演終了
満足度★★★
Mrs.fictions『花柄八景』鑑賞
近未来における噺家不在の落語ブームという設定の中、濃い登場人物達が物語を織りなす王道的な作品でした。やや古臭いスタイルの作りながら、登場人物が魅力的で楽しめました。
落語の対コンピューター戦に負け、世間から相手をされなくなった落語家の元に転がりこんで来たパンクスのカップルと頭の弱いストリートチルドレン、一度は弟子を止めたものの未練があって毎日師匠の部屋へ来るようになった元弟子のコミカルなやりとりから師匠や落語への愛情が感じられました。
感動的なシーンを大袈裟にせず、さらっと描いていたところにセンスが感じられました。師匠が脱ぎ捨てていった羽織を丁寧に畳む元弟子の様子が印象に残りました。
落語の噺の引用と、攻殻機動隊や初音ミク等のサブカルチャーネタの笑いの取り方のバランスが良かったです。シド&ナンシーの話を落語で演じるのが楽しかったです。
今村圭佑さんと小見美幸さんパンクスのカップルのキャラは典型的な描き方でしたが、台詞回しや間の取り方が上手くて、笑えました。ストリートチルドレンを演じた北川未来さんはあまり台詞はなかったものの不思議な存在感があり魅力的でした。
八月花形歌舞伎
松竹
新橋演舞場(東京都)
2012/08/04 (土) ~ 2012/08/23 (木)公演終了
満足度★★★
海老蔵オンステージの『伊達の十役』
お家騒動の物語を、海老蔵さんの10役演じ分けや、宙乗り、大掛りな美術といったエンターテインメント性溢れる演出で描く、楽しい作品でした。
冒頭の口上で、これから演じる10の役の写真が掲げられていて、簡単に登場人物の関係が説明されるので、発端から二幕目の滑川宝蔵寺土橋堤の段にかけて矢継ぎ早に異なる役を演じても混乱することもなく分かり易かったです。
三幕目前半の足利家奥殿の場は子役と竹本が活躍していましたが、あまり変化がない場面で、ちょっと長過ぎるように思いました。後半は立ち回りや宙乗りもあり、躍動感がありました。
四幕目の山名館奥書院の場は海老蔵さんの長台詞が印象的でした。門註所門前の場ではコミカルな要素も多くあり、シリアスな場面が引き立っていました。
海老蔵さんはほとんど出ずっぱりで、男女善悪を声や表情や動きで演じ分けていて見事でした。役ごとの個性を出す為に声を作り過ぎて何を言っているのか分かり辛いところがあったのが残念でした。
最後には忠義の自決を果たすことになる絹川与右衛門のとぼけたキャラクターや、腰元累の「畏まりましたー」の言い回しが楽しかったです。
色々な趣向が盛り込まれていて、休憩を含めて4時間半の長丁場でもほとんど飽きることはなかったのですが、強く引き込まれる部分もほとんどなく、少々物足りなさを感じました。
オールニッポンバレエガラ2012
オールニッポンバレエガラ2012実行委員会
メルパルクホール(東京郵便貯金ホール)(東京都)
2012/08/15 (水) ~ 2012/08/15 (水)公演終了
満足度★★★
バラエティーに富んだガラ公演
震災復興支援の為にダンサー達が企画して行われた公演で、若手からベテラン、定番の古典から先鋭的な新作までバラエティーに富んだプログラミングでした。
『ダイアナとアクティオン』よりグラン・パ・ド・ドゥ
冒頭の作品としては地味に感じましたが、八幡顕光さんの力強く豪快な動きが魅力的でした。
『シャコタン・ブルー』(振付:+81)
型の高さまで降ろした幕のの向こうでズボンを穿かずに踊る、人を食ったようなユーモアが楽しい作品でした。
『ラ・シルフィード』よりパ・ド・ドゥ
永橋あゆみさんの重さを感じさせないフワリとした動きがまさに妖精のようで、美しかったです。
『ON THE STREET』(振付:港ゆりか)
スタンダードジャズに乗せてハット&スーツ姿で踊るショーダンス的作品で、キザな振付が西島千博さんの雰囲気に合っていました。
『ブラックバード』より(振付:イリ・キリアン)
悲しさを秘めた優しさを感じさせる、祈るような穏やかに綴られるダンスに圧倒的な存在感があり、とても素晴らしかったです。
『ロミオとジュリエット』よりバルコニーのパ・ド・ドゥ
橘るみさんのしなやかな動きが美しく、ジュリエットの少女らしさ、喜びが出ていました。
『Mayday, Mayday, Mayday, This is... 2012ver.』(振付:遠藤康行)
カラフルな衣装を着た大人数が絶え間なくフォーメーションを変化させるのが魅力的でしたが、構成にまとまりがないように感じました。
『魂の優美』(振付:西島千博)
古典的なムーブメントをモダンな感覚で組み合わせた作品で、熱のこもった和太鼓の生演奏とドライなダンスのギャップが面白かったです。
『ドリーブスイート』(振付:ジョゼ・マルティネス)
テクニック的には安定していたのですが、段取りが感じられるわずかな間が何度もあったのが残念でした。
『こぼれ落ちる鼓動』(振付: 小㞍健太)
タブラの生演奏に合わせて踊る作品で、終盤ではタブラ奏者がダンサーの写真を撮り、不思議な余韻が感じられました。
『椿姫』よりパ・ド・ドゥ(振付:小林洋壱)
派手な技巧はあまりないものの、細やかな感情表現がされていて、見応えがありました。
『白鳥の湖』より黒鳥のグラン・パ・ド・ドゥ
米沢唯さんの弾力性とキレのある動きが魅力的でした。グランフェッテもばっちり決めて客席を沸かせていました。
『3 in Passacaglia』(振付:遠藤康行)
日本人ダンサーにはあまりないタイプの小池ミモザさんのワイルドな存在感をが存分に引き出されている、エッジの効いた作品でした。
『白鳥の湖』よりグラン・アダージオ
酒井はなさんの腕から指先にかけての繊細な表現が素晴らしかったです。もっと長く踊って欲しかったです。
『パリの炎』よりグラン・パ・ド・ドゥ
福島在住の14歳&15歳のダンサーによるパ・ド・ドゥで、失礼ながらおまけ程度に思っていたのですが、素晴らしかったです。特に加藤三希央さんは他の男性ダンサーに勝る跳躍も回転を披露していて見事でした。
フィナーレは『威風堂々』が流れる中を各組が少しづつ踊り、ガラ公演らしい華やかな雰囲気がありました。
古典よりもコンテンポラリーの方が振付家やダンサーの個性がはっきり出ていて楽しめるものが多かったです。
蜜 室(みっしつ)
まことクラヴ
シアタートラム(東京都)
2012/08/08 (水) ~ 2012/08/11 (土)公演終了
満足度★★★
アングラ的味わい
舞踏や社交ダンスのダンサーも出てくる雑多な雰囲気がいかがわしくて楽しく、ダンス的ムーブメントだけでなく演劇的構成も魅力的な作品でした。劇場以外での公演も多いカンパニーなので、劇場で公演することについて意識的で、うっすらとメタ的な構成が感じられました。
開場すると舞台上が「差押」と書かれたテープで囲われていて、ダンサー達もテープで巻かれて身動きせず佇んでいる異様な光景が広がり、開演時刻になるとテープカットのセレモニーが行われ、舞台やダンサーのテープが切られパフォーマンスが始まるのが印象的でした。
中盤はコミカルなテイストで、夏目漱石の『それから』の台詞を一人で語ったり、澤田有紀さんが向雲太郎さんに社交ダンスのレッスンするもののどうしても舞踏的な動きになってしまう様子が笑えました。
終盤になって開演前のアナウンスが流れ、開演してからそれまでの時間が幻のように感じられる効果があり、アナウンスの言葉が次第にゴチャ混ぜに編集され、『それから』の相手の台詞に変容していくシーンが素晴らしかったです。
最後は女性歌手2人(1人はダンサーの森下真樹さんで、歌だけの為に出演)が客席後方から現れ、ジャズ的な曲を歌い、差し押さえの札が舞い散る中またテープが舞台上に張り巡らされ、その向こうにダンサー達が並ぶ姿に迫力がありました。
冒頭と最後はとても素晴らしかったのですが、中盤が少々間延びして感じられました。
ダンスは群舞に勢いがあり、爽快でした。向雲太郎さんの異質な存在感があるときは奇怪にあるときはコミカルにと上手く用いられていました。
照明が凝っていて素晴らしかったです。
【13日(月)14:00追加公演ございます】父母姉僕弟君
ロロ
王子小劇場(東京都)
2012/08/05 (日) ~ 2012/08/14 (火)公演終了
満足度★★★★
家族との旅
時間を行き来しながら実の家族、仮の家族の関係性が描かれた物語で、シュールでノスタルジックな中に少しビターなテイストもある雰囲気が魅力的でした。
今までの作品とは異なる重く暗い質感も見られ、作風の深化を感じました。
ある夫婦が死別するとこらから始まり、夫婦の過去と現在と未来が並列して描かれ、反復や輪廻が盛り込まれていて不思議な時間感覚がありました。前半は色々なエピソードが乱立し、スベリ芸的な失笑系の笑いが多くて、不完全燃焼に感じられたのですが、後半は物語の芯が明確になり、印象に残る台詞もあり、見立てや音楽の演奏を用いた多彩な演出手法も冴えていて、引き込まれました。
ベタな感動を一旦相対化しつつもシニカルな表現にはせず、新鮮さを加味した上でベタに回帰した演出が心地良かったです。今までの作品は強烈な高揚感で賑やかに終わることが多かったですのが、爽やかな余韻を残す静かな終わり方が素晴らしかったです。
ベニヤ板だけで構成された舞台美術は、見てすぐにどういう大仕掛けがあるか分かってしまうのが少々勿体なく思いましたが、役者が意外な方法でその美術に関わることによって、とても美しいシーンとなっていて、強く印象に残りました。
漫画に出て来そうなようなキュートで個性的なキャラクターばかりで、全員が飛び道具的状態ながらも全体としてのまとまりがある演技のハーモニーが魅力的でした。
特に亀島一徳さんのちょっと駄目な所もある男らしさと、島田桃子さんの天使っぷりが素敵でした。
叔母との旅
シス・カンパニー
青山円形劇場(東京都)
2012/08/02 (木) ~ 2012/08/15 (水)公演終了
満足度★★★★★
最小限の要素で最大限の表現
世界中を旅し、多くの登場人物が出てくるスケールの大きな物語を男性4人だけでユーモラスに描いた、演劇ならではの魅力に溢れた作品でした。
平穏な人生を過ごして来た男が、年老いても奔放な生き方を続ける叔母と共に波乱万丈な旅をする物語で、都合が良過ぎる展開があったり、冒頭で提示される謎も前半ですぐに真実が仄めかされたりと、少々気になる点もありましたが、それを忘れさせる個性豊かなキャラクターの造形と想像力を刺激する演出が素晴らしく、作品の世界に引き込まれました。
1人で多数の役を演じるだけではなく、逆に4人とも主人公の男を演じるのですが、小道具を巧みに用いて役のリレーをしていて、全然混乱することがありませんでした。繋がりのある役同士や、ライバル的な役同士を同一の役者が演じる等、役の割り振り方にも洒落たセンスがありました。
また、敢えて舞台上で演じずに観客の想像力に任せるシーンもあり、素晴らしかったです。
役柄としての姿と、その役柄を楽しみながら演じている役者自身の姿が絶妙のバランスで舞台上で重ね合わされていて、とても魅力的でした。
あまり重要でない役の時にも細かい演技で観客の注意を引こうとする、作品を壊さない範囲の中で遊んでいる様子がチャーミングでした。
円形の舞台の下に置かれた本や食器等の控えめな美術に物語性が感じられて印象的でした。場面設定を示すのにアナログな手法で字幕的な表現をしていたのも楽しかったです。
クリンドルクラックス!
石井光三オフィス
世田谷パブリックシアター(東京都)
2012/07/28 (土) ~ 2012/08/05 (日)公演終了
満足度★★
自己の殻を破る
精神的弱さを克服しようとする演劇オタク少年の成長物語で、所々に生の舞台ならではの魅力的な表現が盛り込まれていましたが、全体的には盛り上がりに欠けるように感じました。
前半は台詞が主体で物語としてあまり動きがなく、演出も単調で笑いの取り方も表層的に感じました。怪物退治に向かう辺りから物語も演出も惹かれるところが出てきて、前半も同じくらいの魅力が欲しかったです。
弱いままの現状を肯定しようとする、悪魔の声的な幻覚と対話する場面で、畜光塗料を用いてトリッキーな視覚表現をしていたのが印象に残りました。光量が足りていなくて、はっきりとその効果が出ていなかったのが残念でした。
パースのかかった、セピア調の書き割りの美術に童話的な可愛らしさがあり、物語の雰囲気にマッチしていて素敵でした。
ベテラン勢の安定感のある演技も良かったのですが、見せ場が少なく残念でした。ROLLYさんの弾けた怪演&歌が生き生きとしていて楽しめました。
下生しさらせ右に左に弥勒で上に
リクウズルーム
アトリエ春風舎(東京都)
2012/07/27 (金) ~ 2012/07/31 (火)公演終了
満足度★★★
物語との距離感
状況や設定もほとんど明らかにならないままに6人の役者達が噛み合っているのかどうか微妙なラインの会話を続け、その中に物語や演劇に対しての自己言及的な視点を含んだメタ構造が感じられる、知的好奇心をそそる作品でした。
チラシに書いてある文章はあらすじというよりこの作品に対する前置きで、作品は泥団子についてのモノローグから始まり、試験を受けなかった女のエピソードや動物園を逃げ出したライオンの話が並行的に進み、しばしば突如にはずし気味な一発ギャグ的なシークエンスが挿入される構成となっていて、分かりそうで分からない匙加減が絶妙で、どんどん引き込まれていく感覚がありました。
全く意味不明だった前作『ノマ』に比べると会話になっている部分が多く、ある意味分かりやすくなっていましたが、それでもやはり哲学書のような妙に回りくどい言い回しを使ったり、瞬時に全く異なる話題に飛んだりと単純には飲み込めないテクストで、一筋縄では行かない言葉の散乱っぷりに不思議な新鮮さがありました。その言葉から劇的なるものを表現しようともがく役者の姿が印象的で、会話の流れと関係なく崇高さや色っぽさや怖さ等、様々な情感が現れていたのが印象的でした。
チープな材料を用いながらもかなりインパクトがある美術が素敵でしたが、作品全体との繋がりがあまり感じられなかったのが勿体なく思いました。
千に砕け散る空の星
ゴーチ・ブラザーズ
シアタートラム(東京都)
2012/07/19 (木) ~ 2012/07/30 (月)公演終了
満足度★★★
奇妙な質感の5代に渡る家族劇
イギリスの3人の劇作家が共同執筆した作品で、分かり易いドラマがあるわけでもなく、かといって難解で抽象的というわけでもない独特の雰囲気があり、キャッチ―な要素がなく地味なのに退屈さを感じませんでした。
地球が破滅するまで残り3週間と判明した状況において、癌で余命わずかな長男の元に集まる家族を描いていて、お互いストレートに感情を表に出すことがないアンビバレンツな感じが印象的でした。
全裸、セックス、同性愛、残虐性(非リアルに表現されていて血生臭さはありませんでした)等、ヨーロッパの演劇界では、このような要素を入れないと評価されないのかと感じさせる要素が多く、少々辟易したところもありますが、描かれる内容としては古典的だったと思います。
シリアスなシーンの中に急に話が逸れて行く、瓢々としたユーモアのセンスが楽しかったです。
台詞のテンポが早過ぎるように感じられ、10分の休憩込みで3時間近くあるやや長めの作品でしたが、寧ろ間があっても良いように思いました。演技のスタイルに統一感がなくて前半は気になりましたが、次第に違和感がなくなって行きました。
年齢や見た目の設定に合ったキャスティングにはなっていなかったのが残念でしたが、悩みを抱えつつ強気に振る舞う母親を演じた倉野章子さんが素晴らしかったです。
上村聡史さんは転換に見せ方にこだわりがある演出家だと思うのですが、シーンの転換で完全に暗くせず椅子や小道具を運ぶ役者の姿を見せる今回の演出はスマートさが感じられず、そうする意図が掴めませんでした。
空間的な広がりを感じさせ、アンビエントな音を鳴らし続けることで静寂を引き立てていた音響が素晴らしかったです。
マクベス
日伊舞台芸術協会
日暮里サニーホール(東京都)
2012/07/25 (水) ~ 2012/07/25 (水)公演終了
満足度★
観るに堪えない公演
オーケストラや合唱を必要とする規模の大きな作品をピアノ伴奏と必要最低限の歌手に絞ったコンパクトなプロダクションでしたが、演奏も演出も酷くて早々に観る気が失せ、第1幕が終わったところで退出しました。
2本の柱以外は何もない空間が間延びして見える、メリハリのない照明や、使い方が適切でなくて全く効果がないスモーク(?)や、必然性の感じられない、わざわざ客電を点灯した客席を通っての入場等、物語の世界が伝わって来ない演出でした。
予算の関係で仕方ないのでしょうが、衣装や小道具が安っぽかったのが残念でした。無理にコスチュームプレイにしなくても良いのではと思いました。
マクベス婦人を歌った石橋珠美さん(この方が「橘裕之」という別名義で演出も担当)が音域によって音色が異なり過ぎていて、特に高音域は無理矢理絞り出したような硬い声で、ピッチも全く合っていなくて、聴くに堪えませんでした。
体調不良でボロボロだった歌手がいたり、他の歌手もピアノとの音量バランスが悪かったりで、音楽的にも楽しめませんでした。
生演奏には向いていない会場の選定や、ぶっきらぼうな開演前のアナウンスや、字幕なしの上演、上演中に写真を撮ったり、途中入退場するマナーの悪い客等、全般的に残念な出来の公演でした。
義経千本桜
木ノ下歌舞伎
横浜にぎわい座・芸能ホール(神奈川県)
2012/07/20 (金) ~ 2012/07/21 (土)公演終了
満足度★★★★
三者三様の演出
歌舞伎の名作『義経千本桜』を3人の演出家が場面ごとに分担して受け持ち、それぞれの個性がエネルギッシュに発揮されていて、5時間近くある上演時間の途中で時間が気になうこともない、充実した公演でした。
『渡海屋』『大物浦』(多田淳之介)
平知盛以外の役は全て女性が演じ、場所や時間をはっきりと示さない抽象性を高めた演出で、物語性よりもシーン毎のビジュアル表現にゾクゾクさせられました。
白と赤の着物の鮮烈なコントラストと、台詞をかき消す程の大音量の音楽によるケレン味が印象的でした。ある時は歌舞伎的台詞の通訳的に現れ、ある時は本筋から少し離れてユーモラスに話される、現代語の使用が効果的でした。
『惟の木』『小金吾討ち死』『鮨屋』(杉原邦生)
カラフルでスポーティーな衣装や、ダンスミュージックを用いつつも、台詞や所作は歌舞伎の様式から大きく乖離していなくて、意外と伝統に忠実な作りに感じられる演出でした。
原作にはない、平維盛をメインに据えたエピローグを加えることによって物語に膨らみが出ていて、圧倒的なドラマ性を生み出していて素晴らしかったです。あるシーンが最後に繰り返され、素敵な余韻がありました。
『吉野山』(白神ももこ)
3人の女性を中心にして、バレエ的な動きの中に日本の伝統芸能的な動きを盛り込んだ、繊細で幻想的な演出でした。白神さんの得意技である、気まずい空気感による笑いを封印して、純粋なムーブメントだけで構成されていましたが、美しく見応えがありました。
フォーレとラヴェルの『パヴァーヌ』と、元々の義太夫に絞った選曲が統一感のある雰囲気を生み出していました。
『河連法眼館(四の切)』(多田淳之介+杉原邦生+白神ももこ)
各場面のコラージュから始まり、舞台奥と袖の幕を上げて舞台裏を見せた状態の中、全員が揃いのTシャツを着て踊る、群像ミュージカル的な賑やかな演出でした。コミカルな表現が多く、ウケを狙い過ぎていているように感じられて残念に思いました。3人の共同演出にしたことによって、演出家それぞれの個性が打ち消されてしまったように感じました。役者全員が勢揃いして立つ姿が美しかったです。
大きく傾斜した床以外にはほとんど美術的な要素のない空間ながら、魅力的な要素が沢山あって飽きさせませんでした。歌舞伎調の台詞回しはやはり本職の人に比べると劣りますが、身体表現や斬新な演出によって、伝統的な様式では表せない情感が描かれていたと思います。
これだけのクオリティ、ボリュームの作品がたった2回しか上演されないのは勿体ないと思いました。
男の花道
パルコ・プロデュース
ル テアトル銀座 by PARCO(東京都)
2012/07/12 (木) ~ 2012/07/26 (木)公演終了
満足度★★
男の友情
それぞれの職業に誇りを持つ目医者と女形の歌舞伎役者との友情の物語を実際の歌舞伎役者が演じ、笑えて泣ける物語に歌舞伎の技が映える作品でした。
物語としてはベタな話で、前半は盛り上がりに欠けるように感じましたが、終盤で劇中の観客席と現実の観客席が重ね合わされる構造は生の舞台ならではの趣向で良かったです。
緊迫感のあるシーンにコミカルな演技を織り混ぜていたのは、演技としては楽しめましたが、全体の流れからすると異質に思えました。
歌舞伎の劇場を思わせる両袖の櫓以外は屏風程度しか用いないシンプルな美術に対して、照明が様々な雰囲気を表現していました。暗転時の青い光が幻想的で美しかったです。
音楽は三味線にエレキギターが絡む折衷的なもので、附け打ちだけが生音でしたが、効果音の使い方を含めて音のデザインにあまりセンスが感じられませんでした。特にクライマックスでは音楽が台詞の邪魔をしているように感じました。
中村福助さんが演じる女形役者はずっと女形の様式で演技をしていて、現実的に考えると妙なのですが、舞台で踊っている設定のシーンでは美しい踊りが素敵で、人形振りや早変わりもあって楽しめました。
中村梅雀さんは意地っ張りな医者をチャーミングに演じていました。見せ場が少なくて残念でした。
現在に『スカートをはいたネロ』を試演する
中野成樹+フランケンズ
世田谷美術館(東京都)
2012/07/16 (月) ~ 2012/07/16 (月)公演終了
満足度★★
ナカフラならではの人形劇
元々人形劇での上演を想定して書かれた戯曲をそのまま人形劇として演出していましたが、次第に人形劇のフォーマットから外れて行く表現が用いられていて楽しめました。
トルコと戦争をしている時代のロシアを舞台に、女帝カザリン2世が民衆を虐げる姿を描いた作品で、プロレタリアート的な視点で書かれた作品だと思うのですが、最後に民衆が革命を起こしたりはせずに、絶望して死んで行くという暗い終わり方だったのが印象に残りました。
正直な所、戯曲には魅力を感じませんでしたが、工夫を凝らした演出によって、興味を惹く公演になっていました。
冒頭はホールの中央に置かれた金屏風が載せられた台の上に高さ10cmから30cm程度の人形を置いて、ほとんど人形を動かさず台の周りに座る役者達による台詞の朗読だけが続き、紙芝居みたいな状態だったのが、次第に役者達が人形を持って動くようになり、台を奥に持って行き、終盤には人形を用いずに役者がそのまま役を演じ、踊るように動き回るという変化が面白かったです。
途中では戯曲にある台詞と現在の視点から語られる台詞が同時進行するシーンもあり、ユーモラスな雰囲気が楽しかったです。
檻に入れられるシーンではステージの段差面にある木の縦格子を外して床下に人形を閉じ込めたり、最後のシーンでは天井に吊るされた既存の照明を手の届く所まで下げてきたりと、会場の特徴を取り込んだ演出が軽やかで素敵でした。
「試演」と題されている通り、演出も演技も荒削りで洗練されていない部分がありましたが、人形劇に対しての独特のアプローチが興味深かったです。
子供のためのシェイクスピア『ヘンリー六世 Ⅲ』『リチャード三世』
華のん企画
あうるすぽっと(東京都)
2012/07/14 (土) ~ 2012/07/22 (日)公演終了
満足度★★★
『リチャード三世』鑑賞
「子供のための」と銘打っていますが、だからといって過度に説明的にすることもなく、想像力を刺激する演出を用いて、王位継承を巡る血みどろの争いを描いていました。
10人の役者で10以上ある役柄を演じ、特定の役柄を演じる時以外は黒いロングコートを着てアンサンブルとして台詞を唱和したり机や椅子を移動したりと、役者の力量が必要とされる作りで、役者もそれに応じていました。
ほぼ素舞台で数組の椅子と机だけを用い、スポット照明がメインで全体的に暗い、削ぎ落とされた空間で全てのシーンが表現されていて、役者達のハンドクラッピングで示されるシーンの転換がとてもスムーズで気持ち良かったです。
殺し合いが続く物語が楽しい内容ではありませんが、所々にユーモラスな表現があって雰囲気が重くなり過ぎないバランス感覚が良かったです。ハンドクラッピングやちょっとしたダンス的な動きが良いアクセントになっていました。
伊沢磨紀さん 山口雅義さん、山崎清介さん等のベテラン勢の演技が安定していて楽しめました。
作品の内容的に仕方がないのですが、台詞を叫ぶ場面が多く、個人的には好みではありませんでした。
桜の森の満開の下
る・ひまわり
スパイラルホール(東京都)
2012/07/13 (金) ~ 2012/07/16 (月)公演終了
満足度★★★
心の奥に潜む鬼
2年前にOFFOFFシアターで上演され、独創的で見応えのあった作品と同じ原作者・脚本家・演出家による作品で、今回はいわゆる「イケメン芝居」的な要素の強い商業系の公演ながら、ありがちなコメディーや感動モノではなくて、苦々しい深みが感じられるものになっていました。
原作では山賊に襲われてその妻にさせられる女が、男に置き換えられていて、山賊の心に潜むおぞましいものを形象化したような役割を与えられていたのが興味深かったです。生首を並べたり、鬼に化けたりと舞台上では表現するのが難しい箇所を、あえて特殊な効果を用いずに役者の演技だけで見せていたのが良かったです。
中央にあるシンプルなステージを挟んで両側に客席があり、ゴザを敷いた桟敷席もアクティングエリアとして使われていて臨場感がありました。
効果音として使われているアンティークシンバルが多用され過ぎていて逆に効果的でなくなっているように感じました(この公演に限らず、最近この効果音を使う舞台が多過ぎるような気がします)。
小林健一さんと澤田育子さんが様々な役や語りを務め、不気味な恐ろしさから客イジリによる笑いまで、様々な雰囲気を作り上げていて素晴らしかったです。他の役者、特に主役の2人は台詞をこなすのだけでいっぱいいっぱいな様子で、ダークな世界観もたまに出てくるコミカルな雰囲気も十分には表現出来ていなくて残念でした。
逃げ去る恋2012
MODE
上野ストアハウス(東京都)
2012/07/05 (木) ~ 2012/07/09 (月)公演終了
満足度★★★
リミックス『三人姉妹』
チェーホフの『三人姉妹』をカットし、カットした部分の台詞を再構成して、原作では描かれていない場面を昭和的な雰囲気のプロローグとエピローグとして付加した作品で、原作やチラシのイメージとは異なってコメディー要素が強く、笑えながらもチェーホフらしい倦怠感や寂寥感、微かな希望が感じられました。原作を読んだり観たりしていなくても問題ありませんが、知っていた方がより楽しめると思いました。
手前に長い木製のベンチ、奥に開口がある木板の壁があるだけの質素な舞台で、姉妹役ではない他の3人が時代がかった新劇調の台詞回しで原作通りの台詞を言って始まり、続いて原作では第一幕と第二幕の間にある時間の内に済ませたことになっているアンドレイとナターシャの結婚式が小津映画的な横一列で全員が正面を向いている構図で描かれていました。スピーチの台詞は原作の他のシーンから持ってきていて、あえて結婚式にふさわしくない内容の部分が使われていたのがユーモラスでした。
その後は少々の時事ネタやコミカルな演技を交えつつ概ね原作通りに展開し、トゥーゼンバフがソリョーヌイに決闘で殺された後に、原作にはないトゥーゼンバフの葬式のシーンが追加されていて、結婚式同様に他のシーンから持ってきた葬式らしからぬ台詞が楽しかったです。最後は冒頭の3人によって原作のラストが演じられ、全体を通してのシンメトリーな構成感が印象に残りました。
ヴェルシーニンとトゥーゼンバフの哲学論議のシーンと、新たに付加された葬式のシーンでは役柄を演じず、役者本人としてそのシーンや登場人物についての(おそらく台本無しの自由な)トークを繰り広げるメタな構成になっていて、現代の視点からコメントが興味深かったです。
3人の姉妹を演じた西田薫さん、占部房子さん、大浦千佳さんはそれぞれの個性が出ていて楽しかったです。