土反の観てきた!クチコミ一覧

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F/T12イェリネク三作連続上演 『レヒニッツ』 (皆殺しの天使)

F/T12イェリネク三作連続上演 『レヒニッツ』 (皆殺しの天使)

フェスティバル/トーキョー実行委員会

東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)

2012/11/09 (金) ~ 2012/11/10 (土)公演終了

満足度★★★★

使者による射撃の報告
難解なテクストを強烈な存在感のある役者5人がグロテスクなユーモアを感じさせる演技で語る作品で、分からない部分がたくさんありましたが、刺激的な演出もあり、110分の間で退屈することがなく観ることが出来ました。

第二次世界大戦中に、ある宴会の中で行われた200人もの大量殺人についての証言を「使者」達が伝えるという体裁で、登場人物同士の対話はなく、延々とモノローグが続く構成でした。
冒頭から笑顔で客席に手を振りながら登場し、途中でも何度も観客に対して「貴方達」との呼び掛けがあり、観客も共犯者のように感じてくる恐ろしさがありました。
舞台上で行われていたことが後になって台詞で出てきたりと、テクストと演出が直接的に対応していない複雑な作りになっていて、よく分からない印象を与えるのですが、『薮の中』的な何が真実か不明瞭な内容に適していると思いました。
多数の銃の上に服を掛けて隠したものの自らそれに躓いたり、ユダヤ人が嘆きの壁で祈るような動きが行われたり、雪崩落ちてくる毛皮のコート等、ブラックな仄めかしが沢山盛り込まれていて、不気味でした。

BGMはウェーバー作曲のオペラ『魔弾の射手』の序曲冒頭部をチープな感じにアレンジしたものが用いられていて、ドイツロマン主義オペラを確立したこの作品をドイツ人としてのアイデンティティーに絡め、オペラの中で描かれる「狩り/射撃大会」を虐殺と重ね合わせ(セットにはわざわざ鹿の頭の剥製が掛けてありました)、さらにこの序曲冒頭部が賛美歌として歌われているということも含めて興味深く、オペラの演出を多く手掛けているヨッシ・ヴィーラーさんらしい選曲だと思いました。

詩的で力強い数々の台詞が印象に残りましたが、台詞として次々に話されると追うことが困難で、むしろ文章で読みたく思いました。

F/Tモブ

F/Tモブ

フェスティバル/トーキョー実行委員会

池袋西口公園ほか(東京都)

2012/10/27 (土) ~ 2012/11/25 (日)公演終了

満足度★★★

11月10日16:00の回を鑑賞
KENTARO!!さんによる振付で、ヒップホップをベースにした5分程度のパフォーマンスながら躍動感があり、見応えがありました。

参加者をいくつかのグループに分けてあり、踊っている人達を目で追っていると違う方向から他のグループが入ってくる構成に意外性があって楽しかったです。
カツラを被ったKENTARO!!さんがマイクで煽り(何を言っているのか分かりませんでしたが…)、高揚感がありました。最後に花をばら蒔いたのが美しかったです。

しっかり作り込んだことによって作品としての強度はありましたが、いかにも「今から踊ります」という雰囲気が開始前から漂っていて、普通に隣にいた人が突然パフォーマンスを行う驚きというフラッシュモブらしさは感じられず、普通の屋外公演のようにしか見えなかったのが残念に思いました。

オペラ「メデア」

オペラ「メデア」

日生劇場

日生劇場(東京都)

2012/11/09 (金) ~ 2012/11/11 (日)公演終了

満足度★★★

静の歌手と動のダンサー
様々な表現形式で描かれているメデア(メディア)の悲劇をオペラ化した作品で、音楽的には晦渋ながらも物語としてはストレートに描いていて、意外と取っ付き易かったです。

浅く水が張られた上のせり付きの楕円型平面のステージをメインに、可動式のステージや櫓も用いたダイナミックなセットの中、6人の歌手と6人のダンサーによって演じられました。
白い仮面を付けたダンサー達がメデアの心境を表すように踊っていたのは説明的過ぎるように思われて、振付自体にも魅力を感じられず、残念でした。照明が真っ赤になり、セットが沈んでいく子殺しの場面も演出が過剰で、逆に冗談っぽく感じてしまいました。

ピットには弦楽器だけが入り、ステージ上の下手に木管楽器と打楽器、上手に金管楽器と打楽器という特殊な配置となっていました。客席を潰せばピット内に全員収まるのでしょうが、この作品では合唱を用いていないので、奏者達をコロスに見立ててギリシャ劇らしさを演出する意図が感じられて興味深かったです。

ギスギスした暴力的な響きが多用され、美しい旋律も躍動的なリズムもない音楽でしたが、物語に則したドラマ性があり、ワーグナーやリヒャルト・シュトラウスから繋がる伝統性を感じました。何度も現れる2度下降音形が復讐が始まる辺りからは2度上昇音形に反転して現れるのが印象的でした。

メデアを演じた飯田みち代さんは感情に沿って歌声を使い分けていて、出ずっぱりなのに最後までパワーダウンせずに歌いきっていて素晴らしかったです。オーケストラは前半はしっくりこない感じがしましたが、後半は無調音楽ならではの緊張感と色気があって楽しめました。

楽園

楽園

モダンスイマーズ

吉祥寺シアター(東京都)

2012/11/07 (水) ~ 2012/11/14 (水)公演終了

満足度★★★

いじめの構図
廃墟となったホテルでのある1日の出来事を通じて、些細なきっかけからいじめが生じる様子が最初はコミカルに、次第に痛々しく描かれていました。

5人の小学6年生がお互いに見栄を張って嘘をついたり、欠点をからかったりして、小さなコミュニティーの中で次々とヒエラルキーやグループが変化して行くのが滑稽でした。
しかし、それを見て笑っている観客自体が、いじめを止めさせようとせずにただ見て笑っている間接的当事者と同じ立場にいることを思わせ、ジワジワと怖さを感じました。

無理に子供っぽい声色にはしてないものの小学生として演技をしているのに対して、格好だけはその20数年後に就いている職業の姿をしているという演出が、演劇ならではの効果をあげていて良かったです。
劇中で描かれた一日の後、どのような過程を経てその職についたのかを想像させて興味深かったです。

5人それぞれのキャラクターがしっかりと確立されていて、息の合った台詞のやりとりの緩急も良く、演じている年齢と容姿のギャップもすぐに気にならなくなりました。
気の強い女の子を演じた深沢敦さんがユーモラスで、終盤の悲痛な姿とのコントラストが印象的でした。

RENT

RENT

東宝

シアタークリエ(東京都)

2012/10/30 (火) ~ 2012/12/02 (日)公演終了

満足度★★★

現代版『ラ・ボエーム』
プッチーニのオペラの名作『ラ・ボエーム』を現代のニューヨークに置き換えて、セクシャル・マイノリティーやエイズ、ドラッグといった要素を絡めてノリの良い音楽に乗せて描いた、ただの恋愛悲劇に止まらない、社会的な問題についても考えさせられる作品でした。

家賃も払えない若いアーティスト達のコミュニティーでの出会い、恋、対立、別れの中で、アートとお金のどちらを取るのか悩んだり、ゲイやレズである為に社会から疎外されたりする様子にリアリティーがあり、『ラ・ボエーム』より共感できる内容でした。
キャストのほぼ全員が日本人の為、黒人やヒスパニックといったエスニック・マイノリティーの問題があまり見えてこないのが残念でした。

ローリー・アンダーソンさんやシャーロット・ムーアマンさんを連想させるパフォーマンス『Over the Moon』は上木彩矢さんの演技がキュートで素敵でしたが、笑いが少な目なこの作品の中で、まとまった時間のコミカルなシーンなので、敢えてもっと馬鹿馬鹿しい感じでも良いと思いました。

曲調がバラエティーに富んでいて、歌唱のレベルも危なっかしい人がいなくて聴き応えがあったのですが、ラップ調の部分は日本語だとしっくりと来ないのが歯痒かったです。
スチールで組まれ、いくつかに分かれて動かせる2階建てのセットは、あまり動かす効果が感じられず、もったいなく思いました。

恋愛や死別で感動させるという個人的にはあまり好みの作風ではなかったのですが、再演が続き、映画化されたのも納得出来る、良い作品だと思いました。

アミール・レザ・コヘスタニ [イラン]『1月8日、君はどこにいたのか?』

アミール・レザ・コヘスタニ [イラン]『1月8日、君はどこにいたのか?』

フェスティバル/トーキョー実行委員会

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2012/11/02 (金) ~ 2012/11/04 (日)公演終了

満足度★★★★

若者の切迫感
検閲があるイランの状況をシンプルな要素で大胆に描いた作品で、あまり役者の動きがない、スタティックな演出でしたが、台詞のはしばしから自由が保証されていない人達の切実さが伝わって来て、引き込まれました。

ある目的を果たす為に、友人の恋人から銃を盗み取り、その受け渡しを巡って騒動になる物語で、女達の強さに対して男達の器の小ささが印象的でした。
直接面と向かって会話する場面がほとんどなく、携帯電話でやりとりする場面が大半であるという特異な状況が緊迫感を高めていて、ときには2組の通話が同時に行われ、緊張感がみなぎっていました。
銃のことを「カツラ」と隠語で呼んで隠密に事を運ぶのですが、最後のシーンで遂に鞄から銃を取り出すとそれは銃ではなく本物のカツラで、しかしそれをあたかも銃のように扱っていて、表現の抑圧に対しての皮肉を感じました。

床の上に、包帯、ビデオテープ、写真、泥、血といった「痕跡」が残されていく演出が悲痛さを暗示し、最後にその床の映像と顔の映像が二重映しで壁に投影される表現が素晴らしかったです。

最後に鳴り響く電話の呼び出し音が次第に旋律に変化して行くのに切なさを感じました。
控え目な映像の使い方も洗練されていて、美しかったです。

ジャン・ミシェル・ブリュイエール / LFKs [フランス]『たった一人の中庭』

ジャン・ミシェル・ブリュイエール / LFKs [フランス]『たった一人の中庭』

フェスティバル/トーキョー実行委員会

にしすがも創造舎 【閉館】(東京都)

2012/10/27 (土) ~ 2012/11/04 (日)公演終了

満足度★★★

CHOOSE A CAMP
元中学校であった、にしすがも創造舎の地下1階、3階、体育館、校庭を用いた、観客が歩いて見て回るタイプの作品で、移民キャンプをモチーフにした不気味かつユーモラスな表現が、自身がその場に傍観者として存在している居心地の悪さを感じさせました。

一番最初に入る部屋では白い短冊状の紙で覆われた「モンスター」達が踊っていて、その隣の部屋では彼等がアメリカのドラマの登場人物を演じる映像が流れていて、シュールな雰囲気がありました。
以降の部屋も、水蒸気が立ち込める中で茹で卵が作られていたり、電話のベルと蛇口からの水流が自動的に作動していたり、白衣を来たスタッフ達が政治的メッセージを訴えるバナーを作っていたりと、世の中から隠されている物を覗き見るような感覚がありました。

体育館には大きなテントが設置されていて、入口には「CHOOSE A CAMP(=陣営を選べ)」と書いてあり、中では年老いた黒人が身体検査のようなことをされていて、自分を含めた観客が動物を見るようにそれを見ていたのがおぞましかったです。
体育館内のテントの外側には白い緩衝材が敷き詰められ、その中で自動的に血液(?)で絵を描く装置や、頭部が上下する十数台の医療ベッド、オイルタンクとトランクを組み合わせたノイズ発生装置など、人のいない光景が広がっていました。
体育館の窓から外を見ると、目の前が墓地で、その遥か向こうにスカイツリーが輝いていて、何とも言えない気持になりました。

日本では移民キャンプは全く別世界のことに感じられ、作品が伝えたいメッセージを半分も受け止められなかったと思いますが、それでも色々と考えさせられる刺激的な体験でした。

F/Tモブ

F/Tモブ

フェスティバル/トーキョー実行委員会

池袋西口公園ほか(東京都)

2012/10/27 (土) ~ 2012/11/25 (日)公演終了

満足度★★

11月3日16:00の回を鑑賞
事前にネット上で呼び掛け、特定の日時に公共の場でゲリラ的集団パフォーマンスを繰り広げる「フラッシュ・モブ」を毎週土日に行う企画で、イデビアン・クルーの井手茂太さん振付の回を観に行きました。

東京芸術劇場のアトリウムに鳩時計の音が鳴った後、チャイコフスキーの『トレパック(『くるみ割り人形』より)』が流れ、少しずつ踊る人が増えて行き、最終的には数十人が同じ振付で踊るパフォーマンスでした。1階だけでなく地下1階で踊る人もいて2階から見下ろすと壮観でした。1分半程度で終わり、何事もなかったかのように普通の通行人に戻る瞬間が面白かったです。
いかにも井手さんらしい、ダイナミックでユーモラスなムーブメントを大勢で踊る光景は迫力と楽しい高揚感がありました。

劇場の建物内で行うと、その場に居合わせた人も舞台芸術に関心がある人が多く、何も知らない人が偶然出くわす機会としてはあまり機能していないのが残念でした。
安全性を確保する為にそうしなかったのだとは思いますが、コンサートホールで行われていたオーケストラの演奏会の客が帰りきってしまう前に予定時刻通りに始めていたら面白くなったと思います。

隣人ジミーの不在

隣人ジミーの不在

岡崎藝術座

あうるすぽっと(東京都)

2012/11/02 (金) ~ 2012/11/06 (火)公演終了

満足度★★★

他人との距離感
落ち着かない雰囲気の中、カタルシスのないざっくりとした展開で他人との微妙な関係性を描いた3人芝居でした。

字幕用のスクリーンと上手上空に吊り下げられたカラフルな球状のオブジェ以外には何もない舞台上で、夫婦のセックスシーンから始まり、社交ダンス発表会、喫茶店と場面が変わりつつ様々な登場人物(1人複数役を演じていました)との対話が展開し、特にクライマックスもなく終わる物語でした。
人をはぐらかすような会話に不穏な雰囲気がありながらユーモアもあり、奇妙な面白さを感じました。全然落ちてないオチで終わる素っ気なさが、新鮮でした。

お互いに触れることのない冒頭のシーンを始め、あたかもパートナーと一緒に踊っているようなダンスシーン、喫茶店での空気椅子等、「エア○○」な表現が多用されていて、他人との距離感を象徴しているように感じました。
逆に、空気読めてない感が漂う最後のシーンだけはエアな群衆ではなく、実際に大勢の人が舞台上に現れるものの何もアクションを起こさないのが印象的でした。

意味の無さそうなシーンが長く続いたり、正味90分弱の上演時間でセットの入れ換えがあるわけでもないのに、途中に10分間の休憩があったり、さらに休憩時間中はストーリーと関係の無さそうな映像が流されたり、全体的に独特の奇妙な空気感がありながら、あまり狙った感じがせず、ストレートな表現に見えたのが興味深かったです。

LE NOIR ルノア ~ダークシルク DARK SIDE OF CIRQUE~

LE NOIR ルノア ~ダークシルク DARK SIDE OF CIRQUE~

LE NOIR 日本公演製作委員会

クラブeX(東京都)

2012/10/26 (金) ~ 2012/12/26 (水)公演終了

満足度★★★

意外と健全で古典的
タイトルがフランス語で「黒」を意味する単語で、サブタイトルでも「ダークサイド・オブ・シルク」と謳っている、大人向けのダークで官能的なサーカスとのことでしたが、肌の露出が多くても健康的な雰囲気で想像していたような暗さはなく、単純に様々な技を楽しめる作品でした。

クラウン的な役割のコミカルなキャラクターが場を繋ぎながら、直径4mの円形ステージの上でジャグリングや空中ブランコといった定番の演目を中心に様々な技が繰り広げる作品でした。金属で出来たフレームを回す演目が照明と相俟って、幻想的で美しかったです。
男性は上半身裸、女性は下着のような露出度の高い衣装で、鍛え上げられた身体が美しかったです。

客いじりが結構あり、フランス語と英単語で話し掛けても上手く伝わらないところまでを芸の一部としていて楽しかったです。

様々なテクニックを高いクオリティーで披露していて、とてもエキサイティングでしたが、アスレティック的・曲芸的な面が強く打ち出されていて、総合的な舞台芸術としての面白さはあまり感じられなかったのが少々期待外れでした。
ヌーヴォーシルクと呼ばれるヨーロッパやカナダのアーティスティックなカンパニー達に比べて、外見は派手でも中身は古典的な表現に見えました。

音楽が仰々しく、個人的にはもっと落ち着いた雰囲気の曲の方が大人向けな感じになると思いました。

イントレランスの祭

イントレランスの祭

サードステージ

シアターサンモール(東京都)

2012/10/30 (火) ~ 2012/11/11 (日)公演終了

満足度★★★

不寛容の炎上祭
最近の日本の中国・韓国との関係を思わせる、差別と(不)寛容について考えさせられる内容が、SF的設定の下、明るい雰囲気で描かれた作品でした。

日本に大量にやって来た宇宙人とそれを排斥しようとするナショナリズムを掲げる集団の対立関係に恋愛要素が絡んでストーリーが展開し、不寛容によって引き起こされる悲劇が描かれていました。
ネット上にアップされる動画に煽られて暴力的になっていく姿の見えない群衆の存在がリアルで不気味でした。

人の姿に化けて暮らす宇宙人が見た目にこだわらないという設定が効果的に使われていて、価値観の異なる人との意思疎通の難しさがユーモラスに描かれていたのが印象的でした。

途中、南京大虐殺や天皇制にまつわる議論を想起させるエピソードもありましたが、踏み込みが浅くて中途半端に感じられ、無理に話を広げる必要はないと思いました。

テーマやストーリーはタイムリーな内容で興味深かったのですが、オープニングの全員でのダンスや、殺陣のシーン、絶えず流れるBGM、背景として流される映像といった演出手法が煩く、古臭さと悪い意味での軽さを感じました。
もっとじっくりと考えさせるような落ち着いたテイストが欲しかったです。

アールパード・シリング [ハンガリー]『女司祭―危機三部作・第三部』

アールパード・シリング [ハンガリー]『女司祭―危機三部作・第三部』

フェスティバル/トーキョー実行委員会

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2012/10/27 (土) ~ 2012/10/30 (火)公演終了

満足度★★★★

子供達のドキュメンタリー演劇
ルーマニアのトランシルバニア地方に住む12人の10代の少年少女をフィーチャーしたドキュメンタリー的な作品で、乾いたユーモアと力強さが印象に残りました。

ある村に演劇を教える女性教師がやって来る物語を主軸にして、ハンガリー人(マジャール人)とロマ人、教師と生徒、親と子、田舎と都会といった対立が描かれ、政治、経済、宗教、教育、セクシャルマイノリティーといったテーマについて考えさせられる内容でした。

インタビュー映像だけが流れる時間が多く、さらに劇中劇が折り重なったような特異な構成で、事実と虚構の境目が曖昧になって来るのが印象に残りました。
「ストップ」の掛け声をきっかけにして、直前のシーンについて子供達が意見を述べる時間となり、時には客席も明るくなって観客も一緒に考えて意見を言うように要求することもあり、観客を傍観者の立場に留めておかない趣向が刺激的でした。意見を言う人がほとんどいなかったのもいかにも日本人的で興味深かったです。

基本的には台詞の日本語訳がスクリーンに映し出されていて、討論のパートは即興で展開する為、同時通訳の人が訳していたのですが、即興で演じていることが明確になってしまい、台本通りなのか即興なのか分からないスリルが失われていて、外国語で上演する難しさを感じました。

第39回 NHK古典芸能鑑賞会

第39回 NHK古典芸能鑑賞会

NHKプロモーション 

NHKホール(東京都)

2012/10/28 (日) ~ 2012/10/28 (日)公演終了

満足度★★★

熟練の芸
色々なジャンルの日本の伝統芸能をまとめて観ることが出来る公演で、ベテランの熟練の芸が楽しめました。

筝曲『春の海幻想』
宮城道雄の代表作『春の海』を箏と尺八の独奏と箏の大アンサンブルによる協奏曲に仕立てた作品で、様々な技巧を駆使した演奏が爽快でした。

舞踊『茨木』長唄囃子連中
能の形式に則った、見応えのある作品でした。
老婆に化けた鬼を演じた花柳壽輔さんは、最初の普通の芝居の部分ではあまり印象に残らなかったのですが、踊り始めると圧倒的なオーラが感じられて素晴らしかったです。子役の秋山悠介君は座っているだけかと思いきや、長めのソロの踊りがあり見事でした。

歌舞伎『艶容女舞衣(はですがたおんなまいぎぬ)酒屋』
太夫と三味線が活躍する世話物で、ベテラン勢の演技は味わいがありましたが、会話のテンポや、三味線との絡み方がしっくり来ず、あまり物語に引き込まれませんでした。上方訛りに独特の艶があり、魅力的でした。
会場が音楽ホールの為、マイクを通して増幅された声の残響が長く、台詞が聞取りにくかったが残念でした。

舞踊と歌舞伎は被る要素が多いので、次回は雅楽か能・狂言を上演して欲しく思いました。

光る森、青い樹

光る森、青い樹

酒井幸菜

横浜市民ギャラリーあざみ野(神奈川県)

2012/10/20 (土) ~ 2012/11/10 (土)公演終了

満足度★★★

印象的な青い光
アートとダンスの出会いをテーマにした展覧会の出品作として行われたダンスパフォーマンスで、繊細でありながらおおらかな雰囲気があり、静かな美しさが印象に残りました。

佐々木愛さんの木を描いた油彩画のスライド作品『Time to Live』にインスパイアされた作品で、木の枝が真っ白な空間の数箇所に配置された中を白い衣装でゆったりと踊り、中国やインドの舞踊を思わせるところがありました。
静かな雰囲気が支配的ですが、ムーブメントのボキャブラリーが豊富で、しなやかで息の長い、フレーズ感が魅力的でした。

下手の上方から斜めに照射する青い光が身体の輪郭を照らし出し、神秘的で美しかったです。
首に巻いていた青いショールが人工的な質感で、全体の中で浮いて見えたのが惜しく思いました。

20分強と短い作品ではありますが、展覧会の入場料(300円)だけで観ることが出来、パンフレットも洒落た作りで満足度が高かったです。
同じ展覧会の中でロングラン公演している山下残さんのパフォーマンスも観てみたく思いました。

わたしとわたしとあなたとあなた

わたしとわたしとあなたとあなた

ホナガヨウコ企画

渋谷パルコPART1 B1F my panda 店舗周辺~1F公園通り広場周辺(東京都)

2012/10/28 (日) ~ 2012/10/28 (日)公演終了

満足度★★

ツートーン
渋谷パルコに入った新進ブランドmy pandaの服を衣装に用いての20分弱のキュートなダンスパフォーマンスでした。

被り物として用いた、ビニールテープで上下2色に貼り分けたカラーコーンや、シャツ&パンツとニット&スカートの2グループに分かれた振付等、my pandaのブランドコンセプトである「ツートーン」を意識した要素が盛り込まれていました。
ホナガさんらしいガーリーで可愛いらしい振付でしたが、水平に飛び込むのを2人が受け止めたり、肩車で持ち上げられたダンサーを他の人が人形を動かすようにポーズをつけたりと、アクロバティックなコンタクトもあり、印象に残りました。

雨天の為、急遽会場を変更したとのことで、6人で踊るにはかなり狭いスペースで、動きを抑えている感じが伝わってきて残念に思いました。

万国博覧会/ワールド・フェアー

万国博覧会/ワールド・フェアー

アンスティチュ・フランセ東京

シアタートラム(東京都)

2012/10/26 (金) ~ 2012/10/27 (土)公演終了

満足度★★★

白と黒、そして青と赤
ダンサーとミュージシャンそれぞれ1人による、冷たい質感の漂う50分程度のパフォーマンスで、人種や国籍に纏わるアイデンティティーについてのメッセージが感じられる作品でした。

開場すると煌々と明るい照明の中、裸の上半身を真っ黒に塗ったダンサーがゆっくりと回転する台の上で固まって立っていて、ミュージシャンが舞台に現れてメトロノームを鳴らすとそれに合わせて手旗信号のような動きが繰り返され、次第におびえているようにも見えるダイナミックな動きに変容して行きました。
ダンサーが一旦捌けて黒のペイントを落として現れると次は顔を真っ白に塗りたくり、5拍子や9拍子のいびつなリズムに合わせてもがくようにタップを刻む姿が痛々しかったです。
最後のパートは国歌のコラージュ音楽の後にドマラチックなピアノ演奏が続き、顔をフランス国旗の3色で迷彩状に塗ったダンサーのアップの映像が流され、フランシス・ベーコンの絵画のように歪んだ顔が抑圧された人の悲痛を思わせました。

白と黒の工業製品が並ぶ無機質なヴィジュアル表現が魅力的で、舞台中心の上空を回り続ける照明を取り付けた鉄パイプが象徴的で印象に残りました。ピアノ、オルガン、ギター、パーカッションとエフェクターを駆使したインダストリアル~オルタナティヴ系の音楽が格好良かったです。

テーマ抜きにダンスや音楽単体としてもクオリティーが高くて見応えがありましたが、何かを訴え掛けているのは伝わって来るのにそれを理解出来ないもどかしさを感じました。
パンフレットに転載されていたル・モンド紙に出たレビューを読んだところ、タイトルにもなっている万国博覧会にまつわるエピソード等、ヨーロッパにおける黒人の歴史についてある程度知識がないと分かり難い作品のようで、コンテクストを共有していない海外の先鋭的な作品の受容の難しさについて考えさせられました。

日々の暮し方

日々の暮し方

アトリエ・ダンカン

あうるすぽっと(東京都)

2012/10/18 (木) ~ 2012/10/28 (日)公演終了

満足度★★★★

洗練されたムーブメント
失踪した男を探す女の物語に別役実さんのシニカルなエッセイが織り込まれた構成の作品で、小野寺さんならではの、時間と空間が伸び縮みし、目まぐるしく人物が入れ替わっていく演出が魅力的でした。

前半は台詞や物語とムーブメントの関係にあまり必然性が感じられず、チグハグな印象を持ちましたが、後半は舞台美術や小道具を用いた複雑なコンビネーションを駆使した身体表現が不条理なテイストの物語と一体になって、マジカルな効果を生み出していて素晴らしかったです。
あっけない終わり方も物語としては物足りない感じでしたが、舞台作品としての内容に合っていてたと思います。
観客の視線の誘導が巧みで、大掛りな装置や効果等を用いずにアナログな手段で、気付かない内に人や物が現れたり消えたりしているのが小気味良く、楽しかったです。

南果歩さんが着ている赤い服以外はグレートーンに統一した衣装や舞台美術や、クリック&グリッチ系のテクノを中心とした音楽がクールでスタイリッシュな雰囲気を醸し出していました。

南果歩さんは他の出演者に比べて動きで表現するシーンは少な目でしたが、立ち姿や台詞に存在感がありました。
川合ロンさんの高い身体能力を駆使した融解するような動きが印象的でした。

DEDICATED 2012 IMAGE

DEDICATED 2012 IMAGE

KAAT神奈川芸術劇場

KAAT神奈川芸術劇場・ホール(神奈川県)

2012/10/19 (金) ~ 2012/10/21 (日)公演終了

満足度★★

豪華メンバーが活かされず
首藤康之さんと中村恩恵さんを中心に、写真家の操上和美さん、ミュージシャンの椎名林檎さんといったアーティストのコラボレーションによる公演でしたが、映像だけが流れる時間が多く、1時間弱しかない上演時間の内、実際に舞台上で踊る時間が半分程度しかなく、かなり不満を感じました。

『Between Today and Tomorrow』
椎名林檎さん書き下ろしのピアノと弦楽四重奏による音楽に乗せて踊る作品で、情熱的なダンスとバリエーションに富む照明が印象的でした。短すぎて、もう少し展開が欲しかったです。

『The Afternoon of a Faun ~ニジンスキーへのオマージュ~』
操上和美さんの映像作品で、『牧神の午後』を踊るニジンスキーの写真を首藤さんが真似する様子が描かれていました。顔のパーツの接写等、映像ならではの表現が使われていて、画としてもエロティックで美しかったのですが、首藤さんが出演している舞台なのに本人不在の状態で首藤さんのPVを見せられているようで、違和感がありました。
音楽に耳障りなデジタルノイズが乗っていたり、曲の最後まで行かずに終わったりと、音の扱いに不満を感じました。

『WHITE ROOM』
イリ・キリアンさんが中村さんの為に作った名作『ブラックバード』をベースにしたデュオに、さらに映像パートを加えたヴァージョンでの上演で、映像内のダンサーと舞台上のダンサーが影響を及ぼし合っているかのようなイリュージョンが興味深かったです。今回のヴァージョンではチェーホフの『かもめ』に着想を得たとのことで、冒頭と最後にニーナとトレープレフを思わせるシーンがあり、映像もロシア映画的な雰囲気が漂っていました。中村さんのソロパートが、やはり美しくて圧巻でした。
最後は首藤さんが立ち尽くす中をスタッフロールの映像が流れましたが、その必要性が感じられませんでした。

終演するとカーテンコールも無い内にすぐに客席が明るくなり、興醒めな終わり方で残念した(その後カーテンコールはありましたが)。

遅刻する人が多くて開演が遅れ、開演してからも何人か入って来ていましたが、上演時間が1時間弱しかないのであれば、19時半か20時開演にするべきだと思いました。

『雪降りて/悲しみに』『トロイメライ』

『雪降りて/悲しみに』『トロイメライ』

スタジオイワト

スタジオイワト(東京都)

2012/10/13 (土) ~ 2012/10/14 (日)公演終了

満足度★★

孤独なトロイメライ=夢
如月小春の『トロイメライ』を再構成したコンパクトな音楽劇で、短いながらも独特の孤独感が印象的な作品でした。

最初に高橋悠治さんの新作の短いピアノ曲が演奏された後にリハーサル風景の映像が10分程流されてから、上演が始まりました。
シューマンの『トロイメライ』が演奏される中、全身真っ白の衣装と仮面を身に付けた男がゆっくり現れ、椅子に置かれた大きな白い球体を持って立ち去った後、2人の役者が登場し、12歳のカイとサキが「永遠の中庭」と呼ばれる死者の世界へ行って戻ってくる物語が展開しました。最後に再び『トロイメライ』が流れる中、白い男が現れ、球体を椅子の上に置いて立ち去り、曲の最後の1音が弾かれないままに暗転して終わりました。
この世を辛く思いながらも生きて行く悲しさが冷たく淡々と描かれていました。

白い男の格好や歩き方、死者の世界を夢として描いた物語、顔の向き上下に変化させることによって表情を異なるように見せる手法、といった能を連想させる要素が多くありました。
『トロイメライ』(「夢」のドイツ語)はシューマンの『子供の情景』の中の1曲なので、そういう意味でも子供の妄想(?)を描いた内容にとても合っていました。

『トロイメライ』の断片が宙に浮かんだような曲や、ベートーヴェンの『月光ソナタ』が引用された曲等、寂しげな響きが印象的でした。

作品としては良かったのですが、高橋悠治さんの演奏とはいえ、実質1時間に満たない内容で通常のチケット代だったので、コストパフォーマンスが悪く感じました。

リチャード三世

リチャード三世

新国立劇場

新国立劇場 中劇場(東京都)

2012/10/03 (水) ~ 2012/10/21 (日)公演終了

満足度★★★

砂上のリチャード
長時間の作品ですが、充実した演出・演技に引き込まれ、集中力を途切れさせずに最後まで楽しめる作品でした。

争いによって流された血を吸い込んだかのような赤い砂が一面に敷き詰められ、手前中央が丘のように少し盛り上がった舞台美術の中で、王の座を巡る殺し合いのドラマが展開し、多くの人々の思いが複雑に交錯する様子が印象的でした。
下手には傾いた玉座があり、その周りに殺された人々の遺体が次第に積み重なり、リチャードの残虐性を継続的に感じさせる演出となっていました。
リチャードとリッチモンドの軍の戦闘に至るシーンでは回り舞台を用いて緊張感を高めていて、様々な登場人物が「絶望して死ね!」と「生きて栄えよ!」という台詞を続ける場面の高揚感が素晴らしかったです。
基本的にシリアスな雰囲気の中、所々にふざけたような演出があり、張り詰めた空気を和ませていました。

多彩な照明が舞台美術を色々な表情に見せていて印象に残りました。舞台奥にはビニールの幕が二重に吊され、役者達の姿がぼんやりと映ったり、時折映像が投影されるのが幻想的で美しかったです。
終盤に劇場備え付けの設備を意外な方法で見せる演出があって驚きはしましたが、意図が伝わらないままにすぐに引っ込んでしまい、もどかしさを感じました。
衣装は当時の服装ではなくスーツ等のもっと近代に寄った格好をしていましたが、中途半端に感じました。時代が変わっても存在し続ける人間の愚かさを描くという意図なのであれば、もっと現代的な衣装の方が良いように思いました(1人だけTシャツとジーンズ姿の役がありましたが)。
ロマン派のピアノ曲をメインとした穏やかな音楽と血なまぐさい物語とのコントラストが新鮮でした。

岡本健一さんが背中を丸め脚を引きずりながら演じるリチャードの孤独でありがなら強がる姿が醜く滑稽で、とても魅力的でした。母親との対話のシーンでは一瞬だけお互いの心が通じ合うような時があって運命の非情さを感じさせて切なかったです。

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