新説・とりかへばや物語 公演情報 カムヰヤッセン「新説・とりかへばや物語」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    もっとシンプルでも…
    元の古典は「左大臣が2人の子どもの性別を『取り替えたいなあ』と思って
    ほんとに取り替えちゃったらそれぞれ出世したが最後は元の性に戻った」という話。
    オリジナルをストレートに舞台化しても十分センセーショナルでインパクト大なのに
    それを落語界に置き換えてからの構成がちょっと“複雑にし過ぎ”の感あり。
    創作落語を練る噺家が作中人物と会話しながら論理を展開することで
    役者陣のキレのいい江戸弁が醸し出す“時代の空気”を中断しているように感じた。

    ネタバレBOX

    舞台奥にぐるりと優美な格子戸がめぐらされていて、
    開演直前、その向こうに役者さんたちが入って来て座った。
    開演後は、ハケると格子戸をあけてそこに座ることになる。
    この出ハケ、部屋の出入りがリアルだしスピーディーでとても良かった。
    客入れの際に流れた噺家の出囃子も、落語好きには面白くて好き。

    ある噺家のところへ女性が熱心に弟子入りを希望して通うが、
    彼の師匠は「女の噺家など認めない」の一点張り。
    そこで彼は、新作落語で大胆な仮説を立て、男女の差など意味はないと主張する。
    「喋り」は本来女の仕事だったのにいつの間にか男が取って代わったのだと…。
    その創作落語とは…。
    女の世界だった落語に「向いている」と息子を送りこみ、
    男ばかりの藩校に勉強好きな娘を入学させる父親。
    二人はそれぞれの世界で評価を得るが、恋愛問題で本来の性と葛藤することになる。
    そして結局は元の性に戻って居場所を得る、というストーリー。
    この創作落語完成の後、師匠は女弟子の存在を認める…。

    身分や職業による言葉づかいが変なところも散見されるがツッコまないでおこう。
    ついでにフライヤーの写真、着物の合わせ方が“死人”になってないか?
    男女とも右手が懐に入るように合わせる“右前”が正しいと思うのだけれど…。
    そういった時代考証の甘さはともかく
    師匠(北川竜二)や女噺家(笠井里美)、男女の入れ替わりを提案する父親(太田宏)、
    それに創作落語をけしかけ、途中からリードする男(辻貴大)らの
    江戸弁の台詞に勢いがあってとても魅力的だ。
    女になり切る為の所作その他を教えるよし乃を演じた工藤さやさん、
    たたずまいも仇っぽくて優しく、とても素敵だった。

    個々のキャラクターは確かにインタビューしてみたくなる奥行きと魅力がある。
    想いを同じくする登場人物が2人で同じ台詞を唱和するなど
    力強く惹き込まれる演出は秀逸。
    お上の締め付けや、先細りの業界を憂える新旧の考え方の違いなど
    社会的背景も説得力がある。
    だが“性別にとらわれない生き方”を問い、“幸せを感じる居場所”を探すなら
    シンプルに“女が学問をし、男が噺家を目指す”構造でも良かったのではないか?
    作り手の迷いや疑問がいちいち顔を出すと流れが途切れてもったいない。

    息子が女を装って落語家になるところも、
    客や席亭など周りに“実は男である事がバレている”という設定が中途半端。
    周囲を完全に欺いてこそ、自分のアイデンティティへの悩みが深まる気がする。

    今の時代に、北川さんのこのテーマへの着眼点とアプローチは素晴らしい。
    作家の、また観る者の想像力をかきたてる「とりかへばや物語」、
    改めて、古典の大胆な発想に驚かされる。

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    2013/12/15 01:26

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