満足度★★★★
若者の切迫感
検閲があるイランの状況をシンプルな要素で大胆に描いた作品で、あまり役者の動きがない、スタティックな演出でしたが、台詞のはしばしから自由が保証されていない人達の切実さが伝わって来て、引き込まれました。
ある目的を果たす為に、友人の恋人から銃を盗み取り、その受け渡しを巡って騒動になる物語で、女達の強さに対して男達の器の小ささが印象的でした。
直接面と向かって会話する場面がほとんどなく、携帯電話でやりとりする場面が大半であるという特異な状況が緊迫感を高めていて、ときには2組の通話が同時に行われ、緊張感がみなぎっていました。
銃のことを「カツラ」と隠語で呼んで隠密に事を運ぶのですが、最後のシーンで遂に鞄から銃を取り出すとそれは銃ではなく本物のカツラで、しかしそれをあたかも銃のように扱っていて、表現の抑圧に対しての皮肉を感じました。
床の上に、包帯、ビデオテープ、写真、泥、血といった「痕跡」が残されていく演出が悲痛さを暗示し、最後にその床の映像と顔の映像が二重映しで壁に投影される表現が素晴らしかったです。
最後に鳴り響く電話の呼び出し音が次第に旋律に変化して行くのに切なさを感じました。
控え目な映像の使い方も洗練されていて、美しかったです。