『帰郷』
3.14ch
タイニイアリス(東京都)
2012/09/12 (水) ~ 2012/09/18 (火)公演終了
満足度★★★
奇妙な物語
普通に始まるものの、次第にシュールな雰囲気になり、とんでもない展開を迎える、SF、サスペンス、ホラー、エロ、B級感といったテイストのゴチャ混ぜ感が独特な作品でした。
田舎を出ていた娘が婚約者である売れない小説家を連れて結婚の報告の為に帰って来る、というホームドラマ物にありがちなシチュエーションで始まり、途中で妄想あるいはパラレルワールドに飛んで話が混乱して来たところで、未来人が登場し、彼等のせいで時間に歪みが生じていることが明らかになり、最後にその土地の忌まわしい因習が明るみに出て一見落着という、奇妙な物語でした。
どこまでが現実でどこまでが妄想なのか分からない奇妙な世界観に翻弄されて楽しめましたが、物語を通じて言いたいことが掴み辛く、もどかしく感じました。
台詞のループや、不明瞭になっていく言葉や、録音に合わせた口パク等、時間のねじれを表すような演出が不気味で印象に残りました。
リアルな室内のセットに大仕掛けが仕組んであったり、意外な物を被り物にしていたり、この規模の公演では見掛けないプロジェクションマッピングを用いていたりと、壁掛け時計が示す時刻を場面毎にこまめに変えていたりと、手を懸けたスタッフワークが素晴らしかったです。
テクニカルな面で良かったが故に、暗転が長い時が数回あったのが勿体なく思いました。
ハーメルンの笛吹き男
神奈川県民ホール
神奈川県民ホール(神奈川県)
2012/09/15 (土) ~ 2012/09/16 (日)公演終了
満足度★★★
子供のオペラ
親しみやすい音楽と演出で有名な童話をオペラ化し、上演時間も休憩なしの1幕90分弱とコンパクトな作品でした。
小さな子供がたくさん観に来ていましたが、皆集中していて騒いだりする者もいなかったのが印象的でした。
約束を守らずに目先の利益に引かれる、子供だった時の気持を失った大人達に対して反抗する子供達の姿が描かれていて、遊ぶことの大切さを優しく訴えていました。
舞台上には両袖に書き割りのパネルがあり、手前に小さな台があるたけのシンプルなセットで、カーテン状のモノトーンの背景画をスライドさせて場面転換する学芸会的なアナログ感に温かみがあって良かったです。
音楽は『モーツァルトの子守歌』が引用されたりと、モーツァルトを意識したて軽やかな雰囲気で、モダンなハーモニーがプーランクを思わせたり、特殊奏法を用いて不思議な音響を生み出したりと、良い意味で折衷的でした。
笛吹き男を演じた男性ソプラノ歌手の岡本知高さんがはまり役で、歌声が謎めいたキャラクターにピッタリでした。
小編成のオーケストラは通常の舞台と客席の間ではなく、客席の下手側に組んだステージで演奏していて、視界に入らず物語に入り込み易かったのは良かったのですが、オーケストラの近くの席だったので、片側からばかり音が聞こえて来る、バランスの悪い音環境だったのが残念でした。
「ウィスパーズ」「断崖」
大橋可也&ダンサーズ
BankART Studio NYK(神奈川県)
2012/09/15 (土) ~ 2012/09/16 (日)公演終了
満足度★★★
空間を活かしたダブルビル
オルタナティヴロックバンドの空間現代とのコラボレーション公演で、去年発表した作品と新作の2本立てでした。1本目と2本目を異なる会場で上演し、空間の特性と作品が呼応していて興味深かったです。
『ウィスパーズ』
昨年d-倉庫で上演したもの(その時の感想→http://stage.corich.jp/watch_done_detail.php?watch_id=112948)をあまり変えてないらしいのですが、奥行きのある空間を活かしていてかなり異なる印象を受けました。コンクリート打ち放しの壁のテクスチャーと長い反響が、作品の殺伐とした雰囲気を強調していました。前回はダンスが音楽に負けているように感じましたが、今回は人数が多くなったせいもあってか、バランスが拮抗していて良かったです。
『断崖』
1本目の会場の隣のスペースでの上演で、広さはほぼ同じですが、この作品では空間を横長に使っていました。照明はほとんど用いず、窓から差し込む自然光だけの薄暗い中を、黒い格好をした女性達が見えない存在に反応しているような、あまりダンス的ではないムーブメントが淡々と続ける美しい作品でした。会場の幅が広い為、全てを視界に入れることが出来ず、視界の外の気配を感じつつ観るのが新鮮でした
絶えず明るさや角度が変化して行く自然光に照らされる身体が抑えたエロティシズムを感じさせて魅力的でした。
こちらの作品は生演奏ではなく録音でしたが、間がたくさんあり、物を落とした音を組み入れたアブストラクトな響きの緊張感が良かったです。
りんご
快快
KAAT神奈川芸術劇場・大スタジオ(神奈川県)
2012/09/13 (木) ~ 2012/09/16 (日)公演終了
満足度★★★★
真摯な悪ふざけ
母親の死を描いた『りんご』という作品を演じる様子を描くという劇中劇的枠組みの中で「物語」を演じることについて考察しながらも、メタ演劇にありがちなあざとさが霞んでしまう程の馬鹿馬鹿しさが印象的な楽しい作品でした。
通常の入り口から客席に入らず、裏の導線を通って楽屋エリアを突っ切って舞台袖から客席に向かう長い道のりの時点で、楽しさを予感させていて印象的でした。
着脱可能な1から5までの数字を衣装に取り付け、途中で番号を変えながら、『りんご』を上演しようとする過程がシュールに描かれていました。
休憩を挟んだ後半では、まとめに入るのかと思いきや、前半以上にカオスな展開で、本気で馬鹿なことをしている姿に笑わせられながら、最後の循環論法になってしまいそうな台詞の連なりに演劇に対しての真摯な思いが感じられ、心を動かされました。
着ぐるみや人形などの小道具を使ったり、全員でのダンス等、一昔前のスタイルの手法が用いられていて、下手をすると白けてしまいそうなところを、巧みなバランスで笑いに持って行っていました。
当日パンフレットにある主宰で脚本の北川陽子さんの文章と、別紙で挟んであるドラマトゥルクのセバスチャン・ブロイさんの文章が舞台上でのパフォーマンスを補完していて、作品に深みを与えていたと思います。
ミリオンダラー・カルテット
TBS
東急シアターオーブ(東京都)
2012/09/05 (水) ~ 2012/09/17 (月)公演終了
満足度★★★★
5人目の主役
ロックンロール黎明期のある一晩を描いた作品で、タイトル通りに、当時あるいはその後のスターの4人の演奏が中心となっていますが、その4人を発掘したプロデューサーにも焦点が当てられていて、ただの再現ライブではなく、ドラマ性が強く感じられました。
この人達の曲は数曲しか知らなかったのですが、迫力のある演奏と切ない物語に引き込まれ、とても楽しめました。
いかにもアメリカ的なジョークを含んだ開演前のアナウンスの後に始まる前半は、スタジオに訪れるミュージシャンのセッションが続き、ミュージカルというよりコンサート的な内容ですが、後半になると若き才能を見つけたのに彼らが大手レコード会社に引き抜かれて取り残されるプロデューサーのサム・フィリップスの悲哀が浮かび上がってきて、心を打たれました。
4人の演奏中はサム・フィリップスは奥のコントロール・ルームに入っていて窓越しにしか見えないのですが、踊ったりしながら演奏を楽しそうに聴いている姿が印象的で、後半の切なさが引き立っていました。
物語自体は寂しげにあっさりと終わるのですが、その後に続くアンコール的なシーンでの客席を含めた盛り上がり方が爽快でした。
物語の中で実際に歌うシーンでのみ歌い、楽器演奏も全てステージ上の役者によって行われるという、ある意味ストレートプレイ的なリアリズムに沿って進行するので、普通のミュージカルのような盛り上がった所で急に歌い出す形式が苦手な人でも、違和感を持たずに楽しめると思いました。
4人のスターを演じた役者達は、演技も歌も楽器の演奏も素晴らしく、ブロードウェイの役者の層の厚さを感じました。特にジェリー・リー・ルイス役を演じたリーヴァイ・クライスさんは激しいピアノ演奏とコミカルな演技が際立っていて、流石この作品でトニー賞助演男優賞を受賞しただけあると思いました。
ワタシんち、通過。のち、ダイジェスト。
マームとジプシー
三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)
2012/09/07 (金) ~ 2012/09/17 (月)公演終了
満足度★★★
反復して増幅される感情
かつて暮らしていた家に対してのノスタルジックな思いを、先鋭的でスタイリッシュな表現手法を用いて描いた作品でした。
長女、長男、次女の3人が生まれ育った家が道路拡張の為に取り壊されるその日の3人の様子をメインにして、友達が家に遊びに来た時、長女が家を出る時といった過去のエピソードが織り込まれ、それぞれのシーンを何度も立ち位置を変化させながら繰り返す構成でした。
観客に説明するような文体、一般的な意味では下手な演技、時系列の頻繁な跳躍、ダンスのような往復運動や円環運動といった、観客を物語の世界に単純に没入させない仕掛けを用いながらも、普遍性のある感情が描かれていて、同じシーンが繰り返される内に強度が高まって行くのが印象的でした。
感極まった涙声で台詞を言うのが個人的に苦手で、作品の世界観に共感出来ませんでしたが、激しい身体表現によって感情表現を増幅させる手法が興味深かったです。照明を落とし、大音量の音楽が流れる中で激しい動きが行われていたのが印象に残りました。
役者の台詞と動きだけで十分に表現力があるので、スモークや映像、叙情的な音楽の使用は過剰に感じられました。
秀山祭九月大歌舞伎
松竹
新橋演舞場(東京都)
2012/09/01 (土) ~ 2012/09/25 (火)公演終了
満足度★★★
夜の部鑑賞
史実を元ネタにした渋めな作品と、華やかな歌舞伎舞踊の対比が鮮やかなプログラミングの公演でした
『時今也桔梗旗揚(ときはいまききょうのはたあげ)』
明智光秀(作中では武智光秀)が織田信長(同、小田春永)に対して本能寺の変を起こすまでの物語で、動きや場面の変化が少ない、台詞の演技で魅せる作品でした。予習せずに観たので、よく分からない所があり、途中で少し退屈感を覚えましたが、終盤は緊迫感があって引き込まれました。
春永に屈辱的な扱いを受けながらも耐え、最後に謀反を決意する光秀を演じた中村吉右衛門さんの表情の変化が素晴らしく、貫禄があり格好良かったです。
『京鹿子娘道成寺(きょうかのこむすめどうじょうじ)』
元々の能に比べて、エンターテインメント要素が強く打ち出されていて、単純に楽しめる作品でした。満開の桜の書き割りをバックにたくさんの衣装や小道具を用いて踊り、音楽と相俟って華やかでした。
中村福助さんは何気無いように見える動きでも全身に神経が行き届いていて、美しかったです。拍子の裏拍を的確に捕えていてリズム感がありました。
坊主達(衣装の色合いが斬新でした)の群舞は少々ゆるさが目立っていて残念でした。
走れメロス
株式会社ダイス
Bunkamuraオーチャードホール(東京都)
2012/09/08 (土) ~ 2012/09/11 (火)公演終了
満足度★★
2人の太宰
日本近代文学の作家達を絡ませながら太宰治を描いたミュージカルで、河村隆一さん、諸星和巳さん、鈴木亜美さん等、出演者に歌手の人が多いので、ずっと歌が続くのかと思っていましたが、芝居を見せるシーンも多い作品でした。
太宰治とその親友、辻島衆二との関係が、太宰の死後の物語と生前の回想シーンが何度も入れ替わりながら描かれる構成で、実は辻島は太宰自身だった(「辻島衆二」は太宰の若い頃のペンネーム)という観念的な物語でした。
太宰や芥川龍之介のエピソードや作品の引用が織り込まれていて、近代文学の知識があると楽しめると思いました。
太宰の人格を2人に分け、『走れメロス』を重ね合わせて重層的に描くプロットは興味深かったのですが、脚本・演出の段階でそれが上手く活かされていなくて、特に後半が整理されていないように感じました。
ダンスや歌自体は良かったのですが、それらを見せようとして、ストーリー展開上は必要性が感じられない時間が長々と続いたりして、テンポの悪さを感じました。
他の登場人物は和服がメインの中でドレスを着て、歌の為だけに出演していた女性2人が浮いて見えたのも残念でした。
大劇場でのミュージカルよりも、小劇場でシリアスなストレートプレイとして上演した方が面白くなると思いました。
[◯]A“Lone” ロン
「XXXX」
梅ヶ丘BOX(東京都)
2012/09/07 (金) ~ 2012/09/09 (日)公演終了
満足度★★
密室の男と女
香港で上演された作品の日本初演で、男女2人による謎めいた物語でした。
裸電球がゆっくりとともるとスーツ姿の男とドレス姿の女が銃を構えて向かい合っていて緊迫感のある会話をする1分程のシーンが、立ち位置やポーズを変えながら何度も繰り返される冒頭に続き、次第に会話が発展するものの、お互い自分が誰だかも分からず、銃がカクテル、スマートフォン、バナナに変わって行き、最後に2人の関係がうっすら浮かび上がったところで終わる物語でした。
暗転時にレコードかテープを逆回転する音と共に戦闘機の爆撃音が鳴っていたので、戦争と関わりのあるテーマが秘められていたのかもしれませんが、繋がりが分かりませんでした。
シーンがループしていることを登場人物が認識していたり、0に何を掛けても0であるというような台詞や、客席までが物語の世界の一部であることを示唆する台詞があったりと、メタな構造がありそうでいて、それが活かされていないのが残念に思いました。
オリジナル自体がそのようなテイストで、そのまま日本にアダプテーションしただけなのかもしれませんが、主に笑いを狙った箇所での日本向けに脚色した部分が、下世話になり過ぎているように感じました
物語としてはあまり楽しめなかったのですが、出演者2人の熱のある演技が素敵で魅力的でした。強気な中に可愛いらしさが垣間見える内田亜希子さんと、気弱そうでいてコミカルな雰囲気もある内田健介さんの対比が良かったです。
14の夕べ / 14 EVENINGS
東京国立近代美術館
東京国立近代美術館(東京都)
2012/08/26 (日) ~ 2012/09/08 (土)公演終了
満足度★★★
村川拓也鑑賞
昨年のF/Tで上演された『ツァイトゲーバー』の再演で、障害者と介護者、パブリックとプライヴェート、現実と虚構等、様々な観点で考えさせられる作品でした。
村川さんが登場し、少し作品の説明をした後、「メンバーが1人足りないので、誰か出演していただけませんか?」と呼び掛け、立候補する人がいて、4つの指示をした後にパフォーマンスが始まりました。
全身不随で、目の動きでしかコミュニケーションを取れない「藤井さん」(立候補した観客が演じました)と、ヘルパー(実際にヘルパーの仕事をされている方が演じました)の通常をそのまま舞台に上げたかのような体裁でした。
藤井さんに話し掛けるときだけマイクを用いたり、パイプ椅子を車椅子に見立てる以外は小道具を用いずに振りの演技をしたり、村川さんがステージの角にずっと座っていたりと、フィクションであることを意識させる仕掛けが周到に用意されていて、現実と虚構が入り混じった不思議な緊張感とユーモアが感じられました。
藤井さん役の方への指示の1つは、60分間の上演中に自由なタイミングで4回、自分の願い事(この方は「自由な時間が欲しい」でした)を言うというもので、実際その言葉を発するのですが、ヘルパーは全く気に留めずに淡々と機械的に作業を進めていて、その残酷さが衝撃的でした。
展示室の一角にステージと客席を組んでいて、それ以外の使われていない空間の方がはるかに広く、最後にそこをヘルパーが帰っていく足音が延々と響いていたのが印象的でした。
14の夕べ / 14 EVENINGS
東京国立近代美術館
東京国立近代美術館(東京都)
2012/08/26 (日) ~ 2012/09/08 (土)公演終了
満足度★★
小林耕平鑑賞
『タ・イ・ム・マ・シ・ン』と題されたパフォーマンスで、現代美術家の小林耕平さんが山形育弘さん(core of bells)を対話相手にして、会場内に散在させたタイムマシンと称する作品群を解説して回るという内容でした。所々に興味深い点はあったものの、構成感がなくて行き当たりばったりな雰囲気が強く、観客に対しての見せ方もあまり考慮されていないように思われ、パフォーマンスとしては成立していないと思いました。
会場内にあるオブジェで何かしらの行為をしている映像が流されていて、開演時刻を過ぎて小林さんと山形さんが登場し、先程の映像に文章を重ねた映像を止めながら流し、小林さんの解説に山形さんが疑問や突っ込みのコメントを入れる形で進行しました。
「属性の貸し借り」といった哲学的な内容を、行きつ戻りつ掘り下げて行き、うっすらと分かりかけそうになったところで話題が飛び、なかなか核心に辿り着かないもどかしさに不思議な魅力がありました。
パフォーマンス研究者の伊藤亜紗さんが書いた文章にインスパイアされて作品を作り、それを解説しながら自らも思考を深めるという作品全体の枠組みが知的好奇心をそそるものでした。
退館時間になって尻切れとんぼで終わってしまい、内容的にはかなり消化不良を起こしましたが、じっくりと考える時間が新鮮に感じられました。トーク慣れしていなさそうな小林さんの話に山形さんが鋭くかつユーモラスに反応していたのが楽しかったです。
東京福袋
東京芸術劇場
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2012/09/02 (日) ~ 2012/09/09 (日)公演終了
満足度★★★
9月3日の回を鑑賞
東京芸術劇場のリニューアルオープンのこけら落としのオムニバス公演で、9月3日の回はパフォーマンス、ダンス、一人芝居、公開対談とバラエティに富むプログラムでした。
CORPUS『飛行隊』
カナダのトロントのグループによる空軍の訓練を模したパフォーマンスで、英語とフランス語がメインでしたが、言葉が分からなくてもコミカルな動きで楽しめる作品でした。子供向けな感じがして序盤は乗れなかったのですが、次第に引き込まれました。観客の1人をステージに上げ、厳しくかつ温かくいじっていたのが楽しかったです。
無料上演しているの『ひつじ』の方がパフォーマンスに対して示唆に富んでいると思いました。
珍しいキノコ舞踊団『珍しいキノコダンス』
3月に上演した『ホントの時間』の抜粋に少し新しい部分が追加された作品で、『PLAY PARK 2012』で上演した作品と重なる部分が多く、自信作ということなのでしょうが(実際、良作だと思います)、そろそろ他の作品を見せて欲しかったです。
動きが音楽に良く合っていて、踊ることの楽しみがうっすらとした切なさと共に伝わって来ました。今回追加された冒頭のシーンはあざとさを感じて好みではありませんでした。
柿喰う客『いまさらキスシーン』
繰り返し再演されている、玉置玲央さんによる一人芝居で、再演され続けているのも納得の圧倒的な表現力があり、後半は少々悲惨な物語であるにも関わらず、とても楽しめました。
超絶な早口で捲し立てたり、長い沈黙の時間を取ったりと変化自在な台詞回しと、激しい身体表現が爽快でした。時間の経過や登場人物の感情を的確に表現する照明の演出も素晴らしかったです。
東京デスロック『Counseling』
主宰の多田淳之介さんとSPACの宮城聰さんの対談で、最初は多田さんがずっと一人で喋り続け、席を立つ観客が現れたところでBGMが流れ出し、宮城さんが饒舌になる展開が劇的でした。東京と地方の演劇の受容のされかたの違い、変な人の存在を受け入れるのが都市なのに近年はアジアの他の都市にそういう人が流れている等、興味深い話題がたくさんありました。
先日の『Rehabilitation』と同様に東京絡みの音楽や映像を使っていましたが、君が代(の変奏曲)は今回の文脈にはそぐわない気がしました。
納涼☆岸田今日子ナイト
松之木天辺
四谷三丁目・BaD(東京都)
2012/09/02 (日) ~ 2012/09/02 (日)公演終了
満足度★★
不条理で奇妙な世界
コンテンポラリー系のダンサーやミュージカル俳優として活動している松之木天辺さんによる、小さなバーでのワンマンステージで、岸田今日子さんの書いたシュールな短編小説の3つをモノオペラ、一人芝居、朗読とそれぞれ異なる形式で上演しました。奇妙な雰囲気が楽しかったです。
ドビュッシーのピアノ曲をBGMにして、舞台上で普段着からクラシカルなドレスに着替え化粧をした後、1本目が始まりました。
『鏡』
毒リンゴを食べることもなく、7人の小人や王子様に会うこともなく年老いた白雪姫の物語を、岸田今日子さんの朗読の録音に音楽と生歌を絡めたオペラの形式で上演しました。
『香港の黒豚』
また舞台上での生着替えタイムがあった後、香港旅行から帰って来た女教師がその話を生徒達の前でするものの、実はそれは妄想だったという話を一人芝居で上演しました。
『ミッシェル』
普段着に着替え、化粧も落とし、妻が水の外でも死なないイルカをペットとして連れて来る物語を、椅子に座って朗読しました。物語は面白かったものの、稽古不足だったのか、つっかえることが多くて残念でした。
岸田今日子さんが書いた物語に初めて触れたのですが、不条理感に溢れていて魅力的でした。
Very Story,Very Hungry
バストリオ
BankART Studio NYK(神奈川県)
2012/08/29 (水) ~ 2012/09/02 (日)公演終了
満足度★★★
不思議な存在感
ドン・キホーテのキャラクターが登場する寓話的世界から終盤で次第に現実へ移行していく物語で、良く分からない部分が多く、カタルシスもないのに何か惹かれる魅力がありました。
物語とは関係ない動きや、ずっと静止したままといった独特の身体表現が特徴的で、リアリズムではない演技が不思議な雰囲気を醸し出していました。シーン毎の関連性があまりなく、断片的な印象がありつつも、最後のリアリティのある行為によって、うっすらと全体の繋がりが感じられる展開が興味深かったです。ところどころにチェーホフ作品を思わせる台詞がありました。絶滅動物についてのエピソードが印象に残りました。
ほぼ全員で踊るダンスシーンが2回あり、そのシーン以外では役者それぞれの身体性が出ていたのに、ダンスシーンで急に統一性のあるものを表現しようとしているように見えて、違和感を覚えました。
美術や衣装、映像、舞台上での役者達の立ち位置の配置等、ヴィンテージ感のあるビジュアル表現が格好良かったり可愛いかったりとお洒落な感じがあって素敵でした。音楽も洗練されていて良かったです。
水が重要なモチーフとなっていて、ビニールプール、飲み水、水槽等の使い方が良かったです。元倉庫だった会場で残響がかなりあり、幻想的な雰囲気がありました。
会場の構造上とても蒸し暑く、対策としてうちわを配布し上演中に飲み物を飲むのも可としていましたが、作品に集中出来ない環境だったのが残念でした。
オレステイア
サントリー芸術財団
サントリーホール 大ホール(東京都)
2012/08/31 (金) ~ 2012/08/31 (金)公演終了
満足度★★★★
圧倒的な祝祭性
ギリシア悲劇にクセナキスが荒々しい音楽を付けたオペラに、スペインの演出家グループ、ラ・フラ・デルス・バウスが多彩な表現を施し、前衛的でありながらエンターテインメント性に富んだプロダクションとなっていました。
『アガメムノン』『供養するものたち』『恵み深い女神たち』の3部からなり、特定の歌手が特定の役柄を演じる部分は少なく、主に合唱によって物語が語られ、裁判という制度の誕生によって肉親同士の復讐の殺し合いの連鎖が止む様子を描いていました。
第1部でバリトン歌手が普通の音域と裏声の使い分けと左右で異なる顔のメイクによって1人2役を演じていたのが歌舞伎のようで興味深かったかったです。紗幕の後ろで歌うバリトン歌手の体から歌詞の文字が飛び出てくるように見える映像の演出も斬新でした。
終盤ではステージの中央に設置された抽象的な造形の大きな木が回転する周囲や客席通路で大勢の合唱が打楽器を打ち鳴らしながら歌い、児童合唱さらには観客も演奏に加わって圧倒的な高揚感がありました。しかし、そのシーンでは合唱が猿の格好をしていて、どう解釈したら良いのか悩みました。未だに争いや報復が起こり、古代から進歩していない人類の愚かさをアイロニカルに表現していたのでしょうか。
合唱とは別の大勢のアンサンブルの身体表現を用いたり、客席で演じたり、壁一面に映像を映したりと、大掛りな美術や照明が組めない音楽ホールでの上演ということを感じさせない巧みな演出が素晴らしかったです。
鳴っている音にリアルタイムで反応して変容していく映像が印象的でした。
複雑な響きの器楽アンサンブルとは対照的に合唱は明快さがあり、原始的なエネルギーに溢れていて魅力的でした。合唱や管楽器奏者も打楽器を演奏して刺激的な音響が鳴り響いていて、現代音楽に興味がない人でも引き込まれると思いました。
これだけ作り込んだプロダクションが1回しか上演されないのは勿体ないと思いました。
14の夕べ / 14 EVENINGS
東京国立近代美術館
東京国立近代美術館(東京都)
2012/08/26 (日) ~ 2012/09/08 (土)公演終了
満足度★
手塚夏子鑑賞
2時間半以上の間、踊ることも芝居をしたりすることもなく、パフォーマンスというよりはセミナーの形式に近く、『ただの「実験」がメディアになるのか?の実験』というタイトル通りの内容でした。
会社員の田仲桂さんと、反原発デモを企画している井出実さんによる「実験」を手塚夏子さんの司会で進める形式でした。
田仲さんが観客に記憶から削除したいことを書かせ柱に貼らせた後に、田仲さんは今日の新聞を取り出し、記事の中の原発関連の言葉を黒く塗り潰し、自身が福島のいわき在住であることを明かしました。
井出さんは手塚さんの息子さんを王様として観客参加のごっこ遊びの様な展開で、意図が分かりませんでした。自分は司会に徹すると言っていた井出さんが王様に対して誘導尋問的に話を進めていたのがいやらしく感じました。
休憩時間を挟んで、再び田仲さんの実験で、祈りについて考えるというもので、会場にある大きな木製の箱を観客を交えて叩いて祈ることを実践しました。
田仲さんが反原発デモへの違和感を述べたところで井出さんの番になり、デモの終わりに行っている、輪になって太鼓を叩くパフォーマンスを実演しました。それに拒否感を持つ人は行動で示して欲しいとのコメントが手塚さんからありました。
最後は手塚さんがステンレスのボウルを打ち鳴らしながら無の境地に辿り着こうとする実験でした。
手塚さん自身は枠の外から実験の反応を観察するという作品の形式自体には興味を持ちましたが、内容的には「実験」にすらなっていなくて退屈でした。センシティヴな思想的・政治的テーマの扱い方がナイーブ過ぎるように感じました。福島在住の方のメディアを通していない意見が聞けたのが良かったです。
14の夕べ / 14 EVENINGS
東京国立近代美術館
東京国立近代美術館(東京都)
2012/08/26 (日) ~ 2012/09/08 (土)公演終了
満足度★★
No Collective鑑賞
『Concertos No.4』と題された、照明を消した美術館の展示室でのパフォーマンスで、1時間程度の間で特に大きなイベントも起こらない、アナーキーな作品でした。
エントランスで手に蓄光テープを貼られて、開演すると真っ暗になると蓄光テープがぼんやりと光り、ニュースのアナウンスを加工したような音が鳴り響く中、多数のパフォーマー達が音が出たり光ったりするオモチャを観客の服に付けて回り、ノイズや光が無秩序に沸き上がる焦点のない時間と空間が続きました。
クライマックスもないままにパフォーマーの誘導によってロビーに戻り、ロビーでも加工された音声が流れていました。
音と光の現象としては楽しめたものの、あまりにも取っ掛かりが無いため、コンセプト的な部分では面白さが伝わって来ませんでした。
暗闇の中で誰が出演者で誰が観客かが分からない状況におけるコミュニケーションの形成をテーマにしているのかもと思いましたが、出演者達だけで盛り上がっているように見えました(観客も交ざっていたのかもしれませんが)。
そのようなテーマではなかったとしても、もう少し受け取り方のヒントとなる仕掛けや構成を感じさせて欲しかったです。
ロイヤル・エレガンスの夕べ
ダンスツアーズ・プロダクション
ティアラこうとう 大ホール(東京都)
2012/08/28 (火) ~ 2012/08/28 (火)公演終了
満足度★★★
イギリスの伝統
イギリスの名門、ロイヤルバレエ団のトップクラスのメンバーによるガラ公演で、ソロとデュオのみで上演時間も2時間弱と、小規模でさっぱりとした雰囲気がありました。
いわゆるクラシック作品は『海賊』と『白鳥の湖』だけで、20世紀のイギリスを代表する振付家、アシュトンとマクミランの作品を中心にして、さらに若い世代の振付家の作品を配したプログラムで、ロイヤルバレエ団の歴史を感じさせるものでした。
新しい作品でもクラシックバレエの延長線上にあって、奇妙な動きや難解な雰囲気はなく、演劇性を重視して来たイギリスのバレエの伝統が息づいているように思いました。
リストのピアノ曲に乗せたデュオ、『リーベストゥラウム』(リアム・スカーレット振付)が高度なテクニックを用いつつもそれを誇示するのではなく、静かで優しい雰囲気があって魅力的でした。
崔由姫さんが踊った『ファサード』(フレデリック・アシュトン振付)や、ラウラ・モレーラさんが踊った『カリオペ・ラグ』(ケネス・マクミラン)のレトロで可愛らしい雰囲気も楽しかったです。
ラストのスティーヴン・マックレーさんの自作自演、『サムシング・ディファレント』はバレエダンサーが余興でタップダンスをやってみましたというようなものではなく、バレエとタップの技術が高いレベルで融合されていて圧巻の表現でした。
各作品毎のカーテンコールがあっさりとしていて、すぐに次の作品が始まり、テンポの良い進行が気持ち良かったです。
14の夕べ / 14 EVENINGS
東京国立近代美術館
東京国立近代美術館(東京都)
2012/08/26 (日) ~ 2012/09/08 (土)公演終了
満足度★★★
東京デスロック鑑賞
ここ数年間、東京での公演をしてこなかった東京デスロックの久々の東京、しかもある意味東京の中心である皇居のすぐ近くでの公演で、『Rehabilitation』と題された作品は、パフォーマンスを通じて東京について考えさせる刺激的なものでした。
近代美術館の展示室内に方向性を持たせずに雑然と置かれた椅子に観客が座り、冒頭に『君が代』が流れた後、3方の壁に心理カウンセリングのアンケートような質問50個が次々に映された後、「Where did you come from?」と表示され、男女2人ずつの役者が順番に観客の間を縫って歩きながら自分の出身地について語るシークエンスが続きました。
映像で観客に部屋の中央に集まるように指示されて、すし詰め状態の中を役者達が無理矢理通りながら東京の電車の混雑の酷さを語っていたのがユーモラスでした。
次に出身地別に部屋の周囲に移動するように指示があり、移動し終わったところで演出の多田さんがマイクを持って登場してゆるい感じの挨拶があり、後半は4人の役者による出身地ネタのフリートーク形式で進み、君が代の変奏曲が流れる中、1人が他の3人に盆踊りを教える流れになって音頭が流れ、さらに途中からそこに「再稼働反対」と訴える脱原発デモの声が重なり、『東京音頭』に曲が変わり「Shall we dance?」「stand up?」と字幕で煽っても立って踊る人がいなかった(たぶんそれも織り込み済みだったと思います)流れは、大多数側に乗っかっておこうとする今の東京の人の姿を象徴しているようで印象的でした。
最後はまた50のアンケートが映し出され役者達がそれぞれ「はい」、「いいえ」と答えて行き、東京に住むことについて考えさせられました。
美術館での無料イベントで普段とは異なる客層も多い中、90分以上あるエッジーな作品を上演した姿勢が素晴らしく、客席大移動や8面映像投影といった、美術館の広い空間を活かした表現が良かったです。
ふくすけ
Bunkamura
Bunkamuraシアターコクーン(東京都)
2012/08/01 (水) ~ 2012/09/02 (日)公演終了
満足度★★★
悪夢的世界
奇形の男を巡るギリシャ悲劇を思わせるダークな物語に、障害者や性風俗業や新興宗教、国際関係といったタブー的なトピックを盛り込んだ上に笑いを散りばめた、ブラックな作品でした。
表現が古臭く感じることが多く(特に笑いの取り方と、何度もある大勢でのダンス)、前半はノリに付いて行けなかったのですが、後半は人の心の偽善的で醜い面を露にする緊迫した展開に引き込まれました。
破滅的なシーンが同時進行する終盤は混沌としていながらも、心に刺さるような鋭さがありとても魅力的でした。その次に続く有名な宗教画をモチーフにしたシーンもインパクトがありました。
物語は面白かったのですが、全体的に雰囲気がライトな感じで、もっと陰鬱なテイストが強く打ち出された方が物語の魅力が映えると思いました。
回り舞台を活かした頻繁な場面転換は視覚的に楽しかったものの、ちょっとせわしなく感じました。
最近の猟奇的な事件や映画をネタにしていたのはあまり客席の反応がなく、コクーンの客層に合っていないように感じました。
役者達はそれぞれキャラが立っていて良かったです。大竹しのぶさんの狂気を忍ばせた演技は素晴らしかったのですが、その存在感が作品の世界観から浮いて見える場面が何度かありました。
古田新太さんの抑えた演技が新鮮で、冴えない中年男性の悲哀が滲み出ていて印象的でした。