満足度★★★
砂上のリチャード
長時間の作品ですが、充実した演出・演技に引き込まれ、集中力を途切れさせずに最後まで楽しめる作品でした。
争いによって流された血を吸い込んだかのような赤い砂が一面に敷き詰められ、手前中央が丘のように少し盛り上がった舞台美術の中で、王の座を巡る殺し合いのドラマが展開し、多くの人々の思いが複雑に交錯する様子が印象的でした。
下手には傾いた玉座があり、その周りに殺された人々の遺体が次第に積み重なり、リチャードの残虐性を継続的に感じさせる演出となっていました。
リチャードとリッチモンドの軍の戦闘に至るシーンでは回り舞台を用いて緊張感を高めていて、様々な登場人物が「絶望して死ね!」と「生きて栄えよ!」という台詞を続ける場面の高揚感が素晴らしかったです。
基本的にシリアスな雰囲気の中、所々にふざけたような演出があり、張り詰めた空気を和ませていました。
多彩な照明が舞台美術を色々な表情に見せていて印象に残りました。舞台奥にはビニールの幕が二重に吊され、役者達の姿がぼんやりと映ったり、時折映像が投影されるのが幻想的で美しかったです。
終盤に劇場備え付けの設備を意外な方法で見せる演出があって驚きはしましたが、意図が伝わらないままにすぐに引っ込んでしまい、もどかしさを感じました。
衣装は当時の服装ではなくスーツ等のもっと近代に寄った格好をしていましたが、中途半端に感じました。時代が変わっても存在し続ける人間の愚かさを描くという意図なのであれば、もっと現代的な衣装の方が良いように思いました(1人だけTシャツとジーンズ姿の役がありましたが)。
ロマン派のピアノ曲をメインとした穏やかな音楽と血なまぐさい物語とのコントラストが新鮮でした。
岡本健一さんが背中を丸め脚を引きずりながら演じるリチャードの孤独でありがなら強がる姿が醜く滑稽で、とても魅力的でした。母親との対話のシーンでは一瞬だけお互いの心が通じ合うような時があって運命の非情さを感じさせて切なかったです。