電磁装甲兵ルルルルルルル
あひるなんちゃら
OFF OFFシアター(東京都)
2014/01/28 (火) ~ 2014/02/02 (日)公演終了
満足度★★★★
”なんちゃら”な統一感
その劇団名からも脱力感が伝わって来て素敵だが
“緊張を強いない”会話でありながら、メリハリがあって面白かった。
「ル」が7つ並んだ理由はそれだったのかぁ。
”ちょっと困った人”ばかり出て来るが、役者陣がその微妙な困り具合を見せて上手い。
ネタバレBOX
中央に椅子が2つ、ゴミ箱がひとつというさっぱりした舞台。
登場したタナカ(根津茂尚)は、しきりに外を気にしている。
地球の外から侵入してくる敵を討つために作られたロボットの訓練を見ているのだ。
1,2,3、の3機が合体すれば最強のはずだが、双子のマツナミ兄弟はともかく
もう一人の“天才アオヤマ”と気が合わないため、3機はうまく合体できない。
一方何とかしてあのロボットのパイロットになりたいのに、
清掃係のタナカは毎日アピールするがライバル多すぎてうまくいかない…。
ある人にとってはどーでもいいことが
別の人にとっては切実な問題だったりして、そこのズレが可笑しい。
ただ“ユルイ”会話が続くのではなく、そこに誰かの真剣な気持ちがある。
会話にメリハリがあるのはそのせいだと思う。
パイロットになりたい“かわいそうなタナカ”と呼ばれる彼の切なる希望や
自分たちを見分けて欲しい双子の兄(三瓶大介)と弟(堀靖明)のレクチャー(?)など
その真剣な気持ちに対して、周囲の無関心と無頓着のギャップが大きいから面白い。
軽妙な前説でも笑わせた脚本・演出の関村さんは、
会話の中で“期待した反応とは違う反応が返って来た時の「?」”を取り出して見せる。
「へ?」というその繊細な間が絶妙。
双子が声を合わせて“眼鏡は顔の一部です…”と言うところ、良かったなあ!
息が合っていて、本当の双子みたいだった(笑)
だいたい片方が太って眼鏡かけてるのに誰も区別できない双子っていう設定が○。
相変わらず力まずにいられないシチュエーションに置かれる堀さんの台詞が上手い。
戦隊ものっぽい歌も良かった。
そろいもそろって“ちょっと困った人”ばっかりなのも良い。
ひとり普通っぽいタナカがやっぱり可哀そうになるのがリアルだ。
あひるなんちゃらって、作品だけでなく創ってる人の人柄も観劇環境も
全てが“なんちゃら”な感じで、統一感ありまくりなのであった。
その統一感が、劇場に入ってから出るまでもれなくついてくるところが
楽しくて素晴らしい。
第5回公演 初恋
日穏-bion-
「劇」小劇場(東京都)
2014/01/29 (水) ~ 2014/02/02 (日)公演終了
満足度★★★★★
上品・上質なエンターテイメント
平成25年春―昭和25年―平成25年秋―昭和39年という
4つのオムニバスが緩やかに繋がりながら流れている。
少ない人数の間で交わされる無駄のない台詞が素晴らしく
登場人物が背負う背景が説明的でなく伝わってくるところが巧み。
役者陣の演技にメリハリがあって4本を一気に魅せる。
随所に笑いがあるが、第四話のラストは泣かずにいられなかった。
ネタバレBOX
第一話 平成25年・春 「観覧車」
ヘビースモーカーの高山登(原田健二)と高所恐怖症の手塚悦子(木村佐都美)は
面識もないのに、混雑する観覧車にカップルとして乗せられてしまう。
なぜか途中で止まってしまった観覧車の中で、
二人は禁断症状とパニックで思わず素顔をさらけ出すことになる。
高所恐怖症の悦子が緊張のあまり挙動不審になって行く様が可笑しい。
コントになりそうな寸前でリアルに見せる、その加減が見事だった。
第二話 昭和25年・夏 「手紙」
冒頭は戦地に赴いた平和守(杉浦大介)とその帰りを待つ千代子(キタキマユ)との
手紙のやりとりである。
戦時下にこんな素直に未来を語る内容が検閲を通ったのか判らないが
この手紙が初々しい分、7年後の再会は痛切極まりない。
不自由になった足を折り曲げるようにして座る守の背中は絶望的で頑なだ。
生還しても幸せになれない人がたくさんいたであろうことを感じさせる。
守と一緒に暮らしている水商売の珠恵(村山みのり)の
大雑把なようで人の気持ちがわかるキャラクターが効いている。
第三話 平成25年・秋 「幼なじみ」
晴彦(深津哲也)、雪子(竹中友紀子)、夏実(廣川真菜美)の兄弟の住む町に
幼なじみの和男(曽我部洋士)が転勤で帰ってくる。
思うようにならない一方通行ばかりが行き交う初恋通り。
会話のテンポが良く、切ない話なのに不思議と暗くはない。
第四話 昭和39年・冬 「故郷の雪」
古い娼館の桃子(岩瀬晶子)の元へ奇妙な客(管勇毅)がやって来る。
別れた彼女とのやり取りを再現するのだと言って桃子に彼女を演じさせる男。
「相手の気持ちを考えていない、私は私だ」とキレる桃子に
男はようやく自分の事ではなく、桃子のことを尋ねる。
桃子にも戦地からの帰りを待っていた男がいたのだ。
変な客の思い詰めた自己チューな態度が超上手くて笑った。
東北弁の桃子の素朴さが、初恋の哀しい結末を際立たせる。
男の迷いのない暴走ぶりが可笑しく、それだけに後半の変化がドラマチック。
“再現”も悪くないと思わせるラストが秀逸で、涙が止まらなかった。
4つのストーリーが細い鎖で繋がっているところがいい。
さりげなく、彼らのその後が語られていて胸を衝かれたりする。
厳選された台詞と絶妙の間が素晴らしい。
話がひとつ終わる毎に、スクリーンに当時の映像が映し出されるのも
時代背景が瞬時に理解出来てよかった。
客入れの時から流れるBGMがストレートに時代を思い起こさせるのも効果的で
音量・選曲、それに照明もあいまってとても上品・上質な舞台。
6年ぶりの再演に出会えて本当に良かった。
劇読み!Vol.5 ご来場ありがとうございました。
劇団劇作家
【閉館】SPACE 雑遊(東京都)
2014/01/22 (水) ~ 2014/01/28 (火)公演終了
満足度★★★★
G「五臓六腑色懺悔」
劇作家の、劇作家による、劇作家のための相互研鑽とプレゼンを目的とした劇団。
この公演は戯曲のプレゼンであり、戯曲と劇作家の見本市でもあるという。
今回上演13作品のうちの一つを観たのだが、
「芝居」と「朗読」の違いのひとつとして「ト書き」の面白さを見せつけてくれた作品。
アングラテイスト香る、歌舞伎のケレン味もたっぷりな、私の好きなタイプ。
肝心なところで噛んだのがちょっと残念だったが、ぜひ芝居にして欲しいと思った。
ネタバレBOX
客席が演技スペースをコの字に囲んでいる。
中央に一段高い演台があり、そこでト書き(三原玄也)が
ハリセンはたきながら語り始める。
蛤(ささいけい子)は、かつて男との生活に邪魔だと
幼い息子捨吉を寺へ置き去りにした。
蛤は懲りずに男を渡り歩きついに自殺未遂、あの世とこの世の境界をさまよううち
トコヨミ(清水泰子)と出会い、懺悔して何とか息子を探し出したいと訴える。
トコヨミが探してみると、捨吉の中で“好戦的な物欲”と“それをいさめる力”の
二つの勢力がせめぎ合ってついに自己分裂、今は昏睡状態にあると言う。
トコヨミの力で息子の体内に入り込み、対立する二つを和解させて蘇生させるべく
蛤は捨て身の策を講じる…。
荒唐無稽な筋立てに、勢いのある歌舞伎仕立てがぴったり。
流れるような江戸弁も心地よく、若い役者さんも驚くほどはまっていた。
五臓六腑が天狗組と河童組の二手に分かれて対立する様が面白い。
人間の相反する気持ちの葛藤がそのまま描かれている。
行きずりの蛤が、双方に働きかけて和解させるというシンプルなストーリーも良い。
自己犠牲の理由が“母の情愛”という古典的なテーマであることが活きてくる。
清水泰子さん演じるトコヨミが味わい深い。
どうしようもない生き方をして来た蛤を突き離さずにチャンスを与える。
スレていてもいいはずなのに、包容力と艶のある蛤を演じたささいけい子さん、
天狗が惚れるだけのことはあって、唄声も優しく美しい。
黄泉の世界と体内世界、芝居になったらどんな風になるだろう。
上演時間が2時間超というのはちょっと長いかな。
それにしても、芝居の動作が朗読の“ト書き”で説明されると、
一気に想像力が刺激され、風景が広がる。
キレの良い江戸弁が素晴らしく、異世界を堪能して楽しかった!
Day By Day
劇団かさぶた
OFF OFFシアター(東京都)
2014/01/23 (木) ~ 2014/01/26 (日)公演終了
満足度★★★
【豚チーム】必然性
おおみそか、夫婦の家を訪れる妹、友人、隣人…。
かき乱される日常の中から、大切なものが転がり出て来る。
という筋だったように思うが、話が動き出すまでの会話が散漫で引っ張る力が弱い。
原因は設定と台詞に必然性が薄いことだろうか…。
ネタバレBOX
夫婦の元に「芝居の役作りのために夫婦を観察したい」という理由で
突然転がりこんで来る妻の妹とか、
日頃付き合いもないのに「歯が痛い、歯医者で働いてるんだから何とかして」と
押しかけて来る隣人とか、ちょっと設定に説得力がないので
冒頭から登場人物に距離を感じてしまう。
終わってみれば、妹も隣人もなかなか魅力的なキャラなだけに残念。
確かに私たちの日常会話は散漫で、あちこち飛んだりズレたり聞き落としたりするものだ。
だが夫がテレビの修理を依頼する電話をしながら頻繁に妻に話しかけたりすると
(話しかけられて中断するのではなく)、
それが落語の“小言幸兵衛”みたいなキャラを強調するならいざ知らず
必然性を欠く行為や会話が重なっていくうちに、観ている側は関心が薄れてしまう。
故意か偶然か、妹のおかげで夫婦の間に新たな気持ちが生まれるが
それは物語の根幹をなすに相応しい温かさと微笑ましさを持っている。
もっとシンプルにこの気持ちを軸に見せても素敵なストーリーだと思う。
登場人物のキャラが魅力的だし、役者陣は熱演だった。
妹役の有沢未希さん、マイペースな不思議ちゃんが可愛くて良かった。
夫役の南雲康司さん、ラストで一気に「いい人じゃん!」と思わせるところが上手い。
かさぶたは、そのHPの“市街劇”がインパクト大でとても魅力的だったので
あのシンプルでダイレクトなアプローチを舞台にも期待したい。
幻夜
観覧舎
OFF OFFシアター(東京都)
2014/01/10 (金) ~ 2014/01/13 (月)公演終了
満足度★★★
自由は孤独
不思議な芝居だった。
夢を紡いだような、現実を重ねたような、でも全体はまとまらない感じ。
だから「幻夜」なのか…。
文(ふみ)と武(たける)の関係はいかにもありそうで、そのもどかしさが妙にリアル。
当日パンフにあるように、去年の夏から稽古を始めたという丁寧な作りが伝わってくる。
ネタバレBOX
開演前から舞台では中野あきさんが音楽プレーヤーを聞きながら踊っている。
時折思い入れたっぷりに歌い出したりする。
一段高くなった居室に倒れ込みタオルケットにくるまったところで、前説登場。
これは武(今村洋一)に振り回された文(中野あき)の妄想なのか。
それとも自由を追い求めていたら独りになっていた武の妄想なのか。
文という名前の女性は3人登場するが、いずれも武に思いを寄せて報われない。
武は妊娠した文をブンちゃんに押し付ける。
ブンちゃんはその子が自分の子であってもなくても受け入れる。
いくつもの“文と武”のエピソードが語られるが、全体としてまとまってはいない。
ただ、各々のエピソードは妙にリアルだ。
例えば武役の今村洋一さんの、“自由を求めていく”姿勢はいつもブレない。
どうやら彼にとっての自由は“束縛されないこと”であるらしい。
少なくとも彼がそう信じ切っていることが伝わってくる。
だから結婚などもってのほかで、文はいつも置いてきぼりだ。
しかし自由を追い求めた結果、武の周りには誰もいなくなる。
日置達哉さん演じる、車を自慢したい男も面白かった。
出会ってすぐデートに誘う男、“めちゃんこ速い“車で富士急ハイランドに誘う男。
一つひとつの台詞にチャラいながらも熱心な(?)説得力があって可笑しかった。
“オチ”は不可欠ではないのかもしれないが
作者の世界に近づくためにも、もう少し理解の手助けがあったら
個々のエピソードがもっと活きるような気がする。
ラスト、富士山になった文がひとりになった武に「頑張れ―!」と叫ぶところ、
自分を一番に考えてくれない男を、
それでも応援する気持ちが切なくて泣きそうになった。
観ている私の中で、もっと登場人物が集結したら
さらに強く揺さぶられたのではないかと思った。
人魚の夜
青☆組
こまばアゴラ劇場(東京都)
2014/01/10 (金) ~ 2014/01/20 (月)公演終了
満足度★★★★
名言
美しく儚い設定で語られる、これは受容と再生の物語に見える。
受け入れ難いことを受け入れるとは、わかっているのにこんなにも難しい。
陸に上がる魚たちは、その思いの強さから荒っぽい方法を取るが
人間は曖昧な表情で途方にくれている。
シュールな展開もあるが安定した構成、
藤川修二さんの熱演と荒井志郎さんの繊細なたたずまいが魅せる。
ネタバレBOX
5度の大きい戦争のあと、男しか生まれなくなって
男たちは魚を嫁にした時期があった…という昔話が語られる。
魚の嫁たちは雨が降ると陸に上がって男のもとに通った。
逢いたい気持ちがつのると、魚たちは雨が降るように祈り、それは時に強い台風となる。
だからこの町は雨の日が多いのだ、と言い伝えられる地方が舞台。
2年前台風の日に行方不明になった冬子(小瀧万梨子)の靴が発見され
夫の孝博(荒井志郎)の手により、役所で正式に死亡届の手続きがされようとしている。
冬子の父で元教師の正彦は、その孝博と二人で暮らしていた。
少年時代の正彦が慕った合唱部顧問の先生(渋谷はるか)や
冬子の妹春江(大西玲子)、ある事件から家に出入りしなくなった夏雄(井上裕朗)ら
正彦をめぐる過去と現在が行きつ戻りつしながら葬儀の日を迎え、別れの日が訪れる…。
ある日突然理由もわからないまま誰かを喪うという喪失感を共有する人々。
夫も、父も、兄妹も、みなそれぞれが互いを思いやって暮らしている。
無理強いをせず、誰かの気持ちが動くのを待つタイプの進展がむしろ新鮮で
けじめをつけてこの家を出ていこうとする孝博の静かな動きや
その孝博を慕って世話を焼く春江のかいがいしさ、
言葉にならない心情が静かな立ち居振る舞いと何気ない日常の会話に溢れている。
こんなにも豊かな表現を、日頃私たちはきちんと見ているだろうかと思う。
言語化されたことのみを取り沙汰し、その他の表現をないがしろにしていないだろうか。
少年期と老年期(この間が全くない)を行き来する正彦役の藤川修二さんが熱演。
この父はこの後も淡々と生きて行くのだろうが、その寂しさが胸に迫る。
取り残された夫を演じた新井志郎さんの繊細な台詞とたたずまいが魅力的。
理由探しと思い出の反芻に明け暮れる夫の日々が思われて切ない。
「お父さんはこれからどうするんですか?」と尋ねながら涙がにじんでいたシーン、
再び取り残される父親を思いやる切実な問いかけにもらい泣きしてしまった。
溌剌とした合唱部の顧問として指導する反面
「あの先生は魚だ」と噂される小波先生を演じた渋谷はるかさん、
キレの良い台詞と凛とした姿勢が素晴らしく、不意に見せる妖艶な表情との
落差がインパクト大。
夏雄が、死んだ冬子と交わした手紙が良かった。
率直に結婚の幸せをつづる手紙に対して、葬儀の時にやっと返事をしたためる兄。
平易な言葉で語られていて、演じる井上裕朗さんの朗読が泣かせる。
登場人物の言葉の中で、この2通の手紙が最も素直だ。
少々パターン化してきた感もあるが、青☆組のこの安定感と上品さは貴重だと思う。
お膳に並んだ湯気の上がる味噌汁や、何度となく淹れられるお茶などが
シュールな設定の中で日常を際立たせる。
ちょっときれいにまとまり過ぎな人間関係も、
“わたおに”みたいな丸出し会話に辟易する私としては心地よく聴ける。
それにしてもこの上品な作品の中で、ひときわ光る台詞を書く吉田小夏さん、
「女は魚と同じ、釣ったり買ったり拾ったりするものだ」というこの言葉は
女を男に入れ替えても、けっこう名言だと思う。
30才になった少年A
Sun-mallstudio produce
サンモールスタジオ(東京都)
2014/01/09 (木) ~ 2014/01/14 (火)公演終了
満足度★★★★
世間
昨年9月に新宿ゴールデン街劇場でアフリカン寺越企画によって上演された脚本を
リニューアルしてスケールを大きくしたというもの。
主演のアフリカン寺越は相変わらずの熱量で隙のないなりきりぶり。
新聞店に住込みで働く男の部屋を舞台にした前回の閉鎖的な設定から
一階店舗部分と二階居室部分に分かれた舞台、
登場人物も5人から11人に増え、確かに規模は大きくなった。
増えたのは“世間”の人数である。
個人的な好みと、前回公演を観ているという事情もあるのだが、
あの極小空間での濃密な“行き場の無さ”が拡散してしまったように感じた。
例えるなら、前回公演は岸を削るような急流だったが
今回は川幅が広くなった分流れが緩やかになった印象。
しかしこの重いテーマを、直球ストレートでど真ん中めがけて来る感じが素晴らしい。
ネタバレBOX
中学生の時、自分が描いた漫画をめぐる喧嘩から
同級生を橋の上から突き落として死なせた32才の男(アフリカン寺越)は
3年ぶりにその町に戻り、新聞店の住込み従業員として働いている。
ワケありの従業員を雇う新聞販売店の店長、
やはり犯罪歴のある同僚とその彼女、
橋の上で起こったあの事件を目撃しながら何も出来なかった教師、
彼を救うという名目で強引に通ってくる新興宗教の女、
それらが入れ替わり立ち替わり訪れる部屋で、男は漫画を描き続ける。
そしてついにここでも、男の過去が商店街で噂になり始める。
店の存続さえ危うくなり、追い詰められた店長は
「お前を橋の上から突き落としてやる」と迫る…。
広くなった空間と増えた人数で描かれるのは、いわゆる“世間”というやつだ。
彼を拒否し、あの小さな、漫画の本棚しかない部屋へ彼を追いやった“世間”である。
その中に、前回は無かった「宗教」を取り入れたのは
“もしかしたら救われるかもしれない”という一瞬の希望を与えて面白かった。
だが辞めていく事務員とか、通信制高校の先生・生徒、商店街の人等
前回登場しなかった人物が出て来ることの効果はそれほど感じられなかった。
それら“世間一般”を一切省いた前回の方が、
まさに“世間を狭く”生きている男の人生がくっきりと浮かび上がった気がする。
男の現在は、世間の仕打ちの結果だからだ。
人殺しを雇っている店などもう駄目だ、と絶望した店長が
「お前を橋の上から突き落としてやる」と迫るところでは
相変わらずアフリカン寺越の表情に見ごたえがあった。
今回の方が、本当に突き落とされるような気がして暗澹とした。
店長が「商店街の人に過去を正直に話せ、それでまたこのまま店を続けよう」と言い、
男が「それは今までの経験からうまくいかない」と答えるやりとりが挿入されているである。
何度も希望を持って、その都度潰された悲痛な思いがにじむ台詞だ。
考えられるたったひとつの方法がボツになあった後の「突き落としてやる」だから
なおさら選択の無さが胸に迫って、観ている私ももうダメなんだという気がした。
罪を償ってやり直せばいい、ときれい事のように言うが
実際過去に罪を犯した人と身近に接して心からそう言えるか、
ということを鋭く問いかけて来て、舞台の“世間”を批判しつつ痛みを感じる。
同僚のカップルには「過去は過去、今やってないなら問題ないじゃない?」と言いながら
自分はその言葉に全く救われていないという矛盾。
事件の現場となったこの町に、何でわざわざ男が帰ってきたのかと思うが
それはたったひとり、彼を受け入れてくれた新聞販売店の店長がいたからなのだ。
あちこち流れて、行く先々で過去がばれると拒否されて来た男が
過去を知りながら「一緒に働こう」と言ってくれたことにどれほど救われたか
その切なる思いが、危険区域での暮らしを決断させたのだと思う。
オーバーアクト気味ながら緊張感のある役者陣が良かった。
男の罪と一緒に自分の人生も壊れていった元教師役の吉水恭子さん、
後悔ともどかしさに満ちたキツイ物言いが上手い。
全編を通してギリギリの“長い間”が今回も効いている。
シリアスな状況で時折笑いを誘うペーソスも効果的。
前回の公演を観たのでつい比較してしまうのだが、
何と言ってもアフリカン寺越あっての作品である事に変わりは無く、
それがこの作品の力であると思う。
この人、この風貌で他にどんなキャラを演じるのかなあと思った。
『BULLETS ASSORTED』
SHOTGUN produce
池袋GEKIBA(東京都)
2013/12/28 (土) ~ 2013/12/29 (日)公演終了
満足度★★★★
GEKIBA、BGM、AKB
4人の作家による短編集。
作家の個性が端的に表れていて全く違うテイストの作品がそろった。
劇場の音響(スピーカー?)が悪かったのが残念でならない。
小さいハコなのでそれに合った音量の台詞が交わされているのに
頭上の空調の音にかき消され、BGMの大きな音にかき消され、良く解らない所多し。
それにしても達者な役者陣に圧倒された。
島田雅之さんの変幻自在ぶりと艶のある声がとても素敵だった。
ネタバレBOX
●「犬降る夜」 作・河田唱子
親友を呼び出して重大なことを打ち明ける男。
「今夜空から犬が降って来て世界が終るんだ」
荒唐無稽な話を真に迫って話す男(鶴町憲)の緊張感が素晴らしい。
一瞬でも気を抜けばただの寝言になりがちな会話が
薄気味悪い緊迫感が次第に高まって、それが頂点に達する戦慄のラストがすごい。
●「お願い、神様」 作・ほさかよう
毎週町の人々の懺悔を聞いているシスター。
変化も甲斐もない繰り返しにとうとう荒療治を施すことにした。
「あなたの心のままに」シスターのその一言で、
人々は仕返しをし、うっぷんを晴らし、復讐を始めた。
殺戮が 始まったのを聞きながらシスターはつぶやく。
こうして初めて、人は神の存在に気付くのだ…。
ほとんどシスターのひとり語りだが、振れ幅がイマイチ小さいのと
BGMの音量が大きくて台詞が聴きとれない。
前から3列目くらいでこうだから、後ろの方まで声が届いたかどうか疑問。
●「七福神の物語」 作・吉久直志
4編の中で一番短編らしくまとまって集中力のある作品。
今や七福神の出番と言えば縁起ものとして新年に一時もてはやされるだけ。
中でも暇な寿老人と福禄寿がコタツにあたりながら今年も愚痴を言っている。
八百万の神や日本の神話、インドの神などの由来や歴史の解説もあり、
AKB48になぞらえて「神様のトップ7なら俺たち全員入ってるじゃん!」
みたいな台詞に客席から何度も笑いが起こる。
登場人物がバラエティに富んでいて楽しいし、日本の宗教についてうんちくも語られる。
昔の神様は今の戦隊ヒーローみたいな存在だという論理に妙に納得してしまった。
吉久さん、日頃は時空を超えた壮大な物語を長時間見せるような舞台が多いが
こんなコンパクトな脚本も上手いのだなあと感心した。
布袋(寅泰の方)を演じた北村圭吾さんがギター片手に「ベイベー!」とやるのが好き。
●「狼たちの午睡」 作・柳井祥緒
十七戦地2015年2月の本公演「眠る羊」のエピソード1みたいな短編だという。
“死の商人”になろうとした仲間を止めるため、粉飾決算をリークした男が、
刑期を終えた元仲間と再会する。
明かされるあの時の真実、新たな目的、事は防衛省と企業の癒着に及んでいく。
メリハリのある会話と豊富な情報量がリアルな緊張感を生む所は素晴らしい。
観ている私は事実関係を追うのが精いっぱいでちょっとゆとりがなくなってしまった。
終始緊張した会話が交わされるのだが、やはり声が聞きとれなくて残念だった。
とても充実した魅力的な企画。
短編には瞬発力と、少量で良く効く毒気が必要なんだなと思った。
河田唱子さん、超シリアスな短編と、4作品の合間に挿入される
「鍋パーティー」の軽い笑いの両方が書けるところ、次回が楽しみになった。
後は集客に応じたハコでやること、空調と音響の問題解決かな。
超満員のGEKIBA、ちょっと辛いわ…。
銀色の蛸は五番目の手で握手する
ポップンマッシュルームチキン野郎
シアターサンモール(東京都)
2013/12/27 (金) ~ 2013/12/30 (月)公演終了
満足度★★★★★
銀だこ
抜群の安定感でベタな展開、なのにこの楽しさは何だろう?
CR岡本物語(33歳)の強烈なパフォーマンスを見ながら本編の始まりを待つのも楽しい。
舞台正面奥に出ハケするスピーディーな転換も楽しい。
宇宙から来たタコが長崎県で友達と仲良く暮らすのも楽しい。
おじいちゃんが読モを目指して上京、月9に出演するのも楽しい。
レアルマドリードが地球に棲む宇宙人をかき集めてチームを強化するのも楽しい。
つまりは一途な気持ちで自分を投げ出す“無償の愛”が一本貫いているなら
周辺設定は“ありえへん世界”で全然オッケーってことなのだ。
ネタバレBOX
早めに入ったつもりでももう8割がた客席は埋まっていて、
みんな舞台上岡本さんの熱いももいろクローバーZを見て笑っている。
合間に客席の階段を駆け上がって握手をし、また舞台に駆け戻っている。
岡本さんほんとすごい運動量、本物見なくても全然いいわ、とオバサンは思う。
木村オサム(加藤慎吾)は宇宙人。
15年前に宇宙船が壱岐島に落ちて、おじい(NPO法人)に育てられた。
友達も先生もみんな彼を自然に受け入れてくれている。
だが初恋の人ハナ子(小岩崎恵)に振られたのを機に、おじいと東京へ。
そして15年後、レアルマドリードのキーパーとして活躍するオサムは
ふとしたことからハナ子の不幸な状況を知り、放っておけなくなる。
そして彼女を救うため、使ってはいけないあの能力を使ってしまうのだった…。
タコメイクがすごくて配役を確かめないと誰がやってるんだかわからない。
でもこのタコがいい子なんだな、優しくて我を忘れるほど一途でしかも芯が強い。
おじいもハナ子も、みんなこのタコに救われて生きている。
そしてその結果タコはみんなに助けられて復活した。
このベタな展開がどうしてこんなに面白くてジーンと来るんだろう。
下ネタを含むギャグや、危ないジョーク、ナンセンスなバカ騒ぎも
全ては“幸福な王子”みたいな幹がしっかり根を張っているから。
このバランスが素晴らしくいいのと軽快なテンポがポップンの持ち味だ。
“青春もの”、“純愛路線”だけでなく、“スポ根もの”の要素もきっちり押さえている。
これらひとつひとつを丁寧に重ねているところが、全体がバラケない理由だと思う。
この集中力とまとめ方が、どこかテレビドラマ的で私は好き。
お約束で安定させつつ、いかに新しいものを加えていくかが
今後の吹原氏の腕の見せどころだが
構成の上手さとあの映像センス、ベタなだけでない洗練という隠し玉もありそうで
新しい年もコメディ部門を牽引していくのではないかと期待する。
いつもながら小岩崎さんが可愛らしさを嫌みなく出して上手いし、
増田赤カブトさんも余裕が出て来たせいか面白くなった。
おじい役のNPO法人さん、スーパー高齢者に笑った。
劇団も進化し続けていくんだなあ。
岡本さんも来年は34歳か…(超余計なお世話)。
RASCAL 第1回公演 『カミノキズ』
RASCAL
シアター711(東京都)
2013/12/25 (水) ~ 2013/12/29 (日)公演終了
満足度★★★
人生をさぼる人々
傷ついてどうすればいいのかわからない、これ以上傷つくのが怖い、
そう思った時、男はひきこもり、仲間を誘い、優しいシェルターを作った。
役者陣は魅力的だしシチュエーションも面白い。
だがちょっと丁寧過ぎたせいかテンポが悪く、集中力が途切れそうになるのが残念。
ネタバレBOX
開演直前、ひとりの男が登場して床に座りノートパソコンを打ち始めた。
段ボールが積み上げられ、黒いボックスが雑然と置かれた部屋は倉庫のよう。
ここは自殺した恋人の荷物が保管されているトランクルームの一室。
傷心の箱崎(工藤優太)は中身を見る勇気も無く、
ただ毎日パソコンでちまちま仕事しながらここに住んでいる。
そしてやはり仕事の無い入江(永井佑昌)と谷川(長谷川綾祐)も一緒だ。
3人の暮らしはぐだぐだと快適そうだが、次々と訪れる人々によって波風が立ち始める。
自殺した彼女も含めて4人の高校時代の恩師や、バイトを紹介してくれる後輩、
その後輩の彼女らしき女の子、そして死んだ彼女の親友だった山際(篠原友紀)など。
そして執拗に箱崎を問い詰める山際が、ある事実を突き付ける…。
仕事も金も無い3人が困ったね、と言いながら肩寄せ合ってトランクルームで暮らす、
という予想は早々に崩れる。
表面上はことさら軽いノリで流しているように見えて
実は入江と谷川が、まるで壊れ物でも扱うかのように箱崎を守ろうとしている。
それが箱崎の危うさを想像させて、ちょっとはらはらする。
入江役の永井佑昌さんと谷川役の長谷川綾祐さんが素晴らしい。
個性の違いが言動に良く表れていて、キャラにはまった台詞が生き生きしている。
ヤワな男を外敵から守り、立ち直るまでもう少し見守りたいという優しさが伝わってくる。
個々の人物像は個性があって面白いし、台詞もリズムが感じられてとても良いと思う。
ただ大きな流れで見ると、もう少しテンポ良く運んでも良いような気がする。
例えば意を決して箱崎が段ボール箱を開けるシーンなど
タメが長くて集中力が途切れそうになるのが惜しい。
それから煙草のシーン、この頃では前説で
「喫煙シーンがありますが、無害の煙草ですのでご安心ください」などと言うことが多い。
火をつける仕草だけで煙を出さない演技もある。
あれは本物の煙草だろうか?
ちょっと煙が気になった。
非日常的な空間の中で、誰もが持つ弱さと身勝手な解釈が浮び上る構図が面白い。
劇中「ここで人生をさぼってる」という言い方をしていたが
人にはそんな時期があってもいいんだなと思った。
希望と安堵のラストが好き。
私も何となくほっとして帰ったのだった。
プラトニック・ギャグ
INUTOKUSHI
駅前劇場(東京都)
2013/12/25 (水) ~ 2013/12/29 (日)公演終了
満足度★★★★
挙動不審
イマドキのナンセンスをちりばめ、惜しげもなく裸体を晒した果てには
“いつの間にか取り残される”者の孤独があった。
現実と脳内劇場とを並行して見せる演出も、そのギャップが鮮やかで面白い。
力のある役者さんがそろって、へらへら笑っているうちに何だか身につまされてくる。
特に藤尾姦太郎さんの“挙動不審”ぶりが素晴らしく、ブラックなラストが冴える。
ネタバレBOX
ノア(堀雄貴)とナギ(石澤希代子)の不器用なラブストーリーが
アニメのような世界で展開する。
人体模型のキリト(満間昴平)やヘビコ(竹田有希子)、
最後には二人を応援する恋敵のスプー(萩原達郎)、
何かと邪魔する先生のドラン(椎木樹人)などキャラの立った登場人物たちが
賑やかにスクールライフを繰り広げる。
一方現実世界では、小学校時代にはいつも一緒に遊んでいたが4人が
大学生になるとカナ(鈴木アメリ)とシュウスケ(板倉武志)が付き合い始め
ハルマ(後藤彗)は自分の方向を探りに海外へと旅立つ。
トウジ(藤尾姦太郎)はいつもふざけてギャグを言っては皆を笑わせていたが
次第に現実世界から置いてきぼりを食う不器用な男だ。
大学生になって久しぶりに4人がそろったある日、
カナとシュウスケが付き合っていることを知らされたトウジは
タガが外れたような行動に出てみんなを呆れさせる。
トウジは子どもの頃からカナが好きだったのだ。
そしてついにトウジは自分が作り上げた脳内世界を破壊し始める…。
A side とB sideとが平行して描かれ、共に不器用なラブストーリーが展開するのだが
Aはトウジの脳内で作り上げた理想の世界である事が判ると
現実世界に上手く対応出来ずにいつもギャグで紛らわせているトウジの孤独が際立つ。
Aではもう少しで成就する所だったのに、Bで容赦ない現実を突き付けられたトウジは
自分で作り上げた脳内ラブストーリーを破壊してしまう。
現代の“逃避”と“置いてきぼり感”がリアルに伝わって来て彼の孤独に共感すると同時に
上手く行かないと何かを壊さずにいられない、その極端さがイマドキっぽい。
中途半端だったら見ていられないようなギャグも
役者陣の指先まで神経の行き届いた表現でぐいぐい惹きつける。
藤尾姦太郎さんの挙動不審ぶりが素晴らしく、悲哀と狂気を見せて秀逸。
好きと言う気持ちを表すのに、ギャグで笑わせる事しかできない男が上手い。
彼にとって意味不明なギャグだけが、彼女へのメッセージだったのだが
当然それは伝わることもなく、全く報われないところがリアル。
ナンセンスギャグの中にブラックを潜ませて、最後に深くエグるという構成が効いている。
フライヤーのデザインやBGMのセンスも素敵。
「行かないで。ここにいて。ずっとここにいて」という
最後にようやく吐いたトウジの台詞が痛いほど切ない。
THE BELL
CHAiroiPLIN
神楽坂セッションハウス(東京都)
2013/12/21 (土) ~ 2013/12/23 (月)公演終了
満足度★★★★
ゆうびんやさん♪
ダンスなんてあまりわからない私だけど、何だか楽しくて笑って観てた。
ストーリーがあって、歌があって、身体とことばが一緒に動く感じ。
アカペラで歌うのが良かった。
清水ゆりさん、作詞・作曲に素敵な声。
ダンスって、人間の原始的な表現なんだなぁ。
でも「衝撃作品!」っていうのはよく分からなかった気がする・・。
ネタバレBOX
演技スペースには薄茶色の紙が敷き詰められている。
やがてそこにポストが2つ運ばれて来て、白山羊と黒山羊が登場する。
互いに来た手紙を食べてしまってちっとも話は通じない。
テーマは手紙、大量の手紙、配達する郵便屋さん、届かない荷物、そして伝書鳩…。
10通のハガキが、短い台詞や
♪ゆうびんやさん、落し物、葉書が10枚落ちました♪
と歌いながらのダンスが圧巻。
ことばはリズムで、リズムに身体が反応する。
ダンスって、身体の動きに意味を見いだすものだと思っていたので
何となく無理やりなイメージがあったけど、これは全然違う。
彼らが身体を動かしたくなる理由が解るのが楽しい(いかにも超初心者の感想…)
アカペラで踊りながらにもかかわらず、よく音程がそろっていたので感心した。
映像の使い方がスタイリッシュだ。
山羊がだんだん大きくなる映像とか、降り積もるひらがなとか
情緒のある使い方で面白かった。
清水ゆりさんの作詞・作曲とアコーディオン、きれいな声がとてもよかった。
どこにも届かない荷物の役で寂しい歌を歌っているのに、
台車に乗ってゆっくり横切って行くのがそこはかとなく可笑しい。
市東春華さん、ダイナミックかつ細かい動きがすごい。
10枚のハガキの中でも存在感大だった。
演じる側にとっては、表現の幅が問われる大変さがあるのかもしれないけれど
観ている方は爽快で楽しかった。
治天ノ君
劇団チョコレートケーキ
駅前劇場(東京都)
2013/12/18 (水) ~ 2013/12/22 (日)公演終了
満足度★★★★★
なぜ今「大正天皇」か
文句無しに今年のベスト3に入る作品。
大正天皇の皇后を狂言回しに3代の天皇が描かれる構成、
厳選された台詞、例によって役が憑依したかのような隙の無い演技、
大きな世界観を持ちながら繊細な感情を丁寧に掬う演出、全てが素晴らしい。
なぜ今「大正天皇」なのかと思っていたが、その答えがあまりに鮮やかに示されて
自分の知識の無さに打ちのめされつつ劇場を後にした。
登場人物一人ひとりの誠実さや無念さが押し寄せて、まだ冷静になれない。
政治的なことより、大正天皇という人物に寄り添ってみたいという
何か作者の温かい気持ちが作品にあふれているのを感じる。
ネタバレBOX
劇場に入ると踏んでいいのかどうか一瞬ためらうような
赤いじゅうたんがひとすじ敷かれており、
その先は舞台下手側、3段ほど上がった所にしつらえた玉座に続いている。
ドレープを寄せた厚いカーテンが下がるだけのシンプルな舞台。
厳かな光に玉座が浮び上る。
冒頭ここに座るのは明治天皇(谷仲恵輔)である。
天皇は畏怖されるべき存在で人情など不要、と説く明治天皇にとって
純粋で優しい大正天皇は“資質が及ばない、その次の天皇までのつなぎ”と映る。
大正天皇(西尾友樹)の進取の気性を愛し、彼を支える有栖川宮(菊池豪)、
四竈(岡本篤)、首相の原敬(青木柳葉魚)たち。
そして皇后節子(松本紀保)は最後まで彼を敬い、寄り添う。
しかし時の政治家牧野(金成均)、大隈(佐瀬弘幸)らは大正天皇の能力を認めながらも、
今この国に必要なのは先帝、明治天皇が唱えた天皇像だという考えに傾いていく。
そして生来病弱だった大正天皇が脳病を患ったのを機に一気にその動きは加速、
大正天皇の意思を無視して皇太子ヒロヒト(浅井伸治)が
摂政(天皇に成り変わって公務を取り行う役職)となることを強行する。
やがて時代は「殖産興業」「富国強兵」という
明治のスローガンが復活したかのように転がり始める…。
「治天ノ君」がフィクションであることを踏まえながらも
史実の行間をよくぞここまで豊かに創造したと感嘆する。
誰ひとりとして無駄な台詞はなく、責任ある立場とそれ相応の複雑な心理を抱えている。
中でも大正天皇の何と魅力的な人間像だろう。
結婚の際、皇后節子に「仲の良い夫婦とはどのようなものか」と問い
「一緒に笑い、一緒に泣き、一緒に怒る」ものと聞いてその通りにしようと答える。
大正天皇が明治天皇に向かって言う
「わたくしは不詳の息子でありますが、たゆまず努力します」
という言葉は「父と呼ぶな」と言われて育った孤独な人生そのものだ。
奢らず人に教えを請い、素直に人の意見に耳を傾ける大正天皇は
現在の“新しい皇室”を先取りするかのような人物として描かれている。
一握りの閣僚が「自分が泥をかぶっても大日本帝国を導かねばならぬ」などと言うのが
“臣民”にとっていい迷惑であったことは、歴史の結果を見れば明らかだ。
時代の流れと閣僚たちの思惑に翻弄された47年の生涯は
あまりに口惜しく無念の連続であり、それが病の元凶だったのではないかとさえ思う。
その大正天皇を側で見守り続けた皇后節子が、地の文を語るというかたちが秀逸。
節子による「~だった。~なのだ。~であった。」という書き言葉の語りが
硬質な物語に相応しく、冷静に状況を見つめていた彼女のスタンスにも合っている。
摂政となり、さらに喪中にも関わらず明治60年祭を催して
急ぎ“大正時代”を消去しようとする息子ヒロヒトに節子が語りかける。
「あなたは父上を二度葬るおつもりですか」と。
実際の死と、歴史上の死とをめぐる、決定的な親子の決別の場面だ。
決して激せず、常に美しいことばと発音で優雅に話すこの賢明な皇后を演じる
松本紀保さん、単語の最後の響きにまで神経の行き届いた発音と
生来の気品あるたたずまいが素晴らしく、舞台全体をけん引する。
大正天皇を演じた西尾友樹さん、脳病(多分脳いっ血の後遺症とも言われる)を
患ってのちの言語の障害など、難しい表現が痛々しいほど上手い。
皇后との会話など初々しい場面も素晴らしく、のちの悲劇的展開が一層哀しく際立つ。
己を知りつつさだめを受け入れてひたむきに努力する、日本一孤独な男が素晴らしい。
後に侍従として仕えた四竈を演じた岡本篤さん、“誠実”と言う言葉が似合いすぎ。
不自由な口で軍歌を歌う大正天皇に合わせて歌うところ、思い出しても涙がこぼれる。
これほど万感の思いがこもったお辞儀を、久しぶりに見た気がする。
明治天皇役の谷仲恵輔さん、これまで拝見したどの舞台よりも(と言っても4~5回だけど)
その声がコントロールされ、役と台詞に活かされていたと思う。
あの時代を象徴する素晴らしい明治天皇だった。
立ち姿、お辞儀をはじめ全ての人の所作が美しく、重厚な舞台だった。
「現人神」だの「天皇機関説」だの「象徴」だのと様々に言われて来たが
結局はその時々よって“利用法”が変わってきたということなのだろう。
現人神をも利用して国を動かす、げに政治家とは怖ろしく野蛮な人種だ。
「アベノミクス」とか言ってケムに巻かれていると、いつのまにか
「ウミノモクズ」となってしまいそうな気がする。
くり返す歴史の辻に立って、演劇の力というものを考える時
必ず思い出す1本になるであろう舞台だった。
制作に関わる全ての人々に感謝と敬意を表したいと思う。
ありがとうございました。
有明をわたる翼
演劇企画フライウェイ
ザムザ阿佐谷(東京都)
2013/12/18 (水) ~ 2013/12/22 (日)公演終了
満足度★★★★
12月20日、開門
1997年「潮止め」により、諫早湾は完全閉鎖、
地元の人が“ギロチン”と呼ぶ、あの映像は当時繰り返し放送された。
演劇人と生態学研究者が協力して制作した作品は、
国を相手に訴訟を起こしもう一度海を取り戻そうという“開門派”と、
今さら自治体の補助金無しで生活できるわけがないという“現実派”の
真っ二つに割れる漁協の対立に、専門家の協力や
ロミオとジュリエットばりのラブストーリーを絡めた意欲作。
渡り鳥たちの精巧な動きと本格的なダンスが美しく、
人間の愚行と対照的に、自然界における命の連鎖を的確に表現している。
ネタバレBOX
「鳥のことばが解る」百合江(村上麗奈)は、絵を学ぶため諫早を出て東京へ行く。
彼女が自分の限界を感じて故郷へ戻った時
国を相手に訴訟を起こそうという開門派と
開門してももう海は戻らないし、補助金無しでは暮らしていけないという反対派で
漁港は真っ二つに分かれ激しく対立していた。
補助金をもらって生活を安定させ、漁師でない男に娘を嫁がせたいと
誰よりも誇り高い漁師だったはずの百合江の父は、ついに陸へ上がる決意をする。
一方訴訟のために村人を説得に回る富雄(神田敦士)は
専門家のハカセ(斉藤真)の助言を得ながら訴訟に備えるうち
百合江と結婚の約束を交わす仲になる。
そんな時、船で調査に出ていた富雄とハカセは天候の急変で嵐の中沖へ流されてしまう。
誰もが救助をためらう中、百合江の父はひとり訴訟委任状を託して救助に向かう。
富雄とハカセは助かり、結婚に大反対だった父は還らなかった。
それを機に村は一気に訴訟へと団結、2010年12月、確定判決で
干拓事業と漁業被害の因果関係が認められ、開門の実施が命じられた。
そして2013年12月20日、有明は開門の日を迎える…。
証言台で語る当事者のことばが、環境と人生の激変をストレートに語って
“専門家の言うことを聞かない国”の失敗がここでも露わになる。
このまま補助金をもらって突き進むのも
一度立ち止まって後戻りするのも、どちらも苦しい選択なのだが
人間は反省してやり直す道を選んだ。
その人間どもの失態を干潟で見ている鳥の群れは
ファンタジーのようでいながら、自然界をきっちり代弁している。
羽をあしらった衣装や帽子で優雅に踊る鳥たちは
一歩間違えれば学芸会になってしまいがちだが、
鳥らしいリアルな細かい動きと本格的なダンスで、見事に人智を超えた存在になった。
渡り鳥オオソリハシシギを率いる長老、月読(羽根渕章洋)の深いまなざしと
群れに1羽だけ迷い込んでいるフラミンゴのルーノ(参川剛史)が良い。
おちゃらけたルーノの台詞に、はぐれ者の孤独と人生の方向を見失った心細さがにじむ。
ハカセ役の斉藤真さん、滑舌よく専門家としての立場から地元に協力する
熱い思いが伝わってきて良かった。
上手と下手に吊るされたステンレス(?)の巨大なシートの演出が秀逸。
富雄が説得に訪れると、裏からそれを叩いて拒否の台詞に替える場面、
嵐の中激しくそこに叩きつけられる場面では迫力ある大きな音が響いて効果抜群。
自然に逆らえば人は居場所を失う、そして失った時には
先頭に立った国など何の助けにもならないということを改めて考えさせられた。
新説・とりかへばや物語
カムヰヤッセン
【閉館】SPACE 雑遊(東京都)
2013/12/13 (金) ~ 2013/12/23 (月)公演終了
満足度★★★★
もっとシンプルでも…
元の古典は「左大臣が2人の子どもの性別を『取り替えたいなあ』と思って
ほんとに取り替えちゃったらそれぞれ出世したが最後は元の性に戻った」という話。
オリジナルをストレートに舞台化しても十分センセーショナルでインパクト大なのに
それを落語界に置き換えてからの構成がちょっと“複雑にし過ぎ”の感あり。
創作落語を練る噺家が作中人物と会話しながら論理を展開することで
役者陣のキレのいい江戸弁が醸し出す“時代の空気”を中断しているように感じた。
ネタバレBOX
舞台奥にぐるりと優美な格子戸がめぐらされていて、
開演直前、その向こうに役者さんたちが入って来て座った。
開演後は、ハケると格子戸をあけてそこに座ることになる。
この出ハケ、部屋の出入りがリアルだしスピーディーでとても良かった。
客入れの際に流れた噺家の出囃子も、落語好きには面白くて好き。
ある噺家のところへ女性が熱心に弟子入りを希望して通うが、
彼の師匠は「女の噺家など認めない」の一点張り。
そこで彼は、新作落語で大胆な仮説を立て、男女の差など意味はないと主張する。
「喋り」は本来女の仕事だったのにいつの間にか男が取って代わったのだと…。
その創作落語とは…。
女の世界だった落語に「向いている」と息子を送りこみ、
男ばかりの藩校に勉強好きな娘を入学させる父親。
二人はそれぞれの世界で評価を得るが、恋愛問題で本来の性と葛藤することになる。
そして結局は元の性に戻って居場所を得る、というストーリー。
この創作落語完成の後、師匠は女弟子の存在を認める…。
身分や職業による言葉づかいが変なところも散見されるがツッコまないでおこう。
ついでにフライヤーの写真、着物の合わせ方が“死人”になってないか?
男女とも右手が懐に入るように合わせる“右前”が正しいと思うのだけれど…。
そういった時代考証の甘さはともかく
師匠(北川竜二)や女噺家(笠井里美)、男女の入れ替わりを提案する父親(太田宏)、
それに創作落語をけしかけ、途中からリードする男(辻貴大)らの
江戸弁の台詞に勢いがあってとても魅力的だ。
女になり切る為の所作その他を教えるよし乃を演じた工藤さやさん、
たたずまいも仇っぽくて優しく、とても素敵だった。
個々のキャラクターは確かにインタビューしてみたくなる奥行きと魅力がある。
想いを同じくする登場人物が2人で同じ台詞を唱和するなど
力強く惹き込まれる演出は秀逸。
お上の締め付けや、先細りの業界を憂える新旧の考え方の違いなど
社会的背景も説得力がある。
だが“性別にとらわれない生き方”を問い、“幸せを感じる居場所”を探すなら
シンプルに“女が学問をし、男が噺家を目指す”構造でも良かったのではないか?
作り手の迷いや疑問がいちいち顔を出すと流れが途切れてもったいない。
息子が女を装って落語家になるところも、
客や席亭など周りに“実は男である事がバレている”という設定が中途半端。
周囲を完全に欺いてこそ、自分のアイデンティティへの悩みが深まる気がする。
今の時代に、北川さんのこのテーマへの着眼点とアプローチは素晴らしい。
作家の、また観る者の想像力をかきたてる「とりかへばや物語」、
改めて、古典の大胆な発想に驚かされる。
アクアリウム
DULL-COLORED POP
シアター風姿花伝(東京都)
2013/12/05 (木) ~ 2013/12/31 (火)公演終了
満足度★★★★
熱帯魚たち
括りたがるオヤジ世代、括られて影響される素直な若者たち、
世代の違いをこれ以上ないほどの振れ幅で見せる演出が素晴らしい。
限られた選択の中でしたたかに小ずるく生きる者もいる。
小さなアクアリウムで一生を終える、熱帯魚達の儚い生態。
ネタバレBOX
小劇場系にはちょっと珍しい黒い幕の前で、前説の谷さんが
「古いタイプのお芝居をしますが、すぐ終わりますので…」と言って笑いを誘った。
確かに、“伝兵衛な”部長(大原研二)とその部下菊地(一色洋平)の
脳いっ血起こしそうに力の入ったやりとりは古いタイプ、っていうか
古い年代の言いそうな“今の若いもん批判”と“根拠のない決めつけ”が強烈。
ここでもう笑わせながら、時代の違いや世代間の深い溝が露わになる。
あの“少年A”と同じ1982年生まれの住人が集まっているシェアハウスが舞台。
舞台手前中央にきれいな熱帯魚の水槽が、ほうっと明るみを帯びて置かれている。
大家のゆかり(中林舞)とてつ(東谷英人)は仕事をしているが
他の4人はほぼ無職だ。(あとワニとトリが普通に同居している)
すみ(百花亜希)は余命短い病人だし、ゆう(堀奈津美)は生活保護を受けている。
フリーターのしんや(渡邊亮)は、自分に自信がなくいつも暗くうつむき加減。
ゆうき(中間統彦)は10代、親の金で暮らす気楽な若者。
ここに北池袋で起こった猟奇殺人の犯人を捜査するため二人の刑事がやって来る。
刑事に暴露された各々の過去や経歴に、表面上穏やかだったハウスは大揺れ。
互いを疑い、批判し、ついにはハウスを出て行く者も現われる…。
アクアリウムに象徴される現代の若者像が鮮やか。
徹底して管理された中で生まれ育ち、外を知らない、出ようとしない。
自分の限界を広げるより、定時に与えられるわずかなえさで生き延びる事を選ぶ。
ただこれがベストだとは思っていない。
人との距離が上手く取れない反面、人とふれあうことに憧れていたりする。
シェアハウスなんて微妙にめんどくさい住み方を選ぶことからも
中途半端な価値観の揺らぎに翻弄される姿が透けて見える。
オヤジ部長の強引な論理が妙な説得力を持つのはその勢いと迷いの無さだ。
世間代表みたいな部長の如く、社会は世代を括りたがる。
“サカキバラ世代”だの“ゆとり世代”だのと、色をつけてひとまとめにしようとする。
一方括られた側も結構それを受け入れ、その仲間に入ろうとする。
実はそれぞれ個性があるのに、“括られたがる”のもまた人の習性なのだ。
群れから外れる孤独は誰もが怖れるところだから。
役者陣の充実が素晴らしく、怒涛の台詞が生き生きと走りまわる感じ。
大原研二さんのアクの強さ、一色洋平さんの滑舌と軽やかな動きが秀逸、
トーンの低いシェアハウスの日常との対比を鮮やかにする。
生活保護受給者のゆうがキレて「シェアハウスなんて掃き溜めみたいな所」と叫ぶところ、
強い自嘲といら立ち、金の有る者が無い者を見下す態度への怒りがこもっていて
その説得力に思わず惹き込まれた。
“サカキバラ世代”らしい特徴のひとつとされる
「自分もいつか誰かを殺してしまうんじゃないかという不安」を抱いている
しんやの気持ちを、誰も本当に理解できていないというのもリアルな展開。
そんな「いつかやっちゃいそう」な人が大勢いたら、マジ怖くて出かけられないわ。
特異なニュースの犯人と同世代だからというだけでひとくくりにするという
マスコミ好みの乱暴な論理が与える影響に対する、作者の冷静な視点を感じた。
少年A(清水那保)が自分のしたことを語る場面、
もっと直接しんやに影響を与えるような演出がされるのかと思ったが
絡みが希薄な印象を受けた。
ワニとトリの存在理由もイマイチよく分からなかった。
シェアハウスの癒しになっていたとは思うけれど…。
アクアリウムの小さな社会の営みは、
日々危ういバランスの上に成り立っているのだなぁと思った。
Crossing,Christmas,Clearance.クロッシング クリスマス クリアランス
バンタムクラスステージ
シアターKASSAI【閉館】(東京都)
2013/12/06 (金) ~ 2013/12/09 (月)公演終了
満足度★★★★
薬莢…「C.C.C.」本編
大切な家族を守ろうとして男がとった行動は、思いがけない真実に辿り着く。
1960年代、移民が生き抜くための知恵とはいえ
イタリアンギャングとアイリッシュギャングの抗争が続くボストンを舞台に
あるユダヤ人一家の歴史を紐解いていく緻密な脚本が見事。
バンタムらしい豪快な銃声が響く一方、家族への情愛や仲間への信頼が
細やかに描かれて切ないストーリーになっている。
銃声の後、薬莢が転がる乾いた音がたまらない。
“やっちまった”感と何とも言えない“撃つ者の痛み”が残る音だ。
ネタバレBOX
玩具屋から身を起してビデオゲームメーカーCEOになったアルフレッドが
廃墟となった倉庫で自分の半生をルポライターに語るところから始まる。
虐げられたユダヤ移民の一家を守るために自分の父がやったこと
それを許せなくて兄がとった行動、それを見ていた子どもだった自分。
全ては、一家を取り巻く容赦ない“歴史の日陰”で起こった出来事だった・・・。
サスペンスだから詳細は語らないが
登場人物がとても上手く整理されていて洋物特有の(名前とか)わかりにくさがない。
客席には人物相関図が配られているから良く分かるが、
それが無くても充分把握できる。
暗転せずに整然と行われる場転(と言ってもパイプ椅子と折りたたみテーブル)
のおかげで複数の場所・過去と未来が自在に切り替わる。
このスピーディーさも“映画のよう”と評される所以だろうか。
登場人物がとても魅力的。
ある決意を持ってギャングの世界に足を踏み入れて行く
兄レナード(福地教光)の、明るい屈託のなさと悲壮な決意が同居する人物像が立体的。
レナードのキャラが、事の明暗とリンクして結末の救いにもなっている。
この人が泣く場面は説得力があって、追いつめられた人間の苦悩が浮かび上がる。
弟のアルフレッド役の栞菜さん、兄に憧れ誇りに思う少年らしさが素晴らしい。
小柄なせいかいっそうリアルで可愛らしい。
イタリアンギャングのボス、スタイリッシュで冷静なカルロを演じた
松木賢三さん、一瞬見せた狂気が弾けていて素晴らしかった。
その手下の殺し屋カレンダー役斉藤厚さんのたたずまい、立ち姿、帽子の被り方、
舞台上いつどこにいてもきれいな姿勢にはほれぼれした。
アイリッシュギャングの酒場を仕切るヒューズのキャラも素晴らしい。
演じるドヰタイジさんの声と、度胸の良いキャラがぴったり。
殺陣師でもあるというドヰタイジさんの別の顔も観てみたくなった。
おもちゃが喋るという設定は、クリスマスファンタジーらしい展開で
暗くハードな世界とセットになって一層切なさが増すのかもしれないが、
私の好みからすると少し緩くなって物足りなさも感じる。
あの、もっと死ねばいいとかバンバン撃てとかそういうことじゃなくて…。
例えば「ルルドの森」の(これしか観てないので比較対象はこれのみ)
犯罪心理に迫る分析とか、わかっていながら傾いていく人間の弱さとか
そういう展開に息詰る“暗い緊迫感”があった。
あれが他に無い新鮮さだった。
基本あの感じを突き詰めて欲しいというのが個人的な好み。
レナードが持つ少し細身のあの銃は
コルト○○とかワルサー○○とか名前があるんだろうか?
ガンマニアじゃないのでよく分からないが、そんな情報も
史実に沿って教えてもらえたら面白いと思う。
個性的で完成度の高い劇団が東京に来てくれて、楽しみが増えた。
次に暗闇で薬莢の音が響くのは来年3月、待遠しいなぁ。
Crossing,Christmas,Clearance.クロッシング クリスマス クリアランス
バンタムクラスステージ
シアターKASSAI【閉館】(東京都)
2013/12/06 (金) ~ 2013/12/09 (月)公演終了
満足度★★★★
番外編「クロッシングマナー」
関西の人気劇団バンタムクラスステージが
東京へ拠点を移しての第一弾、初日幕開けは、
本編より先に番外編を演るという珍しい順番。
70分ほどの短編で“サスペンスコメディ”とうたっているが
本編の人間関係をコンパクトに紹介しながら時にハラハラさせる展開で
構成と緩急のバランスが巧み。
ネタバレBOX
借金の取り立て屋をしているレニーは
金を横領した疑いをかけられて窮地に陥る。
背景にあるイタリアン・ギャングとアイリッシュ・ギャングの対立。
今日の夕方5時までに金を取り返さないと
身代わりになってくれているヒューズが拷問にかけられる。
何としても真犯人を見つけ出さなければ…。
コメディだけどちゃんと謎解きの面白さもあり、充実のストーリー展開。
福地教光さん演じるレニーの、
二枚目ながら弱さやワケありな雰囲気もちゃんとチラ見せするあたり
計算された“本編へのお導き”も効いている。
この番外編は男ばかりだが、例によって整然とパイプ椅子を移動して場面転換
と思いきやいきなり踊り始めたりして、そのギャップが可笑しい。
正確に拷問7日目に息絶えるように仕事する緻密な殺し屋カレンダー(斉藤厚)、
レニーの仕事仲間でクールだけどハラのすわったヒューズ(ドヰタイジ)など
魅力的なキャラが登場していよいよ本編が楽しみになって来た。
銃声バンバン響くんだろうな。
人も死ぬんだろうな(当たり前か)。
客席に出来たての人物相関図が配布されたから予習して行こう。
登場人物に「おもちゃの人形 飛行機 丈太郎」ってあるけど…。
トイストーリー+ギャング抗争って一体どんな話なんだろう?
星降る闇にピノキオは、青い天幕(サーカス)の夢を見る
天幕旅団
【閉館】SPACE 雑遊(東京都)
2013/12/05 (木) ~ 2013/12/08 (日)公演終了
満足度★★★★
バイタルサイン
本歌取りファンタジー今回は「ピノキオ」と聞いて
“少年っぽさ”と“硬質”な台詞のイメージから
何となく加藤晃子さんのピノキオを想像していたが、見事に違ってた。
渡辺実希さんのピノキオは、繊細で壊れやすく孤独。
原作のピノキオなら加藤さんだが、これはやはり渡辺さんが相応しいと思った。
今回も4人の身体表現が美しいが、少し動きが多くて落ち着かなかった印象も残る。
ネタバレBOX
コオロギ(加藤晃子)が暖を取ろうと入り込んだ家には壊れたピノキオ(渡辺実希)がいた。
「僕の話を聞いてくれるかい?」と人間の子どもになれなかったピノキオは
自分のこれまでを語り始める。
お父さんのゼペット(渡辺望)に作ってもらったこと、学校へ行ったこと、
ペテン師(佐々木豊)に騙されてサーカスに売られたこと、
大鯨に遭って海に沈んだこと、やっとこの家に戻ってお父さんと暮らしたこと、
そのお父さんが死んでしまって、長い間ひとりでこうしていること。
そしてピノキオはコオロギにひとつの頼みごとをする…。
原作ではピノキオに説教して殺されてしまうコオロギだが、ここでは
ピノキオの話を聞いて、それを観客に伝えるという狂言回しの役割を果たす。
原作の“言うことをきかないピノキオ”なら加藤晃子さんが適役かもしれない。
しかしコオロギが出会った、もう首も動かせないピノキオは、
嘘と気付きながら運命に抗った”絶望のピノキオ“だ。
死の直前、ゼペットお父さんがその手で包み込んだのはピノキオの硬い木の頬だった。
でも彼は「温かいね」と言った、そんなはずないのに。
「ピノキオが人間の子どもになる」というのは孤独なゼペットの願いだったのだ。
それがそのままピノキオ自身の願いになった。
壊れて少しずつ傾いていくピノキオの身体の動きが美しく哀しい。
冒頭いきなり“ピノキオのなれの果て”を見せ、
コオロギに語り、コオロギに終わらせてもらうという構成が上手い。
静謐でなめらかな動きのうちに行われる場面転換や
ピノキオが絶望して胸を叩く時の、コーンという音も澄んで美しい。
若干物足りない感じがするのは、ダークな部分がさらりと描かれたせいだろうか。
「白雪姫」のあっと驚く多重人格のコビトや、
「クリスマスキャロル」の衣服を使った演出と、スクルージの二面性
「ピーターパン」でシルバーが見せる表裏のある人物像など
“人の多面性”特に黒い部分にスポットライトを当てる視点が冴えた舞台を思うと
えぐり方が優しい印象を受けた。
流れるような動きは美しいが、誰かが視界を横切る事が多くて
もうちょっと中央のピノキオに集中したいと思う時があった。
動きのメリハリがあったらもっと良いと思う。
衣装が素敵で、ファンタジーらしい楽しさがある。
シンプルなピノキオの衣装が本当にかわいい。
ピノキオの鼓動はゼペットが作ったたくさんの時計と共にようやく止まった。
渡辺ピノキオ、人生も天幕(サーカス)のように跡形もなく消えるんだね。
さよならを教えて
サスペンデッズ
ザ・スズナリ(東京都)
2013/12/04 (水) ~ 2013/12/09 (月)公演終了
満足度★★★★★
大人になっちまった悲哀
もの想う大人は皆解っているのだ、自分のダメなところくらい。
だけど解っているのにダメな方へと傾いて行ってしまう。
そしてだんだん大事な人を大事にしなくなる。
早船さんの無駄のない台詞で、それもまた人とのつながり方のひとつなのだと気づく。
コテコテダンスもありの濃い目の味付けながら、やはり毎日食べても飽きない”人の心の普遍性”を描いていてその切なさにどうしようもなく涙がこぼれる。
婚約している二人の関係が壊れていく時の緊張感がどきどきするほど秀逸。
山田キヌヲさん、とても上手いしきれいだった。衣装も素敵。
ネタバレBOX
舞台は壁紙などの内装工事を請け負う小さな会社。
宏美(岩本えり)は父の代からのこの会社を受け継いでいる。
婚約者の洋介(佐野陽一)は中学の同級生だが、彼は勤めていた会社で
大きなプロジェクトに失敗してから変わってしまったと宏美は感じている。
異動先の部署で部下の女性からパワハラと訴えられ
結局会社をクビになった洋介を見かねて「ウチを手伝ってくれない?」と持ちかけた宏美。
今は一緒に仕事しているが、昔からのやり方に批判的な洋介とことごとく対立する。
同じく中学の同級生で、病気退職して戻って来た夏子(山田キヌヲ)も
ここで仕事を手伝っている。
職人や、地主で大家の夫妻等が出入りするこの事務所で
次第に相手に寛容でいられなくなっていく宏美と洋介。
ネットでのバーチャルな世界に逃げ込む職人、大家夫妻の嫁姑問題、
そして夏子の驚愕の行動…・。
小さな世界で絡まり、引っ張り合い、ほどけてしまう人間関係の脆さ哀しさが描かれる。
「終わりが見えるとやさしくなれる」という洋介の言葉が沁みる。
このまま続くと思うから、うんざりして粗末に扱ってしまう私たちの習性を言い当てている。
「結局自分に自信がないんだ」という言葉もリアルに説得力がある。
自信がないから強い態度に出る、相手を威圧する。
デスクに向かう洋介を演じる佐野さんの全身から、
自分にも周囲にも苛立っている様子が伝わって来たし
それをそのまま宏美にぶつけるところでは観ていてこちらも緊張した。
ありがちなハッピーエンドでないところもよかった。
夏子のクールな観察とストレートな物言いが爽快。
入院前事務所に来て、会社を去る洋介と見送る宏美に
「別れてもいいから二人で(見舞いに)来て」というところ。
“さよならの仕方”を考えさせていいなあと思った。
かわいいニットキャップが似合う山田キヌヲさんがとても素敵だった。
大家の奥さんを演じた野々村のんさん、
この方は“困った人”を可愛らしく見せるのが上手いと思う。
情熱的な“なりきりダンス”が面白かった。
中学時代の回想シーンを挿入して
もの想う大人になってしまった哀しみと不安を際立たせた結果
宏美が夏子を思いやって泣く場面に説得力が増した。
ここもまた、子ども時代と決別するもうひとつの“さよなら”だったような気がする。